爽やかな陽光。窓から差し込むその温かな光が、少女の体から全てのやる気を取り去る日曜の朝。
ベッドの中がとても心地よい。春眠暁を覚えずとはよく言ったモノだ。こんなポカポカの気持ちいい陽気を感じるといつまでも寝ていたくなるものだ。
誰だって同じ、今日は全てを無視してたっぷりお昼まで寝ちゃおう。少女はそう思った。
だが、そんな少女の考えとは裏腹に、やかましく活動を開始した連中が騒ぎだした。
「おっはよー!リフィネ♪」
「おはようレイア、今日も元気そうね」
「つーか朝っぱらからなんでそんなにテンション高いのかわかんねえ。ってかチョイウゼエぞ?」
「オッシャー、オラー!テンションの高さなら負けねえぜ、うおぉぉっボンバー!」
「うわっ、いたよここにもウゼエのが・・」
「おはよーでしゅう、れいあー」
「ケンもバンもおはようっ!」
「・・・・・・。」
少女が惰眠をむさぼるその脇で、けたたましい声が複数鳴り響く。
小さな小人のようだが、宙に浮くその姿は何やら別物。
そう、彼らこそ魔法の世界、グローリーグラウンドからやって来た妖精達である。彼等はグローリーグラウンドを脅かす悪の魔女、メイガス・エミリーからグローリーグラウンドを守るため、セイバーチルドレンズという戦士を探しにこの世界へと訪れたのだった。
今いるのは、その戦士の1人の部屋、実はレイアたちはこの部屋に居候している。
レイアと、木の妖精リフィネ、風の妖精ケン、星の妖精ルーナ、そして爆裂の妖精バンだ。
この他にも火の妖精イーファと水の妖精ウェンディ、月の妖精ユエに雷の妖精ヴォルツがいるのだが、彼等はそれぞれパートナーの少年少女の所に住んでいる。今だパートナーが見つからない者たちがこうやってレイアと一緒に1人の少女のところに厄介になってるわけだが、その少女が今ベッドで安らかに寝ている・・・
「おっきてぇ〜〜っ!ユウナちゃぁーーんっ♪朝だよぉ〜〜っっ」
元気のいい・・ありていに言えばうるさいレイアの声、それが寝ている女の子の耳に突きささる。
そう、彼女がセイバーチルドレンズのリーダー、愛澤悠奈である。なんの因果か不幸か?魔法の変身戦士に仕立てられてしまった哀れな女子小学生である。
休日の日くらいゆっくり寝ていたいのに・・・レイアのうるさい声に半分叩き起こされながらも、悠奈は寝たふりを決め込む。
「早く早く起きてよぉ〜」
「ユウナちゃん、そとはとってもいいお天気よ。起きてお散歩でもしない?」
「いつまでも寝てんじゃねえよ。さっさと起きねえと体がうだるぞ?」
「オラオラオラァーーーッ!さっさと起きやがれぇ!今日1日熱血闘魂勝負で行くぜ行くぜうおおぉりゃあぁーーーっ!」
「ユウナおねぼうさんでしゅ、おねぼうさんはいけないでしゅう。おきてルーナとあそぶでしゅぅ」
「・・・・・・・」
「もおぉ〜〜・・ユ・ウ・ナちゃん〜〜〜っっ!」
「っっ・・うるっっさあぁぁ〜〜〜〜〜いっっ!」
最早我慢の限界だった。
枕元で騒ぐ小さな騒音に悠奈は飛び起きて怒鳴りつけた。
「ったく、朝からなんだってんのよ!?人が気持よく寝てたのにぃ〜・・」
「だってぇ、もう7時半だよ?そろそろ起きないと・・」
「もう・・じゃないわよ!まだ7時半よ、ま・だ!せっかくの日曜ぐらいゆっくり寝かせてよね!この朝寝坊がどれだけ貴重か知らないの?ったく、あ〜ヤダヤダ。アンタ達もなんでアタシの部屋にいつまでも居座ってんのよ!?」
「だって、ねえ・・」
「まだパートナーが見つからないし・・行くとこなくて・・」
「そうだぜ、ここだったらレイアもいるし」
「一応まぁ、寝どこもあるこったしな」
「おかしもたくさんあるでしゅう。ルーナ、ユウナのおへやすきでしゅ」
人の気も知らないで・・まるで気勢をそぐようなあっけらかんとした答えに悠奈は肩をガックリと落とす。
もうすっかりとこのフェアリーがいる生活に慣れてしまっている自分がいることに気づく。パパやママは知らないし、そもそも悠奈と他にセイバーチルドレンズになったメンバー以外の人間でこの事実に気付いている者はいない。
そう思うと時々自分が怖くなることがある。なにか人を超えた大それた力を持ってしまったようでこれから先どうなってしまうのか?そう思うと不安でたまらなくなるのだ。
「?どうしたのユウナちゃん、考え込んじゃって・・」
「アンタっていいわよねえ・・ホンっとに人の気も知らないでさ」
「悠奈ちゃ〜ん、起きてるのー?」
ちょっとした感傷に浸っていた時、下の階から聞こえてきたママの声が現実に引き戻す。
「きゃっ・・は、はぁーい、何〜?」
「お友達来てるわよぉー、七海ちゃん」
「え?ナナミ?」
香坂七海、悠奈のクラスメートであり、セイバーチルドレンズのメンバーでもある。憎まれ口を叩きあいながらも転校生の悠奈にとって気を許せる数少ない友達の1人である。
しかし七海がこんな時間に何の用なのか、悠奈には見当がつかなかった。
(どうしたんだろう?)
「どうするのー?上がってもらう?」
「え!?ちょっ・・ちょっと待って、今行くからー」
「おっそいなー、何やってん?ナナちゃんを家の前にずぅ〜っと待たせよってからに!」
「そっちが勝手に来たんじゃない。文句言わないでよ」
家の外では、ライトブルーとホワイトのワンピースを着た香坂七海が、少々不機嫌な面持ちで悠奈に文句を言ってきた。それを同じような口調で返す悠奈。
悠奈も普段のお出かけよりは多少ラフなスタイル。
イングリッシュロックのデザインがプリントされたTシャツの下に黒のアンダーを着て、ブルーのホットパンツといった出で立ちである。
「ユウナちゃんおはよう!」
「あ、ウェンディ。おはよ」
七海の傍らにいた蒼い髪のフェアリー、七海のパートナーである水の妖精ウェンディだ。悠奈とあいさつを交わし、そのままレイアや他のフェアリー達とも合流する。
「で、なんなのよ?めずらしいじゃん、ナナミ朝弱いのにさ」
「好きで起きてへんっちゅうねん。ウチも起こされてんや、ヒナに。クーたん広場行くで、ヒナ待ってるから」
「え!?ヒナタくんが!?」
ヒナタという言葉に反応する悠奈。急いで自分の身なりを確認する悠奈。そうと知ってればもっとオシャレをしてくるんだったと後悔する。
そんな悠奈の様子を見て七海はキツク釘を刺す。
「ヒナとイチャイチャしよ思たってそうはいかんからな!今日はウチかて一緒やしぃ〜♪」
「うっ・・な、なによイチャイチャって・・別に、そんなこと考えてないし」
とは言え日曜日に日向くんと会えるなんて・・そう思うと知らず知らずのうちに心がウキウキしてしまうのは日向くんに憧れている恋する乙女、悠奈ちゃんとしては当然だったかもしれない。七海とは日向を巡ってのライバル同士でもあるのだ。
「で、でもさぁ・・ヒナタくん、急になんの用なの?」
「ん〜、ウチもよう分からへんねん。急に電話かかってきたと思ったら、すぐにユウナ誘ってクーたん広場まで来てくれ〜・・やもん。そう言えば何かあったんかな?ま、行けばわかるんちゃう?」
七海もよくは知らないらしい。とは言え、ここで知らない2人があれこれ詮索していても仕方ないので、とにかくはその目的地まで行ってみることにした。
(どうしたんだろ?ヒナタくん・・・)
聖星町の駅前から広がる中心都市。沢山の商店街やオフィスが立ち並ぶ正に東京の新都市。
この辺りはほんの20年程前まで駅以外何もない郊外の人気ない田舎だった。しかし、とある1人の実業家が自分の資産を用いて、この地域の活性化と発展に尽くした。
交通区画の整備、商業地の建設、新興住宅地の計画。それらを区役所、都庁等に懸命に働き掛け、わずか十数年で東京の新都市にまで発展させたのだ。
今はその実業家も亡くなってしまったが、彼の会社はそのオフィス街の中心に高く聳(そび)えるビルとともに存続している。
名を、「ウィザーディア」と言った。
ウィザーディア社に向かう道をひた走る一台のボックスカー、その中に、彼女はいた。
ライトブラウンのロングヘア、それを指でくるくると遊ばせながら窓の外の景色をボー・・と眺めている。
「どうしたの?サキ、なんか元気ないじゃない。何かあった?」
「別に・・何もないわよ」
「そう?ならいいけど、会長と会う時だけはちゃんとしてね。今日はエミリーさんも来るんでしょ?そんな素っ気ない態度じゃ嫌われちゃうわよ?」
「わかってる。藤崎(ふじさき)さんには迷惑かけないわよ、心配しないで」
そう、多少イライラしながら、ぶっきらぼうに答えた。それを聞いて、隣にいた眼鏡をかけた黒髪の美女は少し笑って運転手に「ちょっと急いで」と車を急がせた。
サキ。そう、彼女が悠奈達と敵対する、エミリー配下の戦闘チーム、ダークチルドレンズのリーダーである少女だ。
いつもはアジトである洋館に籠っている彼女だが、仕事や任務の時にはアジトを離れることがある。しかし今なぜこの少女は車に乗っているのか?どこへ向かっているのか?この隣にいる女性は一体誰なのか?
