「いい?ユウナちゃん。これからアタシが言うこと、よぉ〜く聞いてね」
「・・・ウン。」
宙をフワフワと漂いながら真剣な面持ちで話す異世界の妖精、レイアに、この部屋の主、愛澤悠奈も真剣なカオで頷いた。
「私達の国、グローリーグラウンドの首都、レインヴァードは女王、ソフィア・グランディス様の統治のもと、平穏に暮らしていたわ。女王様はとてもお優しい方で、いつも国のみんなのことを一番に考えて下って、私達はいつも女王さまを信頼し、幸せに生活していたの」
「へぇ〜・・」
「女王様は偉大な魔法の力を持っていらした。そのお力で国の気候を安定させたり、みんなの病気を癒したりして下さったわ。みんな女王様と、魔法の力に感謝していた。でも・・・」
そこで、不意にレイアは沈痛そうな顔を見せた。
その正面で、窓の外へとよそ見をする悠奈 。
レイアは再び口を開いた。
「そんな魔法の力を、よこしまに利用しようと考えた1人の魔女が現れたの。それが、当時、女王様の側近で、小さな頃からお抱えの侍女として仕えてきた、王宮魔術師のエミリー。エミリーは考えたの、レインヴァードの絶大な魔力を利用すれば、グローリーグラウンド全体を、いや、違う世界にある異世界すら思うままに支配出来るって。この巨大な魔法の力はその為に利用するべきだって」
「・・・・・・」
「もちろん女王様はそんなこと考えてはおられなかったし、そんなことに魔法の力を使うなんてもってのほか、と仰ったわ。そして、エミリーのその悪い考えを直ちにお諌(いさ)めになったの。でも、エミリーは聞き入れようとしなかった」
「ウンウン」
必死に語るレイアの横でケータイをいじりながら、いい加減に返事をする悠奈。
「エミリーは欲望を抑えきれずに、禁じられた王家の封印呪文に手を出したの、そして、体に一生消えない呪印と、強大な魔力を手に入れた。そして、レインヴァードを征服しようと女王様に反旗をひるがえして戦いを挑んだの」
「ふ〜〜ん・・・」
「女王様は迎え撃ち、激戦の末、なんとか勝利して、エミリーの魔法力の大部分を支配していたコアを封じ込めることに成功したわ!失敗したエミリーは何とか王宮から逃げ出し、それ以上襲ってこなかった。でも・・・」
そこでレイアは言葉を詰まらせた。
正面で、まだカチカチとケータイをいじっている悠奈、そんな彼女を知ってか知らずか、レイアはかぶりを振って口を開いた。
「そのせいで、女王様はお体に深刻なダメージを受け、深い眠りについてしまわれた・・・」
うなだれるレイア。小刻みにその体が震えていた。
「女王様は眠りにつかれる前、最後の力を振り絞って、エミリーの魔法力コアを12個のエートピースに分けて異世界であるこの世界へと散りばめられたわ。ユウナちゃん!」
「きゃっ、な、なに?」
突然悠奈の目の前に迫り、レイアは指を突きつけて言った。
「お願い、アタシに協力して!あなたにしかできないの!エミリーは既に自分の魔法力コアがこの世界にあることを突き止め、魔力の高い子ども達を唆(そそのか)してダークチルドレンズを組織し、コアを取り戻すための反撃を開始した。アタシは女王様のご息女であるイリーナ様から使命を受けてここまで来たの、その使命はエートピースと同じ、12人の選らばれし子ども達、セイバーチルドレンズを探してダークチルドレンズと戦いその野望を阻止すること!」
「・・・・・・」
「ユウナちゃんは最初にセイバーチルドレンになってくれた。だから、ユウナちゃんの協力がどうしてもいるの!」
悠奈はその言葉をただ真面目な表情で、声ひとつ上げずに聞いていた。
「・・・どう?ちょっとはわかってくれた?だいじな使命」
「いや。ぜんぜん」
そのハッキリとした返事にレイアは宙で派手にコケる結果となった。
「し、正直ねユウナちゃん・・・まぁ、予想はしてたケド、よそ見したり変身アイテムいじったりしてたし・・・」
「何よ変身アイテムって、これケータイなんだから。大体いきなりそんなゲームにでてくるようなファンタジーまみれの話、信じれるワケないじゃん」
「でも、ユウナちゃんアタシが見えてるでしょ?」
「う゛っ・・・」
「襲われたでしょ?」
「うぅ〜〜・・・」
そう言われてしまうと言葉に詰まる。
確かにその通り、今言われた内容の話しなどおよそ現実世界のことなどと考えられなかった。あり得ない話だ。
しかし、もう悠奈の目の前にはその「あり得ない」話のひとつが実物として、宙を舞っている。それに一昨日のあの少女。目の前で変身して悠奈に襲い掛かって来たのは真新しい記憶として脳裏に焼き付いている。なにしろ、自分まで光に包まれて妙な呪文を唱えて変身してしまったのだ。今となれば、それを全て嘘や勘違いとしてくくってしまうほうが、無理がある気がする。
悠奈はハァ〜・・と深く溜め息をついた。
「ユウナちゃ〜ん、朝ごはんよぉ?。降りてらっしゃ?い」
「あ、ママ・・・って、ウソっ!もうこんな時間!?準備しなくっちゃ!はぁ〜い、今いく〜」
慌ただしく着替えてリビングに降りていく、そんな悠奈を後からレイアも追った。
「350×50、この問題分かる人ぉ〜〜?」
「ねぇねぇ、ユウナちゃん。アレってなぁに?」
「・・・・・・」
