「フォースクリスタルの1つが見つかった!?」

「そう!そうなのよユウナちゃん!やっと見つけたの!」

「・・・なんだっけ?フォースクリスタルって?」


そう何の気なしに答える目の前の悠奈に、レイアは空中でズコーっとコケた。


「もう!ユウナちゃん!」
「しょーがないでしょ!だって忘れちゃったんだから!」

「開き直りやがった・・・」


そしてすぐ傍でユウナの何が悪い!?という態度に、今度はイーファが冷や汗混じりに言葉をもらす。そのやりとりを尻目に、今度は日向がレイアに向かってこう聞いた。


「・・・確か、グローリーグラウンドの魔力を全部吸い取っちゃう・・・アイテム?みたいなモノだったっけ?」

「そう!ヒナタくんさすが!頼りになるぅ〜v」

そう言って小さな手で自分の体より遥かに大きい日向の頭を撫でるレイアに日向は微妙な雰囲気で笑った。


所はJTスポーツクラブ内の談話室、そこの人気のない一角。
愛澤悠奈とグローリーグラウンドのフェアリーレイア、そしてセイバーチルドレンズの他のメンバーの草薙日向と煌窈狼、彼らのパートナーであるフェアリーのイーファとユエが、そこでグローリーグラウンドで起こった1つの事態の展開について話し合っている最中だった。


「・・で、でさ、その、フォースクリスタル・・ってのが、見つかったのか?」

「うん!ゼルさんたちのおかげなんだぁ〜、封印されているありかがわかったの!」

と、今度は日向に乗じるように問いかけて来た窈狼に、レイアがそう答える。
彼女はエッヘンとまるで自らの手柄であるかのように胸を反らして威張りながら悠奈たちの周りをくるくると回りながら飛ぶと、彼らの真ん中でピタっととまり、そして見回しながら言った。


「場所は、王都レインヴァードから東に進んだ大きな滝があるリッツロックの神殿。そこにあるらしいの」

「・・・って言われてもわかんないしあたしら!」

「もぉう、せっかちだなぁ〜ユウナちゃんは、心配ないの!ちゃんとゼルさんたちがゲートの場所を準備してくれてるわよぉ、そこからゲートを通って行けば目的地まで一直線よ。そのゲートがある場所はココ!聖星町西・神楽神社(せいじょうちょうにし・かぐらじんじゃ)の奥にある神鳥池って場所」




「「かんどりいけぇ!!??」」

と、レイアの言葉に日向と窈狼は2人同時に揃ってそう大げさなまでに反応した。
レイアだけでなく悠奈までその反応に驚き、2人に問い質した。


「ど、どうしたの?2人とも、その・・・なんとかって池、知ってるの?」

「いや、知ってるって言うか・・・」
「ああ、その池がある近くの神社って・・・・ナナミのおばあちゃんの神社だもんな・・・」

「え?ええ!?・・ウソ!?」
「ホント!?ヒナタくん!」

「う・・うん、間違いないよ。オレも何回もその神社行ったコトあるし・・・」
「でも、それだったら逆にチャンスじゃんか!ダークチルドレンズに知られる前にそのフォースクリスタルっていうのを先にオレたちが壊しちゃえば・・・」

「そっか!グローリーグラウンドの平和に一歩近づくってコトだな!」
「ヤオランナイス!さっそくオイラたちだけで行っちゃおう!」
「うんうん!それナイスアイデア!ね?行こうユウナちゃん!」


と、フェアリーたちみんなが窈狼の提案した案に同音しようと正にした時だった。

「みんなちょっと待って、うかつになんでも動いてしまうのはキケンだわ」

と、七海のパートナーフェアリーであるウェンディがそう言った。
いきなり慎重な意見を言われてみんなが思わず彼女の方へ振り向く。


「ウェンディ・・?」

「なんでだよ!?敵が気付いてない今がチャンスじゃねえか!」

「気づいてないとは言い切れないじゃない!もし、敵がわたし達のこと待ち伏せていたら・・・チャンスどころか逆にピンチよ」

ウェンディの顔がいつになく真剣であるのを見て取って、それまでイケイケのムードだった場の空気がシーンと静まった。

「そ・・・そう・・だよねぇ〜・・ハハ、ウェンディの言うとおり、もしあのダークチルドレンズの罠だったりしたら、ヤバイじゃん?ここは1つ、れーせーに、ね?みんな」
「ユウナちゃん・・・」

そのウェンディの声に突然同意するようにそんなコトを言いだした悠奈に、レイアは面白くない顔を向けた。

イリーナの手前ああは言ったが、悠奈としてはやっぱりキケンで危ない、そして面倒臭い事態にはなるたけ巻き込まれたくはない。コワイ事はできるならゴメンだ。
クール&ビューティーでカッコイイ、スーパー小学生ユウナちゃんの実は人一倍ビビリな心根は変わっていない。
しかし、ウェンディだけでなく悠奈もそう言いだしたことによって、それまで乗り気だったイーファやユエも、「やっぱりそうかなぁ?」というような面持ちで考え込みだしたので、ここがチャンスと悠奈は日向に向かって言った。

「ね?ヒナタくん、いぃ〜っぱいモンスターとか、呼び寄せられて待ち伏せされたらさすがにヤバイしさ・・・」

「う〜〜ん・・・わかったよ。とりあえず、ナナミが帰って来てからみんなで決めよう。グローリーグラウンドに行くんだとしたら、一応ヒカルちゃんたちにも声かけときたいしさ」

と、日向が悠奈と、そしてウェンディの提案にしばらく考えてから同意したことに、2人ともホッとしたような顔を見せた。
窈狼とユエはしかたないか。というようにうなづいたが、イーファとレイアは「せっかくのチャンスなのにぃ!」「オメーらいくじがないぜ!」と不満そうにそう漏らした。


と、そこで悠奈は気が付いた。


「・・・アレ?そう言えばナナミは?」

七海の姿がない。
いや、そもそも下校の時、いつもなら日向と一緒にならんで帰っていると必ずと言っていいほど横から怒って割り込んでくるハズなのにそれすらなかった。
一体どうしたというのだろうか?


「ナナミなら今日はテストだよ」

「?は?・・てすとぉ?」

「そ、ココで毎週土曜に習ってるフィギュアスケートのクラスアップテストがあるんだってさ」

「?・・・フィギュアスケート?習ってる?ダレが?」

「だからナナミ」


その答えに日向と窈狼、そしてウェンディ以外のその場の人間妖精のすべてが「ええぇ〜〜〜っっ!?」と仰天した。


「ナナミってフィギュアやってたの!?」
「スゴォ〜イっ!フィギュアスケートって、あの氷の上でクルクル回ったり、飛んだりするアレでしょお!?ユウナちゃんのパパの雑誌とかテレビで見たことある!」
「それをナナミがやってるのか?」
「えっと・・・オイラよくわかんないんだけど、それってスゴイの?いや、スゴイんだな!」


口々に感嘆の声を上げる面々、普段は憎まれ口を叩きあいながら七海と何かと張り合っている悠奈もこの事実には驚いた。
スポーツ記者のパパをもつ悠奈のこと、フィギュアスケートというものがどういったモノなのか雑誌で、テレビである程度理解しているつもりだ。
その難しさもわかる。
以前に、家族で冬の時期に行った屋外スポーツ遊園地で悠奈もパパやママと一緒にスケートを楽しんが事があるが、1時間粘ってようやく氷の上をそろりそろりと移動することが出来るようになったくらいで、飛んだり回ってみたりなど毛頭できなかった。
それを七海が習っている。
というコトは七海はテレビでよく見るああいった離れ業が出来たりするのだろうか?
と、悠奈は先程から聞いていたクリスタルの話よりもこちらの方に興味が湧いてきた。



「ね・・ねえ?ナナミってさ、今、ココにいるの?」

「え?うん、いると思うよ。フィギュアのリンク場の方に・・・」

「ちょっとさあ、見に・・・行ってみない?ヒナタくん」

「え?どうして?ユウナ見たいの?」

「い・・いや、見たいってわけじゃないんだけどさあ・・なんか・・気になるっていうか・・・」

「でも、テストの演技って、覗いていいのかなぁ?フィギュア習ってる同じ練習生ならともかく・・・オレ達って別にフィギュアやってるわけじゃないし・・・それにどーせつまんないよ?」

「そ・・・そう・・・」

日向にそう言われて、ちょっとスケートをやっている七海を見てみたいと思っていた悠奈はちょっとザンネン、と思ったが、日向がそう言うならそれでいいか。とすんなり引き下がることにした。しかし、このひなたの言葉に熱く反論したのが・・・


「なんだよヒナタ!いーじゃねーかよ!ユウナは観たいって言ってんだから観に行けばさ!だろ?ユウナ」


そう彼、煌窈狼である。
彼は鼻息荒く日向をギロリと睨み付けると、悠奈の方を振り向き、ウンウンとうなづいて再度日向に食って掛かった。

「そーやって自分の考えとか押し付けようとするのってよくねーだろヒナタ!みんなお前と違う意見とか考えとかあるかもしれないんだからさ」

「な、なんだよいきなり・・・オレはただ、覗いていいのかどうなのかわかんないから、ヘタに覗き見して怒られるのもイヤだし、そう言っただけで・・・」

「それが決めつけじゃねーかよ!勝手だって言ってんの!」

「べ・・・別に決めつけたワケじゃ・・・なに怒ってんだよヤオラン・・」

「ユウナだって見たいんだよな!?な?」

「え!?・・いや・・・あたしは・・その・・・」

「見たいんだよな!?」

「え・・・えっと・・・・ハイ・・・」

と、日向の反応で、ヒナタくんがそう言うなら別にいいや。と思いかけていた悠奈に、窈狼が突然迫力満点で迫ったことによって、悠奈は思わず彼に同意してしまった。
しかしいきなりどうしたのだろうか?こんなに感情的になっている窈狼を見るのは初めてか?
出会ったばかりの頃、日向を敵視して喧嘩を吹っ掛けていたいた時はそうだったかもしれないがとにかく珍しい。


「ホラ見ろ!ユウナだってそう言ってるじゃんか!ちょっとくらい大丈夫だって、別に覗くわけじゃないし、キチンとアリーナに入って見学しようぜ!」

「アリーナに入るって・・・オレ達練習生でもないのにそんな簡単に入れるのか?」

「入れる!ママにお願いしてココのプレミアパスもらった!」



「「・・・え??」」


「・・・あ・・・」


と、咄嗟にそう答えた窈狼、いいながら差し出した彼の手の中には金色に輝く、会員限定の年間フリーパスが握られていた。
それさえあれば、有効期限の間、JTスポーツクラブの施設やスポーツ講習をすべて受けられるのだ。
しかし、その言葉の内容に悠奈も日向も、そして窈狼自身も眼を点にして互いを見合って固まった。



「・・・・ママにお願いしてもらった・・ってヤオラン・・おまえ、おかーさんにそんなコト頼んだのか?」
「ウソ・・・ホント?なんで?」

「べっ・・べべっ・・べつに!いいだろ?のっ・・覗きたいとかそんなんじゃないからな!ただ・・ヒカルくんもレイくんもみんなこのジムに通ってるし・・・あ・・あったら便利かな?と思っただけだよ!ホラ、行こうぜ!早く早く!」


窈狼はそうなにか誤魔化すようにまくし立てると、2人を行こう行こうとしきりに急き立て、彼自身はもう七海のいるフィギュアの練習ホールまで駆け出していた。
そのすがたにただひたすら呆然と呆気にとられる2人。


「・・・アイツ、ただ単にナナミがフィギュアやってるトコ見たいだけなんじゃ・・・」
「え!?・・そ・・そうなの?」
「多分・・・」

「なんなんだそりゃあ?」
「あ、ほらぁ、ヤオランってナナミのコト好きだから」


と、そんなコトを言いながら、イーファもレイアも、みんな結局窈狼の後を追うことにした。






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「ハイ!カーット!そこまで!いいねえサキちゃん、さっきのリハ、最高だったよぉ〜vこの調子で本番も頼むよ。お疲れ!」
「お疲れ様です・・」


音響ホール内に響き渡るディレクターの声。
自分をねぎらってくれている言葉だが、今の彼女には耳障りな騒音にしか受け取れず、味気ない返事をするのもそこそこに、ダークチルドレンズのリーダー、サキはそう言ってレコーディングスタジオを足早に出た。



「あれがウワサのウィザーディア芸能プロダクションの超新星アイドル、夢魔サキ・・・か」
「すっかり大御所気取りで大層なご身分で、見たかよ今の返事の仕方?こっちの方見向きもしねえで・・・」
「人間性に大いに問題アリ・・か。へっ・・まあ今のガキにゃあ多い傾向だがよ」


自分に対するスタッフのそんなあざけりの言葉を背に受けながら、それを気にそうともせずにサキは自分の控え室へと向う。

いくらでも言うがいい、貶すがいい。

だが今に見ていろ。エミリーさまが大いなる魔力を手に復活した暁には、グローリーグラウンドはおろかお前たちの住むこの世界もすべて自分たちが手中に治めてやる。
そう自分に言い聞かせながら部屋に戻った彼女を待っていたマネージャーの藤崎が、そんなサキの様子を見て苦笑しながら声をかけた。



「どうしたの?そのカオ、スタッフに何言われたってそんな表情見せちゃアイドル失格よ。もっとプロとして大きくならなきゃ」

「藤崎さんには関係ないわ」

そんなつっけんどんなセリフを返して、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して一気に飲み干すサキにやれやれと言った感じでタオルを渡す藤崎。
今日に限らず、最近はいつも何かと不機嫌だ。

「この業界じゃ新人のアイドルはそんな扱い至る所で受けるわ。サキは特に、歌もダンスもなんでもそつなく上手にこなすからやっかまれやすいのよ。イチイチ気にしないの」

「そんなコト気にしてんじゃないわ!」

「あら?他に何か気になるコトでも?」

と、不意に質問を返されて、サキは押し黙ってしまう。
考えていた。
藤崎はいい人だ。マネージャーとして自分の世話を色々と焼いてくれて、おかげでこちらの世界での仮の姿であるアイドル業にもある程度ハリと目標をもって望めている。
だが、エミリーの目的に同調してるかと聞かれれば、懐疑的と言わざるを得ない。
まだ100%味方と決まったワケでない、付き合ってそれほど時間がたっているワケでもないこの人を信用していいものか?
まだ彼女の中には不安があった。
そんなサキの心情を知ってか知らずか、藤崎はフウと軽くタメ息をつくと、自らのスマホに手を伸ばし、今後の予定を確認しながらこんなコトを言った。



「・・・どうせまたあのグローリーグラウンドとかいう世界のコトとかエミリーさんのこと考えてたんでしょう?話には聞いてるケド・・・魔法とかいうものがホントに仕えるらしくて中々便利な世界みたいね。でも、あくまでもコッチの世界にいるときはコッチのコトに集中してちょうだい。魔法が使えるようになるよりも、今の時代この業界で一刻も早く売れてブレイクして、そして長く顔を覚えておいてもらう方がはるかに大事よ。アンタにはそれだけの才能があるんだから」

「・・・・・」

「ちょっと、聞いてるの?サキ・・」

「ゴメン藤崎さん、ちょっと1人にして・・・外の空気にあたってくる」

「あ!ちょっと、待ちなさいっサキっ!」


止めようとする藤崎の言葉はサキの意思を制止させるにはあまりにも頼りなく、まだ続けようとした彼女から逃げ去るようにサキはやや乱暴にドアを開けると出て行ってしまう。そんな背に藤崎は「もう・・・っ」と不満気に呟く事しかできなかった。



(藤崎さんにはお世話になってるケド・・・やっぱりあの人にはグローリーグラウンドのコトなんて頭の中にまるっきりない。エミリーさまの理想郷を創り上げるには、やっぱりアタシがなんとかしなきゃ!)