車はスピードを上げつつオフィス街を走り抜け、やがて先程の巨大ビルの中へ入っていった。正面には大きな電光看板で「ウィザーディアコーポレーション」と書かれていた。
「サキ、その仏頂面、いい加減になさい。これから会長に会うんだし、この後は撮影でしょ?そんなカオでこなす気?」
「わかってる、いちいちうるさいなぁ・・・」
「だったらちゃんとなさい、もうホラ降りて」
エレベーターの中でサキと先程の眼鏡の美女がそんなやり取りをする。相変わらず不機嫌そうなサキの態度に、やれやれと言った感じで藤崎と呼ばれた女性はエレベーターから降り、そのまま奥へと通路を進んでゆく。
その先に重厚な木の扉が姿を現した。
コ ン コ ン とノックをすると、中から低い落ち着いた声が響いた。
「藤崎くんか?入りたまえ」
「失礼します。会長」
眼鏡の女性、藤崎はその返事を聞くとドアを開け中へと入る。サキもそれに続いた。
「藤崎くん、ご苦労だったね。それにサキくんも」
「アタシ、別にアナタのために働いてるんじゃないし・・」
「サキ!」
目の前の重厚な机に腰掛ける壮年の男性。彼こそが日本有数の複合企業ウィザーディアコーポレーションの会長その人である。そんな人物に子どもでありながら物怖じしない失礼とも言える物言いに、藤崎は冷や汗混じりに窘める。しかし、男性はフっとほくそ笑むと、何事も無いかのように続けた。
「失礼。そうだったね。キミは私ではなく、彼女に忠誠を誓っている身だったか・・なあ」
男性がそう顔を背後に向けると後ろの死角になっていた来客用のソファから1人の女性が立ちあがった。
「!!」
その姿を見るなり、サキは目を見開き、体を硬直させた。
「サキ、こうやって会うのは久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
「え・・エミリーさま!」
そう言うとサキは駆け出してエミリーの胸に飛びついた。
「あら、どうしたの?サキ、みんなの前なのにおかしいわよ?今日ここで会うと約束してたでしょう。私が約束やぶると思ってた?」
「だって・・・エミリーさま、アタシ・・アタシ・・」
胸でサキを抱きとめながら、彼女の艶のある髪を撫でるエミリー、しばらくしてからサキはようやくエミリーから離れてこう言った。
「エミリーさま!今日来てくださって感謝してます。お任せ下さい、愛澤悠奈は・・・セイバーチルドレンズは私が倒します!今から行って・・今度こそ奴らをエミリーさまの前に膝まづかせてやります!」
「まあ、嬉しいコト言ってくれるのね」
「ちょっと、何勝手なコト言ってんのよ?」
サキが入ってきたドアの方からそんな声が聞こえた。振り返る。と、そこには桃色の跳ねた髪が特徴の少女がサキを睨みつけて立っていた。
「ジュナ?どうしてここに?」
「決まってるでしょ?アタシもコズンからエミリーさまが今日ウィザーディアのオフィスに来るって情報仕入れたからよ。サキ、アンタ何抜け駆けしようと思ってんのよ、ヤツラに借りがあるのはアンタだけじゃないんだからね」
自分もその1人と言わんばかりにサキに詰め寄り、そしてジュナもまたエミリーの前に立った。
「エミリーさま、ジュナ、ただいま参りました。どうか、アタシに出撃命令をください!サキじゃなく今度こそアタシがセイバーチルドレンズを倒して見せます!」
「ちょっと勝手なこと言わないで!いきなり途中から入ってきて図々しいわよ」
「アンタこそ・・いっつもいっつも、エミリーさまの前でだけイイコちゃんぶってさ、ハッキリ言ってウザイのよその態度!」
「なっ・・なんですって!?」
「ナニよやる気!?」
いきなり痴話喧嘩の両者。互いに一歩も譲らないその気迫を見て、エミリーはフフッと声を漏らして笑った。
「え・・エミリーさま?」
「ゴメンなさいね。アナタ達のその気持ち、私とっても嬉しいわ。だけどサキ、アナタは今日ドラマのお仕事でしょ?」
「そうよサキ、アナタ今日は外せない撮影が入ってるって言ってたでしょ?もうそろそろ行かないと遅刻するわよ?アナタも一応はウィザーディア社の人間なんだから、しっかりとその辺の自覚は持ってもらわないと・・・」
「いいのよ!そんなもの・・藤崎さんから今日は体調が悪くなったから休むって伝えておいて!」
乱暴に背後の藤崎に言葉を返すサキ。その彼女に溜息交じりに「そんなコト出来ると思う?」と藤崎。
「アタシにとっては、それよりもコッチの任務の方がよっぽど大事なの!だから今日は行けない・・・代わりに連絡して・・」
「それは困るなサキくん。キミは曲がりなりにも我が社の社員。れっきとした芸能部のスタッフだ。我が社に協力するという契約上、無責任な行動は困る」
会長からもそう言われ、サキは唇を噛んで足下を睨んだ。
そう、サキはこの世界ではウィザーディアの芸能部に所属する子役女優、夢魔(ゆめま)サキとして今色々と人気沸騰中なのだ。
エミリーはこちらの世界にダークチルドレンズを送り込む際にウィザーディア社の会長と提携。グローリーグラウンドの魔法の力やアイテム。薬やモンスターなどを提供する代わりに自分の組織がこちらで活動するために必要な様々な援助を取り決めた。実にサキ達ダークチルドレンズがアジトとして使用している洋館ももともとはウィザーディア社の持ち物なのだ。
サキもそれを十分に承知している。決して無視はできない。しかし・・・
「エミリーさま・・・」
「サキ、それにジュナも。今日は2人とも別の予定が入っているはずよ。サキはお仕事、ジュナも、たまには学校の宿題でもしていったら?ここのところ全然提出してないんでしょ?」
エミリーにそう言われては成す術もない。2人は一様に俯いた。
「代わりに今日はこの子にお願いするわ」
そう言ってエミリーが傍らから1人の少女を呼び寄せた。
「!・・ちょっ、アナタ!」
「ミリア!?・・どうしてアナタがここに!?」
サキとジュナが声を上げる。
現れたのは肩口までのショートカットの緑色の髪をした少々冷めた目をした少女だった。クールという表現よりもどちらかといえば無愛想な感じで、2人を見る目つきも暗い印象がした。
「どうしてって・・エミリーさまに呼ばれたから・・そんなコトも分からないの?アナタたちってバカ?」
「なっ何よ!」
「アンタに言われたくないわよ!」
そのクールな表情から発せられた考えられないような毒舌に、サキとジュナが声を荒げる。ミリアと呼ばれた少女が、顔立ちだけ見れば小顔で文句のない美少女なところもそれに拍車をかけているのかもしれない。
「ミリア、今日は私のために働いてくれるかした?」
「はい・・・」
「イイコね。期待してるわ」
「えっ・・エミリーさま!」
「まっ・・まってください!アタシたちも・・・っ」
「サキ、ジュナ。アナタ達は確かに私の僕、ダークチルドレンズよ。でもそれと同時に、同盟関係にあるウィザーディア社の人間でもあるの。お世話になってる会長に迷惑をかけるわけにもいかないでしょ?」
ジュナはエミリーの一言で言葉を失い、しぶしぶ納得した。しかしサキはまだ納得しきっていないようだった。そこでエミリーはサキに近づき、その体をキュっと抱いた。
「!?・・えっ・・エミリーさま?」
「ありがとう。サキ、一生懸命になってくれて・・でも、私はミリアにもチャンスをあげたいの。わかってくれるわね・・」
「・・・ハイ」
「イイコね。サキ、じゃあお仕事がんばってね」
「ハイ、かしこまりましたエミリーさま。藤崎さん、ゴメンなさい、行きましょう」
「そうこなくっちゃ!」
眼鏡の女性、藤崎は笑って携帯を取り出すと連絡を取り始めた。
この藤崎、こちらの世界でのサキのマネージャーをやっている。サキの芸能活動はこの藤崎がいて成り立つのだ。
「・・・・!」
しかし、サキが会長室を出た途端に、彼と対面した。
「・・・よぉ、なんだお前等も来てたのか?」
「ヤオトメ・・ユイト!」
エレベーターに向かう通路で出会ったのは一応は自分たちの仲間でありながら度々セイバーチルドレンズに一泡吹かせられるという機会を阻害し続けてきたヤオトメ・ユイトの姿だった。サキやジュナを見ても悪びれる様子も無く、何か見下したような雰囲気でその横を通り過ぎようとした。
「まちなさいよ」
「あん?」
呼び止められたユイト、振り返りながら頭二つ分も小さい背丈のサキを見下ろす。
サキは上からのユイトの目線を射抜くように、眼光鋭く睨みつけた。
「どういうつもり?アナタ、一体何しにここに来たの?」
「・・・関係ねえだろ?」
「はっきり言ってね・・ウザいのよアンタ。アンタみたいな協調性のない奴、大体・・」
「私が呼んだのよ、サキ。私と・・・会長がね」
ユイトに詰め寄るサキの背後から声がかかった。エミリーだ。しかし、いつもは素直なサキがたまらずエミリーに今の言葉を聞き返した。
呼んだ?エミリーさまが?ダレを?この男を?
「よ・・よんだ?え・・エミリーさま、呼んだって・・コイツを?」
「そうよサキ、ユイトは私が呼んだの。よく来てくれたわねユイト。嬉しいわ」
「好きで来たワケじゃねーし、とっとと用件すませてくれよ」
気にいらない。
サキは内心で苦虫を噛み潰していた。なぜエミリーが、エミリーに対してすらこんな軽々しい口を叩くようなこの男をダークチルドレンズのメンバーに入れているのか?なぜ自分にではなくこの男に仕事を任せようというのか?
考えれば考えるほどまるでユイトに比べて自分が軽んじられているように思えてますます腹が立った。
「よぉ、何立ち止まってんだよ。用がすんだんならとっとと帰れよ。お前こそウゼエんぞ?」
ニタリと笑って言うユイトの皮肉に、サキは顔を真っ赤にして踵を返すと、足を踏みならすように歩いてエレベーターに向かった。その後を藤崎や、傍で見ていたジュナも追いかける。
その姿を見ていたミリアは、ふと考えていた。
あのサキをはじめ、ダークチルドレンズの面々が散々に手こずるセイバーチルドレンズとは一体どんなヤツラなのか?クールで自分の関心事以外にはまるで興味を示さない彼女が少しセイバーチルドレンズを気にし始めた。
(セイバーチルドレンズ・・一体どんなヤツラなのかな?)