『ユウナちゃんてばぁ』
『うるさいなもうっ、授業中に話し掛けないでよ!』
算数の授業中、中庭にある遊具を指差して質問するレイアをうっとうしそうにしながら悠奈が答える。
他の子どもにレイアの姿は見えていないとは言え、授業中に普通に話し掛けるのはやめてほしい。
「あっ、アレは何?白い枠にネットがかかってて、ああ!?アレなになに?はしご?でもでも、横に掛かってる・・・ああー!?面白い!あのブラブラとぶら下がってるアレは・・・」
「〜〜〜〜〜ッッッ」
バ ン ッ
と大きな音を立てて机を叩く悠奈。
「うるっさいなもうっっ!目の前チョロチョロ飛び回って、ギャーギャー騒がないでよっ!アタシ今忙しいの、わかる?わかるよねえ!わかったら少し静かにっ・・・し・・・て・・・・・・ぁ・・・」
やってしまった。
クラス全員が好奇と驚きの眼差しで悠奈を注目していた。
「えっと・・・・・・愛澤さん?」
「ひゃっ・・・は・・・ハイ」
「その・・・解く?この問題?」
「ぃやっ・・・あの、あのあのアタシ・・・??っ、ゴメンなさい。聞いてませんでした」
顔を真っ赤にしてしゅん、とうなだれる悠奈を見て、あちゃ〜〜・・・という顔のレイア。
(ゴメンねユウナちゃん・・・)
「レイア〜〜〜〜ッッッ!!」
「きゃーーっゴメンなさいっ!」
「もーっおこった!アンタなんかつかまえてトイレに流してやるぅ〜〜っ!(怒)」
「い、いーじゃん、授業で目立てたしっ」
「良くない!誰もいない空気相手にケンカだよ!?アタシちょ〜ヘンなヤツに見られたじゃん!精神異常者じゃん!ただのラリった人じゃん!」
放課後。
帰り際、玄関に程近いトイレ前で、悠奈とレイアが小競り合いを繰り広げていた。
悠奈からしたら間違いなく大恥。クラスメートの前で完璧なる1人芝居を演じたのだ。原因となったレイアに怒り心頭だった。
「とにかく、もう二度と授業中に話し掛けないで・・・ってかついてこないで!」
「そうは行かないわよぉ、帰り道にまたダークチルドレンズに襲われるかも知れないし・・・あっ!ユウナちゃん!」
「え?」
突然会話を切ってレイアが悠奈の背後を指差した。つられて振り向くと・・・
「よ!ユウナ!今帰りか?」
「くっ・・・くさなぎ・・・・くん?」
ソコには今悠奈が学校で気になる男の子ナンバーワンの憧れの男子。
草薙日向(くさなぎ・ひなた)がニカッと白い歯を見せて笑っていた。
明るく元気で爽やか、サラサラで茶が淡い髪、スポーティーに引き締まった体格。そして、やんちゃっぽくも可愛らしい顔立ちは悠奈の好みにモロにどストライクだった。
「今帰りなら、一緒に帰んねぇ?途中まで」
「え!?」
突然のお誘いだった。
表情はクールにそのまま。だが、心の中で激しく動揺する悠奈。
(まっ・・・マジ!?マジなワケ!?憧れのヒナタくんがアタシとぉ〜〜〜///どっどうしようっ!可愛く・・・可愛い女の子に見られるようにしなきゃっ!可愛く、嬉しいっありがとう♪ってカンジで・・・)
「・・・別に・・・いいけど・・・」
(うっきゃあーーーっ!!そ〜〜〜じゃないってアタシのバカバカバカぁ〜〜!せっかくヒナタくんが誘ってくれたのに何!?その可愛くない反応!?)
「おしっ!決まり!じゃ、帰ろ」
「え!?・・・あ、・・・ハイ」
だが、心の中で激しく自己嫌悪に陥る悠奈に日向は爽やかに言った。
( ・・・・・・〜〜〜かっ・・・会話できね〜〜〜ッ)
帰り道。
憧れの日向くんと下校出来ているというのに、先程から全く話がない。
真っ赤になってうつ向いて歩く悠奈の隣では日向が空を見ながら自分の方は振り返らず歩いている。
なんで自分なんか誘ったんだろ?そんな考えが悠奈の中に生まれた頃だった。
「あ〜あ、ダメだ」
「え!?ダメって・・・何が?」
「雲」
「は?く・・・くも?」
「そ。面白い形さっきから探してたのにどれもイマイチ。昨日は恐竜みたいなのがあったんだけどな?」
まさか、それで今まで無言だったのか?ちょっと天然なヒナタくんの一面に戸惑ってると・・・
「なあ」
突然話しかけられた。
「なっ・・・何?」
「おととい、ありがとな。嬉しかった」
「へ?なにが?」
「告白・・・してくれたろ?」
「!?・・・はぁ!?なっなんで!?アタシそんなコトしてな・・・」
「え?してくれたじゃん。皆の前で・・・」
「皆の・・・前?・・・」
その時、悠奈の脳裏につい一昨日の悪夢が甦った。
レイアと言い合って、ドサクサに日向が好きと公言したこと・・・
(・・・・・・そうだった・・・)
カックーンと深く、深く項垂れる悠奈。
「ご、ゴメンなさい・・・ヘンなコト言っちゃって・・・」
「気にすんなよ!なんとも思ってねーから♪」
(なっ・・なんともですか・・・ソーデスカ・・・(泣))
あっけらかんとした無邪気な日向の答えにまたまた打ちのめされる悠奈。
「でも、アレでちょっとクラスに馴染めたんじゃない?」
「え!?」
「だって、お前の呼び方変わったジャン。アイザワさんだったのに、昨日からユウナちゃんって、呼び方多いぜ」
「そ・・・そう言えば・・・」
そんなような気がする。
女子の友達から今まで少々敬遠されていたのが、昨日、今日と割とフレンドリーになったような感じを覚えていた。
