「全日本新人ストーリーコレクション・・・へぇ~、こんなのがあるんスか」

「そう!毎年作家を目指す多くの若者が投稿した多くの作品の中から日本一を決める、現代文学の登竜門なんて言われてる小説コンクールよ」

 

メンバーの子ども達をすべて送り出し、スタジオPCA内の警備を警備員さんにお任せした万全の仕事上がり。

付近の行きつけの居酒屋、「神(GOD×LAND)國」でPCA21のスタッフの談笑が聞こえる。

難波伐斗は、帰宅する前の数時間、スタッフルームか、さもなくばこの店でマミヤやレイナといったPCA21のスタッフ件みんなの先生たちと酒を傾けるのがもはや日課となっていた。

持ち上がった話はアイドルとは縁遠い話に聞こえる、日本文学の小説コンクールの話だった。

新進気鋭の若手小説家を発掘するために設けられた今では権威ある大会となっているコンクールらしいが、果たしてソレがウチのコたちと何の関りがあるのだろうか?

バットの疑問を見透かしたかのように、レイナが口を開く。

 

 

「確かにこんなコンクール、ウチにとってみたら大して関係ないんじゃないか?って思っちゃうわよね。でもねぇ・・・ねえセンパイ?」

「ええ、どうしてもこのコンクルールに投稿してみたいってコが・・・その・・・1人いてね・・」

「え?この新人小説家目指すためのコンクールに?ウチのコ達の中にですか?ダレ?なんで?」

「えっと・・そのコがね・・・」

 

レイナが答えようと言葉を発しはじめたちょうどそのタイミングでだった。

 

 

「あ!やっぱりココだったわ!先生っ!」

 

 

居酒屋に不似合いともいえる年端もいかぬ可愛らしい女の子の声。

凛として美しい声が店内、とりわけバットたちのテーブル席に向かって投げかけられた。

バットが目をやると意気揚々とした表情で、濃緑のショートヘアを揺らしながら、可愛いカチューシャを頭につけた少女がバットたちの席めがけて駆け込んできた。

 

「できました!わたしの新作、今度こそ自信作です!」

 

「っ!?・・とっ・・ととっ・・こ、こまっちゃん?」

 

周囲の喧騒を切り裂いて場へ駈け込んで来たのはチームファイブGOGO!の秋元こまちだった。

彼女はバットを見ると、「あ、バットさん。お疲れ様です」と柔らかな笑顔で返して再びマミヤとレイナに向き直った。

 

「恋愛でも、SFでも、ファンタジーでもない!新感覚のSF恋愛ファンタジーの新作!『ギャラクシー・クエスト!銀河の中心で愛を叫ぶ』です!」

 

そう元気よく言いながらドサっ!と酒とつまみが並ぶテーブルに原稿用紙の束を置くこまち。

彼女の爛々と輝く目力に、マミヤとレイナはやや引きつった笑顔で

「そ・・そう・・・」「がんばったわね・・・おめでとう・・・」

と呟いた。

 

「こ、こまっちゃん。その・・・このテーブルに置いた原稿用紙の束って・・ひょっとして?」

「はい!わたしの作品ですバットさん。わたし・・・全日本新人ストーリーコレクションに応募するんです!」

 

ハキハキととめどなく口をつく彼女の言葉にバットは、ははぁ~・・と得心し、マミヤとレイナの顔色を窺った。

苦笑いを浮かべながらウインクしてうなづくレイナとマミヤ。

成程そうか。

先程の会話に上がっていたメンバーというのはこの秋元こまちのコトだ。

そう言えば彼女はアイドルで和菓子屋の娘でありながら、大の小説マニアだったコトを誰かから聞いたような気がする。

控え室での休憩中もよく小説を読んでいる姿を見る。

ただの読書好きな物静かな少女かと思っていたのだが、自分で執筆もするほど文学愛が強かったとは・・・。

バットは頭の中で自分で今の状況を整理すると、テーブルの上に置かれた原稿用紙に眼を伏せた。

 

「コレが?こまっちゃんが書いた小説かい?」

「ハイ、そうです。わたしの作品です」

「へぇ~・・興味あるなぁ~。どうかな?ちょっと見せてもらってもいい?」

「ハイ!もちろん!うれしい。是非感想聞かせて下さい・・・」

「あ、あの、バットくん?」

「ムリしなくていいのよ?中学生の文章だし・・いろいろつかれてるだろうし・・・」

「イイんスよ。オレ実はこういうの好きだし、あ!オネーチャン、ビール追加で」

 

と、レイナとマミヤのやんわりした制止をとどめて、バットはこまちの書いた小説をじっくりと読みだした。

辺りには呑み屋特有のオーダーの声、談笑、笑い声、店員の声、様々な喧騒に包まれていたが、マミヤたちのテーブルの周囲には何か得も言われぬ静かな雰囲気がたちこめていた。

追加で頼んだビールを静かに飲みながら、バットは一枚一枚丁寧に原稿用紙をめくっていく。

時間にして10分少々が経過した頃だったろうか?

原稿用紙をパサっとテーブルの上に置いて、短く息を吐くと、バットはやや緊張した面持ちのこまちを正面から見つめてゆっくり口を開いた。

 

「オレもさ、こういうのの専門家じゃねえし、ホントに一素人としての感想に過ぎないんだけどさ・・・」

こまちのゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた気がした。マミヤとレイナもいつの間にか緊張の表情でバットを見つめている。

「オモシロイよ。コレ!スゴクイイ作品だと思う」

 

「ほっ・・・ホントですか!?お世辞でも嬉しい・・・ありがとうございます!」

「イヤ、オレこういうののお世辞ってキライでさ・・・お世辞じゃなくて本心だって。イイよコレ!」

「ほ、ホントに?バットくん」

「こまちの小説・・・そんなにイイの?」

 

まるで自分のコトのように興奮気味に問いかけてくるマミヤとレイナ。そんな優しい教育係の先生2人にバットは笑って答える。

 

「いやぁ・・・今言った通り、あくまで素人目線、ちょっとした小説好きのオレの意見に過ぎませんし、序盤の方しか読んでませんけど・・・うん。主人公の女の子がはじめて夢中になれる宇宙の冒険に未熟ながらどんどんのめり込んでいく姿とか、周りの仲間たちや、兄貴分のリーダーとの関係とかなんか、随所にこれからの展開が楽しみになるようなポイントが散りばめられてて、読みすすめていけばいくほど、ワクワクするような、続きが気になるような、そんな作品でオレはとっても好きですよ」

 

バットの言葉に安堵の表情でホッと息を吐くマミヤとレイナ。

しかし、なにより嬉しそうに顔を輝かせて喜んだのは当のこまち本人だった。

物心つく頃から和菓子職人である父や歳の少し開いた姉に絵本を読んでもらった。幼稚舎に通う頃にはすでに対象年齢のずっと高い童話などに強い関心を払い、それが様々なジャンルの小説、文学になるまでさほどの時間もかからなかった。

そして必然のように彼女の夢は読む側から書く側へ。小説家としての夢を持つようになっていた。

それ以外はさほど普通と変わらない、暗いわけでもないが取り立てて活発なわけでもない通常の女の子として人生を歩んできたわけだが、ひょんなことから夢原のぞみたちと出会い、プリキュアとして覚醒し、PCA21のメンバーとして芸能界入りを果たし、アイドル生活を送るコトになった。

プリキュアのことは家族にはもちろん秘密だが、アイドル活動の方はむしろ家族は全員応援してくれており、こまち自身、ある程度の充実感をもってプリキュア活動を行っている。

ただし、忙しさも相まって小説活動にとれる時間や意欲も以前ほどには感じられて無くなってきたのも事実であり、彼女自身悶々としていたのだ。

そんな折に舞い込んできた小説コンクールの話。

社長の青野李白がPCAの宣伝になれば、と誰でもいいから賑やかしに参加してみないか?と企画を持ち込まれたコトによって、こまちの燻っていた心に火が付いた。

舞い込んできたまたとないチャンス。

会社が進めている企画の一環とあらば執筆活動にも十分な時間と大義名分をもって臨める。幸いにもチームのみんなもみな応援してくれた。

とくに自分のコトのように興奮して盛り上がっているのぞみや、空いた時間に自分の書いた短編小説などを読んで感想をくれているナッツなどの励ましはこまちにとって大きな力となった。

本気になると流石はもとから好きな分野だったためかペースは一気に上がり、プリキュア活動や学校の勉強などと並行して忙しい毎日の中でも執筆はどんどん進み、草案からわずか2カ月というペースで1つの作品を創り上げてしまった。

そしてバットから聞いた自分の作品に対する評価。

今のこまちには何よりの応援歌で、コンクールへの応募をする動機を決定づけるものとなった。

何故かマミヤ先生とレイナ先生が心配そうな表情で、それとなく応募を止められたコトが納得いかないところはあったが、社長も乗り気で、公平な立場で読んでくれたバットの評価も上々ならば反対はされないだろう。

プリキュアとアイドル活動とそして執筆活動。

新たな境地の開拓に目覚めたかの如く、こまちの眼は爛々と輝いていた。

 

 

 

 

 

「えーっ!ホントこまちさぁん!」

「スゴイじゃないですかぁ!バットさんがそんなに絶賛してくれるなんてっ!」

「やっぱりこまちさんがとっても面白いことの証拠ですよぉ!」

「こまちは昔から文学にすごく才能があったもの。むしろ当然の反応だと思うわ」

「ま、バットさんもホメてくれたんなら、そのまま挑んでみたらいいんじゃない?」

 

 

こまちのコンク―ルへの参加決意になにより歓びの声を上げたのは同じプリキュアのメンバー達、とくにチームを同じくするファイブGOGOの面々だった。

チーム5GOGO!のメンバーに関わらず、プリキュアたちの素晴らしいところはこの面だろう。

どのチームのコ達も本当に仲間意識が強い。

誰か1人のメンバーが成果を上げたらソレを他のメンバーの子ども達もまるで自分のコトのように喜ぶ、他の芸能界で見られるような嫉妬や、やっかみといった負の感情がまるでないかのように純粋なのだ。

もちろん意見や考えの食い違いによるいざこざやケンカは度々起こるがどれも根深いモノにはならない。

それはそもそもリーダーである美墨なぎさを中心にプリキュアチーム全体に浸透しているのだろう。

愛情に深く、友情に熱い。

そんな彼女たちだからこそ、昨今の芸能界に生きる他のアイドルグループとは一線を画す平和に満ちたオーラを醸し出し、隔絶された独特の人気を打ち立てているのかもしれない。

 

とにもかくにも、チームメイト11人の励ましはこまちをさらに元気づけた。

 

「みんなありがとう!PCA21のメンバーの1人として・・・絶対に入賞するわ!」

 

 

「・・・センパイ・・こまち・・・はりきってますねぇ~・・」

「そうね。でも発想を変えればいいコトなのかもしれないわよ?」

「ですね。コンクールに参加すること自体はあのコにとってもチームにとってもむしろプラスになるコトだと思いますし・・・ただ・・」

「ええ・・・暴走してなにか起こさなきゃイイケド・・・」

 

 

と、今週のPCA21の仕事の予定を確認しながら静かに発せられるレイナ先生とマミヤ先生の声など、誰一人プリキュアのメンバーは聞いていなかった。

 

 

 

 

 

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「ぐぅぅおぉぉぉ~~~~うぅぅぅ・・・・ひっく・・ひぐっ・・・なっ・・なんだっでんだぁ~、ごのやろ゛おぉ~・・・び・・びじゅづかんなんがに来やがるがら・・グスッ・・ばとるぅあっしゅ~・・・ネ゛イロのなばえをいっでみろぉぉ~~・・・」

 

 

「・・・ねえ?今日はジャギさんどうしたの?」

 

「ああアレ?昨日父さんが本屋さんでジャギさんにおねだりされてさぁ~・・買ってあげたんだけど・・・」

「で?その本読んで?」

「うん・・・あーゆーのジャギさん弱かったんだね。童話で泣くんだぁ~」

「ってか、ヘルメットの下、涙がダダ漏れでビッショビショだよ?」

 

