「残金・・・残すところ後・・・・22円!・・・これは・・マズイな」

梅雨も差し掛かる頃、北斗神拳伝承者は掌に残った己の全財産を見て心の声を漏らしていた。

きっかけはなんともバカバカしい話だった。





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「へえ〜、CDに握手券をつける?そんなコトやってもいいんスか?」

「う〜〜ん、会長も恐らく悩んだと思うわ、でも仕方ないかもしれない。格差のある芸能界、しかも歌手というポジションにおいてはまだまだ実力も全然ともなわないあのコたちのCDを売るには多少強引でもこうした手段を使わないと・・・少々の批判は覚悟の上よ」

「少々・・ですめばいいっスけどねえ、ま、いざとなったらオレたちでなんとかあのコたちをバッシングから守りましょうや」

「ええ、期待してるわね、バットくん!」

5月も末になったある日のこと、スタジオPCAの談話室で、藤田麻美耶と難波伐斗はそんな話をしていた。
PCA21の少女たち、プリキュア戦士のお嬢様たちの歌もめでたくシングル50枚を突破し、今度晴れてベストアルバムを出すことが決まったのだ。
ここまで頑張ってきた成果。是非とも成功裏に終わりたい、が・・・


1つ気がかりな点があった。
それは彼女たちの歌手としての力量である。

ありがたやオタクのお兄さま方を中心に知名度は日増しに高まっているものの、一般的にはまだまだオタクにしか受けない実力不足の素人の女の子たちという評判がもっぱらである。
その原因の1つが歌唱力だった。

お世辞にもPCAメンバーの子たちは頑張っているのだがそれでも歌のレベルはまだまだ素人の域を出ていない。
コンサートなども事前に何回もレコーディングで録りなおした一番出来の良いものをスピーカーで流しての口パクかかぶせが殆どである。
生歌など目下のところ披露できるレベルではないのだ。

花咲つぼみと春日野うららだけは抜群の音感と歌唱力でプロにも引けを取らない歌声をもっているが彼女らだけではどうしようもない。

得意分野が激しく分かれているのもこのプリキュアオールスターズの特徴である。

歌ならばつぼみにうらら、ダンスならばラブ、ピアノ演奏ならば響、ギターソロならエレン、バラエティーならばのぞみ。


そんなおりに未熟な歌声を録音したCDなどが売れるのか?
会社としては利益を出さねばならないのである。
どうしたものかと頭を悩ませた結果、会長である青野李白(あおのりはく)は「そうだぁ!握手券つければいいんじゃないか?CDを買って下さったお客様漏れなくPCAの子たちが握手して差し上げます!いいんじゃない?だったら売れるんじゃないか?」と提言したのだ。
なんともいやらしい!と思われるかもしれないがリハクの言ももっともである。
CDを作るだけ作って売れなければ大赤字であり、会社の経営に大打撃をもたらす。
知名度はまだまだ一般には高くないPCAのお嬢様方だが彼女達とてアイドルの端くれである。
握手券がついて、その得点で一般人が自由にアイドルと握手できるとなれば購買意欲もおのずと変わってくる。

最初はこの内容にあんまりだと憤慨していたマミヤやレイナも、冷静に考えてみると確かにそれも仕方ないか・・・と納得せざるを得なかった。

彼女達だってそんな理由で一般人と握手なんてイヤがるのではないか?

そう思ったマミヤ達だったが、予想に反してこの話を彼女達に話したところ・・・



「いいじゃないですか!」 「そーだよセンセー!やろーやろー♪」 「あたし握手って大好きなんだぁ!心があったかくなれるもん!」 「ええ、精一杯がんばります!」



と、意外にも肯定的な意見が大半を占め、イヤだという声は上がらなかった。

彼女たちのこの反応が決定打となり、今回の商法に踏み切ったのである。




そして、そんな時、この少女の発言から事件は起こった。







「ねえねえ先生、その握手券の他にって何にもプレゼントしないの?」

プリキュアのリーダー、美墨なぎさが雪城ほのかと一緒にやってきて片付けものをしているマミヤに話しかけてきたのだ、マミヤは机の上を片付けながらしばらく考えて「そうねぇ〜・・とくに考えてないけど・・」と言ったすると、悪戯っ娘な笑みを浮かべてなぎさは