肩を怒らせて殆ど駆け足に近い状態で屋上へと向かうサキ、そんな彼女を物陰からじっと見る目があったことを、まだこの時彼女は知らなかった。




(・・・・あのコ・・・)




屋上へと着いたサキは早速、自身のスマホを取り出すと、それを素早くタップして連絡を取った。
しかし、タップしてすぐさま、スマートフォンを握っていない方の手で短くなにやら印のようなものを切ったかと思うと、「ア・ルケ・ホーマ」と呪文を唱えた。
するとすぐさまスマートフォンが光り輝き、空中にビジョンが映し出された。
これが彼女達にエミリーから与えられた彼女達、ダークチルドレンズ専用の通信機器、ウィザーズモバイルである。
見た目は現実地上世界の携帯電話、スマートフォンと変わらない見た目だが、魔力を有した呪文で機能を開封してからでないと効力を発揮しない、一般人には扱えない代物。
つまり、運悪く落としたりしてしまっても、拾った人間には間違っても使えない、よって利用されるような心配もないのである。

しかし、連絡を取ろうと正にサキが指を走らせたとき、彼女の意志より先にスマホらしきそのアイテムが光り輝き、独特の電子メロディが鳴りだしたのだ。
一体何事か?サキは即座に応答のボタンをタップすると、空中にビジョンが映し出され、そこにいつも顔を合わせている桃色の髪の少女が現れた。


{サキ!アンタいまどこにいるの?}

「ジュナ、どうしたのよそんなに慌てて、今?仕事よ。ウィザーディア社の芸能スタジオ」

{すぐに戻って!リッツロックのフォースクリスタルが敵に感知されたみたい!}

「!・・そう・・・わかった。すぐに動ける人間集めて。それとエミリーさまにも連絡よ!」


それだけ伝え終わると、サキは電話を切った。
スマホを仕舞いながら、屋上で虚空を見つめる彼女の瞳は、仇敵を睨み付けるかの如くにギラついていた。






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「ハイ、いいでしょう。頑張ったわね。しのさん、それでは、次は・・七海さんね。香坂七海さん前へ」

「はいはーい!次ウチやんなぁ〜、よーし、ナナちゃんやったんでぇーっ♪」


夏でもコートを着込まなければ寒いくらいのスケートリンクで、名前を呼ばれた赤髪の少女、香坂七海は手を上げて元気よく振りながら、コーチの女性のもとまで駆けて来た。
ニッコリ笑いながら1、2、と軽く関節を伸ばす準備運動をする彼女に、他の練習生から「ナナミちゃんファイトーっ!」「ガンバレー♪」といった明るい激励の言葉が飛ぶ。
その声援にどもども♪とおどけて答える彼女に、コーチは少々呆れ笑いしながらこう言う。


「七海さん、元気なのは結構だけど、これはちゃんとしたクラスアップの試験なんですからね?気を引き締めないとダメよ?」

「わかってますって!センセ!ほな!」

言われたところでどこ吹く風。
ともすれば完全に調子に乗って油断しているともとれない態度の七海、あっけらかんとした様子で一度リンクを見渡すと、軽く息を吐いて呼吸を整えた。




「あ!アレって、ナナミじゃない?」

「ホントだ!今滑り始めるところなのかな?」

「間に合った・・・ホ・・」


ちょうどアリーナの中に入った途端に七海の試験が始まるところだった悠奈たちは皆三者三様の声を漏らす。
窈狼のあまりにも個人的感情の入ったセリフはこの度は誰も聞いていなかった。
今、まさに見学用の座席に立ち入ったところで氷の上を七海が滑走した。
いつもの雰囲気と違って見えるのは彼女が単に練習着のフィギュアスケート用コスチュームを身に纏っているだけだからではないだろう。
もちろん、ブルーの美しいラメが散りばめられ、普段とは違ってポニーテールに纏められた赤髪も彼女の姿をより華やかに誇張している。
しかし、何より彼女をいつもと別の人間のように見せているのはその演技であろう。

それはまるで水中を人魚が優雅気ままに泳ぐかのようだった。
手足を伸ばす角度、ステップの足位置、制度。どれをとっても悠奈のような素人の目にさえ他の生徒とレベルの次元が明らかに2回りは違う滑り。
その見事さに自分が思わず見とれてしまっていることにさえ、悠奈は気づかなかった。


「・・・スゴイ・・・」

「へぇ〜・・・久しぶりにナナミがフィギュアやってるトコ見たけど、こりゃあ・・・」

「へへん!どうだ?スゴイだろ!ナナミのヤツ!」
「な・・なんでお前が偉そうなんだよ、ヤオラン・・」


「へぇ〜、あれがフィギュアスケートってヤツか・・初めて見たけどキレイな踊りだなぁ〜」
「ふあぁ〜・・・ナナちゃん・・・あんなにキレイに、スゴイねユウナちゃん!」

「え?・・・あ・・ああ、ま・・まあ、習ってるんだし・・あのくらいできて当然なんじゃーん?」

と、いつものクール&スタイリッシュなコメントでレイアの意見をはぐらかした悠奈だったが、心境は七海の絶技に舌を巻いていた。

(ホントにスゴイ、ナナミ・・・テレビに出てる人たちみたい・・・)

氷の上を華麗に舞う七海、極めつけは最後に放ったフィギュアスケートの醍醐味とも呼ばれる美技だった。


「・・そぉ・・れっと!」


「・・うわ・・」

「おおっ」
「よっしゃ!決まった!」

『きゃぁーーーvv!』 『さっすが七海ちゃん!』 『香坂さんスゴぉーい!』


それは七海の渾身のパフォーマンスにおくられた歓声だった。
練習生の生徒の中には早くもスタンディングオベーションに転じている者までいる。
それほどまでに七海が今披露した技は普通の小学生ではまずお目にかかれない、高難易度の技だったからだ。



「い・・今のって?」
「スッゲエだろ?今のがトリプルトゥーループとダブルアクセルってヤツさ。日本中の小学3年生であのコンビネーションジャンプがあんなにキレイに飛べるのは多分ナナミだけだぜ」
「ああいうのは上手にこなすんだよなー、ナナミって」

「どう?ナナちゃんなかなかスゴイでしょ?」

「!あー・・ビックリした。ウェンディか」


と、客席で口々に七海の演技について語っていた悠奈たちのもとにふとウェンディが現れた。
彼女の周りにレイアやイーファ、ユエも集まって行く。


「ヤオランくんよく知ってたわね、今のナナちゃんのジャンプ。わたしもコッチの世界でヴァネッサ先生に聞いて初めて知ったのよ」

「へっへっへ!芸能人の息子をナメんなよ!スポーツ関係や今の芸能界のことなんか大抵のコトはこのヤオランさまに聞いてもらえりゃわかるぜ!」

「でも、スゴイのはヤオランじゃなくってヤオランのパパやママだよね。オイラ知ってるよ」

「うっ・・うるさいなユエ!今そーゆーコト言わなくっていいんだよ・・・」


そんな2人のやりとりを微笑ましくも失笑すると、ウェンディはちょっと真面目な顔つきになって悠奈たちに言った。


「どうしてココに来たのかはわかってるわ。グローリーグラウンドのコトね」

その言葉に、レイアたち妖精チームはコクリとうなづいた。

「ゼルさんたちから連絡届いたの。ウィザーズコレスポンドで」

「ウィザーズコレスポンド・・って、イリーナさまが京にーちゃんたちに渡してたあの・・ちっちゃいクリスタルみたいなヤツ?」

「そう!あたしもフェアリー用のみんなを代表して預かってるの、ホラ!」

と言うと、レイアは懐からそれこそ京たちにあてがわれたソレよりもさらにさらに小さい、ビー玉サイズの水晶玉を取り出した。

「フォースで伝えても良かったんだけど・・・やっぱり直接話そうと思ってさ」
「オーケー、わかったわ。わたしも付き合う。リフィネやヴォルツたちにも伝えましょう。ナナちゃんのテストが終わってからね」


そう言いながら七海の方を見やると、もう演技は終盤に差し掛かっていた。
再度のトリプルトゥーループとダブルトゥーループのコンビネーションジャンプ。それも見事に決め、周囲から歓声が起こる。
七海は最後まで集中したステップを見せ、それでいて笑顔をたたえながら氷上を片足を上げてクルクルと舞い、全くミスなくフィニッシュを決めた。



「あははーvご声援さんきゅな♪どもども〜♪」


「さっすがナナミ!」
「ナナちゃんスゴイ!カッコイイ〜〜v」


と、歓声に交じって七海の耳にそんな幼馴染とパートナーの声が聞こえた。
おや?と客席の方を見やると、思った通りの連中がいる。


「おおぉ〜〜っヒナぁ〜!みんなも!どしたんそないなトコで!?」

「ちょっと、ナナミちゃん、今はまだ試験中ですよ?リンクを出ちゃいけません」

「あ、そっか」


悠奈達の姿を見て、七海は大手を振ってリンクから飛び出したが、コーチの窘める声に今がテスト中だったと気づき、慌てて戻る。


「お友達なの?」

「へへっ!そう!ウチの・・・カレシが来てんねんで♪」


「ええぇーーーっっ!?カレシぃ〜〜っ!?」 「ウソぉーーっ!マジで!?」 「ナナミちゃんオトナ!」 「カッコイイぃーーっ!」


「えへへへ〜〜vまあまあvどうどう。そないおだててもなんも出ぇへんで〜♪」


と、そんな七海の返事に周囲の練習生たちからそんな驚きと憧れの入り混じった声が沸き起こる。
コーチも思わず驚いた表情をして、もしかしてあのコ達が・・・と客席にいる悠奈たちの方を一瞥した。



「・・・な、なんか今ヘンな言葉が聞こえたケド・・・カレシがどうとか・・・」

「・・・いや、オレはなんっっっにも聞こえてない!!」

「モテる男はツライなヒナタ!」


そんな七海のコメントに対する各々の意見が飛び交う中、窈狼だけが1人、どことなく寂しそうな顔をしていたことには誰一人気づいていなかった。



(・・・結局・・・いつだって最初に眼に入るのはヒナタなんだよな・・・)







「次、4番・香坂七海さん。おめでとう。満点でシルバークラスよ」

「ぃよぉっしゃあ!」


担当コーチの女性からのその言葉に、大きくガッツポーズして喜びを露にする七海。
その様子に、周囲からもわっと歓声と拍手が巻き起こった。


「スゴイなぁ〜ナナミちゃん」 「小学3年生でシルバークラスって・・あり得なくない!?」 「オリンピック決定的ってカンジ?」 「天才だよね〜」


「へぇ〜・・みんなナナミのコトあんなに褒めてる・・・やっぱりそんなにスゴイんだぁ〜」

「ナナミは幼稚園からスケートはじめたその時からスゴク才能あったみたいでさ。都内のフィギュアスケートのエリートクラスからも引っ張りだこだったみたいだぜ?いつか自分のクラスからオリンピック女王が出るかも知れないからって・・ママから聞いたよ」

「そうなんだ〜」

「だけどナナミは移籍とかは全部断ってずっとこのJTスポーツクラブのフィギュアスクールに通い続けてる。それはなんでなのかオレにもわかんないけどね」


そんな窈狼からの説明を聞きながら、悠奈はまた違った視点で七海を見つめていた。
いつも憎まれ口を叩きながら自分にちょっかいをかけて来る七海。日向の事が大好きで周囲の目を気にするでもなくいちゃつこうとして若干鬱陶しいくらいに感じる時もある。

しかし、そんな彼女もこうやって1つの事に真剣にのめり込んで努力している分野があるのだ。


(ナナミも・・・結構がんばってるんだ)




「ヒナぁ〜!おまっとさ〜ん。愛しのナナちゃんただいま参上〜〜♪その他のみんなもなーv」

七海が悠奈達の方へ意気揚々と駆けつけて来たのはあれから、すべての練習生のテストが終了し、そしてレッスンが終わってからおよそ10分程たってからだった。
練習着の青いコスチュームを入れたスポーツバッグを肩に担いで髪を何時ものセミロングの髪を後ろで縛り、カチューシャをつけたヘアスタイル。
普段通りの姿に戻った笑顔の七海がそこにいた。
悠奈はいつもと違う七海の姿を見ていたために、目の前にいる七海に意識せずについよそよそしく、「あ・・うん、おつかれさまです・・・」と言ってしまった。


「?なんやねんなユウナ、そないぎこちなく・・・どうかしたんか?」

「い・・いや!別に・・・ご、合格出来てよかったじゃん、おめでと」

「なぁんやぁ、素直にホメてくれるなんてめずらしいな。ありがと」

「あらぁ、あなた達、ナナミちゃんのお友達?」

「あ!コノミせんせー。しょーかいすんで!この人うちのフィギュアスケートスクールのコーチで雨宮このみ先生!このコ達ウチの友達のユウナとヤオランとぉ・・でぇ、コッチのカレが!ウチのカレシでフィアンセの、草薙ヒナタくんでーっす!キャvv」

「・・って!フィアンセって・・増えてる増えてる!勝手に増やすな!」

と、突然フィアンセという言葉が付け加えられたことに日向は驚いて全力で否定にかかる。
息を飲んでビックリしたのは悠奈も窈狼も同じだったようで!
「ふぃっ・・ふぃあんせえぇ〜〜〜っっ!??」  「ウソぉ〜〜!?いつから!?いつからだよぉおっ!?」
と半狂乱になって叫んだ。
コノミと呼ばれたコーチの女性は少し驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着いて笑顔を見せ、そして悠奈たちにこう言った。


「ナナミちゃんはウチのフィギュアクラスの期待の星なの。是非なかよくしてあげてくださいね」

「は・・・ハイ!」

突然の事態に少々面喰った悠奈だったが、そのコーチの言葉に精一杯反応してピシッと頭を下げた。

「イヤやなぁ〜コノミ先生は、ウチのほうが悠奈とかヤオと仲良くしてあげてんねんで。ま、ヒナは別やケドなー♪」

と、そんなコトを言いながら日向にゴロゴロと甘える七海。
そんな七海に、「あら、そう。みなさん大変ね」と答えるコノミコーチを見て、日向はこの人もすっかり七海の性格を把握してるんだな。と内心感心した。


「で、今日はどないしてん?ただウチのスケートみんなで見に来てくれたん?」

「あ、そうそう。そのコトなんだけど・・・」
「あ!いいのヒナタくん!わたしから説明するから!ナナちゃん!ここじゃあんまり込み入った話できないから、すぐにボクシングジムの方に来てくれる?」

「ほへ?」


キョトンとした顔をしたのは、ウェンディにそう言われた当の七海と、虚空に向かって何やら話をしだした七海に対して違和感を感じたコノミ先生の2人だった。







「フォースクリスタルが見つかったぁ!?」

Jスポプライベートルーム。
幾つもの隔絶された個室が並ぶこの部屋はこのスポーツジム内において、クラブ同士の簡単な会合、ミーティング。
子どもをスポーツクラブに通わせている親と指導者同士の話し合いなど、多岐にわたって大きな役割を担う今現在の社会においての柔軟な対応をとれる環境となっている。
もちろん、子ども達同士の秘密のナイショ話などにも活躍している。
それゆえ保護者の中にはこのプライベートルームの存在がイジメや非行などの行為を助長してしまう恐れはないかと危惧する意見を述べる者もちらほらいるのだが・・・
いずれにしても今、上げられた叫び声は普通の人間に聞かれることはないだろう。
それは普通の人間には存在気配を確認することのできないグローリーグラウンドのフェアリー、ウェンディが上げた者だったからだ。


「?なんやったけソレ?」

「もうっ!ナナちゃん!この間ちゃんと説明したでしょう!?グローリーグラウンドの魔力を枯れさせてしまうかも知れない呪われた魔力を秘めたクリスタルよ!あなた達セイバーチルドレンズはそのクリスタルをかけてダークチルドレンズと闘わなければならないのよ!」

「あ・・アハハハハ!そ、そうか!せやった!いや、忘れてなんかないで!ちょっと・・・思いつかんかっただけや」

笑ってそう答える七海に「まったくぅ・・・」と頬を膨らませるウェンディだが、今は七海のいい加減さを糾弾している場合ではない。
レイアに向き直ると、凛とした口調でこう言った。



「フォースクリスタルのところへ行くのね?」

その言葉に、レイアはもちろん、その場にいるフェアリー全員がコクリとうなづいた。
また、面倒な方向へと話が進んでいることに辟易しながらも、悠奈もここは黙って話を聞く。


「今ならダークチルドレンズに気づかれる前にクリスタルを壊せるかも知れない!一刻も早くグローリーグラウンドのリッツロックの神殿に行こう!」

「おう!確かライドランドの対応してる場所からウィザーズゲートを開けば行けるんだよな?」

「ウンウン!確か、ココの街にあるジンジャってトコロから行けるって話なんだよね?オイラ覚えてるよ!」

「行こう!ユウナちゃん!」


イーファとユエもすっかり乗り気である。
こんな雰囲気の中で同意を求められてしまった悠奈は内心、尻込みしながら、一縷の望みをかけて日向に意見を聞いてみた。


「・・・ど、どうする?ヒナタくん」

「行こう。せっかくゼルたちが調べてくれたんだし、ダークチルドレンズのヤツラがまたみんなを困らせようとしてるならそんなコト許しちゃいけないと思う」

「さっすがヒナ!ウチもおんなじ気持ちやで!」

「おうっ!オレも賛成だ!行こうぜ、グローリーグラウンド!」

というみんなの反応に悠奈はやっぱり・・という顔で軽くため息。
日向の性格上おそらくそう言うだろうなとある程度予想はしていたものの、やはり悠奈としてはあまり乗り気はしない。
また魔法なりなんなりを飛び交わせ、あの怖いモンスターがウヨウヨする世界にはなるべくなら行きたくないと考えている。
イリーナに向かって成り行きで担架を切るようなマネをしてしまったが、それでもダークチルドレンズの面々と闘わなくていいというのならそれに越したことはないと思っている。