 

ところはお馴染み、プリキュアに敵対する悪の秘密結社、ワルサーシヨッカーの社長室。今日も学校帰りに仕方なく寄ってみた藤原オリヴィエの視線の先には、正面のソファに座って本を一心に見ながら号泣しているジャギさんの姿があった。

つい、昨日の晩のことである。

ワルサーシヨッカー社長である、サラマンダー藤原は、自社がプロデュースしている雑誌の売れ行きをチェックに参加の書店に立ち寄ったのだが、そこで例によってヒマだったからなんとなくついてきたジャギさんにある童話をおねだりされて買ったのだった。

その買った童話というのがつい先程ジャギが熟読しながら号泣していた「腐乱蛇唖棲(ふらんだあす)のわんわん」という子ども向け童話だった。

貧しいながらも絵描きを夢見て祖父と愛犬のパトルゥアッシュと仲睦まじく暮らしていた心優しい少年、寝露(ねろ)だったが、祖父がある日突然病に倒れて亡くなると、あっという間に貧困に陥り、さらに根も葉もない疑いをかけられて村人から迫害を受け、村を追われ、寒空の下たどりついた美術館で見たかった絵画を前に、愛犬とともに息を引きとる。

というもうこれでもかっというぐらいの悲劇。

で終わるような作品ではなく、実は生前に迫害を受けた無念と恨みからゾンビとなって復活し、街の人間たちを喰らおうと暴れ回るという児童書らしからぬスリリングホラーである。

しかしこのジャギさん、ソコまで読む前にその死亡シーンのトコロまでで感極まってしまい、かかる通りのありさまである。

本当にワケの分からないヒトだなぁ・・・ともうオリヴィエは何度目かになるジャギさんへの溜息をつきながらふと手元のスマートフォンに着信があったことに気づいた。

 

「あ、つぼみだ」

 

相手はPCA21のメンバーの1人、チームハートキャッチの花咲つぼみだった。

送られてきたSHU-RAIN(シュ‐ライン)のメールに目を通す。

するとあいさつや近況報告と一緒に新しくPCA全体で協賛するイベントの内容が書かれてあった。

実はオリヴィエはつぼみや他にもPCA21のメンバーの女の子達と、「SHURAIN」という総合企画株式会社の「修羅の國」(しゅらのくに)が開発した連絡ツールアプリを通してフレンドになっている。

この事は流石に父や母に内緒だが、父や父の会社があまりにも暴挙に近い妨害工作を企てた時には密かにこうして連絡を入れているのだ。

もっとも最近はジャギさんの影響なのか?父もなんとなく緩い雰囲気に感化されてそこまで悪どい商売や犯罪めいた妨害工作には手を出してはいないが・・・

 

「へえ・・・こまちが。ふ~ん・・・」

 

そこには、チーム5GOGO!のメンバー、秋元こまちが、例の話題になっている新しい小説コンクール、全日本新人ストーリーコレクションにPCA21を代表して出場するとの内容の知らせだった。

こまちが趣味で小説を書いているのは、オリヴィエも聞いて知ってはいたが、それにしてもこのコンクールに出せるようなクオリティの作品を書き上げていたとは、あらためてPCA21のメンバー達のタレント層の厚さに感心した。

 

「やるじゃん(*^^)v応援してるよ(^O^)/・・・と。よし」

「あら?彼女?オリヴィエ」

「うわあっ!??」

 

と、つぼみにメールを返した途端に背後からかけられた声に驚いて、オリヴィエは1メートルほど飛び退いた。

そこにはニコニコと笑みを浮かべる社長専属秘書にして母のアナコンディが佇んでいた。

 

「び、びっくりさせないでよ。母さん・・・」

「アラ、ナニよ照れちゃって。オリヴィエだってお年頃ですもの。ガールフレンドの12人いたっておかしくないわ。オトナになってママ嬉しいvで?どんなコなの?」

「なにィ!?彼女だって?オリヴィエ!ホントなのかい?」

 

「だからそんなんじゃないって!もう、2人して・・・やるコトないの?」

 

そんな、息子の不確かな色恋沙汰に一昔前の中学生のような喰いつきをしてくる父母に、オリヴィエがちょっとムッとしながら反応を返すと、サラマンダー藤原は「いやいや、そんなコトもないよ」とスーツのジャケットを正して窓の外を眺めながらニヤリと笑う。

 

「ちゃんと仕事もしてるし、計画だって練ってるんだぞ。そろそろ彼が来てもイイ頃だなぁ~・・・」

 

そう言葉を発した直後、まさにタイミングを見計らったかの如く、ノックも無しに社長室の扉がガチャリと音を立てて開いた。

 

「ちぃ~っス・・・どもぉ~、社長~、なんか用っスかぁ~?」

 

「おぉ~~、来てくれたねガマオくん!」

 

と言ってサラマンダーが出迎えたのはニット帽をかぶった恰幅のいいフリーター風の男だった。

眼には力がなく、全体的にやる気のない感じの雰囲気を感じさせ、一応は社長であるハズのサラマンダーの前で堂々と欠伸をするその姿に、オリヴィエは流石に怪訝な表情を見せる。

なんなんだコイツは?

 

「紹介するよ、ウチで先月からバイトしてくれてる蒲生章央(がまおあきお)くん!コードネームはガマオくんね。今回、バイトのキミにもプリキュアのお嬢さんたちの相手をしてもらうコトにしたんだ。ヨロシクねぇ~」

 

「はぁ、まぁバイト代上乗せしてくれて臨時ボーナスも出るとか聞いたんで・・・まぁ、ガンバるっス」

 

「父さん・・・その人、社員じゃなくてバイトのヒトなの?」

「う~ん、社員で誘ったんだけどね。なんか、面接の時に・・・社員?だりぃっス。とか言われてさぁ、バイトなら~・・ってコトでOKしてくれたんだよねぇ~♪」

「はぁ・・・なんか社則とか雇用組合とか・・・自分そーゆーのなんってーかメンドイんで・・・」

 

よくそんな不真面目なヤツを雇ったもんだ。

この会社がブラックなのかホワイトなのか本当によくわからない。

まぁ悪の秘密結社を仮にも名乗っている組織がホワイト組織というのも、それはそれで大丈夫なんだろうか?という思いもあるにはあるが、深くは突っ込まない。

そんなコトより、隙を見て、またウチの会社がPCAの仕事の妨害をしに行ったとつぼみ達に連絡を入れてやろうとそんなコトだけオリヴィエは考えた。

 

「で、ガマオくん、早速で悪いが今回のキミの仕事だが・・・」

「あ~、なんかコワイナー部門の連中からなんとなくは聞いてるっスよぉ」

 

(つぼみ・・・プリキュアのみんな、ゴメン。なんか今日もメイワクかけちゃいそう・・・)

 

 

 

 

 

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「おまたせしました!それでは、これより最優秀賞の発表となります!」

 

日本帝国武道館(にっぽんていこくぶどうかん)に、割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こる。

司会進行の初老の男性は、オーディエンスの反応を一通り見渡してから、深呼吸を一つすると、満場の観客に向かって口を開いた。

 

 

「第一回、全日本新人ストーリーコレクション、最優秀大賞は・・・・エントリーナンバー、54、本堂秋穂(ほんどうあきほ)さん、18歳の・・・『グラスゴーの風とライオン』に決定いたしましたっ!」

 

司会の声とともに、スポットライトが、ストレートの黒髪ロング、眼鏡のいかにも文芸少女といった風体の少女を照らし出す。

途端に割れんばかりの拍手。

照らし出された少女は栄えある、全日本新人ストーリーコレクション、初代チャンピオンとしてはどこか恥ずかし気でおどおどとしていたが、周りの参加者の惜しみない歓声に送り出され、はにかみながらスポンサーの男性からトロフィーと賞金、メダルを受けとった。

 

 

 

 

 

「あ~あ、残念、こまちさん惜しかったね~」

「ホント・・・あんなにステキな作品なのに・・・」

「審査員さんたち・・・ちゃんと見てくれなかったんでしょうか?」

 

「何言ってるのよ。十分スゴイじゃない!」

「そ~よ。プリキュアのお仕事やりながらの参加だったんだし、入賞しただけでも十分よ。むしろあっさりこまちが大賞獲っちゃったんじゃ他の人たちの立場がないでしょ?ねぇ、こまち」

 

「立場がないだなんてそんな・・・でも、本当、その通り、今とっても嬉しい」

 

 

 

 

受賞セレモニーが終わった後、近くにあるビュッフェレストランで少女たちの無邪気な歓声が上がっていた。

バイキングレストラン・ファミリーファング。

大手複合商社、牙興業が経営する

PCA21のチーム5(ファイブ)GOGO!の面々は、照れ臭そうに顔を赤らめて笑う秋元こまちに、各々声をかけた。

結果としてみれば、こまちは参加して作品を出したものの、大賞を獲ることはできなかった。

のぞみたちはじめ、プリキュアメンバーの何人もがさも残念がったが、当然と言えば当然の結果である。

日本で今回初めて試みられた未来の文豪を発掘しようというコンテスト。当然並々ならぬ気迫で命がけで挑んでくる者だっている中で、如何に才能あれど、アイドル活動と二足の草鞋を履いているこまちがあっさりと優勝を掻っ攫ったのでは、先の美々野くるみの言葉にもあるように採点基準の是非が論じられる。

しかし最優秀賞を逃したとはいえ、結果はこまちにとって上々といえた。

 

秋元こまちはこのコンクールでなんと、審査員特別賞を受賞したのだった。

アイドル活動をしながらの執筆の成果としては間違いなく快挙といえる。

しかも審査員すべてに好評の作品であり、次の作品も期待していると1人からは直接コメントまで貰ったほどだ。

それほどまでに完成度が高い作品を作り出した秋元こまちというまだ年端もいかぬ女子中学生の才に、専門家たちをしてひたすら賞嘆した。

最優秀賞は逃したものの、立派に文芸の社会に名を響かせたといえた。

次は果たしてどんな作品を創り出してくれるのか?専門家をして秋元こまちという文芸世界のスーパーノヴァに大きな期待がかけられた。

 

 

 

 

 

「いやぁ~、スゴイじゃないっスかこまっちゃん!特別賞なんて滅多にとれるもんじゃないんでしょう?ウチのコたちにはホント、タレント持ちのコが多いなぁ」

 

「え、ええ・・・」

「そうね・・ホントに・・・アハハ・・・」

 

と、心底感嘆したようなバットの声に応える先生2人の声がやや引きつっていたことにこの時バットお兄さんは気づいていなかった。

一方で大人達の会話など当の子ども達にはまるで耳に入っていない。

もはやチームファイブGOGO!だけではなく、周りの他のチームメイトたちも一緒になってきゃいきゃいはしゃぎながら、こまちの快挙を祝ってやまなかった。

 

 

 

 

 

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「う~~~ん・・・・」

「・・・あ、あの、何、考えてるの?こまち」

 

レッスン終わりのPCA21の控え室。

メモ帳を睨みながら、深刻そうに唸っている親友の挙動に、水無月かれんは恐る恐る声をかけた。

今日はPCA21の来週にまで迫ったドームライブの大切な全体リハーサル。

何度目かの大舞台だが、やはりこのライブコンサート前の雰囲気は一種、独特の緊張感があり、普段お気楽なのぞみやえりか、響といったメンバー達も真剣にレッスンに取り組む。

そんな舞台に向けたレッスンが終わるやいなや、いや、そのレッスンが始まる前ギリギリの時間すら、秋元こまちは、今の姿のように自身のノートを睨み付けながら考え込んでいるのだ。

 

 

「ネタよ。ネタを探しているの。前回のコンクールからもう3週間も経つのに、ちっともアイデアが浮かばないのよ」

はじまった・・・。

そのある意味予想し得た返答に、かれんは小さく表情を強ばらせた。

普段のこまちは、PCA21の全メンバーの中でも極めで真面目かつ温厚で、冷戦沈着。

場合によっては自分よりも場の雰囲気や状況を考慮してして考え、行動できるとても頼りになる、かれんにとって自慢のチームメイトであり、幼い頃からの親友である。

そんな彼女を誰より信頼し頼っているのは、チームリーダーであるかれん自身である。

しかし、頼りになる親友の唯一にして最大の欠点。

ある意味無類の長所とも言えるのだが・・・

 

 

 

好きなことにはとことん、のめり込み易い。というところだろうか?