「じゃあさあ・・・メンバーそれぞれ!抽選で私物を上げちゃうっ!てのとかどぉーお?例えば、アタシの使った水着・・とかさ♪」


言った瞬間ほのかとマミヤの両方から「なぎさああぁーーーっっ!!」「なっちっ!!!」という怒号が上がった。
驚いて肩をすくめるなぎさ。


「じ・・じょおぉ〜だんだってば・・そ・・そんなに怒んないでよぉ・・」

「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょ!?」

「今度そんなコト言ってみなさい!とびっっきりイタイお尻ぺんぺんしますからね!」


本気で怒った2人を「そ、そんなに怒んないでって、悪かったってばさぁ」とちょっと引きつった声で宥めるなぎさであった。


しかし、そんな彼女の冗談を真に受けてしまったのが・・・・・



(なにっ!?婦女子の水着が手に入るのか!?)



すぐ外の廊下で音響機材を運んでいたこの男。

霞ケンシロウであった。


この男、なぎさの今の戯言を冗談とは思わず本気にしてしまい、CDを買った人には漏れなくPCAのお嬢様方の水着が手に入ると勘違い。
兄弟にもこのことは内密にしておき、給料が入った時、それを人知れず貯めておいた。
そしてCD発売の当日、女子中高生の水着欲しさにCDをスタッフであるにもかかわらず自腹でありったけ買いあさり、その結果もともと多くない給料の大半を使い果たしてしまった。
そんな彼は程なくして水着の情報は冗談だったことを聞かされ相当なYOUはSHOCK!!を味わってしまうのだが、果たして彼がますます金欠になってしまったことは言うまでもない。
トキやラオウにも当然相談できず、結果残金が残り恐るべき金額となってしまったのだった。




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んで冒頭のシーン。




金欠の北斗神拳伝承者。

女子高生の冗談に踊らされてしまった彼は、天を突く怒りと人の世の限りなき悲しみの間で今、秋葉原の駅近くの歩道に膝を突き項垂れていた。



「・・・もはや今日の食費すら無い・・・しかし!金はなくとも俺は北斗の伝承者。俺には北斗神拳がある!」



そうある意味開き直ったように呟くとケンシロウは「はあぁぁ〜〜・・・っ」と息を吸い込んで拳法の構えをとると、裂昂の気合いとともに北斗の奥義を繰り出した。


「・・・っ!!あたあっ!奥義、北斗!捨猫拳(ほくと・しゃびょうけん)!」


説明しよう、北斗捨猫拳とは!?


段ボールに入り込み、ネコ耳のカチューシャをかぶり、猫のポーズをとることによって己を哀れなる捨て猫同然に見せる奥義である。
これにかかれば、心優しき人物は・・とくに動物に対して深い愛情を持つ者はその可愛らしい姿に目を奪われ、ついついお世話しちゃいたくなってしまうという油断ならない奥義なのである!



「・・・・・」


ワイワイ         ザワザワ       アハハ キャハハ


スゴイ奥義なのである!


「・・・・・」


「ねーねー、トゥエンティーワンのアイス食べてこーv」 「お、さんせーい!」 「ぶちょー、今日仕事の後一杯やりますか?」 「いーねーおごるよ!」


・・・凄まじい奥義なのである!


「・・・・・」


「なんかおもしれーことねーのかな〜?」 「とりあえずパチンコいくか?」 「明日ハゲジジイの講義だぜぇ」「え〜?マジか?サボろっかな?」



・・・いや、ホントにスゴイ奥義なんだってば!


「・・・・・・・」


「ままー、アレなに〜?」 「しぃっ!見ちゃいけませんっ」  「なんだありゃ?ホームレスか?」 「うっわ、なんだあのカッコ・・・ダッセぇ」







・・・・だれも振り向いてくれないね。


ケンシロウの心が限りなき悲しみで満たされそうになった





その時だった。





「あ!・・カワイイ〜〜〜〜vv」

突然そんな声がケンシロウの耳に飛び込んできた。

(おおっ!?ついに反応が来た!)