(また今回もあの気持ち悪いモンスターとか出て来るのかなぁ?ううぅ・・・ヤダなぁ〜・・・)


「どしたのユウナちゃん?なんか考え事?」

「え?あ・・・いやっちょっと・・・」

「あ・・ゴメン、ひょっとして・・・今日ユウナ都合悪かった?行きたくない?」

「う、ううん!ちがうのヒナタくんっそんなコト考えてないからっ」
(ウソです。ちょっと考えてました・・・)

「えっと、どうしよっか?あたしたちだけで行く?」

「そうだなぁ・・・うん、やっぱりヒカルちゃんたちにも相談してみよう?オレ達だけじゃやっぱり不安だし、それにきっと協力してくれるからさ」

「そっか、そだね。うん、じゃあ、とりあえずヒカルくんの家に行ってみようか?」
「ああ、きっともう6年生も授業終わって帰ってる頃だしさ」


悠奈もここまで来たら覚悟を決め、久遠光が住んでいる東家のマンションに向かうコトにした。





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「リッツロックの神殿のフォースクリスタルが見つけられただぁ?」

「そうらしいわ。どうやらレインヴァードのアドベンチャラーギルドがセイバーチルドレンズに協力してるらしいわね。きっとイリーナの仕業よ、ムカつく女、エミリーさまの邪魔ばかりして・・・っ!」

「ヘッまあいいじゃねえかよ。逆におもしれえ、返り討ちにしてやろうぜ」

聖星町外れにある、コッチの世界側のダークチルドレンズアジトの洋館、そのダイニングでメンバーの人物達が口々に言い合っていた。
1人は歌番組のリハーサルを終えてアジトに戻って来たサキと、ライトブラウンの逆立てた雑髪にヘアバンドが特徴の少年、チアキだ。
それを遠巻きに他のメンバー達も見ている。

桃色のショートヘアの少女、ジュナ。その隣にいるのは彼女の双子の妹でもある金髪のロングヘアを三つ編みに1つに纏めたアカネ。
その後ろに並んでいるのはライトブルーの美しいロングヘアの少女、アミ。
同じくブルーだが、アミよりももっと深い蒼のカールがかったセミロングヘアをした少女、ミウ。
肩口までかかるグリーンのショートヘアをした少女、ミリア。
茶髪のツインテールが特徴でニコニコと人を見下げたような笑顔をしている少女、ユア。
明るいオレンジがかったブラウンのウェーブしたロングヘアをした少女、ナギサ。
ミリアよりもさらに濃いダークグリーンのロングヘアをポニーテールに纏めた厳しい表情の少女、ナオ。
金髪の所々でウェーブがかかったロングヘアに眼鏡をかけた少女、リコ。
太めの体格で顔にそばかすがあるのが特徴的、いかにも体力と腕力に自信がありそうな少年、リッキ。


ダークチルドレンズが勢ぞろいしていた。
皆今回のフォースクリスタルが見つかったとの報告に神経を尖らせているのだ。
自分達の存在を無視するかのように繰り広げられているチアキとサキのやりとりに苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ジュナが言った。


「で?どうするの?先回りして迎え撃つ?」

「・・・そうね。でもただ迎え撃つんじゃないわ。今回は1つ作戦があるの」

「作戦?」

「そう。ヤツラの戦力をそぎ落とす、とっておきの戦略がね。フフ・・・」

ジュナにそう答えたサキの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。






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「あぁ?んだテメエら?何の用があってオレん家に来たんだよ?悪りぃがヒカルのヤツまだ帰って来てねえぜ。一緒に遊びてえならもうしばらく待ってから来な」

との彼の応対に、悠奈たちは「よりによって・・・」というような顔色を思い切り表面に出していた。

「んだそのツラ?なんか文句あんのか?ヒナ、お?」

「え!?いっ・・いやいやいやっ!そっ・・そんなコト・・・なっ・・いよ・・・」

東邸、久遠光が住んでいるマンション。
応対に出て来たのは彼ではなく、彼と同居している幼馴染の東麗だった。
光のほうは日向たち年下の子ども達に対してとても優しいため、日向や七海、窈狼もよくなついているが、麗に対してはどうしても普段からの言葉使いや態度ゆえに怖い印象の方が強いため、こんな風に予期せぬところで対面してしまうと思わず、緊張に顔を歪め固まってしまう。
今の悠奈たちの態度は正にそうだった。


「悪かったな優しいヒカルちゃんじゃなくて」

「そっ・・・そんなコト言ってないもん・・・レイちゃんのイジワル・・・」

「ぷっ・・・ハハハっ、バッカ、本気にしすぎだっつーんだよ。別に怒ってもなんでもねえって。何かヒカルか、さもなきゃオレにも用事があって来たんだろうが。入れよ、とりあえず聞いてやるから」

と、日向のしたいかにも子どもっぽいバツの悪い態度に麗も思わず吹き出してしまう。
無邪気で毒気の無い態度。それがこの子の誰にでも愛されるキャラであるのを多少ひねくれ者で通っている麗も心得ている。自分の意地悪に本気になって膨れっ面で返事をした日向を見て、麗は
(・・カワイイじゃねえかコイツ)
と無意識に思った。



「あー!アキラくんがいるっ!」

「よお、ヤオ。なんだヒナにナナに、おろ?ユウナも来たのか、どうした?」

「なんか知んねえケド、ヒカルとお前に用があるんだってよ」

「あ?オレに用?」


と、麗に言われるまま部屋に上がってみると、窈狼が驚いたような声を上げる。
そこには麗や光と幼馴染で、同じセイバーチルドレンズのメンバーでもある南晃がいたからだ。
彼はいつもとかわらぬ優しい笑顔で悠奈たちを見ると、自分に用があると聞いて「どうした?」と聞いてきた。光もそうだが、本当にこの2人は優しくいつも自分たちの言うコトを気長に聞いてくれる。
日向達の紹介、またセイバーチルドレンズのメンバーとして比較的短い付き合いだが、悠奈もそのことは感じている。
麗も本当は優しいいい人なのだというコトはわかっているのだが、普段の態度が態度なだけに、勿体ない。
それでも悠奈はまだ日向たちに比べると麗に臆さずズケズケものを言うほうなのだが・・・


ともあれ晃にレイアの話を説明するとその話を彼だけでなく、麗も注意深く聞いていた。
ゼルをはじめとする王都レインヴァードのアドベンチャラーギルドの面々が調査した結果、フォースクリスタルの1つが見つかったこと。
そのクリスタルを破壊する必要があること。
今すぐ向かえばダークチルドレンズに悟られる前に破壊できるかも知れないということ。
すべてを聞き終えた晃はハッキリとした口調で言った。


「よしわかった。光が帰ってきたら早速行ってみようじゃねえか。レイ、レナとナミにも連絡してくれるか?あいつらも今日はヒマだろ。オレはサラに連絡してみっから」

「ったく、ウゼエな。ケドまあ1度やるって言っちまったしな。いいぜ、レナのヤツに電話してみる」

「おう、頼むぜ。あ、ついでにヴァネッサ先生にも知らせとこうぜ」

「ハイハイっと・・」

そう言うと麗は自身のスマホを取り出し、すぐに麗奈と連絡を取り始めた。
晃はそれを横目で見ながら再び悠奈とレイアに視線を向けると、「で?この街のどこら辺がその神殿とつながってんだ?」と聞いた。


「あ・・えっと・・・どこだっけ?レイア?」

「もう、ユウナちゃんしっかりしてよ!・・・ってアレ?アレアレ?・・どこだっけ?」

というレイアの反応に、空中でズッコケるイーファたちフェアリーの面々。肝心なところで抜けているレイアにかわってハッキリと覚えていた日向が言った。

「確か、神鳥池だろ?神楽神社の奥の森にある」

と言った日向の言葉、それに今度は七海から「ええぇーーーっっ!?」という声が上がった。



「かっ・・・神鳥池やってぇ?なんでばーちゃん家が?」






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「まあ、よくいらしてくらはって・・・ヴァネッサ先生、お久しゅう・・」

「あ!ハイ!お久しぶりです」

「相変わらずおキレイどすなぁ、京都のお座敷にも、先生ほどのべっぴんさんはそういてはりまへんで」

「あ・・あはは・・・神楽(かぐら)さんにそう言われると、ちょっとヘコむ自分がいます。それ、神楽さんが言っちゃうとある意味イヤミになっちゃいますよ?」


ヴァネッサの正面には柔らかに笑う、黒髪の美しい女性の姿があった。
麗の連絡によって一堂に会したセイバーチルドレンズのメンバーたち。那深やヴァネッサ達、そして彼らそれぞれのフェアリーも合流した午後4時半を過ぎた頃。
グローリーグラウンドにあるリッツロックの神殿、フォースクリスタルが見つかったとの情報が入ったその場所に対応する地区、神鳥池を所有する神楽神社に彼らは来ていた。
悠奈たちを迎えたのは、神楽櫻子(かぐらさくらこ)という女性。この神楽神社の女性神主であり、そして、香坂七海の祖母でもあった。

はじめて彼女に会った悠奈やレイアたちは、目の前にある櫻子という女性が、とても七海のような年頃の孫がいるお婆ちゃんであるなど、到底信じられなかった。
七海から聞いたこのお婆ちゃん、櫻子の年齢は48歳。
しかし、年齢よりも随分と若く見える。せいぜいでも40歳前後、若く見れば30歳そこそこでも通る顔立ちであろう。
十分美人と言えるヴァネッサ先生が自虐めいた言葉を放つのも無理はないと思われた。

(う・・ウソ・・・このヒトがナナミのおばあちゃん?すっごくキレイなヒト・・・)

「それで、ウチの神社になんか用どすやろか?ヒナちゃんもヤオランちゃんもみんなお揃いでどないしはってん?」

「あんなあ、ばーちゃん、実はウチらみんな神鳥池の方に用があんねん」

呆気にとられていた悠奈たちに不意に問い尋ねた櫻子、その言葉に彼女を見慣れている孫娘がそう答えた。

「神鳥池?あそこがどうかしてんか?」

「ん〜・・なんかうまく説明できひんねんけど、とにかく行きたいの!あそこって神主の許可証が無いと警備員の兄ちゃん通してくれへんねやろ?なあ、許可証ちょーだい」

「ん〜・・せやけどあの池案外深いところあるしなぁ・・子ども達だけやったら危ないしなぁ・・・」

「あ、その点はご安心下さい櫻子さん。そのために私や、彼、京くんもついてますから」

と、心配そうに七海に言った櫻子を安心させるように、ヴァネッサは京を手で指しながらそう答えた。
見るといつの間にそこにいたのか?日向の従兄にあたる草薙京も櫻子に向かって「まかせてください!ナナちゃんのコトはこの俺がキッチリ守りますから!安心してください!」と元気よく言った。
その京を見て、しばらく考えた櫻子は2、3度ゆっくりとうなづくと、ニッコリと笑ってこう言った。

「せやなぁ、ヴァネッサ先生だけやなくて京くんも一緒やったら安心やな。それに、レイちゃんもアキラちゃんも、いつもナナのことよく面倒見てくれるさかいに」

櫻子は自身の机から1枚の書状を取り出し、それに判を押してヴァネッサに手渡した。
と、同時に、七海に向かってその目線の高さにしゃがみ込むと、ちょっと怖い顔をしてこう言った。


「ナナ、ちゃんとヴァネッサ先生や、京くんの言うコト聞いて、イイコにしてなアカンで」

「わっ・・わかってるわ。ちゃんとする。言うコト聞くさかいに・・・」

「ホンマやな?もしお婆ちゃんの言いつけ破った時には・・・どないなるかわかってんな?」

「うっ・・・わっ・・わかってるって・・・もう!何度も言わんといてや!」

と、七海は冷や汗混じりにお婆ちゃんに握られていた手を乱暴に払った。
そのなにやら怯えた様子に、悠奈は「あれ?」と思ったが、それ以上は今追及するのはやめにした。


「そう言えば、雫から聞きましたわ。ヴァネッサ先生が新しい塾開いてそれにウチのナナもヒナちゃんたちと一緒に入れてくれたとか・・先生、それから京くん。ナナのこと、よろしゅうおたのんもうしますえ」

「ハイ!確かに、お預かりします。ご安心ください」
「まかせてください!男、草薙京!ナナちゃんのコトは命に代えてもお守りします!」

ヴァネッサだけでなく、京の力強い言葉にすっかり安心した櫻子は、「気ぃつけてなぁ〜」と満面の笑みで悠奈たちを送り出した。






「相変わらずナナちゃんのお婆ちゃんってキレイだねぇ〜」
「ホント、わかぁ〜いっ!」
「マジでありえねえくらい若いよな!女優の中にだってあのトシであんなにキレイな人いねえんじゃね?」

「もぉう、みんなしてヤメテやぁ〜、ババア褒めたかてなんも出ぇへんで」

と、お婆ちゃんの美人加減を麗奈や那深、咲良から口々に褒められて、ちょっと恥ずかしがりながらも、まんざらでもない顔の七海、そんな彼女を見て、悠奈は七海のコトを可愛い、と思ってクスリと笑った。
もちろん、本人の前で言ったら文句の雨霰であろうから口には出さないでおく。
悠奈よりも、この人が先に、泣きそうな顔で七海にこう言った。

「ナナちゃん・・・あの人のコト、ババアだなんて言わないで・・・あの年になった時の私・・・一体どうなってるのかわからないもの・・・」

「どうなってるて・・・先生もババアになってるに決まってるやん」

「・・・・」

「え?ちゃうの?」

「・・・・違いません。ううぅ・・・」

「ナナ、オバンからかってる場合じゃねえんぞ。んで、どうする?すぐ行くのか?神鳥池に」

意気消沈して泣いているヴァネッサ先生を無視して麗が悠奈とレイアにそう尋ねる。
彼に連絡を受けて即座に集合をかけられたレナやナミ、それにサラもやる気まんまんだ。


「そうね。ヒカルくんが来たらすぐにでも」

「そういやヒカルのヤツ遅えな?アキラがもう連絡も入れてるハズなんだがな・・・ハハァ〜ン、さてはヒカルのヤツ、遅刻だな」

「もう、京にーちゃんといっしょにしないでよ。大体さ、なんで京にーちゃんまで来てんの?ヴァネッサ先生だけでいいのに」

と、そんな日向の何気ない問いに京は「うっ・・」と答えに詰まる。
そんな彼に一同の目がジト〜・・・と注がれた。


「そもそもさあ、京にーちゃんって今日、モエを学校に迎えに行ってその後遊びに連れて行ってあげるハズじゃなかったの?」

「いや・・・まぁ・・・それはだなぁ・・その、大丈夫・・になった・・と言うか・・いや、そうしなきゃならなくなった・・と言うか・・」

「へ?・・・・あ!まさか・・また?」

「うっ・・うぅぅ・・だ・・だってさぁぁ・・・萌ちゃんが連れてってくれって言ったクレープ屋さんさあ・・思ったより高かったんだもんっ!完全に予算オーバーだったんだよっ!」

「ふぅ〜ん、だから?」

「・・・い・・・いや・・・だから・・京にーちゃんじゃあ・・モエちゃんのご希望に添えかねるというコトでぇ・・その・・・代役をだな・・・」

「ユキねーちゃんがモエを連れてってくれたんだ」

「・・・ハイ・・・」

「あのさあ、おかーさんが言ってたケドさ、京にーちゃん、そーゆーのムセキニンって言うんだよ?」

「しっ・・しょんなハッキリおっしゃらなくたって・・・」

「いや、ヒナタの言うとおりだと思うし」
「京にーちゃんホンっトサイテーやんな」



「はっ・・はうぅぅ〜〜・・・・」



と、日向だけでなく窈狼や七海にまで手痛い突っ込みを受け、グウの音も出なくなる京。
この男、例によって例の如く、またもや従妹との約束を反故にしてしまったのである。その理由はこれまた例によって例の如くこの男のもつ無計画さと浪費癖からくる持ち金の不足故であった。
日向だけでなく彼にとっても可愛い可愛い妹である草薙萌(くさなぎもえ)、その彼女にあろうことかクレープを奢る金すらない。
どうしようもなくて、恋人であるユキに泣きつくと、彼女はいつも通り怒り呆れながら、その約束を京に代わって果たしてくれているのだという。

あまりの体たらくに日向達だけでなく、流石に知り合ってそれほど長い付き合いでもない悠奈ですら京に対して、「うわ、この人って、甲斐性ないじゃん・・・」と思ってしまった。
彼の性格をもう既に周知している日向以外のメンバー達も呆れ笑いであるし、ヴァネッサなどは涙ながらにうな垂れていた。