 

 

 

「あ・・・あのさあ、こまち。そのコトなんだケド・・・最近アナタいくらなんでも・・・」

 

「一流の先生達にも、期待してるって言ってもらえたんだし、何とか次回作も手ごたえあるのを創らないと・・・!・・そうだわ!」

 

「こ、こまち、アナタわたしの話聞いてる?」

「かれん!コレよ!コレだったんだわ!なんでもっと早くに気が付かなかったのかしら?今の暑い夏の時期にもぴったり!」

 

心配する親友の言葉などどこ吹く風。

こまちは急に立ち上がると目を爛々と輝かせてかれんの手を取ると、ブンブンと上下に揺さぶりながら勝手にまくし立てた。

 

「ありがとう、かれん!アナタのおかげでピーンとひらめいたわ!まるで濃い霧が晴れたみたい」

「・・・は、はぁ・・・そぉ・・・よかったわね・・・」

 

こまちの謎の圧力に完全に気圧されたかれんは小さくそう呟くので精一杯だった。

 

 

 

 

 

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「みんなでレッツ調査ミステリー!」

「ゴーストバスターでぇ~・・」

 

『GOGO!!』

 

 

タイトルコールと共に観客席から上がる拍手と歓声。

会場にはヒュ~ドロドロ~といったような不気味なイントロから賑やかしいバラエティ番組のBGMが流れ、出演者たちを映し出した。

「さあ!はじまりました!レッツ調査ミステリー・ゴーストバスターでGOGO!司会のび~ふしちゅ~の上田真也(うえだしんや)です!」

「アシスタントの小嶋瑠梨子(こじまるりこ)です!さぁ、この番組はですね、全国にあるミステリースポットや心霊スポットに霊能力者の先生と突撃取材を行いまして、様々な怪奇現象を調査する番組となっております。今日はどんなミステリーが飛び出すのか?」

 

司会の2人とともに出演者の芸能人が紹介され、早速トークが始まる。

と、その観客席にはお客ではない人間2人が心配そうな面持ちで座っていた。

 

 

「・・・・・」

「だ・・・大丈夫っスよ!なんだかんだでみんなしっかりしてるし!そんな毎回毎回トラブルなんか起きないっしょ!?ハハハ・・・」

 

「そう・・・だといいんだケド・・・」

(うぅぅ・・・ダメだ・・・マミヤさん盛り上がらねえ・・・まぁ、そりゃあそうだよなぁ・・・なにせ・・・)

 

藤田麻美耶、難波伐斗のPCA21のマネージャーとスタッフであった。

なぜ彼らがこんな面持ちでこの観客席に座っているのか?

話はつい3日前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

「先生!このお仕事、わたしにやらせてくださいっ!」

 

「!!?」

「!?・・・い、いきなりどうしたのこまち?」

 

レッスン終わりのスタジオPCAのリフレッシュルーム。

レッスンが終わった後、メンバー達がおしゃべりしたり、お菓子をつまんだり、ゲームをしたりと、仲間同士で帰る前の一時の憩いを楽しむ談話室。

レッスンの後片づけと、明日の段取り、学校の準備をしていたマミヤ、レイナ、バットの3人に近づくなり、チーム5GOGO!の秋本こまちがキラっキラに輝く目をしてそう言った。

その様子に、特にマミヤとレイナは冷や汗混じりの引きつった笑顔を浮かべて気圧されるように尋ねる。

先生達のそんな反応などまるで意識の範囲外という風に、笑顔で話を続けた。

「この『レッツ調査ミステリー・ゴーストバスターでGOGO!』の出演依頼来てるんですよね?このお仕事、是非、わたしにやらせてください!」

 

「・・・・え、えぇ~と・・・」

「こまち・・・ど、どうして急に、この仕事にそんなに興味湧いちゃったのかなぁ~?」

 

「見つかったんです!わたしの次の小説の題材が!ズバリ!今度の題材は・・・ホラーものです!ホラーものと言ってもただのホラーじゃないんです!世間の人たちを苦しめる、悪いお化けを調べて退治する、痛快アクションホラー!これこそ次のわたしの小説のテーマにしたいんです。そのためには、この番組に出て、自分で心霊現象を調査してみたいんです!」

 

『~~~~・・・・』

 

もう本当に期待に満ちた表情で2人を見つめるこまちに、マミヤとレイナは顔を見合わせて、気まずそうに短く溜息をついた。

 

長所は最大の短所。

 

プリキュアメンバーの中に比較的何人かいるこの特徴を、このこまちも体現しているといってもよかった。

 

真面目で頭も良く、控えめで、いつも他のメンバーをたて、年下のメンバーにとっても頼れるお姉さん的ポジションで、自分達マネージャー先生の助けにも良くなってくれるこまち。

色々な面に才を持ち、礼儀正しくて努力家。

そして好きなことにはとことん一生懸命になれるという、優等生を絵にかいたようなコだ。

だが、その好きなことにはとことん といった性格が時として暴走してしまうことがある。

熱中してしまうあまり、周りが見えなくなってしまうのだ。

そして周囲の子達を悪気無く自分の好きなコトに巻き込んでしまうきらいもある。コレは大きな弱点と言えよう。

概して、こまちがこれほど興奮して何かを自分からやりたいと我を通そうとしている時は、いつもの彼女のおっとりとした性格をよく知っているマミヤやレイナから見れば、その状況に陥っていることを如実に物語っていた。

 

「こ、こまち・・あのね」

「わたしもレイナ先生も、実は社長さんにこのお話は遠慮させてもらおうって言おうかと思ってて・・・」

 

「そんな!?どーしてですか!?そんなの先生たちらしくありませんっ!」

 

マミヤの返事を聞いて、バンと机を叩きながら講義するこまちの姿に驚く2人。

バットも目を見張った。あのおしとやかなこまちの姿からはおおよそ想像がしにくかったからだ。周りにいたPCA21のメンバー達もこまちの様子がおかしいことに気づいて、なんだなんだ?といった表情でコトの次第を見守っている。

こまちは小さく息を吸うと、マミヤやレイナを正面から見据えて凛とした声で言った。

 

「先生達はいつもわたしたちに言ってくれてるじゃありませんか。どんなお仕事でも、一生懸命がんばりなさい、それがお仕事をくれた人たちへの礼儀だって。どんなことにも失敗を恐れずチャレンジしなさい、それが大人になるための大切な経験だって」

 

「え!?そ・・・それは・・」

「そう・・なんだケド・・ねぇ?ソレはソレとして・・・」

 

「ウソだったんですか?わたしたちにいつも言っていたコトって?先生たちは・・自分の都合で言っているコトをコロコロ変えちゃうような・・そんな人じゃないですよね?」

 

「・・・っちゃぁ~・・」という感じでバットは引きつった苦笑いを浮かべながらマミヤとレイナを眺めてボリボリと髪を掻きむしった。

答えようもなくお互いの顔を見合わせるだけの2人の姿を見るに、こんな中学生の女の子に論破されてしまったコトがわかったからだ。

流石に賢く、頭の回転も速くて理屈に長けたこまちである。

確かに今こまちの言った無いよのことはPCA21のプリキュアメンバー達にマミヤとレイナがよく言って聞かせている話である。

年端もいかないまだまだ子どもの彼女達だが、色々な仕事や役割を責任を持って果たす心構えを培うことで自立心自尊心の助長になればと思ってのコトである。

確かに依頼されてくる仕事に差別はない。

よっぽど未成年である彼女達にとって相応しくない深夜帯の仕事や、危険なロケ、スタントを伴うような仕事ならば話は別であるが、仕事をえり好みするというのは、芸能界で仕事をするにおいてはおよそ褒められた態度ではない。

どんな仕事にでも真摯に取り組む姿勢を見せてこそ、大衆の支持と言うものが得られる。アイドル活動にとってはそれこそが大切なのだ。

そのコトを常日頃、マミヤたちマネージャー先生が生徒である子ども達に言い聞かせているのだ。そのコトを取り上げられてこまちに言われてしまっては如何にマミヤ先生レイナ先生といえども返答に参ってしまうのだった。

もちろんこの番組の依頼も社長である青野李白から知らされてはいたが、こまちの興奮が暴走に代わっては・・・という危機感から触れないようにしていたのだ。

それがこのありさまである。

 

「マミヤ先生、レイナ先生、いいですよね?このお仕事。わたしにやらせてもらっても・・・大丈夫です!絶対に共演者の方やスタッフの皆さんに迷惑はかけませんから」

 

「・・・センパイ・・」

「そうね。確かにそうかも?いいわ。こまち。それじゃ、急だけどこのオファー受けるように社長に返事してみようと思う」

 

「ホントですか?わぁ、やったぁ!」

 

「そのかわり約束よ?こまち。アナタ、普段はとっても冷静で物静かで、面倒見も良くてわたしもマミヤ先生も頼りにしてるケド、目当てのもの見つけて一度興奮すると周りが見えなくなっちゃうコトもあるから」

 

「心配しないでください。ちゃんと気をつけますから。ありがとうございます。レイナ先生!」

 

と、普段見せないような満面の、年相応の子どもの笑顔で嬉しそうに言われてはもうマミヤもレイナも何も言えなかった。

わずか3日を残す急な話だったが、社長のリハクは快く了承してくれた。

いつもながら、器の大きい人格に感謝できる。

スタジオには自分とバット、そして現場にはレイナが付き添うことになっているから、もしもの事態の時にも対応はできる。

そんなこんなで今、なんとかこの番組に参戦できているというワケだ。

とは言え、不安が消えたわけではない。むしろこんな状況で心配のタネは尽きないワケでスタジオのマミヤがこんな面持ちになるのは無理もなかった。

(こまち・・・お願いよ?興奮しないでちょうだいね・・・それに今日は・・・)

「・・・まぁ、信じて待ちましょうよ。こまっちゃんもしっかりしてるし、ね?りんちゃんとか、ラブちゃんとか・・ゆりちゃんもいますし!ね?」

「だから逆に心配なのよね・・・」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ・・・こまちさん。なんであたしまでココにいるんですか?」

「え?なにが?」

「なにが?・・・って、コレですよ。コレ。こ・の・ジョーキョぉーーーーっっ!!!」

 

 

ひんやりとした、残暑に涼をとるには持って来いと思えるような古びた夜のトンネルの中、PCA21のチーム5GOGO!のメンバーの1人、夏木りんの声がハウリングを伴って反響した。

そんな彼女にいつもと変わらぬ柔らかな笑顔で対応するこまちと、同情を禁じ得ない眼差しで見つめるこの場の他プリキュアメンバーのなんと対照的なるや。

雪城ほのか、調辺アコ、黒川エレン、桃園ラブ、山吹祈里、月影ゆり、南野奏、そして明堂院いつきの8人は、メンバーの中でも取り分け心霊系が苦手な夏木りんの魂の叫びを聞いて

「可哀想・・・」とこの事態に半ば強制的に巻き込まれた彼女の境遇を憐れんでいた。

 

「まったく、こまちったら結構自分勝手なんだから、自分の小説のネタが欲しいからって、りんまで巻き込んじゃあんまりにも可哀想じゃん」

「おや?アコもいつの間にかちゃんと人の気持ちが考えられるような女子に成長してるドド。えらいドド」

「ドドリー、一言多い」

「でも確かにそうよね。りん。アナタ大丈夫なの?」

 

「ダイジョウブジャナイデスヨ・・・うぅ~~、こまちさん」

「はい?何かしら?」

 

と、月影ゆりの思いやりの言葉に、半ばやけっぱちな半ロボット語で対応する夏木りんの恨みの目線の先には、今回の一連騒動の首謀者である彼女。

秋元こまちの無垢な笑顔があった。

かぶりを振って講義を続ける。

 