ケンシロウが目を上げるとソコには自身が勤めていた(ただのバイト)愛治学園の制服を着た女の子がいた。ニコニコとした優しそうな笑顔でネコに化けている(つもりの)自分を見つめている。


「ネコさん、どうしたの?おウチがないの?ウチは動物病院だけどよかったらおいで、そうだ。とりあえずマミヤ先生たちに見せないと」

そんなコトをいう優しい女の子。
はて?どこかで見たことのあるコだがこの時ケンシロウは北斗捨猫拳がことのほかうまくいったのでそのことに舞い上がって気づかなかった。





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・・・・・・パキッ・・・・・・


「ぬがあぁぁあ〜〜〜〜っっっ!?またかあぁっ!?なぁぜだあっ!?なぜ割り箸がキチンと均等に割れんのだあぁっ!?オレをバカにしているのかぁ!?」

「・・・・・・」

「おのれ次だ次ぃっ!次こそ見事に真っ二つにしてぇ・・・・っっ!?ぐっおおぉぉっっ!!またダメだったかああぁっっ!おのれぇフザケやがって割り箸の分際でえぇっオレの名をっ・・・オレの名を言ってみろおぉっ!」

「・・・・あの・・ジャギさん、その・・・せっかくの旭川ラーメン、のびちゃいますよ?割り箸なんて割れ方どうだっていいじゃないですか」

「んなにを言うかサラマンダー!正しく割れたキチント割り箸で食してこそラーメンは美味いのだ!キチンと割れるまでオレはこのラーメンには手はつけんぞおぉ〜〜っ」


「あのさあ・・・今日は仕事の代わりになにしてんの?」


「え?見ててわからないかオリヴィエ、全国ご当地ラーメン味比べ。おいしいぞぉ〜vあ、オリヴィエも食べる?札幌、旭川、熊本、飛騨、東京、京都、富山ブラック、九州、博多どれにする?個人的には博多とんこつか・・・いややっぱり東京しょうゆラーメンかなぁ〜?あ、京都鶏出汁も捨てがたいなぁ〜v」



東京某所、悪の秘密結社ワルサーシヨッカー本社社長室。

嬉しそうに大量の袋ラーメンを掲げながら話す父、サラマンダー藤原に、藤原オリヴィエは最近になってホントは父の仕事って一体なんなんだろう?と疑問に思い始めてきた。
なにやらこのジャギさんと知り合ってからおかしくなってしまっている気がする。いや、その前から傾向はあったか?
みんなが仕事してる時に・・・そう思うとオリヴィエは母や社員の皆さんに申し訳ないような、それでいてつぼみたちプリキュア戦士の迷惑にならないようどうにかしなければ、と相反する気持ちの中で1人苦悩していた。

そんな息子の苦労など知る由もなくラーメン片手にはしゃぎまくるオッサン2人。

そのたるんだ空気を打ち破るかのごとく、社長室のドアがノックされる。


「おや?誰かな?ハーイどなたですかぁ〜?」

「失礼します社長、今回の対プリキュアのための社員をお連れしました」


入ってきたのはドレッドのような独特のパーマがかかった銀髪にメガネが特徴の美女だった。
緑のスーツをバッチリと着こなす様はどこからどうみても一流のキャリアウーマンである。

この人こそ、この会社の社長室長にしてサラマンダー藤原の妻、そしてオリヴィエの母でもある藤原亜那子(ふじわらあなこ)。
コードネーム・アナコンディであった。


「おぉ〜、マっ・・・じゃなくって、アナコンディくん!ご苦労、で?ダレかな?」

「お入りなさい」


「チャチャチャっ!♪・・ルンバvルンバ♪・・モ・エ・ルンバ!どーっも、社長さん!」

「ウザイナー部門の燃柄琉圭一(もえるけいいち)くんです。コードネーム・モエルンバです」

と、そのアナコンディの背後から現れたのは金髪と赤髪をツートーンにして逆立て、ラメの入ったキラキラの赤いスーツを着て、黄色いマフラーをつけたなんとも派手派手な装いの男だった。
男は入るなり体で独特のラテン系リズムを刻み、まるでサンバなのかタンゴなのかよくわからないダンスを踊りながら社長室に乗り込んできて、こう言った。


「HEYHEYHEY!なんだか知らねえが、プリキュアとかいうオジョーたちに手こずってるらしいじゃないっスか?このモエルンバが!社長のために一仕事しちゃうぜぇ〜vチャ・チャ!♪」

「おお〜vそうかそうか!モエルンバくん!嬉しいコト言ってくれるじゃないの、じゃ、お願いしちゃおっかなぁ〜?ちなみに成功したら臨時ボーナス!失敗しちゃったらペナルティのティッシュ配りがまってるからね〜vそんじゃよろしく!」

