「ええっ!?あたしがぁ?子ども番組のレギュラーですかぁ!?」

「そうよ。しかも放送枠は毎日の朝8:30からの生中継!今年度からのブロンソンテレビの目玉番組らしいわ。言わばうららが日本の子ども達の朝の顔になるってことね」

「やったじゃんうらら!スゴイよ!」
「チーム5(ファイブ)から初めての連続番組主演じゃない?スッゴぉ~い!♪」
「ホント、大したもんだわ、あたしもほのかも主演のレギュラーが決まったのはデビューして4、5年は経ってたわよ?それをまだ2年そこそこで・・・うらら、あんた流石だわ!女優のママ持ってるだけあるわ!」

「そ・・・そんな・・のぞみさんもりんさんも、なぎささんまでやめて下さい///」

秋葉原に居を構えるPCA21本部スタジオ。
その1レッスン室で、春日野うららは恐縮の面持ちで頬を紅らめた。



発端はつい先程五車プロモーションに届いた一通のメールである。

なんと全国区放送の幼児向け総合教育番組、「やまのフドウのvおとうさんといっしょ♪」の企画部門にPCA21・チーム5に所属する春日野うららの主演内定が決定したというのだ。
テレビ番組においてPCA21のメンバーからレギュラー出演、しかも主演が決まったのはドラマにおいて美墨なぎさ、雪城ほのか、月影ゆり以来、バラエティー番組ライブとなればPCA史上初となるサプライズであり、PCAメンバーはチームの枠を超えてこの春日野うららの快挙に諸手を上げて喜んだ。
こういった他の芸能界にはなかなか見られない温かいフレンドシップもPCA21の魅力の1つである。チーム5はもちろんのこと、PCA21メンバー達は皆ハイタッチしたり、当のうらら本人に抱き付いたりして喜びを表現している。そのメンバー達の仲のいい様子にいつものことながら、藤田麻美耶もニッコリと温かに微笑んだ。

「うららもコレでお母さんみたいな舞台女優への夢にまた一歩近づいたってところかしらね?」
「おめでとう!うららさん、わたしたちも嬉しいわ」
「チーム5の代表なんだからね。しっかりね!うらら!」

「かれんさん・・・こまちさんもくるみちゃんも、ありがとう!がんばります!」

同じチームの水無月かれん、秋元こまち、美々野くるみの言葉にも励まされて、うららは笑顔で元気よく答えた。

「しっかしうららちゃんがやる、この『やまのフドウのvおとうさんといっしょ♪』って企画・・・なんか怪しい気配を感じるのはオレだけっスかね?」

と、心配の面持ちで机の上の企画書に眼を通して呟いたのは、すっかりPCA21のお世話係スタッフが板についたみんなの良きお兄ちゃん、難波伐斗である。

「そう?このテレビ番組って結構有名な教育番組よ?」
「バットくん聞いたコトない?割と昔からやってるハズなんだけど・・・」
「ハァ・・・すいません。そういうコト疎くって・・・そうなんスか。まぁ、うららちゃんもやる気になってるんだったら、オレが口出すことじゃねえか」

マミヤや松風麗奈の番組に肯定的な言葉も聞いてなんとなくは自分を納得させた。
だが、PCAのスタッフとして働き始めてから、そして北斗南斗のKY拳士達と関わるようになってから、こういったバットの嫌な予感はよく当たってしまう。
そのコトにうっすら気づいてしまっているのだ。
しかし目の前でうららの新たな挑戦に盛り上がって沸いているプリキュアメンバーを見て再度その予感を無理やり振り払う。

(イヤ、ダメだダメだ。こんなコト考えちゃあ、嬢ちゃんたちがこんなに喜んでんだ。オレも一緒に喜んでやらにゃあ、心配し過ぎるのも損ってモンだぜ)

「やったなうららちゃん、でかしたぜ!みんなもこんなに喜んでくれてるんだし、頑張って番組成功させような。オレもはりきって協力するから、できることあったらなんでも言ってくんな」
「ありがとうございますバットおにいさん!あたし、一生懸命やります!そして・・・いつかお母さんみたいなステキな舞台女優さんになるんだもん!」



「それはいい目標だな」
「ああ、我々も何か手伝うとしようか」
「ぬははははは!うぬのその気迫!我が拳王の覇道のために使えい!」
「お前らはいいから何もするな!余計な事考えんな!」

と、そんなやる気満点のうららちゃんに横からかけられた声。
その声の主たちをバットは余計なコトを考えるなと全力で怒鳴りつける。
いつの間にか春日野うららの背後にいたそいつら・・・
霞ケンシロウ、ラオウ、トキの北斗三兄弟。
希望に満ち溢れた眼差しのうららを意味深に見つめる3人。体を張って割って入るバットお兄さん。
嫌な予感の正体は間違いなくコイツらに違いない。
このままではこのKY三兄弟の影響を受けて可愛いウチのコたちが毒され、影響を受けて突飛な騒ぎを起こしてしまうことになりかねない。
それだけは何としても阻止しなければと、三兄弟を睨み付ける。

「いいか、お前らが入ってくるとどうせまたメンド臭いことが起こる!今度の企画で会社に迷惑かけないためにも絶対に関わるんじゃねえ!いいな?」


「バットよ。今の俺たちの仕事はプリキュアメンバーのスタッフだ」
「そうとも、ならば彼女らの仕事は我らが仕事も同じ・・さあ、うららちゃん。何があったのか話してごらん?」
「そぉうだぁ!この拳王になんなりと打ち明けい!そしてその仕事で得た利益を我が覇道のために捧げるがよい!」
「勝手にやる気になってんじゃねえこのKY大ボケ三兄弟!それが迷惑なんだから関わるなっての!」


「わぁ!ケンシロウ先生たちまでありがとうございます!それじゃあ、えぇっとぉ・・・なんか手伝ってもらっちゃおうかな?」
「うむ、なんなりと言ってみろ」
「できる限りのことは・・・ゲホッゴホッ・・・この身が続く限り・・・げぇっほっ・・ぐっほっがっはあぁっッ」
「ぐははははっ!よかろう!今こそ芸能界の愚民どもにも我が世紀末覇者の偉業を刮目させてくれる!」

「イヤイヤイヤっっ!キミも話聞けってうららちゃん!!この3人にどこをどーしたら、手伝ってもらっちゃおうかな?・・って発想が出て来るんだよ!?1人意味不明、1人死にかけ、1人最重要危険人物だぞ?ホラ!トキさんソコ!血ぃ!ちゃんと拭いて、自分で!」

と、当のうらら本人は事の重大性をまったく理解しておらず、能天気に北斗三兄弟に活躍の場を与えようとしている。それにすっかり乗り気な三兄弟。
1人バットはこのチームファイブのリーダー夢原のぞみに勝るとも劣らないお気楽天真爛漫娘を北斗の毒牙からどうにか守らなければと双方に鋭い突っ込みを入れる。
しかしそんな健気なお世話係バットお兄さんの横から・・・

「あらいいじゃないバットくん。ケンたちだって立派なスタッフなんだし」
「そうそう、手伝ってもらえば?本人たちだってやる気になってるんだし、いざとなればわたし達がフォローにまわるから心配ないわよ」
「アンタらまでなぁに言ってんスか!?これまでそれでどれだけ問題起きてんだよ!?」

と、コトもあろうにマミヤやレイナといった頼りになるはずの保護者マネージャーからもお気楽な声が上がる。
普段嬢ちゃんたちのおイタや粗相には結構厳しいクセになぜ?と理解に窮する。
まさに孤軍奮闘のバットお兄さん。本当になんで自分がこの赤の他人の三兄弟に振り回され、赤の他人の娘たちの安否を親身になって気遣い、日々神経をすり減らさねばならないのか?
自分の存在意義が度々問われる気がする。

「心配しないでくださいバットお兄さん。ケンシロウ先生たちってコレで結構頼りになるんですよ?手伝ってもらえたらあたしうれしいなv」

とどめとばかりに当のうらら本人からかけられた言葉にバットは自分のことでもないのに半分投げやりになって

「ああ、ハイ。そう、わかった。じゃあ頼んでみなさい」

と言った。
その言葉に歓声を上げて喜ぶうらら。
チームファイブのメンバーや、他チームのプリキュアメンバーたちと一緒になってケンシロウたちとハイタッチなどをして和気あいあい騒いでいる。
本当になぜこのまだまだ純真さの残る可愛い女の子たちにこの空気を読まないヘンタイどもが人気なのか?そして保護者マネージャーまでもが危機感が欠落してしまうのか?
バットには1人意味不明であるが、ともかく本人たちがそれを望んでやる気になっているのならそれ以上彼には何も言えなかった。

(ま、あのコたちがまぁた叱られてケツひっぱたかれて泣かねえでもいいように、オレはオレでキッチリとフォローいれるしかねえか・・・しょうがねえ。コレも仕事だしな)


「それでね、うらら。今日は撮影に先だって、番組でお世話になる飯塚さんって方と事前に会う約束になってるんだけど、今日はその予定で大丈夫?」

「ハイ!大丈夫です!子ども達に大人気のあの『フドー・ザ・ナントキャンプ』の飯塚不動(いいづかふどう)さんですよね?会うのはじめてぇ~、楽しみだなぁ♪」

「ん?なんだその・・フドーザ・・ナントカカントカってのは?」

「えー?バットお兄さんしらないのォ?」
「ウッソー?マジぃ?それちょっと遅れてるよォ。今子ども達に大人気でテレビ特集も組んだばっかりの大人気エクササイズじゃん」
「そ・・・そうなのか?いや・・ワリぃ。バラエティあんまり見ねえもんだから・・・」

と、人気らしいエクササイズを知らないことに夢原のぞみと蒼野美希が驚きに近い声を上げてバットは頭を掻いて恐縮した。
普段仕事と学校の予定が忙しく、家に帰ってもやるコトと言えば家事と炊事、掃除、洗濯。最近では忌々しいことに何故か北斗三兄弟の面倒まで見るハメになっているためにテレビもゆっくり見ることができずに1日が終わってしまう。
朝と仕事帰りの晩の時間帯に報道番組を流し見する程度、後はたまの休みの日に、好きなスポーツ中継や録り貯めしたドラマなんかをボチボチ見る程度でバラエティー番組なんか全然見ていなかった。

「人気あんだな。そのエクササイズの先生とかは?」
「そう!フドーのおとーさんってみんな言ってて、とっても優しくって子どもに大人気!バットお兄さんもゼッタイにすぐ仲良くなれるよぉ!あっ!そーだ!ねえねえセンセー!明日みんなでフドー・ザ・ナントキャンプのスタジオいこぉ~っ!けぇってぇ~い♪」

と、バットの質問に答えるのもそこそこに元気娘ののぞみがそう声を上げてマミヤに飛びついた。
そんなのぞみをマミヤは優しく髪を撫でながらも、「落ち着きなさいってのアンタってコは・・」と軽くたしなめる。
そしてチーム5、並びにその場にいたプリキュアメンバー全員に向かって声をかける。

