今回途中にちょっとした今までにない暴力シーンが登場します。
スパ関連ではありませんが、苦手な方はスルーしていただくようお願いします。








「さぁ〜・・やってきました!夏休み間近!天道学園初等部名物!誰でも歌っちゃえ、カラオケ大会〜〜〜!!司会はわたくし、理事長の永倉真一(ながくらしんいち)が務めさせていただきまーす」

ノリのいい年配の男性の声が天道学園大アリーナにこだまする。と、同時に「っわああぁぁぁーーーーっっ!」「きゃあーーーーーーーっっ!♪」割れんばかりの大歓声。
アリーナ全体が揺れた。

「!!・・・す、スゴイねユウナちゃんこの声・・・」

「耳が割れるかと思った・・・ったく、こんなどこにでもありそーなイベントにこんなに大盛り上がりしちゃってさ、バカじゃん?」

「あぁ〜らぁ〜、ユウナちゃんたらぁ〜vそんなコト言いっこなしよぉ〜、だってぇ、今日はユウカちゃんが出るのよぉ?」

「そうだよユウナちゃ〜ん、ユウカちゃんの晴れ姿だよぉ〜ホラ!見て見て、この日のために・・パパ新しいカメラ買っちゃった!♪」

「きゃぁあ〜〜っさすがパパ!冴えてるぅv」

「でしょでしょママぁ〜〜vさぁ〜、コレでいっぱいユウカちゃんのカワイイ姿撮っちゃうからね〜、あ!そうだ!試しにユウナちゃん!ホラ、コッチ向いてっ!♪パパに可愛いお顔向けて向けてv」

「なぁ〜にやってんだか・・・パパ!恥ずかしいからヤメテよもうっ!」

「出た!ユウナちゃんの意地っ張りキャラ!ホントは嬉しい癖にぃ〜v」




と、アリーナに設けられた広い客席の一角でそんなやり取りがされていた。
今日は夏休み手前に行われる私立天道学園初等部の恒例イベント。
生徒や父兄などを招いて執り行われるカラオケ大会の日だった。

この大会、生徒はみんな自由参加の上に生徒だけでなくなんと保護者やその家族も参加自由という、この学園の理事長が保護者と教師、そして子どもたちをもっと親密に繋げることが出来ればと発案したものだ。

愛澤悠奈はこの日、家族全員でこのイベントに参加していた。愛澤家からは妹の悠華がエントリーしている。
キッズ部門で4番目に出てくる予定だ。親バカの悠奈の両親はもう今か今かとこの日のために新調した最新型のカメラを手に悠華の出番を待っている。

こういったことが元来苦手な悠奈は参加していない。
そもそも彼女はこういったイベントがあまり好きではないのだ。ではなぜ参加しているかというと・・・



「お!?アレ、ユウカちゃんじゃねえか?」

「え?あ、そう。あの前から2番目に座ってる子がそう」

「やっぱりな〜、悠奈にちょっと似てるよな」

「そ・・そう?」

「ああ、カワイイよ!」

そんなコトを言われて途端に真っ赤になる悠奈。そのまましどろもどろになりながらも・・

「////ま、まあ子どもだからぁ・・そういった意味ではカワイイんじゃん?ってか、ユウカとあたし似てるなんて言われたの初めてだし、なんかヒナタくんて珍しいコト言うじゃ〜ん?////」

「え?う〜ん・・・そっかなぁ〜?」


(アタシに似ててカワイイって・・・ヒナタくんが??・・・まっ・・マジですかあぁぁーーーーーーーーvvvv♪♪♪?)


口調とは真逆のコトを考えて喜びに百面相してる悠奈。その彼女にまたしても「やっぱり意地っ張りっ!v」と言っているのはフェアリー、レイアである。

そう、ここには悠奈だけでなく、草薙日向とその家族、香坂七海とその家族。煌窈狼とその母、南晃、咲良とその家族、星原麗奈とその家族、葉山那深とその家族、そして久遠光とヴァネッサ、後は草薙京、二階堂紅丸、ラモン、火引弾などがゲストとして顔を出していたのだった。

実はこの学園の理事長は東グループと関係の深い新撰グループ系列の企業の社長も兼任しているのだ。
ラモンはじめJTスポーツクラブの面々はそのコトで招待されてここに来ている。
今更ながらに、知らないうちに自分は割と有名な人となぜか知り合いになっちゃった・・・と思っていた悠奈であった。


「コラぁユウナ!まぁたヒナとイチャイチャしよってからにっ!ヒナもユウナから離れてやっ」

「なっ・・何よぉっ!別にイチャイチャなんかしてないし、いっつもアンタそれしかセリフないの?バカじゃん?」

「んやとぉっ!?ナナちゃんがイチャついとる言うたらイチャついとるんや!離れろユウナっ!ヒナから離れろっ、3メートル以上離れろっ!」

「ムチャ言うなよナナミぃっ!こんなに狭いなかでぇ・・・」

「ああーーーっまた他の女の子とっ!お兄ちゃんのウワキものぉっ!えいっ!」

「いたっ・・いててててっ!おかーさんっ!ナナミがっ!萌がいじめるぅ〜〜っ」


七海と悠奈の不毛な争いに半ば強制的に巻き込まれた上に、さらにそれに異常反応した萌に暴力を振るわれて踏んだり蹴ったりのヒナちゃん。
萌を「もえっ!ダメでしょ悪いコトしてないのにお兄ちゃん叩いたりしちゃ!」と腕づくで引き離すつぐみママ。
後ろで紅丸が「モテモテじゃねえかヒナタのヤツ・・なあ京」と傍にいた京に話す。

「な、ナナミ。お・・オレの横でよかったら・・その、空いてるよ。座んねえ?」

「んーん、座らん。いらん。別にイイ」

と、自分の誘いを正に一蹴されて、しゅん、と落ち込む窈狼にその隣の里佳ママが「気にしない気にしない」と髪を撫でる。


「きゃあぁ〜〜〜っっ!見て見てぇ〜、出てきたわよ、パパぁ!雫さぁんっ!ユウカちゃんよユウカちゃん!」

「ホンマぁ!?わぁ〜〜っユウカちゃんカワエエやんかぁーっ!ちょっと、ホラ、たっちゃん!カメラ準備してえなカメラ」
「ハイハイ。しぃちゃんは相変わらずだなぁ〜」

ついにステージ上に登場したのは愛澤家の次女、悠華である。
詩織どころか雫まで悠華の登場に興奮し、傍にいた夫、辰樹(たつき)にカメラの準備を要請。悠奈のパパ、俊介など「ゆぅ〜かちゃぁあぁ〜〜〜〜んvvv」と周りの目を憚らずに大絶叫し、カメラフラッシュの連続である。



「ハァ〜イ、お名前、おじちゃんにおしえてくれますか?」

「あいじゃわゆーか!3しゃいでしゅっ!ゆめまサキちゃんのぐろーりーまじっくうたいましゅっ!」


大きな拍手が沸き起こり、カラオケのBGMが館内に流れる。
マイクを通して舌ったらずで音程ハチャメチャの歌が流れる。しかし、悠奈の両親はそんなコトお構いなし。可愛い末娘の晴れ姿をやんややんやとはしゃいで見ている。
そんなパパママの姿に悠奈は顔を赤くして俯いた。

「ユウナ、いいパパたちじゃん」

「えぇ〜〜・・そ〜お?いっつもだよ?ユウカだけじゃなくてアタシの時もそう・・・アタシいっつも恥ずかしいんだから・・・」

「そうかな?オレは優しくてとっても素敵だと思うけどな。ね?おとーさん」

「ああ、そうだな。ヒナタは出なくてよかったのか?」

「あ・・オレ・・あんまり歌とかうまくないし・・」

そういって逆に照れてしまう日向に、彼の父、草薙蒼司(くさなぎそうじ)が優しく彼の頭を撫でた。


「あふ〜れぇ〜りゅ♪ちからぁ〜にう〜んめい〜かんじてぇ〜・・いまこそぉ〜とびたちぃ〜たぁ〜いぃ〜・・♪」


「きゃあぁ〜vきゃぁ〜vユウカちゃぁ〜〜〜ん♪激!カワぁ〜〜〜v」

「流石パパの天使ぃ〜〜〜〜vvGOGO!」


やれやれと恥ずかしい反応にももうすっかり慣れっこ。とでも言うように悠奈は両親を無視して七海がもってきたお菓子を1つ拝借すると袋を開けてつまみ出す。
あっという間にキッズ部門が消化し、そして本命の生徒部門。歌自慢の生徒たちが自慢の歌声を披露するのだ。
悠奈も気づいたことだが、全体的に女子の歌では今人気絶頂のアイドル、夢魔(ゆめま)サキの歌が多かった。
テレビに出ているのを悠奈も何度か見たことがあるのだが、悠奈はつい最近売り出したこの子に妙な既視感を覚えてならなかった。



(夢魔サキ・・・かぁ、気のせいだよね?でも・・どっかで見たことあるような・・・)



「ハイ!ステキな歌声ありがとうございましたぁ〜〜、4年D組、松本ふうかちゃんでした!では!続いてのエントリーは10番!なんと今度は自分でバンド演奏をするといった猛者チルドレンズが現れたぁ〜!なんと3年生と6年生の男の子3人グループ!3年B組煌窈狼くん、6年C組久遠光くん、6年D組南晃くんのパフォーマンスでーす!」


「はあっ!?うっ・・ウソっ!?」

「なんでヒカルちゃんたちがっ!?」

「ああっ!気づいたらヤオがおらへんっ」

「ひっ・・ヒカルちゃんもいない!」

「アキちゃんもいないねぇ〜・・みんなステージ出るんだ?」

「あたいは聞いてねえぞーっ!」


その場にいた悠奈たちが皆一斉に周りを見渡す。いつの間にか窈狼、晃、光の姿が消えている。
それに気づくと同時にステージ上に上がってきた3人に、会場から歓声が沸き上がる。



「きゃあぁ〜〜〜vヤオランくぅ〜んv♪」 「ステキぃ〜、カワイイ〜v」

「アキちゃーーんっ!決まってるぜぇーっ!」 「アキラくんカッコイイーーーっ!」

「きゃぁ〜〜vヒカルさまぁ〜〜v」 「久遠センパイデートしてぇ〜〜v」



まるでアイドルグループさながらの人気に悠奈とレイアはポカンと口を開けていた。

「す・・スゴイ人気だねユウナちゃん」

「ホント・・・今までの子たちと全然違うんですケド・・・」

「ま、3人ともカッコイイし学校で生徒会の役員だし、ヤオランはママとパパが有名人だしね」

「でもなんか・・・ムカつく!ヒカルちゃんはアタシの彼なのに!」

「ホントだぜっ!なにあたいのアキラにきゃーきゃーさわいでやがんだ全員ぶっ飛ばすぞぉ〜っ!」


と、違う意味で盛り上がる悠奈たちの客席、みんな意中の相手があんな場所に立って周りから騒ぎ立てられるのはあまり好きではないようで、口々に文句を言っていた。
平気なのは悠奈と七海だけ・・・と、悠奈が七海の方を向いた瞬間だった。


「?あれ?ナナミ、なんで面白くないカオしてるの?」

「え?・・・あ・・い、いや、別に・・・」

「・・・ひょっとしてヤオランがいないのが気になるとか?」

「////ッッハッ・・ハアァっ!?ちがっ・・そっ・・そんなワケないやろっ!なんでウチがヤオのコトなんかでいちいち・・・////」

「・・・?」


と、予想もしなかった七海の慌てようにちょっとおや?と思った悠奈だったがそれ以上はなにも言わなかった。

晃と光のギターが会場の空気を切り裂き、窈狼の歌声が今日最大のボルテージを引き起こした。


「リカさん!やっぱりヤオちゃん歌もうまいねんなぁ、ホンマに家族みんなタレント一家でヤキモチ焼いてまうわぁ」

「もう、雫さんまで・・やめてくださいよ」


悠奈たちが盛り上がる隣で親同士も楽しそうにおしゃべりを繰り返す。窈狼の母、観月里佳と七海の母、香坂雫もお互いの子どものコトを褒めあいながら和気藹々と過ごしていた。




「いやぁ〜〜・・終わった終わった!」
「あ〜、気持ちよかった!」

「お疲れぇ〜vヒカルちゃんチョーカッコ良かったぁ〜v」

「アキラナイスだったぜ!ってかステージ出るの聞いてなかったぞぉ!サラちゃんに内緒なんてあんまりじゃねえかっ」


「いやいや、せっかくだからみんなびっくりさせようと思ってさ、普通だったらボーカルはレイがやる予定だったんだけど・・・今日はヤオがやってくれたからよ」

「おう、ヤオ!初めてやのになかなかボーカル様んなってたで!お疲れっ!」

「えっ?・・あ・・うん!あ・・・あのさ、ナナミ・・・」

「うん?」

「ど・・・どう・・だったかな?・・オレ・・・その、はじめて歌ってみたんだけど・・・練習あんまりできなかったし・・・緊張しちゃってたし・・・その・・」

赤くなりながら七海をチラチラ見て呟く窈狼。
そんな彼に七海はチロリと横目で一瞥すると幾分つっけんどんながらに答えた。

「ま・・まぁ・・その・・はじめてにしては・・がんばったほうなんちゃう?」

「ほ・・ホントか!?」

「〜〜っああ、もうっ!うるさいなぁ!そんなに心配なら他の人に聞いたらええやろぉっ!」


そんな七海の可愛くない態度を、後ろから大人連中が微笑ましく見ていた。




「さっきのヒカルくんカッコ良かったねぇ〜v」 「アキラくんステキだったぁ〜♪」 「ヤオランくん超カワイイぃ〜v」 「あのコ歌もうまいんだねぇ〜v弟にしたぁ〜い♪」


「へぇ〜、スゴイじゃないヒカルちゃん。さっきのアナタたちのステージでまだ盛り上がってるわよ」

ヒカルたちのステージ後、何曲か曲が終わってもまだ先ほどのステージの興奮で会場がざわついているのに気付いたヴァネッサが光に話しかけると、光は得意げに答えた。

「せやろ?ま、今日はちょっとレイのヤツをギャフンと言わしたらなアカンよってな」

「あら?なぁに?ケンカでもしてるの?」

「違うんだよヴァネッサ先生、レイのヤツ、オレとヒカルが今日のステージ誘ったのに断りやがったんだよ」

「そうなの?レイちゃんどうしちゃったのかしらね」

「なんか今回はオレ1人で学校中のヤツラがオレのコト以外記憶に残らないくらいショッキングなコトをやってやる!って言ってたけどよ・・へっ、上等だぜレイ!やれるモンならやってみやがれっ!このオレたちのパフォーマンスで興奮しきったみんなの記憶を忘れさせられるもんならな」

なにやらやたらと鼻息荒い晃にちょっと苦笑いのヴァネッサ、話を聞いていた悠奈たちもちょっと気にかかった。

レイ、というのはウワサに聞いているヒカルの同居人で晃や日向たちとも幼馴染の東麗という少年のコトだろう。
生徒会の副会長だというが、面と向かってあったコトはまだない。




「さあ〜〜〜、いよいよ今回も次がラストの1曲となりました!エントリーナンバー14!東麗くんです!」


「きゃあぁ〜〜〜vレイちゃぁ〜〜〜んvvw」

麗奈からそんな声が上がると同時に今までにもまして周りから主に女子達の黄色い絶叫が木霊した。


「まってましたぁ〜〜〜v」 「きゃあぁーーっレイさまぁ〜〜v」 「レイせんぱぁ〜〜〜いっっ♪」 「レイくーーーーん!!」


「す・・スゴイ人気・・・」
「耳が痛い・・・っあ!ユウナちゃん!あの人じゃない?」

「え?」


言われて悠奈はステージに目を移す。
すると、ステージ上にはなにやら煌びやかな東洋風のドレスのような服にボンテージパンツを身に着けた女の子の姿が現れた。


「え?」

「あ・・・あれ?」

「だ・・だれ?アレ、ヒナタくん?」

「いや・・オレにもわかんない・・・なあ誰だアレ?ナナミ?」

「ウチかて知らん。でも、キレイな女の子・・・」

「あんなにキレイなコなら絶対記憶に残ってるハズなんだけど・・・いたっけなぁ?あんなコ、サラちゃんわかる?」

「いや・・・アタイもわかんねえ・・誰だアイツ?」


ステージ上に上がった見慣れぬ美少女にホール全体がどよめく、理事長も目をパチパチさせてしきりにプログラムを眺めた。


「あ・・・え・・・東・・くんは・・男・・の子のハズ・・ですが・・えっと・・曲は・・・・ジャンヌ・DARAKUのヴァンパイアドリーム・・」

言うが早いか突然激しいロック調のビートが鳴り響く。スポットライトに照らされた少女が足を刻み、体をゆすってマイクを手にテンポの速いダンスを踊り始める、と・・不意に眺めの前髪で今一つ確認しにくかった彼女の素顔がハッキリと露わになった。





「!!えぇ!!?」

「あっ・・アレ!!」

「げえっ!」

「うそぉっ!?」

「マジかっ!?」

「・・・・はぁ〜〜?」

「アイツ・・・」

「きゃあぁーーーーーvv」


その場にいた悠奈を除く全員、大人連中までもがあんぐり口を開けて驚いた。
ヴァネッサだけは驚きと同時にちょっと項垂れて米神に手を当てつつぼそりと呟いた。






「・・・レイちゃん・・・・」



「あーーーっと!これは!!ひっ・・東くんです!なんと謎の美少女の正体は東麗くんです!東くん、ぬわんと最後の最後、大トリに女装で登場したあぁーーーーっっ!」




「目覚めるは♪闇の中、DEEPなキスで引き戻される♪どんなに暗いMID NIGHTでもオマエの血と愛が俺を強い魔物に変えてゆく!♪」




謎の少女が麗の変装だとわかった瞬間、会場からは凄まじい歓声。誰もが予想しなかったトリのパフォーマンスに今日一番の興奮が注がれた。


「きゃぁーーーーレイせんぱぁ〜〜〜いっっw」 「ステキすぎぃぃ〜〜〜っっ!!」 「フツーの女子より全然キレイーーーっ!」  「こっちむいてぇえーーーv」



「何やらかすつもりなんか思うたら・・・こんなコト考えとったんか?」

「やられた・・・・もう、オレたちのステージを覚えてるヤツラはいねえ・・・」


「はぁ〜・・ったく、あのコってば、やることがいちいち・・・」

「こういう派手なコトが好きなのは、ジョーさんの血だろうな。ま、毛色は違うが・・・」


光と晃、それにヴァネッサと京の会話を聞いて悠奈は東麗という少年がとりあえずは派手好きな人だというのがわかった。





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「どうするのよサキ」

「なんの話?」

「とぼけないでよっ!」

そっけない返事に桜色の髪をした少女、ジュナが目の前でしれっとした顔で新発売の漫画を読んでいるサキに怒鳴り散らした。

聖星町郊外にあるダークチルドレンズアジトの洋館。そのメインダイニング。
明らかにイラついている理由はもうサキにもわかっていた。

「どうするのよセイバーチルドレンズのコト!エミリーさまだっていつまでもガマンしてくれるわけないし、ウチのメンバーは失敗ばかりだしそろそろ何とかしないといい加減ヤバイわよアタシ達の立場!」