「と・・とにかくだ!この草薙京さまがいるからにはキミたちに危険が及ぶようなコトは一切ない!大船に乗ったつもりで安心して任務にあたりたまえ!エッヘンオッホン!」

「・・・グローリーグラウンドでの戦いは、基本京にーちゃんたちは手出し無用だってイリーナさまに言われてるんでしょ?京にーちゃんの出来ることなんてとくにないって。いいからジャマだけはしないでよ?ユウナやみんなのジャマしたらもう口聞いてやんないからな」

「・・・はぁい・・・」

と、愛しのヒナちゃんにまでそう冷たくあしらわれてすっかり意気消沈の京にーちゃん。
彼の理解者は何にも考えずに「どしたの京さん?元気ないね。あ、そだ!チョコ食べる?元気になるよ!」とジョーキョーを全く理解していない能天気全開の麗奈ちゃんだけであった。
そんなある種混沌とした場に遠くから「おーい!」と声が聞こえてくる。
声を聞いて、京にーちゃんを冷たくあしらっていた日向と彼のすぐ隣にいた悠奈はすぐに気づいた。


「あ!この声・・」
「ヒカルちゃんだ!」

声の主は日向と悠奈の姿を見つけると、「おったおった!みんなココにいててんか」と白い歯を見せてニシシと笑いながらやって来た。傍にはヴォルツもいる。
そして後ろからは光に続いて、なんと陽生も現れた。


「あっ!にーちゃん!」
「なんでアニキがココにいんのぉ!?」

「いや、ガッコウ出てナミから連絡もろてな。ちょうどその時コンビニにおって、偶然雑誌買いに来てた陽ちゃんともそこで会うてん。なんや、グローリーグラウンドで一大事が起こってるみたいやないか」

「ヒカルに聞いたんだけどよ。どうやらまたあのイリーナさんたちのいる国が大変なんだってな。オレもロードワークが終わったついでに来たんだよ。で、どうするんだ?行くんだろ?」

「ヒカルちゃん!それに陽生くんも!」
「どうやら全員揃ったみてえだな。ほんじゃ、悠奈ちゃん」

「え?・・う、うん・・・レイア?」
「オッケー!オッケー!みんな揃ったね。じゃあ、あらためて出発!」

レイアの掛け声に、他のフェアリーたちが同調して、その後について飛んでいく、その後を遅れないように子ども達、そして陽生も合流した大人達も懸命について行った。
しばらくすると、辺りの木々に覆われた景色が突然開け、目の前にキレイで透き通った透明な水面を湛える池が広がった。
そこには入り口のような社があり、そこに警備員らしき若い男性が立っているのが見えた。


「ココが・・?」
「せや、ココがウチのばーちゃん家が管理してる神鳥池。キレイやろ?池の底に清水の湧き出てくる箇所が何個もあって、それでこんなに水がキレイやねんで?珍しい魚とか植物とかもこの池でなら生きていけてるらしくて国の天然記念物遺産とかに指定されてるねんて。だからココに入るのはウチの神社の許可が必要なんや」

悠奈の声にすかさず入った七海の説明。悠奈はそれを聞いて確かにそれもわかるような気がした。
池を見て「キレイ〜〜っv」と麗奈や沙良などは盛り上がっている。
その悠奈たちを見つけて、警備員のお兄さんが近づいてきた。


「こらこらキミたち。ココは神楽神社の神主さんの許可証がなけりゃ入れないよ?キミたちみたいな子ども達が来ちゃいけないんだよ」

「あ!ダイジョーブ♪その許可証ちゃんともろてきたもんね。神主さんに♪」

「え?キミみたいな小さい子が?冗談だろ?ココは国の天然記念物遺産なんだよ?」

「ホントのコトやもん!ウチその神主の孫やし!ハイ!コレその許可証!」


そう言って怪訝な顔をしている警備員に七海が自信満々に許可証をヴァネッサからひったくって見せる。
最初はとても信じられないという顔をしていた警備員だったが、許可証が本物であることを認めると、疑問を感じつつも了解した。


「わかった。しかし、ここは重要な文化財なんだから、くれぐれも軽はずみな行動は慎んでくださいね?むやみに池の中に入って暴れたりしないで下さいよ?」

「わかってます。大丈夫ですよ。その事は私が責任を持ちますから」

と、ヴァネッサ達大人達が保護者であることを告げると、警備員の男性もようやく安心したようで、悠奈たちを通してくれた。

入り口の社をくぐると、池の浅いところで小さな魚たちが群れで泳いでいる光景が目に入った。
水面は仄かに碧く、まるで絵画のように美しい。
その池のほとりでレイアは辺りをキョロキョロと見回すと、他のフェアリーたちに言った。

「どうやらこの辺たりみたいね・・・みんな!行くよ、力を貸して!」


レイアのその声に待ってましたと言わんばかりにフェアリーたちがレイアの持っているゲートキーパータクトに手を翳して魔力を集中する。


「ウィザーズゲートよ、わたし達をグローリーグラウンド、リッツロックの神殿へ!」


レイアがそう言うと、直後、彼女のタクトから光が迸り、そして七色に輝く大きな穴のようなゲートが姿を現した。


「みんな行っくよぉーーっ!」

レイアのその言葉に続いて、フェアリーたちが、続いて悠奈をはじめセイバーチルドレンズの子ども達が次々とゲートの中へと消えてゆく。
その様子を、まだ慣れないのか、茫然と眺める保護者連中。


「その・・・入らなきゃ・・いけないのよね?」
「ですよね?なんか・・・こう、ヘンなカンジというか・・・」

「ビビってんじゃねえよテメエら。当たって砕けろ!虎穴に入らずんば虎子を得ず!ガキどもが意気揚々と乗り込んで行ってるってのに俺等が怖気づくワケにはいかねえだろうが。よし、ここはこの草薙京さまが先陣を切るとするか。ホラよっと!」

と、少し躊躇している感じが見て取れたヴァネッサと陽生に京はそう言い放つと、意を決してまずは自分から子ども達の後を追ってゲートの中へと入って行った。
あっという間に消える京の姿、その光景に顔を見合わせていた陽生とヴァネッサだが、それも一瞬の事で、陽生は短く息を吐くと、ゲートの方に向かって歩き出した。

「ちっ・・ちょっと陽くん!?・・も、もう行っちゃうの?」
「ええ、アキラやサラがあんなに自信満々に入っていったのにアニキがビビってちゃ示しがつきませんからね。京さんも行ったことですし、オレも今から向かいます」
「い、いやビビるとかじゃなくってさあ・・・こういうのはもっと慎重に・・・」
「じゃ、先生オレ、行きますんで!」
「あっ!ああっ!ちょっと・・・陽くんっっ!?」


と、止めようとするヴァネッサの必死の呼びかけも虚しく、陽生もまた、七色に光る怪しげな空間の中へと吸い込まれていった。


「行っちゃった・・・・どうすんのよ、もう!みんな考えなしに飛び込んじゃって・・余計怖いじゃないの!・・でも、ユウナちゃんもレイちゃんたちも心配だし・・・ああっもう!なるようになれだわっえいっ!」

と、実は一番ビビッて飛び込めなかったヴァネッサだったが、彼女もここへきてようやく心を固めてその虹色のゲートへと飛び込んだ。
すると、その瞬間、役目を終えたことを悟ったかのように、七色に光る空間はそのまま静かに消えてしまった。





「・・・きゃっっ!?うっ・・うぅっ!!」

どしんっ!という音。
見事な尻もち。
悠奈はまるで怒った時のママやヴァネッサ先生にお尻をぶたれた時のような鈍痛をお尻に感じて息が止まった。
続いて衝撃につ〜〜んと目頭が熱くなり、涙目でお尻を抑えてうずくまる。


「っっっ・・・つぅぅ〜〜・・・・・ぃいったぁあ〜〜・・・・もぉっ!レイアあぁっっ!」

半ばやけっぱちに癇癪を起して、レイアに向かって非難の声を上げる。

「あっ・・アタシのせいじゃないようっユウナちゃん!」
「るさいっ!落ちるトコロぐらいちゃんと設定しといてよっ!」
「そ・・そんなのムリだよぉ〜、アタシにできるのはせいぜいゲートをフォースクリスタルの近くに出現させるコトぐらいなんだもん・・・」
「んもうっ!」

悠奈が恨みがましい目でレイアを睨み付け、お尻を擦りながらようやく立ち上がった時、それから一拍遅れて「うわっっ」という声が聞こえた。
日向たちが次々とゲートから飛び出してきた。
皆、悠奈と同じく派手に尻もちをついたり、倒れ込んだり。綺麗に着地できたのは麗や光など年上の男子チームぐらいであった。


「いってぇ〜〜・・・くぅっ・・」
「なんやねんなもおぉ〜・・・」
「イッテテテ・・・乱暴すぎだろ落とし方・・・」
「しんじらんなぁ〜い・・ゼッタイ慰謝料もらってやるんだから!もうっ」
「マジであったまきた!そうだそうだ慰謝料だイシャリョウ!」
「ふみぃぃ〜・・・ココどこぉ〜?」


と、着地に失敗したメンバー達、皆口々にそうブウブウと非難の声を上げている。
しかして麗や光たちは辺りを見回してココがグローリーグラウンドのリッツロックの神殿というところなのかを視認して危険がないかを警戒している。
この辺りは流石年上のリーダー格の子ども達だというほかはあるまい。


「おう、オメーらいつまで寝てんだ?とっとと起きろ」


麗がいつものように乱暴な口調で原っぱの地面にへたり込んでいる日向たちに言う。
悠奈はようやく周りを見渡すと、辺りが木々に囲まれた森のような場所であることに気づいた。雰囲気がどことなく神鳥池の周囲にあった森と似ている気がする。
それと同時に何やらゴウゴウと滝の音のようなものが聞こえて来た。

「コレって・・・?」
「滝だ!滝の音だよユウナ!」

「あっ!・・ま、待ってよヒナタくん!」

「ちっ・・ちょっとヒナぁ!」
「いきなりどこ行くんだよ!?」

悠奈に向かってそう言った日向は、一目散。
その滝の音が聞こえる方へと走り出した。
慌てて悠奈はその後を追いかける。七海も窈狼もその後に続き、他のメンバーたちも突然の日向の行動に疑問を抱きつつ追いかけていった。そして当然、京をはじめとする大人達もその後を追従してゆく。

「おいおい・・・ヒナのヤツ、どうしたってんだ一体?」

「クス、好奇心旺盛なのは誰かさんゆずりなのね」

「あ?誰かさんってダレのコトだよ?」

「さぁ〜?だれかしらねv」

「・・・んだキモチ悪りい」


と、気づいてないのか照れ隠しなのか?そんな京の反応に思わず可愛いと思ってしまったヴァネッサはついつい笑顔になって、彼の後を走って行った。




「うわぁ〜・・・」
「デッケぇ〜・・・コレが?」

「そう!コレがグローリーグラウンド最大のウォーターフォール、リッツロックの滝よ」


目の前に広がる光景。それはさながら巨大な水のカーテンだと悠奈は思った。
以前パパに写真を見せてもらったことがあっただろうか?ナイアガラの滝と呼ばれる地球上最大の滝。
アレを彷彿とさせるかのような、おそらく落差や規模の大きさは本物のナイアガラの方が大きいのであろうが、純粋にこの世界の雄大な自然を悠奈は感じていた。

そして、その滝壺の傍に佇んでいる白い壁面を有する古風な洋式の建造物。これもかなり大きい。
壁の所々には青の渦巻き状の模様が描かれていた。
悠奈が何か言おうかと思った時、彼女より先に日向が声を上げた。


「あ、あの建物・・・お城?いや、まてよ、ひょっとしてアレが?そうか!アレだなリッツロックの神殿っていうのは!ユウナ、行ってみよう!ホラ、みんなも早くっ!」
「あっ!ちっ・・ちょっとヒナタくん!」

と、またしても日向が眼を輝かせて滝の傍に見える大きな建物まで走り出した。
ヒナタくんっていつもこんなに無鉄砲だっけ?とやや戸惑いながらも、悠奈もその後を追って走り出す。
七海や他のメンバー達も同じく、その後に続き、「オイオイまたかよ?」と軽くげんなりした声をもらしながらも、京や陽生、ヴァネッサもそれについて行った。



近づいてみると本当に大きな神殿だった。
城を基調とした壁面に、渦巻き型の紋様。さらには魚をかたどったようなレリーフまで所々についている。
神殿、というものを間近で見たのがはじめてな悠奈はちょっと雰囲気の変わった城をイメージさせられた。



「・・大きい・・・」
「すっごいや・・・こんなに大きいなんて。それに、なんか不思議な感じがする。優しい力に包まれてるような・・・」

「へっへっへ、やっぱりヒナタたちも魔力を持ってるから同じ魔力を感じるコトが出来るんだな?そうだぜヒナタ!ココがリッツロック神殿だぜ。水の精霊アクシュリアを祀ってるふる〜い神殿さとってもグローリーグラウンドの神殿にはそれぞれの場所にそれぞれを祀っている精霊の魔力が満ちているって話だぜ?」

「へぇ〜・・しっかしアレだろ?神殿ったぁ日本で言うところの寺とか外国で言うところの僧院とか、そんなトコじゃねえのか?だったら坊さんがいてもよさそうなモンだが、人っ子一人見当たんねえぞ」

「そう言えば・・・いないねえイーファ、僧侶の人たち」

「ああ、一体どうしちまったんだ?」

と、京に投げかけられたもっともな質問に答えられずしきりに首を傾げながら顔を見合わせるレイアとイーファ。するとそんな2人にウェンディがすかさず言う。

「今はちょうどアクシュリアに仕える僧侶の人たちは、司祭様も含めて地方巡業の途中なのよ。誰もいないのはそのせいよ」

「地方巡業?」
「へぇ〜・・この世界にもそんなモンがあるんだなぁ、ご苦労なこって」

と、地球においてもよく見られるそんな行為に陽生と京が声をもらすと、それに続けてさらにウェンディがこう言った。

「だからこそ、その隙をついてダークチルドレンズはこの神殿にクリスタルを設置したのだと思うの」

「なるほどな。僧侶のおっちゃんらが誰もおれへんのやったらヤツラのジャマする奴もおらんちゅうわけやからな」
「やりたい放題し放題ってわけか、チッ考えることがセコイぜ」

「でもさ、敵にとったら大チャンスってワケよね?」

「ほえぇ?なんでだいちゃんすなんでしゅかぁ?」

「わからない?ルーナ、ジャマものがいないってコトは自分たちのやりたいことがなんの障害もなくすんなりやれちゃうってコトじゃないの」

「そーゆーこった!んナロウ!ヒキョーものどもめ!そんなヒキョーな男の風上にもおけねー連中はこのバンさまがコテンパンに伸してやるぜ!うぅ〜っボンバぁーーっ!」


と、ウェンディの言葉に、ヴォルツやケン、クレアやルーナ、リフィネやバンといった他のフェアリーたちも口々に反応した。
わざわざこんな人の隙を突くいやらしい手段を用いてまで、この世界を壊したいのだろうか?いったいダークチルドレンズは何を考えているのか?
そんな考えが頭の中に浮かんだ悠奈に日向が気付いた。彼はニコっと笑って悠奈の肩にポンと手を置く。

「・・ヒナタくん?」
「大丈夫だってユウナ、オレも、それにみんなもヴァネッサ先生たちだっているんだから。今は自分のできるコトを考えようぜ」
「ヒナの言うとおりやんな!わからんコト色々考えてたって答えなんかでぇへんやろ?」
「そうそう、迷うことがあったらまずやってみろって!後悔したってまたやり直せばいいんだからって、うちのママもよく言ってるぜ」

と、同級生のメンバー達から口々にそう言われて、悠奈も知らず知らずのうちに決意を固めた。
そうだ。
自分は1人ではない。
不安や、ダークチルドレンズに対するある種の恐怖感はもちろんあるが、日向や七海、窈狼たちが一緒なら乗り越えていけそうな気がする。そう思った。

「うん、そうだね!それじゃあみんなで早速入ってみよう」

「よし!みんないくよ!」

日向の元気のいい号令に、年上のメンバー達までみんなが「オーー!」と威勢よく声を上げた。


「・・・う〜〜ん・・・」

「どしたよヴァネッサさんよ?俺らも早く追いかけようぜ」

「今思ったケド・・・ヒナちゃんてさあ、リーダーシップのほうもアンタよりよっぽどあるのねえ・・・今度KOFでもあるんならアンタの代わりにあのコにリーダーになってもらったら?」
「ケ!余計なお世話だっつーの」

と、これみよがしに呟かれたヴァネッサの皮肉をぶっきらぼうに受け流した京は、陽生についてくるように声掛けをすると悠奈たちの方へと走り出す。含み笑いをしながらその後を追うヴァネッサと陽生。
その姿にまだまだ彼も子どもだと不思議な安堵感を覚えたヴァネッサだった。