「今日のトコロは打合せだけだから、うららと先生たち、バットくんとで行ってくるけど、明日は希望する子は見学できるようにしてあげられるわよ?まああんまり大勢だと難しいかもしれないケド・・・」
「ハイハイハぁ~~~イ!♪♪いくいくぅ~っ!」
「あ!のぞみちゃんが行くならあたしも行こぉっと!何かダンスの勉強になるかもしんないしぃ~、うららちゃんも一緒にしあわせゲットだね♪」
「エクササイズかぁ~、プロポーションの美しさを保つためには必要な要素よねえ~、あたしも行っちゃおうかな?」

マミヤの言葉がけに率先して反応したのは、先程から行く行くとうるさかったのぞみのほか、ダンスが得意なチームフレッシュの桃園ラブと蒼野美希。
他にも同じチームメイトだからと、夏木りんや秋元こまち、水無月かれんや美々野くるみなどチーム5の面々、さらにはチームスイートの北条響やチームハートキャッチの来海えりか。チームスプラッシュスターの日向咲などだった。
他のメンバー達はみな他の予定だったり仕事だったりで都合がつかなかったが、総勢は10人と中々な人数である。
オイオイ大丈夫かよ?とやっぱり心配なバットお兄さん。
北斗三兄弟まで絡んで来たらますます油断が出来ない。

「そんな顔しないでバットくん」
「そうそう、明日はベラもサクヤも来るし、バットくんが心配するようなことは起こらないように私たちも気を配るから」
「は・・はァ・・・そうスか」

と心配百面相していたバットだが、保護者マネージャーのマミヤ先生とレイナ先生にそう言われてしまえばもはやそれを信じるしかない。
あとは、自分はケンシロウたちの動向にだけ注意を払ってとにかく子ども達がトラブルに巻き込まれないようにしようと決意した。

「さぁて、じゃあ、そろそろ明日の打ち合わせに行きましょうか?」
「あ?ああ、そっか。とりあえずまず打合せのために今から現場には一度向かわなきゃならないんでしたよね。オーイ、うららちゃん準備できてるかい?」
「はぁ~い!だいじょうぶでーす♪」

お気に入りのバッグを片手に意気揚々とマミヤとバットに向かって駆け出すうらら。
その彼女の表情には、まさしく弾けるレモン色の希望しか見て取れなかった。





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「オイオイオイオイ!城代家老よォ!欲に眼が眩んで余の顔見忘れたか?ときたもんだっ!急げ急げあ~~っっ時間ねえ時間ねえっ!」
「そっ・・・その慌てぶりは・・・っっ」
「うっ・・上様!?・・えっ、ええいっ!上様とてもはやこれまでっ斬れ!斬れぇいっ!」
「ケッ!てやんでぇべらぼうめぇっ!こちとら天下一のせっかちでぇ、あっという間に成敗してやるから覚悟決めてかかってきやがれぇい!」



「うおぉお~~~~っっ!キタぜキタぜぇ~~この展開よォーーっっ!」
「いやぁ~やっぱりこの瞬間がゾクゾクしますねえジャギさん、いいよ!うん!」
「・・・・・・・」
「おおぉっやはりこの殺陣(タテ)シーンもたまらねえなぁ・・・ぃよし!サラマンダー!今からカタナ買ってこいカタナ!」
「えぇ~~?竹光でガマンして下さいよォジャギさん。ホンモノとかアブナイですよ?」

「・・・・・・・」

「いよぉし!ならば馬だ馬ぁ!サラマンダー馬を買ってこい!大至急だぁ!海辺を馬で駆ける俺様・・・かっ、カッコイイじゃねえかあっ!」
「ムチャ言わないでくださいよぉ~・・・そこにある運動用のロデオでガマンしてくださいよお~」
「なぁにぃ?俺様の言うコトが聞けねえだとぉ?キサマ舐めてやがるな俺様を!オイ!俺の名を言ってみろォ!?」
「なにやってんだか・・・」





相も変わらぬタメ息が漏れる。そろそろ突っ込むのもしんどくなってきたな、とワルサーシヨッカー本社、その代表取締役社長サラマンダー藤原の社長室にて、オリヴィエはいつものゆる~い生活光景を眺めていた。
今日も、仕事もそこそこ、相方のジャギさんと父は世のおじいちゃん、おばあちゃんに大人気の時代劇「風雲!慌てん坊将軍!」の展開にすっかりと酔いしれてはしゃいでいる途中だった。

「オリヴィエも父さんたちと一緒にやるかい?「慌てん坊将軍」ごっこ」
「あーーーっ!サラマンダー!じゃな!じゃな!オレが上様役だぞ上様!刀をもってこぉ~い!俺の名を言ってみろオーーっ!実は将軍上様!徳川吉宗公であるあるぅ~っ!」
「何やってんだか・・・」

相も変わらぬゆる~い空気に閉口しながらも突っ込むことにも少し疲れたオリヴィエは読んでいたファッション誌に再び目を落とす。
ふとそんな瞬間、社長室のドアがコンコンとノックされた。
すると、先程までいい年こいてヘルメットオヤジことジャギさんとごっこ遊びに興じていた父が「お!きたかな?」と途端に姿勢をあらためると、ドアに向かって「うむ。入りなさい」と少し威厳ありげに言った。

「失礼します!社長!ナイトメア課・コワイナー部門のギリンマ、参りました!」

現れたのはシルクハットをかぶり、まるでトンボかカマキリの眼球にも見えるほどの大きな眼鏡をかけた細身の男だった。とことなくひょうひょうとしながらも、眼光鋭いその男は持っていたステッキを脇に挟み込むと、そのまま帽子を胸に寄せてお辞儀した。

「よぉく来てくれたね~ギリンマくん!」
「は!社長自らお呼びいただきまして光栄です!目下のお悩みのタネ、憎きPCA21プリキュアどもを必ずやこの檜山斬真(ひやまきりま)、コードネーム・ギリンマが血祭りに上げてご覧に入れます!」

「おぉ~頼もしいコト言いますねぇ~、うんうんそういう威勢のいいのはキライじゃないよぉ、でも、血祭は物騒だなぁ~」
「はっ!では、2度と我らに逆らう気がないように、懲らしめてやりましょう!」
「うんうん!そうそうそれでいーの!「見て・肛門」のご隠居さまみたいで頼もしいよ!」
「何を言うかサラマンダー!甘いわ小僧!そんなことでこのオレが納得すると思うか?俺の名を言ってみろォ!もっとアグレッシブにガンガンとプリキュアの小娘どもをやってしまえい!」

「・・・わかりました。では、2度と立てなくなるくらいにボッコボコのバッキバキ、メッタメタのギッタギタのグッチャグチャで全身血ダルマに・・・」
「あ・・・スミマセン。ボクが悪かったでしゅ。そこまではいいです。そんなイタそうなのヤメタゲテ・・・」
甘いと言って、自分の残酷さを自慢しようとしたのだが、ギリンマくんのまさかのスゴイ返しに途端に逆にビビッて縮こまるジャギさん。
だったら最初からそんなこと言うんじゃねえよヘタレ親父が。とは言わない優しいオリヴィエだが、ホントになんでこんな人と父はつるんでいるんだろうか?
しかしてそのギリンマ本人はジャギのコトを別段特に意に介するワケでもなく、再びサラマンダーに向き直ると一礼して「吉報をお待ちください!」と言って威風堂堂、社長室を後にした。

「ナイトメア課のみんなは手強いよぉ~プリキュアのお嬢さんたち、果たしてギリンマくんにどう立ち向かうかなぁ~?」
「なんだサラマンダー、今の小僧そんなに強えのか?」
「ええ、そりゃあもう!今度こそプリキュア戦士のお嬢さんたちもゲームオーバーかもしれませんよ」
「・・・はじめからアイツを使えばよかったんじゃねえか?」
「うっ・・・そ・・それは・・・い、イヤだなぁジャギさん!物事には順番ってものがあるじゃないスか!順番!あ!そーだ!そんなことよりお腹すきませんか?ホラ、ちょっと遅くなりましたけどお昼にしましょう。ホラ、慌てん坊将軍でシンさんがおいしそうに食べてたざる蕎麦!美味しいお店知ってるんですよ出前とりましょ出前!」
「おおっ!そう言えばまだ昼飯食ってなかったな!あの蕎麦は確かにウマソウだった。よしサラマンダー!俺にその蕎麦を美味いと言わせてみろぉ~っ蕎麦の名前を言ってみろォー!」

と、いつもオオボケのヘルメットオジサンのジャギさんが、めずらしく放った至極もっともな言葉に若干言葉を詰まらせながら、なんとか誤魔化して話題を逸らせた父の姿を見て、オリヴィエはもう何度目になるかわからない脱力感に見舞われ、眉間を抑えて思った。


(なんだかんだで大丈夫なのかな?プリキュアのみんなは・・・)





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「失礼いたします。PCA21マネージャーの藤田と申します」
「おなじくマネージャーの松風です。今日はよろしくお願いします。そして、コチラが今回お世話になります・・」
「こんにちはぁ~!はじめまして!PCA21・チーム5GOGO!の春日野うららです!」

「やぁ~やぁ~、待ってましたようららちゃん。プロデューサーの菅野(すがの)です。よろしくね~。で、こちらが今回の企画の主役さんで・・・」




「ドォーモ!フドー・ザ・ナントキャンプのアンムーブカウンセラー、飯塚不動(いいづかふどう)です!フドーのおとうさんと呼ぶよーに、わかったかなヤングレィディ!」
「きゃぁ~~~vvフドウさんだぁ!本物のフドウのお父さんだぁ~~!はじめまして!PCA21チーム5GOGO!の春日野うららです!」



(ハイ!ヤな予感する人キターーーーっっっ!!\(゜Д◦)/)

バットの心の叫びは、打合せの行われるスタジオ内のレッスン室に入って当の本人たちとの対面時に稲妻となって彼の全身を駆け巡った。

まず、人気と聞いていた不動先生、彼のその体格である。



大きい。
あまりにも巨大。
果たして人間なのかと疑いたくなる怪物の如き巨躯。
3メートルは余裕であろうかと思われるその上背と、そしてそれにまけぬ程の横幅。
一体何キロあるのだろうか?予想は難しいが、200キロ以上は余裕。300キロも超えているのではないだろうか?
しかし、肥満(デブ)ではない。高密度の筋肉を搭載した鋼の鎧のような肉体であることは格闘家でもあるバットには容易く見破れた。
彼から見れば自分たち、特に今回一緒に仕事をするであろう、うららちゃんなどはお相撲さんと子猫ちゃんのような対比図に見えた。
そしてバットがもう1つ感じ取った嫌な予感・・・。


(なんだろう?このオジサンからもどことなくケンシロウたちと同じオーラを感じる・・・気のせいか?いや、気のせいであってくれ!)