「あ!来た来た。おーい、ナナミー!ユウナー!こっちこっち〜」
東京・聖星町近郊の河川敷沿いにつくられた大公園・聖星町河川敷児童公園。
東京ドームおよそ4つ分の広大な面積を有し、中にはアスレチック広場やスポーツ施設、簡単な遊技場や釣り堀、バーベキュー広場や森まで作られている市民の憩いの場である。
川から水を引いている大きな池もあり、デートスポットにも最適、休日には多くの家族やカップルで賑わう今や聖星町が誇る新名所の1つであり、この建設にもウィザーディア社が深く関わっていた。
目印は大きなクジラのモニュメント、「クーたん」がトレードマークに置かれている噴水広場、そこにやってきた悠奈と七海に、ちょうど噴水の真下、草薙日向が手を振っていた。
「ヒナタくん!ヤオランもおはようっ!」
「悪いな、朝から。ナナミもさんきゅ、ユウナ連れてきてくれてさ」
「ウチはぜ〜んぜん♪ヒナのお願いならナナちゃんノリノリできちゃうもんねvって、なんやヤオ。アンタもおったんかい」
「アンタもって・・なんだよソレ、ヒッデーなぁ・・」
休日に憧れのヒナタくんに会えて、やはり悠奈はかなりテンションが上がっていた。
ブルーのデニムジャケットに赤字に黒のチェックシャツにグリーンのロングパンツの日向。ブルーのシャツに黒のベスト。ブルーのジーパンを身に付けた窈狼。2人とも中々に決まっている。そもそも2人ともかなりのイケメンなのだから大体何を着ても似合うのだろう。
レイアたちもイーファやユエといった仲間と合流して、楽しそうにおしゃべりを始めた。悠奈もまだ浮かれたいところだったが、そろそろ目的を聞いてみることにした。
「あ・・あのさ、ヒナタくん。今日は・・・どうしたの?突然呼びだしたりなんかしてさ・・」
「ん?ああ、いや、オレもヤオランもよくわかんないんだ」
「え?」
「ウソ!なんやのソレぇ!?」
「いや・・・その・・なあ」
「うん、オレたちも実は突然呼びだされちゃったんだよな。ヒカルくんに」
「え?ヒカルくんって・・久遠・・・光くん?」
頭を掻きながら歯切れ悪そうに言う2人に、久遠光(くどうひかる)とは、つい先日自分たちの仲間としてセイバーチルドレンズの一員となった日向や七海の幼馴染である。
悠奈や日向より3歳年上の小学6年生で、頼りになるお兄ちゃん、という人物だ。
その光が自分達を呼びだしたのか?一体なぜ?
悠奈も七海もお互い顔を見合わせて「さっぱり」という表情をとった。しかしみんなの疑問にはその当の本人が答えることとなった。
「お!みんな集まっとんな。ケッコーケッコー♪」
「あ!ヒカルちゃん」
「あー!ヒカルちゃんや!おはよーv」
悠奈達のもとに、イナズマポイントをあしらったブルーのTシャツに黒のジャケットを着た久遠光が、フェアリーのヴォルツとともに現れた。ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながらコッチに向かって歩いてくる。手にはバスケットのようなものを持っていた。
「どうしたのヒカルちゃん、ユウナとかみんな呼びだしたりしてさ」
「ハハハ、悪い悪い。ま、今説明するさかい、みんな朝飯まだやろ?今朝レイのとーちゃんに作ってもろた弁当あるから、取り敢えず腹ごしらえしようで、サンドイッチでも食べながら話聞いてんか?」
そう言うので、取り敢えずは付近のベンチに腰かけて、同居している麗という少年のお父さんがこしらえてくれたお弁当を頂くことにした。お弁当の中に入っていたのは超高級そうなローストビーフが挟まれたサンドイッチやカニやエビ、ブロッコリーにトリュフが散りばめられた冷静パスタ。スクランブルエッグにとうもろこしたっぷりのポテトサラダ。さらにポットの中には温かいミネストローネと、悠奈もこれだけ高級そうで贅沢なお弁当は食べたことが無く、どれもこれも素晴らしくおいしかった。七海や日向、窈狼も「おいしぃ〜い」「しあわせぇ〜♪」と顔を綻ばせながら食べていた。
みんなが朝食を堪能していると光は一同に話し始めた。
「なあ、レイア。オレ思ってんけど、まだセイバーチルドレンズの仲間は空きがあんねんやろ?ヴォルツから聞いたで」
「うんうん、そうなの!嬉しいなヒカルくん!ちゃんと気にしてくれてたんだぁー♪」
レイアもイーファ達も、お弁当を分けてもらいながらホクホク顔で光の話に耳を傾ける。さらに光は続けた。
「でや、オレ、何人かアテあんねんや。今日はその中の1人、当たってみようかな〜と思ってみんな呼びだしてん」
「えぇーーっ!?ほ、ホントにぃ?」
「ああ、みんなでソイツんち、いってみようかと思う」
「ヒカルちゃんが行くんならオレも行くよ」
「あ!ヒナが行くんやったらウチも行くぅ〜v」
「ちょっ・・ナナミ!オレも行くってオレも!」
悠奈は思った。
なんかヒナタくんにしろヒカルくんにしろ・・・割と真剣に考えてるんだなぁ、と。自分ならそんな面倒なこと積極的にはしないだろう。
(ってか、ヒカルくんもヒナタくんもまじめに考えすぎだから!)
「ここなの?ヒカルくん」
「ん?なんや?着いたで」
「へえ〜〜、おっきな家・・」
「そっかあぁ〜〜、ヒカルちゃんが言ってたアテって、アキちゃんのコトだったんだ!」
「わぁーい!アキちゃんなら大大大賛成!」
「そっか、確かにアキラくん強いもんな」
「え?みんなまた知ってる人?」
「ああそっか。ユウナ知らんねんな。アキちゃん言うてな、ヒカルちゃんの友達でウチラも昔から遊んでもろてる人、頼りになって面白いし、ヒカルちゃんといっしょでメッチャクチャにケンカも強いし、それにとぉ〜ってもやさしいねんで、ウチ、ヒカルちゃんとおんなじくらいアキちゃんも大好き!」
「ふぅ〜ん・・」
悠奈は光に連れてこられた目の前の目的地を見て、思わず言葉を呑んだ。しかし、日向達の反応を見て、また知り合いの家なのだろうと大して考えもしなかった。
目の前に佇む大きな日本家屋風の屋敷。それだけ見れば時々みかける土地持ちや地主さんとかのお家である。しかし目の前の家には表札の代わりに大きな木の看板に「関東総連合・白虎会八代目総代・南組本家」と書かれていた。
大人びていて学校では魅惑のクール&スパイシーで通っているおませな小学3年生のユウナちゃん。
しかしまだまだその看板に書かれている言葉の意味を理解するまでには幼すぎていた。
ピンポーン。といたって普通のチャイムが鳴る。
しかし、悠奈の驚愕と不安の連鎖はここから始まった。
ギイ・・・と大きな門の傍らに造られた扉から現れたのは、スキンヘッドと呼ばれる坊主頭に、眉を剃り、色眼鏡をかけて肩に刺青を刺した屈強な体格の大男だった。
「きゃああぁぁっっ!?」
「なんかご用かい坊やたち?」
「い・・いえ・・あの・・用っていうか・・」
「オッス、てっちゃん。元気?オレや」
光が物怖じせずにズイと前に進み出て片手をあげてあいさつすると、途端にその強面の男性が顔を綻ばせて歓待しはじめた。
「ああ!久遠さんとこの光お坊ちゃん!」
「おう、アキラいる?」
「へえ!坊ちゃんだったら部屋におられやす!すぐにご案内差し上げます。ああ、香坂さんとこの七海ちゃんに、それに観月里佳さんのお坊ちゃん・・こっちの子は、はじめて見ますがお友達ですかい?」
「ああ、ユウナっちゅうねん。このコも入れたってんか?」
急に振られて悠奈は慌ててペコリと緊張しながらもお辞儀した。相変わらずまるで笑顔が似合わないその顔に満面の笑みを浮かべて
「へえっ!左様ですか。早速アニキや親っさんにも知らせてきますので少々お待ちを!」
そう言ってぱたぱたと奥へ入っていってしまった。
「・・あ・・・あのさ、ヒカルくん・・・ここって・・・」
「ん?ああ、オレの友達のアキラってヤツのウチ」
「そ、それはわかったんだけど・・さ。あのさぁ・・ここって・・・そのぉ・・・ここってさぁ、コワい・・・人・・たちの・・おうちなんじゃ・・・」
「はあ?・・・あ、ああ。アハハハ!まあ、確かにせや、お前の言うとおり、ここはヤクザの家やで」
やっぱり・・・。
予感的中。
ドラマやニュースの中では度々聞いた存在であるヤクザ。極道。
実際に本物をみるのも初めてなのに、そのヤクザさんのお宅にお邪魔してしまっている。そう思うと、悠奈は今までとは違う緊張に体が硬直していくのがわかった。もしドラマと同じヤクザさんなら・・・
悠奈が緊張しているのがわかったヒカルは不意にぽんっと悠奈の頭に手を置いて言った。
「怖かったか?」
「え?」
「怖かったか?ゴメンな、でもみんなここの人達はいい人ばっかやで。普通に生きてるカタギって呼ばれてる人達には絶対に悪いコトしないし、闇金とか詐欺にも一切関わってへん。そらここらへんでも芹沢組(せりざわぐみ)とかヤバイ系列のヤクザもおるケド、ここの人らとは無関係や」
「そ・・・そう・・なの?」
「実際アキラに会えばわかる」
「そうだぜユウナ!心配すんな!」
「アキちゃんとってもいいコやで!絶対ユウナにも優しくしてくれるって」
日向や七海にもそう言われ、悠奈は自分の悪い考えを払拭することにした。
「お待たせしやした!」
「きゃああぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!??」
しかし、そう決意を新たにした悠奈は、またしても独特の空気に悲鳴を上げることとなった。
現れたのは先程の男性とは違うオジサン。金髪の髪を昔ながらのリーゼントにまとめ上げ、極限まで鍛え上げられた筋骨隆々としたまるで格闘技漫画のような裸体に、上はジャケットだけ羽織り、サラシを巻いてボンタンのようなズボンを履いた、少し顎鬚がナイスなそれはそれはイカツイオジサンが現れた。
「おう、ヒー坊!元気そうじゃねえか!」
「あ!アキラのとーちゃん、お早う!」
「おう、ヒナちゃんもナナちゃんも、ヤオランくんもそれに・・そっちの子は初めてかい?」