「ま、ナナミはライバルが増えたーーっ!なんつって、騒いでたけどな。なんのコトかわかんなかったケド・・・」
「そ、そう」
日向がそう言ったのを悠奈はちょっとひきつり気味の顔で聞いた。
ナナミというのは恐らくクラスメートの香坂七海(こうさかななみ)のコトだろう。
日向のカノジョを自称している少々気の強い女の子である。
「やったじゃないユウナちゃん!とりあえずクラスに馴染めたみたいで」
「あっアンタねぇ!偉そうに言わないでよっ!アンタのせいで今日は大恥かいちゃったんだからっ!大体ねぇ・・・アタシだってアンタがいなくてもクラスに溶け込むくらい・・・あ・・・・」
思わずレイアの言動に反応してしまった悠奈、しかし、日向の存在を忘れていた。
しかしもう遅い。しっかり日向に見えないレイアとのやり取りを見られてしまった。
キョトンとした感じの日向。
(またやっちゃったから〜〜〜・・・)
直後に深く溜め息をつく。
「あのっ・・・ゴメンっヘンだよねアタシ・・いきなりこんな、1人でしゃべっちゃったりなんかして・・・」
「え!?1人?」
そう少し驚くと、日向は頭をかいて少し考え込んでから言った。
「あのさぁ、ずっと聞こうと思ってたんだケドさぁ・・・その、横でフワフワ浮いてるソイツって・・・なに?」
「え?」
「え?」
今度は悠奈とレイアがキョトンとした顔。
「あ・・・あのぉ・・・何が?浮いてるって?」
「いや、だから、今ユウナの隣にいるじゃん。小さくって宙に浮いてる・・・なんていうか・・・その・・・妖精みたいな女の子・・・」
日向の問いに思わずレイアが自分で自分を指差すと、日向はコクリとうなづいた。
「「えええぇええぇえぇ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??」」
「よお、ヒナぁ!今帰りか?」
「あっ!京にーちゃん!」
草薙家門前、日向は入口付近に佇む青年を見つけて、嬉しそうに手を振りながら駆け寄った。
「どうしたの?」
「今日は萌(もえ)の練習の日だったからな。送ってきたんだよ」
そう言いながら、京(きょう)と呼ばれた青年はガシガシと日向の頭を乱暴に撫でた。
「?お?なんだ、友達か?」
「あ・・うん、同じクラスの愛澤悠奈。転校生でさ、まだウチの学校来て2ヶ月・・・」
「ほぉ〜〜〜う、ってコトは・・・去年の2月辺りに転校してきたってコトか?」
そう言いながら軽くお辞儀をした悠奈に青年がつかつか歩み寄り、悠奈の目線の高さにしゃがみこんだ。
「はじめまして。日向と仲良くしてくれてるみたいだな。どうもありがとう」
「えっ!?あ・・・いえ・・コチラコソ・・」
「ハッハハハハッハ・・・礼儀正しい子だな」
そう言って明るく笑う。
悠奈はどこかで見たことのあるような顔をしながら目の前のお兄さんを見つめた。
日向とはあまり似てないが、十分すぎるほどの端正なアイドル顔。
しかし、弱弱しい感じは無く、独特の逞しさがあった。体格も引き締りながらもガッシリとしている。
そして、どこか日向には無い野性味がその青年には雰囲気としてあった。
『ヒナぁ〜〜・・・お前も中々スミにおけねえじゃねぇか!ナナちゃん以外にあんなに可愛いコ連れてくるなんざ・・・よっ!やるね色男!」
『そっ・・・そんなっ!からかわないでよっ!ユウナはそんなんじゃないんだから!ほっ・・・ホラっ!今日はユキちゃんとデートなんだろ?遅れたらまた怒られるよ?』
『げっ・・・そうだった。』
「じゃあもう行くわ!」
「うんっ!ありがと!じゃあね!」
「ユウナちゃんも、またま」
「あっ・・・ハイ」
笑いながらバイクに跨るその青年。
去る前に一言残した。
「ヒナ」
「?うん?」
「・・・・・ガンバレよ!」
「///だっ・・・だからなにをぉ?///」
夕日に向って笑い声を上げながら、バイク音を響かせて去っていった。
「カッコイイお兄さんだね?兄弟なの?」
「ううん、違う。イトコなんだ。でも昔からよく遊んでもらってる。とっても優しくてカッコいいんだ!それに強いんだぜ!京にーちゃんって、キング・オブ・ファイターズって知ってる?」
「あ!」
そこで悠奈はやっと思い出した。
そう、パパの雑誌を偶然見た時に載っていた人だ。
草薙京(くさなぎ・きょう)紅蓮の炎を操る日本の武術、草薙流古武術(くさなぎりゅうこぶじゅつ)を継承し、THE KING OF FIGHTERSという異種格闘技トーナメントで優勝経験もある日本が誇る若き天才格闘家とデカデカと見出しに載せされていた。
あのお兄さんだったのだ。
「聞いた事・・・あるかも・・」
まさか日向がその有名人と従兄弟だったなんて・・・悠奈はちょっと興奮したような気持ちになった。
「ま、とりあえず中入ってよ。お茶くらいだすからさ・・・」
「あ・・・ありがと・・・」
そう言って日向は悠奈を家に招きいれた。
「あらぁ??ユウナちゃんっ!」
「・・・・って・・・なぁんでママがここにいるわけ!?」
入っていって、見慣れた人影を見つけ、悠奈がすっとんきょうな声を上げた。
「え?え?・・あの・・・お知り合い?」
「え?・・あぁ・・あの、ウチのコなんです」