「あたしがキライなモノって知ってますよねぇ?」

「もちろんよ。大切なチームメイトですもの。オバケでしょ?」

「今日のこの番組のライブ企画知ってますよねぇ?」

「ええ、もちろん!レッツ調査ミステリー・ゴーストバスターでGOGO! の現場よ」

「わかってるならなんであたしがいるんですかああぁ~~~~~っっ!??」

 

再びトンネル内に響くりんの悲痛な叫び。

撮影の準備に追われていたスタッフも度々上がる小競り合いの声に、なんだなんだ?という感じで注意を引き始める。

他のプリキュアメンバーや妖精たちも注目する中で、1人、落ち着き払った様子の秋元こまちはこともなげにこう言った。

 

「りんさん。コレはアナタにとってもチャンスなのよ?」

「!・・はぁ?」

「りんさんはオバケが苦手。だったら、今日のこの番組で、心霊企画の実戦を通してオバケ嫌いを克服するチャンスじゃない?もし今日でオバケ嫌いを克服できれば、りんさんにとっても新しい成長の一歩になるんじゃないかしら?」

「・・・ムリして克服しなくてもイイです」

 

「そんな、ダメよ!りんちゃん!そんな風に投げ出しちゃ!」

「へ?い・・祈里ちゃん?」

「こまちさんの言うことにも確かに一理あるわ。この企画でりんちゃんがオバケさんに慣れれば、その怖がりな性格も治るとおもうの。そうすれば、ますますりんちゃんのイイところが輝くって、わたし信じてる!」

「いいからっ!信じなくっていいからそんなコトっ!」

「そうね。確かに苦手を克服できれば、弱点が1つ減るわけだもの。やってみたらいいんじゃないかしら?」

「ちょっとゆりさんまでヤメテくださいっ!いいの!オバケなんか克服できなくていいのあたしはっ!」

「でもやってみたら案外簡単だったりして。ボクもそんな経験あるからさ」

「むしろ、気がついたら逆にりんちゃんってばオバケが大好きになってました♪なんて?」

「ってか、りんが怖がってるリアクションが見ててオモシロいのよねぇ~♪」

「りんちゃん!このお仕事みんなでガンバろ♪楽しくできれば、しあわせゲットだよっ♪」

 

 

「ぎゃ~~~~っもぉヤぁダあぁ~~っっみんなイジワルぅ~~っ」

 

 

と、その場にいるメンバーから適当に自分の主張を流されて半ば半狂乱の夏木りんの声が一際高く響く。

現場は都内から車で1時間ほど走ったそう遠くない山中にある今は使われていない廃トンネル。

そのトンネルの出口に広がる森では、かつて失恋したショックから、近くの木で首吊り自殺を遂げてしまった女性の霊が夜な夜な出るという。

秋元こまちをはじめとするプリキュアメンバーが訪れているのは、そんな噂の心霊スポットである。

もっとも、こまちがやりたがった仕事であるので、彼女がココに居るのは当然なのだが、番組の方で、非業の死を遂げた女性を弔おうと、自殺を遂げた木の傍らに建てられた小さい社に、2人ペアでお参りしてくるという企画が立てられ、そのために10人のメンバーが選抜されることとなった。

そんな中に心霊、お化けなどの類が大の苦手である自分がどうして入っているのか?

当のりんは頭がおかしくなりそうだった。半泣きで狂乱するのも致し方なしである。

 

「大丈夫よ?りんさん。どうしてもイヤだったら、わたしからもスタッフの皆さんにお願いしてあげるから」

「ほ、ほのかセンパイぃ~~・・・」

たった1人、涙目のりんちゃんを優しく気遣ってくれるのはゆりと同じく全体のサブリーダーを務める、チームマックスハートの雪城ほのか先輩だった。

こんな時に自分が頼れる年上の先輩の存在は本当にありがたい。安心してほのかに抱き付いたりんちゃん。そんな彼女に別の声がふとかけられた。

 

 

「そうだぞ幼い方のりんよ」

「うむ。日頃から世話になっている身。我々もなにか力になろう」

「わははははははっ!亡霊が怖いだと?笑止!なんたる軟弱さよ。亡霊とはつまり死者!特に自決など弱き者であるということの証拠なり。そのような者が怖いなど、よかろう小娘!うぬが恐怖の対象、今日この場にてこの拳王が打ち砕いてくれる!そして代わりにうぬのもてる力を我が覇道のために捧げるがよい!」

 

 

「・・・えっと・・ケンシロウ先生たちもきてたんですか?」

「み、みたいね・・・」

「だ、大丈夫よ?りん、ケンたちのコトはコッチでなんとかするから」

 

「さあ、幼い方のりんよ。何かできることはあるか?」

「遠慮しなくていいんだぞ?キミにはいつもお弁当を分けてもらったり、おかずを差し入れてもらったり世話になっているからいざとなればこの身を呈してでもキミを・・・うっ・・ゴホッ!ゴッホゴホぐはっ!うげっほっ!」

「早く言わぬか!うぬはこのラオウを待たせる気か!?」

 

「は・・・はぁ、その時になったら・・お願いしますから・・アハハ・・」

 

 

 

 

 

 

「えぇっ!?ケンたちも現場について行ってるんですか!?」

「そうなのよ。子ども達が心配だからって、オレ達も行くって聞かなかったからついて行ってもらったんだけど・・・」

 

と、ちょうど始まった出演者たちの心霊体験のトークで盛り上がるスタジオ内。

客席にいたバットは、そんな話題よりももっぱらこれから現場ライブに突入するPCA21の子ども達のことが気にかかっていたので色々と状況を聞いたところ、衝撃の事実を突きつけられた。

なんと現場にはケンシロウ、トキ、ラオウのいつもの北斗三馬鹿トリオ。もとい、北斗三兄弟が保護者であるレイナと同様付き添っているというではないか。そう言えば今朝方、PCAのスタジオに入った時から彼らの姿を見かけないとは思っていたのだが、まさか今現場にお邪魔しているとは思わなかった。

 

「何事もなければいいんだケド・・・」

「ったく・・何事もなければって・・オレからしてみりゃ嬢ちゃんたちよりアイツらの方がよっぽど心配っスよ。」

頭を抱えるバット。場の空気も状況も読まず、所かまわず北斗神拳とやらで暴れるお騒がせ集団。さらにはなぜかPCAの子ども達には(一部を除いてだが)気に入られているため、一緒になってはしゃいだ時の相乗効果は恐ろしいものがある。

彼等の影響で悪ノリが加速し、結局プリキュアのお嬢ちゃまたちがマミヤ先生たちのお膝の上で散々に泣いて喚いて暴れてきた姿がバットの脳裏にもイヤというほどこびりついている。

何事もなければいいのはヤツラの方である。

 

 

 

 

 

スタジオの2人にそんな心配をされている当の現場では、着々と番組進行にともなって、ライブ撮影の準備が仕上がって来ていた。

 

(この企画で、わたしの新しい小説の方向性が決まる・・・ああ!こんなに楽しみなお仕事久しぶりだわ!)

 

傍で恐怖にガタガタ震えながら百面相しているりんには申し訳なかったが、自分がアイドルとしてのプリキュアの仕事をこんなに高揚した気分で迎えられるのはどれくらいぶりだろう?

自分のやりたかった小説のネタ、決定的なキーポイントが今日ココで手に入る。

そんな考えがさも確証としてあるかのようにこまちのワクワクはとまらなかった。

そしてついにその時が訪れた。

 

 

 

 

「さあ!それではココで、本日も中継が繋がっております。現場を呼び出してみましょう!現場の蟻田さ~ん」

 

 

 

「ハイ!コチラ現場の蟻田徹平です!その噂の社へ通じるトンネルへと来ています。今日はねぇ~調査隊としてゲストが来てますよぉ!今をときめく大人気アイドルグループのPCA21のみなさんで~す!」

 

 

と、撮影用のカメラが一斉に回され、プリキュア戦士の娘たちの姿が全国ネットに映される。『よろしくおねがいしま~す!』ととりあえずはみんなで元気にあいさつをするメンバー達。

 

 

「始まっちまいましたね・・・頼むぜケン、厄介ゴト起こしてくれるなよ?」

「こまち、お願いだから落ち着いて行動よ?」

 

 

スタジオではプリキュアメンバー達の紹介に大盛り上がりの客席。バットとマミヤだけが、親身内の心境で映像を食入るように見つめている。

 

 

「そして今回もお招きしております!有名霊能者のアリソン・デュボアン先生です!先生今日もよろしくお願いします」

「ど~も、世の中の不思議な霊の世界、その案内人のアリソン・デュボアンです」

「さあ、それではですね!プリキュアの皆さんにはこれから2人ずつペアになってもらって、このトンネルを抜けて右側にある社でお参りをしてきて欲しいんですよ。その現場に果たして何か映るのか?聞こえるのか?検証したいと思います!それではいってみましょ~!」

「お社には白い縄が巻かれていますが、決してその縄には触れないように。霊を怒らせてしまいますからね?」

 

 

現役霊能力者も加わり、いよいよ企画のスタートである。

ペアの組み分けは、1組目がエレン、いつきのペア。2組目がゆり、祈里のペア。3組目がラブ、奏のペア。4組目がほのか、アコのペア。そして最後の5組目がこまちとりんのペアだった。

企画自体は全く難しいわけでもなく、滞りなく進んでいった。

ただ自撮り用のカメラを持ちながら、暗がりのトンネルの中を、ライトをつけて進んでいき、本当にトンネル出口のすぐ傍に小さな階段とともに設置されていた社でお参りをしてくるだけ。

道中でも問題の社でも、周りが暗くてなんとなく不気味。という雰囲気以外は本当に取り立てて何の心霊現象も起きなかった。

異様な音も声もしなければ、何か怪しいものがカメラに映りこんだこともない。

場のスタッフも皆、また噂ばかりの期待外れの事案か。と慣れっこになった軽い失望を抱いていたその時に、最後のこまちとりんのペアの番となったのだ。

 

 

「こっ・・こ・・こまちさぁ~~ん・・ねぇ~、も、戻ろうよぉ~~・・・ねぇ、もぉいいじゃんっみんな何もなかったんだしさぁ~・・・このまま何にもなかったことにして帰ろォよぉ~~っ」

 

涙をポロポロ溢してもうほとんど号泣しているりんを隣に、秋元こまちは暗がりのトンネルをズンズンと奥に進んでいく。

彼女の耳にはもはや可哀想なりんちゃんの悲痛の声は届いていない。頭にあるのは、新しい発見と、閃き。その答えがこの先にあると信じて疑っていないのだった。

トンネルはそう長くない。程なくして出口にたどり着く。

社はすぐ見える所にあった。注意していなければ見逃してしまうほどの、本当に小さな社だった。

ほんの数段の階段の先に神棚。傍らにそれほど大きくないが確かにしめ縄を撒いてある木がある。

 

「これね。問題の社と木というのは・・・」

「うぅぅ・・・とうとう来ちゃった。もう、早くお参り済ませて帰りましょうよォ。ねぇ?こまちさん・・・おうちに、おうちに帰りたいよぉ、お父さん、お母さん・・・」

 

オバケ嫌いのりんの頭の中にあるのは、はやくお参りを済ませて帰る。ただそれだけなのだろう。なんだかんだでここまで来たのだ。お参りを済ませれば仕事も済む。

これで家に帰れる。

しかし、そんなりんの目の前で、こまちが信じられない行動に出たのだ。

 

 

 

ジョキ。

 

 

 

一瞬何の音かわからなかった。

時折聞こえるフクロウや虫の鳴き声以外一切の音が聞こえない静寂の闇の中に響き渡った、何かをハサミか何かで切る音。

 

 

「!!!!っっ~~~~~っっちょっ・・ちょっっちょっとこまちさんっ!!??な、な、なにしてるんですかああぁ~~~~っっっ!!?」

 

闇夜に響き渡ったりんの絶叫。

それもそのハズ。何と目の前でこまちがあろうことか霊能力者の先生が触れてもならないと言っていた木に巻き付けられていたしめ縄をいつから握っていたのか?