「ま・か・せ・ときな!チャチャ!♪プリキュアのジョーちゃんたち・オレ、オレ、オ・レ・サ・マ・が!ギャフンと言わしてや・る・ぜえ!♪モエ・モエ・モエルンバーーーっ♪♪」


と、独特のステップを踏みながらテンション高く社長室を後にするモエルンバくん。
オリヴィエはこの会社、社長も変わってるけど社員も変わってるなぁ・・とつくづく考えた。


「アナコンディくん、モエルンバくんは行ってしまったかな?」

「はい、社長」

「そう、じゃ、誰ももうこの近くにいないね?」

「はい、社長」




「お仕事お疲れさまぁ〜!ママぁ〜v」

「やぁだもう!ココは会社よぉ?もうガマンできないんだからパパったらぁっ!v」

モエルンバがいなくなったことを確認すると、その途端、サラマンダーとアナコンディの2人は突如社長室で息子がいることも気にせずにまるで初々しいカップルのようにイチャつきはじめた。

「ねぇ〜ママ〜、今日はもうオウチに帰って2人でゆっくりしよぉ〜?」

「あらダメよぉ〜、そうしたいのはヤマヤマだけど私たちだけ早く帰ってしまったんじゃ他の社員の子達に示しがつきませんわ。ねえオリヴィエ」

「て言うかさ、いつも思うんだけど、父さんも母さんも息子の前でそんな新婚夫婦みたいにいっつもイチャイチャしてて恥ずかしいとかそういう概念ないの?」

オリヴィエは社長室で人目を憚らずラブラブ状態になっている父と母を見かねてうんざりした様に言った、そんな息子にサラマンダーが反論する。

「んなにを言うか!?夫婦円満!両親が仲睦まじいことを見せる事こそが最高の家族サービスじゃないか、ねぇ〜ママぁ〜v」

「そうよぉ〜?オリヴィエったらいつからそんなにクールな子に育っちゃったの?ママ悲しいわ」


「・・・・でも、ホラ、僕以外にもヒトいるじゃん」


「「・・・・あ」」


夫婦は1人、家族以外で取り残されていたジャギさんを見て固まった。その表情は正に「忘れてた・・」と顔に書いてあるようで、オリヴィエは額に手を当てて「ダメだこりゃ・・・」という風に首を振った。


「お?・・おっ・・おおぉぉおおーーーーっっ!割れた!割れた!ついに割れたぞサラマンダぁーーっ!割り箸がキレイに割れたあぁーーーーっっ!」

「え?・・あ・・そ、そうですか!よかったじゃないですかジャギさん〜〜っね・・ねえママ・・じゃなくってアナコンディくん!」

「え・・ええ、ホントですわ社長!ジャギさんおめでとうございます!」

しかし、どうやらジャギさん割り箸を割るのに夢中だったらしく、藤原夫妻のラブラブイチャイチャには全く気付いていないようで、とりあえず恥ずかしいところ見られずにすんだ、とサラマンダーもアナコンディもホッと胸をなでおろした。
そして話をそらすようにサラマンダーが言葉を続ける。

