「すみません、こちらにケンシロウという方はいますか?」

「は?」

そう言って突然黒髪の美女に尋ねられ、難波伐斗(なんばばっと)は運んでいた機材を床に下ろして、訝しげに思いながらも応対した。
所は東京秋葉原、五車プロモーション所属・PCA21のホームスタジオ
意外な来客があったのだ。

「あ・・あの、失礼ですがどちら様で?」

「ケンシロウの知り合いです。こちらにケンシロウさんという人はいますか?」

「ケンシロウ・・・って・・・霞のことでしょうか?」

「ハイ、霞拳四朗です」

全くもって意味不明だ、とバットは思った。
どうやら訪ねてきたこの美女、ケンシロウと顔見知りのようだが、そもそもなぜケンシロウがこんな美人と知り合なのか?

(
はて?この人どっかで見たことあるなぁ・・・誰だっけ?)

その美女の顔を見て、記憶を辿ったバットだったが、取り合えずは質問に答えてやることにした。

「いや、ケンシロウなら、今トイレ掃除して・・・」

そう言いながら背後にあるトイレに目をやると、ちょうどその目当ての人物がトイレ掃除を終えて出てきたところだった。

「あ、いたいた。おーい、お客さんだ・・」
「ケン!」

「ムッ、ユリア!」

バットの言葉がまだ言い終わらないうちに、その美女がケンシロウに向かって駆け出し、そのままひしっと固く抱き合った。

「会いたかった・・ケン・・・」

(
ええぇぇーーーっっ!!??)

目の前で繰り広げられたあまりの事態にバットは目を剥ん向かんばかりに驚いて声をあげた。

(
ん?ユリア・・・まてよ、今ケンのヤツユリアって言ったか?え!?ってコトは・・まさか!?)

「あ、アンタ、まさか女優の・・山本由利亜(やまもとゆりあ)!?」

「ハイ、女優の山本由利亜です」

きっぱりとした返事に、バットはあんぐりと口を空けて動けなくなった。

山本由利亜といえば、
ドラマ、映画、舞台、果てはバラエティーにおいて幅広い役をこなす日本の芸能界きっての超売れっ子女優である。
そんな彼女があろうことかなぜこのスーパーKYのヘンタイとひしっと固く抱擁しているのか、ややもするとバットは気が動転せんばかりのショックであったが何とか気を落ち着けると、冷静に問いかけた。

「あ、あの・・2人は一体どんな関係で?」

「ケンは私の運命の人です。ねえ、ケン」
「うむ」

「ええぇぇーーーっっ!?」

「ゴメンなさいケン、お仕事、なかなか空かなくて・・・でも会えてよかった♪」
「俺もだユリア」

運命の人・・・ということは間違いない。
恋人同士なのだろう。
売れっ子女優の彼氏がしがないフリーター。釣り合いなどとれようはずもない。

(
つーかユリア趣味ヘン!!)

仲良さそうに手を取り合うケンシロウとユリアを見て、バットはそう思わずにはいられなかった。



「あーー、プリキュア戦士のお嬢ちゃん達をギャフンと言わせられる人いないかなぁ?なぁ、オリヴィエ?」

「僕に聞くなよ・・」

所変わってここは東京某所ワルサーシヨッカー本社ビル社長室。
今日もサラマンダー藤原は自分の野望のお邪魔をするにっくきプリキュア戦士のお嬢ちゃん達をどうしたら自分の足下に膝まづかせることができるか思案を凝らしていた。
すでにピーサードくん、ポイズニーくん、ゲキドラーゴくんなど3人が惜しくも失敗し、前回は自身が乗り込んだにも関わらず失敗してしまい、些か悩んでいた。
公に打ち明けることもできず、サラマンダーは息子のオリヴィエにだけ愚痴をこぼしていた。
そんな情けない父を、慣れたものとでもいうようにオリヴィエもあしらっている。
しかし、そんな時、

コンッ コンッ

と、誰かが社長室の扉をノックした。

「失礼します。社長、いらっしゃいますか?」

「?父さん、誰か来たみたいだ」

「ん?ハイハイ、どちら様かな?入りたまえ」

サラマンダーがそう言うと扉が開き、1人の男が姿を現した。

「社長、例のプリキュアの一件、此度は私にお任せ下さい」

「おおぉ!イルクーボくんっ!そうか、ザケンナー部門にはまだ君が残っていたか」

入ってきた男を見て、サラマンダーが嬉しそうに声を上げた。
痩せこけた顔に鋭くつり上がった眼、血色の悪い肌の色だけ見れば病人にも見えなくは無かったが、引き締まりながらも鍛え上げられたその肉体は到底常人のものではなかった。

入久保一成(いるくぼかずなり)

ワルサーシヨッカー・ザケンナー部門においての係長にして、ピーサード達ダークファイブのリーダーである。
その敏腕な仕事ぶりからサラマンダーの信頼も厚い。

「社長、私が噂のアイドルグループ、プリキュアを淘汰して御覧に入れましょう」

「ウンウン君なら大丈夫だな。よし!イルクーボくん!プリキュア戦士のお嬢さん達に我々悪の力を見せつけてえ〜ん、もうシヨッカーのおじさん達には敵わなーい(ToT)、なカンジにしてやりなさい♪」

「はっ!かしこまりました。では!」

そう言って一礼すると、イルクーボは勇んで社長室から出ていった。

「イルクーボくんならやってくれるだろう、助かったぁ〜、よかったなオリヴィエ!」

「だから僕に振るなって・・・あ、そう言えばさ父さん、この前入社したさあ、あの・・・ヘルメットの怪しいオジサン・・・んー・・誰だっけ?」

「ああ、ジャギさんか。あの人ならポイズニーくんやゲキドラーゴくんと一緒に吉祥寺駅前でティッシュ配ってるよ」

「は?なんで?である。配りって任務失敗のペナルティーでしょ?なんであの人がやってんの?」

「ん〜、よくわからないんだが、なんか[ティッシュ配りだと?バカめ、俺が手本を見せてやる!]とかなんとか言って一緒にいっちゃったんだよ」

「ティッシュ配りの手本って・・・ナニ??」

「さあ・・・今頃、ピーサードくんたちとどこで何してるんだか?」


ーーーーーーーーーーーーーーー

ところ変わって新宿駅前。

「いいかぁ〜?シヨッカーのガキどもぉっ!悪を名乗る者としてただ会社の利益のためにティッシュを配り続けるだけじゃ能がねえ!俺様が、真の悪党が行うティッシュ配りなるものを見せてやるから眼ぇ凝らしてよく見てろ!」

「「は、はぁ・・・ぃ」」
「ホガ?」

新宿駅バスターミナル付近で、ティッシュの段ボールを抱えて声高に話すヘルメットの男、霞邪義にピーサード、ポイズニー、ゲキドラーゴの3人は微妙にひきつった顔で頷いた。
イマイチこのジャギという人が言っていることが理解できない。
先程の演説で周りからはヒソヒソと好奇の声が上がっている。
社長がじきじきにスカウトしてきたらしいが・・・

「なぁ、そもそも悪党が行うティッシュ配りって、そんなものあるのか?」
「さあ?わっかんない。でもあの人大丈夫?なんか言ってること意味不明だし変に周りに注目されちゃってるしヤバヤバじゃ〜ん?」

「ウガッ、サラマンダーさまお困り!俺、ティッシュ配りがんばる!」

「よーし!ソコのデカイの、いい気合いだ。うん?アソコの二人づれカップル、丁度いい。アイツらで試すとしよう!よく観ておけ!このジャギ様がティッシュ配りのバイトを凄惨な恐怖で満たしてやる!」