ハサミで切り始めていたからだ。

「なにって?縄を切るのよ?決まってるじゃない」

「決まってるじゃない・・じゃないでしょぉ!?なんてことしてんですか!?あのアリソンって先生に触ってもダメだって言われてたのに・・・なんで切っちゃうんですか!?」

「だってこのままだと何も起こりそうにないじゃない?だったらせめてこの縄を切ってみて何か起こるかぐらい試してみないと、調査なんていえないでしょう?」

「だからってソレはもうぜっったいにヤバイですって!ナニ考えてんですかぁ!?もしそんなコトしてホントにオバケが出てきたら・・・」

「だからこそよ!りんさん、コレよ。コレなのよ。今までのわたしたちに足りなかったのは。時には危険を冒してでも大胆な行動をとってみる!その時にはじめて新しい閃きやヒントが生まれると思うの」

 

ダメだ。

もうこうなったらとてもじゃないが今のこまちにはついていけない。

りんがお手上げというようにその場にヘナヘナとヘタリ込んだ時だった。

 

 

「ったく、なぁんだよ結局何も起きやしねえじゃねえか。チッ、ちょっとでも期待して損しちまったぜ」

 

 

闇夜の2人にそんな声が投げ掛けられた。

「!?・・だ、誰!?」

「きゃああぁあぁ~~~~~っっ!!!ヤダあぁ~~~っっ!出たあぁ~~~っ!だれかーーったすけてええぇ~~~っっ!」

 

慌てて辺りを見回すこまちに、もうパニックになって頭を抱えて蹲ってひたすら絶叫するりん。

しかし、声の主は幽霊ではなかった。

微かな月明りに照らされたその声の主は、ニット帽をかぶった血色の悪い大柄の男だった。

彼は身構えるこまちとへたり込んでいるりん。2人の少女に社の陰からヌぅっと現れると、面倒臭そうに首を回してゴキリと鳴らし、欠伸をしてから言った。

 

「お前らだろ?俺らの仕事の邪魔してるプリキュアってガキどもはよ。」

 

「仕事の邪魔・・・ってコトは・・・アナタ、もしかしてワルサーシヨッカー社の?」

「なっ・・ななななっ・・なによっっ!?おおお脅かさないでよぉっ!」

「はぁ?オメーらが勝手に驚いてんだろうが。ったく意味わかんねえことほざきやがって。とにかくボーナスかかってるんでな、ちぃっと痛い目にあってもらうぜお嬢ちゃんたち」

 

そう言うと、男はポケットから仮面のようなモノを取り出して、問題の社に投げつけた。

見る見るうちにドス黒い瘴気のようなモノが上がり、あっという間に例のバケモノが姿を現す。そして自信も顔にペイントを施したカエルのような容貌の男へと姿を変身させたのだった。

 

「オレは、ワルサーシヨッカーでバイトしてるガマオってモンだ。嬢ちゃん達、悪いが今後一切の芸能界の仕事から手ぇ引いてもらうぜ」

「コワイナぁーーっ!」

 

「こまちさん!」

「ええ!」

 

 

 

「どうしたの!?りん!」

「今の声・・・っ、ってきゃあっ!?」

「オバケっ!?・・じゃない、アレってワルサーシヨッカーの!?」

 

「れ、レイナ先生、エレン、ラブちゃん!?」

 

と、ソコでりんの絶叫がトンネル内から聞こえて、ただ事ではないと急行してきた他のプリキュアメンバーやレイナ先生が現れたのだった。見れば現場リポーターの蟻田さんや霊能力者のアリソン先生、撮影陣カメラまで全員スタンバイである。

 

 

「レイナ先生!みんな!」

 

「どうやら、話は後みたいね・・・みんな、変身よ!」

『ハイ!!』

 

 

 

『レッツプレイ!プリキュア・モジュレーション!』

『チェインジプリキュア・ビートアップ!』

『プリキュア・オープン・マイハート!』

『プリキュア・メタモルフォーゼ!』

 

それぞれの掛け声とともに少女たちの身体が眩い光に包まれ、さながら闇夜の山中にそこだけが昼間のように明るくなる。光の中から変身してコスチュームに身を包んだ彼女たちが現れたのだった。

 

 

「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」

「爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!」

 

「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」

「イエローハートはいのりのしるし、とれたてフレッシュ!キュアパイン!」

 

「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!」

「月光に冴える一輪の花、キュアムーンライト!」

 

「情熱の紅い炎、キュアルージュ!」

「安らぎの緑の大地、キュアミント!」

 

 

『プリキュアオールスターズ!参上!』

 

 

「あ~・・・聞いてた通りだ。長ぇなコレ待つの・・・」

 

「おおっとぉ!?なんかココで大変なコトに!スタジオのみなさ~~ん!なんとココでPCA21恒例のゲリラショーが展開されています!いやぁ~、売り込んでますねぇ~♪」

{蟻田、コラ!売り込むとか言うんじゃない(笑)}

 

と、心霊現場で出てきたバケモノ、コワイナーに撮影陣やスタジオのお客さんは最初本当に化け物が出たのか?と興味津々だったが、プリキュアのみんなが変身したことによって、ああ、いつものPCAのゲリラショーだ。と穏やかな目線で見てくれるようになった。

カエル男とコワイナーがプリキュアメンバーに飛び掛かる。

最初の一撃は仮面バケモノのコワイナーの打ち下ろしの張り手。ソコにカエル男が良く伸びる自身の舌を叩きつけた。

プリキュア全員がコレを回避して散開する。ただ1人、今日は現場になぎさがいなかった為に変身できなかった雪城ほのかが、レイナとともに「あぶないから少しさがってください」と撮影クルーの方へと駆け寄って距離を測る。

今度はいち早く上空へと跳躍した、ピーチとパインが合体蹴りをバケモノの後頭部へと叩き込んだ。

「「プリキュアダブルキーック!」」

「コワイナぁ~~っ」

 

「プリキュア・ゴールドフォルテバースト!」

「プリキュア・シルバーフォルテウェイブ!」

体勢の崩れた所に今度はサンシャインとムーンライトが同時に攻撃魔法を仕掛ける。

金色と銀色、二色に輝く光の奔流が左右からバケモノに襲い掛かり、バケモノがもんどりうって倒れた。

 

「今よ、ビート!」

「オッケー、ミューズ!」

 

 

「プリキュア・ハートフルビートロック!」

「プリキュア・スパークリングシャワー!」

 

とどめとばかりに今度はチームスイートの2人が必殺魔法をバケモノの仮面めがけて放ったと思った次の瞬間・・・

 

「調子に乗んじゃねえっ!」

 

「きゃあっ!?」

「きゃああぁっ!?」

 

突然真正面に降り立ってきたカエル男、ガマオくんが魔法発射の直前にタックルで3人を吹き飛ばした。

そのチャンスに体勢を立て直したコワイナーがチームスイートの2人を両手で掴んで拘束する。

 

「ビート!ミューズ!」

 

「ちょっ・・ヤダっ!ドコさわってんのよエッチ!」

「ちょっとビート!ヘタに暴れないで!」

 

「ははは、いいザマじゃねえか。どうだい?コイツらを放して欲しけりゃ大人しく降参して、ウチの会社の傘下に入ってもらおうかな?そうすりゃオレの仕事は完了なんだよ」

 

せせら笑うガマオくん。憎々し気に彼を睨み付けるプリキュアのメンバー達だが、今バケモノに2人のメンバーが人質に取られている形であるならばうかつな行動はできない。

コッチの事情を知らないでか、横では現場リポーターのび~ふしちゅ~の蟻田が

「お~っとコレはマズイのかな?プリキュアちゃんたちがピンチですよぉ~。で、この後はテキトーなところで助けが入ったり、かな?」

{蟻田!テキトーとか言うじゃないってのw}

なんてスタジオの相方上田とこんなやり取りをしている。ぶっちゃけコッチからしたらこの戦いも、会社同士の対立も、魔法もバケモノも妖精も変身もぶっちゃけガチなのだが、ショーと認識されていて、コチラとしてもそれを都合よく隠れ蓑として使えている以上ヘタな助けは頼めない。

せめて自分が変身できていれば。と、苦い顔でバケモノを睨み付けるほのかと奏の肩に、レイナが優しく手を置く。

「レイナ先生?」

「大丈夫よほのか、奏。ホラ、助っ人が来たみたい」

「え?」

 

 

「オイ、そのコたちを放せバケモノ」

「あぁん?なんだテメエら?」

 

と、レイナに言われてほのかと奏が視線を移すと、ガマオくんが見下ろす下に、いつの間に現れたのか?

ケンシロウ、トキ、ラオウの北斗三兄弟が3人揃って立っていた。

 

「けっ・・ケンシロウ先生!?」

「トキさんやキンニクオジサンまでいつの間に?」

 

 

「カンケーねえ部外者は引っ込んでやがれ。こちとら仕事の最中なんだよ」

 

「関係はある。そのコたちは、オレ達の大切なバイト先の子ども達だ」

「そうだ。それに度々我ら兄弟に食料を恵んでくれる我らには無くてはならない大切な女神たちと言っても過言ではない。そのおかげでこの病に犯された身体がどれほど助かっているか・・ゴホッゴホゴホっ」

「ぐぁははははっ!そやつらは我が拳王の覇道の礎となるべき娘ら。うぬごときがおいそれと勝手に触れていい存在ではないわ。身の程をわきまえぬその愚行。死をもって償えい!」

 

「ケッ、余計なコトに首突っ込んでこなきゃ見逃してやったものを・・・コイツらもやっちまえコワイナー!」

「コワイナぁ~っ!」

 

ミューズとビートを拘束したまま巨大な右手を振り上げてコワイナーがケンシロウ達に襲い掛かった時、「アブナイっ!!」と叫んで大半のプリキュアメンバー達が顔を手で覆った。そう。それはケンシロウ達の身が案じられたからではなかった。

 

 

 

「あたたたたたたぁ!北斗百裂拳!」

「イヤー!天翔百裂拳!」

「北斗剛掌波!」

 

 

 

闇夜の静寂を一際切り裂くドガアァーーーッ!という轟音。

続いて上がる「うわあぁぁ~~~っっ!?」というガマオくんの悲鳴。コワイナーとともに北斗三兄弟の拳と闘気を喰らい天高く舞い上がった。

 

「なんなんだコイツら!?コワイナーが吹っ飛んだだと?あり得ねえっ!どんなバケモンだよ!?」

「コワイィナぁ~~~っ」

 

と同時に手から放り出されたビートとミューズをトキとケンシロウが丁寧にキャッチする。

 

「今よ、りんさん!」

「ハイ!」

「プリキュア・エメラルドソーサー!」

「プリキュア・ファイヤーストライク!」

 

人質が抜けた隙を見計らい、2人で攻撃の機を伺っていたミントとルージュが、それぞれに放った攻撃魔法。

緑光の円盤と閃熱の紅球が唸りを上げてコワイナーの仮面にヒット。仮面を弾き飛ばし、そのままバケモノは光に包まれて消滅。あとには元の社が残された。

 

「ぐっ・・・ちっくしょぉお~~~っっヘンな邪魔さえ入らなけりゃ、ボーナスはオレのモンだったのによぉ~・・・覚えてやがれ!」

 

コワイナーを失ったガマオはそう吐き捨てると、漆黒の闇の中へと消えていってしまった。

 

 

 

 

 

「オ~~~イ!大丈夫かぁー?」

 

「!?・・アレは!」

「あー、バットさん、それにマミヤ先生!」

 

 

事態が収束して、蟻田や中継で繋がってるスタジオの出演陣から「いやいや、良かったよ」「中々の迫力だったねぇ~、途中出てきたコッチのアブナそうなお兄さんたちも助っ人の役者さんだったんだねぇ」とショーとしての出来を褒めてもらっているその間に、現場に駆けつけてきたのはスタジオの客席にいるハズだったバットとマミヤだった。

 