「それに、アンタは2度もしくじってるしねえ・・」

そんな言葉を返されて「・・あ、アンタだって・・・っ」と言い返そうとしたジュナの出鼻をくじくようにサキが続ける。

「わかってるわよそんなことアタシだって・・でも、だからこそ慎重に手段を選ばなきゃ・・・ヘタに数だけ出撃してサモンボールやジュエルモンスターを浪費しちゃうだけじゃそれこそエミリーさまの信用を失っちゃうわ」

漫画をソファに投げ捨てる。
その投げ捨てた漫画を使用人で世話役のコズンという大柄な男が拾い上げる。
足繁く自分の後始末をしているコズンを気に留めることもなく、サキはポケットからすっかり彼女達の生活の一部となったサモンボールを取り出した。

「それって・・・」

「今度こそアタシが行ってしとめる!セイバーチルドレンズを倒してエミリーさまの理想郷を創り上げるのはそれからよっ!」




「オイオイ、そりゃあ順番が違げぇんじゃねえか?」

「?ダレ?・・きゃっ!」

と、不意にダイニングに入ってきた影が目もくらむようなスピードでサキに迫るとその持っていたサモンボールを奪い取った。




「次はオレの番だろ」

「っ・・・あ・・アンタっ!」

「ち・・チアキ!」


目の前に現れたのは不敵な笑みを浮かべるライトブラウンの逆立った長めの雑髪をした少年だった。
額には紫のバンド。両の耳にはピアス。左頬には何の酔狂かタトゥーまで施してある。そして首元には何やら大ぶりのナイフ、ダガーのような首飾りまで付けていた。
典型的な不良少年のいでたちだが、彼の顔は何から何までアイドルかと見まごうほどに美しい顔立ちだった。


「アンタ・・今まで無関心だったくせに今さらになってどーゆーつもりよっ!?」

「ああ?んだよそのセリフ。別にイイだろ?今になってキョーミわいたんだよ、文句あっか?」

「あるに決まってんでしょ!?大体アンタってばエミリーさまの招集の時にも顔だしたり出さなかったりだしそれに・・・」

「ったく、ッゼェなテメエは。引っ込んでなジュナ、おうサキ。そのユウナとかいうガキ、オレにとらせろ」

「・・・・できるの?アンタに?」

「へっ・・ナメてんじゃねえよ。今までのザコどもとオレを一緒にしてくれるなよ?そのセイバーチルドレンズってヤツラを叩きのめしてついでにレイアってフェアリーをかっさらってくりゃそれで終えだろうが、ラクショーじゃねえか」



しばらくサキは考え込んでいたが、もう1度ジロリと目の前のチアキと呼ばれた少年を睨み付ける。その眼を正面からチアキはニヒルな笑みで見返した。



「コズン!チアキのダークジュエル用意して」

「ハ、畏まりました」

「ちっ・・ちょっとサキ!」

「いいわ・・・アンタに任せる。仕留めて見せて」

「へっ・・・イエッサー、リーダー様v」


そう言うと、チアキはまるで体重が無いかのように軽やかに跳躍して、屋敷の階段をアクロバティックに上って行ってしまいあっという間にいなくなってしまった。


「どういうことよ!?なんでよりによってアイツなんかにっ・・」

「エミリーさまの目的が果たせるならもう手段は選ばない。どんなヤツでもいいわ・・・それに・・・」

「?・・なによ?」

「・・・別に。それに、チアキがセイバーチルドレンズを倒せるなんて保証はどこにもないわ」

サキがそう濁しながら自分の部屋に向かうと、今だ納得できないジュナが後から文句を言いながらも追いすがった。







「ユイトーユイトー、まーたアイツら性懲りもなくセイバーチルドレンズのところに向かおうとしてんぜ?懲りないなーキシシ♪」

「ああ・・そうだな」


イタズラっ子な笑みを浮かべながらレムが館の屋根の上からその様子を見る。
今日も彼とユイトは屋根の上で日向ぼっこを楽しんでいた。

「なーユイトー、今日ガッコー行かなくてよかったのか?このまんまじゃホシューになっちまうぜ?」

「・・・たりぃ・・・」

「ここでこーしててもつまんねーよーっ!なーっ!ガッコーいかねーなら遊びにいこーぜ、なーなーなーなー!」

そんな声を無視してユイトは館から出てきたチアキと呼ばれた少年に眼を向けた。



(・・・・今日はあのチアキってガキか・・・んー・・ちと手強えぞこりゃ、今までの相手みたいにナメてかかるなよ?ユウナ)





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「東センパイゆーしょーオメデトーございまーす!」

「レイセンパイチョーカッコよかったーっ!v」


天道学園初等部カラオケ大会は無事幕を閉じた。
このカラオケ大会、小学生の行事ながら、電子モニターによって生徒自身の投票が可能であり、A、B、C、Dクラスごとに1年から6年生まで採点が出来るようになっている。

愛澤悠奈の妹、悠華はなんとキッズ部門で見事第2位という好成績を残し、賞状とユウカちゃんの大好きなSNKチョコスナックも入ったお菓子詰め合わせを貰ってパパママも大喜びではしゃいでいた。

しかし、そんな彼女たちを残して今、悠奈とそしてセイバーチルドレンズの面々、フェアリーたちは別の控え室に向かっていた。
今日は視聴覚室がカラオケ大会に参加する生徒の控室として開放されているが、その奥の一室。普段は先生たちしか立ち入れない事務室に生徒たちが女子を中心に長蛇の列を作っていた。




生徒部門の結果は圧倒的なものだった。
3位にランクした2年生のイイジマ・カヨちゃんという女の子に大差をつけて2位にランクしたのは煌窈狼、南晃、久遠光のセッションバンド。
全員イケメンで学園でも有名とあって彼らの人気は揺るぎないものだった。しかし、今回はその2位にすら100ポイント近い大差をつけて堂々の1位に躍り出た猛者がいたのだ。

それが、学園でもその容貌と家柄から1年生のころから「天道学園の王子」と呼ばれ続け、生徒会の副会長にも就任している東麗だった。

父は大企業東グループの社長である東一哉、祖父は会長であり、東グループの総オーナーである東猛(たけし)そして曽祖父が今現在御年83にして現役バリバリの名格闘技トレーナー、東丈の専属トレーナーでもある東一家の大黒柱。JTスポーツクラブの会長でもある東丈太郎(じょうたろう)であった。

アイドル顔負けのルックスにお金持ち、さらには学校のリーダー的存在とおよそ人を引き付ける要素をすべて兼ね備えている彼はすっかり学校中の女子の憧れの的であった。



「ハーイ!スクープ部の校内放送でーす!今日はあたし、4年B組の宮川ありさがカラオケ大会優勝の東麗先輩を直撃したいとおもいまーすv今日はよろしくお願いしまーすv」

「・・・なんだテメエ?」

「あ・・え・・とぉ・・す・・スクープ部でーす♪校内テレビで放送したいんで・・その、インタビューいいですか?」

「チッ・・メンドくせえからとっとと終わらせろよ?」

「あ・・ハイ!あのぉ〜あの衣装は・・・・」





「やっぱえっらい混みようやなぁ〜レイんトコは」

「しゃあねえだろ。ただでさえ学園のアイドル様だってのに今日のあのパフォーマンスじゃな・・あーあ、正直今日はレイもオレたちの歌で食うつもりだったのに、悪かったなヤオ」

「そっ・・そんな!アキラくんたちのせいじゃないよ・・歌ったのオレだし・・・」


光たちの控室にも彼らと写真を撮りたいという生徒が来ていたがそれでも麗のほうの勢いに比べれば随分とマシな方で、悠奈たちはこの部屋で一緒に集まっていた。
何でも光と晃、そして日向が重要な話があるとのことだった。


「重要な話ってなんだろね?ユウナちゃん」

「アタシに聞かないでよ。アンタの方が詳しいんじゃない?」

「ううん、アタシ何も聞いてないよ?」


と、そんなやり取りをしていると、不意に悠奈たちの部屋のドアからキャーキャーと喚く騒がしい声が聞こえた。



「センパーイっ」

「東センパイもういっちゃうんですかぁ〜?写真撮ってくださいよ写真〜〜っ」


「るっせえ。また今度時間ある時に撮ってやるから今日のところはホレ、帰った帰った」


「いやぁ〜ん・・センパぁ〜〜イ・・・・」というファンや後輩達の声を無視して少々強引にドアを閉めると長めの髪を撫でながら金髪の美少年が部屋にいた光と晃の方へと向き直って話しはじめた。


「よお、2位のセンパイたち。優勝のオレ様に一体なんの用なんだよ?」

「くっわぁ〜〜・・いっつもオマエはそんなイヤミの1つも言わんと話できんのか?レイ」

ケッケッケ、とイタズラっぽく笑いながらレイと呼ばれた男の子は光の向かいにある椅子にどっかりと腰かけた。

「それにしても女装やなんてあんなもんどこで思いついたんや?反則もええとこやろ?」

「言ったろうがよ?みんなが度胆抜くようなことやってやるってな・・・ま、アレぐれえ派手ならイヤでも記憶に残んだろ?」


「きゃあぁーーーーーvv!!レーーーーイちゃぁ〜〜〜んvv!!」

「どわぁーっっ!?」

可愛げなく皮肉たっぷりに光に返す麗、そんな彼の首元めがけて1人の少女がドーンっと突進して抱き着いた。
そのままがっしゃんと椅子ごと倒れる麗に、周りの悠奈や窈狼がビックリしてその光景に圧倒される。



「っっ・・・てぇ〜〜・・テんメエ!レナ!いきなりなにしやがる!?あぶねえじゃねえかっ!?」

「レイちゃんチョーカッコよかったぁ〜〜っvあのコスどこで買ったのぉ!?ねえねえレナにもっかい見せて!ねえねえ見せて見せてぇ〜〜っ」

怒る麗をまるで相手にしていないかのように星原麗奈が彼の首根っこをつかんでブンブンと揺らす。ガックンガックンと首を上下に揺らされて麗が絞り出すような声を上げる。


「ばっ・・バ・・カ・・レナっ!・・ゆらすんじゃっ・・ねっ・・・ってコラアっ!いい加減にそのアホノリやめろや、張っ倒すぞテメエっ!」

「ひっ・・ひえぇ〜〜んっ・・レイちゃんがおこったぁ〜〜・・・ぴぃぃ〜〜〜・・」

「アンタが悪いでしょレナ!あんなことされたら誰だって怒るわよ?」

「そうそう、しかも相手はレイだしよぉ〜、普通の4割増しでキレんぜ?」

「おうテメエも好き勝手言ってんなサラよぉ・・・ま、いいや。でよ・・・ヒカルにアキラ」

ややあって、そんなコントのようなやり取りをした後に麗は日向を見据えて静かに言葉をついた。

「なんなんだよ、オレに話って・・・昨日メールで言ってたけどよ。なんか大事なハナシがあんだろ?」

「あ・・ああ、せやな・・・んと・・・ユウナ」

「え!?アタシ!?」

麗に不意にそう核心をつかれ、歯切れ悪そうに言葉に詰まる光。と、悠奈を突然見やると強引に彼女を引き寄せる。あっけにとられた悠奈はされるがままに光によって初対面ともいえる麗の前に引き出される。

「あん?んだそのガキ?下級生か?」

「がっ・・ガキ!?・・ちょっ・・ちょっとそんな言い方って・・」
「この子が!ホラ!ヒナとナナの新しい転校生クラスメートの、有名なあいざ・・・」




「レ〜〜〜イ〜〜〜〜ちゃあぁーーーーんっっ♪♪ねーねーvレナと一緒にセイバーチルドレンやろ?ねーねーねーv」

『!!!!』

ようやく、ゆっくりとコトの目的を話そうとしていた時に、このおちゃらけ少女が場の空気を一瞬にして凍り付かせた。





「あ?・・・セイバー・・・なんだ?」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「あ!」

「ん?どーしたのコトノ?なんかみつけた?」

「今の・・・チアキくんじゃなかった?」

「え?」


下校途中、天道学園初等部の女子2人がふと、自分たちを横切った影を見つけてその後ろ姿を追った。
隣にいた仲のいい幼馴染に言われて少女がその方を振り返る。

「・・・ホントだ!」

「どうしたんだろ?なんか雰囲気変わった?」

「最近学校にも来たり来なかったりだもんねあの人・・・何してるのかな?」

「気になるよねー・・・でもさあ・・」

「うん、相変わらず・・・・」


「「カッコイイぃぃ〜〜〜〜〜vvv」」


2人してその少年に胸をときめかせ憧れの声を上げる。そんな少女たちの言葉を耳が拾って影の正体、チアキは地面に唾を吐いて独り毒づいた。


「相変わらずくっだらねえ連中しかいねえのかこのガッコーは?どいつもコイツも・・くたばれってんだタコが」

と、その眼に不意に看板が入った。
「天道学園・みんなで盛り上がろう!初等部名物・カラオケ大会!」とデカデカとした文字で書いてあったのだ。

「へえ・・そうかいそうかい。そういや今年もやってたんだったなこの大会。ちょうどいいや、このクソくだらねえイベント・・・せいぜい利用させてもらうとすっか」

不敵な笑みを浮かべながら、チアキは学校の中へと入って行った。





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「ふ〜ん・・・そっか、オメエがあのウワサの転校生、愛澤悠奈か・・」

「う・・・ウワサって・・どんなウワサかよくわかんないんですケド・・・」

所は天道学園視聴覚室。

愛澤悠奈は日向や光にすすめられるがまま、半ば強制的に麗の前に連れてこられ、初対面の年上男子と正面きって話し合う形へと追い込まれてしまった。うっかり口を滑らせてレイをポカンとさせた犯人の麗奈は那深と咲良の2人によって既に部屋の隅に強制連行されていた。

すっかり着替えた麗は黒にレッドの十字架とドクロがポイントのTシャツとジーンズというラフなスタイルになっていた。
着替えてあらためて見るとまた再認識させられるのだがこの麗という少年、素晴らしい美男である。

光や晃、窈狼や悠奈の憧れの日向くんもイケメンと言えばイケメンなのだろうがこの麗という少年はカッコイイというよりも美しいといった表現が当てはまる。彼に声をかけられただけで面食いの女の子などは即座にノックアウトされてしまうだろう。

しかし、悠奈はこの麗という少年を前にして思ったように言葉が出せないでいた。
それは彼の持つ独特の近づきがたい雰囲気がそうさせたのかもしれない。


「おう、ヒカル。なんなんだコイツをオレの目の前に持ってきて?・・・なんか話があんならオマエが言えばいいじゃねえか」

「そう言わんと。多分オレが言うよりハナシ早い思うで?話したってえな。・・・つかお前さっきから眼つきがコワイねん眼つきが!ユウナはお前に会うんはじめてなんやさかいもうちょっと優しい顔つくったらんかい」

「オレはオメエほどガキの世話好きじゃねえんだよ。あ、ひょっとしてアレか?さっきなんかレナが言いかけたあのセイ・・どーだかとカンケーあんのか?」

「あ・・えっと・・その・・そのことなんだけどっ」

「あぁん?んっだよ、さっきからハナシ1つすんのにどれだけ待たせんだよ?いい加減にしろや?おお?とっとと言いてえコトがあるんだったら言えばいいだろうがイラつかせんじゃねえよバカが!」



わかった。
悠奈は心の中で密かに理解した。

なぜあんなに人懐っこい日向や素直な窈狼。あっけらかんとしていて多少のズレは気にしない七海がこのレイという少年の話になると若干顔を強張らせて「コワイ・・」と言ったのか。

このレイという少年。

光や晃よりもかなり自己中心的だ。おまけに王様気質でプライドが高く、悠奈を明らかに見下している。
年上でも光や晃のように悠奈たちの目線に立って見てくれるというコトがない。
おまけにガラも咲良より遥かに悪く、口調の乱暴さも天下一品である。



(ひえぇぇ・・・な、なんでこんなコワイ人が学園の王子様とか呼ばれてるわけぇ〜〜〜?)