「ああ、ユウナっていうねん。ってかアキラとーちゃん、そんないかにも!なカッコで来たらビックリするやんか。ユウナここ来るの初めてなんやさかい、もうちょっと考えてんか?」
「がっはっはっは!いや悪かった悪かった。ビックリさせちまったかな?」
そう言って悠奈の目線にしゃがみ込んだアキラと呼ばれる子の父は、「初めまして。アキラに会いに来てくれてありがとうな。案内するぜ」とニッコリと笑って言ってくれた。
どうやら本当に見た目だけで中身は優しいオジサンらしい。まだぎこちないながらも悠奈もそれだけは理解できた。
大きな屋敷だが、中は至って普通。ところどころ難しい漢字が書かれた掛け軸があるのは見ないことにしていれば、ちょっと渋めの日本旅館といった風体の家だった。庭も綺麗で落ち着きのある日本庭園だった。と、中庭に1人、何やらパンチを空中に向かって打つジェスチャーをしているお兄さんが1人、誰だろう?と疑問に思ったところに、そのオジサンが声をかけた。
「おーい、陽!アキにカワイイお客さん来たぜ」
「ああ?なんだ。ヒカルにヒナタじゃねえか。どうした?今日は」
すると、そのお兄さん。タオルで汗を拭きながらこちらへとやってきた。前の2人の男の人に感じたいかつさやむさ苦しさは一向に感じない、爽やかとも言えるイケメンだったコトで、ようやく悠奈も落ち着きが出てきた。
「陽生兄ちゃん久しぶり!」
「おお、ヤオラン。元気そうだな。あれ?そっちの女の子・・・」
「あ、紹介するね陽生兄ちゃん!このコ愛澤悠奈っていって、オレ達の新しい友達!2ヵ月くらい前に転校してきたんだ」
「そうか。初めまして、オレ、陽生、南陽生っていいます。よろしくね、悠奈ちゃん」
「あ・・は、ハイ!よろしく・・お願いします・・」
「あっはっはっは、カワイイなぁ。アキラもきっと気に入ると思うぜ」
「陽生兄ちゃんってなあ、高校2年生で、プロボクサーやねんで、3戦3勝3KO!ムチャクチャ強いねんから」
「そうそう!んで、ケンカも強いねんな!」
「もうケタ外れに!」
「へぇ〜〜」
「こらこら、ヒカル!ヒナタ、ナナちゃんも勘弁してくれよ」
頭を掻きながら照れくさそうに笑うそのお兄さんを見て、本当にどこにでもいる優しいお兄さんなんだ。と悠奈もここにきて少し安心した。
「おーーい、アキラぁ、おめえにお客さんだぞぉ」
「あー・・今ちょっと手がはなせねえ。後にしてぇ〜」
「何バカ言ってんだ入るぞ。さ、入っていいよ」
2階に上がって少し進んだ先にあったドアの奥から、そんな声が聞こえた。ドアの正面に「AKIRA」と書かれていたので、ここがそのアキラくんの部屋なんだろう。
そのまま陽生に言われた通り、ドアを開けて中に入れてもらう。するとベッドの上に座って、ギターをいじってる男の子が1人。
茶髪と金髪が入り混じった明るい髪、それが跳ねるように逆立ったヘアスタイル。ヒカルとはまた趣きの違う雰囲気を湛えた、可愛い系2枚目のこちらも美男子だった。
「なんだよ、ヒカルか。って、こりゃまたズイブン大勢で来たな」
「「アキちゃあぁ〜〜〜ん♪♪vv」」
「だああぁぁあ〜〜〜〜っっ?」
途端に日向と七海がその男の子に向かってダイブした。仰け反ってベッド下に転落する少年。
「アキちゃんおっはよぉ〜〜っ!」
「ねえねえ、あそぼあそぼぉ〜w」
「こぉらあ!ヒナぁ!ナナぁ!ギターの手入れしてんだからいきなり突っ込んで来るんじゃねえよ!あぶねえだろうが!このこのこのぉ〜」
そう口で言いながら2人の体中をくすぐり、日向と七海がきゃらきゃら笑う。それを見てウズウズしていた窈狼にも声をかけ、「お、ヤオ。んなトコ突っ立ってねえでおめえも来いよ!みんなまとめて相手してやる!」と窈狼も混ぜてみんなにくすぐりの刑をかました。
七海や窈狼はもちろん、あの普段は結構利発な日向ですらもがこんなに無防備で甘えるこのアキラという少年、悠奈もどんな人なのかと想像していたが、日向や七海の言った通り、本当に優しそうなお兄ちゃんだった。
「お、見ねえ顔だな。ヒナ、新しい友達か?」
「あ!紹介するね、愛澤悠奈!オレのクラスメート、ほら、あの転校してきたばっかりの・・前に話した・・」
「ああ、じゃあお前があの、噂のクール&スパイシーのスーパー女子小学生!ユウナちゃんか」
そこで派手にズッコケる悠奈。
「す・・スーパーって・・・」
「ヒナやナナから話は聞いてんぜ。オレ、南晃(みなみあきら)。よろしくな」
ニコっと笑って答える晃に、悠奈も笑顔で返した。
「で、今日はどんな用で来たんだよ?」
「ああ、ちょっと説明する前に・・・レイア、頼むで」
「おっけ〜♪うんうん、やっぱりこのコにも魔力を感じる!」
「ん?なんだ誰に向かって話しかけてんだ?」
「眠った魔力よ・・・目ざめよ!えいっ!」
「ん?なんだ?なんか頭の中に何かが入ってきたような・・・」
「はじめまして!アキラくん」
「あ?」
身に何かが起こったと感じたアキラ。直後に目の前に現れた空中に浮遊するレイアにアキラの時間が止まる。
「グローリーグラウンドから来た、レイアっていいます。実はアキラくんにお願いがあるの・・聞いてくれる?」
「うわああぁぁあ〜〜〜〜〜っっ??なっ・・なんだぁ!?コイツ〜〜っ!!?」
「あー、アキちゃんもビックリしてる」
「もうお約束のパターンやんな」
日向と七海の反応を楽しむ声が二つ上がった。
「グローリーグラウンド・・・へぇ〜〜、で、その国を救うために、セイバー・・チルドレンだっけ?その力が必要でぇ、その候補に・・」
「そう、アキラくんが選ばれたってコト!」
「・・ヒナとか、ナナとか・・ヤオも、ヒカルお前もか?」
「ま、成り行き上しかたなくな」
「まるっきりゲームか漫画の話だな・・悪い魔法使いがいて、異世界に助けを呼びに来ましたなんてベタベタすぎるぜ」
「ねえ、アキラくんお願い!」
「・・・・。」
答えない晃。
悠奈はそれも仕方ないと思った。普通ならこんなワケ分からない事情を説明されてハイそうですかと呑みこめるはずがない。悠奈とて巻き込まれるような形で半ば強制的にセイバーチルドレンズとして仕立て上げられたワケだから気持ちはよく分かる。
日向や七海の顔もダメか・・としょんぼりとした色が浮かんだ時、晃の答えがその一切を取り払った。
「いいぜ」
『え?』
皆一様にして晃を見やる。すると晃はニシシと笑いながら答えた。
「なんかよくわかんねえケド、その好き勝手やってるエミリーとかいう魔法使い、気に食わねえ。それに面白そうじゃねえかよ、ゲームみたいでさ。第一・・」
晃はレイアをじっと見つめてから言葉を切る。
「こんなオレより年下のヒナやナナ、ヤオにそれにヒカルまでやってんのにオレだけ断るのもなんかフェアじゃねえしよ。やってやんぜ」
一瞬の静寂。ついで、晃の部屋にワーっという歓声が上がる。
「やったぁーーっ!さすがアキちゃん!頼りになる!」
「アキちゃんだから大好きvありがとー♪」
「アキラくんだったらもう何の問題もねえよな!サンキュー!」
日向たちはもちろん、レイア達まで手に手を取り合って歓んでいた。
(・・・ヒナタくん達の言った通りだ・・確かに、このヒト、カッコイイかも・・)
「で・・オレは何をどうすりゃいいんだ?」
「う〜ん・・そうだなぁ、まあダークチルドレンスが現れるまではそんなに気にすることないんだけど、まずはねぇ・・」
「ココ?ココならいいかも・・」
聖星町河川敷児童公園にあるアスレチック広場、そこにミリアはいた。
きゃっきゃっと楽しそうに遊び回る子ども達に、その子ども達を見守る大勢の親、マイナスエネルギーを奪うには最高の環境だ。それに・・・
「ココなら・・目立つから、セイバーチルドレンズもきっと来る」
そう言うとポケットから宝石を取り出して呪文を唱えだした。淡い青緑色の、ブルーグリーンの宝石。
「闇より出でし邪なる石、ダークジュエルよ。我が闇の魔力に答え、その力を示せ・・・!」
石が浮遊し、空中を疾走、そして、アスレチック広場の真ん中に立つ、木に取り付いた。見る間に煙が上がり、黒々とした紫の妖気が木を包み込みそして鈍い光の中から木のモンスターが出現した。
「グモモモォオオーーーーっっ」
「きゃあぁぁ〜〜〜っっ」 「なっなんだぁあーーーっ!」 「木が化け物にぃ〜〜っ!?」 「うわぁあ〜〜んっ怖いよぉ〜〜っ」 「助けてええぇ〜〜〜っっ」
次々と上がる悲鳴、泣き声ありとあらゆる声に少女は薄く笑って言った。
「さあ・・・暴れちゃいなさい。ジュエルモンスター、マッディ・ウッド。ここの人間からマイナスエネルギーを吸い取って・・そして、セイバーチルドレンズをおびき出しちゃいなさい」
「なるほど、パートナーねえ・・お前らの中にオレのパートナーがいるのか?」
「そう、アキラくんの中にも属性があるはず。この中にきっと自分の属性に合う妖精がいるはずよ」
「にしたってなぁ・・・」
レイアに話を聞いていくうちに、晃はどうやら魔法、魔力というものには属性があり、その属性を見極めて自分の能力を高めていくらしい。まずは自分の魔力の属性を知るコトと言われたが、何のことやらさっぱり。といった感じである。
「・・・いいやオレ」
「ええ!?」
レイアが突然の晃の反応に素っ頓狂な声を上げる。仲間になってくれると言ったのに、あんまりな発言。
「ど・・どーして!?仲間になってくれるんじゃなかったの?」
「そんな顔すんなって、そりゃ仲間になるって言った以上、いずれは自分のその魔力ってヤツは見つけるよ。でもオレだって今突然にそんな話聞かされてよ・・正直まだハッキリわかんねぇんだわ。だからちょい時間くれよ」
「そうだよレイア、アタシだってまだ見つかってないしさ・・アキラくんの気持ちだって考えてあげなきゃ」
悠奈からもそう言われて、レイアもそれもそうかと思ったのか、シュンとしつつも納得したようだ。