「おやぁ?そっちのボーイもスタッフさんかなぁ?」
「・・・あ?・・あっ!はっ・・ハイ!ど、どーもアイサツ遅れてスンマセン!スタッフの難波です、難波伐斗・・・」

と、またしてもバットがすっかり板についた心配マインド百面相に意識を集中していた時、声をかけられ、実は自分だけがまだロクに挨拶もしていないことに気が付き、我に返って慌てて頭を下げる。
いくら動揺していたとはいえ、うららですらキチンとこなしているアイサツをスタッフの、しかも年上の成人を迎えた大学生でもある自分ができてないなどとはマナー知らずにもほどがある。
そんな彼を見て、マミヤもレイナも、(あぁ・・またシンパイかけちゃってるんだなぁ・・・)と申し訳なく冷や汗で苦笑いした。

「うむうむ、でわでわアクターたちがそろったところでそろそろミーティングをはじめようではないか!ガースーちゃん!」
「だね~。よし、じゃあまずはうららちゃんの段取りから説明しますね、まずはカメラが入ったらテレビの前の子どもたちに向かって・・・」

とフドウの声で早速打ち合わせが開始される。
うららの役はなんと責任重大。
新しい幼児教育向けの教育テレビ、「やまのフドウのvおとうさんといっしょ♪」の看板講師、フドウの企画、番組の目玉「きょうもみんなでハッスル!フドー・ザ・ナントキャンプ!」のナビゲーターなのだ。
撮影開始からテレビの前の子ども達の心をつかみ、抽選で選ばれた子ども達と一緒にエクササイズを踊り、楽しませ、フドウおとうさんのサポート役を務める。
視聴率の要、まさに番組の屋台骨を支える役にうららが抜擢されたのだ。
予想を遥かに超えるあまりの大役に、うららだけではなくマミヤやレイナの顔にも否応なく緊張が走る。説明を聞いてバットにもよく分かった。
それもそのはずである。
ここで成功をおさめれば、子ども番組のレギュラーである、まだ市場を十分に獲得できていない幼児メディア界にも進出が図れる。
逆に何か手痛い失敗をしてしまえば悪いニュースとして子どもたちのみならず、保護者を通じて一気に世間に伝わってしまい、業界でも難しい立場に立たされることは想像に難くない。これ程プリキュア全体を推し量る仕事になろうとは予想もしていなかった。
それは、当の本人であるうらら自身も同じ・・・いや、それ以上なのだろう。
出かける前には憧れのフドウさんに会えるとウキウキワクワクで、今さっき会った時もはしゃいで思わずマミヤたちの知らないところでサインをねだったりしていたのに、話を聞いた今は冷や汗混じりの緊張の表情。どことなく青ざめてもいた。
子ども番組のレギュラー。
それが芸能界での今後の活動にもたらす影響というものをこれまで経験したアイドル生活の中で、うららもそれなりの理解を持っているのだろう。
自分が大失敗をしてしまえば、今後の仲間、先輩たちの芸能活動にも支障をきたすかもしれない。ミスのできない生放送。

(で・・・できるのかな・・・?あたしに・・・)

未だ感じたことの無いプレッシャーにまさに押しつぶされそうになって知らず知らずのうちに俯いたうらら。しかし、そんな彼女の肩に優しく・・・
ポン。
そっと置かれた、雰囲気とは不釣り合いなほど巨大な巨大な手。
フドウがニッコリとうららに微笑みかけて、そしてこう言った。

「ドンウォ~リィ~、ガール。心配しなくてもイイ!もしもの時はわたしたち全員でキミをフォローする。失敗してもオーライ!ドンビーアフレイドぅ!失敗を恐れていては何も良いモノは生まれない。失敗こそが成功へのプロセスなのだ!」

バットは心の中で、フドウに猛烈に謝罪したい思いに駆られた。
フドウの一言よって、今までうららの顔に現れていた緊張感や不安がまたたくまに消え去り、反対にフドウに対しての深い感謝と信頼感が満ちていた。
満面の笑みで「はい!ありがとうございます!」といううららの姿を見て、マミヤやレイナも一安心である。
この人はケンシロウたちなどとは全く違う。
優しく、思いやりに満ち、周りの空気を敏感に感じ取り、的確なアドバイスも瞬時に送れる、頼りがいのある御仁だったのだ。

(まったく・・・あんな非常識KY連中とこの人を雰囲気で一緒に感じちまった自分が情けねえぜ。このフドウ先生ならうららちゃんのことも安心してまかせられそうだな。)

見れば、先程フドウから励まされたコトですっかり懐いたうららは、嬉しそうにマミヤたちも含めてフドウやプローデューサ―と談笑していた。
周りを緊張させない。常識的な気配りができる。
この点だけとってみても北斗三兄弟などとは雲泥の差である。
バットはこれで安心して仕事に打ち込めると、マミヤやレイナとともに菅野の話を熱心に聞いては熱心なマネージャーの如く、スマホでメモを取っていた。
フドウ先生は全く心配ない頼れる人だ。後は自分がフォローしてうららちゃんを危なげなく仕事させてあげるだけ、マミヤやレイナとはもちろんのこと、フドウともできるだけ連携が取れるよう、すでに頭の中でシミュレートしていた。
こういったバイトでありながらも、仕事にかける意気込みも、マミヤやレイナが彼を信頼して高く買っている点の1つである。
大学での学業のことさえなければすぐにでも正規のスタッフとして雇用したい、アシスタントマネージャーとしても働いてもらってもいいくらいだった。


「で、最後には音楽に合わせて子どもたちと一緒にダンス!そして、子どもたちがうららちゃんを囲むようにしてカメラワークに持って行って、タイトルロゴで次週におわり・・・という流れです」

「というコトは、春日野は最後まで、子ども達の相手・・というコトになるんですね?」
「そうそう!兄ちゃん理解が早くて助かるよぉ~、マネージャーさんもいいですかね?それで」
「ええ、かまいません」
「こちらは番組スタッフさんたちの指示通りに動くだけですから」

菅野とマミヤたちの打合せはとんとんと滞りなく進み。企画に対するフドウの受けも上々であった。
あとは本番を待つのみ。互いに明日の成功を祈って今日は早めの解散となったのだ。


「あ・・・あの・・・フドウさん!」

と、スタジオの駐車場、ロケ車に乗り込もうとした時、うららが玄関先に見えたフドウに向かって走っていって声をかけた。
フドウもそのうららの姿を見て帰りの足を止めると、うららに向き直る。

「うぅん?何かなガール。明日もベリービズィだよ。早く帰ってレストしなければ大事な時にタイヤードだ」
「はい。あの、明日は、よろしくお願いします!あたし・・・嬉しいんです!憧れのフドウさんとお仕事できちゃうなんて・・・だから、がんばります!」
「そうかそうかそれは実に結構!だが・・・」

フドウはうららにゆっくりと近づくと、その巨大な手を彼女の頭に、ポン。と優しく乗せ、柔和な笑みを浮かべるとこう言った。

「仕事熱心なのはマーベラスだが、あまり一生懸命になりすぎてプレッシャーを感じてしまってはもったいないぞ?」
「・・・え?」
「プレッシャーに押しつぶされてしまってはキミのせっかく持っている良さが死んでしまう。そうなってはもったいないというのだ。そうではなく、もっとのびのび、自由に仕事を楽しんでみなさい。あくまで、キミはキミらしく!それが子どもにはなにより大切なのだよ?」
「あたし・・・らしく。ですか?」
「うむうむ。是非、キミはキミらしく、子ども達と接してみたまえ。そうすれば、必ず良い方向に進むはずだ!トラストミー!」

目が開けた思いとはこのコトだ。
本当にこのフドウという先生、年若い若者や子どもたちを励ますのが上手である。
フドウの言葉がけによってフッと肩の荷が下りたうららは、満面の笑みになると

「ハイ!がんばります!」

と答えた。

「・・・イイヒトっスねぇ~、フドウさんて」
「ホントねぇ・・・優しくって温かくって・・・何よりいつでも自分を子どもたちの目線に合わせてくれるわ」
「そこがスゴイですよねぇ~、あんなに体の大きい人だから、わたしてっきりもっと武骨で近寄り難い人なのかなぁ?って初めて見た時思っちゃいましたけど、とんでもない!こっちから飛び込みたくなるほどやわらかい人柄ですね」

少し遠めでうららとのやり取りを見ていた、マミヤたちマネージャー衆が口々にそう言う。
最初の予感はなんだったのか?やはりバットの嫌な予感も外れるものだと、彼は逆に嬉しくなった。
明日はきっと大成功をおさめてくれるだろう。
もちろん、自分があのKY三バカスタッフを抑えることが大前提ではあるが・・・
(とにかく、あとはケンたちがヘンな動きをしねえようにオレが目を光らせればいいこったな)






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「いよぉ~し、今日はついにうららの晴れ舞台!みんなで盛り上げてサポートしてぜったいに大成功させちゃうぞぉ~。けってぇーーいっ!」
「ひゃぁっほぉーーっ!だよねぇ~っ!ここで決めなきゃ女がすたる!いっちゃおぉ~~っ!」
「プリキュアの名前がもっと有名になる日がきたっしゅーーっ!」

晴れ渡った快晴の青空。
五車プロモーションホームスタジオ、スタジオPCAの玄関口でそんな元気かつ能天気な3つの声が響く。
声の主、夢原のぞみと北条響、来海えりかの3人はただの付き添い見学であるにも関わらず、春日野うららの初レギュラーバラエティーに早くも胸躍らせテンションは最高潮だった。
「のぞみ。別にアンタの番組のわけじゃないでしょぉ?ちょっと興奮しすぎ。えりかも響ちゃんも、あんまりはしゃぎすぎるとせっかくのうららの番組に迷惑かかっちゃうかもよ?」

そんな暴走発動秒読みの3人娘に、今日も保護者キャラがついつい出てしまう夏木りんの声が待ったをかける。
しかし、彼女の話を聞いているのかアヤシイいつもののぞみ達の様子に、同じチーム5GOGO!の秋本こまちや水無月かれん、美々野くるみ。
チームハートキャッチの花咲つぼみや明堂院いつき。
チームフレッシュの山吹祈里やチームMAXハートの美墨なぎさや雪城ほのかなどがやれやれといった感じで苦笑い。
うららの初の冠バラエティーに、彼女以上に興奮冷めやらぬメンバー達を見て、バットは少々不安を覚えた。
無論彼女たちだけならば、マミヤやレイナといったマネージャー達と協力のもと、彼女達にハメを外させることなくイイコで過ごさせることはできる。
しかし、今日はいらないコイツらまでなぜか付いてきているのだ。

「バットよ、今日の仕事だが、弁当はつくのか?」
「我々昼食などは持参しておらんぞ?というかそんなモノを用意できる金などない・・・あ、バット。毎日お弁当つくってくれない?朝夜だけじゃなくてさ」
「ぬははははは!バットよ!うぬをこの拳王直属の弁当係りとしても任じてやろうではないか!そのうぬのもった料理の腕、毎日弁当に存分に振るい、我が覇道の礎とするがよい!」