内心かなりビクつきながらも、腹に力を溜めて悠奈は話し出した。


「・・・ナニ?さっきから聞いてたらその言い方、意味わかんないんだけど」

「ア?」

と、悠奈の口から飛び出した全く予想していなかったセリフにその場にいた全員がギョッとして悠奈を見た。

「自分だけが偉いとでも思ってんの?それとも自分はカッコイイから何しても許されるとか勘違いしてない?ハッキリ言って・・・アタシ、アナタみたいな人ゼンッゼンタイプでもないしウザイだけなんだけど、バカじゃん?」

「・・・だとテメエ?」

レイの瞳が暗い光を帯びる。
周りのメンバーたち、普段なら「さっすがユウナ!クールなピリピリコメント!」と湧くくらいのハズなのだろうが、この時ばかりは日向も七海も、全員が悠奈の方を振り向いて息を呑み顔を引きつらせた。

「悪いけど・・・あたしはバカみたいにアンタにキャーキャー騒いでた女子とは違うから、勘違いしてチョーシん乗んないでよね」

「・・・・・」

悠奈のその言葉に麗は答えなかった。
かわりに静かな表情で冷たい眼で悠奈を睨みつけながら小さく舌打ちした。




「・・・・」

(や・・・や・・・や・・・)




(やっちゃったからあぁぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ)

そんな悲痛な叫びを心の中だけで上げ、悠奈はひたすら冷や汗をダラダラ掻きながら後悔していた。

(あたしのバカバカ!挑発上等命知らず!こんなコワそうなヒトになんっってコト・・・しかも初対面なのにぃぃーーーーっっ)



「ゆっ・・ユウナ!」
「このドアホっ!!」

咄嗟に日向と七海が悠奈の前を遮り、彼女を麗から隠す。
見れば彼らだけではなく、窈狼や咲良、那深や咲良までヤバイ・・・というような表情をして悠奈を見ている。



「あ・・・あのさ!レイちゃんちがうんだよっゆ・・ユウナはそのぉ・・なんて言うか悪気があって言ったわけじゃ・・・」

「せっ・・せ・・せやねんっ!このコなりの・・なんちゅうか・・そおっ!ユウナなりのアイサツやねんてアイサツ!」



「・・・おう、ヒカル。オレに聞かせてえハナシってなもしかしてこのガキから聞けってコトか?」

「・・・ああ、せや」

「だったら、聞くこたぁ何もねえな。気分悪りいぜ。帰る」

「あっ!ち、ちょっとまってよレイちゃぁ〜ん、レナもいっしょに行くぅ〜」

「るっせえっ!ついてくんじゃねえっ!」

「ふみゃあぁ〜・・・・」


麗奈にまで当り散らしながら麗は乱暴にドアを閉めて視聴覚室を出て行ってしまった。
後に残されたセイバーチルドレンズの面々とフェアリーたち。



「・・・・ユウナ」

「ご・・ゴメン、ヒナタくん・・あたし、自分でも何が何だか・・・」

「アホぉ!アンタ殺されてても文句言えへんねんでっ?レイちゃんに向かってあんなコト言うやなんて・・コワイもん知らずもええ加減にしいや!」

「そ・・そんなに・・・ヤバイコト言っちゃった?」


「アイツは特別なんだよ」


日向と七海にキツク窘められている悠奈に、晃が静かに話しかけた。


「・・・レイのヤツは良くも悪くも男女の差別がねえ。自分が気に入らねえと見れば例え女相手でも容赦しねえヤツだ」

「う・・・ウソ?ひょっ・・として・・あたし、ひっぱたかれてたりしてた?」

「・・・ちょうど今から半年以上前、ユウナがまだ転校してくる前だけどな。オレたちより1学年下で灰谷エリカってヤツがいた。テコンドー習ってるコトをイイことに同じテコンドーをやってる女子あと2人連れて男子イジメしてたヤツなんだ」

「そういえばそうだったねエリカちゃん。マユカとミレイちゃんも一緒にやっててさ」

那深が話に割って入ってきたのを気に留めるコトもなく晃はさらに続ける。

「そいつ等ケンカもメチャメチャ強くてな。格闘技やってるからか付近で女子にイヤなコトしてたガキ大将クラスを軒並み叩きのめしてケガさせててよ。クラスじゃすっかり女王様気取り。気に入らない男子はテコンドーでシメて自分の奴隷状態にしてたらしいぜ。女の子をナメるなって言ってな・・・」

「そ・・・それで?どうなったの?・・その人・・」

「流石に先生達も見てられなくって学校相談しててよ。それでまずは、ってんで生徒会で解決できねえかって会長に依頼が来てよ。で、生徒会の人間が説得に言ったわけだ」

「・・・そうな・・んだ。で、レイって・・さっきの人が行ったの?」

「いいや・・それが・・・」

「行ったんはイマイ・ノボルってヤツやった。普段はおとなしいアニメオタクやけど優しくて真面目で素直で頭もよくてな。レイも気に入っててんや。ところが・・・灰谷(はいたに)のヤツ、ノボルにまで暴行加えてケガさせた上に、服を剥ぎ取って晒しもんにして散々に泣かせたみたいや。結果は生徒会の惨敗で完全に灰谷の勝ちやった」

「ヒ・・・ヒドイ!」

「なによそれっ!ゆるせないよねユウナちゃん!ダークチルドレンズよりヒドイじゃん!」

「このライドランドには恐ろしい女がいるもんだな・・・」


あまりのその灰谷という女子の傍若無人ぶりにレイアとイーファも眉を潜めた。
悠奈もその話にヘドが出そうだったが、1つ疑問があった。


「で・・でも、その話とさっきのレイって人が・・・何かカンケーあるの?」


悠奈の問いに光が顔を歪める。その顔を見て、咲良が「な・・なあ、ヒカル。そのあとのコトは・・もういいじゃねえか」と言ったが、光は晃に目くばせし、彼がうなづいたのを確認するとゆっくりと続きを話した。

「そいつ等・・・それでレイにも襲い掛かったんや」

「ええっ!?」


「レイも生徒会の副会長やさかいな。ノボルの話を聞いて今度は自分が話をつけに行ったんや。案の定、灰谷たちは3人でレイを屋上まで連れて行ってボコボコにしようとしよった」

なんて女の子だ。と、悠奈は自分の想像を超える話にゴクリと唾を呑みこんだ。
もしかしたらレイという先ほどの少年もそこで暴力を振るわれ、それで女子に対してあんなに冷たい態度をとっているのかもしれない。
トラウマ。という言葉をママから聞いたことがある。怖い経験や痛い経験が自分の中に恐怖の記憶として残り、それに関係あるものを目の前から遠ざけようとする働きだ。
もしさっきのレイにそんな経験があったとしたら・・・





「・・・・灰谷たちにとって不運やったんは・・・レイとノボルが仲良しやったっちゅう話やな」





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以下、回想


「ふふん、アタシたちに逆らおうなんて、バカな男ね。ちょっとくらい顔がいいからってチョーシに乗ってんじゃないわよ!その顔、今から涙でグショグショにしてやるからっ!」

「キャハハハ!やっちゃおーよエリカ!今までの男子たちみたいにさ!」

「ムカつくジャン!金持ちの上に顔がいいなんてさ!ボコボコにしちゃって2度と女の子に逆らおうなんて気がおきないようにしちゃおう!」


屋上に連れてこられたレイは目の前でそんな好きなセリフを吐く3人の少女を暗い表情で見つめていた。 
ふと、周りに目を配る。先客が何人かいた。
皆男子、鼻や口から血をふいて地べたに転がりひいひいと泣きながら悶えていた。


「ううぅ・・・いてぇ・・」  「いてえよぉ・・おかー・・さん・・」


「・・・あそこに転がってるヤツラはどうした?」

「聞いてどうする気?今さら後悔した?キャハハv・・アイツらは昨日放課後の掃除当番をクラスの女子に押し付けて遊んでたヤツラよ。ヒキョーなコトしたからアタシたちがオシオキしてあげたワケvクソ男子のクセにさ!女の子をナメるんじゃないってーの!」

そう言って倒れている男子たちのところに駆け寄り、顔や腹を笑いながら追い打ちをかけるかのごとく蹴りつける。
「もうヤメテ・・・」 「助けて!許してっ!」 「ゴメンナサイっ」 「二度と逆らいませんっ」
そんな男子達の悲痛な叫びが木霊する。全員が全員、レイも知っている学校でもちょっと知れたイジメっ子たちだった。

その光景をレイは特に気にするでもなく「ふん・・」と声を漏らすと再び男の子達に暴行を加えている女子達を見つめた。

正面のエリカはブラウンのロングヘアをポニーテールにした勝気な感じの少女、右にいる渡辺(わたなべ)マユカはショートカットの黒髪が可愛らしい、左にいる黒瀬(くろせ)ミレイは左右にはねた濃い目のブラウンショートヘアの少女だった。
生意気そうな表情だが、全員中々な美少女である。
だが、今のレイにはそんなコトはどうでもよかった。レイがゆっくりと口を開いて少女たちに問い尋ねた。


「おう。1つ聞くぜ。んな連中はどーでもいーケドよ。今居ノボルをやったなあテメエらか?」

「ハア?イマイ?ダレよソレ?」

「あ、ホラ!エリカ!アイツだよアイツ!この前イジメてやった生徒会の!」

「あー!あー!♪んふふっ、ナニ?アンタあのキュウリ野郎の知り合いだったの?なぁんだそっかぁ〜v」


「・・・答えろ。やったのか?」

人を茶化すようにキャハハハと笑うエリカたちにもう1度静かに問いかける。すると思い切り人をナメた憎らしい笑顔でエリカは嫌味たっぷりに言い放った。


「だったら何?それがどーしたっての?そーよ悪い?生意気にアタシらのやってるコトが犯罪もいいとこだなんて偉そうに言うもんだからさ、頭きてちょっとイジメてやったの!でも全然弱かったわよ!アタシら相手になんもできないの!」

「そうそう!最後はズボンも脱がしてやったら泣いちゃってねぇ〜」 「もぉチョー面白かったぁ!」



心底楽しそうに笑う3人、レイは答えずただただ自分の足元を見つめていた。しかし、そのウチにゆっくりと口を開く。


「・・・そうかい。ノボルにあんなケガさせたのもみんなテメエらってワケか・・」

「ごちゃごちゃうるさいわね!アンタも今すぐ同じ目に合わせてやるわよ!大体1年先輩だからって態度デカイのよ!」

「やっちゃえエリカ!」そんな言葉がマユカとミレイから上がった途端、エリカの必殺の回し蹴りがレイの右顔に叩き込まれた。
スパァン!と鋭い音がしてレイが地面に倒れる ― 。



ハズだった。




「・・・・え?・・な・・んで?」

エリカの顔は引きつった驚愕に満ちていた。
自分の必殺のキックを、今まで何人もの腕っ節の強そうな男子を叩きのめしてきたテコンドー仕込みの回し蹴りを、この東レイという6年生は顔にまともに受けたはずなのに、顔色1つ変えずに相変わらずの冷たい眼で何事もなかったかのようにエリカを見つめていた。


効いていない。


今まで叩きのめした男子の中には6年生はもちろん、中学生の男子だって自分たちにはかなわなかった。
男なんて自分の蹴りにかかればみんな鼻血を吹いて泣いてのたうち回るのに・・・



「おう、コレ、オメエらにやんよ」

そう言って首をコキコキっと回しながらレイはポケットから何やらお守りのようなものを取り出した。それを地面に投げ捨てる。

「え?・・何?・・なんなのよ?」

「そいつぁな。オレのダチのレナってヤツが知り合いの寺に行ったとき貰ってきたもんなんだと。オレにくれたんだが必要ねえしオメエらにやらあな」

「な・・・何言ってんのよアンタ!一体どういうつも・・・」


イヤな予感を払拭しようと強気に出たエリカたちにレイは「せめてもの情けだってんだ・・」とボソリと呟いた。


「ネンブツでも唱えろや。せめて・・・成仏させてくださいってな・・・!」





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「オレらがレイの行動に気づくのが遅れたのも悪かった・・・」

「ああ、ああなるって予想できんワケやなかったんにな」

「ど・・・どういう・・コトなの?」

「鈍いなぁユウナ、レイはアキラやヒカルなんかと幼馴染なんだぜ?レイだけケンカが弱えとでも思ったのか?」


と、咲良にそう言われて悠奈は背筋に悪寒が走るのをはっきりと感じ取った。光の方をもう1度見やる。

「ま・・・まさか?」





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「レイ!どこや!?・・はやま・・ん・・・な・・・っちゃあぁ〜・・・アカン」

「落ち着け!手ぇ出したらっ・・・あぁ・・・うわっ・・」



「・・よォ、遅かったじゃねえか」



ニヤリと笑いながら話しかけるレイを引きつった顔で見つめる光と晃。一緒に付いてきたまだ新任の若い女性教師が「きゃあぁぁっっ」と悲痛な悲鳴を上げる。


レイの足元に転がるマユカとミレイ。
マユカの方は陥没しているように見える鼻から大量の血を吹き出し、前歯が軒並み叩き折られていてアンアン金切り声を上げて泣き喚いている。
ミレイは「ヒュー、ヒュー」と掠れたような呼吸を繰り返し断続的に苦しそうな咳をケホッケホッとしながら血とあぶく混じりの涎と涙をダラダラと垂らしていた。

そして、今まさに髪の毛を掴まれてレイに拘束されているエリカ。

既に手足は何か所も青アザに見舞われている。
そこそこな美少女だった可愛い顔は最早ズタズタ。殴られた跡が真っ赤に腫れて痛々しい、鼻も明らかに鼻骨を圧し折られて歪んで鼻血が溢れている。
「うあ・・・あ・・・ああ・・・」とか細い声で恐怖の涙をとめどなく流しながら髪を掴んでいるレイの手に縋り付く。


「レイ・・・お前・・・」

「素直にワビぃ入れりゃあ、まあ半殺しで許してやってもよかったんだがなぁ・・・へへっ、もうおさまりつかねえよヒカル。なぁ・・・」

縋り付いてきた手を肘鉄と膝蹴りで叩き折らんばかりに挟み込む。再び襲い掛かった激痛に絶叫を上げ、挟まれた右腕を抱えて再びゴロゴロと地面を転がってもがくエリカ。
しかる後、泣き喚くエリカの肋骨をレイは爪先で万遍なく蹴り飛ばしていく。

「せ・・せんっ・・せぇ・・・た・・たしゅけ・・・てぇ・・・」
「やっ・・やめっ・・ヤメなさいっ!東くん!ヤメテっ!」

左手を伸ばして自身に助けを求める哀れなエリカの姿に付いてきた女性教諭がレイを止めようとほとんど悲鳴に近い声を上げる。しかし直後、その伸ばした手の甲をレイが踵で思い切り踏み付ける。明らかに指が2〜3本はへし折られ、歪んでいるその手。
再び空気を切り裂く絶叫。その様子を見て先生が卒倒しかけ、慌てて晃が体を支える。


先ほどまでいいようにこの女子達に暴力を振るわれ散々情けない思いをして泣かされてケガを負った男子生徒たち、普通なら調子に乗ったこの女どもが痛めつけられて痛快のハズであろうが、それでもレイのこの猟奇的な凶行を見て笑っていられるほどの精神は持ち合わせていなかった。
顔面は蒼白、そのレイのまるで虫けらを踏みにじるが如くに何の感情も見せず女の子を暴力の海に沈めていく姿に震え、動くことすらできなかった。



まずはじめに、麗は正面にいたエリカの顔面に正拳で突きを叩き込んだ。
アニキと慕う叔父に教わった空手のパワーとボクシングのスピードが合わさった必殺のパンチ。
エリカの顔面、鼻と上前歯の辺りにめり込む。頭蓋が歪み、脳が揺れて顔がひしゃげる。水気を含んだイヤな打撃音が破裂し少女の華奢な体躯がまるで人身事故のように派手に吹き飛ぶ。
次にあまりの唐突な一撃に完全に思考と動きが停止していたマユカの髪の毛を掴み、そのまま鼻っ面に頭突きを見舞う、「あぐうっ」と呻いて崩れ落ちにかかる彼女の鳩尾に体を沈めてから打ち上げるようなエルボーを打ち込み、くの字に折れた所、顔面に狙いを澄まして首相撲からの膝蹴りを叩き込んだ。
その様子を見て脳が逃走を命じたのであろう。ミレイの方はもはや戦意を喪失し、その場から逃げようと背を向けた。
しかし逃げるミレイの足元を狙って麗は今度はスライディングのような足払いをかける。
勢い余って転ぶミレイ、その体をがっちりと捕まえると麗はミレイを正面に向かせ、首を拘束。そのままムエタイのチャランボーから内臓を狙って膝蹴りを連発で叩き込む。
叔父から習い覚えた「膝地獄」と名の付く必殺技だった。凶器と化した膝が何発もミレイの腹部にめり込み、あぶく混じりの吐しゃ物を吐きながらミレイが倒れ込む。

「あ・・・あ・・・あぁぁ・・あぁ・・」

ダメージと恐怖でもう息も絶え絶えなエリカはその場から何とか逃げようとするが足がおぼつかない。
そんな彼女になんとも残酷な笑みを浮かべて麗がすぐ目の前まで迫っていた。




「ひっ・・ひっ・・・ひぃっ・・・た・・スケ・・てェ・・・だ・・れか・・・」

「おいっ!よせっ!レイ!!」


ついに光がここでレイを後ろから羽交い絞めのような形でレイ、東麗を取り押さえた。


「正気に戻れや!それ以上やったら・・・マジに死んでまうぞ!?」

「死ぬだあ?おーケッコウじゃねーか。あーそーだよその気マンマンよブッ殺してやんよ、死ねコラ!死ね!死ね死ね死ね死ねっ!調子くれてノボルにまで手ぇ上げやがって1回死んで生まれ変われやっ!」


光に押さえつけられながらもさらにエリカの顔面にトドメと言わんばかりにヘッドバットを叩き込む麗。もう抵抗する力などなく、麗に痛めつけられるがままのエリカは完全に意識を失っていた。それを見て晃も体を張って止めに入る。

「やめろよレイ!死ぬぞ!?それ以上やったらホントに死ぬぞ!」

「るせえっ!どけよアキラ!それがコイツらがこれまでやってきたことだろうが!だからオレが同じ目に合わせてやってんだよっ!何が悪いってんだ!?」

「わかってる・・だけど・・・」
「見てみい!周りを・・・・ここにおるヤツラの顔をっ」

そう光に言われてようやっと周りに眼を配ってみる麗、そこには自分をまるで鬼か悪魔を見るような恐怖の眼差しで見つめる目があった。
気を何とか保ち、涙目で見つめる新任教師の目もある。


「いくらなんでもやりすぎや!誰もここまで望んでへんっ!もう終わりや!」

「そうだ!ヤメロ麗!」

「・・・・・・ケッ、わぁったよ。ふぬけやがって・・バカヤローどもが、そんなんだから女子なんかにナメられんだろーが。ま、白けちまったし、もういいや」

そう言いながらエリカを離した麗、すぐさま教師がエリカの名前を叫んでいた。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

以上、回想終わり。





「・・・・・そ・・そんな・・そんなコトが?」

「あん時は大変やったで、すぐに一哉のオッチャンも呼び出されてな」

「そーそー、たまたまヴァネッサ先生も仕事でアメリカに渡っててレイの暴走止めれる人もいなくってな・・・保健室じゃ間に合わなくって救急車は呼ばなきゃならないわ両方の親はみんな呼び出しでどうたらこうたらでな・・・」

「そ・・その人たち・・・ど・・どうなっちゃったの?」

「あ?・・ああ、灰谷達か。どうって?生きてるよ当然だろ、いくらなんでも死にゃーしねえって・・」

「そーじゃなくって!ケガしたんでしょ!?ケガっ!!」

「ああ・・・悪りぃ悪りぃ、そうだよな・・・・いや、オレそこまでは・・・」

「オレは一哉のオッチャンと一緒に病院いったさかいにちょっとは覚えとるで。いや、まあヒドイもんやった。ケガの程度はな・・・渡辺マユカは鼻骨骨折と顔面打撲と前歯が軒並みオシャカ。黒瀬ミレイはアバラが2、3本イってもうてたらしい・・・そんで灰谷のほうは・・・・・・」

「ひ・・ヒカルちゃん?」

「・・・スマン。ちょっと忘れてるトコロがチラチラあってな・・・何せそらぁヒドイありさまやったから・・え〜と、たしか顔面骨折、鼻骨骨折・・右腕も折れてたかな?あとはもう片方の手の指が4本複雑骨折、であとは・・全身打撲に、ああ裂傷ってヤツも・・・」

「もっ・・もういい!ヤメテぇーーっっ」


あまりに聞くに堪えない内容に悠奈は耳を塞いでその場に蹲った。

「ああ、悪い・・・ま、とにかく、キレたらそれくらいのコトやってまうヤツっちゅうこっちゃ・・」

悠奈は話を聞いて今さらながらに自分がいかにヤバイ人と会話していたのか、なぜ日向や普段あっけらかんとしている七海までもがあんなに血相を変えて自分を叱りつけたのかようやくわかった。
今までの人とはあまりにも違う人。キレたとはいえ女の子相手にそこまで容赦なく暴行を加えられるような人間相手に自分が今しがたあんな生意気な口を聞いてしまったなんて、考えれば考えるほど恐ろしくなってきた。