「あ、そだ!ジャギさん!ラーメン作り直しましょうか?みんなで今から試食会しましょう!」

「カッカッカッカ!そうしろそうしろ!どぉ〜だあぁ〜〜っ?見たか!コレが俺様の実力よ!さあお前ら!俺の名を言ってみろぉ?」


「「悪のカリスマ、ジャギさんでーーっす!」」

「そおおだあぁ〜〜っ思い知ったかケンシロウーーっ!」


悪の組織を名乗っておきながら、セコク、気が優しく、夫婦仲が良く、器の小さい3人組にオリヴィエは思った。


プリキュアのみんな。
意外と安心かもしれない。と。





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「・・・・で、ナニ拾ってきたんだ?祈里ちゃん」

「ネコですネコ!ネコさん!ホラ、カワイイでしょ?ねえねえ、この子1人ぼっちなんです。しばらくココにおいてあげたらダメですか?」

「いや・・・おいてやるとかやらないとかその前に・・・どーーーっ見ても!それネコじゃねえから!」

「え?そんなぁ、じゃ、ワンちゃんですか?」

「んなワケねえだろ!よく見ろキミも!ケンだろケン!キミたちのケンシロウ先生だよ!」

「え!?・・ウソ!?キャアアっ?ヤダ、ケンシロウ先生!?どーして?」

「北斗捨猫拳・・・己を愛らしい猫に極限まで近づけ動物、その他の命ありしものに深い愛情を抱くものを抱き込む必殺拳だ・・・どうだ?騙されただろう?」

「すごぉい・・全然わかりませんでした・・・コレが!ホクトシンケンなんですね!?」

「真顔でやりとりしてんじゃねえよ!どこまで天然なんだテメエらは!?」


スタジオPCA談話室。

難波伐斗の痛烈な突っ込みボイスが響き渡る。藤田麻美耶や松風玲奈も引きつったような笑みを浮かべて突っ込まれている当人たちを見ていた。

ことの起こりは先程、PCA21のメンバーの1人である彼女、山吹祈里(やまぶきいのり)が段ボールを抱えて談話室に入ってきたコトだった。


捨て猫を拾ったという彼女、バットとマミヤたちはその段ボールをのぞき込んでどうしようかと相談しようとしたのだが、開けてビックリ。
中に入っていたのは、毎度お騒がせ。
よく知ったる北斗の拳士であった。


「祈里ちゃん、コレ、どこで拾ったんだ?」

「え〜っと・・・確かアキバの駅前の巨大テレビの下あたりだったと思います」

「で、ケンは何してたんだ?」

「うむ、駅前にて北斗神権奥義、捨猫拳の技のキレを試していたら偶然そこへこの子が現れて我が拳の威力を知ることとなり・・・」

「あ〜ハイハイ。用は金がなくて乞食の真似事してたってワケか・・・」

「・・・・・・・・・・」

「で、どーします?マミヤさん、こりゃカンッペキに自業自得ですよ?」


バットにそのものズバリな状態を言われてぐうの音も出ないケンシロウに憐れみを感じつつ、マミヤも困って「そうねぇ〜・・」と声を漏らした。
実際ケンシロウのバカな勘違いによる自業自得なのは事実である。しかしその発端となったのは冗談だったとはいえ、プリキュアメンバーの美墨なぎさの軽い発言である。
こちらに全く責任がないわけでない。そう考えるとなんだかマミヤはケンシロウが可哀想に思えてきた。

「とりあえずケン、今日はチームマックスハートとチームファイブGOGO!の子たちがお台場でバラエティーの仕事があるから、ソコにお弁当届ける仕事してくれない?日当出るからすぐお金渡せるわよ?取りあえず今日の晩御飯代くらいは何とかなるでしょ?」

「たすかるマミヤ。お前こそ新世紀に現れた北斗にとっての救世主だ」

「なに意味わかんねえコト言ってんだ、マミヤさんも甘いですよ?ったくなんでお前みたいな甲斐性無しがこんなに思われてるんだか・・・」

「あら?それはやっぱりケンが癒し系だからじゃない?」

「ってリンちゃんいたのか?いつから?」
「え?さっき、みんなに飲み物の差し入れもってきたの♪」

バットは背後に突如として現れた冨永鈴(とみながりん)がいるのを見て少し驚いた。
いつもながら神出鬼没な子だ。リンは猫のコスプレをしているケンシロウにまさに猫撫で声で言った。

「ケンったらぁ〜、そんなにお金に困ってるんだったらアタシを頼ればいいのにぃ〜、すぐになんでもご馳走しちゃうわよ?」



「おーほっほっほ!残念ね!ケンが頼るべきなのは北斗南斗の運命で結ばれたこのわたしよ!」


と、そう高笑いしながら今度は入り口からもはやリンといっしょですっかりPCAの顔なじみとかしたサザンクロスプロモーションの女優・山本由利亜(やまもとゆりあ)が姿を現した。
ユリアはツカツカとリンとケンシロウに詰め寄ると勢いよく懐からチラシとなにやら紙束を取り出した。


「ハイ、ケンvそれ、デパート四津輿(よつこし)のデパ地下にある有名弁当店『牙件(きばけん)』の無料クーポン!半年分!空腹なんてそれでへっちゃらよ、しかも超一流の松花堂弁当まであるんだから♪コムスメちゃんの差し入れくらいだ心もとないものねぇ〜」