「まあ!そうなの!アナタが詩織さんのお嬢さん!あらあら偶然!ようこそぉ〜〜」
そう言いながら、エプロン姿に後ろ髪を縛ったキレイな女性が笑顔で悠奈をハグする。
窒息しそうになりそうな悠奈を見て、日向が仲裁に入った。
「ちょっと、おかーさん。ユウナは今日はじめてウチに来たんだから!」
「なぁに、ヒナと一緒のクラスなの?あらぁ偶然ネェ!」
「?・・ねぇママ、どうして草薙くんちにいるの?」
「ウフフフ・・・コレよコレ!今回からママのネイルサロンから発行した雑誌!「簡単!おうちで快適ネイルアート!これで主婦のアナタも今日からオシャレセレブ!」この町限定の地元雑誌なんだけど、それの1回目のゲストが草薙さん所のママだったの!元・柔道オリンピック金メダリスト!宇佐美鶫(うさみつぐみ)!結婚してママになった私生活に新たなオシャレを!ってね」
ノリノリで語るママにやや冷や汗交じりの笑いを返す悠奈。
「でも、ホントに偶然!まさかネイルの実演までも打合せに来た日にお互いのお子さんが会うなんて!はじめまして、日向くん、ユウナちゃんのママの詩織って言います。よろしくねv」
笑顔で日向の顔を覗き込む詩織ママに、日向も赤くなってうつむいた。
「やぁだ、可愛いぃ〜〜〜vvなんて愛らしい顔なの!?つぐみさんの所はお嬢さんも息子さんも美男美女で、将来大変ねぇ〜〜〜」
「あら、ヤダぁ〜〜ユウナちゃんだってまるでアイドルみたいに可愛いじゃない!」
そう言ってお互いの子どもを褒め合いオホホホホと笑うママ2人。
げんなりした様子で日向は「ユウナ、二階行こ?」と自室へ誘った。
「あぁ〜〜〜〜っ!!おにいちゃんっ!」
「おぉ、萌(もえ)ただいま」
階段の上り口でばったりと可愛らしい女の子と出くわした。
草薙萌(くさなぎ・もえ)日向の妹だ。
「今から部屋に行くから・・・って・・萌?なにしてるんだ?」
萌と呼ばれた少女は、兄の言葉は聞かずに、悠奈を睨みつけると、その顔をマジマジと見つめた。
ワケもわからず迫力に押される悠奈。
(ちょっ・・・ちょっと・・ナニ?このコ?)
「おい、萌・・・」
そう日向が声をかけた瞬間だった。
「おにいちゃんの・・・・ウワキものお〜〜〜〜っ!」
そう叫んでいきなり兄に向って飛び蹴りを叩き込む萌
「いてえっ!」
「ナナちゃんだけじゃなくってこんな女の子まで・・・お兄ちゃんのバカバカバカバカバカぁ〜〜〜〜っっ!!」
そう言いながら呆気にとられる悠奈を尻目に兄をボコボコに殴る妹
「いてっ・・いていてっ!いてぇ〜〜って!おっ・・・おかぁ〜〜さぁ〜〜んっっ」
「どうしたの・・・ってコォラ!萌!」
そう言いながら駆けつけたつぐみママが萌を引き離す。
「どうしてそんな乱暴するの?お兄ちゃんがなんかしたの?」
「なにもしてねぇよ!」
「したもんっ!おにいちゃんウワキしたんだもんっ!」
「浮気??・・・・・・ああ、」
何の事かわかったつぐみママは悠奈を一瞥(いちべつ)してから、キッと萌の方に厳しい視線をつくり、メッ!という顔をする。
「お兄ちゃんはお友達を連れてきただけでしょう?なにがイヤなの?ナナちゃんと同じでしょう?」
「ちがうモンっ!ナナちゃんとは違うモン!そのオンナはちがうんだもん!おにーちゃんをタブラカス魔女なんだもん!」
(たっ・・・たぶらかすぅ〜〜〜〜っっっ・・なっ・・なんなのよこのコ〜〜〜〜っっ)
いきなりミもフタもない爆弾発言を投げかけられ、悠奈もピリピリ来た。
しかし、その直後、つぐみママの怒声があがった。
「萌!いきなりお客さまにむかって何てこと言うの!?謝りなさい!」
さすがの気の強い萌もママに叱られてビクッとなったが引き下がらず、「ママなんかキライっ!バカっ!」と叫んだ。
「ああそう、そういう態度なんだ。お客さんに失礼なコト言って謝りもしないばかりか、ママにもそんなこと言うんだ?悪い子ね。ママ悪い子はいっつもどうするんだっけ?」
そうつぐみが言った瞬間、日向の顔が青ざめた。
その日向の表情を見て、悠奈も怪訝な顔を見せた。
「しらないっしらないもんっ!ママキライっ!あっち行っちゃえっ」
「い〜え、何処にもいきませんっ!」
きゃあっ!という甲高い悲鳴が上がった次の瞬間、つぐみの正座した膝の上に、萌が組み伏せられ、あっという間にスカートをめくられ、可愛いパンツも剥ぎ取られてしまった。
(ちょっ・・・ちょっとコレって・・・!まさかっ!!)
悠奈は目の前の光景に自分も経験ある忌まわしき記憶を重ねた。
ぱ ん っ !
「きゃあぁ〜〜〜んっ!」
ぱ ち ん っ !
「あぁ〜〜〜んっ痛いっ!いたいよぉ〜〜・・・ふぇぇぇ・・・」
「痛いじゃないでしょ!?ホラ、ちゃんと謝りなさい!悠奈ちゃんにも、お兄ちゃんにも・・・」
「やだやだやだぁ〜〜〜・・だって、萌わるくないもんっ!」
ぱんっ! ぱんっ! ぺんっ! ぺんっ! ぱちんっ! ぺちんっ!
「きゃあぁっ!いやぁ〜〜っあうっ・・ひいぃぃっ・・いたぁ〜〜いっ!きゃぁうぅっ・・・」
「全然反省しないで・・・そんな事いうコはママ許してあげませんっ!メッ!メッ!悪いコ!悪いコ!」
ぺんっ! ペンッ! ぱしんっ! パシンッ! ペシンッ! ぺしーんっ! ぺんっ ぺんっ ぺーんっ!!