「あ・・あの・・アタシ・・」

「心配せんでもええユウナ。レイかてそないいっつもいっつも不機嫌なワケちゃうわ。お前のコトは別に怒ったりしてへんから、今言うた話もあくまでよっぽどの時の話や、せやから怒らせんようにちょっと気ぃつけえっちゅう話・・・」

「そ・・そう・・なん・・だ・・」

でもさっき怒ってたじゃん!
よっぽどの時って言ったってそんな時があるといきなり話されただけで怖いよ、と悠奈はニシシと笑うヒカルを横目で見ながらそう思った。

「ま、今はダメでもそのうち落ち着いて話せるようになるやろ?取りあえずウチに一回行こか?」

「あ・・あのさぁヒカルちゃん・・・もしかして・・さっきレナちゃんが言ってたコト・・アレってさあ・・ひょっとしてやっぱりヒカルちゃんも?」


「ああ、残りのメンバー・・オレはやっぱり、レイがイチバンやないかって思う」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「う・・ぐあぁ・・・」

「ごほっ・・げほっ・・ぐはっ・・」

「い・・いでぇぇ・・・うっくっ・・つ・・つえぇぇ・・・・」


「ったくよぉ、ケンカ売ってくんなぁいいがもう少しマシな実力のヤツぁいねえのか?テメエら高校生だろ?」


目の前で無様に路地裏に転がる年上の不良少年達に、東麗は金髪の髪を掻き揚げながら言って、唾を吐き捨てた。

あの愛澤悠奈とかいう転校生に生意気にもあんな意見をされ、ちょっとばかしイラついて帰路についていたところに売られた喧嘩。
相手は全員が恐らくは高校生の不良学生達。どこからか自分の噂でも聞きつけたのだろうか?
「東麗ってのはお前か?」 「最近目立ってるショーガクセーってのはテメーだな?」 といかにもなヤンキー台詞で連れ込まれた商店街近くの裏道。

ストレスを発散するにはもってこいの相手だと嬉々として喧嘩を買った結果が今の惨状であった。殴りかかってきた2人をカウンターのエルボーと膝蹴りで迎撃し、背後のヤツには振り返りざまのストレートナックルで吹き飛ばす。


「ひっ・・なっ・・ん・・ちょっとまってく・・・」
「タイガーキィックっ!」

「おぐうぅっっ!?」

予想外の反撃にあっけにとられた正面のヤツにはたっぷりとウエイトとスピードを乗せたコレも叔父直伝の必殺飛び膝蹴りを叩き込んだ。
もんどりうって転がり鼻を潰して白目を剥く男。

その間25秒。

小学生の少年が明らかに体格で勝る高校生のしかも喧嘩に覚えのあるハズの不良学生達をものの30秒足らずで沈めたのだ。
彼らが弱いのではない。この東麗という少年がとんでもなく強すぎるのだ。

気を失ってないものはこの年下の少年にすっかり肝を潰し、悲鳴を上げてその場から逃げだした。その様子を見て退屈そうにフン、と鼻を鳴らすと、カバンを拾って家へと歩き出す。


退屈だ。

ここのところ面白いことなど1つもない。
贔屓にしていたロックバンドは不慮の不祥事によってその後の進退が危ぶまれている状態。学校の勉強は全く面白くなく授業中はひたすらスマホでゲームをして時間つぶし。これもまた退屈。
たまに今のように喧嘩を吹っ掛けられても自分を満足させるほどの実力のヤツなどなかなか出会えなかったし、光や晃といった幼馴染が唯一彼と互角の実力を持つがそもそも彼らとはそこまでの喧嘩にはそうそうなるものではない。


退屈の連鎖。


そんな時分に降って沸いた今日のステージの話、そして光から聞かされたウワサの転校生のコト。
ステージのパフォーマンスは確かに彼の退屈を少し埋めてくれた。しかし期待していた転校生は・・・


「・・・・ただのどこにでもいるちょっと生意気なメスガキにしか見えなかったが・・ヒカルがあんなに嬉しそうにあのオンナのハナシをしてやがったのは・・・何かあるのか?」


自宅マンションの暗証番号を入力して、エレベーターに乗る。
その中でふと、あの生意気な転校生のコトを麗は不思議と考え続けていた。


「・・・アイザワユウナ・・・か」






「レイちゃんレイちゃんレイちゃんレイちゃあぁーーーーーんっ♪♪ねえねえレナたちといっしょにセイバーチルドレンズやろおぉーーーっvv」

「〜〜〜・・っっ!!」


自宅玄関に入った途端に抱き付いて耳元で大音量でそんな意味不明のコトを叫ぶ1コ年下のガールフレンド。見事に不意を突かれた彼は眼をシロクロさせて耳を押さえた。


「・・・レナ・・テメエ〜・・」

「えへへ〜v」

「おーうレイ!遅かったやないか何しててん?先に帰ってたで!今からみんな取るところやどや?お前も」

「なあなあレイどのケーキ食う?帰りにヒカルがみんなの分買ってくれたんだよ。まだ残ってるぜ、レイどれにする?あ!ちなみにオレ、フルーツタルト!」

「あたいイチゴムース〜v」
「あたしはぁ、ミルクレープvちなみにレナはショコラケーキねv」
「ハイハイハ〜イ♪ウチなぁ、イチゴショート!ぜったいイチゴショート!ヒナはぁ?」
「えっと・・・オレもショートケーキ」
「じゃあ・・・オレ、ベイクドチーズケーキ!」


「・・おい、待てテメーら。一体何してんだ?」

「何って・・・オヤツタイムやんか」

「そーそー、あ、茶ぁ入れねえとな茶。え〜と・・ヒカル飲み物は?」

「ああ、オレ、コーヒーでええわ。ホラ、ソコに沸かしてあるやろ?砂糖ナシのミルク多めでな」

「うっわぁ〜ヒカルちゃんオットナぁーvカッコイイー♪んじゃ・・あたしミルクティーにしてみよっかな?あ、アキちゃんあたしはお砂糖たっぷりいれてねv」

「じゃあ、あたいはジュースでいいや」

「んっとねぇ〜、レナねえレナねえ・・・ココア!あまぁ〜いココア!お砂糖とクリームたっぷり入れるのぉっ!」

「あ!オレもココア!」
「ウチもぉ〜〜っウチもお砂糖たっぷりぃ!」
「オレもココアにしようっと!ユウナも同じでいい?」
「え?あ・・うん」

「いやいやいや!待て待て待てテメエらっ!」

「なんやねんレイ、まだ文句あんのんかいな?」

「あるに決まってんだろっ、ってか人の話聞けよっ!」

自分の質問を適当にはぐらかされた麗は苛立つ気持ちをなんとか押さえつつも強い口調で言った。
帰ってきてみていきなり遭遇したこの意味不明の状況はどうしたことだ?
光は同居人であるからいたところでなんの疑問もない。晃も、まあココの辺りは兄弟のように育った幼馴染だからなんとなく理解はできる。
だがしかし那深や麗奈、咲良まで呼んだ覚えはない。そして日向や七海、窈狼。なぜコイツらまでもがさも当たり前のように自分の家にいる?
しかも、1人混じっている見慣れない少女は先ほど自分に対して横柄な物言いをしたあのユウナという転校生ではなかったか?
そして自分を差し置いてなぜリビングで勝手にティータイムをシャレ込んでいる?なぜ当然の如く我が家のブランド物の食器を使って飲み食いしているのだ?

ややもすると混乱して気が滅入りそうな状況下であったが、眉間を押さえてソファに腰かけた麗に光が笑いながらあっけらかんと説明した。

「あのままみんな家かえろ思ってんけどな、いつも一哉のオッチャンが贔屓にしとるケーキ屋の『ア・モーレ』あるやんか!な?見たらケーキ全品今日は3割引きやってん!せっかくやからみんな呼んでお茶でもしたらどないかな〜なんて思て連れてきてもうた!な、ええやろ?」

兄弟分の屈託のない笑顔。
昔からそうだが、この笑顔を見せられると自分の中に燻っている毒気がもう完全に取り去られてしまうような気になる。
クスッと短く吹きだすと、麗はフゥ、と天井を見上げて息をつくと「もういいよ」と短く言葉を切った。そして光をもう1度見つめる。


「もうメンドくせえ探り合いは抜きにしようや。で?ヒカル、オレになにしてほしいんだ?」

「なんやいきなり笑ろた思たら・・別に、ただみんなで一緒におやつ食べよと思ただけやんか」

「ボケてんじゃねえよ。オレやアキラ達と違ってオメエそんなにケーキ好きじゃねえだろ?自分で買ってくんならタコ焼きかお好み焼きチョイスしてるハズだぜ?それにヒナと・・ソコのガキ」

言われて悠奈はビクッと体を震わせてそそそ・・と七海の後ろに隠れた。
なぜか自分を怖がっている様子を見たが、別に気に留める風でもなく麗は光に続ける。

「何かオレに頼み事があるからわざわざこんな大勢で押しかけてきてんだろ?なんだよソレ、言ってみろ」

「ハハ・・やっぱりバレてもうてたか」

「ったりめえだ。一体オメエと何年一緒にいると思ってんだよ」

互いにへへへっと笑い合って、光は「ユウナ、レイア、たのむで!」と振り返りながら言った。悠奈は突然光に呼ばれてビクッと体を強張らせたが、レイアと目を合わせると息を飲んで麗の目の前までおずおずと進み出た。

「ああ?んだこのガキ、まだなんか文句あんのか?」

(うぅぅ・・・こ・・こわっっ!なんでこの人こんなに目つき悪いのぉ?)

悠奈はやっぱり怖い・・という思いを必死にこらえると傍らのレイアと目を合わせてコクリと頷いて麗をキリっと見つめ返した。その様子にますます怪訝な顔になる麗。

「?なんだってんだ?ハッキリわかんねえヤツだな。ひょっとしてアレか?オレ様を好きになっちゃいましたとかか?悪りぃがオレはオマエみてえなガキにゃとんとキョーミねえぞ」


「この子の中に眠っている魔力よ、お願い目覚めて!ティンクルティンクル・マジックパワー・ウェイク・アップ!スタンド・アップ!」


と、レイアの麗に向かって翳した手から放たれた光の玉が麗の頭の中に吸い込まれて消えた。
その瞬間、麗が「うっ?」と小さな声を漏らして目頭に手を当てるとそのままかぶりを振る。

「!・・・な、何が起きたんだ?突然頭の中にい・・・」

「はじめましてレイくん。アタシが見える?」

「あぁん?誰だ?どこからしゃべっ・・・て・・?」

「こんにちは!レイくん!グローリーグラウンドからやってきたフェアリーのレイアです♪」


麗の視線が空中で停止し、目の前でフワフワと漂う小さな妖精を凝視した。
しばらく一言も発さず、ただ目を丸くしてレイアを見つめていたが、やがて悠奈たちも一様に見守る中スっ、と立ち上がると何やらキッチンの方へと向かい、そのままスプレーらしきものを持ってきたかと思うとそのままレイアに向かってシューーッと噴射した。


「うっ・・!?きゃっ・・けっほっケホッケホッっ!ち、ちょっと何すんのさぁーーっ!?」

「死なねえな・・・ってこたぁ虫じゃあねえってコトか」

「あっ・・あったりまえでしょっ!?もう失礼しちゃうなあぁ〜、信じらんないっ!」

「そりゃコッチのセリフだ。おいヒカル、ひょっとしてコレか?オレにしたかった話ってのは?」

「あ・・ああ、せやけど・・・レイ・・オマエ、なんや思ったより驚かへんなぁ・・・流石に腰抜かす思てんケド・・」

「あ、ああ・・案外冷静だよな・・常識じゃ考えられないことだってのに・・・」


そんな麗の予想外の反応にちょっと意外だな、という表情の周囲を見て、麗はまたなんだよ?というような不機嫌そうな顔をした。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「ヒュウっ、こりゃまた今年はいつもより派手にやったじゃねえか」

カラオケ大会が終わってまだ片付けが残っているホールに降り立ち、チアキは口笛を鳴らして周囲を見渡した。
まだ多数残っているパイプ椅子、搬入のために置かれていた鉄のケース、音響機材、そしてステージにある大道具その他。
これだけ残っていれば十分だろう。

「このホールも久しぶりだな・・・ったく、無駄に金かけてんだよなこのガッコーはよ、だが、せっかくだから利用させてもらうぜ・・・」



「さ〜て、そろそろ片付け片付けと、作業員さんに連絡しなきゃ・・・ん?アレ?あんなトコに誰だ?生徒か?おーいキミ〜」

「どうしたんです?田村先生・・・あら?あの子・・・」

と、チアキが1人でちょっとした感慨にふけっていた時、アリーナの扉が開いて、2人の教師が入ってきた、ステージ近くにいたチアキの姿がすぐに目に止まる。
そのまま彼の方に近づいてきた。

「・・チッ、邪魔が入ったか・・・」

「何してるんだい?こんなとこで。もうイベントは終わったよ。生徒はとっくに帰る時間だ。親御さんが心配するから早く帰りなさい・・・ってアレ?キミ・・確か5年生の・・・」

「あ?オレが誰だろーとカンケーねーだろ。ほっとけよ」

「チアキくんっ!やっぱりっ!」

話しかけてきた教師に軽く悪態をついたとこで、もう1人の若い女性教諭が駆け寄ってくる。
知った顔だ。ついこの間まで毎日学校で顔を合わせていた担任の教師、人当たりが良い以外は取り立てて才のないごく普通の新任教師だ。
その女性教諭の反応に先ほど声をかけた教師も続く。

「チアキ・・・やっぱり!5年E組の闇洞千晶(あんどうちあき)くん!浜宮(はまみや)先生、彼は確かここ1か月ほど学校に来なくなってた・・・」

「千晶くん、来てくれたのね?よかった、先生心配してたのよ?学校来なくなったの・・なにか理由があるんでしょ?先生なにか悪いコトしたかな?教えてくれない?ねえ」

「・・・っぜえんだよクソ教師どもが!」

寄り添う浜宮と呼ばれた教師を払いのけるチアキ、その拍子に浜宮が「きゃあっ」と声を上げて尻餅をつく。
慌てて傍で見ていた田村と呼ばれた男性教諭が「浜宮先生!」と助け起こす。その光景を鼻で笑うように見つめるチアキ。

「千晶くん・・・」

「キミ!先生に向かってなんてコトを・・・お父さんやお母さんがこんなこと知ったらなんて言われるか・・・」

「おおしてみろや連絡でもなんでもあのクソ親どもになっ!どーせ気にもかけねえよクソったれ!ちょうどいいや、セイバーチルドレンズのついでにテメーらも始末してやるっ!」

そう毒づくとチアキは手を前に組んで青紫色の宝石を構えると呪文を唱えだした。

「闇より出し邪なる石ダークジュエル・・・我が魔力に応えその力を示せ・・っ!」

そう呪文を唱えると宝石が意志を持ったように手の中から飛び立ち、ステージ脇にあった音響器具にとりついた。
するととたんに蒼紫の発光とともに周囲のパイプ椅子やケースまでもが次々とまるで磁力のように吸い寄せられ、あっという間に大きな鉄の兵士を生み出した。


「きゃあああぁーーーっっ!?」
「わあぁあーーーっっ!?なっなんだアレはあぁっ!??」


「ヒャッハハハハっ!ビビッてやんのバーカ!そぉれやっちまいなアイアンファイター!テメエの力みせてやれっ!」

「ブルルワアァァアー・・・・」

地響きのするような声を発するアイアンファイターと呼ばれた鉄の巨人は、チアキの言葉に従って黒い妖気を発しながらホールの中を暴れ回った。





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「・・・で、そのグローリーグラウンドとかいう・・異世界・・か?そこが悪い魔女に乗っ取られそうで大変なんでオレに力を貸せ・・と、そういうことか?」

「そーそー!そーなのっ!よかったぁ〜、レイくんが思ったよりハナシがわかる人で助かっちゃったv」

「なんだそりゃ?しっかしまあ・・・小せえナリしてよくしゃべるなオメエ。なあヒカル、今コイツが言った話に間違いってねえんだな?」

「あ、ああ・・・そやけど・・・レイ、お前なんでそない落ち着いてんねん?」

「あ?」

「あ・・・オレもそれ思った。やけに冷静だよな・・てっきりオレらみたいに大声上げるくらいは想像してたんだけどな、ケッコー常識外れのコト言ってんぜ?」

光も晃も、目の前で宙に浮く、明らかに人外の存在であるレイアを見ても別段動じた様子でもないレイを見て、不思議そうに言った。
周りの悠奈や日向たちもまさに意外。という顔でレイの顔色を見ていた。その視線にボリボリと頭を掻くとレイはため息交じりに話し始める。

「そりゃまあ、多少は驚いたケドよ・・・でもお前アレだろ?魔法ったって要するに気とかアキラのサイコパワーとかと似たようなモンだろ?ジョーシキって言葉使うんなら手から竜巻とか雷とか火がでるヤツラだって魔法使いみてえなモンだろ?」

そう言われて日向も晃も光もしばし考えて「確かに・・・」という表情で頷いた。

「よーするに、アレだ。慣れってヤツだ」

「・・・・レイちゃんて・・」
「やっぱいろいろスゲエ・・」
「ウン・・あんなにビックリしちゃったオレたちって一体・・?」

唖然としながらレイを見つめる那深に咲良、そして窈狼。ただ1人麗奈だけが「レイちゃんさっすが〜v」と場違いにはしゃいでいた。

「にしても聞けば聞くほど信じられねえな・・・それにヒカルにアキラ、オメーらマジでこんなワケわかんねえゴタゴタに首突っ込もうってのか?」

「そ・・そりゃあ、オレだってはじめは戸惑ったけどよ・・・オレを頼りにしてるヤツが目の前にいるんだぜ?ここで断ったら男がすたるってもんだぜ!ユウナやヒナ達のことだって心配だしよ」

「ん〜・・ま、乗り掛かった舟やさかい、しゃーないやろ?ココは1発オレらでキメたろ思てな!どや?案外おもろいかも知らんで?レイ、お前もどや?」

「ざっけんじゃねえよ。なぁんでオレがんな得体の知れねえセイバーなんたらとかにならなきゃなんねえんだ?ガッコー行くのさえメンドくせえってのに、これ以上面倒事が増えんのはゴメンだぜ」


麗の答えにやっぱりな・・・と頷きながらもちょっと落胆したような表情を見せた一同。レイアも先ほどまでの生き生きとした顔はどこへやら、シュンと沈んでしまった。

「大体そんな面倒臭えコト、テメエら何の見返りもなしにボランティアでやろうってのか?こちとら慈善家じゃねえってんだよ」

「なぁるほど、ようはテメエはエミリーが怖くて逃げ腰になってる腑抜けヤローってコトか」


と、そんな時、さも挑発するように麗に向かって口火を切った者がいた。
麗がふと眼を上げると、レイアという妖精の周りをうろついていた別の小さいヤツラの1人が不敵な笑みを浮かべて自分を見下ろしていた。