機嫌よく息巻くと、ツカツカとジャギはアイスを食べながらバスを待つカップルへ歩み寄っていた。

「オイ、ソコの小僧ども!」

「あ?」
「ナニ?誰?この人・・」

「このティッシュをやろう」

「はぁ?ティッシュ?いらねえよ、なぁ?」
「うん、ほら、とっとといけよオッサン」

そう邪険に追い払おうとする少年と少女。
しかしジャギはさらに睨みを効かせながら顔を近づけ再びいい放った。

「キサマら・・俺をコケにするか!?受けとれと言ったら受け取りゃいーんだよ!」

「ひ、ひえっなんだよアンタ・・」
「こ、コワイ・・・ね、ねぇ、ダイちゃん。ここは受け取っといたほうがいいんじゃない?」
「あ、ああ。そ、そだな。あって困るもんじゃねえし・・ど、ども・・」

「わかりゃあいいんだ。ホレ」

「ちょっとちょっと!あんなやり方ってありなのぉ〜?」
「いやダメだろ絶対!何考えてんだあのオッサン!」

怯えながらティッシュを受けとる若者と、傲慢不遜にティッシュを渡すバイトのあり得ない構図に、ピーサードもポイズニーも顔をひきつらせていた。
「でも、アレってただティッシュ渡しただけだよな?多少言い方が乱暴だっただけで・・」
「案外フツージャン。どこが凄惨な恐怖なのかしら?」
「ウガ?」

ゲキドラーゴ含め、3人が怪訝な表情でお互いの顔を見合わせた時、カップルの少年から声が上がった。

「うっわ!?なんだよコレ!なんか中に使った後のティッシュがありやがる!」
「えー!?ナニソレぇ〜?サイアク!うわキモぉ〜・・」

「ククク・・バカめ!まんまとかかったな!新品かと思いきや中身に使用済みティッシュがイントォウ!しかもかみたてほやほやの鼻水ティッシュ!誰もが身の毛もよだつほどの悪逆無道を涼しい顔でやってのけるやはり俺様悪の天才!悪のカリスマ!そしてとどめにコレだ!」

意気揚々と笑うとジャギは胸をはだけさせてこう言い放った。

「オイ、お前ら!俺の名を言ってみろ!」

「「・・・・・・」」

反応が固まる若者2人。
いや、少年と少女だけではない。端で見ていたピーサードたちもジャギのあり得ない「悪事」に凍り付いた。

「フッフッフ・・ビビって声も出んか?仕方無い教えてやろう、俺の名は北斗神拳伝承者・・・」

「何なんだよこのオッサン」

「バカじゃね?ねぇダイちゃん、行こ。ティッシュさっさと捨ててさ」

「ケンシロ・・」

若者2人は、ジャギさんのことなどまるで意に介さず、そのまま去っていってしまった。もちろんティッシュは道端にポイ捨てである。

「「・・・・・・」」

「・・・・」

辺りの喧騒に場違いな重苦しい空気がジャギとピーサードたちを包み込む。
空気に耐えられなくなったジャギに「あの・・ジャギ、さん?」とピーサードが気を使いながら声をかけた時だった。


「何故だぁ!?何故どいつもコイツもこの俺様の凄惨な悪を見過ごすことができるぅ!?」

「ウガ?悪?」
「・・・い、今のが?」
「この人、大丈夫なのぉ?」

「何もかもうまくいかねえっ!おのれケンシロウーーっ!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

で、そのケンシロウさん。
ところ変わって秋葉原・スタジオPCA・談話室。

「はじめまして。山本由利亜です」

「うわ!ホンモノだぁ!ホンモノのユリアだぁ〜!」

「スッゴぉ〜い!めっちゃオーラあるぅ♪」

「こら、2人とも失礼よ?」

突然の超一流女優の来訪に、プリキュアメンバーの中でも一際テレビっ子の来海(くるみ)えりかと蒼乃美希(あおのみき)は目を輝かせ、松風玲奈が2人の興奮をそれとなく抑える。

えりかも美希も、PCA21のメンバーとして今やテレビにも出演している身だが、目の前にいるユリアとはキャリアがまるで違う。
幼い頃からお茶の間で見慣れた有名人がこうして自分達の眼前に佇んでいる様子はいやがおうでも胸がときめくものだ。それをレイナも十分理解している。

「あなた達が今人気売り出し中のプリキュアね?ケンがいつもお世話になってます」

「い、いや、そんなコト・・」
「コッチも、ケン先生って意外と頼りになるから助かっちゃってるんですよ♪」

(
そんなセリフ吐けるのは舞台裏知らねえからだぜえりかちゃん・・)

能天気で現場の苦労を知らないえりかの無邪気な発言に、力なく肩を落とすバット。 
そんなバットにやや同情しつつも美希はユリアに質問を続ける。

「ねえ、ユリア・・さん?」

「ハイ?」

「その、ユリアさんてケンシロウ先生と・・その・・どーいったカンケーなんですか?」

「美希!失礼でしょいくらなんでもっ」

「えぇーっ?でもぉ〜」

一切遠慮のない美希の質問にレイナの叱責が飛ぶ。口を尖らせる美希だが、実は彼女も言ったはいいが、流石にまずかったか?とバツの悪そうな表情。
ユリアの顔があまりにも慈愛に満ちた優しい笑顔だったので、つい調子に乗ってしまった。
しかし、

「ケンは、私の運命の人です」

『ええぇぇーーっ!!??』

次の瞬間のユリアの口から出たハッキリとした簡潔な答えは周りにいたレイナ達を仰天させた。

「ってコトはケン、やっぱりこの人って・・」
「ホンっっトにケン先生の・・?カノジョ?」

「ああ、そうなる」

(
マジか?・・・あり得ねえだろソレ)

「マジマジマジぃ〜?♪ケン先生チョー幸せジャン!あとで響や桃姉に教えてやろ〜っとv」

(
えりかちゃん!適応早すぎ!)

もはやどこから突っ込んでイイのかわからないバットだったが、さらにこの後事態が混乱を深めていくとは思いもしなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まもなく〜、秋葉原〜秋葉原〜お出口は右方向になります。お忘れ物の無いように・・」

「フン、全く。かつては日本の電波街とよばれ多くのエンジニアで賑わっていた秋葉原も・・今やアイドルやアニメキャラにしか興味を示さんオタクという人間の汚物で溢れかえっているな」

秋葉原駅に入る地下鉄。車内アナウンスがかかると同時に気色悪いアニメキャラやアイドルがプリントされたバッグを抱えたオタクと呼ばれる人間の集団に、イルクーボはことのほか嫌悪感を露にした。
イルクーボは昨今の「オタク」と呼ばれ、「萌え」に生きる軟弱な日本男児が死ぬほど嫌いだった。
皆2次元のキャラクターや手の届かないアイドルに夢中になり、現実を逃避している。そんな惰弱な若者の成長に拍車をかける、アイドルなどの存在も許しがたかった。
だからこそ、日本の芸能界、メディア界を正すべくワルサーシヨッカーに入社したのだ。

「見ていろプリキュアども。この日本を惰弱な影響力から正すため、手始めに貴様らを始末してくれる!クックック・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ハ〜イ、じゃあ今日はここまで、各自今日注意されたところは週末の公演までレッスンしておくこと、いいわね」

『ハーイ、お疲れ様でした〜』

藤田麻美耶(ふじたまみや)先生の号令で、全体レッスンを終えたプリキュアメンバー達は、タオルで汗を拭きながら、口々に今日のレッスンの内容やキツかった箇所を話し合い、ドリンクを片手にガールズトークに花を咲かせる。
いつもの光景。
ひとつ違うところと言えば、そのいつものレッスン場に見慣れない美女が1人いること。彼女達を見ながら温かな笑顔を送っている。

「素晴らしいわ。流石今人気沸騰中のPCA21ね。私も色々勉強できました」

「聞いた聞いた?ユリさ〜ん!勉強できました。だってぇ〜♪やっぱぁ、アタシのキレのある振りが衝撃的だったのかなぁ〜?」

「えりか。調子に乗らないの。山本由利亜さんといえばアメリカでミュージカルもしたぐらいの日本のトップ女優よ?私達に気を使って下さってることに気づかないの?」

「そんなコトないわ。月影ゆりちゃんだったかしら?あなたの歌声、素晴らしいわね。今度私と舞台で共演お願いしちゃおうかしら?」

澄んだ瞳でにこやかに発せられたユリアの言葉に、いつもはクールなゆりちゃんも流石に顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。