「言っとくけど、なんかヘマしやがったらお前ら弁当抜きだからな?覚えとけよ?」

いらないコイツら。
もはや弁当が喰えるかどうかしか頭になかった北斗KY三兄弟にそうしっかりとクギを刺しておくバット。
まさに効果抜群だったこのバットの言葉に三兄弟。顔面を蒼白にして緊張全面に表情を強ばらせると、「兄さんたち、がんばらなきゃ・・・べ、弁当が、食料が無くなる!」「うっうぐっ・・・また発作が・・いや、ここで血を吐いたら・・弁当が・・弁当が・・」「おのれバットめぇ!弁当を盾にするとはぁ!この拳王にもまだ涙が残っておったわぁぁ~~~っ」と口々に言って仕事をとにかくミスなく頑張ろうとお互いに誓い合った。あくまで弁当のために。
そんな鬼教官と化したバットが「ったく、のっけからいらねえ気ぃ使わせんじゃねえよ」とボヤク様子に、マミヤやレイナも冷や汗である。
とってもコワイカオでイラつくバットくん。彼が決してプリキュアのお嬢さま達には見せない表情である。
自分達でも気づかないうちに彼にここまでストレスを与えている。それがすべてケンシロウ達だけのせいではないようにマミヤとレイナには思えた。
彼自身は可愛がっており、滅多に不満をもらさないとはいえ、プリキュアの子ども達が彼に与えるストレスも相当のものなのだ。
今日こそは、何の問題もなく彼女達をおとなしく、イイコでトラブルなく過ごさせなくてはならない。マミヤとレイナも気合を入れ直した。

「それじゃあ出発するけど、くれぐれも!ハメを外した突飛な行動をとって、相手の人たちに迷惑をかけないこと!いいわね?」

マミヤ先生の声掛けに「はぁ~い」と、元気のいい、そしてこれ以上なく不安な返事をするプリキュアのお嬢さま方。

「と・く・に!アンタたちに言ってんのよ?のぞみ、えりか、響」
「あー!レイナ先生ひっどぉ~い!」
「そーゆーキメツケってよくないんだよぉ?」
「はい、キズツイタ~。イマのハツゲンすっごくキズツイタ~。いしゃりょー。いしゃりょー」

そんなセリフを吐くなら、今まで自分たちが巻き起こしてきたトラブルや粗相の数々を思い出してみてくれとレイナもマミヤも思ったが、口には出さない。
何より今回の主役はうららなのだ。彼女の番組にすら迷惑がかからなければいいかと半ば強引に自分を納得させる。
北斗三兄弟とプリキュアメンバーの暴走しがちな面々に注意を払いながら、やってきたのはブロンソンテレビのテレビ局だ。そこのフドー・ザ・ナントキャンプのダンススタジオに歩を進める。
当然、北斗三兄弟やうらら以外のプリキュアメンバーは初めて訪れる。

「うわぁ~、結構広いんだぁ~」
「ホントだぁー!ウチのホームスタジオとどっちがおおきいかなぁ?」
「こんな大きなスタジオで生放送なんて、スゴイわねうららさん」
「本当にそう思うわ。うらら頑張ってね。」
「同じチームのあたしたちもホント期待してんだから、もちろん、ココ様やナッツ様もね。気合入れていきましょ!」

「は、ハイ!がんばります!」

「まぁた、くるみはそんなにプレッシャーかけないの。うらら、自分のやりたいこと、どーせなら思い切ってぶつけちゃいなさい」
「そうようららさん。そのためにわたしたちにできるコトならなんだってするからね♪」

同じチームのこまちやかれん、くるみはもとより、なぎさやほのかも優しく声をかけてくれる。つぼみやいつきもニッコリと温かい笑顔を投げかけてくれている。
この優しいプリキュアのみんながうららは大好きだ。
大丈夫、必ずこの番組は成功させて見せる。
決意を新たにうららは大きく深呼吸すると自分が先頭に立って、昨日面会したプロデューサーの菅野のもとへと向かって歩き出した。


「おはよーございます!PCA21チームファイブGOGO!の春日野うららです!今日はよろしくおねがいします!」
「おー、うららちゃん。お疲れお疲れぇ~vこっちこそヨロシクねぇ~。もうフドウさん入っちゃってるから、軽くあいさつだけお願いねぇ~w」

元気よくあいさつしたうららに菅野はニコニコと愛想よく答えると、奥にある控え室を指さした。
『はい!』とうららだけでなく、その場にいたプリキュアメンバーの全員が快活な声で返し、いよいよ他のメンバーもフドウとの初対面となった。
果たして、控室に入ったメンバーたちは飛び込んできた光景に眼を丸くすることとなった。お山ほどはあろうかという巨体の大男が熱心にスクワットをしながらアップしていたからだ。思わずメンバー内から上がった「わぁ・・」「きゃっ」といった驚きの声に振り返る。
大男、フドウはプリキュアメンバーを目にするとすぐに破顔した。

「おぉーー、うららくん、グッモォ~ニン!今日も元気そうで何よりだな。トゥデイはよろしく頼むぞぉ!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!フドウさん!」
「うむうむ、ハキハキとした良い返事で大変結構!GOOD GOO~~D!おお、ではそちらに並んでいるのがYOUのお仲間のプリキュアガールたちだなぁ?」

「ハイ、PCA21のサブリーダーを務めてます、チームMAX・HEARTの雪城ほのかです」
「リーダーの美墨なぎさです!はじめまして。昨日はうららがお世話になりました。本日は何卒よろしくご指導おねがいします」

メンバーを代表して、みんなのお姉さん格の2人がフドウに頭を下げて挨拶する。
普段から真面目なほのかはもちろんのこと、なぎさもこういったところは流石にリーダーである。自分達から促さずとも、率先してアイドルとして芸能界であるべき姿を示したなぎさ達に、マミヤやレイナも満足気な表情である。

「いやいやいや、こちらこそだよ。トゥデイは双方にとって実りある有意義な時間にするとしよう!」

豪快に笑って帰したフドウに呼吸を合わせるかのごとく、控室のドアが空いて、プロデューサーの菅野と番組AD、APが姿を現す。

「本番1時間前でーす!フドウさん、うららちゃんメイクお願いしまーす」
「あ!もうそんな時間?はーい!わかりましたぁ~」
「ふむふむ。イヤイヤ、テレビだからなのかもしれんが、何度やられてもこのメイクというのには慣れんなぁ~、しかし、これも仕事であろう!よし、行こうかな」

と、フドウがやや苦笑いしつつもうららを促してメイク室に向かおうとしたその時だった。
誰もが予想だにしなかったところから声が飛んだ。


「むっ!?フドウ!うぬは、うぬは悪鬼のフドウではないか!!」
「おお!本当だ。フドウではないか。こんなところで何をしているのだ?」
「久しぶりだなフドウ。元気そうで何よりだ」


「んん?・・・・おお!そこにいるは、確か北斗神拳の門下にいたあの兄弟ではないか!ラオウ、トキ、ケンシロウ!久しぶり、ロングタイムノーシーではないか!」

「え?」
「ど、どういうこと?」

「?・・ケンシロウ先生たち、知り合い?フドウさんと」

「うむ。昔からの知り合いだ」





「ええええぇぇぇえぇぇぇえーーーーーーーーーーっっっっっ!!!???」





その瞬間、プリキュアお嬢様から所々上がった声は、「えぇーっ?」「へぇ~・・そうなんだぁ、ケンシロウ先生たち」「ちょっとサプライズ~~」といったものであった。
そう、コレくらいの程度だった。
何を隠そうこの絶叫はバットお兄さんただ1人である。

「どうしたバット?」
「そんなに大きな声を出して」
「い・・いや、あの・・その・・別に・・・し、知り合いだったんです・・ね?」
「うむ、昔少しなぁ、俺も拳法をやっていたもので、ハハハ」

(うぅぅわああぁぁ~~~~~っっっそっちのつながりかよォ~~~~っイヤな予感また当たっちゃったぁ~~~!チックショォーーー!)

拳法のつながり。
その事がわかってバットのイヤな予感はさらにアップデートされて確実性を増してしまった。
アレだけまともだまともだと思っていたフドウさん。その確信が今音を立ててバットの中で崩れていく。
明らかに絶望からのストレスを感じているバットの様子をありありと見て取って、マミヤとレイナも冷や汗混じりの同情である。
可哀想に・・・。

(絶対に何かある・・・絶対に何かある。ゼッッタイにナニカアル!!)

「今でも思い出すわ!はじめてうぬに恐怖を覚えたあの日を・・・」
「はて?いつのことかな?ラオウ」
「忘れはせぬ!アレは、北斗神拳が他門下の参入もいとわなかった、北斗十人鍋取組(ほくとじゅうにんなべとりくみ)でのコト!」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





                     ラオウ回想


17年前、北斗神拳道場内、練闘場(れんとうじょう)内にて。


「グッフッフッフ!どぉしたぁ?キサマも北斗の男ならば、早くこの俺を退け、目の前のその旨そうな鍋を喰らって見せろォ!」

「ク・・・っ」

白色の胴着を着た北斗神拳門下の1人の男、美味しそうにクツクツと煮えるちゃんこ鍋を尻目に、目の前に聳(そび)える、鋭い鋲の揃った重そうな防具を身につけた巨漢を睨み付ける。
自身と巨漢の足下には、半径3メートルほどの土俵が組まれており、さながら相撲の取り組みのようである。しかし、四股を踏むこともなければ、四つに組む姿勢も見られない。拳士は拳法の構えをとって、巨漢との間合いを図る。異種格闘技戦のようである。
呼吸を吐いて、刹那。「イヤァーーーーッッ!」裂孔の気合いとともに、北斗の拳士が鎧の巨漢に向かって突進した。
ドンッ!!と道場内に響き渡った轟音。相手が並の巨漢であれば、北斗神拳にて鍛えし彼の体当たりで道場の奥まで吹き飛んでいたことだろう。

「・・・・!」

拳士の額に汗。
動かない。
全身全霊を賭した突進だったのに、この鎧の巨漢は微動だにしなかった。

「ククク・・・なぁんだぁ?それはぁ?蚊ほどにも感じぬぞぉおぉ~?」

巨漢は低く笑うと、のっそりと腕を抜き放ち、そして・・・

べしぃっ!