大きな外観に違わず、神殿の中もまた広大だった。
無人の神殿が織り成す静寂さは神秘的というよりある意味不気味で、悠奈は遊園地のお化け屋敷を連想した。まるで何か怖いものが辺りに徘徊しているかのような・・・

「こ、こーゆートコってなんか・・・気持ち悪い」
「だ、大丈夫だよユウナちゃん、今は邪悪な気配も魔力も感じないから・・・」
「そ・・そんなコト言ったってさぁ・・・」

「おう!オメエら!ようやく来たか、待ちくたびれたぜ」


「「きゃああぁあーーーーーーーっっっ!!」」


と、悠奈とレイアは暗がりから突然大声で声をかけながら現れた影に驚いて飛び上がった。
みんな何事があったのかと目を丸くして、床の上にスッ転がった悠奈を見た。
それを見て目を丸くしたのは声をかけた当人も同じ。


「な?なんだ?どうしちまったんだいきなり?」


「あ・・あ〜〜・・ビックリしたぁー、なんだゼルさんかぁ・・」
「いきなり声かけないでよぉ!オバケかと思ったじゃん!」

「オバケって・・オイオイ、ヒデエなぁ〜・・」

「ソイツはアンタのガタイが厳ついからかもね?」


逆立った短めの短髪に顎髭が渋い大柄の戦士、ゼル・シルヴァードは背後から現れた女戦士、仲間のルシア・マンシーニにもそんなコトを言われて、苦笑いしながら頭をボリボリと掻いた。
そしておもむろに悠奈たちの方に近づくと、その中で京に向かって手を差し出した。

「よく来てくれたな。確か、キョウ・・クサナギ・キョウだったよな?俺のコトは覚えてるかい?といってもつい先日の話だが」
「へっ随分と丁寧なんだなアンタ、見かけによらず、確かセル・・だったよな!元気かセル!」
「ああ!もちろんよ。まあ俺の名前はゼルだけどな、ゼ・ル」

「・・・・わ・・ワリィ・・・」


あまりにも恰好悪い間違いの仕方にその場にいる全員が京を白い目で見た。ヴァネッサなどは情けなさにすっかりお馴染みとなってしまった涙まで流している。
気まずい雰囲気を日向が払拭しようとするように彼はゼルに尋ねた。


「ゴメンねゼルさん、あのね、京にーちゃんって、めちゃくちゃバカだから、物忘れも若いくせにヒドイんだ。でもでも、強くて頼りがいがあって、ホントはスゴクいいにーちゃんなんだ。だから仲良くしてあげて」

「ああ、気にすんなヒナタ。それに、俺のコトはゼルって呼んでくんな。ゼルさんなんてこそばゆくっていけねえや」

「・・・うん!ゼル、ありがとう!」

日向の元気のいい返事にゼルはかっかっかと豪快に笑った。


「ホントにイイコねヒナちゃん、お兄さんのコトちゃんとフォローして・・・グスっ」
「あのコ昔からああいう子ですよ。子どもなのに周りの事に気が利いて、サラにも見習わせたいぐらいで」

「オメーら・・・今のヒナのは俺のフォローなのか?フォローになってんのかアレ?」

という京の言葉を一同全員無視して、今度はヴァネッサがルシアに向かって聞いた。

「あの・・・ところで、このコたちから聞いたんですけど・・あのダークチルドレンズとかいう子ども達がいるんじゃないかって聞いたんですけど・・・」

「今は見当たらないですね。どうやらまだ現れてないらしい、先回りはできたってことね」

「クリスタルもとりあえず無事だぜ。今は俺達がその近くに野営地を張ってる」

「わあ!よかった!ありがとうゼルさん!」
「大手柄だぜぃ!」
「ご苦労様ですv」

ゼルの言葉にレイアとイーファ、ウェンディが感謝の言葉を述べる。しかし、それにこたえるかのように何やらルシアが重そうに口を開いた

「だけど・・・」

「どうしたんです?」

「いや・・・ダークチルドレンズではないんですが・・・そのぉ、先程ヘンな男を捉えまして・・・」

「おお、そうだった。いやぁ〜俺達が来た時さあ、妖しい動きで神殿の辺りをうろついてたもんで、てっきり敵かと思って捕まえちまったんだが、アルフが偵察した時にはいなかったヤツだったし・・しかしまあ、話を聞いて行くと・・・コレがまた・・うぅ〜ん・・・」

「だぁーっ!ウゼエなオイ!一体何があったってんだよ?しっかり答えやがれ!」

「レイちゃん!また年上の人にそんな口聞いて!」

「いやいや、まあまあ気にすんなよ。そうだな、よし!そいつに1回会ってもらおうか。コッチの野営地の方に一応捕まえてあるからよ」

「えぇ〜?ダイジョウブなの?そんなヘンなヤツ、会ってなんかされない?」

「大丈夫ユウナちゃん!みんなもついてるし」
「そうだぜ!オレやウェンディや、ヒナタだってついてるんだ!」
「そうよユウナちゃん、他のみんなだって一緒だし、その人に話聞いてみましょう」

と、レイアたちフェアリーに口々にそう言われて、悠奈は「ウン・・」と気乗りはしないながらもとりあえずそのゼル達が捕えたというヘンな人に会ってみるコトにした。





「コレが・・・フォースクリスタル?」
「・・・キレイだ・・・それにおっきい。レイア、クリスタルってみんなこんななの?」
「ううん、わかんない。アタシも本物は初めて見た。ホントはこんな危ないクリスタル、あっちゃダメなものだから・・・」
「そっか・・・確か、コレがあと2カ月もせんうちにグローリーグラウンドの魔力吸うてまうんやったな?」
「そう、わたし達にとって・・・とってもキケンな、呪われた石」


しかし、そんなウェンディの説明を聞いても、悠奈は目の前で青白い光を発しながら宙に浮かんでいる、蒼いダイヤモンド型の水晶の美しさに目を奪われていた。
大きい。大きさにして3メートルはあるだろうか?
淡い青色の光に点滅しながら、リッツロックの神殿の滝壺近く、湖の上に、フォースクリスタルは上下にゆっくりと浮遊していた。
その様子は幻想的というよりも一種神々しくすらあり、悠奈だけでなく、日向や七海、他のメンバー達も、そしてヴァネッサ達保護者の面々も、すっかり眼を奪われていた。


「・・・京・・くん・・・コレって・・・夢じゃないのよ・・ね?」
「ああ・・・信じられねえケドな」
「でも・・オレ、やっぱりまだ信じられねえ・・こうやって間近で見ても、こんなデケエ石が光って宙に浮いてるなんて・・・」
「確かに・・・でもまあ、考えてみりゃオロチの力なんてのも似たようなもんだったし、案外こういう非現実的とも思えることなんてのは、世の中まだまだ転がってるもんなのかもな」


と、京やヴァネッサ、陽生がそんなコトを話していると、その話が終わるのを待っていたかのように、ゼルが切り出した。

「まだ地上から魔力を吸い上げる動きは見せていないようだ。今のうちにユウナたちの魔力でコイツを無力化しねえと・・・」

「そっか・・・あ!そう言えば、ゼルぅ!さっき話してたヘンなヤツって?」

と、フォースクリスタルの出現にすっかりと心を奪われていた日向が思いだしたようにゼルに言うと、ゼルもそうだったと手を打った。

「おおっ!そうだそうだ!忘れちまってたぜ」
「もぉ、ゼル、しっかりしてよねアンタ・・・」
「いやぁ、面目ねえ。コッチだよコッチ」







「ん?おやおやぁ、コレはまた新しいお客さんたちですねえ。んん?しかも、小さい・・・小人族でしょうか?それとも新種のフェアリー!?って、だっはっはっは!そんなワケないですねえ、なんで小さいのかってそりゃあ子どもだからでしょう子ども!だっはっはっは!いやいや私としたことが・・・見て見ればみなさん中々可愛らしいお顔の子ども達ばかり!いやいや子どもっていうのはいいもんですねぇ・・ん?どうしました?私の顔になんかついてますかねぇ?」


と、会うなりいきなり湯水のようにペラペラと、そして真鋳のようにけたたましくしゃべり出したこの男。

2〜3のレインヴァードの王宮兵士たちが駐屯しているフォースクリスタルの現場、そこに設けられた小さな野営地のテントの中。その中央の絨毯の上に座って何やら図鑑のようなモノを眺めていた顔をパッと上げて現れた悠奈たちに向かって話した。

一体全体何なのこのヒト!?と悠奈や七海、那深や沙良などという女の子連中、そしてレイアやウェンディ、クレアやリフィネなどの女の子のフェアリーたちは思い切り不安で怪訝な表情を表に出しながら引いた。なんの感情も示さなかったのは例によって物事をよく考えない麗奈と彼女のパートナー、ルーナだけである。
日向達男の子メンバーやそのパートナーフェアリーたち、そしてヴァネッサ、京をはじめとする保護者連中も何だコイツは?と言わんばかりの顔である。


「ずっとこんな調子でな・・・近くの僧侶と薬の街、ドウンガから来たらしいんだが・・・」
「そう話していくうちになんかすごい面倒なコトになってるらしくて・・・」

「メンドウ?おや?メンドウなコトが?どこにどこに?あ!なぁ〜るほど、メンドウなコトっていうのはワタシのコトですねぇ〜〜そりゃそうだ!いやぁ〜申し訳ない、だはっだはっだっはっはっは!」

「メンドウ・・ちゅうか・・・」
「もうヤバイのが空気で感じるんですケド・・・」
「アキラくんもヒカルくんもやっぱりそう思う?オレも・・・この手のニンゲンには関わっちゃいけないってママが言ってたような・・・」

と、光と晃、窈狼までもがそう言った直後、またしても人を刺激することが得意なこの子が口火を切った。

「ケッだはだはだはだは、ぅるっせえヤローだぜ、よお、テメエ何モンだよ?」


どんな立場の人間にも遠慮容赦ないのがこのコである。
彼のそんな言動にビクっとしたヴァネッサの前に悠奈は彼の腕を引っ張ると憮然とした表情でキツク言った。

「ちょっとレイ!さっきからアンタの言い方空気読めなさすぎ!ちょっとは黙ってよ。もっと別の言い方できないの?聞いてるだけでさっきからマジウザイんだけど?そんな言い方しかできないんなら黙っててよね」

「あ?テんメエ誰にクチぃ聞いてんだ?」

「ア・ン・タ!あたしが聞いてみるからちょっとしゃべんないで!」


と、悠奈にそう言われると、フン!と言いつつも麗はそっぽを向いて腕組みをした。


〈す・・す・・・すっげぇ〜〜・・・・見た見た!?みんな、ユウナが・・・〉
〈あのレイちゃんを・・ウソやろ?〉
〈言い負かしちまった・・・〉
〈黙ったでぇ〜・・あのレイが・・〉
〈てっきりブチギレると思ったら・・・〉
〈レイちゃんが・・・何にも言い返さないなんて・・ありえないくない!?〉
〈ふわぁ〜〜・・スッゴイよユウナちゃん・・・レナでもレイちゃんにあんなコト言えないのに・・〉
〈ってかレイにあんなコト堂々と言えんのユウナくらいじゃね?〉


今悠奈がやったことの偉業に、日向達他のメンバー達は、麗の性格を知っているだけに口々に小声でそう言い合った。
彼等だけではない。
ヴァネッサや陽生など、長年の付き合いから麗の人間性を熟知している人間もあんぐりと口を開けて悠奈の方を見ている。

「ウッソぉ〜〜・・・あのレイちゃんが?」
「年下の女の子に言いくるめられちまった・・・」

「?なんだ?スゲエことなのか?」

「え・・ええ、かなりの・・大事件かと・・」

「そうなのか?スゲエんだなユウナちゃん」


と、そんな言葉など聞こえるハズもなく、悠奈は別にキケンなヒトではないなと判断すると、テクテクと絨毯の上に座った男の方へと歩み寄って行った。
危険はないのだろうが、見れば見るほど奇妙な男だった。
長い前髪にすっかり隠れた小さな目、ずんぐりむっくりの体系で笑った時にはすきっ歯が見える。
ブカっとしたセーター調の緑の上着には何の酔狂かパーカーのようなフードまでついており、その下には茶色のアンダーシャツ。同じくブカブカの紺色のズボンに茶色の長靴。
オタクのお兄さんたちが良く担いでいるようなでかいリュックのようなカバン。

小さい頃からママの趣味でオシャレな服を着せられ、ファッションセンスには割と敏感な悠奈から見れば何から何までチグハグであり得ない妙なコーディネート。
(うっわぁ〜・・・ダッサ・・・ハズイにもホドがあんじゃんこのコーデ・・・)
しかしこの際そんなコトはどうでもいい。
嫌悪感を顔全体に一瞬現した悠奈だったが、かぶりを振ってその男の目線に身を沈めると、勇気を出してこう聞いた。


「あ・・アナタ・・だれ?ダークチルドレンズとか・・・メイガス・エミリーとかの関係者?」

「ん?おやおや、可愛らしいお嬢さんですね。はぁ、そのダークチルドレンズって名前、さっきからよく聞くんですが・・どうにも、聞いたこともありませんねぇ・・・」

「じゃあ・・・レインヴァードの人?それとも、さっきゼルが言ってた・・えっと・・」
「ドウンガだ」
「そうそれ!ドウンガって街から来たの?」

と、ゼルからナイスアシストを受けた悠奈の質問に、男はボリボリと頭を掻いて首を傾げた。
と、男の髪から派手にフケがパラパラと落ちる。

(ゲッ!何コイツ!?ちょーフケツなんですけど!)

思わず飛び退く悠奈。そんな彼女の嫌悪の眼差しにも気づかずに、男はゆっくりと話し出した。


「ハァ・・・それもさっきから聞かれてるんですが・・・まぁ、そうです。今日はそのドウンガからやって来ました。しかし・・・ワタシがドウンガの人間かと聞かれると・・・どうにも答えられないんですよ」

「え?」
「な・・なんだよ?ソレってどういう事?」

と、悠奈の傍に近づいてきた日向も、男のその言葉が気になって思わず声に出して尋ねた。

「ハア・・・実は、ワタシつい2カ月ほど前に気づいたらそのドウンガの街の噴水の傍で倒れていたらしいんです。街の町長さんが気付いてワタシを地元の警備隊の元に連れて行ってくれたようで・・・気が付いたらそこでした」


この話に、悠奈や日向だけではなく、他のメンバー達やフェアリー一同、そして大人連中までもが「え?」という顔で互いに顔を見合わせた。
悠奈はそこで恐る恐る聞いた。

「えっと・・・つまり?」

「ハァ・・・ワタシ、情けない事に記憶を失っているようで・・・」

その告白に子ども達の間に『えぇ〜〜〜〜っっ!?』と起こる驚きの声。

「キオクソーシツの人だ!」
「スッゲェー!ガチのキオクソーシツ初めて見た!」

「こ、コラ!レナちゃんサラちゃん。人をそうやって指ささないの。失礼でしょ?」

と、興奮してギャーギャー騒いでいる子ども達を落ち着かせながら、今度はヴァネッサが悠奈たちの間に割って入って事情を尋ねる。

「と・・いうコトは、アナタ・・・ご自分のお名前もわからない・・とか?」

「あ、いえ・・どうやらそれはダイジョウブなようでして、名前は憶えているんです。申し遅れました。ワタクシ、パーシーと申します。しかし、残念ながら憶えているのは名前だけでして、苗字も忘れてしまったんです。ですから自分がどういったものか・・・何所の生まれでどういった氏素性の者か、そういったことも何1つわからなくって・・・」

「どうやらそうらしいんだわ」
「そ、だからメンドウなコトになっちゃってるってワケなんだよ」

ゼルとルシアもタメ息混じりにそう言う。

「スミマセン・・・それ以来、ドウンガの街の警備隊員さんの詰め所でご厄介になっており、身の回りのお世話をさせていただいています。皆さんワタシの身の上に同情して下さって色々と気遣って下さるのはありがたいのですが・・・素性がわからないからしてどうも・・・」

「その名前も勘違いとか記憶違いってのはねえのか?」

と言った京の質問に、パーシーと名乗ったその男はカバンの側面を見せながら即答した。

「いえいえ、それは大丈夫だと思います。ホラ、ココ。パーシーと書いてあるでしょう。自分の名前の記憶だけはありますし、ココにも書いてあるので、それは大丈夫ではないかと・・・」

「じゃあ・・その横に書いてあるその、メディアン・・ってのは?」

陽生の言葉にその場にいた全員がカバンの側面を見る。
見ると、白いカバンのその場所に、太い黒の刺繍で「パーシー」と縫われており、そのすぐ横には「メディアン」と刺繍が施されていた。