「け・・・ケン!」


「ああ?何だテメエ?」

「テメーなんぞに名乗る名前なんて持ち合わせてねーよ。エミリーと魔法にすっかりビビっちまってるオクビョーモンなんかにゃあなぁ」

「誰がビビってるだとフザケてんのかテメエ、チョーシくれてっとふんづかまえてミキサーに入れてスリ潰すんぞコラ?」

「ハンっ!やれるモンならやってみやがれっ!テメーみたいなフヌケにそんなコトが出来るんならな」

麗の目の前に立ちはだかったフェアリー、それはオレンジの逆立ち気味の雑髪をした勝気な妖精、ケンであった。
彼は傲岸不遜に麗を睨み付け、痛烈な批判を浴びせかけた。

お互いの口調がそうだからなのだろうか?まるでヤンキー同士のメンチの切り合いである。互いにガンつけビームを飛ばし合い、一歩も退かない。しばしの膠着状態。
ケンの恐れを知らない行為に場の全員が息を飲む、しかし晃と光だけは「コイツやるじゃんっ!」というような期待と面白味に満ちた眼差しを向けていた。

「と・・とにかくっ!ね、ね、ケンカしないでっ、レイくんも、ケンも!ゴメンネ。いきなりこんな事言われたって困っちゃうよね?」

「フンッコッチから願い下げだぜ、どーせセイバーチルドレンなんかなれやしねえよこんなヘタレなんてよ」

「だとコラアっ!」

「なんだよやんのかっ!?」


再び小競り合いが起きかけ、「もうちょっといい加減にしてよっ」と悠奈が声を上げたところで、レイアとその場にいたフェアリーたちに突如として緊張が走った。


「!?・・このカンジは・・」

「?どしたのイーファ?」

「ウェンディ!」
「ええ、私も感じたわ」

様子が突然変わったイーファを見て、日向が声を上げて聞き返す。イーファはすぐさまウェンディに呼びかけると、彼女も緊張した面持ちで返事をしてからその場の子どもたちに呼びかけた。


「みんな話は後っ!どうやらジュエルモンスターが出現したみたいよ!」


「なんだって!?」

「大変だ・・・すぐ行かなきゃっ!ナナミ!」

「えぇ〜〜〜っっ・・まだケーキ食べてへんのに・・・」

「帰ってから食べよう、ね?ナナちゃん、ホラ!レナもサラちゃんも行くよっ」

「ったくメンドっくせぇ〜の!」

「ハイハイハーーーイっ!また魔法使いにヘンシンできるんだぁ〜vおもしろそぉ〜ドキドキ!v♪」


緊張感があるのかないのかよくわからない一同の反応、悠奈も「ユウナちゃん!」とレイアに声をかけられ、うん、と頷く。


「あ?モンスター?なんの話だ?もしかしてさっき話してたあの・・・」

「ゴメン、今話してる時間無いの、後にして!」

さっきまでちょっと自分に怯えたような態度をとっていた悠奈が突然キリっとして自分を撥ね付け出て行ってしまったコトに麗はいささか面喰い、そのままあっけにとられて後姿を見送ってしまった。
あとに残ったのは晃と光、そして自分に臆さず批判を述べたケンだけだ。


「・・・・・・。」


「・・・レイ・・・」

「行けよ勝手に・・・悪りぃがオレはゴメンだぜ」

「・・・わかった。お前がそない言うねやったらもう何も言わん。もともと強制できるコトでもないこっちゃしな」

まだ未練がありそうな晃の肩をトンと光が叩くと、そのまま2人も悠奈たちの後を追って行ってしまった。最後にはケンも「いくじなしヤローっ」と痛烈な捨て台詞を残し、それに対して「ああっ!?」と虚しく毒づくしかできなかった。


広めのリビングに彼1人。

いつも光と父の三人暮らし、ときどき口うるさいヴァネッサ先生が来るくらいで取り立てて賑やかでもない部屋なのだが、今日はいつにもまして寂しく感じた。
そのまま手持無沙汰になってスマホをいじるが、暫くしてからソファに投げ捨て、ガシガシと不機嫌そうに髪を掻いた。




「・・・・・・だから・・・・なんなんだよ、セイバーチルドレンって・・!」





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「ユウナちゃん!あそこ!」

「・・・あそこ・・って、ガッコウじゃん!?」

現場に駆け付けた悠奈たち。
しかしレイアたちの感知で駆け付けた現場が悠奈たちの通う天道学園だったことにみんなは驚いた。

「ダークチルドレンズのヤツラ・・オレたちの学校にまで・・っ」

「四の五の言ってる暇ないみたいだぜヤオラン!行くぞっ!」

そのまま校舎の中へと入る。
パッと見どこにもモンスターが暴れている気配がしないので思い過ごしかと思いかけたが、突如、アリーナのほうから聞こえてきた不気味な声にその思いは掻き消された。


「ヒカルちゃん、この声・・・って・・」

「多分・・な。コッチやっ!」

急いでアリーナの方へと向かう悠奈たち。たどり着いた時、アリーナには巨大な鉄の兵士と苦しそうに蹲る多くの教員たちの姿で溢れていた。


「ちょっ・・コレって・・」

「ガッコウのセンセーたち!?どーして・・」

「見て!ナミちゃん!サラちゃん!アレ、アイツらがやったんやっ!」

七海が指さす方、そこには大きな鉄の化け物と傍には明るい茶髪の顔にタトゥーを施した少年の姿があった。


「へっ・・やっと来やがったかセイバーチルドレンズ・・こちとら待ちくたびれて先に教師どもの心に闇を植え付けてマイナスエネルギーを頂いてたところだぜ」


「あ・・アンタが!?こんなことを・・アンタ誰なのよっ!?」

「これからくたばるヤツラに名乗っても仕方ねえだろ?わかったら大人しくそのレイアってフェアリーを渡して観念し・・」



「「「チアキ!?」」」

「チアキくん!!」

「あーっチーちゃんがいるぅ〜っ」



と、悠奈を言葉であしらいながら少年が前に出た瞬間、悠奈の後ろにいたヒカルたち上級生グループが一斉に声を上げた。
驚いて振り返る悠奈、見れば日向や七海、窈狼も「え?」というような顔をしている。
驚いているのは彼らだけではない、対象となった少年自身も息を飲み「て・・テメエら!?」と驚愕の声を上げた。


「オマエ・・・5年E組の闇洞千晶やないかいっ!」

「そうだ!確かレイに時々くっついてた・・・」

「なんでチアキくんまでこんなところにいるの!?」

「そーいやオメーもジュナやアカネと一緒で最近ガッコウ来てなかったよな・・・何がどーなってんだ?」

「ウッソー、ねーねーなんで?チーちゃんこんなトコでなにしてんの?もしかしてチーちゃんも魔法つかえるの?ねーねーねーねーレナにもおしえておしえてv」


それぞれ勝手気ままに自分に話しかけてくる光たちを唇を噛みながら睨み付けるチアキ。
その姿を見て悠奈は恐る恐る口を開いた。


「え・・えっと・・その・・この人も・・知り合いなの?」


「あ・・まあ、オレたちよりレイと付き合いが濃いってゆーか・・・ソイツのオヤジとレイのオヤジが仕事仲間らしくってな。オヤジの仕事にくっついて何度かレイと会ったりしてるウチにレイの舎弟みたいになってたヤツでよ。その伝手(つて)でオレらも知り合ったんだけど・・」

「チアキ・・最近姿見かけんと思たらオマエまで・・・なにやってんや一体!?」

「るっせえっ!テメエらにゃカンケーねえだろっ!大体オレはレイの舎弟になった覚えなんざねーぞ!」


うざったそうに声を荒げるとチアキはそのまま「アイアンファイター!」と傍らの鉄巨人に指令を与える。


「こうなったら仕方ねえ・・ヒカルくんにアキラくん。アンタらもセイバーチルドレンズだったたぁ思いもしなかったがだったらだったで仕方ねえ、ここでくたばってもらうぜっ!ダークスパーク・トランスフォーム!」

右手を頭上に掲げてそう叫ぶとチアキの体が蒼紫の怪しい発光に包まれる。
光の中から爆発がおき、姿を現したのは目も覚めるような天を突くような銀髪に真紅のヘッドギア、そして黒を基調にしたようなパンクロッカーが身に着けるようなライダースジャケットを着込み、腕の部分には頑丈そうなグローブ、肩の部分と肘、膝にメタルパット。
額にはヘッドギアのようなものを装着し、ベルトの部分にはトリガーのようなものを装飾したツールケースのようなものを装備していた。腰の後ろにはダガーのような短剣も見える。


「面がワレちまっちゃあ仕方ねえ!オレぁ闇洞千晶!元はこの学校の生徒だったが今はダークチルドレンズってぇチームに入ってるモンだ!エミリーさんが言ってた面白そうな国造りのためにお前らココで潰させてもらうぜ!いけっ!アイアンファイター!」

「グローームッ」

チアキの言葉に鉄の巨人が吼え声を上げて悠奈たちに迫る。
レイアは悠奈たちの方を振り返ると声を揃えて言った。

「ユウナちゃん!」

「ヒナタ!」

「ナナちゃん!」


「うんっ!みんな、行くよ!」




『シャイニングスパーク・トランスフォーム!!』




悠奈の合図でセイバーチルドレンズのメンバーたちが一斉に変身アイテムを構え、それを掲げる。
たちまち9人のメンバーの姿が眩い光に包まれ、中からコスチュームに身を包んだ9人が現れた。


「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「大いなる、青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー」
「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「拳の闘気は雷神の魂・・セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」
「根性全開、爆裂!男気一直線・・セイバーチルドレン・ガッツストライカー!」
「大地の恵みは緑の息吹き・・セイバーチルドレン・ミスティメイジ!」
「地を行き巡るは勝負の理・・セイバーチルドレン・グリットギャンブラー!」
「邪悪な心を打ち消す聖なる唄声・・セイバーチルドレン・スターディーヴァ!」


「アンタの好きになんか、させないっ!」

「ほざけっ!今までのザコどもとオレを一緒にしてくれるなよ?さあ、サモンボールよ・・オレの僕どもを呼び寄せろ!」


悠奈をせせら笑いながらチアキがポケットから例の召喚玉を取り出す。
それを上空に投げるとそこからいつものゲートが現れた。黒いゲートから這い出てきたのは玉葱か?はたまたチューリップか何かの球根を思わせるような体に眼玉を生やした植物系の怪物と、緑色の体に所々鋭い棘を身にまとったトカゲのようなモンスター。そして鋭い爪を生やした大きな猫のようなモンスターだった。
それらがぞろぞろと総勢20匹程、ジュエルモンスターを計算に入れるとこれまででももっとも敵の数が多かった。


「うっ・・ウッソーっあんなにいるのぉ!?」

「うえぇ〜〜・・今度はトカゲやぁ〜・・キモぉ〜・・ウチ爬虫類系もNGや!」


「ハハハハハっ!キモイだけじゃねえぜ!今までのヤツラが使ってたモンスターより強えモンスターだ!つまり・・・」


声高らかにそう言うと突然目にも止まらぬスピードでチアキはモンスターに嫌悪感を表す悠奈と七海の前に飛び込み、その足元にパンチを叩き込んだ。

ガッ!

という衝撃音とともにアリーナの床が一部破壊される。そのショックに悠奈と七海は顔を引きつらせて飛び退った。

「きゃあぁっ!?」

「ひあっ!?」

「今までのヤツラよりオレは実力も上ってコトよ!」

「うあっ!」
「きゃっ!?」

今度はチアキはバランスを崩している七海に遠心力を加えた回し蹴りを放った。
ガスッ!と鈍い音。
しかしあわや七海の顔面直撃かと思われたそのキックから体を張って七海の正面へ入り込み救った人物がいた。


「!!?・・や、ヤオっ!」

ムチャな体制で無理やり七海の前に割って入り自分を盾に回し蹴りから七海を救出した窈狼。
何とか咄嗟に腕で受け止めたものの大きくバランスを崩し、そのまま蹴飛ばされて七海と一緒にアリーナの床へと倒れ込んだ。


「・・・・〜っっ」

「だ・・大丈夫?」

「あ・・ああ、心配すんな・・・でもみんな気をつけろっ!アイツ・・・強い!」

なんとか立ち上がりながら腕を押さえてそう叫ぶ窈狼に「チッ、いい反応してんじゃねえか」と嬉しそうに言うチアキ。そのチアキ目がけて今度は日向がジャスティスブレードを召喚し駆け込むが、その前に球根のモンスターが躍り出た。

「ぐもももっ」

「チッ・・くそっ!ジャマ・・するなあっ!」

触手を巻き付けようとしてきたモンスター。
剣に絡みついて武器を奪おうとしてきたソイツの胴体を蹴り付け、離れた所、目玉を横薙ぎに一閃する。
宝石を残して萎んでしまったモンスターを見て一息つく暇もなく、続いて日向にトカゲのモンスターが襲い掛かった。

光も晃も、すでにモンスターと格闘しながら暴れる鉄の巨人を牽制し、咲良も那深もトカゲや猫から逃げ回りつつ攻撃魔法で応戦している。
その間にゆうゆう態勢を立て直すチアキ。

「言っとくがバッドプラントはともかく、スティングリザードもビグキャットは一筋縄じゃいかねえモンスターだぜ?引っかかれたり喰いつかれた日にゃマジでケガするかもな?」

「えぇ〜〜っそんなのヤダぁーっコワイよぉ〜、ナミちゃんたすけてぇーっ」

「泣き言いってるヒマあったらマジメに戦いなさいよっ!」

必死に防戦しながら那深は自分に泣きついてくる麗奈を叱咤する。その姿をさらに声を上げて嘲笑うチアキ。


「こりゃナミやサラたちに加勢に行った方がよさそうじゃねえかヒカル?」

「そうしたいのはヤマヤマやねんケドな・・・」


「グロォォォムッッ!」


「おっと!」
「うおっ!」

光と晃に巨大な鉄の拳が襲い掛かる。それを飛び退って躱す両者。
光と晃が対峙しているジュエルモンスター、巨大な鉄巨人のアイアンファイターは腕を振り上げて唸りを上げた。


「コッチはコッチで中々しんどいでこの相手も!」

「かってえからなさっきからこの鉄クズ!殴っても殴っても・・効いてんのかコレ?」

そう言いながらも動きの鈍重なアイアンファイター目がけて拳撃や蹴りを打ち込む光と晃、追い詰められてはいないが、那深や麗奈たちを援護できるほどの余裕も見当たらない。
悠奈も周りのモンスター達と激闘を繰り広げている日向たちの邪魔にならないようにスパイラルロッドとファイアボールを駆使して安全に立ち回るのがやっとだ。
と、そのそうこうしている内に「やぁ〜〜んっっ」という悲鳴が聞こえた。声の方を振り返る。
なんと麗奈がトカゲのモンスターに囲まれ、逃げ場を失って右往左往していたのだ。

「ギャギャギャッ!」

「クエエッッ」

「ふぇぇ〜〜・・と・・トカゲさんコワイ・・・」

「レナちゃん!」

「ちいっ・・ココからじゃあたいのセンティピードストリングスも届かねえし・・どうしたら・・」

咲良と悠奈が緊張した面持ちで麗奈のほうを見る。今にもトカゲのモンスターは鋭い爪と牙を突き出して麗奈にとびかからんとしていた。
さもありなん。
「ギャーース!」と雄叫びを上げながら1頭が麗奈に向かって飛び掛かった。

「きゃあぁぁっ」と悲鳴を上げながら蹲る麗奈に「レナちゃん!・・クソっ闇払いぃっ!」と日向が炎を剣から放つ。
狙いはトカゲの足元に逸れたが、思わぬ炎の攻撃にトカゲが怯む。その隙をついておたおたと慌てながら麗奈が逃げる。
しかし、腰が抜けたのか足元がおぼつかず、アリーナの板張りの床に足を滑らせて転んでしまう。そんな麗奈はそのまま地べたに衝突・・・・



しなかった。





トンという軽い音。


「ほえ?」


麗奈は何が起きたか一瞬わからなかった。
自分を支えた何か。肩をしっかりと掴まれ、自分は床にぶつかることなく静止している。



「なぁになにもねえ所で転んでやがんだレナ?ホントお前ってどんくせえヤツ」



と、そんな軽口が麗奈の頭の上から聞こえた。
ゆっくりと見上げて思わず麗奈は驚いたような声で

「レイちゃん!?」

と叫んだ。


そこには麗奈を抱き留めて周囲を見渡している東麗の姿があった。
ぐるりと見渡して「・・へえ・・」と声を漏らす。

「なっ・・なんで!?なんでレイちゃんココにいるの!?」

「別に・・ただ、やっぱり気になっちまってな・・しかしよぉ・・ホントだったんだな。妖精とかの話だけじゃなくって異世界からのモンスター・・まるっきりゲームじゃねえか。ってかあのバケモンデケエな」

「レイちゃん・・・」

「ヒナ、ナナ、ヤオランも。本当にヘンシンしてんだなオメーら、ちっとばかしビックリしたぜ。見て見りゃナミもサラもカッコ違ってんじゃねーか」

「レイちゃん・・・」

「なんだよ、来るならあんとき来いっつーの!」

呆気にとられたような一同にニッと笑ってそんな軽口を叩き、ナミの髪をクシャクシャと乱暴に撫でる麗。日向たちにも、どことなく皮肉めいてはいたが親しげな笑顔を向ける麗。
そんな彼は悠奈とレイアを見つけるとそのままツカツカと歩みよって正面から見据えた。


「な・・ナニ?」

「オイ、アイザワユウナ・・だっけか?それに・・レイア?」

「な、なあに?」

「さっきの話な・・・受けてやってもいい」

「え?」
「ホント!?」

こっくりと頷く麗、その姿に「やったー!」というレイアと「なんで急に・・?」という疑問を顔全体で表現している悠奈。
そんな彼に今度は光と晃からも笑いながら野次が飛ぶ。