「そうか、ユリア。すまない助かるよ」

「あ〜ら、松花堂弁当ですってぇ?さっすがだわ〜、お年を召した方はやっぱり味覚もババアになるのかしらぁ?今時松花堂弁当なんて流行らないわよぉ?ココにいるプリキュアのコ達だってそんなババ臭いもの食べないわ」

「味覚がガキのお子ちゃまはだぁってなさい!」
「なによ!?やる気オバハン!?」



と、相も変わらず痴話喧嘩が勃発。
やれやれとバットとマミヤが仲裁に入ろうとしたその時・・・





「じゃあ、ケンシロウ先生!今日はウチにとまっていったらどうかしら?」




『・・・・・え????』



そんな声にバット、マミヤ、ユリア、リンの声が思わず重なる。


見ると山吹祈里が猫姿のケンシロウに抱き付いて顔をすりすりしていた。


「あ・・あの、ブッキー?」

「いのりちゃぁん・・それって、ネコじゃないナリ、ケンシロウ先生ナリよ?」

「わかってる!わかってるの!・・でも・・・でもこの姿のケンシロウ先生見てると・・・なんかこう、ムネがキュンとしてほっとけなくって・・・」


あまりの展開に微妙に顔を引きつらせながら声をかける桃園ラブと日向咲に、祈里は顔を赤くしながら答える。
その様子に周りにいた蒼野美希や東せつな、美翔舞や南野かなで、明堂院いつきも「祈里ちゃんそれはちょっと・・・」というような視線を投げかけた。
ただ、北条響や来海えりかはワクワクしたような「おもしろそ〜〜v」という不謹慎な目で見つめていたし、調辺アコにいたっては「・・バカみたい」とあんまりな一言を小声で漏らしていたが・・・


「ケンシロウ先生!もし、おイヤじゃなかったら、今晩わたしの家に来ませんか?」





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「フンフフン♪チャチャチャ!モエ・ルンバ!オレらの敵テキ!プリ・キュ・ア・ドコ?ドコドコ?見つけだすぅ〜チャチャ!♪」

東京・お台場。
ワルサーシヨッカー工作員、モエルンバは大きな球体が目印のテレビ局前で奇妙なリズムを刻みながら佇んでいた。
彼の周りにいた人間たちは彼が持つ独特の雰囲気に気圧され、不気味な思いを抱きながら徐々に離れていった。
と、彼は懐から1枚のメモ書きを取り出し、それを見てニヤリと笑い、こう言った。


「明日は、ココでチーム・スプラッシュスターとチーム・フレッシュのバラエティー撮りか。おもしれえじゃん?ココでひと暴れしてついでにプリキュアも倒しちまえばオレは目立つし、会社の中での地位もウナギ上り!チャチャ♪明日が楽しみだぜぇ〜vそーとキマりゃ景気づけに今日はクラブで朝までサンバでもきかすかぁ?チャチャァ♪!」





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「どーも!いつも娘がお世話になってます。祈里の父の正(ただし)です」

「母の尚子です。ケンシロウ先生、いつも祈里のこと支えて下さってありがとうございます」

スタジオPCA玄関口、祈里から連絡を貰った祈里の父と母が車で彼女とケンシロウを迎えに来ていた。

開口一番こんなセリフを吐く祈里ちゃんのお父さんとお母さんに場に居合わせたバットは
(いや、とくに祈里ちゃんにとってタメになるようなこと何もしてませんし!)
と、またまた言葉には出さずに心の中で突っ込んだ。しかし当の祈里ちゃん本人・・・