「ハア・・それなんですが、このカバンの中には何故か多くの薬や薬草が入っていました。あ、ワタシ、その薬や薬草でモンスター退治などでちょっとしたケガを負った自警団員さんたちの治療もしておりまして・・・ですから、その【メディスン】と入れ間違えてしまったのではないかと・・・」

「そう・・・なんだ・・・」

「それで、このままココにいても仕方ない。街の人に聞いたこの神殿で、僧侶の方々や司祭様に事情を説明すれば何かわかるのではないかと思ったのですが・・・あいにく留守のようでしたので・・・」

「それで神殿の中をコソコソ覗いたりウロウロしたりしてたってワケか!」
「だったら悪いコトしちゃったわね」

「いえいえ、いいんですよ。傍から見てもかなり怪しい行動だったと思いますし、自分でもね。だっはっはっは!」

と、なんでそこで笑いだすのか意味は分からなかったが、悠奈はだんだんとこのパーシーという男が可哀想に思えて来た。
自分が何者なのかどこから来たのかすら一切わからない。
もしそれが自分だったら・・・パパやママや、ヒナタくんのことも何もかも忘れてしまったとしたら、どんなにコワイだろう?
そう思ったら、悠奈は、この人を自分達でどうにかできないものかとそうした感情が沸々と沸き上がってきた。


「ねえ・・・」

「ハイ?」

「・・・アナタさあ・・・」


と、悠奈がパーシーに何か言おうとした、その時だった。


「見つけたあっ!セイバーチルドレンズ!チックショ、やっぱり先回りしてやがった!」
「もう!アカネ!アンタが中々ゲーム切ろうとしないからでしょ!」
「そうですわ!アカネさんとアミさんがいつまでも遊んでらっしゃるから!」
「えぇ〜〜?ミウちゃんもしてたよねぇ〜?「妖怪サーチ」」
「あ・・・アタクシはアナタがたに仕方なく付き合ってただけで・・・」


突然テント内に上がった子どもの声。
驚いて全員が振り返ると、そこには変身前のダークチルドレンズの面々、それぞれ12人が勢ぞろいして悠奈たちを睨み付けていた。


「ダークチルドレンズ!?・・アンタたち!」
「どっから入って来た!?表の兵たちは!?・・・まさか!?」

ゼルが駆け出し、それを横目で小バカにしたように見つめるダークチルドレンズのメンバー達。


「トム!ジェリー!デール!」


テントを出てそう叫んだゼルだったが、広がっていた光景にギリッと歯ぎしりをした。


「へっ片付けたに決まってんじゃねーか。弱えなコイツら、肩慣らしにもなりゃしねえ」
「・・・オレ達のジャマするからだぜ」

「うっ・・ううぅっ・・ゼルさん・・・」
「すみません・・・不意打ちを喰らいました・・・」


辺りに転がる3人の兵士。
大人の彼等を2人の少年が足蹴にして悠々と佇んでいた。

茶髪の小柄な少年はチアキ、太めの体格のそばかす顔で黒髪短髪の少年はリッキという名だっただろうか。
ゼルに連れられて外に出る悠奈たち、そしてその後をゆっくりと追って出るダークチルドレンズ。
辺りに煙が立ち込めている。おそらくチアキとリッキは遠くから攻撃魔法をぶつけたのだろう。
悠奈は痛そうに地面に突っ伏している3人の兵隊さんを見て、胸がチクリと痛む。
そして怒りの眼差しを中央でメンバー達を率いてるサキに向けた。


「睨みつけるんだったら腕づくで何とかしてみたら?」

「どうして?どうしていつもこんなヒドイことするの?」

「すべてはエミリーさまの魔力を取り戻し、エミリーさまの理想郷を創り上げるため。そのためにはアンタたちも叩き潰してそのレイアってフェアリーを手に入れて、そしてウイッチクイーンとやらも突き止めて排除してやらなきゃね」

「そんなコト・・っ!」

「うるさいわねェ!イヤなら戦いなさい!ココで、私達とフォースクリスタルデュエルを」!

サキはおもむろにフォースクリスタルの方に手を翳すと、静かに呪文を唱えた。



「フォースクリスタルよ、今こそ、我、このグローリーグラウンドの万物を司りし魔力の名の下審判を仰ぐ、汝を解き放つに相応しき者をこの場にて見定めたまえ!バトルフィールド・オン!」



とサキがそう唱え終わった時だった。
ゴゴゴゴゴ・・・ッという激しい地響きと轟音。
やがて湖の中からドザザザザザと水飛沫を上げながら、巨大な青い石でできたリングが現れた。
四隅にはエメラルドブルーに輝く、ダイヤの支柱が立っている。


「コレがクリスタルリングよ。このフォースクリスタルデュエルは、お互いのメンバーからそれぞれ3人、メンバーを選出して1対1のバトルを行なうの。勝ち抜けた方は続闘でも交代でもどちらでも構わないけれど、先に2勝を挙げた方が勝ちよ。正し、最初に選出の条件がクリスタルからリング上にそれぞれのチームに指示されるわ。勝敗は、どちらかがギブアップするか泣いちゃうか、それかリングの外に出ちゃうコト。それにのっとって、アンタたちが勝てばこのクリスタルはアンタたちの好きにしていい。けれどあたしたちが勝てば、このクリスタルにマジックロックをかけて2度と解放できないようにするわ。ルールはわかったかしら?」

悠奈はサキの説明を聞いて、日向の方を振り向いた。
ルールはなんとなくわかった。用はこのセイバーチルドレンズのメンバー内から誰かを選出して1人で闘わなければならないのだ。
しかし、問題は、悠奈にはそんなコトとても決められないというコトだった。
悠奈は不安たっぷりの顔で日向を見つめる。そんな悠奈に日向は優しく笑いかけた。


「大丈夫だよユウナ、そんなに心配しなくっても」


日向はサキの方へと眼を向けると、凛とした口調で言った。


「メンバーの選出は、悠奈じゃなくってもいいんだな?」

「・・・基本は、パーティーのリーダーなんだけど・・・何?リーダーってアンタなの?」

「リーダーが誰かなんて決めてないケド・・・そうじゃなきゃダメなんだったらオレがこれからリーダーやってもいい」

と、日向の突然の言葉にメンバーは彼を驚いた様子で見ていた。
京も、従弟の思いもよらいない発言に眼を丸くしている。

「じゃあアンタがやってもいいわ。ユウナじゃないのはちょっとシャクだけど・・・」

「ヒナタくん・・・」

「大丈夫、オレにまかせて・・・ゴメンね、ヒカルちゃん、レイちゃん、勝手に決めちゃって」

「オレは全然かめへんで、今のヒナ、ムッチャカッコ良かったで」
「オメエがそうしたいんならそうしな。どっちにしろあのガキの思い通りにやらせんなぁいけ好かねえかんな。みんなもそれでいいな?」


という麗の言葉に、みんながいっせいにうなづいた。



「へぇ〜、なかなかカッコイイマネすんじゃねえか」

と、そんな声がふと虚空から聞こえた。
すると、湖の周りにある森、その1本の巨木の木の枝に、アジアンブラックの髪の少年がスタっと降り立った。





「よ!愛しのユウナ、元気か?」

「おっ・・お前っ・・!」
「アンタっ・・・!」


「ああぁぁーーーーっっ!アンタ、いつものヘンタイネコ男!」

「オイオイ、誰がヘンタイだよヒッデエなあ、ユイトって呼んでくれよ」

「だっっれが呼ぶか!」

現れたのは、いつも余計なちょっかいを出してくるユイトと呼ばれる少年だった。
いつもの皮肉めいた笑みを浮かべながら、悠奈やサキを眺めている。


「ヤオトメ・ユイト!アンタ・・・何しに来たのよ!?」

「何って・・・見学じゃねーか?な?レム」
「キッシシシシ・・・そうだぜぇ〜ん、オメーらがまぁた失敗するかどうか、オレたちが見物しに来たんだよぉ〜ん」
「余計なお世話よ!」


と、今度は茶々を入れられて怒るサキを軽くからかうユイト。
彼女が少々取り乱しかけたところで今度は日向に眼を向ける。


「オレがリーダーになる・・・か。中々様になってるセリフだが、お前にどこまで背負えんだ?ヒナタ」

「・・・どういう意味だ?」

「ホンキで覚悟があんのか?ってコトだよただ単にユウナの前でカッコイイとこ見せたいだけなんじゃねえかとも思えてな」

「なにぃ!?」
「アンタぁ、ウチのヒナのことコケにしよったらこのナナちゃんがシバキ倒したんでえっ!」

ユイトの軽口に日向だけでなく、七海も喰ってかかる。
ユイトはそれを見てカラカラと満足気に笑う。

「おーコワ、なんだよどいつもこいつもつれねーでやんの。やっぱりお前だけかな?オレのコトわかってくれんのは?な?ユウナ」

「//////バッっっ・・・だれがあぁ〜〜っっ・・アンタなんかっアンタなんかあぁぁ〜〜〜っっっ///////」
「ゆっ・・ユウナちゃんってば!落ち着いて!」


人をからかってはそれを面白がっているユイト。
そんな彼に、ヴァネッサや陽生も

「な・・・なんなのあのコ・・・失礼なコね・・・」
「人を喰ったヤツっスね・・・生意気そうなガキだぜ・・・」

と苦言を呈したが、ただ1人、彼だけは妙にユイトのコトが気にかかって仕方なかった。

(あのガキ・・・この前もヒナやユウナちゃんにちょっかい出してたな・・・一体何モンなんだ?)

どうしても気になる。
いや、彼だけでなく、普段温厚な日向までもがユイトのコトになると妙に感情を表に出してしまうような気がする。
何かあるのか?それともそれはユイトのもともとの性向によるものなのだろうか?


「とにかく、今日のオレはただのケンブツだ。さあ、オメエら、好きなようにやってみろよ」

そんなユイトの言葉にサキは「言われなくたってそうするわよ!」とキレ気味に答える。

「ジャマが入ったけど・・・はじめるわよ、フォースクリスタルデュエル!それと言っておくけど・・・そこのオトナども!」

サキはヴァネッサ達に指を突き付けながらキツイ口調で言った。

「この戦いはあたし達ダークチルドレンズとセイバーチルドレンズの闘い、余計なジャマをすれば、フォースクリスタルデュエルそのものが台無しになってグローリーグラウンドがめちゃくちゃになるから!それをよく覚えておいてね!」

「・・・用は手を出すなってコトね」
「っかぁ〜・・ナマイキなガキ!」
「イリーナって娘にも言われたっけか?もともとコイツぁヒナたちの喧嘩だろ。俺達が口挟む問題じゃねえよ」

京はそう言って、1人、湖のほとりにどっかりと座り込んだ。ゼルやルシアも戦闘態勢を解く。
その様子を見て、サキは再び悠奈たちに眼を向けた。

「さあ、フォースクリスタルよ!まずはセイバーチルドレンズにバトルメンバーの条件を!」

するとクリスタルがビカッ!と点滅し出した。そしてクリスタルからこのような声が響いた。


「戦いの場へ赴く者、汝と齢を同じくする者を」


機械的ではなく、深みのある低い老人のような声。
しかし、クリスタルの声のことなど日向にはどうでもよかった。

「?へ?よ・・わい?・・よわいを同じく・・って?」

言葉の意味が難しくてわからない日向に、傍で見ていたヴァネッサが声を上げた。

「ヒナちゃーん、齢っていうのは、年齢、トシよトシ!同い年って意味!」

「同い年・・・って・・・」

日向はメンバーを見渡す。
自分と同い年、ならばもうそれだけでメンバーはかなり限られてしまうことになる。
日向と同い年、同級生と言えば、悠奈と七海、そして窈狼だけである。

「ヒナタ!オレがやる!」

ここで窈狼から声がかかった。
確かに、このメンバー内で格闘に1番自信があるのは窈狼だろう。日向はコクリとうなづくと
「わかった、じゃあ、ヤオラン、頼む!」
と言った。


「いよぉーっし!やってやるぜ!」

気合十分、まずは窈狼が対決のリングに上がった。
続いてダークチルドレンズにメンバーの条件が発せられる。


「戦いし者と、同じく男児を!」


という声がかかった。

「へっ・・いきなりオレの出番か」
「いや、オレが行く」

と、意気揚々とリングに上がろうとしたチアキの前にズイと進み出て来た少年、リッキがチアキを遮った。

「コラ、デブ。なにフザケたコトほざいてんだ?オレがやるっつったらやるんだよ!」

「サキ、お前が決めてくれ。オレとコイツ、どっちがアイツと闘うか」

サキは少し考えてから、うなづいて答えた。

「わかった。じゃあリッキ、お願い」

「ああ」

そう言ってリングに上がったのは、太めの体格にそばかすが特徴のリッキだった。

「テメエ!サキ!何のつもりだ!なんでオレじゃねえんだよ!」

「これから先だって出番はあるでしょ?まずはリッキにまかせただけ、文句なら彼が負けた後にして」

「・・・ケっ!」


不機嫌満々のチアキだったが、それ以上言い争おうとはしなかった。

リングの上には窈狼とリッキの2人がそれぞれ並んだ。

「さあ、お互いにヘンシンよ!」



「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」
「ダークスパークトランスフォーム!」


両者の体をそれぞれ黄金と紫の光が包む。
現れたのは、ライトアーマーとハンマーの武具を身につけたリッキと、ボディパッドに手甲を身につけた窈狼だった。

「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「剛力粉砕天下御免・・ダークチルドレン・ブルリーファイター!」

「うりゃあっっ!」

先に仕掛けたのは窈狼だった。
ハンマーを抱えたリッキの軸足に、ローキックを叩き込む。
ビシイッ!と鋭い音とともに、リッキが「うっ・・」と顔をしかめる。


「っ・・のヤロオっ!」

リッキがハンマーを振り回す。その時にはもうソコに窈狼の姿はない。
逆にその回転力が仇となり、態勢を崩したボディーに、今度は窈狼のボディブローが突き刺さる。
今度は息がつまるリッキ。
窈狼は手ごたえを感じた。


(イケる!思った通りだ。このデブ、オレの動きについてこれない。いくらバカ力だって当たんなきゃ意味ないんだよっ!)

「ハァイやぁっ!」

窈狼はそのままリッキの背後に回って飛び蹴りを叩き込んだ。リッキがそのままリング上にもんどりうって倒れる。

「止めだ!」

勝ちを確信した窈狼、そのまま突進から渾身のパンチを叩き込もうと倒れ込んだリッキ目掛けて襲い掛かる。

(やった!この戦いでカッコイイとこ見せれば・・・ナナミだって・・ナナミだってオレのコト・・・っ!)



「・・かかったな!」

                    ガシイッ!