「なんやレイ!」

「オマエ、オレ達の話断ったんじゃねえのかよ?」

「るっせえよ。気になったって言ってんだろーが。それに・・・ちょっくら用が出来ちまったもんでな・・・」


と、ふと麗は自分の登場によって呆気にとられ、行動が静止しているモンスター達の間に割り込み、鉄巨人の傍にいるチアキに視線をうつして話しかける。


「よォ、近頃見かけねえと思ったら・・なんだズイブンと楽しそうなことしてんじゃねえか、ええ?チアキ」

「・・・レ・・レイ・・な、なんで?」

チアキが表情を強張らせて麗を見つめる。
そう、麗の登場に一番驚いていたのは実は彼だった。

悠奈も日向たちもやっぱり麗ともこのチアキという少年、顔見知りだったのか。と目くばせし合い、コトの成り行きを静かに見守っている。


「そいつはコッチのセリフだってんだ。まさかオマエまでこのおかしな話に一枚噛んでたなんてよ。オヤジさんとオフクロさんどーした?家には帰ってんのか?」

「かっ・・カンケーねえだろ!?レイにはよぉ!もう知らねーんだよあんな親ども!どうなったって知ったこっちゃねえっ!」

「ってこたぁやっぱ帰ってねえな・・・ついこの前オヤジから闇洞のオジサンがお前のコトで悩んでるって聞いたが・・・こういうコトだったのか。ったくしょうがねえヤツ」

「っせえっ!!テメエがオレに説教たれてんじゃねーよ!たった1歳年上だからってえらっそーにしやがって・・・こうなりゃテメエもまとめて片づけてやるぜっ!アイアンファイター!モンスターども!総攻撃かけるぜ集まれ!」

そうチアキが号令をかけると雄叫びとともにモンスター達が陣を組み直し、正面から再度悠奈たちに進軍してくるべく、態勢を整える。
そんな様子を見て、麗はため息混じりに言った。


「ッ・・チッ・・しゃーねーな・・・オイ!ソコのチビ!オメーだよオメー!」

「ああ?」

ふと、近場にいたフェアリー、ケンを麗は呼びつけた。
チビと呼ばれたのは多少不快ではあったが、それでもとりあえず麗のもとへと飛んでくるケン。

「おうレイア。さっき言ったよな、オレにもヒナやそのアイザワってヤツと同じようなマリョクってのがあるって」

「う、うん!」

「どうすればそいつらみたいにヘンシンできる?」

「え?え?・・レイ・・くん?」

「やってやんよ!そのセイバーなんとかってヤツ!ヒナ達だけじゃなくチアキまで絡んでるとなりゃもう他人事ってワケにゃあいかねえからよ。で?どうしたらいいんだ?」

「えっえ・・えっとね。まずは・・自分の中で信じる気持ちを高めてそれを魔力に・・・」

「ああん?ウダウダワケわかんねえコトくっちゃべってんじゃねえぞ!早いとこコツでもなんでも教えやがれ!」

「そっ・・そんなコト言ったって・・・」

急にまくし立ててくる麗に流石のレイアもしどろもどろ。悠奈も説明できずに2人でアタフタしていると、ケンが口火を切った。


「あわてんじゃねえよ。落ち着け」

「あ?」

「魔力ってのは人間の・・・とくに子どもの中に眠ってる魔法を信じる心だ。オレ達の存在やグローリーグラウンドの存在。そして魔法の力を信じて正しいコトのためにそれを使おうっていう決意がソイツの中で魔力を覚醒させるんだ。どんな時でも信じることを諦めずに大きな敵にも勇気をもって立ち向かう・・・オメーにその覚悟があんのか?」

言われて一拍考え込んだ麗はフっと笑ってから答えた。

「よーは気合いか。だったら話ははえーじゃねえか。この東麗さま、ケンカだろーが魔法だろうが諦めたり逃げたりってのは大っキライなんでな!上等!やったろーじゃねえか!」

と、その時、麗のズボンの後ろポケットが光り輝き出した。
目も覚めるようなスカイブルーの輝き。何かと思って取り出してみると、なんと彼のスマートフォンが光っていた。


「な・・っなんだこりゃあぁ?」

「あーーっっ!この光は!」

「よっしゃあっ!行くぜレイーーっ!!」


光にレイアが反応し、続けてケンが元気よく叫ぶ。瞬間、麗の中でドクンっと何かが脈打つ感覚が沸き上がった。



(な・・・なんだ?・・このカンジ?・・コレ・・ナニ?)







「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」






麗が叫ぶとその時、淡い青の光が爆発し、彼を包み込む。
見る間にバトルコスチュームを形成し、光の爆発の中から変身した麗が姿を現した。

頭髪は元のパンクロック風の逆毛チックな雑髪がさらに襟足が伸びて長く、金と緑のツートーンカラー。
首には橙のスカーフ、耳には金のピアス。蒼のジャケットに丈夫そうなハーフカーゴパンツ。下には黒のアンダーウェア。
右肩には緑の肩パッドに青のオープンフィンガーグローブに黒のブーツ、そして日向達のように武器を召喚できるダガータイプのアクセサリーをしていた。





「天を翔る疾風(はやて)の妙技・・・セイバーチルドレン・ゲイルシーフ!」





『・・・・・・・・・』


「・・・って・・なんなんだよコレ!?おおっ!?服がなんかヘンな感じに・・・コレがヘンシンってヤツか?」


「きゃああぁぁぁーーーーーーーっっっvvv!!!♪♪レイちゃんカッコイイーーーっ!♪ヤッタヤッタヤッタぁーーっ!vv」


「ああ?」

「レイくんがっ!ヘンシンできちゃった!ぃやっほぉーっ!」

「すっごぉ〜い!ヒカルちゃん読みバッチリぃーv」

「レイちゃんカッコイイーーっ!」


変身できたことで呆気にとられる麗をよそに、ぴょんぴょん飛び跳ねる麗奈を筆頭に窈狼や那深、大はしゃぎする一同。
自分の姿と周囲の反応を見比べて麗は光と晃、そしてレイアと悠奈を見据えて静かに言葉を発する。


「コレが、セイバーチルドレンってヤツなのか?」

「おう!なんだ結局やるんじゃねーかレイ!心配して損したぜ」

「ま、お前のことやさかい必ずもう1度くるとは思ってたけどな」

「るっせえよ。お前らがほっとけなかっただけだ、泣いて感謝しろ。オイ・・アイザワ」

「な・・ナニ?」


不意に自分の名前を呼ばれ、またしても多少ビクつきながら返事をする悠奈。そんな彼女とレイアに麗はフッと笑って言った。

「なんだかよくわかんねーケド、この話、オレもひと口乗るぜ。レイアもよろしくな」

「きゃーvやったぁ〜!コッチこそよろしくねレイくん!ね、ね!ユウナちゃん!」

「あ・・う・・うん。どーも・・・」


なにやらしどろもどろの彼女の反応に麗はやらやれとため息交じりに苦笑した。





「な・・・んだ・・と?レイが・・レイまでセイバーチルドレンになっちまっただと!?何が起こったんだ!?」

目の前で起こった事態にチアキは眼を見開き、声を荒げて狼狽し、唇を噛んで悔しそうにモンスター達に「戻れ」と叫んで命令を出し、もたついてるヤツには「グズついてんじゃねえよこの×××野郎が!」と容赦ない暴言を飛ばした
そのまるで癇癪を起したような頼りない行動が一番彼を年相応の少年に見せた。
そんなチアキに麗が振り返り強い口調で言う。


「チアキ!オレぁ腹ぁ括ったぜ。今からオレもセイバーチルドレンズってのをやることにする!おう、ケンとか言ったな」

「あ?なんだよ」

「ま、つーわけだからよ・・・これから色々頼むわ」

そう言いながら拳を突き出した麗に、ケンもまた

「・・ったくよォ、切り替えの早いヤローだ。でもま、そーゆーヤツキライじゃねえぜ!」

小さな腕で拳を作り、ガシっと合わせた。

「くぅ〜〜っ・・オトコの友情っちゅーヤツやな!レイちゃん決まってるやん!ユウナ、ウチらもやったんでぇ〜!」

「・・・うん・・そう・・だね!ヒナタくん!レイア!みんないくよっ!」

「チョーシくれてんじゃねえよこのボケどもが!今すぐ片づけてやるから覚悟キメとけ!行け!モンスターどもっ!」

悠奈の号令にその場にいた全員が『おうっ!』と元気よく言葉を返す。
麗の加入で俄然やる気になったチルドレンズ一同。
その一同に隊列を組みなおしたモンスター達がチアキの命令に従い、徒党を組んで襲い掛かった。

しかし、先ほどまでとは悠奈たちチルドレンズの動きがまるで違った。

まず、日向と窈狼がトカゲと猫のモンスター、スティングリザードとビグキャットに向かって突進。
先ほどは不意を突かれた形で後手を踏み、防戦を強いられた日向と窈狼だが、今度は完璧に出鼻を挫き、魔物の統率を乱した。

「でえぇりゃあっ!」

「ハイッ!ハイッ!ハイヤァッ!」

武器を手にした両者、日向は突進ざま横薙ぎにトカゲを薙ぎ払い、遠心力を利用して背後にいた猫の魔物を脳天から断ち切った。
続いて窈狼、手甲、ウルフクローフィストを装着し正面のトカゲを斬り上げ、そのまま左右の他のモンスターに回し蹴りを叩き込む。しかる後、後ろから覆い被さるように爪を振りかざしてきたもう1体のトカゲには身を沈めて爪を躱すと同時に伸び上るように肘鉄のアッパーカットで喉を顔ごと跳ね上げグラついた所を手甲を装着していない方の拳で正拳を捻じり込んだ。

あっという間にこれまでよりも強力とのふれ込みのモンスター達が蹴散らされる。

球根のような植物の魔物、バッドプラントも集団でチルドレンズに襲い掛かる。しかし日向と窈狼にたどり着く前に今度は女子チームの遠隔武器と攻撃魔法がそれらを迎え撃った。



「リーフアロー!」

「アクアスパイク!」

「いっけぇー!センティピードストリングス!」

「ダンシングロッド!」


「ギギィーーッ」  「ギィーーーッスっ」


触手を振りかざして日向と窈狼に打ち掛かったバッドプラントを那深と七海が魔法で、咲良と悠奈がチェーンと回転するロッドで迎撃。
さらに怯んだ植物を


「せーの・・・っっしゅくだいやりたくなぁ〜〜〜いっっ!・・・よし!スターダストマイク!いっちゃえぇ〜〜っ!」

大声をマイクに向かって叫び、声をストックしたところでトリガーをマイクのトリガーを引く麗奈。マイクからピンクいろに発光する音波弾が発生し、そのまま植物たちに襲い掛かる。音の玉に射抜かれた植物モンスターは黒ずんで萎み、そのまま煙を上げて消滅してしまった。
光と晃は迫りくるモンスターを蹴散らしながら目の前の鉄巨人、アイアンファイターに攻撃を加える。先ほどとは違い、相手の鈍重な動きを完璧に見切り、サイコボールや雷靱拳といった必殺技も駆使して次第に追い詰めていった。

一気に形勢逆転。

なるほど、一気呵成になった時のチームの爆発力。
それがここまで数々の刺客を撃退してきたコイツらの力かとチアキは舌打ちした。

「チッ・・クソが!役立たずのモンスターどもめ・・・こうなりゃオレが直接・・」


そう言って首元のネックレスを外すと、そのまま左腕に巻き付け、「来い!ゾロダガー!」と叫ぶ、すると見る間にアクセサリーが淡い紫色に怪しく光り輝き、湾曲した長めのダガーに変貌を遂げた。

「チョーシ乗ってんじゃねえぞタコどもが!オレが行って今すぐ全員片付け・・・」

「そうはいかねえな」


まず手始めに悠奈と七海にターゲットを絞って襲い掛かろうとしたその時、チアキの背後からそんな声がかけられた。
そこには先ほど変身したばかりの彼が、フェアリー、ケンとともに自分に向かって歩みを進めていた。

「・・・レイ!」

「オレだけ相手いねーんだわ。チアキ、悪りいケド相手んなってくれよ」

「てぇんめぇ・・・」

「・・・きな。レイさまが直々に相手になってやんぜガキ」

「・・・いつもいつも・・・オヤジやオフクロばかりじゃなくテメエまで・・どうしてテメエまでオレのコトをそう・・・っっっ・・ブッ飛ばしてやるっ!!」


そう吼えて正面からハイスピードで打ち掛かるチアキを、麗は不意を突かれながらもガシイっとなんとか受け止めた。


「っっ・・ぶねえっ・・速ぇな、ちょっとビックリしちまったぜ。これがヘンシンの力ってヤツか?それとも・・お前が強くなったのか?」

「っせえよ!いつもいつもエラそうにしてんじゃねえっ!レイ、テメーはオレが倒すっ!」

喚き立てながら麗に向けてダガーで薙ぎ払うチアキ、麗がバックステップでそれを躱すとそこに今度は回し蹴りが襲い掛かる。身を沈めてダッキングした麗を今度は再度振り下ろしの刃が打ち掛かり、「っとっヤベっ!」とたたらを踏みながらもなんとか躱した麗に今度は空いた右拳のアッパーカットが打ち込まれた。

ガッ!という打撃音。

「キャア!レイちゃんっ!!」

麗奈の悲鳴が重なる。

つづいて「・・っちいぃっ」という悔しそうな呻き。
一拍おいて離れた両者。
額を赤くした麗と、麗を悔しげに睨み付けながら拳を振るチアキ。


的確にチアキのアッパーが麗の顎を捉えたかと思われたのだが、間一髪。
麗は避けられないと見るや顎ではなく、咄嗟に拳に額をぶち当てたのだった。突然顎の感触ではなく、頭骨の一番固い部分がぶつかったのだから流石のチアキも拳の衝撃に苦悶の声を漏らしたのだ。もっとも、額とはいえ一撃を受けた麗とて無事ではない。

ダメージは顎に直撃するよりよっぽどマシだが、想像以上のチアキの拳打に目の前に電気が走ったような錯覚とともにクラクラとダメージを感じる。頭を振ってなんとか堪える。


「っぶねえなぁ・・素手の相手にいきなり刃物で斬りかかってくるたぁ、散々世話してやったオレ相手にずいぶんじゃねえか?チアキ」

「・・・へっ!それがどうした?所詮テメーなんざオレ達ダークチルドレンズの魔力の前には何もできない無力な存在にすぎねえんだよ。運よく変身できたからって調子のんなよ?変身できたって戦えなきゃ意味がねえんだからよ!このゾロダガーはオレの武器だ。戦う力だ!卑怯もへったくれもねーんだよ、お前が素手だろーとなんだろーとカンケーねえ!弱いヤツが悪りいのさ!」

そう吐き捨てるチアキ。
悠奈も日向も、本当にこのチアキってコが麗と友達だったのか疑ってしまいそうだった。

情の欠片も感じられないセリフ。友達だったハズの人間をここまで罵倒し悪口雑言の限りを浴びせることができるものなのか?ややもすると悠奈には理解に窮するところもあったのだが、そのセリフに彼女達以上にクールに対応して言い返したのが、他ならぬ麗本人だったからこれまた驚いた。

「そっか、そーだったな。ケンカする時やぁまず第一にどんな手ぇ使っても勝てってオメーに教えたの・・オレだっけかな?褒めてやるぜ。よく教えたこと覚えてたな」

カッカッカ、と珍しく声を上げて楽しそうに笑う麗。
その様子に光と晃はやれやれといった感じで見ていたが、悠奈や日向、窈狼や七海などは
《なんでそんな余裕あんの!!???》
と顔を引きつらせて驚いた。そんな麗に勿論チアキは怒り心頭。すぐさまギリギリと歯ぎしりして再度挑みかかった。

「余裕ぶっこいてんじゃ・・・ねえぇぞコラアァーーーッッ!!」

ダガーを振りかざして麗を攻め立てるチアキ、一応距離をとって躱す麗だが相手は刃物である。
ハラハラした展開に悠奈が先ほど沸いた疑問を光に投げかけた。


「ね・・ねえ、ヒカルくん、あのチアキってコ。レイさんとなんかあったの?」

「いや・・詳しくは・・でも麗がまだもっと昔、チアキにケンカの仕方教えたったいうんは知ってたケドな。ま、言うたら師匠と弟子みたいな関係・・なんかな?」

「よ・・よくわかんないけど・・だったらどうしてあんなにレイさんのこと?」

「それがわかったら苦労せんわい・・・」



「どいつもこいつもっ・・・なんでみんなオレをそうっっ」

「ああ?なんの話してんだ?キッチリ話しやがれ!」

「うるせえぇぇーーーーーっ!!」


まるで冷静さを欠き、爆発したように吼えて自分に攻撃を加えるチアキ。何に動揺しているのか?先ほどよりも体捌きが雑に見える。
いい加減反撃に転じてもいいのだがいかんせん刃物である。迂闊に飛び込めば甚大な被害をこうむるかも知れない。
そう考えていた麗の意図を知ってか知らずか?麗の横からケンが囁いた。

「レイ!こっちも武器で戦うぞ!」

「ああ?武器だぁ?フザケてんのかテメエ?んなもんどこにもねーだろが大体持ってたらそろそろ・・・」
「あるんだよ!武器が!お前の右腕にあるそのアクセサリーだよ」

「?なんだと?」

言われて麗はチアキの僅かな隙にスライディングキックを仕掛けて彼を転ばせた。「ぐあっ?・・ってえぇっ!」予想していなかった無軽快な個所の攻撃に顔を歪ませて転倒するチアキ。
その隙をついて麗は彼から間合いを遠く置いた。

「・・・コイツが?」

麗が言われた右腕に装着してあるチェーンにナイフのアクセサリーを見て呟く、続いてケンが嬉々として語る。

「ソイツを手に持って召喚するんだ!」

「召喚ったって・・いきなりかよ?大体どうやって・・・」

その時、麗の頭の中に何かが流れてきた。
知らないハズの武器の召喚の仕方、誰に教えてもらったわけではない。
自然と頭にまるで描かれるかのごとく浮かび上がってきたのだ。

(・・・なんだ?この感覚?・・・これが?・・・魔力?)