「悪かったな・・・その代わりと言っちゃなんだが、オレの得意技見せてやるよ」
「?得意技?」
「ああ、ま、魔法じゃねえケドな・・・いいか、よく見てろよ」
そう言うと晃は2メートルくらい先にある自分のクローゼットに向かって手を翳すと意識を集中させた。すると掌が青白く発光し、ついで箪笥の周囲にも小さな光の球体が複数現れる。
「せーの・・てやっ・・と!」
晃がそのまま指を操作すると、クローゼットの扉がひとりでに開き、中から赤色のベストを取り出したそのまま掌と指を返すと、それらがなんと晃のもとに宙を舞ってきた。服を片手にニッと得意げな笑みを浮かべる晃に、日向と七海と窈狼は『おおぉ〜〜〜♪♪』と拍手を送り、悠奈とレイアはじめ他のフェアリー達は『ええええぇぇぇぇーーーーーっっ!?』と正に度肝を抜かれた驚愕の声を上げた。
「なっ・・・なになに!?イマノナニ!??」
「今・・服がひとりでに・・・これって、まほ・・う?」
「ちゃうでユウナ。レイア、みんなも!これがアキちゃんのサイコパワーってヤツや!」
「さ・・サイコパワー・・・?」
「ま、早い話が超能力ってヤツさ」
「ちっ・・超能力〜〜〜!?」
そんなものが使えるのか!?と悠奈は驚きを隠せない。テレビでたまに見たことがあるが、手品の用ようで手品でないなにかよくわからない胡散臭い能力という見方しか持っていない悠奈にとってその力を間近でしかも自分と同じ小学生の子どもが持って扱っていることにビックリした。
「そ・・そんなの使えるの?・・あの、アキラ・・くん?」
「その呼び方慣れねえな・・アキラで呼び捨てにしてくれよ。ま、オレもいつの間にか使えるようになってて驚いちゃったんだけどさ。前に麻宮(あさみや)アテナって人と椎拳崇(しいけんすう)って人にコツ教えてもらったらさ・・案外簡単に使えるようになっちゃったんだよ。ま、このコト知ってんのは仲のイイ友達と、あとごく一部の身内だけだけどな」
「そ・・・そう、なん・・だあ・・・」
もう引きつりながらそう答えるしかない悠奈。魔法を使える自分たちも稀少な存在だろうが、超能力が使える人物も中々稀有である。
「だからよ。今急いで魔法が使えるようにならなくても、お前らのサポートは十分してやれると思うぜ!」
晃の力強い返事に沸き返るフェアリー一同だったが、ふと、イーファが何かを感じ取り、真剣な顔でその場にいる全員に危機感を持って叫んだ。
「ちょっと待て!邪悪な魔力を感じる!このカンジ・・・間違いない!レイア!」
「うん、アタシも感じたっ」
「闇の魔力だわっ!」
「ええっ!?また!?」
「ユウナちゃん!みんなっ!いくよっ」
突然慌ただしく騒ぎ、部屋の外へと駆け出す悠奈たち、その姿に晃はなんだなんだ?と当たりを見回した。
「・・・オイ、ヒカル。コレって・・・」
「付いて来いやアキラ。オモロイモン見せたる」
「も゛あ゛あぁぁ〜〜〜・・・」
魔力を感じ取って悠奈達が辿り着いたのは河川敷公園のアスレチック広場。クウたんの噴水広場から程近い親子憩いの場。
その広場には闇の魔力に犯されマイナスエネルギーを吸われ無気力で地面に倒れる人々。
そして、中央でそのエネルギーを吸収する木の化け物の姿があった。
「やっぱり、ジュエルモンスターだよユウナちゃん!」
「ってコトは・・またダークチルドレンズの仕業?」
「そうゆうコト・・・」
そう悠奈達に答えたのはモンスターの後ろ手から現れたショートヘアの女の子だった。可愛らしい顔立ちと白のブラウスに黒のベスト。黒のミニスカートを見ればどこにでもいる少々冷めた女の子。
だが、身に纏った独特の雰囲気と、魔力。そしてモンスターの背後から登場した様子を見れば、彼女がダークチルドレンズの1人であることに疑問の余地はなかった。
彼女はクールな目で悠奈を見据えてから静かに話し始めた。
「アナタが愛澤悠奈ね。サキやジュナから話は聞いてるわ、アタシはダークチルドレンズのミリア」
「また・・・みんな今日お休みの日でせっかく楽しく過ごしてるのに・・・どーしていつもいつもこんなコトばっかりするのよ!?」
「それがアタシたちの仕事だからよ。決まってるでしょ?」
「仕事って・・毎回毎回こんなヒドイこと・・アンタらなんでこんなコトしようと思てんねん?」
「はあ?なにソレ?面白いからに決まってんでしょ?今さら何言ってるのアナタたちバカ?」
「なっ・・なによいきなりぃーっ!」
「ダレがバカやねんダレがぁっ!ウチはアホ言われんのは慣れとってもバカ言われんのはガマンならんのんやあぁーーっ」
「な、ナナちゃん今それ関係ないわよ・・・」
容赦のないミリアの毒舌に悠奈と七海が反応してキーキーと騒ぎたてる。その2人をウェンディが慌てて宥めていた。そんな様子を見て、ミリアが小馬鹿にするようにさらに言う。
「アナタたち、うるさいわね。早いトコ片付けちゃうことにしよ。ダークスパーク・トランスフォーム・・・」
落ち着いた声で呪文を唱えると、ミリアの体が紫の光に包まれた。
周囲に突風が吹き抜け、光の中から変身したミリアが姿を現した。
片方の肩にショルダーパッドをつけ、弓のような武器を携えている。背には恐らく弓を背負っているのだろう。
グリーンのアンダーにスカイブルーのライトアーマー、白のミニスカートといったコスチュームに。独特のハネた髪も少しボリュームを増していた。
「さあ、アナタたちの実力、見せてもらうわよ・・行きなさい!マッディ・ウッド!それに・・」
ミリアが化け物に号令をかけると同時に懐から他のメンバーも使用していた小さな水晶玉を宙に投げる。ぽっかりと宙に黒い穴のようなゲートが出現し、中から沢山の蝙蝠のようなモンスターと、大きな蜂のようなモンスターが現れた。
「げっ!あのモンスター!」
「前に見たことあるヤツじゃんかぁ!」
悠奈と日向の記憶が甦る。日向がセイバーチルドレンズとして覚醒した時に召喚され、自分に襲いかかってきたモンスターだ。その場には悠奈もいて2人であのサキという女の子と交戦したのだ。
「なんか知らんけど・・あのハチみたいな怪物って・・アレもアブナそうやん?」
「ハリみたいなの見えるもんん・・・アレに刺されたら痛そう・・・」
「イタイわよ。ジャイアントバットにラージビー、さあ、やっちゃいなさい」
現れたモンスター達の迫力に気圧される悠奈たち。しかしその悠奈たちを背後からの声が力づける。
「何してんや?ビビってたってなんも始まらへんやろ?」
「あ、ヒカルちゃん!」
「遅くなってスマン」
ヒカルが後から駆けてきた。その後ろに晃も付いてきている。
現場の惨状と状況を見て、晃は驚いた。
「な・・なんだありゃあっ!?化け物!?」
「アキラ!あとからキッチリ説明するさかい、ちょっとまっとってや。みんな、変身するで!」
「ユウナちゃん!」
「・・・うん、行くよみんな!」
「おうっ!」
「っしゃあ!いったんで!」
「OK!やってやるぜ!」
『シャイニングスパーク・トランスフォーム!!!』
5人がそれぞれ携帯電話を翳すと、そこから眩い光が生まれ、閃光がバトルコスチュームを形成する。全く異なった容姿の悠奈たちが、それぞれ大地に降り立った。
「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「大いなる青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」
「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「拳の闘気は雷神の魂・・セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」
変身した悠奈達を見て、晃は呆然。目の前で起きている出来事を必死に頭で整理していた。
「変身・・・しやがった・・・・ホントだったんだ・・ヒカルに・・ヒナやナナまで?ウソだろぉ・・・」
確かに親友の言ったことを信じなかった訳ではない。可愛い弟分、妹分たちのことをうたがったわけではない。だが、目の前で実際にこうした事態を見せつけられるまでは何かこう確信のおけないものがあった。手の甲をギュッと抓ってみる。
確かに感じる鮮烈な痛み。
「・・・夢じゃ・・ねえ!」
「ヒナ!ヤオ!お前らはそれぞれ散ってこのモンスター達を撹乱しながら攻撃や、ヒナはコウモリ、ヤオはハチ、ユウナ!ナナ!お前らはオレ達を援護!間違って味方に魔法ぶつけんなや!」
「OKヒカルちゃん!」
「うん、りょーかい!」
光のテキパキ出される指示に、日向と悠奈が答える。それと同時に七海や窈狼も戦闘体勢に入り、窈狼がスピードを上げて敵陣に駆け込んでいく。
「はぁいやぁーっ!」
突進と同時に面喰っている巨大蜂の胴体に正拳一閃。
ハチが後方に弾き飛び地面に転がる。傍らで突然の特攻に狼狽しているもう1匹に窈狼は今度はたっぷりウエイトを乗せた飛び回し蹴りを叩き込む。同じように吹っ飛び地面に落ちて転がり、そして2匹とも宝石を残して消滅した。
突然の窈狼の先制攻撃にたじろぐ魔物達、それに続くように日向も突っ込む。
「ジャスティスブレード!」
手の中に小さな刀のアクセサリーを握ったかと思うとそれが光輝き、あっという間に刀を形成する。そのまま飛び込みざまに降り下ろし一閃。
蝙蝠のモンスター、ジャイアントバットを斬り伏せる。続いて少し離れた間合いから飛びかかって来たジャイアントバットには刀を振りかぶり、「闇払い!」と、横薙ぎに薙ぎ払うするとそこから炎が発生して地を疾駆して正面から喰らいつく。
さらに遠い間合いから自分の方へと向かってきたハチのモンスターには左手の掌を構えて呪文の詠唱をしだした。
「炎神イフリートよ、我が声に耳を傾けその大いなる力を我が前に示せ・・・ファイアボール!」