鋭い音、しかしそれは窈狼の拳が決まった音ではなかった。

「!!・・なっ・・」

窈狼の拳はハンマーを放り出したリッキの腕の中に取り込まれていた。

「っっ・・・くっ・・はなっせっ!」
「はなすか・・よっ!オラ!」

「うわぁあっ!」

グワッと窈狼の視界が反転する。
世界が逆さになったかと思った刹那、窈狼の背中を衝撃が襲った。
リングの上に思い切り背中から叩きつけられる窈狼、リッキが柔道の裏投げのような強力な投げをお見舞いしたのだ。

「かっ・・はあっ・・」

痛みと衝撃に息がつまる。
体が痺れて動けない。そんな窈狼にリッキが迫る。

「うおおぉおーーっっ!」
「くっそっ・・・うっらああぁーーーっっ!」

体の痺れを抑えて何とか立ち上がった窈狼、突進してきたリッキの顔面を正面から正拳が捉える。
カウンターが決まった。
そう思った時だった。


「うああぁぁっっ!」


窈狼の体を再び重い衝撃が襲った。
彼のパンチは僅かに左に逸れ、逆にカウンターでリッキに強烈なショルダーチャージを受けていた。
そのままもんどりうってリング上を転がり、リングの外の湖にダッパアンッ!と落ちてしまった。



「どうやら決まったみたいね、第1戦、勝者リッキ!」


「わあぁーーっっスッゲエ!リッキやるじゃねえか!」
「オーホホホホ!褒めて差し上げますわv意外と役に立ったじゃありませんこと?」
「ええ、アナタよりずっと・・・」
「ちょっとミリアさん、ソレってどーゆーコトですの!?」


と、リッキの活躍にアカネやミウ、そしてミリア、他のメンバー達からも喝采が起こった。
当のリッキは少し顔を赤らめながら、初勝利の舞台を後にした。
一方のセイバーチルドレンズ側。


「そ・・そんなぁ・・オレが・・敗けた?」

ガックリと肩を落とし、窈狼は水から上がると、そのまま日向達メンバーのもとへ力なく戻った。

「・・・・ゴメン・・・」

「気にするなよヤオラン、大丈夫か?」

「・・・ウン」

「ケガとかしてへんのか?ヤオ」
「大丈夫?ヤオラン」

「ありがとヒカルくん、ユエも・・大丈夫だよ」

「気にすんなや、また後2つ取り戻せばええねんから」

と、光は笑って言ったが、気まずい空気に配慮しない声が。


「チッ役立たずが。使えねえなオマエ」
「オイ、レイ!やめとけって」
「ちょっ・・レイちゃぁ〜ん、ソレって言い過ぎだよぉ」
「そうよぉ、もうちょっと優しくしてあげてよ」


麗の言葉に晃や麗奈、那深などが窈狼を気遣ってそんな反応を示す。
しかし彼にとって1番辛かったのは・・・


「お疲れ、ヤオ」

「え?あ・・ああ、ゴメン、オレ・・・」

「・・ま、気にせんでもええって、後2つ勝てばええし、ヒナにあとはまかしとき」

「・・・うん」

七海がかけてくれる優しい言葉だった。



(・・・せっかく・・・ナナミにいいトコ見せるチャンスだったのに・・・)



「ああ・・・ヤオちゃん、大丈夫かしら?」
「惜しかったんスけどねぇ・・・」

「・・・どうかな?」

「?京・・・」

「あのリッキってガキ、ヤオランの攻撃がわかってたんじゃねえかな?だから蹴りにもパンチにも耐えれた。来るとわかってる攻撃なら耐えられるし、ああやって受け止めて反撃もできる・・・」

「オイオイ、するってえと何か?あのガキが圧されてたのは・・・ひょっとして演技?」

「かどうかは分からねえが、ともかく最後の攻撃は読まれてたんだろ。ま、コレで1敗目、幸先は悪いが、ここからどうするかな?」


と、ヴァネッサや京、ゼルたち大人連中も、そう言いながら状況を見守っていた。

「第1戦は我ら、ダークチルドレンズの勝ちね。さあ、とっとと第2戦行くわよ!」

サキのそんな声に応じるように、セイバーチルドレンズへメンバーの条件がクリスタルより発せられる。

「各々、我こそは思わん者」

「・・・えっと・・・今度はどういう事だろう?」

「あら、アンタたちチャンスじゃない。それはパーティーから好きなメンバーを選出できるってコトよ」

「そっか・・・そう言うコトか」

日向に向かって、面白くないようにサキが説明する。
その説明を受けて、麗から声が上がる。

「よし、オイ、ヒナ。オレにやらせろ。ヤオランの負け星、オレが取り返してやる」

日向は麗の方をしばらく見ていたが、コクリとうなづくとクリスタルの方へ向かってハッキリとした口調で言った。


「第2戦は・・・・・オレが、オレがやる!」

と、その言葉に悠奈をはじめ、チルドレンズのメンバー達皆が驚いた。

「ひ、ヒナタくん!?」
「オイ、ヒナ!どういうつもりだ?オレがやるって言って・・・」

「ゴメン、レイちゃん。ココはオレにやらせてくれないかな?大丈夫だよ。必ず勝つから、レイちゃんはまた、別の時にお願いするだろうから今は・・・」

と、いつになく真面目な雰囲気で日向にそう言われ、流石の麗も憮然とした顔で「チっ勝手にしろ」とだけ言うと、それ以上は何も言わず、湖の原っぱの上にゴロっと寝そべってしまった。


「あら?なにリーダーが直々に出てくるの?」
「そうだ!オレだ。さあ、そっちは誰が来るんだ?」


「ハイハイハ〜〜イ!アミアミ!ねえねえアミにやらせてぇ〜v」


と、そんなノーテンキな声が響き渡る。
見ると青髪の少女、アミが手を振って周りの意見もそっちのけでリングにドタドタと上がり込んで来ていた。

「アミ!ちょっとアンタっ!」
「なぁに勝手に決めてんのよ!?」

「えぇ〜?いーじゃん、アミにまかせてよ!アミの魔法とマジックショックガンでちょちょいって片付けちゃうからさあvねえ、いーでしょサキちゃ〜ん」

そんなアミを見て、サキは小さくうなづくと

「いいわ。わかった、アミ、そんなに自信があるならやってみなさい」

「きゃあぁ〜〜vやったぁー!」

「ただし、クリスタルが提示する条件に合えばだけどね」

と、サキが言った瞬間、クリスタルの方から声が響く。


「魔力を操りし女児を」


「・・・どうやら、条件には合ってるみたいね。第2戦、アミ対ヒナタ!開始!」


「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」
「ダークスパーク・トランスフォーム!」


それぞれ、変身によって光が体を包み込む。鮮やかな赤い光と紫の光、そしてその中から、それぞれコスチュームに身を包んだアミと日向が現れた。


「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「すべてを打ち抜く、魔の銃撃・・ダークチルドレン・ソリッドガンナー!」


「そぉれ行っちゃえ!えいっ!」

まずはじめに、アミが日向に向けて銃撃を放つ。
蒼く光り輝く銃弾、日向がそれを走って躱す、躱した先、命中したリング上は煙とともに氷が張っていた。

「キミって火のアトリビューションだよねぇ?火には冷気!冷気系の魔法を詰めたこのマジックショックガンでやっつけちゃうから♪」

そう言ってアミが次々に日向に向けて銃撃を放つ。
ドン!ドン!という音とともに次々と青い銃弾が日向を襲う。それを何とか躱す日向だが、いくつか際どい攻撃に悠奈や七海から悲鳴が上がる。

「ヒナタくん!」
「ヒナぁ!危ない!」

しかし、日向は今度は飛んできたその弾丸を正面から剣で受け止めると、一足飛びで隙を突いてアミに接近する。

「きゃっ!?」
「それ!」


刀の背、刃の無い方でアミの銃を見事に払って叩き落とす。
そしてアミに向けて刀の切っ先を突き付けた。


「オレの・・・勝ちだ!さあ、降参して」
「・・・・・」


見事な日向の勝利、その光景にセイバーチルドレンズの面々から歓声が上がる。

「ヒナタくんスゴイ!」
「きゃあぁーーっ!ヒナぁ、さっすがぁ〜v」
「ヒナちゃんスゴォ〜イ」
「カッコイィ〜〜っ!」
「やるやないけヒナぁ〜」


だがしかし、アミはぷうっとふくれっ面をするとその場から飛び退き、日向に向けて手を振り上げた。

「まだだもんね!アミまだまいったしてないもん!大いなる水の精霊、ウンディーネよ、凍結の力をもって目の前の邪なる者を射抜け・・・アイススパイク!」

殆ど不意打ちに近い形で日向に向かって氷の刃が降り注ぐ。

「うわあっ!?くっ・・そおっ!」
「ヒナタ!気をつけろ!」

日向も突然の攻撃に驚き、イーファもそれに注意を促す。彼は思わずその刃に向かって、得意技を放っていた。

日向の放った草薙流・百八式・闇払い。
それはアミの召喚した氷の刃を軒並み薙ぎ払い、そのままアミの足元に命中した。

「きゃああぁっっっ!??」
「あ!しまった!」


日向が顔色を変えてアミの方へと駆け寄る。
どうやら直撃は免れたようだが、足元へ炸裂した闇払いの威力にアミはビエビエと声を上げて泣きだした。

「あつぅ〜い・・・えぇ〜ん、ヒドイ、ヒドイよぉ〜・・・うえ〜ん・・」
「ごっ・・ゴメン!つい・・ヤケドしてない?ケガしてない?大丈夫?」


不意打ちで魔法をぶつけて来たアミのほうがはるかに卑怯なのだが、泣いているアミに必死に謝る日向。
そんな光景を見て、たまらずにサキが叫んだ。


「ああもう!なにやってんのよアミ!泣いちゃったから負け!第2戦、勝者ヒナタ!」


と、その瞬間日向の勝利が今度こそ宣言され、セイバーチルドレンズの面々から「やったあぁーっ!」という歓声が起こった。

「すごかったよヒナタくん!」
「ヒナ超カッコイイ!おめっとーv」

「そ・・そんな・・でもよかった。なんとか勝てて」

「ったく、あんなヤツホントに闇払い直撃させてやりゃよかったのに・・・しかも大丈夫か?って、どんだけお人よしなんだよオマエ」
「まあ、それがヒナっぽいケドな」


麗や光もそう言って日向の甘さを指摘しつつも彼を労った。
傍で見ていた大人たちも日向の技量の高さにすっかり感心している。


「やるじゃないの京くん!ヒナちゃんスゴイわよ!」

「ま・・まあ、なんたって師匠がいいからなぁ」

「流石ですって!京さん、オレも驚きました!」

「ああ、オレもだ。まさかあんなに強かったなんて」
「将来が楽しみな戦士だな」

(驚いたぜ・・・いつの間にあんなに強くなったんだヒナのヤツ)


京は、今見た日向の見事な戦いぶりに、彼にしては珍しく舌を巻いていた。
流石はあの天才格闘家、草薙蒼司(くさなぎそうじ)の息子といったところか?そんな京の思いなど、今の日向は知る由もなかっただろう。




「何してんのよアンタわあ!」
「散々自信たっぷりに言っといて結局そのザマ!?」

「えぇ〜ん・・だってぇ・・・」

今度はダークチルドレンズが慌てる番だった。
帰って当然の如く、ジュナやナギサから怒られるアミ、ナオやリコといったメンバーも頭を抱えていた。


「今は仲間割れしてる時じゃないわ、コレで1対1のイーブン・・・次で勝つわよ!さあ、クリスタルよ、それぞれのパーティーに条件を!」


サキがそう叫ぶと、運命の第3戦、クリスタルから互いのチームへそれぞれ条件が出される。
まずセイバーチルドレンズ側


「魔法を操りししかるべき女児を」

次いでダークチルドレンズ側

「魔法を操りししかるべき女児を」

なんと同じ条件だった。


「よし・・・今度はあたしが行くわ!」

と言ってリングに上がったのは、リーダーのサキだった。
彼女の姿を見て、悠奈はうなづいて決心すると、日向に向かって言った。


「日向くん、あたしにやらせて!」

「!ユウナ?」

「あのコと闘うのは・・・あたしじゃなきゃいけない気がするの・・・だから・・・」

「・・わかった。でも気を付けて、ムチャだけはするなよ?どうしても無理なら、イリーナさまに相談して、また新しい方法を探せばいいんだからね」

日向のそんな優しい言葉にコクリとうなづく悠奈は、そのまま自分もリングに上がる。


「あら?アンタが相手?アイザワ・ユウナ」
「そうよ、アンタの好きになんかさせないんだから!」
「ったくどこまでもナマイキな!ジュナ!さっさとはじめちゃって!」

「ハイハイ、わかったわよ。第3戦、はじめ!」


「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」
「ダークスパーク・トランスフォーム!」


まき起こる鮮やかな桃色と赤紫色の光の爆発。
爆発の中から、それぞれコスチュームに身を包み、頭髪も派手に変化した悠奈とサキがそれぞれ現れた。

「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「黒い魔力に魅入られた光・・ダークチルドレン・ブラックウィッチ!」


「エリザベート!」
「ハートフルロッド!」


それぞれアクセサリーから武器を召喚し、リング中央、ガキィン!と音を立てて互いに見合う悠奈とサキ、正面から見据えたサキの瞳は、妬みと怒りに歪んで見えた。

「どうして・・・どうしていつもいつも!アンタの目的はなに!?そんなにエミリーのコトが大事なの?みんなに、あんなにヒドイことしてるのに!?」
「ウルサイ!黙って!アンタなんかにエミリーさまの何がわかるっていうのよ!」
「わからないよ!そんなヒドイ人のコトなんて!」

「ヒドイですって?・・何も知らないくせに偉そうに言わないで!ファイアボール!」

「ユウナちゃん!」
「ファイアボール!」

詠唱無しで撃てるサキと悠奈のパワーアップしたファイアボール。
それがまさに両者の中央で喰い合い、そして互いに消滅する。
サキはギリッと歯ぎしりすると、そのままエリザベートというレイピア系の剣を振りかざして悠奈に襲い掛かって来た。

「ジャマなのよアンタはあ!」

「ユウナちゃん!」

そのレイアの声に反応した悠奈は咄嗟にハートフルロッドを構えて叫んだ。



「ハートフルロッド・チェンジ・ザ・ブルーム!」



突然、サキの目の前から悠奈の姿が消えた。
唐突な出来事にサキは左右を見回して焦る。


「どっ・・ドコ!?どこに!?」

「へェ・・・なるほどな」

その光景に、静観していたユイトも思わずうなった。
それは、悠奈が思いついた正に隙を突いた奇策。


「サキぃーーっ!上よ上ぇ!」

「え?」

投げ掛けられたジュナの声、その声に反応して上を見た時には、もうユウナの姿は目の前だった。



「えいっ!」
「きゃあぁっっ!??」



空中から勢いをつけて、思い切り悠奈はサキの体を突き飛ばした。
サキの体は主の意志に反して勢いをつけて前へと進み、そして・・・


「あ・・あっ・・・ああっ!」


ザバンッと音を立てて、水の中へと落っこちてしまった。



「・・・っぷはっ!う・・ウソっ・・ウソっ!ウソよっそんな・・・」



「どうやら勝負あったみてえだな」



と、そう言ったのは今までただ傍観していたユイトだった。

「フォースクリスタルデュエル、勝者は・・セイバーチルドレンズ!」

手を高々とあげてユイトがセイバーチルドレンズの勝利を宣言すると、その直後、わあっという歓声がセイバーチルドレンズのメンバー達から沸き上がる!


「やったあぁーっ!ユウナ!」
「ユウナえらいやん!ようやった!」
「すごぉーいユウナちゃん!」


「隙をついたナイスな攻撃!」
「リングアウト勝ちを有効に利用したってコトか・・・やるじゃねえか」

ゼルや京などの保護者達からも拍手が沸き起こる。

直後、青のフォースクリスタル激しく発光し、そしてリング全体がゆっくりと湖の中へと戻って行った。
ユイトはポケットからサモンボールを取り出すと、それを宙に投げて帰還用のゲートを作り出す。



「・・・・」

「お前の負けだサキ。さて、帰るぞお前らも」

突き付けられた敗北という現実、すっかり意気消沈したのか?
ダークチルドレンズのメンバー達はガッカリした様子で、憎まれ口を叩くでもなく、ユイトに従ってゲートへと帰って行く。


「やるじゃねえかヒナタ、ユウナ。お前ら中々強えな、おもしれえもん見せてもらったぜ。またな。ホラ、サキも来い」

正に悔しさに眼を真っ赤にしたサキは、悠奈に恨みがましい眼を向けると、

「・・コレで勝ったなんて思わないでよね!いつか・・・いつかかならず・・アンタのコト、ギャフンって言わせてやるんだからぁ!」

「ちっ・・ちょっとナニよソレ!?大体アンタが・・・」

という悠奈の反論をよそに、サキはそのままユイトとともにゲートの中へと入って行った。







「邪なる魔力よ、今こそ退け!アンティ・マジック!」

悠奈が手をクリスタルに向けて翳しながらそう呪文を唱えると、突然青いクリスタルが激しく発光し、シュー・・・と音と煙を立てて、消えてしまった。
否、姿を小さな、それこそ手のひらサイズの宝石に変えてコロン、と地面に転がった。



「ぃよし!成功だ!」

「こ・・・コレでいいの?ゼル?」

「ああ!イリーナ姫さまの言った通り、このクリスタルには、もう邪悪な魔力は存在しない。コレでリッツロックの魔力は守られたってワケだ」

「あたし・・・言われたとおりにやっただけだけど・・・」

「それでいいんだよ。お疲れさま!ユウナちゃん!」

と、ルシアにも言われて、悠奈は今度こそホッと一息ついた。

「やったねユウナちゃん!フォースクリスタルデュエル!まずは1ステージクリア!」

と、レイアが嬉しそうに言う。

あの後、互いの無事を喜び合ったセイバーチルドレンズのメンバーたちは、ゼル、ルシアの指示で仕上げの仕事にとりかかった。
フォースクリスタルデュエルに勝利した彼らが最後に行うのは、みんなの力を、浄化の魔力を持つ悠奈に集中し、フォースクリスタルの邪悪な魔力を解くというもの。
イリーナから伝えられていた呪文をゼルから聞いて、その通りにやってみると、今の現象が起こった。

一仕事終えた今、悠奈たちに今さらどっと疲れが出て来た。




「いやぁ〜〜!素晴らしかったです!ホント、大活躍でしたねぇ〜」

と、そんな脱力していた悠奈たちに声をかけてきたのは・・・

「あ!アンタ・・・」
「そういやいたんだっけか?」

晃と麗がそんなコトを言う。
そこにはあのパーシーと名乗る怪し気な男が拍手をしながら悠奈たちの方へと近づいてきていたのだ。

「いやいや、神殿で僧侶の人たちが留守だったときはガッカリしてしまいましたが、この世界を守るためにあなた方のような子ども達がこうして頑張っているのを見れたのは本当に思いもよらぬ収穫でした。これで、またしばらくは頑張れそうな気がします。ありがとうございました」