北斗の拳士にデコピンを見舞った。たかがデコピンの衝撃で、「うっ・・うわあぁっっ!」という叫びとともに派手に吹っ飛び、土俵からはじき出されて遥か後方の同情の壁板に激突して目を回してしまった。

「グッハッハッハ!なんだなんだぁ?リュウケンよ、キサマの門下にはナヨっちょろいもやしっ子しかおらんのかぁ?このままではすべての鍋は俺が頂いてしまうぞ?」

巨漢が奥の桝席のような場に佇んでいる老人を睨み付けて得意気に言うと、眼光鋭い老人は静かに答えた。

「フドウといったか?キサマ他人(ヒト)の鍋を何と心得る?如何にこの北斗十人鍋取組のルールが相撲で勝てば他人の鍋を横取りできるという形式なれどキサマは既に十二杯も平らげておるではないか?そんなに食べてお腹大丈夫?だからデブなんだよキミ。お父さんとお母さんに人様のモノをあんまり横取りしちゃいけませんよ?って習わなかったの?」

「お父さんとお母さんにだと?フン!関係無いわ!オレに親などおらぬ!ゆえに愛も知らぬ!躾けも知らぬ!リュウケンよ、この味噌ちゃんこはもらっていくぞ」

「くぅ・・・っ」

と、その様子を傍らで見守っていたラオウ、トキ、ケンシロウ、ジャギの北斗四兄弟だったが、その中でラオウがギリと歯を食いしばりながら、凄まじい形相で味噌ちゃんこ鍋を抱えた巨漢、フドウを睨み付けた。

「?・・・ん~~・・?」
(そ、その味噌ちゃんこはこのラオウが一番楽しみにしていた鍋、それを持っていこうというのか!?己ぇフドウ!かくなる上はこの俺が・・・あ、でも流石にあのデッカイ体でぶちかましされたら流石にこのラオウでも飛んでいくんじゃ?トキとかケンシロウとかジャギとかいるし、カッコ悪いトコ見られたらどうしよう?ええい!しかし大切な味噌ちゃんこがぁ・・っ!)

「うぬっ・・・くくくっ!」
「フンッ!腰抜けめ!我ら五車組(ごしゃぐみ)を舐めるでないわ!北斗神拳恐るるに足らず!はっはっはっはっは!」

高笑いをしながら悠々と鍋を片手に歩き去っていくフドウ。その背をラオウは睨み付けることしかできなかった。

「ラオウよ、ヤツが怖いか?」
「うっ・・うぬっ!?い、いや・・・」
「フッ・・・鬼には勝てぬ・・・か。あ、でもアイツの場合さぁ、鍋の鬼なのかな?相撲の鬼なのかな?どっちだと思う?ねえ?いや、見た目もでっかくて鬼みたいな感じなんだけどね。五車組ってあんなヤツラばっかいんのかなぁ?むさそう・・・ね?ムサそうだよね?ね?ハイ!ムサいと思う人ぉ~~?」

と、しょーもない同意を求めながら仕方ないからカレー鍋食べようと、ケンシロウや他の門下生たちと一緒にカレー鍋をつつきにかかるリュウケン先生を尻目にラオウは屈辱にまみれていた。