今度は先程の炎とは違う火の玉が魔法によって召喚され、日向の掌から飛び出した。そのまま宙を切って飛んでくるハチの正面からぶつかり、ハチは撃墜されて地面に落ち、煙を上げながら消滅した。
戦闘に慣れてきたのか?あっという間に日向と窈狼の連係プレイによって5体のモンスターが倒された。
こうなるとサポートについている悠奈と七海も黙ってはいない。それぞれ「ハートフルロッド」と「コルセスカ」の武器を召喚し、応戦を始めた。
こうなってくると焦るのはミリアの方である。彼らの思った以上の戦い慣れた戦闘状況にモンスターチームはあきらかに劣勢、無論悠奈達が少しずつレベルアップしているからなのだろうし、自分が召喚できる魔物もまだ高レベルモンスターではない。そこまで自分のレベルも上がっていないということなのだが、とにかく面白くない。
なんとかジャイアントバットとラージビー達召喚モンスターと、ジュエルモンスターのマッディウッドと波状攻撃で優位に立ちたいのだが、そのマッディウッドも・・・
「でぃやあっ!」
ガキィ!という音がして木の化け物の胴体が振動する。巨大なモンスター相手に、先程からこの1人の少年が一歩も引かず互角以上に立ち回っているのだ。
「ヒカルちゃん!」
「心配せんでええ!ヒナ、お前は自分とそれからユウナたちをしっかり守ってるんや!」
光というこの新メンバー。
前回のミウの情報によれば右手のソウルフィストを用いて近接戦闘を得意とする格闘家・グラップラーだということだが、この少年、覚醒したばかりだというのにはっきり言って単純な戦闘能力ならばチーム内で随一といってもいい。
隙を突いて襲いかかったラージビーの一体も、見事に裏拳のカウンターで吹き飛ばされている。
日向達に指示を出しつつも素手で魔物をいなし、さらにジュエルモンスターも1人で相手するこの光に、普段冷静なミリアも歯ぎしりをした。
(強い・・・まさかこれほどだなんて・・・何か、何か弱点はないの?なにか・・・あ)
と、そこで気付いてミリアはニヤリと笑った。
「マッディウッド!下がれっ!」
ミリアのその命令に木のモンスターは下がって体勢を立て直そうとした。
「よし!今やっ!一気にいくでっ!」
「わかったよヒカルちゃん!」
「よーし!たたみかけるぜっ!」
光に呼応して日向や窈狼も木のモンスターに突進する。かくして3対1である。
流石に木のモンスターも分が悪く、徐々に日向たちにペースが傾き、ダメージも蓄積されてあと一歩というところで後ろから悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁーーっ!」
「ちょっ・・ちょっとなんなん?ヒナぁ〜、ヤオぉ〜、助けて・・・」
3人が振り返ると、なんと悠奈と七海がどこから沸いたか?新しいモンスター達に後ろから拘束されていたのだ。
「ユウナぁー!」
「ナナミぃっ!?くっそ、おい、2人をはなせ!」
「・・ダメね。サモンボール、もう1個持っておいてよかった・・アナタ達は戦闘に慣れてるようだったけど、魔物から離れてたこのコ達を見てピンときたわ。まだ戦い慣れしていないって・・だから意図的にこのコたちから離れた場所で闘っていた・・・そうでしょ?」
しまった。と光は自らの失策を悔いて唇を噛んだ。
武道を習っているわけでもない、ケンカ慣れしてるわけでもない2人が危なくないようにとあからさまに遠ざけていたのが裏目に出た。
「さあ、2人を助けたかったら、おとなしくすることね。それから、そのレイアってフェアリー、こっちによこしなさい」
「ゆ・・ユウナちゃん・・」
「だっ・・ダメよレイア!こんなヤツの言うコト聞いちゃダメ。アンタの思い通りになんかならないんだからっ!」
口ではそういう悠奈だったが、新たに現れたモンスター、見覚えがある。噛みつかれたイヤな記憶があるゴブリンに体を掴まれ、怯えて震えていた。
こうなってしまってはどうすることも出来ない。光も日向も窈狼も、それぞれ抵抗をやめておとなしくする。
「も゛あ゛あぁぁ〜〜〜っっ」
「うわあぁーーーっっ」
「うああぁっっ!」
「わああぁっっ」
ビシィーッ!という鋭い音が響いた。
マッディウッドがその太い枝を鞭のようにしならせて日向達を薙ぎ倒したのだ。勢いそのまま地面をザザザザッと引きずられるような感じで倒れ込む3人。
「うっ・・いっ・・・てぇぇ・・」
「ってえよ、ちくしょおっ・・」
「ちいっ・・アカン、このまんまじゃジリ貧や。どないしたらええんや?」
「みんな・・・」
「ヒナぁ〜、ヤオぉ〜、ヒカルちゃぁ〜んっ」
無抵抗の3人に木の化け物がのそのそと近づく。悲痛な七海の悲鳴、その全てに、遠くから様子を伺っていた晃は歯噛みした。
ヒカル達が、友達が危ない!なんとかしなければ・・自分が!でも・・・
「どうしたら・・・このままじゃ、ちくしょおっ!」
「お前さんの力ぁ見せる時だぜ!」
「え?」
そう不意に後ろで声がした。声の方へ晃が目をやると、先程紹介されたフェアリーの1人が自分を見つめて浮いていた。名前は確か・・・
「お前・・」
「バンだ。なあアキラ!おめえこの状況見てなんとも思わねえのか?ええ?ダチを助けようって思わねえのか!?テメエそれでも男か!?」
「そっ・・そりゃ・・でも、あんな化け物相手に・・」
「魔力は信じる心!勇気の心なんだ、お前が勇気を出して立ち向かえば必ずお前の中に眠ってる魔力が目覚める!頼む、オレ達に力貸してくれ!」
目の前で頭を下げるバン、そして苦戦する悠奈たちを見て晃は自分の握った拳を見つめた。
「やだやだちょっとはなしてよぉ〜〜っっ」
「レイア!レイアをはなしてっ」
「手に入れた・・・これが、エミリーさまが言ってたフェアリーのレイア・・でも、どうしてこんなのがほしかったのかしらエミリーさま・・・まあ、いいわ目的達成」
レイアを片手で捕獲しながらミリアは薄く笑った。今までメンバーたちが手こずっていたセイバーチルドレンズを倒し、フェアリー、レイアを手に入れたのだ。自分のメンバー内での地位は間違いなく高まる。
あとは適当に止めを刺して館に帰るだけ、そう勝利を確信したミリアの耳に勇ましい声が飛んだ。
「待ちな!!」
「?」
声の方を振り向くとそこには・・・
「・・・アキラ!?」
「アキちゃん!」
光と日向が声を上げる。遠くにいたはずの晃が目の前でミリアとモンスター達を睨みつけて堂々と立っていた。
「・・・だれ?あなた」
「こいつらの友達だよ。オイ、お前・・もう好き勝手にはさせねえ、みんなはオレが助ける!」
「あ・・・アキちゃ〜〜ん・・・」
「ナナ、待たせてゴメンな。すぐ助けるぞ、ハアァァーー・・・」
目を閉じて晃が体中に意識を巡らす。するとなにやら体から光の球が湧きあがり、それが両拳に宿った。
「喰らえっ!サイコボール!」
両腕を左右に薙ぎ払う感じで振るとそこから青白く発光する球弾が飛び出した。そのまま悠奈と七海を羽交い絞めにしていたゴブリンに見事命中し吹き飛ばす。
「なっ・・なんなの!?」
突然の出来事に激しく動揺するミリア、そのまま悠奈と七海が解放されて2人は晃のもとに走り寄った。
「あ、ありがとう・・アキラ・・くん」
「わあぁ〜〜んっ・・アキちゃぁ〜〜ん・・コワかったぁ〜・・」
「すまねえな遅くなって、もう大丈夫だぜ」
晃は2人を抱いてそのまま頭を撫でてやった。
超能力が発覚した時に、レイのオジサンであるジョー兄が会せてくれたサイコソルジャー、麻宮アテナと椎拳崇。その2人に教わったサイコボールと超球弾をオリジナルでドッキングさせた晃の必殺技だった。
「それくらいで勝ったと思ってるの!?いけ!ゴブリンたち」
即座に残りのゴブリンに指示を与え、この身の程知らずの人間に思い知らせてやろうとミリアは叫ぶ。得体の知れない力をもってはいるが所詮自分達ダークチルドレンズにはかなうまいと考えたのだ。
すると晃は傍らにいたバンと目配せしてニヤリと笑った。
「バン・・・行くぜ!」
「おっしゃあ!アキラ!派手に暴れるぜえっ!」
そう言ってアキラが取り出したスマホの携帯電話、それは・・・
「ユウナ!アレ・・・」
「アタシたちと同じデザイン・・・もっ・・もしかしてっ」
「シャイニングスパーク!トランスフォーム!」
黄色と褐色の閃光が晃の体を包み込む。
その直後に眩い輝きがドンと爆発し、その弾けた光の中から悠奈たちのようなコスチュームを纏った晃が姿を現した。
レッドのジャケットにオレンジのショルダーパッド、オープンフィンガーグローブを身に付けた腕には頑強そうなリストが付けられていて、ジャケットの下は黒のタンクトップ、イエローのベルト、そして下にチェーンがあしらわれた何か昔の欧米を感じさせるパンクジーンズのような黒ズボンとブーツを身に着けていた。
「根性全開、爆裂!男気一直線!セイバーチルドレン!ガッツストライカー!」
爆発の中から降り立った晃は自分の容姿をじろじろと眺めてしきりに呟いた。
「うっわ、ホントにヘンシンしちまいやがったっ!スッゲースゲー!バン、コレがオレの魔力なのか?」
「そうだぁーっオレと同じ爆裂の魔力属性!アキラ、お前がオレのパートナーだったなんてな!でも、話はあとだ・・」
晃を囲むようにしてゴブリンとミリアがにじり寄る。
「アナタも・・・セイバーチルドレンだったの?だったら話は早いわ、ゴブリン達!コイツも片付けろっ」
その声で晃に一斉に飛びかかる。
「あぶないっ!」
「アキちゃんっ!」
悠奈と七海が声を上げる。しかし、晃とバンは慌てる様子なく、互いにこう言った。
「まずはコイツらを片付けてからだアキラ!」
「ああ、オレもそう思ってたところだっ!」
アキラが気合い一発、ゴブリンの群れの中に駆け込む。そのまま正面のヤツをガッ!と勢いよく殴り飛ばした。
続いて脇のヤツに回し蹴りを見舞う。ついで椎拳崇から教わった拳法技で背後から棍棒を持って襲ってきた2体をカウンターで迎撃した。
「龍連打(りゅうれんだ)!」
ガッ!ガッ!ガァンッ!