「来い!豹牙刃(ひょうがじん)!」


麗がそう叫んだ瞬間、右腕が発光し光の中から勇猛な豹を柄にあしらったチアキのダガーのような武器が現れた。


「うわっ!レイちゃんそのナイフっ!レイちゃんが出したのぉ?」

「スッゲェ〜〜ッ!めっちゃカッケェじゃんっあたいも欲しいっ!v」

「マジか?コレ・・・こんなこともできんのか?」

突然現れた麗の武器に那深と咲良が目を輝かせてカッコイイと騒ぐ麗奈などはもうただひたすら「スゴイスゴイv」と連呼して麗の首に縋り付いてはぴょんぴょんと落着きなく飛び跳ねている。
麗奈をうざったそうに引き剥がそうと悪戦苦闘している麗にニシシと笑いながらケンが言った。

「それがグローリーグラウンドの魔法の力だぜ!さあ!こっから逆転だレイ!」

「・・・だ、そうだぜ。どうする?こっからはオレもエモノ装備だ、アドバンテージにゃならねえぜチアキ」

「おもしれぇ・・だったら・・やってみろやレイ!」


再び今度は刃を構えた両者が相まみえる。その様子に触発されたか、今まで沈黙を保ってきたモンスター達と悠奈たちセイバーチルドレンズとの闘いもいよいよクライマックスに突入した。



「くらえぇっ!闇払い!」

「ワイルドウルフコンビネーション!うりゃりゃりゃりゃりゃあーっ!」


日向と窈狼、それぞれ必殺技の炎の闘気弾と拳の乱舞がトカゲと猫のモンスター達を的確に打ち据え、見事に駆逐に成功した。
その一方では悠奈、七海、那深、咲良、そして麗奈の女子メンバーが

「えぇいっ!ファイアボール!」

「アイススパイク!」

「リーフアロー!」

「ダイヤニードル!」

「みぃ〜んな元気モリモリ♪エキサイトダンス!」


魔法の波状攻撃を植物のモンスター達にお見舞いし、こちらも一気に殲滅した。

残るは頑強なジュエルモンスター、鋼鉄巨人のアイアンファイターだが、こちらはすでに動きを光と晃に見切られている。こちらの勝負もそうそう長引くものではなかった。

「サンダーボルト!」

「バーストブリッツ!」

「ムーンレーザー!」

「ファイアボール!」

今度は男子チームの攻撃魔法。それらが雨霰と降り注ぎ、アイアンファイターの体に確かなダメージを刻む、「グムム・・・」と呻きを上げてヨロヨロと後退するアイアンファイターにさらに光と晃が追い打ちをかけた。


「龍連打(りゅうれんだ)!」

「反動三段蹴(はんどうさんだんげ)り!」


両者が飛び込みざまに放った拳と蹴りの連続技、それらが鉄巨人への追撃となりついに巨大な体がふら付いてズズ〜ン・・と轟音を上げて倒れ落ちた。
その様を見て日向が悠奈に向かって「ユウナ!いまだ!」と叫び、レイアも「ユウナちゃん!」と声をかける。

2人の声に
「うん!」
と頷いて反応した悠奈はそのまま倒れ込んだ巨人に向かってとどめの一撃を放った。





「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャインハートフラーッシュ!」




悠奈の翳した両の掌から桃色に輝くハートの魔法弾が飛んでいき、巨人を包み込む。
包み込まれた巨人は光のなかで「グローームッ」と断末魔を上げ、やがて宝石を残して消滅してしまった。あとに残された宝石も塵になる。


「いよっしゃーーvやったでユウナーーっ!」

「ユウナちゃんエライ!サイコー!♪」


見事にジュエルモンスターを浄化した悠奈におくられるみんなの喝采。
悠奈自身も顔を赤くしながら「べ・・別に、たいしたことじゃないし」といいつつもまんざらでもない感じ。
レイアにまたしても「でた!意地っ張りキャラ!」と突っ込まれて頬をふくらませる。

残るは麗とにらみ合っているあのチアキという少年だけである。

悠奈たちが一斉にそちらを振り向くと、彼はまだ麗と刃を合わせて膠着していた。
「ひっ・・東先輩!」と悠奈が近寄ろうとするのを光が手で制止した。



「どうする?チアキ、どうやら一気に形勢逆転しちまったようだぜ?」

「ちっ・・役立たずのモンスターどもが・・もうこうなりゃ愛澤悠奈もレイアってフェアリーもどうでもいい・・レイ!今ここでテメエだけでも叩きのめしてやる!」

そう叫んでギィンッ!という激しい金属音とともに離れる両者。
互いに距離をとり、間合いを測る。と、突然チアキがバックステップすると体を深く沈めた。そして息を吐いて前係にシフトウェイトする。

「あ?なんだそりゃ?」

と麗が言ったその時だった。
チアキが地面を蹴ったかと思いきや猛スピードで刃を構え麗に向かって疾走してきたのだ。
その速さは尋常ではなく、正に神速。
陸上選手も真っ青の弾丸のような突進だった。



「ソニックブレイドッ!」



「っっがあっ!?」


「センパイ!」

「レイちゃん!」

「きゃあっっ!!?レイちゃぁんっ!」

悠奈に日向、それに麗奈が声を上げて息を飲む。
咄嗟に麗もダガーを正面に向けて防御はしたが、大きく態勢を崩され地面に吹き飛ばされた。


「っ・・テッメ!コノヤロ、チアキ・・っ!なんだ今のは?・・・生意気に必殺技持ってんじゃねーか」

「ハン!余裕こいてっからだよレイ!オレはもうお前の知ってるオレじゃねえ!ダークチルドレンズ、音速のヴァイオレントシーフ・チアキ様だ!」

「ケッ!ゴタイソウな名前つけやがって・・・なら、こっちも行かせてもらうぜ・・」

「お?やるつもりだなレイ!」

立ち上がった麗を見てケンが嬉しそうに傍らで笑う。麗は掌に意識を集中して呪文を唱えると横一文字に手刀を振りぬいた。

「風の精霊シルフィードよ、汝の名において我に目の前の悪しきものを裁く、疾風の刃を授けよ・・・エアエッジ!」

振りぬいた麗の腕から緑に輝く三日月状の衝撃波が疾駆する。
それがチアキの足元の床を射抜き、チアキは「うおっ!?」と言いながらたたらを踏んで後退する。

「まっ・・魔法っ?そんなっ・・っもう?」

「おー、コレが魔法ってヤツかぁ、なんだか呪文が勝手に頭の中に浮かんでくんのは気持ち悪りぃケド、ケッコー使えんじゃねえか、よっしゃどうするよチアキ?」

得意気に言う麗、しかしチアキが驚愕の表情を見せたのも一瞬のことで、すぐに不敵に笑い返すと再び戦闘態勢を整えつつこう言った。

「バカじゃねえのか?・・風の精霊シルフィードよ、汝の名において我に目の前の悪しきものを裁く、疾風の刃を授けよ・・・エアエッジ!」

「どぉあ!?」

突然今度はチアキが麗の放った攻撃魔法と全く同じ魔法を放ってきたのだ。その魔法も麗の足元を狙って疾駆し、それに気づいた麗が飛び退って魔法は床を穿って消える。

「へっ・・同じ魔法ってか・・そうこなきゃな!じゃあ魔法対決といくか?」
「同じ魔法だぁ?笑わせんじゃねえよ」

そう言って2人とも再び呪文を唱え、腕を振りかぶる。
そのまま全く同じタイミングで魔法が正面からぶつかり合う、同じ風の魔法。喰いあって互いに消滅・・・するかと思われた。


ズバッ!


「!・・・っなっ!?」

突然の衝撃。
麗の顔を皮一枚でチアキの放った魔法が通り抜ける。その一拍後、麗の頬が薄く切り裂かれ血が滲む。


「きゃあっ!?東センパイ!?」

「レイちゃん!!うわっ!レイちゃんケガしてんやんかあっ」

「きゃあーーっちょっとチアキくん!いくらなんでもヒドイじゃないのよぉ!」

「そうだぜ!あたいなんかこの間他校の女子とケンカして顔にちょっとケガさせただけでアニキに地獄のオシリぺんぺん30連発もらうくらいメチャクチャ怒られたんだぞ!こちとら痛くて死にそうだったんだからな!」

「キャーキャーキャー!!レイちゃん死んじゃうっ!」

「血がっ!・・大変だっ!アキちゃん!ヒカルちゃん!救急車!」


「落ちつけってのオメーラ、ちょっと頬っぺたが切れただけだよ!」
「取り乱しすぎや。アホどもが」


見慣れていない流血の光景に取り乱して右往左往の悠奈達セイバーチルドレンズの面々。
それらを少々面倒くさそうに光と晃が制する。
麗はと言えばゆっくりと自分の頬を指でなぞると、血を拭き取り、拭き取ったそれをペロッと下で撫でた。

「どういうことだ?同じ魔法ってヤツをぶつけたのにアイツの魔法がオレのを突き抜けやがった・・・」

「へっ!そんなコトもわからねえのか?魔力ってのは持ったその瞬間から鍛えて練習を重ねて底上げすることが大事なんだよ。熟練度ってヤツだ!オレはこの魔法を覚えて使って2カ月以上!今さっきやっと使えるようになったお前とじゃ威力に差があってとうぜんだろーが!」

得意げに話すチアキ。
悠奈たちはチアキの話を自分自身にも置き換えて考えてみた。
なるほど、よくよく考えれば光や晃が自分たちを誘って魔法の練習をさせてたように思える。それぞれに個人差はあるだろうが、魔法にも練度があるのだ。
習い事でも勉強でもより多くの経験や鍛錬を積んだものが上にいける。
魔法に関して光と晃がこのことを知っていたのか?あるいはヴォルツやバンから聞いていたのかは不明だが自分たちは知らず知らずの内に魔法のレベルアップをしていたのかもしれない。


「なるほどな。なんとなくわかったぜ、要は同じ魔法で勝負してもオレは分が悪りいってコトか」

「ヘッ!怖気づいたか?腰抜けが!今さら謝っても遅いけどな」

「いや・・・だったら魔法じゃないもので勝負すりゃあいい」


麗はそう言ってニヤリと笑うと不意に左腕を頭上に掲げて「コォォ・・ッ」と独特の呼吸をとると、おもむろにグルグルと腕を回転させだした。
だんだんと回転が速くなる。最初は怪訝な顔をしていたチアキだったが、それ以上とくに何も起こらないことを見て取ると再び掌を前に構えて魔法をぶつけようと麗に狙いを定めた。


「風の精霊シルフィードよ、汝の名において我に目の前の悪しきものを裁く疾風の刃を授けよ・・喰らえっ!エアエッジ!」


チアキの掌から淡い青緑に輝く風の魔法が刃と化して麗に正面から喰らいつく。
『レイちゃん!!』麗奈や那深、日向達から緊迫した叫び声が上がる。しかし、麗はあろうことか迫りくるその風の魔法に突進していった。

「!!??」

チアキの目が驚愕に見開かれる、刹那。
麗は正面からその魔法にあろうことか左拳で渾身のアッパーカットを打ち込んだ。

するとなんと、そこからチアキの魔法を切り裂いて麗が自分に駆け込みながらアッパーを繰り出してきた。
魔法を拳のアッパーで掻き消したのだ。
あり得ない。そんなコトをすれば風に切り裂かれて拳や腕がズタズタになるはずなのに、チアキがそう思った瞬間、自身を全く予期していなかった嵐にも似た旋風が襲った。



「ハリケーンアッパー!」



「うっっ・・ああぁあぁぁーーーーーっっっ」



巻き起こった突風、竜巻、嵐。
さながら局地的なハリケーンがチアキを巻き込み、鋭利な刀で斬りつけられたような鋭い痛みを感じ、続いて体を浮かせて錐揉みさせるほどの衝撃が彼を襲った。

そのまま吹き飛んで地面に叩きつけられるチアキ。
悠奈も、レイアも、ケンも、イーファや他のフェアリーたち、そして日向たちも麗が放った突然の大技に阿呆のほうに口を半開きにし何も言えずに硬直していた。


なに!?ナニ!?今の一体何!??


そんな衝撃の疑問を何人もが抱く中、ヨロヨロとチアキが起き上がり、そして麗に向かって叫んだ。


「っっ・・ヒッキョーだぞレイ!!なんなんだ今のは!?あんな魔法が使えたなんて聞いてねーぞ!」

「魔法じゃねーよバカ。オレも詳しくはわかんねえけど闘気ってヤツらしい。ジョー兄直伝のハリケーンアッパーだ、出来るようになったのはまあ、最近になってからだけどな」

かつてハリケーンアッパーのジョーと異名をとった麗の叔父にあたる人物。
キングオブファイターズ優勝経験もあるジョー・東の代名詞でもある必殺の左コークスクリューアッパー。
ハリケーンアッパー。
ジョーが親友のアンディ・ボガードから盗み覚えた八極正拳の気の呼吸法を応用し、体に満たしたものを拳の振りと回転力を通して突風を巻き起こして攻撃する必殺技。
南陽生、そして拙いながらも麗もこの奥義を習得していた。
勿論威力、破壊力においては本家本元の東丈のそれには遠く及ばないのであるが・・・


「聞いてねえ・・チックショ!っざけやがって!ブッ飛ばしてや・・・」

「おっと!そこまでにしとけよ」


と、再び挑みかかってこようとしたチアキの目の前に現れた影、その影は突っかかろうとしたチアキの体を右腕で制し、動きを封じた。

「っ・・・テンメエ!ヤオトメ!ジャマしてんじゃねえよっ!なんのつもりだ!」

「なんのつもりって・・止めにきてやったんだろうが。今のお前じゃもうコイツらには勝てねえよ、出直しだ」

「あ?フザケンな!っっ・・はなせっ!はなせってんだよォ!」


「あああぁ〜〜〜〜っっ!また出たヘンタイ猫目男!」

「おぉ〜、ユウナ。また会ったな、どうだ?ちょっとはオレとデートしてくれる気になったか?キスしてやろっか?」

「////////っっっ・・・○▼?☆(“&%°◇°l!! )っ!///////バッッ・・だっ・・だっっれがアンタなんかとっ!!いっつもいっつもなんでアンタってば・・・っっキャーーっ!イヤーーっ!!エッチヘンタイチカンスケベヘンシツシャーーーーっっっ!」

「ち・・ちょっとユウナちゃん!落ち着いてっ」

顔を真っ赤にして半狂乱して叫ぶ悠奈を見て彼、ユイトはカラカラと笑って「よし、チアキ帰るぜ」とチアキの背を押した。

「まて!」

その背に日向が燃えるような目つきでユイトを睨み、剣を構えて進行方向を遮る。


「ああ?んっだよまたお前か?しつけえヤツは嫌われんぜ?ヒナタ」
「ニシシシシ・・やっちまえよユイト!コイツ生意気だしよっ」
「レム、黙ってろ」

「気安く呼ぶな!」

ユイトと、後ろから出てきた彼のフェアリー、レムに向かって日向としてはあまり見られない感情的な姿で喚き立てる。


「いつもいつも突然現れてユウナにイヤなこと言って帰っていきやがって・・・お前は今日ココでオレが倒してやる!」

「鼻息の荒ぇヤツ。そんなに暑苦しいとユウナに嫌われるぜ」

「なっ・・なにぃ!?」


「オイオイ、ヒナ。ちぃっとマテや、ケンカの邪魔されたのはオレだぜ?ココはオレがキレるとこだろ」

挑みかかろうとしていた日向をトンと軽くおして麗がユイトの目の前に立ちはだかる。


「へえ、新しいセイバーチルドレンか」

「うるっせえよタコ。勝手に人のケンカに割り込みやがって?テメエ何モンだ?コトと次第によっちゃ容赦しねえぞコラ」

「あ?容赦しねえだ?おもしれえコト抜かすな。ドコをどう容赦しねえのか・・・聞かせてもらおうか?」


両者が互いに睨みあう、先ほどまで臨戦態勢にあった日向もチアキも、2人のこの空気にもはや言葉を発することもできず、茫然と立ち尽くしている。
それは周りで見ている悠奈たちも同じ、緊張の時間がほんの少し流れた時、その緊張はある一声によって破られた。



「そこまでだ!互いに退け!」



「・・・!あ!アイツ!」

日向が声を上げると、いつからそこにいたのか?
例の仮面剣士がステージ上から悠奈たちを見下ろしていた。


「あぁん?なんだ?またヘンなヤツが紛れ込んで来やがったぞ」

「チッ・・いいところで・・・ウゼエヤツ」

「レイくん。セイバーチルドレンとして覚醒、まずはおめでとうと言っておこう、しかしもう争いはそこまでにしておいたほうがいいよ。お互いもう体力も残り僅かのハズだからね」

「いきなりノコノコと出てきてテメエで勝手に人の体のジョーキョー決めてんじゃねえよ。んなこたぁオレの勝手だろうが!大体なんなんだテメエは?」

「そのヤオトメ・ユイトの知り合いさ。さ、もう退きなさい」


麗はその落ち着き払った物腰になにかよくわからない圧力を感じた。
まるですべてを見通しているかのような余裕というものか?大人が子どもを諭す時に用いる換言というものか?
とにかく、彼の態度は麗にしてみれば面白いものでなかったことは確かである。そのまま今度は麗は指をゴキリと鳴らしてペッと地面に唾を吐いて仮面野郎の方に迫った。


「見ず知らずの得体の知れねえヤツに言われてハイそうですかと引き下がれるほどオレぁ人間できてねえんでな、イヤだっつったらどうするつもりだ!?」


麗が威嚇するつもりでその顔に拳を振るおうとした瞬間・・・

ガシ!という鈍い音。


「!!!・・・なっ・・に?」


麗の振り抜こうとした拳が伸びきる前に仮面野郎の繰り出した剣の柄によって静止させられていた。

(・・・見えなかった・・だと?この・・オレが?)