「バットくん?それにセンパイ!?どうして?」

 

「客席で観てたら中継がこまちのシーンになって、やっぱり心配で社長に連絡したらヘリを出してくれてね。バットくんと駆け付けたのよ」

「案の定大変だったみたいスね。ケンたちは何も問題起こしませんでしたか?」

「大丈夫です。むしろケンシロウ先生たちのおかげで今回は助かりました」

 

「えぇ?ほのちゃんマジか?そんなまさかぁ~」と起こった事の次第をカメラ脇で聞いているバットたちに、不安な面持ちで「あのぉ~・・」といいよる人物がいた。

 

「おっと、どうした?いつきちゃん」

「いつき。どうしたの?今まだ本番中でしょ?ちゃんとみんなとカメラの前にいないと・・」

「わかってます!わかってるんですケド・・その・・・ぽぷりがさっきからみょうに怖がっていて・・・」

言いながらいつきは撮影クルーに見られないようにぬいぐるみに扮していた、いつきのパートナー妖精、ぽぷりを差し出した。確かになにやら恐ろし気にガタガタ震えている。

「?ぽぷりちゃん、どうしたの?」

「ぽぷり感じるでしゅ。コワイナーの気配はなくなったケド、とってもコワい感じがまだのこってるでしゅぅ~・・」

 

と、震えながら妖精ぽぷりちゃんの発したまさかの事実にその場にいた一同が「え?」という顔になった。

 

「オイオイ。なんだソレ?ソレってまだシヨッカーの連中が近くにいるってコトか?」

「さっきもう退散したと思ったケド・・・まだどこかで様子を見てるとか?」

「でもぽぷりちゃん、コワイナーの気配は消えたって・・・ってコトはどういう?」

 

 

と、保護者3人がう~~ん、となった時に背後から「そっ・・それはぁ!?」と甲高い悲鳴が上がった。声の主は霊能力者のアリソン・デュボアン先生だった。

 

「ど、どうしました?アリソン先生?」

「あ・・・アナタ、ソレは何?」

 

アリソン先生が震えながら指さした先には、こまちの姿。そして彼女が手に持つハサミがあった。

 

「あ、コレですか?ハサミですけど?」

「見ればわかるわよ!?アナタ、それでどうしたの?ま、まさかとは思うけど・・・しめ縄を・・・?」

「ハイ。切ろうとしましたv」

 

事もなげに答えるこまちを見て、場にいたプリキュアメンバー、そして撮影クルー、さらには中継で繋がっていたスタジオ会場まで一瞬の沈黙が流れ、そして『ええぇぇぇ~~~~~~っっ!!??』という驚愕のシンフォニーが響き渡った。

霊能力者のアリソン先生、聞いて卒倒寸前になるところをなんとか蟻田が支える。

 

 

「ななななっ・・なっ・・なんてコトを・・・絶対に触れないようにってアレほど言ったでしょおぉっ!?」

「だって、そうしなきゃ本物の調査にならないじゃないですか。もしその幽霊が本当にいるなら、実際見てみたいし、番組的にも盛り上がるじゃないですか」

「あ・・アナタ、まさかもう・・・?」

「ええ、半分くらいしめ縄切りましたかね?あとちょっとですケド・・・」

 

ぎゃーーーーっっ!と先生の絶叫。

再び卒倒必死になりながらも蟻田に支えられ、どうにかこらえる。

 

「ちょ・・ちょっと・・・こまちアナタ・・・」

「・・・だからゼッタイにヤバイって言ったじゃないですか・・・」

 

ことの次第を知って顔面蒼白で呟くレイナとりん、それに被せるようにアリソン先生が言う。

 

「あ、アナタ・・・自分が何をしたかわかっているの?見てみなさい!!この周りを取り巻く濃い妖気を!!ただ事じゃないわよ!?こういう危険が起こらないように私がこの企画について忠告したりしてるのに・・・こんなに怨念が渦巻いて・・・は、早く新しいしめ縄を用意しなさいっでないと・・・」

 

 

 

 

 

《・・・くぃ・・・ゃしぃ・・・》

 

 

 

 

 

ふと、そんな掠れかかった声とも物音とも判別不能な音。

それが誰の耳にも届いた。

 

 

「お・・オイ、今の?」

「ああ、聞こえたか?」

 

撮影クルーもカメラを回しながらもなんだ?なんだ?と辺りを確認する。直後、今度はさらにはっきりとソレが聞こえた。

 

 

 

         《・・に・・くい・・くや・・しいぃ・・・》

 

 

 

「オイオイオイ・・・ヤベエんじゃねえか?」

「声・・声だよ!誰だ?どっから聞こえてんだよ?」

 

 

 

 

         《・・・憎い・・・悔しい・・!・・・ゆるせないっ!!》

 

 

 

 

「おっオイ!あの木の方から聞こえて・・・ッッ」

 

 

撮影スタッフの1人がそう叫んでみんなが社の隣、しめ縄をつけられた木に注目した瞬間に、パンッッ!と破裂音がして、縄が吹き飛んだ。

同時にどこからか強風が吹いてきて、風に乗って、女の泣き喚く声、それも老婆とも幼子とも区別のつかない鳴き声が辺りに響き渡った。

 

「かっ・・怪奇現象!?コレは・・・これは怪奇現象ですよ!怪奇現象が起こりましたぁーーっ!」

「い、いけないっ・・・コレはもう・・・逃げるしか・・・大急ぎでココを離れなさいっ!」

 

 

「きゃあぁぁ~~~っっ!ホントに何か聞こえてるぅ~~っ!」

「ヤダっ!ホントにコワイよこれぇ!おかあさぁ~んっ」

「ふえっ・・ママぁ~~、パパぁ~、おじいちゃぁ~ん・・アコ、おうちにかえりたいぃ~~・・」

 

「ほらあぁ~~っ!ほらぁぁ~~~っっ!こまちさんのばかぁぁ~~っだから言ったじゃないですかぁ~~っヤバイってぇ!どーするんですかぁ~?きゃぁ~~ヤダぁ~こないでぇっ!あたしカンケー無いからぁ!」

「いいえ!コレよ!コレなのよわたしが求めていたものは!」

「って・・はぁ!?」

「ホンモノの幽霊・・・こんなに迫力が違うのね・・・」

「ちょっ・・ちょっとこまちさん!ドコにっ」

 

自分だけではなく、周りのプリキュアメンバー達まで恐怖で混乱する中、りんは泣きながらこまちに訴えかけたが、そのこまちはなんとさらに目を輝かせてあろうことかその問題の木の方へと近づいて行ってしまった。

 

「バットくん!とにかく子ども達をっ!」

「りょーかい。しっかし、ホントに起こるもんだねぇこんなコトが・・・ってオイ!こまっちゃん!?」

 

バットが気付いた時、すでに秋元こまちはその木の傍に立っていた。

一体この上何を?そう思った次の瞬間さらに信じられない事態が一同を襲う。

 

「幽霊さん、はじめまして、秋元こまちといいます。今日はアナタにお会いしたいと思ってきました。是非、お顔をみせてください」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

「・・・え?」

 

《・・・・オ・・マエ・・ナノ?》

 

「え?・・え・・?」

 

《アノヒトヲタブラカス・・メギツネ・・ハ・・!》

 

 

 

 

             《オオォマアァエエエェカアァーーーーーーっっ!!》

 

 

 

 

木の中から、突然浮き出てきた枯れ枝のようなドス黒い腕。

それがこまちの肩をがっちりと掴んだ。細い、本当に細い腕だというのに、まるで万力で締め付けられているかのように離さない。伝わるのは氷そのもののような冷気。

次いで、気の中から女性のモノと思わしき声が聞こえたかと思ったら、今度は血を吐くような絶叫が響く。

腕だけでなく木の中からまるで水面から浮かび上がるかのように現れたのは、黒い肌にそれよりも黒い漆黒の長い髪。対照的に血のように真っ赤な目は瞳が無く、痩せ細って全身が干乾びたような体、薄汚れた死に装束を纏ったその姿は正に幽鬼そのものだった。

同じく血のように赤い口をひらいてゲタゲタと笑う。

 

 

「ひっ・・・ひいぃっ・・・」

 

流石のこまちも、事ここにおよんで、はじめて恐怖に顔を歪め、涙を流して自らの浅はかな愚行を悔いた。

 

《カカカカカカッッ・・・エ・・モノ!・・ヒサビサ・・ノッ・・オマエノワカサヲ・・クラッテヤル・・・!》

 

「きゃあああぁ~~~っっこまちさぁ~~んっ!!」

「ダメえぇ~~っっ!!」

「こまちイィ―――ッッ!」

「テメエバケモン!!ウチのコに何しようってんだぁ!?」

 

 

堪らずレイナとバットがこまちを助けようと駆け寄ろうとした、その前に、幽鬼の前に立ちはだかる影が・・・

 

「待て、それ以上の蛮行は俺が許さん」

「・・・はっ・・け・・ケンシロウ・・先生・・」

「悪鬼よ。あの世へ帰れ」

 

「そうだ。オマエ来るとこ間違ってるぞ?ユーレイなんだろ?オマエ。大体若さって食えるのか?いいからとっとと帰ってくださいよ腹減ったし・・ゴホッゴホッ・・」

「ぬはははははっ!そんな姿に成り果ててまでこの世にしがみつくとは呆れた弱者よ。いいだろう、せめてこのラオウが引導を渡してくれる。天に滅せい!」

 

 

 

《・・・カカカ!ジャマ・・スルナラ・・オマエラカラトリコロシテヤル!!!》

幽鬼がそう叫んで、両手を振り上げた瞬間だった。

 

 

 

「あたたたぁ―――ッッ!悪霊退散パーンチ!」

「ちょえちょえ―――ッッ!妖怪撃退チョーっプ!」

「ぬぅあだだーッ!おばけなんてないさアッパー!」

 

 

 

『北斗・豪棲斗罵栖汰唖拳』(ほくと・ゴースト―バスターけん)!!!

 

 

 

《グゲエエェ~~~~ッッバ、バカナアァ!ワタシヲフツーニナグルナンテ!イミワカナンナイ!ナンナノコイツラ!?》

 

 

なんと北斗三兄弟、幽鬼を素手で殴り飛ばし、空高く吹き飛ばした。

幽霊であるはずのソイツが錐揉みしながら落下し、そして

べしゃッ!

と地べたに叩きつけられた。

 

「北斗神拳の前に敵は無い!」

「ホラ、帰れって。塩もあるから、あ、これさロケ車の中にあったアジシオなんだけどカンベンしてね」

《ア!ヤメテチョット!・・シオハ!シオハダメ!!キエチャウ!キエチャウカラッッ》

「ぬははは!ヤメテ欲しければ二度と我が前に姿を見せるな!今この世から消えればうぬが命、特別にこの拳王が見逃してやろう・・アレ?でももう死んでんだっけ?」

《ワカリマシタ!キエマス!モウ、ジョーブツシマスカラ!タスケテーー!》

 

その場にいたみんなにそんなやり取りが聞こえただろうか?