晃の必殺の連続パンチがゴブリン達を襲い、それぞれ吹っ飛ばす。あっという間にゴブリンがアキラ1人に駆逐され、残るはマッディウッドだけとなった
「スゴイスゴイ!アキラくん強いっ!」
「あったり前や!アキちゃんケンカはヒカルちゃん並に強いねんで!よっしゃウチもがんばろ!ウェンディ、お願いっ!」
「さすがやな・・・アキラ、お前ならやるって信じてたで・・・おっしゃ!いつまでも寝てる場合ちゃうぞ!ヒナ!ヤオ!オレらもやるで!ヴォルツ、来いや!」
「っしゃあっ、んならいきまっせー!」
「うん!アキちゃんに負けてらんないもんね!イーファ!」
「おうよ!」
「オレだって・・みんなに負けてたまるか!ユエ!」
「うん、りょーかいだよ!」
それぞれが精霊の力を借りてマッディウッドに向けて魔法を放った。
「ファイアボール!」
「アイススパイク!」
「ムーンレーザー!」
「サンダーボルト!」
それぞれが放った魔法が木の魔物にダメージを刻み大きく揺らがせる。
「ぐがああぁぁーーーっっ」
「ま・・マッディウッド!」
「さあ、アキラ、お前ももう頭の中に呪文が浮かんでるはずだ・・ぶちかませ!爆裂の魔法を!」
「おうよっ!・・爆裂の闘神アーレスよ、我が声に答えその破壊の力を貸し与えよ・・・バーストブリッツ!」
アキラの掌から放たれたエネルギー弾が放物線を描いて、木の魔物の胴体に着弾した。ドオンっ!という轟音とともにまた魔物が苦悶の声を上げる。
「よっしゃ仕上げだ!来い、ストライクグラブ!」
アキラの右手が輝き、リストがボクシンググローブの拳を覆う武器へと変わる。それを纏った拳をマッディウッドの顔面に突進ざま思い切り叩き込んだ
「でりゃあぁあーーーーっっ!!」
ガツンッ!!と大きな衝撃が走り、ズズズ・・と魔物が音を立てて倒れ込む。そこを日向が見逃さず悠奈に叫んだ。
「ユウナ今だ!」
「うん!」
悠奈がロッドを構えて、そして止めの浄化魔法を放つ。
「悪い心は、聖なる光でとんでいけ!シャインハートフラーッシュ!」
桃色の光がモンスターを優しく包み込み、そして内部の宝石が消え去る。するとそこには元通り、公園の中のシンボルの木がいつものように佇んでいた。
「・・くっ、まさか・・また新しいセイバーチルドレンが誕生するなんて・・・」
「さあ、レイアを返して!」
悠奈の強い言葉にうっ、とたじろぐミリアだったが・・・
「お断りね、代わりにコレをあげるわ」
退かずに隙をついて魔法を放とうと手を翳して来た。危ない!と思って身を引こうとしたその時・・・
「っとお、まちな。もうそれ以上はやる必要ねえだろ」
その手を掴んで制した人物が突然割って入って来た。
「!!」
「アナタ!・・・ユイト!?」
「あああぁあぁ〜〜〜〜っっ、ヘンタイ男ぉ!」
「よ、ユウナ。また会ったな、しっかしダレがヘンタイだよ?あ?ガキにヘンタイ呼ばわりされる覚えはねえぞ?」
「るっさいだまれーっ!エッチヘンタイヘンシツシャー!」
目の前に颯爽と現れた黒髪の美男に悠奈は悪口雑言の限りを浴びせる。このユイトという少年に不意にキスされたことがよほど腹にすえかねているのであろう。
そんな悠奈をあしらいつつ、ユイトはミリアに言う。
「今日のところはお前の負けだ。そのフェアリー放して引き下がれ」
「なっ、なにを言ってるの?そんなコト出来るワケ・・・」
「たった1人でコイツら全員相手にできねえだろ?ここは退いとけ」
ユイトにそう言われてミリアは悔しさに顔を歪めたが、その発言が的を射ていると感じると軽くうなづいてレイアを解放した。
「ユウナちゃーん!」
「レイア!」
悠奈のもとに飛んでいくレイアを見て、そのままミリアを連れて立ち去ろうとしたそのユイトの前に・・・
「・・・なんだ?お前」
爛々と輝く視線を湛えて、日向がその前に立ちはだかった。
「まてよ、いつも関係ないとこからジャマだけして・・・それでまた消えるつもりかよ?」
「邪魔?ハッ、偉そうに言うじゃねえか。大事な悠奈をみすみす人質にとられて身動きできなかったヤツがよ」
「なっ・・・!?」
「オレはお前みたいなザコに付き合ってるヒマねえんだよ。悔しかったら満足にそのお飾りの刀で仲間守ってからにしやがれ」
そうユイトが言った瞬間、日向の体が疾駆した。
「ひっ、ヒナタくん!」
そのまま斬りかかる、しかし次の瞬間にガキィッ!と鋭い金属音が響いた。見てみると日向の剣が上空高くに弾き飛ばされていた。ユイトの手に握られているのは黒の柄に白銀の刃が美しい日向のものによく似た剣だった。
「ひっ・・ヒナタの剣を・・」
(弾き飛ばしよった・・!)
「あ・・・あ・・」
「弱えな、ヒナタ。お前じゃまだユウナを守れねえ」
「そっ・・そんな・・・」
「ソレがお前の実力なんだよ、思い知って出直して来な!」
「ヒナタくん!!」
「ヒナぁーーっ!」
ユイトが剣を日向に振り下ろした。悠奈と七海の悲鳴が木霊する。やられる!その場の全員がそう思った時、またキィンッ!という金属音が響いた。
「・・・弱い者イジメは感心しないな・・ヤオトメ・ユイト」
「・・・テメエ」
「あ!・・アイツ!」
窈狼が声を上げた。日向の前に割り込み、彼を剣撃から救ったのは、悠奈たちの前に現れたいつかの仮面剣士だった。銀の仮面の奥で、ユイトを見る瞳が燃えている。
「キミたちも、今は退くんだ」
「なっ・・何言ってんだよっ!余計なコトするな!まだ勝負は・・・」
「草薙くん、今剣を交えてキミもわかったはずだよ?キミじゃまだユイトには敵わない」
「なっ・・アンタ・・・オレの名前」
「知ってるさ、キミだけじゃなく、そこの愛澤さんも、香坂さんも、煌くんも知ってるよ。いいかい?ここは退くんだ。ユイトも、お前だってどうせ闘うならもっと強くなった草薙くんたちと戦いたいだろ?」
その言葉を聞いて、ユイトもフン、と笑いながら剣を仕舞う。そして悠奈に近づきながらこう言った。
「今日のところはこれで終いにしてやるよ。なあ、ユウナ」
「な・・・なによ・・?」
「・・・今度、オレとデートしようぜ?」
「////でっ・・でっ・・ちょっ・・なっバッ!・・はあぁぁっっっ!!??////」
「アッハッハッハ!おっもしれえでやんのその反応!じゃあなユウナ、愛してるぜv」
真っ赤になって訳もわからず喚き立ててる悠奈にラブコールを残して、ユイトとミリアは立ち去ってしまった。
「あ・・の、ありがとう・・その、助けてくれて・・・」
悠奈がそう礼を述べたが、仮面の少年剣士は無言で答えもせず、ただ剣を鞘におさめた。その冷徹とも思える態度に今度はヒカルが言葉を切る。
「アンタ、オレら助けてくれたみたいやけど、一体何モンや?」
「そうだよ、前にもオレ達を助けてくれてさ、一体誰なんだよ・・・」
「今はまだその時ではない、いずれ時がくればわかる」
「あ!あなたあの時にもいたフェアリー!」
光と日向の言葉に答えたのが少年ではなく、その横に飛んできたレイアたちと同じようなフェアリーだったので、レイアが声を上げた。
「人に指をさすな無礼者が!大体僕はただのフェアリーじゃないっ!僕は・・・」
「ティト!」
ティトとよばれたフェアリーはうっ、と言葉をつまらせて黙り込んでしまった。そして少年が口を開く。
「僕が敵か味方か・・・それはこれからのキミたちの動きしだいだ。もしキミたちがその魔力を正しい方向に用いようとするならば僕はきっとキミたちの力になる。だがそうでなければ・・・」
そこまで言って、少年は「またどこかで会えるかもな」と残して立ち去ってしまった。
「アキちゃんが仲間になってくれてよかったぁーーっ!」
「うんうん、ヒカルちゃんの予感、やっぱりナイスヒット!歓迎すんでアキちゃんっ!♪ウチアキちゃんやったら大歓迎v」
「へへっ・・まだ自分でも実感ねえケドな・・」
帰って来たアキラの部屋で、お菓子とジュースを囲んで、一同はささやかな歓迎会を催していた。
レイアやイーファ、ユエやヴォルツなど、既にパートナーを見つけたフェアリー達も新しいメンバーにホクホク顔でお菓子を頬張っていた。
「これでアキラもセイバーチルドレンズの一員だな!これからヨロシクたのむぜオラオラぁーっ!燃えるぜボンバーっ!」
「あ、ああ、ヨロシクなバン・・・」
新たなパートナーの高いテンションにたじろぎつつも笑って答える晃、しかし悠奈だけはゴキゲンナナメだった。
「?どうしたんだよユウナ、腹でも痛いのか?」
「ち・が・う!」
「ハハ〜ンvさてはアレやなwさっきのユイトとかいう兄ちゃんにデート誘われたからやろ?ウレシイ?」
「うれしいわけあるかあぁっ!」
心配する窈狼とからかう七海に半ば八つ当たりのようにキレる悠奈。しかし初めて会った時からあのユイトという男にはイライラさせられっぱなしだ。
「ったくぅ〜〜っっなんなのよアイツぅ〜っ!ヒトに勝手にキスするわ体さわるわこんどはデートぉ?ふざけんなよチクショーッ!」
「ゆっ・・ユウナちゃん落ち着いて・・・」
1人暴走の中にいる悠奈を見ながらも、日向だけは先程のユイトとの対峙に完敗したのを思い出して1人神妙に考え込んでいた。
「どうした?ヒナ」
「あ・・ヒカルちゃん・・・」
「何考えてんねん?」
「べ・・・別に・・・」
そう言ってジュースを飲み干す日向に、光は明るく笑ってこう言った。
「別に気にする事あらへんぞ。次に勝ったらええだけの話や」
「え?」
「アイツは文句なく強かった。今のヒナの実力じゃたしかに勝てんかもしれん・・・だったら今よりもっと強くなったらエエだけの話や、簡単なこっちゃろ?」
「ひ・・ヒカルちゃん、なんでわかったの?」
「アホウ、お前が何歳の時から一緒に遊んでやってる思てんねん、そんなコトヒカルにーちゃんにはお見通しや。まあ、悔しいんはわかるけど、その悔しさ忘れんようにもっと強くなって・・次は目にもの見せたり!」
ニッコリ笑って元気づけてくれる光。その横でそうだと晃もうなづくのを見て、日向の顔にようやく晴れやかさが戻った。