「ぎゃあぁ〜〜〜〜んっっ!!いだいぃぃ・・・・いたいよぉ、いたいよぉ・・・いたいっ!いちゃぁっ!いたいいたいぃ〜〜〜っいたいのぉ〜〜〜・・・・うえぇえぇ〜〜〜〜〜んっ・・・ひくっ・・びえぇぇぇ〜〜〜〜んっっ」
(うわっちゃぁ〜〜〜〜・・・・い・・・イタそぉぉ〜〜〜〜・・・ヒナタくんチもなんだぁ・・・オリシぺんぺん・・・)
悠奈は目の前で丸出しにされて叩かれ、真っ赤に腫れてる萌のお尻とぎゃんぎゃん泣きじゃくってる萌を見て、青い顔をして思わず自分のお尻を押さえた。
「まっ・・まぁまぁ、つぐみさん、それくらいで・・・・もう反省できたでしょうし・・・」
溜まらず助けに入る詩織ママ
その光景を見かね、ふぅっ。とため息をついた日向は
「ユウナ・・・あのさ、そろそろ2階の・・・オレの部屋行こう?」
「へっ?・・・うん・・・そだね・・・」
わあぁぁ〜〜〜〜〜〜んっっ いたいよぉ〜〜〜〜っ・・という萌の泣き声をBGMに、日向の部屋へと入っていった日向と悠奈。
「あのさぁ・・・」
「うん?」
「萌ちゃんって・・・いつもあんな感じ?」
「ああ、ゴメンなぁ〜〜〜・・・なんかいっつも女友達連れてくると機嫌悪くなるんだよ。それに乱暴で・・・オレなんかしょっちゅう叩かれてる。京にーちゃんが武術教えたりするから・・・・あっオレも剣術ならってるんだけどね!」
嬉しそうに語る日向に、きっと萌ちゃんもお兄ちゃん大好きなんだろうなぁ・・と悠奈は考えた。
「ところでさ・・・その・・妖精のコトなんだけど・・・」
「ああ、ビックリした・・・草薙くん・・・その・・見えてたの?」
「うん・・まぁ・・・最初はなんか飛んでるのがチラチラ見えて・・・蚊トンボかなんかかと思ったけど・・・」
「そっか・・・・レイア」
そう悠奈が声を掛けると、背後からレイアが現れた。
「うっわ!ホンモノだっ!スッゲェ〜〜〜!ゲームでしか見たことない!」
「はじめまして、ヒナタくん。グローリーグラウンドから来た、フェアリーのレイアです」
「うおぉ〜〜〜っ!しゃべってる!ホンモノだ!ホンモノ!あっ・・こちらこそ初めまして・・・草薙日向です」
「ちょっと失礼・・・・」
そう言うと、レイアは自分の服の中から、何かコンパクトのようなものを取り出した。
「?何ソレ?」
「魔力計(まりょくけい)。魔法力を測るのよ・・・」
そう言って今度はそのコンパクトを日向に向けて翳(かざ)し始める。チカチカっと青い光が見えて、「スゴイっ!」と驚くレイアそしてコンパクトをしまう。
「スゴイ、悠奈ちゃんにも負けない魔力だわ。うぅ〜〜〜ん、意外、こんなに早くセイバーチルドレン候補がみつかるなんて・・・」
「は?せいばー・・なに?」
「お願い!ヒナタくんっ!私の話を聞いて」
そう言うと、これまでのいきさつをレイアは語り始めた。
「グローリーグラウンドかぁ・・・なるほど、そんなもんがあったなんて・・」
「アタシもまだ半信半疑なんだけど・・・現にこの子がココにいるから・・・」
そう言いながら悠奈はレイアを見つめる
「ねぇ、でも草薙くん・・・ムリしなくていいよ。アタシはこの子に取り付かれた感じになっちゃったけど・・・草薙くんは・・」
「なっ・・なによ取り付かれたって・・・」
「ホントのコトでしょ?」
「いや、やる。」
「えぇ!?」
「ホント!?」
「おもしろそうじゃんっ!その世界にも行ってみたいしな!」
「マジ?」
「うん、マジ」
「きゃあぁ〜〜v助かるわぁ!ヒナタくんくらい魔力が高ければすぐに優秀な戦士になれるわぁ!」
「で・・・でもさぁ・・・草薙くん・・」
「ヒ・ナ・タ!」
「え?」
「オレの名前、クサナナギくんじゃなくって、ヒナタにしてくれよ。オレもキミのことユウナって呼びたいからさ」
悠奈は赤くなって緊張した。好きな男の子から嬉しい一言。
狂喜乱舞している胸の内を隠して、照れたように笑った。
「ようし!それじゃあ、今度はオレの秘密を教えちゃおうかな?」
「え?」
「ヒミツ?」
悠奈もレイアもキョトンとした表情を作った。
「ヒミツ・・・っていうか草薙の力・・・いいか、よく見てろよ・・・」
そう言うと日向は目を閉じて呼吸を整え、意識を集中しだし、独特の呼吸法をとった。
そして・・・・
シュボッ!という音
「きゃあっ!」
「ひっ!??」
「あははっ・・・ビックリした?」
「ちょっ・・・ちょっと・・」
「なに?今の・・・」
「コレが草薙の炎の闘気。呼吸を整えて、意識を集中して手と手を擦る!これ、剣の先からだってだせるんだぜ!京にーちゃんの炎はもっともっとスゴイんだから!」
「へぇ〜〜〜〜・・・手品かと思った・・・ヒナタくんスゴイ。」
「うぅ〜〜〜ん・・これは思わぬ戦力だわ」
レイアが意味ありげに頷いた。とそこでトントンと日向の部屋のドアがノックされた。
「ヒナ?ちょっといい?」