「でもでもぉ、人気女優のユリアさんの恋人がケン先生なんでしょ?なぁんか超意外!」

「ホントホント、ケンシロウ先生ってなんかあんまり女の人にキョーミなさそうだもんね」

「そんなことはないが・・・しかし、ユリアだけは特別だ。彼女は我等北斗の宿星と対を成す、南斗の慈母星を持つもの・・・南斗の最後の将だからな。」

「え?な、ナントサイゴノ・・ショー?な、なんですソレ?」

「何かの劇団ですか?先生」

またしてもケンシロウの聞き慣れない単語に思い切り頭に「?」が浮かんでいる水無月かれん、秋本こまちの2人。
またケンシロウ・・もとい、北斗の一家の独特の言葉だとバットもさほど気にせず、タオルやドリンクを他のプリキュアメンバーに渡していた。

「ねえねえバットさん。コレコレ、コレ見て」

そんなバットの袖を引っ張る人物が、振り替えるとそこには着替えたばかりの美墨なぎさが、芸能雑誌片手にニマニマして立っていた。

「ん?どうかしたか、なぎさちゃん」

「バットさんも案外モグリだよねぇ〜、ホラ、先週号のガールズラブマガジン。ユリアさん特集されてるんだよ」

そう言って雑誌をバットに見せるなぎさ。
見るとなぎさの言う通り、「日本の慈愛美・女優・山本由利亜のすべて」として特集が組まれていた。
最新の映画出演、舞台、ミュージカルなどなど果てはCMまで、幅広い活躍が写真とともに掲載されていた。

「へぇ〜、聞いたことあるくらいじゃなくてホントにこんなに有名なんだ」

感心するとともに、バットは1つ確かな確信を得た。

(
まぁ、どうかんがえてもケンシロウとは釣り合わねえよなぁ・・・なんでユリアさんがケンの恋人なんだか・・ん?)

しかし、次のページが眼に入った瞬間、バットの体が固まった。

『たまには私服を着てウィンドウショッピングvユリアのオシャレな休日』と書かれたそのコラムには私服というなの純白の鎧とマントに身を包んだユリアが高級ファッション街を歩く姿が写っていた。

「・・・・」

「どうしたのバットさん?」

「え?あ、いや・・・」
(
前言・・いや前思考撤回。やっぱするわこの人。ケンシロウとその一族の匂いが・・・)

バットは疲れたように溜め息をついて、プリキュアメンバーと一緒に談笑するユリアを見つめた。

「ケン、ゴメンなさい。実は今日帝国医大の名誉教授との対談があるの。それにどうしても行かなきゃいけないの。だから、あまり長くはいられないわ」

「ああ、かまわん。少しだけでも会えてよかった」

「え?ユリアさん、帰っちゃうのぉ?」

「ゴメンなさいね、咲ちゃん・・だったわね。どうしてもやらなきゃいけない仕事で・・皆さんも今日はありがとうね。今日のダンスや歌、自分の役に生かせたらと思います」

「そう言ってもらえて何よりです。こちらこそありがとうございました」

にこやかに挨拶を交わすユリアとマミヤ。
褒めてもらえた日向咲もご機嫌な笑顔である。そんなユリアの袖口を引っ張る人物が・・

「?あら、どうしたのえりかちゃん」

「ねえ、この後って、医大の先生と会うんだよね?」

「?ええ、そうよ。それがどうかした?」

優しい笑みで尋ねるユリアにえりかは少し周りを警戒しながら、こっそりと耳打ちした。

「あのさ・・・またウチのスタジオ来る?」

「ええ、都合つけて、近いうちに・・」

「お願いが・・あるんだケド・・・」

「あら、なあに?」

相変わらず優しい笑顔のユリアに、えりかはそっと耳打ちした。するとユリアはちょっと驚いた顔をして、「まあ、そんなコトを?」と聞き返した。

「お願い!アタシには死活問題なの!ユリアさん、ホントにお願い!」

必死で頼みこむ姿に、ユリアは少し悩んだ末、「わかった、お願いしてみるわね」と言った。

「あ!ねえねえ、先生には!ウチの先生達にはナイショ!絶対ナイショだからね!ぜぇ〜〜っったいに言っちゃヤダよ?」

「わかりましたよ。約束するわ」

そう言われてぱあっと明るくなった顔のえりか。そんな彼女に「どうしたのえりか?」と隣にいた明堂院いつきが尋ねるが、それも聞いてないとのばかりにえりかは満面の笑顔でユリアに飛びついた。

「ありがとーーっ!たすかっちゃったぁ〜♪ユリアさんだぁ〜いスキ!v」

「あらあら、甘えんぼうさんなのね」


「そこまでだ!」

と、不意にそんな和やかな現場の空気を切り裂く人声が談話室の入口からかけられた。

「ちょっ・・ちょっと、困りますってっココは関係者以外立ち入り禁止なんですからっ!」

慌てて引き留めに来た係員の男を引きずったまま、その声の主はズカズカとプリキュアメンバーの集まっている談話室に乗り込んで来た。
目の覚めるような輝くブロンド、切れ長の鋭い眼、アイドルや俳優、モデルにも見まごう美男であったが、その眼差しや身に纏った雰囲気が単なる美形の優男ではない事を悠然と物語っていた。

「ユリア、こんな所で何をしている?すぐに戻るぞ」

(うっわぁ〜〜・・・なんかまたヘンなヒト出てきちゃったよオイ・・)

「なぁに?ダレ?このヒト・・」

なぎさが不意に周囲に問い尋ねる。しかしレイナもマミヤも怪訝に首を振るだけだった。
しかし、その時、ユリアが緊張した面持ちで声を上げた。

「あなた、どうしてココが・・・?」

「フフフ、情報と言うものは権力者の元に黙っていても入ってくるものなのだ・・なあ?そうだろうケンシロウ」

「キサマ・・・シン!」

「ええぇぇーーーーっっ!知り合いーーーっ?」

バットはまたしても北斗に関係する連中の登場に辟易としながらもまたいつものことか、と瞬時に気を落ち着けた。
思えば自分も慣れたものである。

「え?なになに?ケン先生、だれこのヒト?」

「奴の名はシン。北斗神拳と対をなす拳法、南斗聖拳(なんとせいけん)の一派、南斗孤鷲拳(なんとこしゅうけん)の伝承者だ」

「な・・・なんと・・せーけん?」

「ククク・・そう、経絡秘孔を突き、人体を内部から破壊することを旨とする北斗神拳が陰ならば・・・外部から突き入れ肉体を表面から破壊する南斗聖拳は陽!」

そう言うが早いか、シンは左手をおもむろに構えると談話室のコンクリートの柱を手刀でドン!と貫いた。
まるで固い固い鉄筋コンクリートの柱がカステラか何かのように穴を空けられた。

「ひえっ!?ナニあのヒト!?」
「スゴイです・・・柱に穴空いちゃいました・・・」

「相変わらず凄まじい腕前だ・・」

緊張した面持ちで答えるケンシロウとは対照的になぎさは「もうちんぷんかんぷん」というような当然の反応だし、シンの所業を見た春日野(かすがの)うららと桃園(ももぞの)ラブは戦慄した表情でシンを見ていた。
近頃の彼女らの周りには魔法の悪党だけではなく、それよりスンゴイ、超人が多すぎる。

「奴は昔から俺と同じくユリアを愛し俺と対立する男。そして・・・おおおあぁあぁっ!!」

「きゃあぁぁ〜〜っ!?」
「ひいぃぃ〜〜〜っ?」

ケンシロウはいきなり裂昂の気合いの声を上げると上半身を震わせ、自身の服を弾けさせた。胸に七つの独特の傷跡が残るケンシロウの肉体が少女たちの眼前に晒される。

「この胸に七つの傷を刻んだ男でもある!」

「もぉ、ケンシロウ先生!」
「いきなりおどかさないでくださいっ!」

突然の怒号に肝を潰された雪城(ゆきしろ)ほのかと美翔舞(みしょうまい)がもっともな避難の声を上げるがすでにケンシロウ先生の耳には入っていない、ただただ目の前のシンという男を見つめていた。

(傷を付けたって・・・一体この男とケンの間に一体何が?)