「ってなワケで、ユウナだっけ?これからヨロシクな」
「うん!アキラくん!」
悠奈も晃に満面の笑みで返した。
「あ〜・・なんかどっと疲れが出てきたぜ。しゃあねえ、一服・・・と」
晃がそう笑いながら取り出したのは小さな紙包みだった。しかしだれでも見たことのある紙包み、小さな棒状の筒だった。
これは・・・
「あっ・・アキラ!お前・・・それタバコやんか!」
「あん?そうだけど・・・」
「え〜〜っアキちゃんタバコなんか吸うのー?」
「バッカ!声がデケエよ!アニキにばれたら殺されんだから・・・へへっオヤジのかっぱらったんだよ。たまにな、疲れた時にちょっとモク入れるんだよ。気持ちがすぅ〜ってラクになるんだよな」
「で・・でも陽ちゃんにばれたらヤバくない?」
「せやで、陽ちゃんってそういうとこムチャクチャ厳しいから、お前確か前もバレて半殺しにされたやんか・・・」
「ヒナもヒカルもわかってねえなぁ〜、そのスリルがいいんじゃねえかvようはバレなきゃいいんだよバレなきゃ!」
得意気に話す晃の顔は、先ほどとは違って誰が見てもずる賢い悪魔の顔に見えた。それに晃自身もイイ気分で酔っている。
自分がもう大人の仲間でお前らはまだまだお子さまだぞと言いたげな気分で自慢のオンパレードだった。
それが・・・アキちゃんを地獄に叩き落とすとも知らずに・・・
「ま!こーやって、バカなアニキを騙しちゃうのも、オトナの勇気ってヤツよ!かっかっか!」
「ほぉ〜う・・そーかい・・・」
「あ?・・・・」
不意に晃の背後でそんな不気味な声と危険な殺気を感じた。
見れば皆一様に晃の背後に視線は釘づけである。そして、なかでも光、日向、七海、窈狼は真っ青な顔でガタガタと震えていた。
晃の背筋に一瞬にして悪寒が走る。
まさか・・・・
そんな・・・・
そんなバカな・・・・
喉をゴクリと鳴らして、晃は恐る恐る背後を振り返った・・と、そこで晃が見た物は・・・
「ぎゃああぁあぁぁあ〜〜〜〜〜〜っっっ」
「テメエ・・・今までそんなコトしてやがったのかあぁ〜〜?」
「あっあっあっ・・アニキぃ〜〜っ!?どーしてココに!?」
そこには晃にとって今一番会いたくない人ナンバーワンの兄、陽生が、鬼のような形相で仁王立ちし、晃を見下ろしていた。
「なんだかえらく楽しそうだったんでなぁ〜・・ちょっと様子見にきてみたらよぉ・・アキラ、さっき言ってたこともう一度聞かせてみな?ん?なんて言ってたんだ?」
「い・・いや・・それは・・あの・・・」
「バレなきゃいいとか抜かしてやがったなぁ・・いい度胸じゃねえか、あん?おまけにガキのクセにタバコたぁな。覚悟はできてんだろうな?」
ボキボキと指を鳴らしながら近寄ってくる兄に、もはや晃は成す術もなく、震えながら後ずさるしかできなかった。
「ぎゃあぁぁ〜〜〜、カンベン!アニキゆるしてぇ〜〜っっ」
「勘弁できるかバカ野郎がぁーーっ!ガキのクセにタバコなんざやりやがって、しかもバレなきゃいいだとぉ!?それが男のすることか!?テメエのその腐った性根!ケツから叩きこんでやる!」
「い〜や〜だ〜〜っっ」
さっき会った時とは打って変った様な怖い陽生兄ちゃんにその場にいた子ども達はもう震えてその場を見ているしかなか。った。
じつはこの南家にはある家訓がある。
男、強く逞しく。女、清く美しく。
いつの時代なのか?まるで昭和・・いや、戦前くらいの考え方を家訓としており、ゆえに男児には硬派が求められる。晃や陽生の父である猟太郎(りょうたろう)はその通り、昔ながらの熱血硬派であり、若い頃は超武闘派のヤンキーとして、また超絶的な空手の達人として数々の武勇伝を残している。
そしてそれは陽生にも受け継がれているのだ。
陽生は普段は温厚で優しい、ヤンキーでもないごく普通の高校生だが、怒った時は父のような武闘派に変貌し、彼自身もたった1人で3つの暴走族を全員叩きのめしたり、不良グループを壊滅させたりととんでもない強さをもっている。さらに彼はプロボクサーでもあり、現在新人王戦を控えた、3戦3勝3KOの戦績を誇る日本ボクシング界期待のルーキー、パワーが売りのインファイターでもあった。
硬派を受け継ぎ曲がったことが大嫌いの陽生が、今回のような晃の家訓違反の行為を許すはずがない。ルールを破った子には南家では教育係のお兄ちゃんからそれはそれはきつぅ〜いお仕置きが待っているのだ。
「やだぁ〜〜っっ」
「ヤダじゃねえ!しっかり反省しやがれ!」
陽生はそのまま晃のズボンを掴むと下着ごとずり下ろして、お尻丸出しにする。そしてそのままゴキンッと指を鳴らすと大きく振りかぶってそして晃の丸出しになった健康的に引き締まったお尻めがけて振り下ろした。
バッチィーーーンッッ!
大きな破裂音。そしてその直後に
「いぃぃってえぇええぇーーーーっっっ」
という晃の泣き声が部屋いっぱいに響きわたった。
尻叩き。
これが南家のお仕置きであった。陽生も幼い頃悪いことをすれば父から叩かれた。そして南家では陽生の下に中学1年生の妹と小学6年生の弟晃、そして末っ子に小学5年生の妹がいるのだが、みんな悪いことをすれば陽生兄ちゃんのお膝の上でこの尻叩きの刑を受けるのだ。
高校2年、豪腕ボクサーで知られる陽生兄ちゃんの必殺の平手は小さな妹弟にはまさに辛すぎるお仕置きだった。
あまりの音と泣き声に悠奈たちはおろか、光さえも目をつむっている。
ぱんっ!パンッ! ぺんっ!ペンッ! ばしっ!バシッ! びしっ!ビシッ! ばしぃっ!びしぃっ! バチンッ!ベチンッ! ビタンッ! ビターーンッ!
「ぎゃああぁっっ・・ってえぇえ!!いってええぇっ!いってえっ!いてえっ!いてえよっ!アニキ痛いってばあぁ〜〜っ!ひいいぃぃ〜〜〜〜っっ」
「痛いのは当たり前だこのガキャア!ナメたマネしやがって!ちょっとやそっとで許すとおもうなよ!」
バッシィーンッ! ビッシィーンッ! べちぃぃんっ! ばちぃぃんっ!
「ひゃああぁあっっ!・・いでええぇっっいでっ!いでっ!・・いっでええぇぇっっ・・アニキぃ〜〜っ・・いてえよおぉぉ・・・・」
「泣くのはまだ早えぞ?大体前にも親父のタバコイタズラして散々叱っただろうが!2度としないって約束しておきながらお前ってヤツはっ・・今日はケツが焼けるぐらいひっぱたいてやるからな!」
ぱあんっ! パアンッ! ピシィーッ! ばしぃーっ! ベシィーンッ! ばちぃっ!ベチィッ! ぴしゃあんっ!
「いぎぃぃぃっっ・・いだいぃ・・いだいよぉぉ・・いいいぃっっ・・いっだあぁっ!!ぎゃああっっ・・あっ・・あううぅぅ〜〜〜っっ・・ひっひいぃぃっっ・・うぎゃあんっっ・・」
「タバコは子どもが吸うと成長が遅くなったり、将来肺癌を誘発したり・・・正直大人が吸ってもいいコトは何一つねえんだ!それをまだ子どものお前が吸うなんて・・・何かあったらどうするつもりだこのバカヤロウが!オラ!もっとケツ向けろ!」
ばしんっ! バシンッ! べしんっ!ベシィンッ! ビタンッ! びたぁんっ! ばっちーんっ!べっちーんっ!
「うわあぁあぁっっ・・いたああぁっっ・・いっでぇぇっ・・・ぎゃひぃぃっ・・うびぃぃ〜〜〜っっ」
ぱんっぱんっぱんっ!! ペンッ!ペンッ!ペンッ! ばしっ!べしっ! ピシャンッ!ぴしゃんっ! びっしゃあぁーーんっ!!
「ふぎゃあぁあっっ・・びぃええぇぇっっ・・・ああぁぁうぅっ・・いだっ・・だあぁああっっ・・痛い痛い痛い痛い痛いいぃいいぃ〜〜〜〜〜っっっ」
バッチイイィンッッ!
「っっっ・・・うっ・・うっ・・うわああぁぁ〜〜〜〜んっっ・・ごめんなさあぁぁ〜〜いっっ・・も・・もぉしませえぇ〜〜〜んっっ・・・」
ついに大声を上げて泣きだした晃。
日向たち、七海たちの前だからと必死で我慢していたが、もう限界だった。お尻が痛くて痛くてたまらない。
叩かれるたびに巨大なバットで殴られているような衝撃と火で炙られているかのような灼熱の痛み。すでに晃のお尻は陽生の手の平の痕が沢山張り付けられて全体が真っ赤っかに猿のように腫れ上がっていた。
それを震えながら見ている悠奈たち、自分たちもママから時々されるからお尻を叩かれる痛みがどんなに辛いか、腫れ上がったお尻のひりひりじんじんとした鈍痛がどんなに惨くて酷いかよくわかる。
ばしんっ! バシンッ! ベシンッ! ビッシーーーンッ!!
「ぎゃああぁ〜〜〜んっ・・ぴぎゃああぁんっ・・・うわあぁぁ〜〜んっっ」
「アキラ・・・もう2度としないって今度こそ約束できるか?」
「うっ・・ふえっ・・うえっく・・えぐっ・・・」
陽生は晃の真っ赤に腫れて膨らんだお尻を優しく撫でながら努めて厳しい口調で尋ねた。
「どうなんだ?」
「は・・いぃ・・ひくっ・・ぐずっ・・も、もう・・・しま・・せぇ・・ん」
「隠し事は?」
「も・・しねえ・・からぁぁ・・ゆるして・・ゴメ・・なさ・・ぃ」
「よし!じゃあ終りだホラ、今氷持って来てやるからそんなに泣くんじゃねえ。男だろ?ヒカルにヒナに、ユウナちゃんも悪かったな、ちょっとみっともないトコ見せちまって、今新しいオヤツもってくるからよ!」
頭を仕上げにくしゃくしゃと撫でてから「次はねえぞ」と釘を刺して部屋を出て行った。
もはや完璧に性も根も尽き果ててシクシクお尻の痛みに泣く晃。そんな晃にバンがそ〜・・と寄り添った。
「そ・・その・・・なんだ?あの・・やっぱりお前は爆裂の属性だったんだな!」
「は?ナニソレ?」
「どういう意味バン?」
「何のこと言ってんだテメエ?」
「ルーナよくわかんないでしゅう」
バンの意味不明な一言にユエやリフィネ、ケンやルーナが首をかしげる。
「いや・・・その、尻がバクダンみてえだから・・・」
そのジョークには、誰1人笑えなかった。
新しい仲間は硬派で優しい極道さんの息子、そしてルールを破るととっても硬派で厳しい罰をお尻にもらっちゃう晃くんの登場でした。
つ づ く