「?おかーさん?うん、いいよ」
ドアが開くと、そこにはつぐみと、まだグズグズ泣いている萌が抱かれて入ってきた。
「萌、さ、お兄ちゃんと悠奈ちゃんに謝って」
萌は母にすすめられるもグスグスと泣き膨れている。
「萌ちゃん、さっきのゴメンナサイはウソかな?もっとおしりぺんいる?」
そう言われるとひくっひくっと泣きながらようやく
「おにーちゃ・・・ゆうなちゃ・・・ゴメンナシャイ・・・」とつぶやいた。
「悠奈ちゃん、いいかな?」
「あ・・うん、全然気にしてないです!大丈夫ですよ!」
「そう?ゴメンネ?」
「萌ちゃん」
悠奈はママに抱かれて泣いている萌に顔を近づけて言った。
「今度は、アタシと一緒に遊ぼうねvアタシ結構ゲーム強いんだから」
悠奈の言葉に今まで泣いていた萌の顔がぱあっと明るくなり!「うんっ!」と元気に笑って返事がでた。
「ヒナ、ママとユウナちゃんのママ、まだ少しお話あるの。もうチョット待ってて、後でお茶持ってくるから」
「うん、大丈夫。な、ユウナ」
「うん。気にしないで下さい」
2人にそう言われて、つぐみは萌を連れて下に降りていった。
「ユウナ、すごいな。萌がナナミ以外であんなカオする女の子初めて見たよ」
「そう?気に入ってもらえたのかな?」
2人はそう言って顔を見合わせて笑った。
そんな時だった
「いいわねぇ・・・ノーテンキで、そんな子達が伝説のセイバーチルドレンなんて・・・」
突然窓のほうから声が聞こえた。
「なっ・・・コイツ!いつの間に!」
窓枠には、赤と紫の髪をした、赤とダンスコスチュームに身をつつんだ少女が腰掛けていた。
「おっ・・・お前・・・誰だ!?」
「ヒナタくん!この子よ!この子がさっき言った・・・・」
「アタシはダークチルドレンズのサキ・・・アナタが2人目のセイバーチルドレンね。大層な魔力らしいケド・・・いいのかなぁ?油断なんかして」
そう言ってサキが掲げたのは1つの剣の形をしたキーホルダーだった。
「ああ!それ!おとーさんにアメリカで買ってもらったヤツ!」
「ウフフ・・・・取替えして欲しければ・・・ついてきなっ!」
サキがその一言を最後に窓から飛び降りる。そのままコスチュームを靡かせ屋根から地上へと降り立つ。
程なく姿が見えなくなる。
「あんのヤロっ!まてぇーーーーっ!!」
「ちょっ・・・ちょっとヒナタくん!」
「ユウナちゃん!私達も追うわよ!」
慌てて玄関に走る日向を追って、悠奈も駆け出した。
「?・・・あっ!ヒナっ!?ちょっとこんな時間にドコいくの!?待ちなさいっ!」
「あら!?ちょっとユウナちゃん!?」
引き止める母の声に少し後ろめたさを感じながら、悠奈は日向を追った。
着いたのは日向の家から程近い公園だった。
日向の目の前にサキと呼ばれた少女が佇んでいた。
「コノヤロー・・・人の物勝手に取っちゃいけないって学校で教わらなかったのか?」
「知らないわねそんな事・・・」
「それを返せ!」
突っ掛かる日向、しかし・・・
「バカね・・・ファイアボールっ!」
「うわあぁっ!?」
いきなり、少女の手の内から光りが発し、火の玉が自分めがけて飛んできた。何とかかわすが、背後の遊具から煙が上がっている。
日向は驚きに眼を見開いた。
草薙の力ではない、ではコレはなんだ?考える。
「これが・・・魔法・・・・?」
「ヒナタくん!!」
背後から飛ぶ声、悠奈だ。
「ユウナ!」
「現れたわねセイバーチルドレン!」
「ユウナちゃん、変身よ!!」
「・・・・・うんっ!」
悠奈が持っていたケータイを天に翳す。
日向の見ている前で、悠奈の体が光に包まれた。
「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」
光りの中、日向は確かに見た、悠奈の姿が桃色に輝き、頭髪が変わり、そして服が白とピンクを基調としたダンスコスチュームに変わる瞬間を。
光りの中から、輝く少女が現れた。
「輝くひとすじの希望の光、セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「・・・・これが・・・セイバーチルドレン・・・」
「ヒナタくん!下がってて!」
「フフンッ!バーカ。まんまと乗せられたわね・・・。さあ、出ておいで!召喚モンスター・ジャイアントバット!」
そう叫んだサキの水晶から、巨大なコウモリの怪物が現れた。
「ゲゲェ!?なっ・・・何よアレぇ!」
「しまった・・・まさか召喚玉を使うなんて・・・・ユウナちゃん気をつけて!あのモンスター・・・人食べるわよ・・・」
「たっ・・・食べるぅ〜〜!?うそぉ!?」
日向は目の前の光景に歯噛みした。
何も出来ない・・・悠奈が、友達がピンチなのに・・・
(・・・せめて・・・剣があれば・・ああもうっ!木刀もってくるんだった!)