「邪魔するぞ小僧。俺はこういう者だ」

「は・・はあ、えっと・・・え!?サザンクロスって・・あの業界最王手の芸能!?」

「そこの・・え?社長さん!?」

見れば男がバットに渡した名刺には『サザンクロスプロモーション・代表取締役・古川真(ふるかわしん)』と書かれていた。

「そ・・その社長さんが、どうして今日はこんな所に?」
「我が社の看板女優である山本ユリアがここにいるという情報を手に入れたのでな」

シンは尋ねるレイナを一瞥してツカツカとケンシロウとユリアに歩み寄った。

「ユリア!そんな男とのスキャンダルは許さんぞ!こっちへ来い!」

「シン、相変わらず力でユリアを押さえつけているのか?」

(うわあぁ〜〜・・三角関係かよーっ)

なんでこんな所でそんなドロドロの恋愛劇をかますのか?バットはいい加減に帰りたくなってきた。頭を抱えてマジかよ〜、のジェスチャー。

「力こそが正義・・いい時代になった者だ。そう、今の時代力こそ全て!今の世で言うならそれは権力!そして財力!そこの小僧!」

「え!?おっ・・俺!?」

「先程は柱を台無しにしたな・・修繕費だ。取っておくが良い」

そう言いながらシンは懐から分厚い札束を取り出すとバットに押しつけた。

「うっわぁ〜〜・・すっごい!」
「ヤバイくらいの金持ちじゃない・・・あーあ、アタシもあんなにお小遣いあったらお気に入りのアクセサリーとかもっといっぱい買えるんだけどなぁ〜・・」

2人してシンの財力に羨望の眼差しを向ける夢原(ゆめはら)のぞみと夏木(なつき)りん。
そんな少女たちの視線に笑みを溢しながらシンは続ける。

「これが現実だケンシロウ。」

(うわぁ〜〜・・絵に描いたようなイヤミな金持ちだよこのヒト!)

大人げない反応のシンに心の中で1人突っ込むバット。

「俺がその気になればケンシロウ、お前を即座に首にすることだってできるのだぞ?折角見つかった臨時教師の資格を失いたくはあるまい?」

「シン、キサマ・・っ!」

「ひど〜い、何なんですあのヒト」 「チョ〜むかつくっ!ケンシロウ先生カワイソウ・・」

しかし避難の声を上げるつぼみやえりかとは裏腹にバットは心の中で(それはチョットお願いしたいかもしれない・・・)と思ってしまった。


「ユリア、俺を愛していると言ってみろ」

「そ・・・そんな・・できません!」

「フッ・・いいのか?奴を無職のドン底に叩き落とすことになっても」

「そっ・・それは・・」

「では言ってみろ。ん?どうした?言葉が出ぬかユリアよ・・」

(ケン・・・)

「よせ!ユリア!」

(あなたのためなら・・・・)

ケンシロウの必死の呼びとめもむなしく、ユリアは静かに前に歩み出てそして、静かにこう言った。

「あ・・・愛します・・」

「なぁにぃ〜〜ぃ?よく聞こえんなぁ〜そんなもので俺が納得するとでも思ったかぁ〜?」

その時、辺りが急に暗闇に包まれた。
突然の事態に照明機器の故障か?と騒然となる現場、プリキュア戦士のお嬢様方も気が気でない様子で、「な、なに?なに?」 「どうしたの一体?」 「停電!?」 と騒ぎたてる。刹那、暗闇の中に突然スポットライトが浴びせられ、その中に日本きっての売れっ子女優が佇んでいた。

「愛します!一生どこへでもついていきますーーっ!」

(なんか1人で勝手に舞台演出しちゃってるーーーっっ!)

「フッ・・流石は大女優の器・・セリフ一つで瞬時にその場に舞台を見せてしまうとは・・」

(ユリア・・・恐ろしい人っ!!)

なんだこの茶番劇。と思いつつもついついその演技に魅入ってしまうのはやはりユリアの女優としての技量なのだろう。


「失礼します。こちらにPCA21のメンバーの皆さんがいらっしゃるとお聞きしたのですが・・」

「はい?あ、すみません今少し取り込み中で、何かありましたか?」

騒々しい寸劇が展開されていたPCA21の大休憩室。
今度は言ってきたのはねずみ色の作業服を着た貧相な男性だった。手には何やら大型の荷物を抱えている。

「蒼野美希さん、夢原のぞみさん、それから春日野うららさんあてです。ファンの方からお届けものです」

「きゃーーvなになにぃ〜♪」

「ちょっとどいてよのぞみちゃん!やっぱりミキたんてばファンの人達を虜にしちゃうくらいの罪なオ・ン・ナなのねぇ〜wミキたんはみんなのものなのに〜」

「あっズルイですよぅーのぞみさんも美希さんもわたしだって見たいですぅ〜♪」

途端に餌に群がるハイエナの如く、夢原のぞみ、蒼野美希、春日野うららの3名が大きな包みに殺到した。

「あっ!こらっ!待ちなさいっ!勝手に袋をあけるんじゃないっていつも言って・・・」
「待ちなさいっ!言うこと聞きなさいって・・・コラーッ!」

レイナとマミヤが止めようとしたときは既にもう遅かった。

「きゃあぁ〜〜っっ」

「いやあぁーーーっっちょっ・・なによコレぇえ〜〜っ」

「う、動けないですぅ〜〜っっ」

突然袋から出てきたマシンから長い手がにゅっと3本伸びてきて、それぞれにのぞみ、美希、うららを縛りつけて拘束してしまった。

「フハハハハハハッ!バカめ、かかったな!このような簡単な手にいとも簡単にひっかかるとは、サラマンダー社長が危惧されるプリキュアとはこの程度のものか」

作業着の男性が途端に自身の服を脱ぎ捨てると、そこにはスキンヘッドの鋭い眼をした血色の悪い肌の長身男が姿を現した。

「・・プリキュアの事を知ってる?・・・ということは、あなた、シヨッカーのメンバーね!」

「いかにも!我が名はイルクーボ!ワルサ―シヨッカー・ザケンナー部門、課長職にしてダークファイブのリーダーなり、我が主、サラマンダー・藤原社長の命に従い貴様らを誅しに参った!」

身構えたプリキュアメンバー達やマミヤ、レイナ、バットをぐるりと見回してイルクーボは不敵な笑みを浮かべた。

「お初にお目にかかる。藤田麻美耶殿に松風麗奈どのですな、入久保一成、イルクーボと申します。以後お見知りおきを」

「・・どうも、あまり仲良くはしたくありませんね」

「ハハハ、ごもっとも。しかしお宅のお嬢さま方も油断が過ぎる。いつ何時危険な小包が届くかもわからないのが芸能界の常。それを無防備になんの危機感も無く開けてしまうとは・・・少々教育の不行き届きでは?」

敵の言ったことが一言一句、つくづく正解でマミヤもレイナも言葉に詰まった。
日頃から教育してきたのだ。教育してきたのだ!その通りのことを。教育して口を酸っぱくして注意し、捕まった3人などは以前全く同じ理由でたっぷりお尻まで叩いたというのに・・・っ
そこまで考えてマミヤとレイナはイス型のマシンに拘束されている3人の少女をジロリと睨みつけた。
青ざめる3人。そして、案の定雷が落ちた。