ただただ呆然である。

なんと、コイツら。幽霊を力まかせで除霊しようとしている。

なんと非常識なことか。

しかし、そんなやりとりに彼女が割って入った。

 

「あ、あの・・・もう大丈夫ですから。その、そんな乱暴しないでください」

《エ?》

「む?」

「なんと、いいのか?」

 

先程までこの幽鬼に襲われていたハズの秋元こまちだった。

彼女は小さく頷くと、続けて言う。

 

「は・・ハイ。その人も、もう人を襲ったりはしないと思いますし・・・ね?」

《ウ・・ウウ・・ヤ、ヤサシイノネ、アナタ・・・ゴメン、サッキハヒドイコトシテ・・》

「大丈夫ですよ。あの・・お姉さんも辛かったんですよね?」

《高校ノコロカラズットツキアッテイタカレシヲヨコドリサレテ・・・アナタジャナイッテワカッテイタノニ・・デモ、モウ、ダイジョウブ・・コンドコソジョウブツスルワ・・》

「ちゃんと、ココの社やしめ縄も基に戻しますから、安心してください」

 

そうこまちが答えた瞬間だった。

ふわりと周りを取り巻くドス黒く思い空気がやわらかなものへと変わり、悲痛な鳴き声も聞こえなくなった。風もおさまり辺りには静寂が戻って、雲で完全に隠れていた月もいつの間にか顔を出していた。月明かりが辺りを照らし出す。

 

「・・・禍々しい気が・・消えた」

「すげえ・・・除霊しちゃったの?PCAのあのコが?」

「それよりもっと価値があるわ。霊が納得して成仏していったの・・あんななんの専門知識もない年端もいかない女の子が・・・」

「スタジオのみなさ~~ん!コレはどエライことになりましたよぉー!ゲストのPCA21の秋元こまちちゃんが、霊を成仏させてしまいましたぁ~!この番組始まって以来の大!大大事件~~~っ!」

途端に中継先からの音声で現地で歓声や拍手が上がっているのがわかる。

周りにいたプリキュアメンバーも「やったぁぁ!こまちさん!」「こまちさんスゴ~~い!」と大盛り上がりである。

 

「しかしスゴイなあのコ、大手柄だよ」

「そりゃウチのコですから、流石っスよ!こまっちゃんがまさかあそこまでやっちまうとは・・・ねぇマミヤさん、レイナさん・・・アレ?」

 

と、周りのスタッフにも賞賛の声をかけられて鼻高々なバット、マミヤとレイナも喜んでいるかと思いきや、その眼に暗い光がともっていることに気づいた。

レイナが静かにこまちの方へと近づく。

 

「ま・・マミヤさん?」

「悪いけど、今日はわたしもレイナと同じ気持ちよ?バットくん」

 

 

「こまち」

「あ、レイナ先生、わたし、できちゃいました!スゴイです!幽霊さんでも話し合ったりわかりあえたりとかできるんですね。本当にスゴイ体験できちゃいました!新しい閃きがどんどん湧いてきます!このお仕事させてくれてホントにありが・・」

 

             パ ン っ !

 

響いた破裂音。

『!!!!』

場の全員が固まった。

ほんのりと紅く染まるこまちのほっぺた。レイナが放った平手打ちは周囲の時間を一瞬で奪った。

 

 

「・・・・?せ・・先生?」

「どれだけみんなに心配かけたのアナタはあっ!」

「え・・え?」

 

「あ・・・ああ。えっと、そ、それではスタジオにお返ししますねぇ~。見事!調査成功!今回もゴーストバスターでGOGO!大成功でしたぁ~!・・・オイ!カメラ切れ!」

 

その指示に蟻田の気遣いを見て取ったマミヤが深く礼を返す。

 

「先生・・あの・・わたし・・」

「勝手に行動して、アリソン先生の忠告も無視して、周りの人を巻き込んで・・・先生たちの言いつけを全部無視してどういうつもりなの!?」

「で・・でも、調査だし・・その・・」

「もうちょっとで大変なコトになるところだったじゃない・・アンタってコは・・!?」

「あっ・・ちょっ・・や・・まって、きゃあっ!!?」

 

普段のレイナなら人の見ている前では、とそんな配慮を示したかもしれない。

だが、今回のこまちのは悪質が過ぎた。

完全に自分勝手な暴走の結果である。重々言い聞かせて注意していたのにこの惨状。

もうテレビには映っていないのだから、せめてもと、大勢テレビ関係者が当の霊能者の先生がいる前でお仕置きすることに決めた。

 

「ちょっ・・ヤダっ・・イヤですぅ!せんせぇ、こんなトコでっ・・イヤっイヤぁ~っ」

 

 

エメラルドグリーンのワンピース、今日のこまちのファッションだった。

最近女子ティーンの間で少し話題になっているゆったり目の服なのだが、こんな場合は都合がいい。膝を立ててこまちを腹ばいに横たえるとしっかりと左手で拘束する。

同じ勢いでスカートを捲り上げると、あらわれた可愛らしい無地のパンティをお尻がしっかり出るように膝上まで下ろす。

他のメンバーから見れば少々お姉さんなこまちだが、マミヤやレイナから見ればまだまだ小さな子どもに変わりはない。夜の生暖かい風が丸出しになったお尻を撫でるように吹いて、こまちは顔が真っ赤になった。

 

「ちょっ・・せんせっ・・やめてくださっ・・イヤあぁっ!」

「じっと・・・してなさいっ!」

 

制止の声など通じるわけもなく、露わになったこまちちゃんの可愛らしい色白のお尻に、レイナ先生の強烈な平手打ちが炸裂した。

 

 

パッシィィーーーーンっっ!

 

 

甲高く乾いた音。

音と同時に電撃のようにこまちの全身を襲う衝撃。

食いしばった歯の間から空気が漏れる。息が止まる。

何とか絶叫はこらえたか。しかし続いて襲い来る灼熱の激痛。じりじりとお尻を焼き焦がす久々の痛みは、ツ~~ンと涙腺を刺激し、涙のダムを決壊させた。

 

「あっ・・あっ・・・あ・・ぁぁ・・」

 

泣けない、声は上げれない。

こんなみんなの前でお尻丸出しにされて中学3年生の女子である自分がお尻ペンペンされているなんてそれだけでも死ぬほど恥ずかしいのに、メンバーのお姉さん的立場としていつもお仕置きされたコを慰めてあげたりしてる自分なのに、こんなところで泣き喚いてはその最後のプライドすらなくなってしまうそんな風に感じた。

しかし、そんなプライドが守れるほど、今日のレイナ先生は甘くなかった。

 

ぴしぃーーーーーっ!

 

音こそ軽いが、その平手打ちがどれほど痛いのかこの場のメンバーは誰もが知り尽くしている。

この2発目でこまちの最後のプライドを消し飛ばすには十分な一撃だった。

 

 

「っっきゃあぁあ~~~~~~っっっ!」

 

 

今日1番の絶叫が現場の闇夜を切り裂く。

撮影クルーのお兄さんお姉さんたちもその光景に思わず目を背けそうになる。何人かのプリキュアメンバー達は顔を歪めて自分のお尻に手をやるコもいた。

彼女達自身も悪いコトをした時、何度も何度もこんな目にあってきてるのだ。他人の顔などできようはずがない。

ひくっひくっ・・と泣きながら、こまちが消え入りそうな声でつぶやく・・

 

「いっ・・いたっ・・いたっ、いたぁぁ・・・せんせっ・・待って。待ってぇ~・・まってくださぃ~・・いたぃ・・ですぅ~・・」

「当り前です!このお仕事やらせてくれって言うから、ちゃんと冷静になって興奮しないように、周りの状況をちゃんと考えるようにあんなに言い聞かせたのに・・どぉして言うことがきけないの!?」

「そ・・ひくっ・・ぐずっ・・それは・・そのぉ~・・・」

「言い訳は聞きません!今日という今日はホントに先生怒ってるからね、悪いコ!」

 

ばちぃんっ!

「いぎぃっっ!」

 

「霊能力者の先生の忠告すら守らないで、挙句の果てにしめ縄を勝手に切っちゃうなんて、そんな悪いコはどこのコなの!」

 

ぱぁーーーんっ!!

「きゃううぅっっ!」

 

「あんな危ないコトをして、周りの人たちにたくさんたくさん迷惑かけて・・・今日はちょっとやそっとじゃお膝からおろしませんからね。覚悟なさいっ!」

 

パアンッ! ぱんっ! ぺんっ! ペーンっ! バチンッ! べちぃんっ!

 

「あきゃっ!・・ひいいぃっ!・・きゃんっ!・・いたあぁっ・・やんっ!やぁあんっ!」

 

「ホラ、こまちの悪いコのお尻はコレ?それともコッチかしら?どっちなの!?」

 

ばしっ! びしっ! べしっ! べしぃんっ! ぴしゃっ! ピシャンっ! ビシィーッ!

「きゃああぁっ・・ああっ!ああぁんっ!いやあっ!ゴメっ・・ひいぃっ!・・ごめんなさっ!ああんっ・・ゴメンなさぁいっ!だってぇぇ~~っっ!」

「だって何なの!?言い訳は聞かないって言ったでしょ!ちゃんと反省しなさいっ!口だけのゴメンナサイはいりませんっ!」

 

パァンっ! パァンっ! パチィンッ! ぴちぃんっ! びっちぃんッ! ビシィ―っ!

「きゃっ・・やっ・・あっあっ・・ああぁんっ・・ひぎゃあっ!ぅっきゃあぁっ!いっ・・いっだっ・・ぃ・・いぎぃっ!・・いたあぁぁーーーいっっ!も・・や・・おしっ・・りぃ・・」

 

ぴしいぃ! ばっしぃーんッ! パッシイィ~~んッ!

「きゃああっっ・・ぉっ・・オシリこわれちゃうよぉっっ!ああぁ~んレイナせんせえぇ~っ・・ごめっ・・ごめんなさぁぁいっ・・だって・・あのぉ・・だってぇ~~・・・」

 

23発目を超えた所で、少し一呼吸おいてやることにしたレイナ。

まだ30回には到達していないが、それでもこまちの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、体中も脂汗でぐっしょりだし、お尻はもう幾重にもレイナの厳しい平手が刻印されて、真っ赤に腫れてひりひりとこまちの全身に激しい痛みを主張していた。

少しお尻を優しく撫でてやる。びくっと全身を一瞬痙攣させたこまちだが、先生が今はむやみに叩いてこないコトがわかると、えぐえぐと泣きじゃくりはじめた。

その様が可愛らしくて、ついつい笑ってしまいそうになるのを必死に噛み殺すと、努めて厳しい口調でレイナ先生はこう言った。

 

「だって?なに?言いたいことがあるなら言ってみなさい・・・」

「ひくっ・・ひぐっ・・えっく・・うぇっぐ・・ふぇぇ・・ゴメン・・なさぁいぃ・・あの、ガマン・・できなくて・・トンネル抜けるまでは・・うっ・・そのつもりだったんです・・けど・・ひぐっ・・ココにきたら・・なんか・・どぉしてもオバケにあってみたくなっちゃってぇ・・」

「悪いコトだってわかってたんでしょ?」

「はいぃ・・」

「わかってやったんだ?」

「うぅぅ・・・ゴメンナサイ・・」

 

 

ばっちいぃぃんっ!

「きゃああぁぁんっ・・ゴメンなさぁぁ~いっ!もぉヤダぁ~~っ!」

「その気持ちをちゃんとコントロールしなきゃダメ!じゃなきゃいつまでたったって子どものままなのよ?メンバーの中では年上のお姉さんなんだから、もっと自覚をもちなさい!」

「はぁぁいぃ~・・ごめんなさぁぁ・・」

 

ぴしぃ~~っっ!

「ぎゃあぁぁぁっっ・・・いたぁぁい、いだいよぉ~いだぃ~・・しぇんしぇぇ~・・レイナ・・せんぜ・・」

「りんなんかは特にオバケが苦手なコでしょ!?そんなコを巻き込んだら可哀想でしょ!ちゃんと考えなさい」

「考えます!考えますぅっ!」

「番組の関係者や、蟻田さん、アリソン先生、スタッフの皆さんにもあやまりなさいっ!」

 

ぺんっ! ぺんっ! ペーーンッ!

「あぁぁ~~んっ・・ゴメンなさいっ!ゴメンナサイっ!わたしが悪いコでしたぁっ!ごめんなさあぁいっ!」

 

もう今のこまちの中にお姉さんの威厳などとうに消え失せていた。

そこにあった光景は、よく知らない撮影スタッフの人間には、マネージャーとアイドルではなく、何か悪いコトをして叱られている、ママと幼い女の子のように映ったことだろう。

もっとも、レイナ先生やマミヤ先生のお尻ぺんぺんの威力をよぉく知ってるプリキュアのコはこまちの惨状を見て、怖気をふるい、涙目になる子までいた。

それほど、今日のこまちが受けたお仕置きは厳しいモノだった。

オバケが出てきて超コワイ思いをしたりんも、今は目の前で繰り広げられる怒ったレイナ先生のお尻ペンペンの方が、さっきの幽鬼よりよっぽど恐ろしく映った。

 

ぱしんっ! ぺしんっ! バシィッ! びしぃっ! べちぃんっ! びたぁんっ!