(こ、この世紀末に覇者となるべく日々厳しい北斗の修行に打ち込んでいるラオウが恐怖を感じようとは・・・おのれフドウ!許せん!この屈辱、いずれ必ず返してくれる!)





~~~~~~~~~~~~~~~
             回想終わり





「それが今から17年前・・・当時まだ俺は青二才だったが、今こそ!今こそその時の借りを返してくれるわフドウ!」

(クッッッソくだらねえことこの上ねええぇぇ~~~~~~っっっ!!!)

結局食い物がらみのしょーもない痴話喧嘩と知って、バットのショックも4割増しである。
ホントにこの兄弟食い物のことに関して、ラオウ筆頭にどいつもこいつも意地汚さを極めている。好きな鍋を喰えなかったことをそれこそ、チームハートキャッチのメンバー、元リーダーの月影ゆりの人生でもある17年間もの長きにわたって、忘れる事無く恨みの念を抱き続けている。
他にもっと人生考えることあるだろうがよっ!?
コイツら北斗の人間と関わって何度味わわされたか知れない脱力感と腹立たしさとストレスにバットはもはやKO寸前で心のリングの中、タオルの投入を待っているかのような得も言われぬ虚しさに打ちひしがれた。



「いやいや、懐かしい話だ。まだ私が五車組の若頭だった頃のことだなぁ」

「は?・・ご、五車組?」

「あ、いやいや古い話だバットくん気にしないでくれたまえ」

と、フドウが突然かぶりを振ってそう言ったので、バットとしてもこれ以上なにか面倒な話に首を突っ込んではいけないと思い直して聞かなかったことにする。
なにより、当のうらら他プリキュアのお嬢さん方は今の組やら若頭やら聞こえた話にはまるで無反応だ。気にしてはいけない。
唯一、マミヤとレイナが何やら冷や汗混じりに顔を見合わせていたのもきっと気のせいなのだろう。

「しかぁし、ラオウよ。キミのリベンジ申し込みたい気持ちもわかるが今すぐにとなるとクワイト・ディフィカルティだ、要するにムリだな」

「なにィ!?うぬは、うぬは男の真剣勝負を受けぬと申すかぁ!?」

「うん、まぁ、今から撮影入るし。LIVEだし、もうすぐ本番だし。こんなところでやり合っても撮影陣、テレビ局、スポンサー会社その他いっぱいのところに迷惑かかっちゃうしね。お仕事してたらそういうところも考えて気を回さないと。であるな?うららガール」

「え?・・・あ、ハイ!そうです!その通りです!そういうことは芸能界では基本中の基本だって教わりました」

「は?・・・あ、そ、そ・・うですよね?そうですよね?そーだそーだ!ったく、ラオウ!うららちゃん他、嬢ちゃんたちでもわかりきってるコトだろうが!んなくだらねえハナシにみんなを巻き込むんじゃねえ!ねえ、ねえ~フドウさん!ジョーシキですよね?常識!」

と、予想と少し外れた意外にもまともな(失礼)なフドウの答えに、バットは嬉々として便乗する。
この点についてはどうやらうらら他この場にいるプリキュア戦士のお嬢さま方も賛成らしく、みんなウンウンとうなづいては1人息巻いていたラオウをジッと見つめていた。

「うっぬぅぅ~~~・・おのれぇ~、平和という惰眠を貪りそこまで腑抜けきった愚物どもめぇ~~・・・うぬらにはこの拳王がかつて味わった屈辱がわからぬかぁ!?世紀末に覇を唱えるべくこの拳王にとってかつての屈辱を晴らさずにおくことは断じて許されぬのだぁ~!さあフドウよ!今一度この場にて勝負・・・」
「ラオウ、じゃあお前は今日、バイト代も弁当も一切無しだ。わかったな?」
「おのれぇ~~~・・・この拳王にもまだ涙が残っておったわぁ~~・・・」

と、せっかくの忠告を無視して事態を乱闘に発展させようとさせたラオウに対してバットさんお得意の必殺技、「弁当売斗代没収拳」(べんとうばいとだいぼっしゅうけん)を繰り出されたラオウはお馴染みのセリフを吐きながら地べたに膝をついて慟哭しましたとさ。

かくして奇妙な因縁が明かされ、収拾のつかない事態に陥ろうとしたところ、フドウさんのまともなお答えと機転によってピンチは回避されたのだが、バットは何やら今回のこのお仕事も無事ですまなそうな不穏な空気をひしひしと感じ取っていた。





「ハーイ、それじゃあ撮影はじめまーす。本番用意・・・5秒前、・・3、2ぃ、1、・・アクション!」


「はぁ~~い♪みんなぁ~!こぉんにぃちはぁ~~!今日も元気いっぱいはじけるフレッシュレモン!うららでぇ~す!今日もいっしょに楽しんじゃおうv」


現場スタジオ。
ディレクターのアクションの声に続いて、春日野うららの快活な声ではじまった、「やまのフドウのvおとうさんといっしょ♪」の名物企画。「みんなでエクササイズダンス れっつ BEGIN !」。
一般公募の中から抽選で選ばれた5歳以下を対象とする子どもたちも途端にキャーーーvvと甲高い歓声を上げる。
ぴょんぴょんと元気に飛び跳ねるコ。くるくると走り回るコ。うららに人懐っこく抱き付くコ。それぞれの行動は様々だが、どう考えてもパっと見場違いに思えてしまうのが、この幼児向けダンスの講師であり、この番組全体のナビゲーターでもある・・・

「今日からうららおねえさんにもエクササイズダンスを教えてくれる先生を紹介するよvみんなもだいすきなぁ~・・」

「ぜぇんこくのチルドレぇ~~ン!アフタヌーンのスウィーツはぁ、もう食べたかなぁ~?」


『はあぁぁ~~~~~~~い!!』


そう、講師のフドウのお父さんの声に、これまたげんきいっぱいにお返事するちびっ子諸君。それらにゆっくり耳を傾けながらフドウのお父さんが続ける。

「ん~~む。イエース、イエース。イイコたちだぁ~、グッボ~イ、グッガ~ル。間食は子どもの成長に置いてベリベリインポータント、よく食べることこそ元気の秘訣・・・だぁが、チルドレーン!食べ過ぎには、ビィ~~っケアフル!健康には適度なエクササイズもマストであるぞぉ!さあ!うららガールもまじえて、今日は腿上げからビギンしよう!」

フドウの父さんの野太い声続いて沸き起こる子ども達の「わぁーーーい!♪」という実に楽しそうな歓声。
知らず知らずのうちに乗せられてしまったのか、うららの表情も実に楽しそうである。

うららの顔を見て、マミヤとレイナ、そしてバットも笑顔になる。

そう、PCA21のお仕事は視聴者やファンも大切だが、マミヤたちマネージャー先生や社長にとってみれば、彼女達プリキュアメンバーみんなが楽しく、夢をもって芸能界を生きていくことの方が重要なのだ。
それは世間一般で言うところの業績利益第一の企業理念からは逸脱した特異な考え方といっていいが、それほど五車プロモーションはプリキュアのお嬢さん方を大切にしているのだ。

このコ達のためならば例え火の中を潜ろうと泥水を啜ることになろうととうに覚悟はできている。
叱る時は心を鬼にして叱る先生たちも、時に実はそんな過保護な面を露にするほどやさしいからこそバットもこのバイトを精力的に続けているのだ。
マミヤとレイナのどこまでも柔和な笑みを見ると、バットもいつもつられて嬉しくなるのだ。

(マミヤさんもレイナさんも・・・本当は人一倍嬢ちゃんたちに過保護だよなぁ。ま、なんにせよ、オレはあのKY兄弟どもが暴走しないようしっかり見張って仕事を成功させるだけだな)

そう思い直したバットだったが、撮影は何事もなく、本当に冗談のように上手く行き、うららの子ども達をリードする「いっしょにミュージックダンスれっつらGOGO!」も無事終了。
残すは最後のお別れダンス。「山のフドウのまたあそぼーvネバーエンディングエクササイズ♪」を残すのみとなった。幸いにしてまだ北斗のKY三兄弟も割と無難に仕事をこなして騒ぎを引き起こす気配はない。
つまり、PCA21の春日野うららの今日のお仕事は今の時点でほぼほぼ大成功といっていい。


「いやいやお疲れお疲れうららちゃん♪よかったよぉ~、ダンスも演技も、子ども達との絡みも抜群じゃん~やっぱりキミをリクエストして正解だったよぉ~」


プロデューサーの菅野も休憩時間にホクホク顏でこの褒めようである。
それほど今日のうららは完璧だった。
嬉しそうなのはマミヤやレイナ、バットたちPCAスタッフも同様である。
それがわかったのでうららも笑顔になる。

「あ、ありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです。最後までがんばりますから、よろしくお願いします!」

元気よく応えて頭を下げるうららに、菅野も手をひらひらと振りながら上機嫌で「じゃ、最後のお別れダンスもよろしくね~♪」とその場を後にする。
今のところは北斗三兄弟もとくに問題めいた行動は起こしておらず、このまま無事に終わってくれればと切に願うバット。




しかし。
バットのこういった願いは、この仕事を始めた時から、
なぜかは分からないが、往々にして裏切られる運命にあるのだ。








「あ、どぉ~もぉ~、失礼いたしますぅ~。コチラにPCA21のチーム5GOGO!の春日野うららさんいらっしゃいませんかぁ~?」

「あ、は~い、えっとぉ・・どちらさま・・・ですか?」

お別れダンスを控えた最後の休憩時間、最後のメイク直し中のうららとソレを見守るPCAメンバー達の控え室。
そう軽い感じのノリで最後のトリを控えたうららの控え室に姿を現したのは緑のキャップとTシャツに身を包んだ細身の青年だった。
まるでカマキリを思わせるような大きな眼鏡に切れ長の眼がどことなく異様な雰囲気を醸し出している。
対応に出たのは全体リーダーの美墨なぎさである。
現在、最後の段取りのため、マミヤとレイナ、それにバットたちは別室で打合せ中である。
ともすれば、リーダーの自分が応対せねばなるまい。
男はなぎさに一礼すると、物柔らかな表情でこう続ける。

「毎度どーも!ナイトメアズデリバリーサービスです!春日野うららさん宛に小包みが届いております。ファンの方からの差し入れのようです」
「え?差し入れ?・・・わ、わたしにですか?」
「そうです。コチラになります」

「うわぁ~~~っ!す、スゴイ!コレって、横浜NEWチャイナタウンにある有名店、インディラカンフーのカレーまんだぁ~~♪」
「えぇーーーーっっ!??あの『火曜DAY・石ちゃんのおいしい横丁』でも特集された?ちょっとマジぃ~?」
「大行列で全然予約とれない幻のカレーまん!うわぁ~~なっちゃん先輩ちょうだいちょうだい!vv」

と、うらら宛て、と宅配員がなぎさの前に差し出したのは、今超人気話題沸騰中の中華街の中華まん。
創作エスニック中華・インディラカンフーのカレーまんの限定お持ち帰りセットだった。
それがわかった途端に餌を見つけたアリのようになぎさに群がるメンバー、響とのぞみを「ちっ・・ちょっ・・まちなさっ・・コラっ・・」手で押しのけにかかるなぎさ。なんとついつい食べ物につられてしまったのか普段しっかりもののりんちゃんまで群がっている。
それでもハッキリした口調で宅配員の方に向き直るとこう言った。

「あ、あのぉ~・・・困るんです。まず、こういったモノはせんせ・・・いえ、マネージャーの方に通していただかないと、わたし達個人では判断しかねまして・・・」
「ああ、大丈夫ですよ。後ほどお伝えしていただければ。コッチとしてはこちらの明細にどなたかサインをいただければ。開封はご自由ですから」
「え、ええ。ですから、ソレがわたし達では・・・ねえ?ほのか」
「そ、そうなんです。残念ですけど、まずマネージャーに直接お伝えしていただかないと、サインとかはこちらでは・・・」


「あ!じゃあ、わたしやります!!サインします!!それ・・・ください!」


「!?・・・え?え?ち、ちょっと・・・アンタなに言って・・・?」
「う・・・うららさん?」

目を見開いて驚いたのはなぎさとほのかだ。
彼女達の目線の先には、先程からの話題の焦点でもあった、春日野うららの姿があった。
見れば頬を紅潮させて結構興奮した様子。
いつもとは明らかに違うただ事ではない雰囲気に、全体リーダー、副リーダー格のなぎさとほのかも少したじろぐ。

「あ・・・あのさぁ、うらら。ジョーキョー、わかってる?」
「・・・・わかってます」
「アンタ、前におんなじジョーキョーでおんなじコトやらかしてこっぴどく叱られたの覚えてる?」
「覚えてます」

「だ、だったらちょっと冷静になりなさいな。今せっかくここまで仕事うまくやってきたのに、ここでルール破りなんかしたら、アンタ・・・」

「大丈夫です!開けませんから」

「あ・・・開けない?」

「ハイ、受け取るだけです。先生に見てもらうまで絶対に開けません!それなら大丈夫でしょ?なぎささん」
「う、う~ん・・・ど・・どうなの?ソレ?」
「・・・やめたほうが・・・いいと思うけど・・・」

うららの熱意激しい眼差しに、なぎさは傍らのほのかをチラリと見て尋ねたが、当然ほのかもやんわりとダメのサイン。
しかし、普段のうららならば先輩のなぎさやほのかの言うことに素直に応じるのだが、この日ばかりは違った。



「なんでですか?開けないんですよ?受け取るだけですよ!?ファンの人がわたしにプレゼントくれたんですよ!?受け取らなきゃ悪いじゃないですか!ちゃんと後でマミヤ先生やレイナ先生に見てもらってから開けます!だから問題ないじゃないですか!」