「だぁから言ったでしょ!?勝手に開けちゃダメだって!アナタ達この間も同じことで叱られたのわかってるの!?」

「もおぉ、のぞみ!美希!うらら!アンタ達またお尻ぺんぺんもらいたいのね!?100回くらいしてあげようか?」

「ひいっ!!?やっ、ヤダァ〜・・」

「イヤァーっ!ひゃっ・・ひゃっかいもされたら・・死んじゃうし・・」

「ふえぇ〜〜ん・・ゆるしてぇ・・ゴメンなさぁ〜い」

先生達のお怒りにすっかり半泣きで怯えだす3人。

「さあ、3人を助けたければこの私と正々堂々勝負してもらおう」

そう言ってイルクーボが持っていたスイッチを押すと、のぞみ達を拘束していたマシンがビーッという音とともにガタガタッ!と動き出し、そのまま3人を担いでイルクーボと休憩室の外へと出て行ってしまった。
「あ!ま、待ちなさいっ!」

慌ててレイナとマミヤが追いかける。そして談話室に残っていたメンバーも急いで後を追った。


たどり着いたのはライブも行うスタジオ内の大ホール。
そのステージ上にイルクーボは静かに立っていた。

「さあ、プリキュア戦士の諸君。私と戦っていただこうか?出でよ、怒れる天空の妖気、ザケンナーよ!」

そう叫んで手を上に翳すと例の紫色の濃い霧状の妖気が辺りを包む。そのままのぞみ達の拘束されているマシンに降り注ぐと、でかいソファー型のザケンナーが「ザァーケンナァー!」と現れた。
のぞみ達は捕まったまま。これでは彼女達は変身できない。
既に予定があって外出したメンバーや練習が終わって家に帰ったメンバーも多いPCA21の面々、フルメンバーというわけにはいかない。
しかしそれでも、「のぞみ達を助けるよ、みんな準備いいわね?」というリーダーなぎさの声にその場の全員が頷く。
それまでぬいぐるみ然としていた妖精たちも現場に駆け込んで来た。

「「デュアルオーロラウェーイブ!」」

「ルミナス、シャイニングストリーム!」

「「「プリキュア!メタモルフォーゼ!」」」

「チェインジプリキュア!ビートアップ!」

「「「「プリキュア!オープンマイハート!」」」」

少女たちの体が光に包まれ眩い輝きを放ちながら次々にコスチュームを身に纏っていく。
バットはその光景を見て(またヘンシンしちゃった・・驚かなくなったな流石に・・)と多少見慣れた自分に心の中で静かに納得させた。

「光の使者!キュアブラック!」
「光の使者!キュアホワイト!」

「輝く命、シャイニールミナス!」

「情熱の赤い炎、キュアルージュ!」
「安らぎの緑の大地、キュアミント!」
「知性の青き泉、キュアアクア!」

「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!」
「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!」
「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!」
「月光に冴える一輪の花、キュアムーンライト!」

計11人のプリキュアが変身し、囚われの身となったのぞみ、美希、うららを助けるべく、そして大事なライブ会場を守るべくイルクーボの繰り出したザケンナーへと立ち向かう。

「やあーーっ!」

「たぁーっ!」

「はっ!」

まず接近戦が得意のブラック・なぎさ、ルージュ・りん、ピーチ・ラブがパンチやキックでザケンナーに先制攻撃を仕掛ける。ライブステージを舞台に激しい肉弾戦が展開される。
正面からつっこんだブラックのパンチは弾かれてしまったがそのブラックをサポートするようにピーチが側面から飛び蹴りでザケンナーの体勢を崩す。さらにはルージュが隙をついてザケンナーの脚に飛び込みざまに回し蹴りを放ち、大きく体勢を崩したところを・・

「やあぁっ!」

ホワイトに変身したほのかが投げようとした。と、その時、イルクーボが言葉を発する。

「おっと、いいのかな?そのままザケンナーを投げつけたりしたらキミらのお友達もケガをするかもしれんぞ?」

「!・・あ・・」

そこで気がついた。そうだ、今はのぞみ達が変身もできぬままザケンナーに囚われの身となっているのだ。
今ここでザケンナーに対してであろうが派手な投げ技を決めれば捕まった3人もケガをしてしまうかもしれない。ほのかは苦渋の顔で投げ技を中止した。

「くぅっ・・のぞみさん、美希さん、うららさんっ」

「卑怯!3人を人質にするなんて!」

「ホントです・・女の子にあんなことするなんてヒドイです!」

「サイッテーーっ!オジサンみたいな人って嫌われるよ!」

「ハハハ、何とでも言うがいい!この世では勝った方が正義!どんなことをしようが例え力づくでも勝てばサラマンダー様の正しさが証明されるのだよ。我らワルサ―シヨッカーの正しさがな!」

「ほう、中々興味深いことを言ってくれる!そこの男、実に見所があるではないか!」

と、イルクーボ、ザケンナーとプリキュア達との鬼気迫る戦いが繰り広げられているところに、堂々となんの躊躇もなく入って来た1人の男がいた。
いわずもがな、先程まで他社の休憩室で傍若無人の限りを尽くしていた古川真そのひとである。イルクーボと他人から見れば得体のしれない化け物を前にしても全く動じることなくその前に進み出て言葉を続けた。

「貴様は少々使えそうだ。どうだ?サザンクロスプロモーションに入らんか?貴様ならば即支部長に取り立ててやってもよいぞ」

(唐突に他人の会社で他社の社員のスカウト始めちゃってるぅーーーっ!!?)

一体何なんだこの男は?突然他人の事務所にずんずんと上がり込んで来たと思ったら休憩室でもめ事を起こし、さらに殴り込みをかけてきた不逞の輩を見所があるといきなりスカウトする。
無軌道無秩序極まりない行動に、バットはおかしくなりかけていた。
ケンシロウの知り合いはマミヤやレイナとごく一部を除いてこの世の常識というものがまるで通用しないのか?
1人で激しく悩んでいるバットを置いてけぼりにシンとイルクーボの方は進展があった。

「なっ・・何をフザケタことをっ!私はダークファイブのリーダー、ワルサーシヨッカーザケンナー部門の課長にしてサラマンダー様の忠実なる社員!どこの馬の骨ともわからん輩に膝を折るつもりはない!」