と、そんなコトをいうパーシーはペコペコとゼルやヴァネッサたち、そして日向達や軽傷ですんだ兵士たちに頭を下げると、帰り支度をはじめた。
そんな彼を見て、悠奈は思いだしたようにふと、言った。



「・・・ねえ、パーシー・・」
「ハイ?なんでしょう?」

「・・・その・・・ねえ、あたし達と一緒に来ない?」

突然そんなコトを言いだす悠奈に一同ビックリして彼女の方を見た。

「や・・・だってさ、カワイソウじゃんこのままじゃ、自分が誰なのかも何もかもわからないなんて・・1人で自分のコト調べるよりさ、どうせなら一緒に冒険して、そして探せばよくないかな?」

そこまで話した悠奈に今度は日向も同調した。

「うん、そうだねユウナ!ユウナの言うとおりだ!グローリーグラウンドを助けるんだったら、そこにいる人達だって助けてあげないと!ね?いいよねみんな」

お人よし2人のそんな意見に、しょうがないなぁという感じでみんなはお互いを見回した。


「まったくぅ、ユウナもヒナもホンマお人好しやねんからvでもナナちゃんそんなんキライちゃうで♪」
「困ってる人がいたら助けて上げなさいってママも言ってたからな。いいぜ一緒に行こう!」
「えらいヘンなヤツが仲間になったもんやけど・・・ま、旅は道連れとかなんとか言うしな」
「ココで見捨てちゃそりゃあ男じゃねえよな。あ、ユウナは女の子だけどさ」
「パーシーさんの記憶を見つける手助け・・・あたしたちでしちゃおうよ!」
「おう!サラちゃんもそういう謎解きキライじゃねえからな。あたいも助けてやるぜ!」
「ハイハイハ〜イ!レナもレナもぉ〜、みんなでパーシーのコト助けてあげよう!」
「ったく、メンドくせえモンばっかかかえやがって・・しようのねえ連中だぜ・・・」



「このコ達が・・・こんなコト言うなんて・・・」
「へへっ・・成長ってヤツですかね?」

子ども達の優しい言葉に、ヴァネッサも、陽生も本当に嬉しそうだ。京も満足気に笑っている。


「じゃあとりあえず・・・今日のところは・・帰ろっか?ね?レイア」

「オッケー!じゃあ帰ろう!みんなでぇ、パーシーさんも一緒に!いいね?」

「は・・はあ・・しかし、お世話になっていいんでしょうかぁ?あまりにもあつかましい気もして・・なんともはや・・・」

「何言ってんだよ、いいんだよ!」
「せっかくのナナちゃんたちの気持ちだもん、受け取ってv」
「そうだよ。オイラたちだって気になるし」
「人の情け、あるうちに受けといといた得やで?気にすんなや」
「そうそう!ソレを潔く受けるのも男ってモンだぜ!」
「みんなだからこそ、こうやって助け合えるの!」
「サラちゃんってああ見えてとっても優しい子よ。大丈夫!」
「ルーナもぉ、おてつだいするでしゅぅ〜」
「ま!乗り掛かった舟ってヤツだ、仕方ねえから付き合ってやるよ」


と、それぞれのフェアリーたちも口々にこう言って、パーシーはしきりに恐縮したがやがて納得した。


「そうですか・・・いやはや、ホントにありがたい話です・・お世話をかけると思いますが・・・助かります。よろしくお願いします」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「あ!帰って来たぁ〜vおかえり〜ユウナちゃん!」

「ママ!?どーしてココにいるの?」

ゼルやルシアと別れ、再び神社へと帰って来た悠奈たち一行。
その悠奈たちを迎えたのは、詩織ママだった。
見て見れば、日向の母、鶫や、七海、窈狼の母、雫や里佳もいる。


「お婆ちゃんから連絡もろてんで、ナナ。おそらく遅くなるやろし、全部ヴァネッサ先生に押し付けんのも悪いやろうから迎えに来てやれ言うて・・」

「そうだったんですか・・・櫻子さん、すみませんお気遣いいただいて・・」

「んなに言うてますのん。普段からウチのナナも先生にはようお世話になってますよって、ほんのおせっかいどす」

と、七海の祖母櫻子は柔和は笑みでそう言う。と、1人見知らぬ男がいるコトに皆気づいた。

「はて?ソチラさんは・・?」

「あ、ハイ!申し遅れました。ワタクシ、パーシーと申します。今日はそちらのお嬢さん方にお世話になりました」

「どうやら、この人・・・あ、スミマセン私のほうから説明しますね」

と、ヴァネッサがパーシーについて説明を始めた。
悠奈と七海は手持ち無沙汰になって2人でおしゃべりを始めた。


「大変なんだよね、記憶喪失って・・ああは言っちゃったけどどうしたら記憶がもどるのかな?」
「せやなぁ・・なんかエエ方法でもあればええねんけど・・・・あ!せや!ちょう待っとき!」
「え?あっちょっ!どこ行くのナナミ!?」

と、何やら唐突に七海は立ち上がると、神社の奥へと走って行ってしまった。


「は・・はぁ?なんなのぉ?」






「まぁ、そうですかぁ?記憶喪失・・・それはえらいタイヘンなんですなぁ」

「お察しします。なにか私達でお力になれるコトがあったら遠慮なく言って下さいね」

「ハア・・皆さん、どうもありがとうございます。いやいや、本当に親切な方達で、人の情っていいもんですねぇ、あ、ワタシ実は人かどうかもわからないんですケド・・・だっはっはっは・・・のがああぁっっっ!??」


と、その時、ガッシャアーーンッッ!という轟音がして、パーシーが倒れ込んだ。
何事が起ったのか?と一同ビックリして見ると、なんと七海が大きな鈴の付いた杖もってパーシーの背後に立っていた。
なんと、いきなり背後から頭を一撃したのだ。


「っっつぅ〜〜・・・な・・何するんですかぁいきなりぃ・・・」

「あ・・アカンかった?やっぱり?記憶戻れへんかった?」

「戻るワケないじゃないですかぁ〜・・イテテ・・こ・・コブが出来てしまいましたよ・・・」

「アッハハハハvゴメンゴメン、この前マンガに書いてあってんケドなぁ、記憶喪失の人の頭ド突いたら記憶戻ったって・・・やっぱりダメ?まあそらそうやろなぁ〜」

「な・・ナナミぃ!アンタそのためにワザワザぁ?」
「まあまあ、ウチかて半分ネタやったし、いやぁ〜やっぱマンガはマンガかぁ・・おもろかってんけどなぁ〜」

悠奈の非難の声にもケラケラ笑って答えてなんの悪びれもない七海だったが、それですまなかったのは、この場にママやお婆ちゃんがいたコトだった。





「くぅおらあぁ!ナナぁ!!」
「何してんねんアンタ!!」


突然の怒声2つ。
見れば真っ赤な顔をして櫻子と雫が怒りの形相になっている。


「そないなモンで人様の頭ド突きよるなんて・・・」
「ホンマ何考えてんやアンタは!」

七海は今さらながらに「あ、ヤバイ・・・やってもうた・・・」という顔をして、必死に言い訳を始めた。

「い・・いや・・・あの記憶戻るかなぁ〜・・って・・ショック療法ってヤツで・・・」

「そんなんあるわけないやろ!」
「ただの暴力やでそんなん、ホラ、パーシーさんに謝りなさい」

「えぇ〜・・・そんなん・・・ただの可愛いナナちゃんのお茶目なネタやんか・・そない怒らんでも・・・」


といった七海の口答え。
コレが正にファイヤーにオイルだった。



「ほほ〜う・・・そないなコト言うのんか?」

「ぜんっぜん反省してへんねんな?ええ度胸しとるやないか?」


「!!・・・えっ・・あ・・ウソ・・ウソやってそんなん・・待って・・待ってや、イヤ・・きゃあっ!!?」


大股で雫は近寄ると、七海をむんずと捕まえて、あっという間にいつもの体勢に組み伏せる。
神社の和室の中。
怒れる雫ママのお膝の上で、七海は必死に暴れた。



「きゃあぁ〜〜〜っっ!イヤっ・・イヤやママぁ!待って・・待ってってぇっ!こんなんイヤやぁ〜〜っっ・・」

「やかましいこのアホ娘!くだらんコトばっかしよってからに・・・今日という今日は許せへんからなぁ、覚悟しいや!」

七海のブルーのホットパンツとその下のカワイイお気に入りのクマちゃんプリントのパンツも一気に下ろしてしまう。
男子連中は目のやり場に困って顔を背ける中、剥き出しのナナちゃんの可愛いプリッとしたお尻に雫ママの必殺の一撃が叩きつけられた。




ペーーーーンっ!!

「ひっぎゃああぁっっ!?」

パッシィーーンっ!!

「あっきゃあぁぁっっ!!・・・ちょっ・・ちょっ・・まって・・・」

ぺちぃーーんっ!

「きゃあぁぁ〜〜〜んっっ・・・いっ・・いっ・・いいぃたぁぁ〜〜いぃぃ・・・・ぅわぁ〜〜ん・・待ってって言うてんのにぃ〜〜・・」

「じゃかあしいっ!あんな事して反省もせんコの言うコトはママ聞こえへん!」
「うえぇぇ〜〜ん・・・」

渾身の1発、ではなく2発。どころか3発。
右のお尻、左のお尻、ど真ん中。それぞれに雫ママの平手の跡がそれはもうくっきりと紅々と刻印され浮かび上がる。
雷に打たれたような衝撃の刹那後に襲い来る灼熱の激痛。そしてじんわりジワジワ、ヒリヒリと焼けつくような鈍痛。
もはや最初から拷問のような苦痛に七海は涙を迸らせてママの膝の上で大泣き大暴れである。
続いて、それから連撃が続く。


ぺんっ! ペンっ! パンっ! ぱんっ! ぴしっ! ぺしっ! ビシィ! バシィっ! バシンっ!

「きゃうっっ・・いぎぃっっ・・あっきゃあぁっっ・・きゃああんっっ・・きゃんっ・・やんっやんっ・・やぁんっ!きゃうぅっっ・・・あぁ・・ん・・ゆるし・・ぃいでえぇっっ!いったあぁいぃっっ!・・あぁぁ〜ん・・・ママぁ・・イヤやぁ・・ヤメテ・・ゆるしぃ・・ゆるしてぇ・・・いたい・・いたぁいよぉ・・・うぅぅ・・」

「イヤやない!大体あんなもんでいきなり人を後ろからド突くやなんて・・・アンタは通り魔か!?何さらしとんじゃホンマに!」

「だっ・・・だってえぇ〜・・ジョーダンやんかぁ〜〜・・ただのネタ・・・」


ぱっちんっ! ペッチン! びったんっ! ぱちぃーんっ! ぺんっぺんっ! ペーーンッ! パシィーッ! ぴしぃぃーーっ!

「ひぎゃあぁぁ〜〜〜・・・あああぁんっっ・・ぎゃあぁんっっ・・いやぁあぁんっっ・・・いっ・・ったあぁぁ〜〜いぃぃ・・・いだあぁぁ〜〜いっっ・・きゃあぁぁぁんっっ!」

「何がジョーダンや?何がネタや?フザけんのも大概にしぃ!人様のこと傷つけて、それがネタか!?笑いとれると思てたんか!?なんっっもウケてへんわ!アホンダラがぁっ!ほらっもっとオシリ!」


ぱちぃ〜んっ! べちぃ〜んっ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャーンっ! ぱあんっ! パァンっ! パンッ! パンッ! ぱちんっ! ぺちんっ! ばちぃんっ!

「いっ・・たぁぁいぃ・・ぎゃあぁんっ・・いぎゃぁあぃぃっっ・・ひっ・・ひいぃっぎゃあんっ・・・きゃっ・・あっ・・・ああぁぁっっ・・・きゃうぅぅ〜〜っっ・・やんやんやあぁぁんっっ」

パァンッ! ぺんっ! ビタンっ! ぺちぃーんっ! ぱしぃーーんっ! ぺしぃ〜〜んっ! ぱんぱんっ! ぺんっぺんっ! ビシッ!バシっ! バシーン!

「うぅえっええぇ〜〜ん・・・・あっ・・あああぁぁっっ・・・ぎゃあぁぁっっ・・・ぃぃいっちゃぁ〜・・・いぎゃあぁぃぃいっ・・いらぁあいっっ・・・ふえぇえぇんっ・・も・・む・・りぃぃ〜・・・」

「まだアカン!」

ぺーーんっ! ぴしゃんっ! ぴっしゃーーんっ!

「びぃええぇぇ〜〜〜ん・・・ぴぎゃぁぁ〜〜・・ぎゃぴいぃ〜〜・・・」

もはや暴れる力もなく、泣き喚くしかできない七海。
お尻はもう雫ママの平手が咲き乱れ、幾重にも折り重なって真っ赤っかにぷく〜っと痛痛しく腫れ上がっている。
顔は涙と鼻水で、グショグショ。そして全身も脂汗でビッショリだった。
見ていた他の子ども達も身に覚えがあるため、顔を覆って耳を塞いで堪えている。
当のナナちゃんはもう息も絶え絶えである。
そんな娘を見て、雫ママはもうこの辺りが限界か?ととうとう助け舟を出してやることにした。


「・・・ナナ?ナ〜ナ?反省できたか?」

「うえっ・・うえっ・・うええぇぇ〜・・・ひくっひくっ・・ひぐっ・・ぐしゅっえっく・・えぐえぐっ」

「なぁな?お返事?」

「やあぁぁっっ・・もっ・・たたいちゃ・・やぁぁっ・・たたかへんでぇ〜〜っっ・・ごめなさっ・・ごめあしゃいっ・・ごめんなさぁぁいっ・・うえぇぇ〜〜ん」

「ママにやのうてパーシーさんに!」

「ふえっ・・・えぇぇ〜ん・・パーシぃ・・ごめんあしゃぃ・・もぉ・・・せぇへぇん・・・」

「パーシーさん、すいません・・アホな娘が大層なご無礼を・・・大丈夫でしたか?」

「い・・いえいえ!そんな・・・ワタシなんかは全然・・スミマセン・・何か逆に娘さんに申し訳なかったような・・・」

「ええんですこのコは!これぐらいせえへんと!」


そんなコトを言いながらも、泣きじゃくりながら「ママぁ〜ふえっ・・抱っこぉ〜・・」と抱き付いてきた七海を抱いて背中をトントンとしてあげる雫。
ハレたお尻をまだ丸出しにして泣いている七海に、悠奈が駆け寄る。


「な・・ナナミ・・・だ・・ダイジョウブ?」

「・・ひくっ・・・アカン・・・死ぬ・・・痛くて・・ぐすっぐしゅっ・・死んじゃうぅぅ〜・・・」


大げさなんだろうが今の七海には大げさでもないのだろう。
叩かれた後のお尻がヒリヒリとタイヘンなコトになってるのは容易に想像がつく。


「ところでぇ〜・・パーシーさん、記憶があらへんおっしゃいましたけど・・・ご自分がどっから来られたかもわかれへんのですか?」

「いえいえ!それは大丈夫でして・・・実はグローリーグラウンドというところから・・・」

と、パーシーがそこまで説明して悠奈がマズイ!と思った時だった。






                     ボワン!








「あら?ゴメンナサイ!わたくしったらまたついうっかり・・・イヤねホントにもう!・・あらぁ?ヴァネッサ先生!それにユウナちゃんたちまで、と言うコトは・・・やっぱり成功だったのね!この新型テレポート魔法!あら?あらあらあら?どうなさったの?みなさん」






呆然とする悠奈たちの目の前。
神楽神社の応接座敷にに降り立ったのは、グローリーグラウンド、王都レインヴァードの女王、イリーナさまだった。





(えええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っっ・・・なっ・・なっ・・なんでえぇぇ〜〜〜っっ)


それが正直な悠奈の心の叫びだったのだろう。







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同時刻頃、オーストラリア IN グレートバリアリーフ付近のビーチ。



「WOWっ!グレイト!イッツ ジャパニーズ アメイジングソング!」

「フー イズ ヒー?」

「ミスター・ジョー!ヒー イズ ア スーパーマン!」





「オーーー!神よぉ!彼をぉ!救いたまえぇぇ〜〜〜♪」





ワニを求めて3000里以上か?
JTスポーツクラブのリーダー、東麗の叔父でもある世界チャンピオン、ジョー・東は、獰猛な巨大人食い鮫を退治し、ソレを喰ったことで一躍、付近の時の人となり、住民たちに歓迎され、1人異国に地で、日本の歌。
※チャンピオンを熱唱していた。






「ライラライラライラライラ!♪ライラライラライラライラ!♪ライララ〜〜♪」








                     つ づ く