「え?え?え!?」
「ちっ・・ちょっ、ちょっとうらら、アンタ落ち着きなさ・・・」
「落ち着いてます!」

「「・・・・・」」


一体どうしたんだろう?
なんだろう?この妙な聞き分けの無さは?
そう思ってなぎさとほのかは考えを巡らせてみてそしてほぼ同時に

「あ!・・・そっか・・・」
「!・・・そう言えば・・・」

思いだしたのだ。

うららがカレーに眼がないというコトを。
と、同時に、なぎさもほのかもコレはヤバイ展開かも?と危機感を持ち始める。
うららは普段は聞き分けのいい素直なイイコなのだが、一度こうだと決めたらガンとして譲らない、ある意味のぞみやりんよりも頑固で融通がきかないところがある。
以前に彼女が先生たちに叱られている例も、その頑固さゆえに自分を曲げようとせずに結局失敗をやらかして周りに迷惑をかけて・・・という流れだった。
自分の目指す目標のためや、自分の好みのためであれば何としてでも我を通そうとする。まだまだココが中学1年生の子どもらしいと言ってしまえばそれまでなのだが・・・

「・・・うらら」
「大丈夫です!なぎささんにもほのかさんにも、ご迷惑はかけませんから!」
「・・・・あんた、お尻ぺんぺん覚悟の上?」

そこまで言われてうららははじめて、うっ・・・と顔色を瞬時に青ざめさせ、冷や汗ダラダラに硬直した。
忘れるわけがない。半年以上前の出来事を。
今回と同じようにファンからのプレゼントがのぞみ、うらら、美希宛てに届いた時のことだった。

この3人娘。
プレゼントにすっかり舞い上がってしまって、欲望の赴くままに言いつけを無視して勝手に開封してしまったのだ。

幸いこの時はファンからの本当に個人的な贈り物だったため、危険な事などなかったが、コトが露見してしまった後、当然この3人は教育係のマネージャー先生、マミヤ、レイナ、ベラから、お尻ぺんぺんでこっぴどく叱られた。
うららちゃんもマミヤ先生のお膝の上で丸出しにされた可愛いお尻を真っ赤っかに腫らされ、それはもう盛大にギャン泣きして大暴れした苦い苦い記憶は、忘れたくても忘れられない。思い出すだけでお尻が痛くなって脂汗が流れてきそうな気がする。
2度とあんなツラい、イタイ思いなんてまっぴらゴメンである。

だが・・・

(この間テレビで見たあの・・・インディラカンフーのカレーまん、超限定・・・ほしい・・・スゴクほしい。あったかいうちに・・・新鮮なうちにたべたいっ!)

この期におよんで、まだ少女はあれほどイヤなお仕置きとカレーまんを天秤にかけていた。
たかだかカレーまんにそこまで命をかける必要があるのか?彼女の意識において、カレーの占めるファクターについて研究してみたいとさえ思えるほどの執念。
うららは2つの理性と欲望の間で必死に戦っていた。
カレーまん、否。彼女にとってはカレーそのものがその人生において重要なウエイトを占めるのだろう。
そんなうち、彼女の心の中に芽生えてしまった。

悪い癖。
ごくごくご~~~~~~~~~~く、近い将来に、彼女を地獄へと誘う。
懲りない性根。






「・・・わかりました。あきらめます。そのプレゼント、開けるのヤメます」

不意に一変してそう強い口調で言い放ったうらら。
打って変ったその答えに、「お仕置きワード」が効いたか?と思ったなぎさは、少々怪訝そうではありながらも

「そ、そう?ホントに?」
「ハイ。ホントです。あきらめましたから。あとで先生にちゃんと確認してもらってからにしますから!」
「えらいわ!うららさん、わかってくれてわたしたちも嬉しいわよ」

はっきりとしたうららの返答に破顔してほのかはうららの髪を優しく撫でて上げようとした。しかし、続いて被せるようにうららは・・・
「だからそのプレゼント、わたしにあずけてください!」


「「・・・・・・・」」


いきなり物分かりが良くなったと思ったらそういうコト?
と再びリーダー2人の表情を強ばらせた。

「い・・・いや、あのね。うらら。だからね・・・アンタ、自分で言ってるイミわかってる?」
「それが問題なのよ?最初にこういったモノは先生たちにチェックしてもらってくらにしないと、大体PCAのルールでは・・・」
「わかってます!だから、わたしが預かってて、まず先生に手渡してチェックしてもらってから開ければいいじゃないですか!問題ないでしょう?」

「え、ええ~~・・?あ、アンタが渡すってコト?マミヤ先生やレイナ先生に直接?」
「そうです!」
「こ・・ こんなの届きましたぁ~・・って?アンタから?」
「そぉ~でぇすぅ!」
「そ・・それはバットさんとかにまかせといたほうがいいんじゃ・・・?ね、ねえ?」
「え、ええ。そうね・・・うららさん。それは、やめておいた方がいいんじゃないかしら?ねえ?気持ちはわかるけど・・・」

「そうようらら、これ以上わがまま言うのやめなさい」
「なぎささんもほのかさんも困ってるわよ?ね?わかってうららさん」
「いつものうらららしくないじゃない。のぞみならともかく・・・ほら、もう最後のダンスの撮りがはじまるんだから。切り替え切り替え」


と、同じチームのかれんやこまち、くるみにまでそう言われてしまい、うぅ~~・・・となんともガマンできない表情でむくれるうらら。
そんなうららの珍しい表情を見ていると、自分も食いしん坊で食べ物に愛着が強いきらいがあるなぎさは、はぁ、と短く息を吐くと、うららに向き直った。


「うらら、本当に、ほんとーに・・ほんっっっとぉ~~~に・・・マミヤ先生やレイナ先生に見てもらうまで開封しないって約束できるの?」

「ちょっ・・・な、なぎさ!?」
「なぎささん!?でもっ・・・」
「なぎさ先輩!?どういうつも・・・」

先程までとうって変わったなぎさの言葉に顔を強張らせて反応するほのかたちを「ちょっとまって」と手の平で制止ながらもう一度うららへ尋ねる。

「ねえ、うらら。本当に開けたりしない?自分で持っていてもまず、先生に手渡して確認してもらうって、あたしと・・・なぎさお姉ちゃんと約束できる?」

「で、できます!約束します!」
「・・・わかった。じゃあアンタを信用するわ。ハイ。せっかくファンの人からのプレゼントなんだから大事にね。くれぐれも、先生に最初に確認してもらうまでは開けないコト。いいわね?」
「ありがとうございます!なぎささん、だいすきっ!」

満面の笑顔で飛びついてきたうららを仕方ないなぁ。といった感じで髪を撫でるなぎさ。

「ほら、もう最後の本番前なんだから準備してらっしゃい」

そんな、なぎさリーダーの言葉に「ハイ!」と元気良く返事をしてもう一度メイク室に入って行くうらら。
思いもよらないなぎさの言葉に絶句したまま動けていないのは先程までうららを説得していたチーム5GOGO!や、ほのかなどのメンバーである。


「・・・なぎさ?その・・・どうして?」
「なぎさ先輩・・・なんで?」
「いいんですか?」
「大丈夫なのぉ?なぎさぁ、わたし心配なんだけど・・・」

「わかってる。アンタたちの気持ちも。あたしも正直不安よ。けど、まだフィナーレの撮りが終わってないのよ?あのコの魅力は弾けるような明るい笑顔と元気でやわらかい声。モヤモヤしたまま本番に入ってパフォーマンスに陰りが出たら、それもものすごくもったいないじゃない。せっかくの、あのコのはじめてのレギュラー番組なのよ?」

なぎさのその言葉を聞いて途端にハッとした様子の面々。
苦笑いしながらなぎさは続けてこう言った。

「確かに、みんなの言う通りかもしれない。あたしの判断は間違ってたかもしれない。でも、せっかくの番組撮影、かりにもその主役なんだったら、気持ちにマイナス面がまったくないスッキリした状態で、思いっきり最高のパフォーマンス見せられたら・・・ってそう思っただけなんだ」

ほのかは今さらながらになぎさと自分の器の違いと言うものを思い知らされたような気分だった。
なぎさだって、PCAのリーダーであり、マネージャーのマミヤ先生やレイナ先生などとはそれこそ小学生からの付き合い、先生たちのルールをわかっていないハズがない。
だが、それ以上になぎさはこれから番組の撮影を控えたメンバー1人のメンタルを考えたのだ。
せっかくもらった大事なお仕事。心身ともに万全ではない状態で臨んでしまってもしミスが出れば、プリキュアの評判だけでなく、1番落ち込むのは当のうらら本人だろう。
そのことがわかっているからこそ、なぎさは少々不安がありながらも、キチンと約束をさせた上で、うらら本人の意向を通してあげようとしたのだ。
何かあれば、自分も責任をとるその覚悟で。
普段はちょっとお気楽で、年下の後輩たちからもあっけらかんとした甘えられるリーダーという理解でちょっと威厳にかけるところもある彼女だが、こういった本当の意味でのメンバー1人1人への気遣いやケアなど、ほのかでも考えの回らないところまで思案できているのは流石というほかはない。


「ま、あたしも相手がのぞみやえりかとかだったらOKしなかったかもだけどさ・・・その、うららだし。アレだけ面と向かって約束させたし、よっぽどのことがなければ大丈夫じゃない?ダメ?」

そう言いながら、少しだけ不安気に苦笑いしてほっぺを掻くなぎさを見て、ほのかも笑いかけた。

「わかったわ。なぎさがそこまでうららさんのコト考えてるのなら、わたしも全力でサポートする」
「ほ・・・ホント?」
「もちろんよ!ねえ?みんな」

「そうですよ!なぎさ先輩!最初からそう言ってくれればいいのに・・・」
「なぎささんがそこまでうららさんのこと考えていただなんて、流石です。わたしちょっと感激しちゃったわ」
「そういうコトなら、わたしたちもうららの仕事が成功するようにいっちょ気合入れなきゃね!」

「アンタたちまで・・・なんかゴメンね?巻き込んだみたいになっちゃって・・・」

ペロッと舌を出してゴメンネ。と笑うなぎさ。
このリーダーが大好きだ。
優しくって思いやりがあって、自分のコトよりもまずはチームやメンバーのコたちのコトを考えてくれるリーダー。
そんななぎさだからこそ、頭のいいほのかや、元リーダーの月影ゆりも、マネージャーの先生達だって今のリーダーとしてなぎさを選んだのだし、かれんたちをはじめ他のチームのメンバー達も、ちょっとおっちょこちょいで、時に年下のコとハメを外しちゃいそうになることもあるけど、いざという時には人一倍頼りになるなぎさ先輩をとても尊敬している。
なぎさがうららを信頼したのだ。
大丈夫。
今日もトラブルなくきっとうまくいく。


と、すっかりポジティブに向いていた先輩やチームメンバーの思いを
ほんの数分後にそのうららちゃん自身が裏切っちゃおうとは、この時誰一人とて予想だにしてなかった。





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「やったぁ~~・・・まだホッカホカだぁ~v」

なぎさから受け取ったファンのプレゼントの包み紙を手に取ってみて、まだ中身が温かいことを確認してニンマリなうらら。
この前、グルメ番組のロケで大御所食べタレ、 ほんじゃまっか! の石塚秀彦(いしづかひでひこ)がおいしそうに食レポしているのを見て、カレー大好きな彼女は絶対に今度食べよう!と密かに決意していたのだ。
そんな彼女の前に突然出現した憧れの、ちょうど今一番食べたかったカレーまんがどなたかありがたいファンの方のプレゼントで並ばずに、タダで手に入った。
まさにこれはお仕事をがんばっているうららに神様がくれたご褒美なのだとうららは勝手にそう思い込んでいた。

そう。
先程したばかりのなぎさ先輩との約束などとっくに忘却の彼方だったのだ。
いや、はじめからそこまで重く受け止めてなかったのかもしれない。
なに、まだ誰もこのプレゼントを開封したワケじゃない。たった1個くらい今食べてしまったところで気づく者など誰もいないだろう。
後で先生達にチェックされたとしたって、1つ少ないコトなんて気づかれやしない。
最初からその個数しか無かったとシラを切ればそれですむ話だ。
そんな安易な考えで「それじゃ・・・いっただっきまぁ~・・」



「す」の声とともに箱を開けたその時だった。





「きゃあぁぁぁっっっ!???」





ボオンッ!というややくぐもった爆発音とともに、メイク室が突然真っ白な煙に包まれる。

「ちょっ・・・な、なに!?コレ?・・こほっ・・ケホっケホっ」


「どうしたのうらら!?」
「なにかあっ・・・きゃあっ!?・・なっ・・なにぃ!?コレぇっ」
「煙!?火事?火事なの!?」
「うららさん!大丈夫!?」
「一体どういうコト?とにかく!みんなバットさんたちに・・・スタッフの人たちに知らせないと!」


突如上がったうららの悲鳴と大きな爆発音に慌てて現場に駆け付けたチーム5GOGO!の面々。
他のチームのメンバー達もみな血相を変えて集まる。
辺りを覆う一面の白い煙。何が起こったのかまったくわからなかったが、ただ事ではないことは確かだ。不測の事態にすぐにバットや他のスタッフを呼ぼうと行動したその瞬間だった。


「コワイナァーーーッ!」