「フン、このサザンクロスのKING、シン様の誘いを断るとは・・よかろうっ!少し褒めただけで図に乗った貴様のその奢り、粉々に打ち砕いてくれる!喰らえっ!」

交渉決裂。
シンの誘いを二言も無く蹴ったイルクーボだったが、次の瞬間にはシンがそのイルクーボの背後にいる化け物に向かって跳躍していた。

「南斗千首龍撃(なんとせんしゅりゅうげき)っ!」

シンが放った無数の連続突きがザケンナーの体を雨霰と打ち据え、大きく吹き飛ばして背後の壁に激突させた。

「「「きゃああぁぁ〜〜〜〜っっ」」」

その衝撃で拘束していたのぞみ達をザケンナーが振り落とす。振り落とされた彼女達をラブとのぞみ、いつきがそれぞれしっかりキャッチした。

「ばっバカなぁ!?プリキュア達の攻撃複数を難なく耐え抜いたザケンナーがっ!」

「これがKINGの力だ。我が南斗孤鷲拳が味、思い知ったか!?」

「勝手に人の社屋で暴れて偉そうに言ってんじゃねえーーっ!!」

「け・・ケンシロウ先生の知り合いってみんなこんなに強いのかしら?と、とにかく、今がチャンスだわっ!なぎさ!ゆりさん!」

「わかってるわっ!」
OKほのかっ!」

吹き飛んで動けないザケンナーに、プリキュア達が即座にフォーメーションをとる。

「ルミナス・ハーティエルアンクション!」

まず最初にひかりが変身したルミナスがアイテムを用いた七色の光を放ちザケンナーの動きを止める。そこからはプリキュアお得意の魔法攻撃の連携だ。

「「プリキュア・マーブルスクリュー・マックスーっ!」」

「プリキュア・ファイヤーストライク!」
「プリキュア・エメラルドソーサー!」
「プリキュア・サファイアアロー!」

「悪いの悪いの飛んでいけ、プリキュア・ラブサンシャインフレーッシュ!」

「「フローラルパワーフォルテッシモ!!」」
「プリキュア・ゴールドフォルテバースト!」
「プリキュア・シルバーフォルテウェイブ!」

ルミナスを除く全員分の攻撃、言わば合体魔法とも言うべき大技を喰らったのだからひとたまりもない。ザケンナーは光に包まれ、断末の言葉を残して消え去った。

「まさか・・私がこのような失態を犯すとは・・・己ぇ、想定外の邪魔さえ入らなければっ」

苦虫を噛み潰したような顔で捨て台詞を残しながら、イルクーボはたちどころに消え去った。
彼が去ると同時に、ステージ上の壊れたところが跡形もなく修正されていた。





「ホントに、助かりました」

「フン、礼を言われる覚えはない。ただ俺の誘いを蹴った不届き者に少し身の程を分からせてやったまでのことだ」

スタジオPCA、再び談話室。
頭を下げるレイナにシンは慢岸不遜に言い放った。確かにそうかも知れない。彼にしてみればプリキュアメンバーの少女達を助けようとしてザケンナーを殴り飛ばしたわけではないだろう。
ただ自分の思い通りにならなかった鬱憤を晴らしたというのが正直な所だ。しかし、それでも預かっている教え子達を無事に取り戻せたレイナとしては頭を下げずにはいられなかった。
そして、シンから目を上げて目の前で正座している夢原のぞみ、蒼野美希、春日野うららに目を移す。3人ともマミヤ先生、レイナ先生の怒りの気を感じ取ってかうつむいてビクビクと怯えて震えていた。

「さて、また先生達の言うこと聞かないで危ない目にあった悪いコちゃん達にはどんな罰が必要かしらねえ、先輩?」

「そうね、ちょうどユリアさん達もいることだし、3人ともここでもう1回キビシ〜くお尻叩いたらよぉ〜く反省できるかもねぇ?」

そう先生2人から意見がでた瞬間、3人の顔色が一気に青ざめ、見る見るうちに顔をくしゃくしゃに歪めて命乞いしだした。

「ヤダぁ〜〜っっゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいっっ!」

「お尻ぺんぺんは・・それだけはカンベンしてよねえ、先生ったらぁ〜〜っっ恥ずかしいし・・スッゴイ痛いのよ?オシリ真っ赤になって腫れちゃうのよ?痛くってしばらく動けないのよっ?」

「明日ダンスのレッスン仕上げで週末コンサートなのに・・・オシリ痛くて踊れなくなっちゃうぅ〜〜っっ女の子にそんなことしちゃダメなんですからねっ」

もはや最悪のお仕置きから逃れようと必死だ。
彼女らはもちろん、周りにいる子だってお尻ぺんぺんなんか見たくもない。この子たちにとってそれは明日は我が身なのだ。
どんなことがきっかけで次は自分がお尻を叩かれるかわからない。それを知っているからこそ、誰1人彼女らを笑うことなどできようはずがなかった。

「あの・・・」

そんな時、ユリアがすごすごと手を挙げた。気になってマミヤが声をかける。

「どうしました?ユリアさん」

「その、もともと私が来たからこのようなモメごとに発展した訳ですし・・その、今回は、私に免じてお仕置きは勘弁してあげたらどうでしょう?のぞみちゃんたちももう随分反省したと思いますし・・」

意外なところからの助け船。
のぞみ達3人の顔がぱぁっと明るくなる。

「え?でも・・・どうします先輩」

「う〜ん・・お約束破ったわけだし、一応は叱らなきゃいけないけど・・まぁなにもわざとじゃなかったし、ユリアさんがそこまで言うなら・・アンタ達、ちゃんとこれから気をつけられるの?」

そのマミヤ先生の言葉に3人は必死にうなづいた。

「じゃ、今回は許してあげる」

「きゃあぁ〜〜〜ヤッタぁあ〜〜っ」
「た・・・たすかっ・・たぁぁ〜〜・・・」
「え〜ん・・怖かったよぉ〜・・ユリアさんありがとうございますぅ〜っ」

口々に安堵の声を漏らす3人、周りで見ていた他のメンバーも、ホッと一安心だった。

「まぁったくぅ・・のぞみもうららもホントにドジっ娘なんだからぁ、気をつけなきゃダメだよぉ?」

「もぉ、うるさいなぁ、えりかちゃんは」
「えりかにだけは言われたくないわよっ!メンバーの中でもイッチバン叱られてるクセに」

「イッシッシvさっきまで泣きべそだったクセにさ〜、ユリアさんに感謝しなきゃね、ねーユリアさんw」

「いいえ、当然のことよ。私にできることがあったら遠慮なく連絡して」

「さんきゅー♪あ、あのコトもよろしくね!」

「ハイハイ」

そんな会話がえりかとユリアとの間でなされたので、バットはふと不思議に思って尋ねた。

「あの・・あのコトって?えりかちゃんとなにか約束でも?」

「ああ、大したことじゃないわ。彼女お勉強が苦手らしくて、ここ2週間ほどずっと宿題ためてるんですって、自分じゃどうしようもないから代わりに今日私が会う帝国医科薬科大学の名誉教授の先生に頼んで代わりにやってもらおうってワケ。彼も私がお気に入りだからお願いすれば暇つぶしのゲーム感覚でやってくれると思って」

「きゃあぁぁあーーーーーーっっっだっ・・だめっ!ダメダメダメダメダメダメ!!ユリアさんっ!」

突然上がったえりかの絶叫。
周囲のメンバーもなんだなんだ?とえりかの方を振り向く。見ると冷や汗をダラダラ流しながらえりかがユリアに飛びついて「シーーっ」と指を口元にあてがっていた。

「あら?何か問題?安心して、教授もお人よしな人だし、ちゃんとあなたの先生達には黙っておいてあげるから♪」

「そ・・そーなんだけど・・さ・・」

「あらなぁに?まだ宿題あるの?」

「こ・・ここでソレ・・・」

その時、ユリアもえりかの背後にただならぬ殺気と怒気を感じ取った
見ればマミヤとレイナがえりかの背後で腕を組んで仁王立ちしている。その顔は、とても恐ろしかった。

「な、なんで・・言っちゃうかなぁ・・」

「「どーゆーコト?えりか」」


「こんにちはー!えりかー、いる?撮影早めに終わったから一緒に帰ろっか?帰りにアイス買ってあげるわよ〜」

と、修羅場となりつつあったその現場の空気を呑気な雰囲気で引き裂いて入ってきた少女。
彼女の登場に、その場の空気が言いようのない緊張感に包まれた。

「・・・ももかちゃん?」

「も・・モモ姉・・ど・・どーして?タイミング悪すぎ・・・」

「?・・な、何?この空気・・・えりか・・・また何かしたのアンタ・・?」





「なんてコト頼んでるのアンタってコは!初対面の人に!」

「ひえっ・・だっ・・だってぇぇ〜〜・・」

休憩室から1つドアを入ったレコード室。
ソファーに座って縮こまったえりかを、マミヤ、レイナ、そしてえりかの姉、来海ももかが厳しい顔で見下ろしていた。
えりかを大人びた感じで色気を持たせた顔立ちのこの美少女、名を来海ももかという。
えりかの姉であり、月影ゆりと同じく高校2年生。小学生のころに読者モデルとしてファッション誌にデビューして以来、ティーンズモデルのエースとして同年代はおろか若年層の少年少女からも憧れの的となっているカリスマモデルである。
プリキュアオールスターズの蒼野美希も、実にこの来海ももかの影響でファッション界に目覚め、以来モデルとアイドルの二足のわらじを履いているというわけだ。