「お願いヒナタくん!キミの力を貸して!キミの力が必要なの!」
レイアが日向に言う
「でも・・・オレ・・・」
「大丈夫!魔力は夢見る心と愛する心・・・・ヒナタくんが・・・夢を捨てなければ、ユウナちゃんを助けたいと心から願えば!」
「こころから・・・願う?」
その時、突然日向の持っていた携帯電話が光り輝いた。
「!?・・きゃっ・・・ひっ・・・ヒナタくん!?」
「こっ・・・これは?・・・まさか!?あっ!?・・ああっ!さっきのキーホルダーが!?」
その光に呼応するかのようにさっき日向から奪ったキーホルダーが光輝き、サキの手元から日向の方へ飛んでいく。
「さあ!信じて!ヒナタくん!」
「・・・・シャイニングスパーク・トランスフォーム!!」
その瞬間、日向の体が閃光とともに炎に包まれた。
炎の中で、日向の服は赤とオレンジを基調にした着物のような戦闘服に変わり、そして、キーホルダーは炎に包まれたかと思うと、日向の手元で日本刀のような刀剣へと変わった。
「情熱迸(ほとば)る勇気の炎・・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!!」
日向が、光の中から勇者として誕生した。
「ひっ・・ヒナタくん・・・」
輝く炎の中から生まれた新しい戦士に、ユウナは眼を奪われた。
そして、サキと呼ばれた少女も、新しいセイバーチルドレンの誕生に驚き、戸惑っていた。
「新しい・・・セイバーチルドレン・・・本当にアイツが・・」
「スゴイ!スゴイわヒナタくんっ!アナタが2人目の戦士だなんて!やっぱり私の目に間違いはなかった!」
興奮するレイア。そのレイアを見ながら、日向は今度は自分の変身した姿形をまじまじと見つめた。
「お・・・オレが・・・本当に?」
オレンジ色の着物とジャケットを合わせたような戦闘服、真っ赤なヘッドギアに真っ赤なジャケット、そしてたっぷりとした袂(たもと)のついたオレンジの和風の上着。
正に、ファンタジーゲームに出てくる侍戦士のようだった。
「くぅっ・・それがどうした!さあっ!やっちゃいなジャイアントバットども!」
少女がそう叫ぶと、コウモリの化け物は3、4体、こぞってまずわ悠奈に襲い掛かってきた。
「きゃあっ!」
「ユウナちゃんっ!おねがいっ!ヒナタくんっ!ユウナちゃんを助けてあげてっ」
「ユウナを・・・・そうだっ!ユウナっ!」
日向はそう叫ぶと、手にした刀剣を握り締めて、コウモリの化け物に向っていった。
「バ〜カ!アンタみたいな戦士になり立ての半人前が・・・グローリーグラウンドのモンスターに勝てると思ってるの!?ジャイアントバット!そいつに噛み付いてやりなッ」
「キキイッ!」と吼えてジャイアントバットが鋭い牙を剥いて日向に襲い掛かる。しかし、剣を手にしていた日向はまるで動きが違った。
「でぇいっ!」
「ギャアァウゥッッ!」
「テヤアっ!!」
「ギョエエェッッ」
翼を翻(ひるがえ)して襲い来るコウモリの群れを、日向は慣れたステップでかわしつつ、剣をまるで手足のように使い、次々とコウモリの化け物を斬り裂いた。
その動きは華麗、という形容が正しく、魔物をけし掛けたサキでさへ、思わず見入るほどだった。
(かっ・・・軽い・・・この刀スッゲエっ!木刀より軽い。まるで、まるでオモチャの剣みたいに・・・)
「だあぁりゃあぁーーーーーっっ!」
4体目の魔物を威勢良く斬り捨てる。
正義の刃に切り裂かれた魔物は断末魔の叫びを上げて地に倒れ、やがて魔物全てが、光の中に消えて、小さな宝石を残して消滅した。
「くっ・・・くそぉっ!こうなればもう一度・・・・」
「おっとそうは行くか!」
再び水晶を掲げようとしたサキの手元に向って、日向は独特の深呼吸をすると、剣を真横に薙ぎ払った。
「草薙流・百八式・闇払い!(くさなぎりゅう・ひゃくはちしき・やみばらい)」
その瞬間、剣の先から炎が迸り、地を疾駆して舞い上がると、サキの手元の水晶をバシイッと弾き飛ばした。
「きゃあぁっ!」
悲鳴を上げて蹲るサキ。
「ちっ・・ちくしょうっ!」
「今よユウナちゃんっ!ロッドを構えて、シャイン・ハートフラッシュ!と叫んで!」
「えっ!?なっ・・・なに!?」
「いいから早く!」
「ああもうっ!いつもいつも人が混乱してる時に!」
悠奈は半ばヤケクソ混じりでロッドをサキに向けると、唱える。
口から、またしても自然と意味不明の呪文が並び発された。
「悪いパワーは聖なる光で飛んで行け!シャイン・ハートフラーッシュ!」
ロッドの先からピンク色に光り輝くハート型の閃光が飛び出した。
その光がサキの持っていた水晶を包み込み、シュオオォっと、あっという間に消滅させた。
「なっ・・・なに?今のファンシーなハート型の光!!イヤーーーっアタシのキャラじゃな〜〜いっ!」
頭を抱えて困惑する悠奈をサキは苦虫を噛み潰した眼で見る。
「今日は・・・・コレくらいで引き上げてあげる!」
すると、少女は懐からいきなりボールのようなものを取り出して、地面に投げた。
すると、そこから空間が生まれる。
「だけど、覚えてなさいっ!今度会った時は、アナタたちの魔力も、そしてレイア・フラウハート、お前の身柄も頂くからね!」
「まっ・・・待て!