「きゃんっ!ぎゃんっ!きゃあっっ!いっだあぁっ・・いだぁあっ・・・やぁあんっ」

ピシィーッ! ばしぃ~っ! ぴしゃっ! ピシャッ! ぺちいぃんっ!

「ぅわあぁ~~ん・・・あぁぁ~~ん・・やあぁぁ~~ん・・ぅぅええぇ~~ん・・」

 

「・・・こまち、反省できたの?もう今日みたいなことはしないってお約束できる?」

そう声をかけられてもはや泣き喚くしか出来なくなったこまちは必死にうなづく。

「本当ね?今度こそ約束よ?」

「えっく・・・ぅえぇっく・・はいぃぃ~・・・ごめっ・・なさぁい・・」

 

「じゃあ、最後の仕上げにイタイのいくわよ?」

「っっ・・・や・・やさしく・・してね・・?」

 

「嵩山・煉獄掌!」(すうざんれんごくしょう)

 

 

 

説明しよう!

嵩山煉獄掌とは?

PCA21の子ども達のお仕置きのために松風玲奈が創り上げた、仕置き拳法の奥義である。

掌に熱波の気を集中させ、その気を纏って平手打ちを十数発叩き込むという残忍獰猛な奥義である。

この掌打をお尻に受けた悪い娘ちゃんたちは、その熱波を灼熱の激痛として受け取り、お仕置きが終わった後も、1週間は腫れが退かずにジリジリやきこがされるかのような痛みを味わうのだから想像するだに怖ろしい。

 

 

ぱぁんっ! パアンッ! ペンっ! びしぃっ! ぴしゃっ! ぴしゃっ! ぴっっしゃぁーーーんっ!

「ぃやあああぁあぁぁーーーーーーーっっっ」

 

 

 

 

 

「スミマセン!ウチのコが・・・本当にご迷惑をおかけしました」

「いやいや、ウチは大丈夫だって。結果的には大成功で大盛り上がりだったみたいだしさw」

「そうだよマミヤちゃん。むしろ俺ら的には美味しい画もとれたし万々歳よw」

「は・・・はぁ・・・」

 

撮影機器の後片付けも終了し、ロケバスに乗って会場のスタジオまで帰って来たところで、司会のび~ふしちゅ~の2人、上田と蟻田にマミヤは事の次第を説明しては丁寧に頭を下げていた。隣にはバットもいる。

結果的に見れば番組の放送は大成功で、こまちが幽鬼を説得して成仏させたシーンなどはやらせじゃないのかと問い合わせがあるくらいにドラマティックで、瞬間視聴率は驚異の49%を叩き出し、番組史上に残る大成功といえた。

び~ふしちゅ~の芸人2人はホクホク顏である。

ところが、例の霊能力者のアリソン先生は

 

「・・・いえ、残念ながら何もかもが大成功だったとは言えないわね」

 

とこともなげに言い放った。

 

「え?そうなんスか!?」

「ええ、番組にしてみれば確かに成功なのかもしれませんが。わたしのところには同業者からいくつか苦情がきてるのも事実よ」

「そ・・そうですか・・・申し訳ありませんでした」

「ちょっ・・ちょっと先生!」

「今そんな風に言わなくたって・・・」

 

び~ふしちゅ~の2人が必死に取り繕おうと試みたが、当のアリソン先生は厳しい眼差しでマミヤを見据えた。

 

「今回はたまたま無事だったけど、霊がいる現場で軽はずみな行動をとって取り返しのつかない事態に陥ることだってあるの。命の危険だって時にはあるんですよ?さらに好奇心とはいえ、しめ縄を切ろうなんて死人を侮辱する行為にもなる。それはちゃんと考えて、しばらくはこういった仕事からは手を引くのが賢明でしょうね。ま、今回の件でそれなりに霊能力者関係からは苦情が入っているから再オファーも厳しいかもだけど」

 

思った通りの厳しい意見に、マミヤもバットも肩を落とす。

しかし、そのアリソン先生、笑ってこう続けた。

 

「でも、きっと大丈夫よ。あのコならこの間違いをちゃんと教訓にして2度と同じ過ちは犯さないでしょうね。なんたって、アナタたちみたいな立派な指導者がいるんですもの」

 

「アリソン先生・・・」

「あ、そうそう、マミヤちゃん。あのこまちちゃんってコ。大丈夫か?結構こっぴどく叱られてたみたいだけど・・・」

と、こまちの身を案じる蟻田の耳に「大丈夫です!」と凛とした声が聞こえた。

見れば、当の秋元こまち本人が、手を前に組んで背後に立っていたからだ。傍にはレイナの姿もある。

そのままゆっくり歩いて近づいて、深々と頭を下げた。

 

「今日は本当にごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」

「蟻田さん、上田さん、アリソン先生にも。本当に申し訳ございませんでした」

 

こまちに続いてレイナが頭を下げる。

その様子に蟻田も上田も、そしてアリソンも本当に柔和な笑みをこぼした。

 

「そうね。ああいうことは起こりえるの。好奇心でなんでもかんでもやってみれば良いっていうもんじゃないのよ?よく覚えておいてちょうだいね」

「ハイ」

「うん、そのイイお返事なら大丈夫ね。藤田さん、松風さん。こっちの業界の方にはわたしの方からちゃんと口添えしておくから安心してくださいな。ちょっとはこういう企画ものに謹慎のような形にはなるでしょうケド、また中学生の子どものしたことだし、本人もすごく反省しているという風に伝えておきますわ」

「本当にありがとうございます先生。なんとお礼を申し上げてよいやら・・・」

「いいのよ。こういうコトもこれまでになかったわけでもないし、あの度胸は見上げたものだったわ。それに・・・」

 

アリソン先生がそこで再びこまちをみつめて、もう1度笑ってから言った。

 

「本当に子ども達と真剣に向き合っているのが伝わったし。」

 

「先生・・・」

 

「お嬢ちゃん、さっきはたくさんイタイ思いしたかもしれないけど、ちゃんとそこから勉強することが大切だからね」

「おおう。そうだったなぁ、レイナちゃんの意外と厳しいコト・・大丈夫だったかい?こまちちゃん」

 

と、アリソンと蟻田にそう心配されて、先程の醜態を思い出したこまちはカァァ、と顔を紅く染めた。

 

「大丈夫です。その・・・しばらくはまともに座れないんじゃないかと思いますケド・・・」

「はっはっは!正直だねえ。まぁ確かに、さっきはレイナちゃんに抱っこされてびえびえ泣きじゃくってまともに会話できなかったもんなぁ・・・たっぷり泣いたらすっきりしたんじゃないの?」

 

ちょっとからかうように言われて、こまちは苦笑いしたが、この番組の人たちがこんなに優しい人たちでよかった。心底思った。

 

「あ、そうそう、それともう1つ。次の小説の作品も楽しみにしてるよこまちちゃん」

「え?・・あ!あのコンクールのコトですか!ハイ、がんばります。でも、どうして上田さんがご存知なんですか?」

「んん?知らないの?」

 

と、こまちだけではなく、その場にいた保護者先生たちまで全員が ? な顔全開で上田の顔を見た。

 

「あの審査員特別賞な。オレが決めたんだよ。オレ、特別審査員だったの♪」

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、なんか疲れたケド、みんな無事だったし、結果オーライ!なんとかなりましたねv」

「そうね。まぁ、これからちょっとした批判はあるでしょうケド、それくらはなんとでもなるわ」

 

メンバー全員とスタジオPCAからの帰り道に、マミヤとバットのそんな会話が聞こえてきて、当のこまちは自分をおぶってくれてるレイナに声をかけた。

 

「レイナ先生・・・その・・」

「ん?どうしたの?」

「ゴメンナサイ・・・」

「もういいから。気にしないの。オシリ、痛くてロクに歩けないでしょ?」

「そうじゃなくって!・・いえ、そう・・なんですケド・・・」

「?どうしたの?」

「わたしのせいで・・・その、お仕事やりづらくなっちゃったんじゃ・・・」

「なぁに?そんなコト気にしてたの?それこそ心配いらないわよ。ウチは他にも散々別のことで怒られてきたんだから。今さらアナタの問題なんて大したことないわ」

「そ、そうなんですか?」

「そうよ。それにね・・・今日、先生が何より怒ったのは、アナタの身に危険があったからよ?実際ケンが助けてくれなかったらどうなっていたか・・・いい?自分の身を自分で危険に晒すことだけは絶対にしちゃダメ。わかったわね?」

 

こまちは、また別の理由で涙が出そうになった。

何より、レイナは自分の身を案じてくれていたのだ。お尻を叩かれている間は痛くて怖くて殺されるんじゃないかと思ったほどだが、こんなに優しい先生たちに、これからもうこんな思いはさせまいとあらためて誓った。

 

 

「しっかし、ケンもトキさんもラオウも。今日ばかりは助かったぜ。こまちちゃんのコト、ありがとな」

 

「なに、礼を言われるには及ばん。当然のコトをしたまでだ」

「うむ。その通り、だが、どうしても礼をしたければ、断るいわれはないぞ?なぁラオウ」

「ぐはははははっ!ではこの拳王に飯を奢れい!うぬがその良い心構えを今日からでも我が覇道に捧げるのだ!」

 

「ハイハイ。ったく珍しく褒めてやったら、恩着せがましくまぁ・・・」

「そうね・・よし!みんな!せっかくお仕事終わりだし、どっかでおいしいモノでも食べていきましょうか?」

「ホントぉ!?マミヤ先生ぇ~?」

「わあぁ~やったあぁ~~っあたしオナカぺこぺこぉ~!」

「コレってこまちさんのおかげかなぁ~?ありがとう!こまちさんw」

「まったく、みんなアレだけメイワクかけられたのに、単純なんだから・・・」

「あれぇ~?じゃあアコお家に帰る?いいのよぉ~?単純なわたしたち一緒にいなくたってw」

「なんか奏最近イジワル・・・」

 

「おお!食事か、それは助かる!なぁケンシロウ!ココは病弱な私を気遣って豆腐料理を・・・」

「いや、トキ、こう言う時は寿司だ」

「ぬははははは!うぬらの考えは浅いわ!ここは焼肉の食べ放題であろう!」

 

「いや、豆腐だ!」

「寿司だ!」

「焼肉に決まっておる!」

 

「豆腐!」

「寿司!」

「焼肉!」

 

 

『ならば勝負!!!』

 

「やれやれまた始まりやがった・・・オ~イ嬢ちゃんたち、放っといていいぞ?アイツらは。何食べたい?キミらの好きにしな」

 

「ヤッタぁ~~っ!バットお兄さん大好き!」

「晩ゴハンにスイーツってのもいいよねぇ~w」

「ラブ・・ソレはいくらなんでも体にマイナスじゃない?」

 

 

「・・・先生。わたしできちゃいました。新しい作品のアイデア」

「ホントに?なぁに?レイナ先生に聞かせて」

「ホラーに、拳法に、スイーツ。今までにない作品が書けそう」

「そう?じゃあ、イチバン最初は、先生が読ませてもらおうかな?」

「是非!がんばりますから!モデルはね・・・ケンシロウ先生たち!」

 

と、おんぶされながら笑うこまちの笑顔。レイナはこの笑顔は何があっても守らなければと、そう改めて思うのだった。

 

 

 

「豆腐だぁ~~~イヤーーーッッ!!」

「寿司だ!あたったたったたたたーーーーっっ!!」

「焼肉に決まっておるわぁ!うおおおっ!天に滅せいぃーーっ!!」

 

 

「オ~~~イ。三馬鹿兄弟置いてくぞぉ~~~?」

 

 

 

 

 

 

 

安らぎミントの

 

   癒しのおはなし

   

      ぜひ一度。試して ミント ww

 

 

 

 

 

今日もオールおっけい!!

 

                   つ づ く