普段は妹のえりかにとても優しく、割と甘えさせてあげる姉であるももかだが、悪いことをした時はそうではない。

「大体、いくらアイドルの仕事が忙しいからってお勉強を怠けちゃダメでしょ!しかも3週間も宿題溜めこんで・・・パパやママとも約束したんじゃないの?」

「うぅ〜〜・・だって、勉強キライなんだもん・・・」

「キライだけで世の中通用しないでしょ!キライでもがんばってやるからそこに結果がついてくるの!ステージだってそうでしょ?なんのためにレッスンするの?」

「そんなコト知らないし・・大体ベンキョー自体この世から消滅すればいいことじゃ・・」

「えりか!そう言う問題じゃないでしょ!」

「ひえぇっ」

全く反省の無い態度にマミヤもレイナも、そしてももかも頭を抱えた。
えりかの中にあるのは如何にして早くこの現状から脱出するか?最早それだけである。
多少勉強を怠けただけならば軽いお説教で済ませてあげようと思ったが、宿題を他人に任せてそれを自分の物にして責任逃れをしようとしたり、さらにはそれが発覚しても反省の気持ちの見えないこの悪いコをそのまま許してしまうコトはPCAの鉄の掟に反する。

心を鬼にして、マミヤは決意した。

「はぁ・・えりか、前も同じことで叱ったわね?」

「え?・・・う・・うん」

「それなら、もう言い訳は聞きません。ホラ、先生の膝の上に来なさい」

そこまで言われた瞬間、矢も楯もたまらずえりかは脱兎の如くその場から飛び出そうとした。しかしそんな彼女の行動を知りぬいている・・・

はしっ

「やあっ・・いやあぁ〜〜〜っももネエェっ!放してっ放してよおぉ〜〜っ」

姉のももかがその襟首を掴んで引き戻す。

「ダぁメ!さあ捕まえたわよ悪いコ!マミヤ先生、今日、えりかのお仕置き、わたしにも手伝わせてください。このコの様子を見て上げられなかったわたしにも責任あるし・・」

「あら?いいのももかちゃん」
「ええ、ぜひ、半分は私が受け持ちますから」

「ちょっ・・ちょっとぉ!先生ともも姉でなに勝手に決めてんのよぉっ!そんなのヤダってばあぁあっ」

「ヤダじゃありませんっ!今日は悪いコのえりかのお尻・・お姉ちゃんがたっぷりぺんぺんしてあげますからねっ!ホラッ!お尻出しなさいっ!」

「いやっ・・ヤダヤダヤダあぁあっ・・やめてぇぇっ」

悲痛な叫びを上げるえりか、その妹の哀願を無視して姉は妹を立たせたまま、割と慣れた手つきでスカートの中に手を滑り込ませると、そのまま彼女のパンツを引き下ろす。
膝のあたりまで下げられた下着が半ば拘束する形でえりかの動きを奪う。じたばたともがくえりかをこれまたマミヤ先生が慣れた手つきで膝の上に引き倒し、スカートを捲くりあげると、小柄でキュッとしまったえりかのちいさなお尻が顔を出した。

「まったく・・・アンタってコは、一体どれだけお尻叩かれればイイコになってくれるのかしら・・」

溜息を突きながらマミヤ先生がボソリと呟く。
実はPCA21の中でも、えりかはお仕置きでお尻ぺんぺんされる率がメンバー中もっとも頻度として高い。
怠け癖、サボり癖、行き当たりばったりの行動にイタズラっ子気質。およそ小柄で愛らしい外見とは程遠いメンバーの中でも群を抜いたお転婆娘なのだ。
現在はそのすぐ後を北条響が猛追しているが、やるコトはおよそ彼女よりタチが悪い。

「いくわよ・・・よぉっく反省しなさいっ!」

ひゅぅんっ、と風を切る音がした直後、

ぱちいーーーぃんっ!

と柔肌を打つ独特の音が響いた。それに呼応するのはえりかの

「いぃぃったああぁぁ〜〜〜〜いっっ」

という絶叫だった。

ぱんっ! ぱんっ! ぺちんっ! ぺんっ! ぺんっ! ぱちんっ! ぱぁんっ! パァンッ! 
ぺんっ! ペンッ! ぺーんっ! パンッ! ぴしぃーっ! ピシィッ! ぴしぃ〜んっ!

ぺしぃ〜んっ! ぱしぃーんっ! ペシンッ! パシンッ! ばちぃーんっ! べちぃ〜んっ!

「きゃあぁぁっ・・ひいいぃぃ〜〜っあきゃあっ、あぎゃっ・・いぎゃいぃっ・・いっ・たあぁいいぃ・・よぉぉ〜・・ひぃ〜〜んっっ・・せん・・せぇ・・あいぎゃあぁっ!!・・いたいってばあぁぁっ」

続けざまにお尻に降ってくる平手の雨。断続的に続くお尻の電撃が走ったような衝撃に焼けつくような特上の激痛。
えりかは身を飛びあがらせ、足をパンツを絡ませながらもバタバタと暴れさせ、髪を振り乱してマミヤに訴えた。

「痛くて当然です。どおしてアンタってコはいつもいつも、なんでなんで、やらなきゃいけない事を怠けるの?サボろうとするの?そんなことじゃいつまでたったって大人になれないのよ?」

マミヤは努めて静かに、落ち着いて説教した。もちろんその間平手打ちは厳しくお尻に落としている。
痛い痛いマミヤ先生の平手打ちをお尻にもらいながらのえりかはまるで耳に入っていないだろうがマミヤは続ける。

ぱんっ! ぺんっ! パアンッ! ペーンッ! ばしっばしっ! びしっびしっ! バシーンッ! ビシイィィッ! ぱちぃ〜んっ! ペチィ〜ンッ!

「ああっっ・・ひああぁっ・・あぎゃあぁっっ・・やあっあっ・・やあぁんっ・・やんやんやぁあぁんっ・・きゃうっきゃうぅぅっ・・きゃんきゃんっきゃああぁんっっ・・ふえぇぇっ・・い・・たぁぁ・・お・・し・・りぃ・・・いだぁぁ・・うえっ・・ぐずっぐしゅっ・・ひぐっ・・えぐっ・・」

「みんな宿題やお勉強が苦手な子もキライな子も、全部自分の力でやって、失敗しながら一歩一歩前に進んでいくのよ?それなのに・・・それなのに!悪いコ!悪いコ!めっ!めっ!めっ!」

ぱあぁんっっ! ペーーェンッ!! ぴしぃーっ!

「いきゃあぁぁんっ・・らっ・・てぇぇ・・ぐじゅっ・・ひっくひくっ・・ひぐっ・・ああぁぁぁっっ・・えっく・・うえぇっく・・えっえっえっ・・おべんきょっ・・キラ・・イ・・ひぃやぁぁんっっ・いだい、いだいぃぃ・・・」

「ホラ、コッチのお尻かな?えりかの悪いお尻はコッチ?」

ぴしゃんっ! ぴしゃんっ! バチンッ! バシッ!

「わあぁあんっ・・いだぁあいっ・・いだいよおぉぉ・・ひぎゃあぁぁんっ・・も・・お・・ちり・・ムリぃぃ〜・・ぴいぃぃぃっっ・・ふえっふえっ・・ぅえええぇぇえぇ〜〜〜んっっ・・ええぇぇえ〜〜〜〜んっっ・・いたああぁぁいっっ」

「今日は先生がアナタの心から怠け癖を追い出してあげますっ!」

びしぃーんっ! べしぃーんっ!