日向が叫んだが、その直後には、少女の姿はホールに飲み込まれ、消えていた。
「ヒナタくん、ありがと!」
「いや、なんていうか・・・ビックリしてるよ、オレも。ユウナも変身しちゃってさ・・・まさかオレもなんて」
サキが去った公園で、変身が解けた2人は、お互いに語り合っていた。
「これで、戦士が2人になったわ!残るはあと10人!」
「ええぇ!?」
「10人!?オレらのほかにまだヘンシンしちゃうヒーローみたいなヤツラが10人もいるの!?」
「そうよ!だから2人にはがんばって残りの戦士を探してもらわないと!」
嬉しそうに語るレイアの言葉に、2人はガックリと肩を落としたが、顔を見合わせると、笑みがこぼれてきた。
「ん?そんなことより・・ああっ!?」
「え?」
「たっ・・・タイヘンだぁ!?今何時?」
「・・・今って・・げっ!もう6時半!?」
「ヤッベ〜〜〜ッ!いそいで帰らないと・・・お・・おかーさんに殺される・・・。」
突然、現実に引き戻された2人、家への道をとにかくひた走った。
「こらあ!いきなり出て行ったと思ったら・・・こんな時間までドコに行ってたの!?」
当然の雷。
つぐみママの剣幕にビクッと縮こまる悠奈と日向。
「ユウナちゃんも!いったいドコまで行ってたの!?」
「ひぇぇぇ・・・ゴメンなさい・・・」
悠奈も半泣きになる、そうだった、今日ヒナタくんの家にはママもいるんだった。
悠奈は恨めしそうな顔でレイアを睨み、レイアは「えっ!?今日もアタシのせい!?」という表情で必死にボディー弁解した。
「ヒナ・・・ママいつも帰りは何時って言ってる?」
「あ・・あの・・・6時?」
「遅くなるときは連絡しなさいって言ってるでしょ!それなのにいきなり出て行ってこんなに遅くまで・・・心配すると思わないの!?」
「だっ・・・だってソレはっっ」
「?それは?なぁに?なにか理由があるの?」
「オレ・・今まで・・・」
「ダメっヒナタくん!」
「はっ!?」
突然割り込んできたレイアに日向は怪訝な顔をする。
「ヒナタくんが戦士だってことは・・・みんなのパパやママには内緒なの!」
「えっ・・えぇぇ??じゃ・・・じゃあ・・」
「あ・・・あのぉ・・・悪いけど・・・・おとなしく叱られてっ!」
「そっ・・そんなぁぁ・・・・」
「なに?誰としゃべってるの?ヒナ」
「あっ・・・イヤ・・・なんでも・・・・」
「ハァ・・・・しょうがないわね。ヒナ、ほら、お尻出してコッチいらっしゃい」
「えええぇっ!?なっ・・なんでぇっ!?」
突然ソファに移動して言うつぐみに日向が非難の声を上げる。
「ダメだってわかってやったんでしょ!?ユウナちゃんまで巻き込んで・・・そんな悪い子はオシリぺんぺんです!」
「だっ・・・だって、まだユウナがここにっ・・」
「だからなに!?悪いことしてまだ言い逃れようとするの!?ホントにアンタってコはっっ」
半泣きで抵抗する日向をむんずっ!と掴み上げると、つぐみママはソファに座ってその上で日向を組み伏した。
「やっ・・・やだっ!ヤダヤダヤダッ!おかーさんっやだよぉっ!」
「ヤダじゃないでしょ!?まったく・・・詩織さん、今日のコトは一方的にヒナが悪いみたいなんで・・・ユウナちゃんのコト、叱らないでくださいね」
そう悠奈たちの方を見て言うと、つぐみママは日向のズボンとパンツを膝辺りまで下げ高々と手を上げて、日向の丸出しになったお尻に叩きつけた。
ぱ し ぃ 〜〜〜 ん っ !
「ぎゃっ!」
ぺ し ぃ 〜〜〜 ん っ !
「ひいぃっ・・いぃってえぇ〜〜〜っ!!」
ぱちんっ! ぺちんっ! バシッ! ピシィンッ!
「あぎぃっ・・ちょっ・・・イタッイタイッ! いたいってぇ〜〜〜っ!おかぁ・・・さ・・・」
「痛いじゃないでしょ!?どぉして悪いコしたときにも素直に謝れないの!?アンタも萌も!そんなのダメなのよ!?メッ!めっ!悪いコ!ホラ、悪いコ!」
ぱしんっ! ぺしんっ! ぺんっぺんっ!! ぱんっ!ぱんっ!!
「うっく・・いたぁ・・・ひぃっ・・・いたいぃっ・・・あぎゃっ・・ぎゃあぁんっ!」
母の服を掴んで必死に泣かないように耐えようとする日向。
しかし、もうお尻は赤く染まっていて、所々に真紅の手形がくっきり・・・悠奈も顔を覆い、時折真っ青な顔で自分のお尻を押さえる。
(ひっ・・・ヒナタくん・・・かわいそぉ・・・オシリ・・ちょぉ〜イタソウ・・・)
日向も頑張ったが、やっぱり痛い痛い、ママの手の平・・・涙が後から後から溢れて、ぽろぽろぽろぽろ、とソファの下の絨毯を濡らした・・
「反省しなさいっ!ヒナ!」
パ ッ シ ィ 〜〜〜〜 ン ッッ !!!
「うわぁ〜〜〜んっ・・・ひくっ・・・わぁぁ〜〜〜〜んっっ」
あまりの痛さについに泣いてしまう日向。
その日向に容赦せずに続けざまに
ぱんっぱんっ! パンッパンッパァンっ!!と手を落とすつぐみ。
「ゴメンなさいっ!心配かけてゴメンなさぁぁ〜〜〜いっ!もぉ・・・しませんっ!ママとのお約束も守るからぁ・・・ママ・・も・・許してよぉ・・・えぇぇ〜〜〜ん・・・えぇ〜〜〜んっっ・・・・」
その言葉を聞いて、つぐみはフウっと息をついて、泣きじゃくっている日向を膝に座らせた。
「ヒナ、よく言えました。イイコイイコ」
「ふえぇっ・・・ぐしゅっ・・・ひくっ・・・ゴメンなさい・・ゴメンなさい・・・・」
「うん、大丈夫、もうママ怒ってないからね。よしよし、もぉ泣かなくても大丈夫」
悠奈はママに甘える日向を見て心底思った。
(かっ・・・かっ・・・・くぁわいぃぃ〜〜〜vvvvヒナタくん叱られるとああなっちゃうんだ。激カワvv)
悠奈、自身が少しヤバイ路線に入っていることをまだ自覚なし。
この日は色々あって、そのまま日向の家に悠奈の家族を呼んで懇親会が行われた。
お互いの家族も意気投合し、すっかり仲良し。
悠奈の父、俊介と日向の父、蒼司(そうじ)も以前から面識があったらしく萌と妹のユウカもすっかり仲良くなった。
戦士の仲間と一緒に、悠奈にはまた1つかけがえの無い友達だできたのだった。
残る戦士はレイアいわくあと10人
先はながそうだ・・・。
つ づ く