という様な奇声とともに煙の中から現れたモノ。
中華まんに手足を生やして、仮装に使う面のようなものをつけた巨大なバケモノが部屋を圧迫せんばかりの勢いで佇んでいた。

「きゃあっ!?な・・・ナニコレぇ!?お化け!?りんちゃんコワイぃ~~~」
「あ、あたしだってコワイぃ~~~っっきゃあぁ~~~ッッ!お面のバケモノぉ~~・・・ってコレ、見たことあるじゃん!えっと・・・」
「コレって・・・ブンビーさんとかもむかし使ってた・・なんだったかしら?」
「そう!思い出した!コワイナ―よ!」

チーム5GOGO!のメンバーがお面のバケモノを目にしてそんな感想を言い合う。

「う・・・ウソ・・そんな・・そんなぁ・・・い、インディラカンフーの・・・カレーまん・・・わたしのカレーまんがぁ・・・」

「?・・・え?え!?・・うらら?か、カレーまんって?」
「アンタにさっきプレゼントとかいってとどいてた?」

「うららさん・・・アレ・・・そうなの?」
「ちょっ・・・ちょっとまってうらら・・・え?ってコトは・・・?」
「あ・・・アンタ、開け・・・ちゃったの??」


そして、お面のバケモノを眺めながら、茫然とそう呟くうららに、チーム5GOGO!のメンバー達が一斉に視線を向け、その視線に気づいたうららが
「しまった!」
と言わんばかりにこれ以上わかりやすく口元を手で覆ったその時だった。




「ハーッハッハッハッハァ!よもやこんなあからさまな手にまんまとひっかかるとはな!オマエらのお人よしっぷりはもはや国宝級だぜ!」




メイク室の外から高笑いとともに響いてきた声。
控え室に戻ってみると他のチームのメンバー達が遠巻きに見る中、先程の配達員の若者が目深に被ったキャップで顔を隠しながら部屋の中央に立っていた。


「クククク・・・ウチの会社の連中が手を焼いてるっていうからどれほどのモノかと思ってみればなんのことはない。あんな罠にひっかかっちまうほど危機管理能力にも欠けたただのお嬢ちゃんたちじゃあないか」


「ワナ?・・・!う、うらら・・・アンタまさか?」
「あ・・・あうぅ・・ち、ちがうんです!なぎささんっ!これは・・・そのォ・・・」

「あ、あなた!ワルサーシヨッカーね!」

かれんが鋭い眼差しで睨み付けながら言うと、青年は「ご名答!」と答えながら配達員になりすましたキャップを宙へと放り投げ、身に纏っていたその制服も脱ぎ捨てた。
現れたのは三日月のように鋭く細い目に、カマキリのような眼鏡をかけ、シルクハットにスーツ姿という紳士を思わせるスタイルの細身の男。
手に持っていたステッキをクルクルと旋回させると、肩に回して細い目でプリキュアたちをぐるりと睨み付ける。

「ワルサーシヨッカーコワイナー部門のギリンマだ。うわさのプリキュアとやらがまさかこんな程度の簡単な罠にひっかかる甘っちょろいガキどもだったとはずいぶんと拍子抜けだが・・・」

そう言い放った男の言葉に、やっぱり・・・と軽く天を仰いで溜息をつくなぎさ。
そしてうららをジト~~・・・っと睨み付ける。
視線に気づいてもはや泣きそうな顔の当のうらら。
そんな2人のやり取りなど気にもならない男はステッキをカツンッ!と床に叩きつけると、細い目をカッと見開いて吼える。

「コレで俺の昇進も決まったも同然!容赦はしないぜっ!さぁコワイナ―よ!存分に暴れろォ!この現場をメチャクチャにしてしまえっ!」

ギリンマと名乗ったその男の声に反応して、コワイナーと呼ばれたそのお面中華まんのバケモノが「コワイナァ~~~ッッ!」と雄叫びを上げながら手足を振り回すと、メイク室が派手に音を立てて破壊される。
途端に「きゃぁーーーっ」という悲鳴と「危ないっ!」「みんな離れてっ!」という先輩の檄があちこちから上がる変身前のプリキュアのお嬢さん方。
その音に流石に気づいたのか、マミヤ、レイナ、バットをはじめとするスタッフたちも起こった異変に慌てて現場に駆け込んできた。


「どっ・・どうした!?何かあったのかぁ!?・・・って、おおぉあぁっ!??」
「せっ・・センパイ!コレって・・・」
「ワルサーシヨッカー・・・いつの間に?」
「なっ・・・なんだあぁぁ!?このバケモンはぁ!?」

現場に現れたスタッフ、PCA21の教育係マネージャー、マミヤ先生とレイナ先生。お世話係バットお兄さんと、プロデューサーの菅野。コワイナーの姿を見て、バットはまたしてもかとイライラとした怒りの眼差しとともに睨み付け、まったく慣れていない菅野はあんぐりと口を開けて呆然と立ち尽くしていた。
マミヤとレイナのマネージャー2人は、一体いつどうやって入り込んだのか?
そのコトに頭を悩ませている。


「ま・た・お・ま・え・ら・かぁぁ~~~~~・・・っっ」

「ち・・ちょっと・・・バットちゃん?こ・・・コレっていったい・・・?」

「あ?ああ!す・・・スンマセン・・・ちょっと・・その、商売敵の妨害・・じゃなかった・・・えっと、その・・・そう!PCA恒例の、ゲリラショーです!ゲリラショー!」

「ゲリラ?・・・ああっ!なぁ~るほど!コレがウワサのプリキュアのサービスアクションショーね!いやぁ~一度ホンモノ見たかったんだよなぁ~、感激!」

「あ、アハハハハハ・・・う、ウチの社長サプライズ好きで・・・ま、参っちゃうなぁ~・・いよぉ~し!嬢ちゃんたち!いつものとーりやっちゃいなさい!」



「え!?」
「い、いいんですか?バットさん?」

「出てきちまったモンどーすんだよ!?やるしかねえだろが!なるたけショーに見せかけていつものとーり誤魔化すんだよ」

と、いつもはこういったプリキュアの戦いに否定的で回避しようとする傾向の強いバットお兄さんの珍しく積極的な指示に戸惑うなぎさとほのかだが、確かに言われる通りだ。
こうなったらこの場にいるみんなで力を合わせてなるべく早くお帰り頂くしかない。


「ね・・ねえセンパイ?バットくん・・・コワくないですか?」
「明らかにイラついてるわよね・・・ま、今はヘタに話しかけるのやめましょ?」

そうマミヤとレイナが言っている間に、敵は控え室から移動。
ホールの廊下から広々とした本番前のダンス会場へと降り立った。
当然のことながら、突然現れたバケモノの姿にその場にいた子ども達は
「コワイ」「コワイ」とピーピー泣き、辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのだが、バットお兄さんの

「あ~~、みんな怖くない怖くないからね~~、さあ!みんなお待ちかね!PCA21お得意のプリキュアアクションショーの時間だよぉ~~!」

と言いながら、プリキュアのお嬢さまたち用に用意していたチョコやキャンディーなどのお菓子類を配りながら、子ども達の機嫌を取り、必死に楽しいアトラクションだと刷り込む。
するとたちまち子ども達が満面の笑みになり。

「がんばれぇ~ぷりきゅあぁ~~~」
「ぷいきゅあがんがえぇ~~~っ!」

とやや舌っ足らずな声も交じりながらの大声援大応援と相成った。
バットの手腕にマミヤやレイナ。
「す・・スゴイ・・」
「バットくん、やるじゃない・・・」
思わず拍手である。
そんなバットお兄さんの血の努力はどこ吹く風。
ギリンマくんはダンス会場にてプリキュアたちを睨み付けるとこう吼えかかった。


「さあぁ!?どぉするプリキュア!このギリンマにギタギタにされるか?おとなしく我がワルサーシヨッカーの軍門に下るか?選ぶがいい!」
「コワイナァ~~ッッ」

「るっせえっ!いつもいつもメンドー事ばっか引き起こしやがって!今すぐ叩き潰してやっから待っとけ!オイ!嬢ちゃんたち!気合入れて行けや!」

「えっ!?・・あっ・・は、ハイ!・・・ほのかぁ~・・なんか今日のバットお兄さん、コワイよぉ~・・」
「今はそんなコト言ってる場合じゃないでしょ?みんな!行くわよ!」

『うん!!』



サブリーダー、ほのかの号令に、メンバー達、一斉の返事とともに変身アイテムを構えた。
因みに、今日は妖精たちが不在のため、妖精がいないと変身できないつぼみ、えりか、いつきに響。そしてリーダーのなぎさとほのかも戦闘はお休みである。
結局戦闘に参加できる、ようは変身できるのはチーム5GOGO!の面々と、チームフレッシュの祈里ちゃんだけである。


「ゴメンナサイ!こんな時に役に立てなくって」
「あ~~んもうっ!だってこんなトコにまでシヨッカーがくるなんて聞いてないっしゅーっ!」
「ボクも、だってぽぷり寝てたから、起こすの可哀想で・・・」

「アタシもドリーにだけ付いてきてもらえばよかったなぁ~・・・モジュールは持ってるのに・・・」


意気消沈する他チームのメンバー達だが、そんな彼女達をなぎさ、ほのかが叱咤する。

「なに落ち込んでんの!?こういう時はサポートでしょ!?」
「そうよ!万一に備えて救急キットも持ってきてるから、ケガしたら治療、応援も大切ですからね?」

「みんな気にしないで!ダイジョーブだから!行くよみんな!」
「のぞみちゃんの言う通りよ。プリキュアの心はいつだって1つ!みんなの思いが力になるって、わたし信じてる!」


『プリキュア・メタモルフォーゼ!』

『チェインジプリキュア・ビートアップ!』



「大いなる、希望の光、キュアドリーム!」
「情熱の、赤い炎、キュアドリーム!」
「弾けるレモンの香り、キュアレモネード!」
「安らぎの、緑の大地、キュアミント!」
「知性の青き泉、キュアアクア!」
「青い薔薇は秘密のしるし、ミルキィローズ!」


「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ、キュアパイン!」


『アナタの好きには、させない!』



「ハッハッハ!結局は頭数不足か?先は見えたなぁ、やれ!コワイナーよ!」
「コワイナ~~~ッッ!」

ギリンマの合図でお面肉まんのバケモノ。コワイナーがパインと5GOGO!の面々に襲い掛かる。
まずは胴体から生えた短くも大きな腕を振り回して体当たりしてきた。
素早く散開して、その攻撃を躱すプリキュアたち。すぐさま反撃に転じる。
「はぁーーーっ!」
まずはミルキィローズことくるみが宙高く舞い上がり、そこから飛び蹴りを放つ。
コワイナーへと滑空していったミルキィローズの蹴りは見事コワイナーのお面、真正面の辺りに炸裂し、コワイナーがぐらつく。
すぐさま今度はアクアとミントの波状攻撃。

「はあぁっ!」
「えぇいっ!」

胴体部分から出た、短い脚に向かって、アクアがスライディングキックのような足払いを見舞うと、さらに体制の崩れたところへミントが突き出した両掌に繰り出した緑色の円盤シールドのような光体で、一瞬コワイナーの胴体部分を包んだかと思うと背中部分から大きく弾く。

「コッ・・ワイナぁ~・・・っ」

「やあぁぁっ!」
「てああぁっ!」

「ハイっ!」

さらに体制の崩れたコワイナーにドリームとルージュがコンビネーションのダブルキックを見舞うと、それに反応したパインが、パインフルートを手にして黄色に光り輝く閃光をお見舞いした。
日々のダンスや歌のレッスンの賜物だろうか?流れるような見事に息の合ったチームコンビネーション。
たまらず、ドシーンと轟音を上げてコワイナーが倒れる。ファーストダウンである。

途端に沸き上がるプリキュアと子ども達のそれぞれ「やったぁーっ!」と「きゃぁ~~~っvv」「わあぁ~~~いっ!♪」という歓声。
それを聞いてギリンマくん
「ええいっ!何をしているコワイナー!さっさと立てぇ!」
倒れたコワイナーにすぐさま檄を飛ばす。
するとダメージは浅いのかゆうゆう体勢を立て直し、こんどはその饅頭のような体を跳ねさせて飛び上がるとそのままプリキュアへと再度突進する。
今度は不意をつかれたのはプリキュアチームの方だった。


「きゃあぁ~~~っっ!」
「うああぁっっ」
「ひっきゃああぁぁっっ」


巨大な体躯での体当たり。
ボコォンッ!という大音とともに、ミルキィローズ、ルージュ、ドリームの3人が弾き飛ばされる。
「アブナイっ!」
と壁に激突する寸前で他のメンバー達がなんとか3人の身体を受け止める。
ミント、アクア、そしてパインが身を呈してドリームたちを守る。
しかし、それが逆に隙となった。ギリンマくん。ニヤリと笑うと今度は自分の腕からまるでカマキリの鎌のような鋭利な刃を出してプリキュアチームに突進した。

「きゃあっ!?」
「はっ・・速っ・・きゃっ!?」


「ハァあぁッ!」

裂孔の気合いとともに鎌を素早く凪ぐと、その斬撃が突風を生み、プリキュア戦士のお嬢さま方を吹き飛ばして再び離れさせる。
しかる後、今度はそれぞれバラバラになったところを投げや蹴りを見舞って再度吹き飛ばす。

「きゃああぁっ!?」
「やあぁぁっっ!」
「ぅっっああぁぁっっ!」

重なり合う悲鳴。
たった一連の連続攻撃で、6人のプリキュアたちがあっという間にダウンである。

「きゃあっ!ドリーム!ルージュ!みんな!」
「あ、あのカマキリにーちゃん、強い・・・!」
「ボクたちも変身できてれば・・・」

つぼみやえりか、いつきも歯がゆい気持ちで見守る。
それはスタッフも同じである。
バットは気が気ではなく、