「びええぇぇ〜〜〜んっっ・・ひっく・・ぴええぇぇ〜〜〜んっっ・・」

髪を振り乱し、涙を撒き散らしすっかり大泣きのえりか。
泣き喚く声はサイレンのように響き、可哀想に彼女の小さくてミルクプリンのように真っ白だったお尻はマミヤの必殺の平手が紅の手形の刻印として幾重にも重なり合い、すっかり真っ赤になって腫れ上がっている。
お尻だけがぷくっと膨れているようでもある。

「痛い・・いたぁいぃ・・いたぁいよおぉ・・も、もおヤメテよおぉ・・ぐすっぐすっ・・ぐしゅっ・・ひくっ・・おっ・・オシリ、痛いよおぉ・・クスンッ、クスン・・」

「そうね、おわりにするわ。先生からはね」

「え?」

意味不明な宣言に、えりかは涙と鼻水と脂汗でくしゃくしゃになった顔いっぱいに「?」マークを浮かべた。

「次は、ホラ、お姉ちゃんに叩いてもらいなさい」

マミヤはそう言うとえりかを抱き上げてももかに渡す。するとももかもそのまま膝の上にえりかを横たえた。

「うっぅっうっ・・うえぇぇえぇ〜〜〜〜ん・・・ひくっ・・イヤああぁぁ〜〜〜・・・」

再び涙をポロポロと溢して必死に姉にすがる。

「もも・・ねえぇ・・ひぐっひぐっ・・ひっくぅ・・も・・もうさ・・オシリぃ・・ムリぃ・・痛いよ、いたいよぉ・・・ゆるしてぇぇ」

必死に泣いて許しを乞う妹に決心が揺るぎそうになるが、ももかはかぶりを振ってえりかに言った。

「えりか、今日のお尻の痛み、絶対に忘れちゃダメよ?これからは先生やパパやママとのお約束まもれるわね?そうできるように、もも姉も少し叩くからね」

「ぅわぁぁ〜〜んっ・・いやぁぁ〜〜んっ」

ももかは手を振り上げると、もう既に真っ赤に腫れ上がった妹のお尻に打ちつけた。

ぱあぁんっ! ぺんっ! ぺんっ! ぴしゃんっ! ぴしゃんっ! ピシャーンッ!

「ぎゃあぁぁぁんっ・・いだあぁぁぁっ・・いだいぃっ・・ああぁぁんっっ・・オシリぃぃ・・ぎゃあぁっ・・いちゃあぁ・・ももネエぇ・・もも・・・ねぇぇぇ・・・ゴメンな・・さぁ・・」

「はい、お終い。いいですか?マミヤ先生」

「そうね・・じゃあ最後、はあぁぁ〜〜〜・・・・」

マミヤはももかに言われてえりかのお尻を確認すると手に息を吐きかけた。

「麻美耶聖拳奥義!麻美耶・残悔鞭!」(まみや・ざんかいべん)


麻美耶・残悔鞭とは!?
藤田麻美耶が操る躾のために編み出した仕置き拳法の1つである。
腕の回転を上げて両の掌を悪い娘の左右の尻たぶにそれぞれ重く打ちつけるのである。
これを喰らうとお仕置きが終わっても4日はその痛みが取れず、悪いことをしてしまったことを痛みとともに心から悔いるという。正にお仕置き後も少女たちを苦しめる血も涙も無い恐ろしい必殺拳である。

ぴしゃぁーーんっ!! ぴっしゃあぁ〜〜んっ!!

「ぃいっ・・きゃああぁぁあぁ〜〜〜〜〜んっっ」



「うぅえぇぇ〜〜ん・・えぇっえっえっ・・びええぇぇ〜ん・・」

「よしよし、えりかぁ、よくガマンしたね。痛かったよね?もうお仕置き終わったわよ」

姉の胸にすがりついてお尻丸出しのまま甘え泣きするえりか。
お尻はもう真っ赤っかに腫れ上がって倍くらいに膨らんでいるように見える。とりわけ、最後にマミヤが必殺拳をお見舞いした個所は赤々とした手形が刻み込まれている。

「えりか、わかった?お約束やぶって悪いコトするとこんなに痛い思いするのよ?もうお尻ぺんぺんされたくないでしょ?今日からはイイコになろうね」

腫れたお尻を優しく優しく撫でてくれる姉の言葉に、えりかは涙で言葉につまりながら何度も何度もうなづいた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おう、戻ってきたか。マミヤさんたち、頼むケンとあの若社長なんとかしてくれ・・」

「?なぁに?まだもめてるの?」

「ああ」と言ったバットの指さす先にまだ泣きじゃくっているえりかを抱っこしたももかと、マミヤが見た光景。
やっと談話室に戻ってきてみたらそこには再び違う修羅場が起こっていた。

「ケンシロウ、先程のユリアの言葉、真実か否か、お前の拳で確かめるがよい」

「いいだろうシン!受けるがいい!」

「わあぁーーーっだからここでモメ事起こすなってオイ!」

「北斗飛衛拳!」(ほくとひえいけん)
「南斗獄屠拳!」(なんとごくとけん)

バットの必死の制止も功を奏さず、ついに両雄がぶつかり合おうとした、正にその時だった。

ユリアが、動いた。

「嗚呼、私を巡って、二人の漢が命をかけて争い合うなんて・・そんなコト・・私には耐えられない!」

突然部屋の外へとユリアが飛び出したのだ。急いで追うケンシロウとシン。

「待て!ユリア!」

「どこへ行く!?」

その後をプリキュアメンバーもマミヤ達もバットも急いで追った。
すると・・・


「今すぐ争いをやめてっ!でないとここから身を投げますっ!」

《あんな所にぃーーーーーっっ!!?》

一同驚愕。
なんと外に出てみればいつのまにかユリアがスタジオPCAの巨大看板のてっぺん、地上15メートル程の所に登って立っていたのだ。
いつ落下してもおかしくない。

「わかった!わかったから早まるんじゃないぞユリア!じっとしてろ!」

たまらずシンがユリアを制止する。そのシンにユリアはさらに言葉を投げかけた。

「ケンとのことも認めてくれますか?」

「お前のことを諦めるわけではないが・・・スキャンダルにならない程度にたまに会うくらいならいいだろう」

「お休みとお給料をもっと増やすことも約束してくれますか?」

「約束しよう!だからそこから早く降りてくるんだっ!」

(なんかドサクサにまぎれていろんな条件呑ませてきたぞ!!)

さりげないしたたかさに心の中で舌を巻くバット。

「・・・・・わかりました。」

ユリアは静かに答えると、目を閉じた。

「・・・・でもどうやって降りたらいいのか・・・」

《その前にどうやって登ったんだアンタっ!!》

それが一同の感想だった。

結局、はしご車が出動する事態となり、翌朝の新聞の一面を『ユリア、奇行!PCAスタジオの広告の上になぜ!?』と一面を飾ったのだった。


翌日の私立愛治学園・職員室

「ユリア、俺はお前のためならいつでも命を捨てられる」

「ワケわかんねえこと言ってねえでちゃんと仕事しろよ、お前バイト教師だろケン」

バットが大学の講義の資料を手に1人黄昏ているケンシロウに言う。それを傍らで見ていたマミヤとレイナが笑いかけた。

「そーいや、あのシンって男、お前に七つの傷をつけたとかなんとか言ってたが・・なんのことだ?」

「ああ、若き日の因縁だあれは・・・」





20年前、あべし第三小学校。

「はーい、次の注射はケンシロウくんね」

「うむ」

            ど ん っ !

             ちくりっ


「こらっ!シンくんっ!どうしてお友達を背中から蹴ったりするの!?」

「ケケケっケンシロウ、思い知ったかバーカ!」

「まちなさーいっ!」

「ケンシロウくん大丈夫?注射胸にしちゃったね・・・」

「・・・・ああ、大丈夫だ」





「って、それってBCGの痕っ!!!??」

「へんな形で痕が残ってな・・・・」

あんまりなエピソードにその場の全員がこけた。



慈 母 星 と

  強 敵(と も)と戯る

    胸 の 傷

北斗の神話に、また新たなる伝説が刻まれた。



                  つ づ く