「今日はもう、終わりにしよう。お前もいいな?ユイト」

「チっ・・・わぁったよ。オラ、チアキ。行くぞ」

「ちっ・・ちょっと待てよ!オレはまだっ・・」


今だ納得できないと抵抗するチアキを力づくで押しとどめ、ユイトはそのまま召喚玉のようなものを宙に投げるとそこからゲートが開き、2人はその中に消えてしまった。






後に残されたチルドレンズ一同と仮面剣士。

悠奈は息を吸うとそのまま剣士へと歩みより、ドキドキしながらも聞いた。


「あの・・アナタ・・一体誰なの?」

「フハハハハ!ついに名乗る時が来たようだなっ!」

「キャッ!?」

「そう、ぼくらはっっ・・」

「ティト!」


悠奈の質問に剣士のかわりに応えようと突然剣士の背後から現れたティトと呼ばれたフェアリーがユウナの前に出たが、そのティトを強引にひっつかみ、仮面剣士はこう言った。

「今はまだ僕の事を知る時じゃない。いずれその時が来たら・・・まためぐり会うだろう」

「あ!ちょっとまって!」


剣士はそれだけ言うと「なぜ名乗らんのだ!?大体ぼくらはっ・・・」と喚き立てるフェアリーを連れてその場を後にしてしまった。





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「えぇーーーっ!?レイちゃん・・や・・やるのぉ?」

「なんだヒナ、えらくイヤそうだな」

「い・・イヤそういうワケやないねんけど・・・だって・・レイちゃんやらん・・言うてたし・・なぁ」

「う・・うん」



東邸リビングルーム。
麗の家に戻ってきて、彼が開口一番、「オレもセイバーチルドレンってヤツをやってみようと思う」と口にしたことに、日向、七海、窈狼の3人はなにやら悲鳴に近い声を上げた。
なんとも歯切れの悪い彼らに、麗はニヤリと笑って話し出した。

「事情が変わった・・・オレとまともにケンカの出来るヤツなんか、ヒカルにアキラに・・あとはロックくらいのモンだと思ってたが・・・あんなに強えヤツがいたなんて。世の中にはまだまだ強えヤツがたくさんいそうだしな。オヤジやジョー兄に教わるだけじゃなく、自分で強くなってみてえ。それに・・・チアキのコトも気になるしな・・・さっきヒカルに聞いたが、どうやらミウやジュナにアカネまでいるみてえじゃねえか。知り合いがキナくせえことに関わってるのに、流石に放っておけねえからな」

そして「ま、と言うワケ・・・で!」と膝を叩いて立ち上がり、悠奈を見据えてそして笑いながら

「これからオレ様も一緒に世話んなることにするわ。たのむぜアイザワ!レイア、ケン、おめえらも、優しいヒカルちゃんやアキちゃんじゃなくてコワ〜イレイちゃんで悪いけどよろしくな」

と、みんなを見回して言った。
そのセリフに日向や七海、窈狼は苦笑しながらもやっぱり幼馴染の兄貴分に「うん!」「やっぱレイちゃん大好きぃ〜っ♪」と麗に抱き付く。
その七海と日向に「あーーっ!ヒナちゃんとナナちゃんズルイ〜っレナもぉ〜〜っっ!」と文句の声を上げつつ麗奈も抱き付いた。
「だあ!?コラ!離れろテメエらっっ」といいつつもまんざらでもない麗の表情。そんな彼に、レイア、イーファ、ウェンディ、ユエ、ヴォルツ、バン、リフィネ、クレア、ルーナ、そして今日初めてケンが笑顔を見せた。
フェアリーたちも大満足である。




「こんにちはぁ〜、一哉さーん、ヒカルちゃん、レイちゃん、いるぅ〜?」


と、そんな時だった。
玄関からそんな声がしたのは。



「あ!ヴァネッサ先生の声!」

「あらぁ〜、みんないらっしゃい。アキちゃんもヒナちゃんも、まあユウナちゃんまで!」

「あ・・えと・・こんにちは!」

「また来てくれて嬉しいわぁ〜vねえねえ、今度は先生もいるときお泊りにきて頂戴よユウナちゃん!」

「あ・・えと・・あの・・そ・・そのうち・・って言うか、気が向いたら・・・」

そんな悠奈をヴァネッサは抱きしめて髪をクシャクシャと撫でる。
相変わらずそれほど知り合って深くもない人の家庭教師の先生にフレンドリー全開に接しかたに圧倒されてしどろもどろな悠奈。
若干空気が読めないヴァネッサ先生に、麗が横から意見する。

「オイオイ、んな外国みたいなノリで突っかかられても反応に困るだろうがよセンセー、ついにボケたか?コーネンキだなババア」

「あらあら、相変わらず口が悪いのねぇ・・・そうね。でも確かにレイちゃんの言う通りだわ」

そう言って、赤髪の長身の女性、ヴァネッサは立ち上がると、パンッと手を合わせてまるで拝み倒すようにその場の子どもたちに告げた。


「みんなゴメンナサイ!ホンットーはこのまま晩御飯でも食べて行って欲しいところなんだケド・・・先生ちょぉお〜〜〜っとやらなきゃいけないコトができちゃって・・・今日はこの辺でお開き・・ってコトにしてくれるかしら?」

「はあ?なんだよやぶからぼうに・・・もうじきオヤジだって帰ってくんだろ?どーっせこれから帰ったってみんな晩飯時遅れるぜ?連絡入れてここで食ってきゃいいじゃねえか、めずらしいなアンタがそんなコト言うなんて・・・」

「本当にゴメンナサイね。今度あらためてまた招待しちゃうからvヒカルちゃん、悪いけどユウナちゃんたちお見送りしてきてくれる?」

「え?ん・・・あ、ああ・・ちゅうワケや・・さかい。ゴメンなみんな」

光も怪訝な顔をしつつも取りあえず悠奈たちに声をかけると、それに従って悠奈たちも部屋の外へ出る。

「お・・おじゃましました・・」 「お邪魔しましたぁ〜」 「じゃーねセンセー!バイバーイ!」 「いやぁ〜んっレナ、レイちゃんといっしょにいるぅ〜っ」

悠奈、日向、七海、麗奈。
声は十人十色だったが、みなヴァネッサの求めに応じて東邸を後にする。



ヘンだ。

おかしい。

麗は感じていた。
お客さんが大好きでどんな些細な用事でも人を招き、自分の手料理を振舞い、一緒に一杯やるのが大好きなヴァネッサセンセーが自分からお客を帰すなど。
何かある。それもよくないことが・・・

よっぽど抜き差しならない仕事があるか、でなければ・・・・



「さ・・・さ・・てと・・・ヒカルだけじゃしょうもねえよな。よっしゃ!メンドくせえけどオレさまも一緒に見送ってやるとすっか」

「あら?レイちゃんはいいわよ」

不穏な空気を感じ取ってその場から立ち去ろうとしていたレイをニッコリと笑いかけながらヴァネッサが呼び止めた。

「あ・・あ?なんだよそりゃ、行こうが行くまいがオレの勝手だろ?どけよ・・どけってセンセー!」

「んーん。どかない。だって先生、レイちゃんにお話があるんだもん」

「は・・はな・・し?はなしって?」



「レイちゃんさあ・・・最近先生がいない時、ホラ、今日とか。ケンカとかした?」







ものすごぉ〜〜〜〜〜く

怒っちゃってる時のどっちかであった。







「またねーっ!ヒカルちゃん、アキちゃーん!」 「じゃあまた明日ガッコーで!」 「アキラー!あたい先に帰って待ってるからなぁ〜っ」 「ヒカルちゃんまた明日ねぇ〜v」

日向に窈狼、咲良に那深、次々と手を振って帰っていく。
光と晃もそれに応えつつ手を振る。しかしなんとなく2人の表情がこわばっているのを悠奈は見て、気になって戻ってみた。


「お?なんや?ユウナ、忘れモンか?」

「ううん、違うの・・・その、東・・センパイは?」

「東・・センパイかぁ・・アイツのコト、レイって呼び捨てでもかまわんで?」

「そ・・そう?で・・どーしてアキラくんとヒカルくんだけ?」

そう悠奈に聞かれて2人は顔を見合わせて苦笑いした。


「ま・・アレや、そのぉ・・な」

「ちょっとメンドウなことになってるかも・・・ユウナは近づかない方がいいと思うぜ。特にアイツ。プライド高いからさ」

「?」





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「わああぁぁ〜〜〜〜〜っっちょっ・・タンマ!タンマタンマ!!待てっ待てってえぇ〜〜っっっ」

「待ちません!先生今まで交番にいたの!今日商店街通りで高校生の男の子数人にケガさせた子どもってやっっぱりアンタだったのね!また先生との約束やぶってっ」

と、そんな悲鳴と叱り声が、東宅のリビングに響き渡っていた。
ヴァネッサはその腕でまだまだ小柄な麗をがっちりと捕まえると、暴れ回る麗を片手で制し、そのまま連動する動きでソファに腰かけながら彼を膝の上に引き倒し、そのまま彼のズボンを下着ごとスルリと引き下ろした。

「ひっ」という声が上がるが無視。ヴァネッサ先生の眼前に久しぶりに麗の真っ白でまるで少女のように柔らかいお尻が姿を現した。

「〜〜〜〜っっ・・・ざっ・・ざっけんなよテメエ!?なにしやがる!?」

「なにしやがるじゃありません!今日買い物してこの家に戻ってみたら警察の方から電話があって、話を聞いてみたら高校生相手に天道学園の制服着た小学生がケンカしてたって・・・あとで付近の防犯カメラ確認してみたら・・やっぱり・・あんなにケンカはしないようにキツく言ってるのにっ!まぁた性懲りもなく!お約束破る悪い子は先生がお尻でしっかりと反省させてあげます!」

「うるせえっ!あっちが先に売ってきたんだろーがぁ!オレは悪くねえっ!はなせぇっ!離せってんだよおぉっ!」

「言い訳は・・・」


ぱっっしいぃーーーんっっ!

「いっっ!!?」

「今からお膝の上でたっぷりと聞いてあげます!」

ぺっっしいぃーーーんっっ!

「いいぃっっ!!??」


散々に反論しながらジタバタと往生際悪く暴れる麗を黙らせるかのように天高く掲げた平手をヴァネッサはその可愛らしいお尻目がけて振り下ろした。
甲高い破裂音とともにお尻がぷるんっ!と揺れ、それと同時に息が止まるような麗の悲鳴がせり上がる。

「今日は久しぶりに先生のお膝でいっぱい泣きなさい」

「っっっ〜〜〜〜〜・・・・っってえぇぇぇ〜〜〜〜・・・・」

たった2発で麗はお尻に受けたあまりの衝撃に涙目になり、苦痛の声を漏らす。
もはやケンカで味わう痛みなどの比ではない。お尻ぺんぺんと言えば聞こえは可愛いがヴァネッサのそれは男の自分や光でも時には死んだ方がマシとも思えるほどの激痛を体感するまさに拷問の一種であった。
さらにヴァネッサ先生、その麗の手形が2つくっきりとついたお尻に続けざまに平手を落とす。


ぱんっ! ぱんっ! ぺんっ! ぺんっ! パンッ! パンッ! ペンッ! ペンッ! ぴしゃっ! ピシャッ!

「ってえっ・・いてっ!・・いってっ!!ちょっ・・まっ・・まてっ・・いてええぇっっ・・まてってばっ!・・あいっ!ういぃっ!?・・いでえぇっっ!・・まって・・せんっ・・せっ・・オイ!コラーー!ハナシ聞けぇえぇ〜〜っっ」

「あらなあに?」

ぴしゃーーんっ!

「いっでええぇっっ・・だから話聞けってぇぇ〜〜〜っっ」

「言い訳は聞きません!前に街中でケンカしてプロの格闘家に襲われたときにもう2度と危ないことしないって、街中で不良相手にケンカとかしないって約束したでしょう?なんで懲りないのアンタってコは!?ほらっ、もっと、お尻!!」

ぺんっ! ぺーんっ! パンッ! パーーンッ! ぱちぃんっ! ぺちぃんっ! バシっ! バシっ! びしっ! ビシっ!

「ひぎゃっ!?・・ぎゃひっ!・・だっ・・てっ・・いだあっ!?・・アッチが先にっ・・しかけっ・・っでえっ!?いでっ!?いっでぇぇっっ!・・オレっ・・せーとーぼーえー・・いっでぇぇっ」

「逃げればいいでしょう?それか、誰か大人の人に助けてもらうとか」

「だって・・んなの・・カッコ悪りぃ・・」

ピシャ〜〜ンッ!

「ひゃあぁぁっ!!?」

そう答えた時、麗は今までとは明らかに違う熱い衝撃が尻に走るのを感じた。
一際強い平手、振り返ってみるとヴァネッサの表情が烈火のごとく怒っていた。

「それが間違い!」

ばしんっ! ベシンッ! ぴしゃっぴしゃっぴしゃんっ! バチィンっ!ぱっちぃ〜〜んっ!

「ぎゃあっっ!・・ひっひいぃぃっっ・・いったぁっ・・いてっいってえぇぇえっっ・・ぎゃあぁ〜〜んっっ」

「ケンカから逃げたらカッコ悪いとか、そんなコト理由になりません!それで今度は武器で襲われたらどうするの?もっと強い人が出てきたらどうするの!?前みたいにコワイ思いしたらどうするの!?」

「ひくっ・・うえっく・・オレ・・もう・・前より強い・・・」

「ジョーくんや紅丸くんはそんなコトのためにアンタたちに格闘技を教えてるんじゃありません!危険なだけじゃなくってもしそれで他の人を傷つけたら傷害罪で警察に捕まっちゃうかもしれないのよ?なんでそんなコトも考えられないの!?」

ぱしぃんっ! ぴしぃんっ! ピシャ! ベチンッ! ばちんっ! ぱっちんっ!ぺっちんっ!

「ぎゃああぁあっっ・・いってえぇっ!いてえよっ!いてえぇっっ・・センセーっ!いてぇってばあっっ」

なおも反省が見られず口答えの連続にヴァネッサは厳しく平手を落とす。
麗のお尻はもう真っ赤に腫れており、幾重にも大きな手形が折り重なっている。
流石にあの突っ張っていた麗も我慢できずについに泣き出し、お尻の痛みを涙ながらに訴えるが、まだ許してやるわけにはいかない。
麗のケンカ癖は光や晃を上回る。あのジョー・東の血を引いているのだから無理はないのかもしれないが・・
事実、これはまだヴァネッサが麗の教育係としての依頼を受けて間もないころの話だが街中で麗と光が習い覚えた格闘技を使って年上の不良相手に腕試しのつもりでケンカを売り歩いていた頃。
ジョーのタイトルマッチの相手にたまたま街でケンカを吹っ掛けてしまい、大変なことになったことがある。
相手は男色癖のあるイカレたサイコ野郎で、麗と光は当然手も足も出ず、犯されてしまいそうになった。
運よく警察が駆けつけてきたため何とか未遂で済んだが、麗と光はひどく衰弱して病院に担ぎ込まれ、事情をしってしまったジョーは試合中にこの男を怒りに任せて殺害しかけた。
危機感のかけた行いで人が1人死ぬところだったのである。

もう1年以上も前の話だが、そんなことがあったにも関わらず懲りていない。しかも心配事はそれだけではない。
この子たち、晃も含めて麗たちは血筋の影響か、子どもながらに格闘能力が異常に長けているのだ。
事実実力たるやその辺の不良高校生など軽く超えてしまっているだろう。
腕力もとても子どもの腕力ではない、もし今度は加害者となって相手に一生モノの傷を負わせてしまったら・・・

そう思うとヴァネッサは少々厳しくてもここで麗たちを理性がきく子に躾けてあげなければとあえて厳しい態度でお仕置きをすることにした。


「いっぱい悪いコトして・・・お尻ぺんぺんされるってわかってたんでしょ?自業自得!」

ぱーーーんっ! ぺーーーんっ!


「っっ・・うっ・・ぅっ・・ぅわああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜んっっ・・・ああぁぁ〜〜〜んっっ」

キツイ2発がお見舞いされ、ついに麗はワンワンと大声を上げて号泣した。
しかしヴァネッサは厳しい態度を崩さない。

「ホラ、レイちゃん!オシリ逃げないの!まだぺんぺん終わってないわよ?」

「ひくっ・・ひぐっ・・も・・やだぁぁ・・・うえぇぇ・・ふえっく・・いだぁい・・いだいよ、いたいよぉ・・・」

「痛いのはお仕置きだから当然なの、レイちゃんが悪い子だったからお尻叩かれてるんでしょ?ホラ、自分が何がいけなかったのか・・よぉく、考えな・・さいっ!」

ビタァ〜〜〜ンっ!

「いっっでえぇ〜〜〜っっ・・いってえっ!いっでぇえよぉ・・超イテエよおっっ!もぉ・・ムリ・・ムリだってえっっ」

「無理かどうかは先生が決めます!ホラ、レイちゃんはまだゴメンナサイできないかなぁ〜?」

ぺんっ! ぺちーんっ! パンッ! パチーンッ!

「ぎゃっ・・ぎゃああぁぁんっっ・・うぎゃあっ!・・だっ・・だって・・オレ・・・悪く・・ないぃぃ〜〜〜・・・」

「じゃあ終わりません!」

ぺっちぃ〜〜んっ! ばっちぃ〜〜んっ! ぴしゃんっ!ぴしゃぁあんっ!

「うぎゃあぁぁっっ・・・ぎゃあぁぁんっっ・・ぎゃぴいぃ〜〜〜っっ・・びええぇぇ〜〜〜んっっ」

最早先ほどまで悠奈たちに見せていたアニキ然とした威厳は蚊ほどにもない。
その姿もうどこからどうみても悪いコトをしてお尻をぶたれて泣き喚いているママと坊やのそれだった。

「ほらレイちゃん。むやみやたらとケンカするのはどうなの?いいの?悪いの?」

「ひくっ・・ひぐぅっ・・ぐすっ・・すんっすんっ・・えっくえぐっ・・」

ヴァネッサは涙で声が詰まってなかなか話せない麗の背中を優しくさすりながら、そして叩かれて真っ赤っかに腫れ上がり熱を帯びている可愛そうなお尻も優しくさすりながら答えを促す。
すると、ついに麗は折れた。


「・・・・悪い・・コト・・ひっく・・くすんっ・・ゴメン・・なさい・・・」

「まったく・・・いっつもいっつも、オシリがこぉんなになるまでゴメンナサイできないんだから」

そう言って笑うと、ヴァネッサは麗を膝の上に抱きなおして、自分の正面に座らせると、胸に抱きしめてそして真っ赤に腫れてしまった可愛そうなお尻をナデナデしてあげた。

「痛かったわねぇ〜・・よしよし。わかってるわよ?レイちゃん、レイちゃんにもちゃんと理由があったんでしょ?向こうにも悪いところがあったからケンカしたのよね?」

そう言って髪も撫でながら赤ちゃんに接するように言葉をかけてやると泣きながらコクリと頷く麗、それを見てヴァネッサは笑って、でもしっかりと毅然とした態度で言った。

「で・も!やっぱりケンカはダメ!世の中まだまだレイちゃんより強い人なんていっぱいいるんだから、それに・・もしレイちゃんがほかの子にケガさせたりしたら、先生やっぱり悲しいわ。ノボルくんのためだってわかってても、あの女の子たちにレイちゃんが酷いケガさせたって聞いた時は先生、本当に心配したし、ちょっと悲しかったのよ?わかって」

「・・・・っ・・だ・・だれかを・・ひくっ・・守ったりするときでも・・ひぐっ・・ダメ?」

「それは、いつかレイちゃんも判断できるようになるんじゃない?ジョーくんやパパを見てたらわかるんじゃないかしら?」

「・・・・うん」

「そう、武術はそういうときのために使うのよ。むやみやたらと使っちゃダメ。わかったわね?」

そう言って髪を撫でてやるとまた背中をトントンとしてやる。
許されたと安心した麗は、そのままヴァネッサの胸に顔をうずめてまた泣き出した。



「でも・・・レイちゃんはホンットに損なコねぇ・・毎回毎回お仕置きする度にホントにおサルさんみたいなお尻にならないとゴメンナサイできないんだから」

「・・・うるせえっ」

「あら?そんなナマイキなお口聞いて・・・じゃあ、もう抱っこおしまいにしちゃうわよ?」

「ええ!?・・ヤダ!もっと!ダッコもっと!」

「・・・・あらぁぁ〜〜vそおぉ〜〜?レイちゃんってばもっと抱っこしてほしいんでちゅか?」

「・・・・・」


と、そんな風にからかわれて、麗は心の中で心底思った。


(いつかコイツより強くなって絶対に仕返ししてやる!!)



「なあレイ、お前もシリ叩かれて叱られてんだな。人間のコドモってなみんなこんなに情けねえのか?」

「るっせえコロスぞテメエ!!」


と、そんな調子で何もない虚空に叫んだ麗を見て、(あ・・ヤバ、そんな幻覚見ちゃうくらい厳しく叩いちゃった!?)と心配したヴァネッサ先生だった。



ヤンキーでちょっとコワいアニキ分のメンバーは・・・

実はそれよりコワイ家庭教師の先生のお仕置きが大嫌いで、でもその後の抱っこが大好きな、ちょっぴりシャイな男の子でした。







                     つ づ く