「ケンシロウ先生はね、いつも独特の体操とか発声でわたしたちを励ましてくれるのよ?」

「そうですか!それはそれは、先生、本当にありがとうございます」

そう言って祈里の父、正はケンシロウの手を握って頭を下げ、感謝に感謝を重ねた。その光景をみてげんなりした表情のバットと微妙な表情のマミヤ、レイナ。



「ったく、どんだけのポジティブシンキングなんだよ・・・・イイコだな祈里ちゃん・・・」

「え・・ええ、そうね」

「でもセンパイ。いいんですか?仮にもアイドルの家に異性のしかもスタジオスタッフが泊まり込みなんて・・・」

「う〜〜ん・・ホントはあんまり薦めたくないけど・・でも、ケンなら大丈夫よ」


その答えを聞いて、なんだかんだでケンシロウのコトを信頼しているんだ。とレイナはマミヤの心を聞いた気がしてホッとした。


「明日はわたしもラブちゃんたちもお台場でバラエティーの仕事がありますから、ケンシロウ先生も明日のために今日はウチでゆっくり休んで体力つけてくださいね」

「ええ、先生。わたしも腕によりをかけて晩御飯つくりますから」

「ああ、すまない。一晩世話になる」

と一言礼を述べて山吹宅のワゴン車に乗り込んだケンシロウはそのまま祈里の家へと向かって行った。

後に残されたマミヤたちと他の祈里の友人たち。



「・・・ブッキー、行っちゃったね。ケンシロウ先生と一緒に」

「ブッキーったら優しいから、ケンシロウ先生がお金無いのほっとけなかったのね」

「確かに・・・でもちょっとケンシロウ先生も悪いような気もするけど・・・原因がなぎさ先輩だからねぇ〜」

「そーそー、なっちゃん先輩ヒドイよねー、あたしだったらちょっと恨んじゃうかも?」

「まあ、でも、スタッフなのに水着目当てにお金全部CDに使っちゃうなんて・・・」




『ケンシロウ先生ってちょっとカワイイ〜v』




と、そんな結論に至ったチーム・フレッシュとチーム・スプラッシュスターの女の子たちにバットは
(いやいや、キミたちそうじゃねえだろ・・・)
と心の中でまたしても突っ込みながら彼女達を見つめた。
あのある意味セクハラともとられかねないケンシロウの行動がどこをどうみたら「カワイイ〜v」という行動に映るのか?ややもするればバットには理解しがたい範疇である。
マミヤとレイナもそう思ったらしく、彼女たちの意見に「そうかぁ〜?」と言いたげに首を傾げた。

こういう大らかと言うか、ある意味天然な感性を持っているところが人気の一因となってるのかもしれない。





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で、次の日。



「おはようございま〜す」

「おっはよーブッキー♪!」

「いのりちゃんおっはー!今日もぜっこーちょーナリー!でガンバローねv」

「ラブちゃん、咲ちゃんもおはよう!舞ちゃんも美希ちゃんもせつなちゃんも今日もよろしくね♪」


お台場「不死(ふし)テレビ」本社。
玄関前に集合したPCA21のチーム・フレッシュとチーム・スプラッシュスターの面々は、AM7時という早朝ながら元気に朝の挨拶を交わしあった。
朝が苦手な日向咲もなんとか寝坊せずにすんだようでラブや美希と元気に笑い合っている。

「おいーっす、今日も元気そーだなみんな」

「あんまりはしゃぎすぎないのよ?」

「ココはウチのスタジオじゃなくって他所の会社だからお行儀よくね」

「みんな今日は頑張ってねぇ〜」


そこへ現れたのはマミヤ、レイナ、バットとそして冨永鈴であった。
リンは実は今日のバラエティー番組、「朝までしゃべれ!ほく!TALK(トーク)の件!」にレギュラー出演しているのだ。
リンと司会である大御所芸人マッスル・千葉はリンの祖父の代から古い付き合いで非常に仲が良く、そのリンが口添えをしたので今回PCA21の子たちがこの番組に出演できることになったのだった。

連続放送30年、もはやトーク番組の金字塔と言われるこの番組に出演できればきっと一般視聴者への知名度も上がることだろう。
不祥事は許されない。


「リン先輩おはよー!」

「おはようございます」

「美希ちゃんも舞ちゃんもみんな調子よさそうね、そんなに緊張しなくっても千葉さんいい人だから大丈夫よ、いつも通りにね」

先輩の力強い言葉にチーム・フレッシュ、チーム・スプラッシュスターのメンバーたちは「はいっ!」と威勢のいい返事を返した。

「いい返事だ。それこそこの乱世を生きぬく活力の源だろう」

「ってケン、お前いつからそこにいたんだ?」

「さっきからだ。祈里と一緒に来てな」

「そうなんです!お父さんが一緒に送ってくれました」


気が付くと、PCAのスタッフのジャケットを着たケンシロウがその場にいつの間にかいた。プリキュアメンバーたちは「あ!ケンシロー先生だぁー」「先生おはようございまーす」と明るく元気に声をかけている。バットは祈里とケンシロウをしげしげと見つめて小声で囁いた。


「・・祈里ちゃん・・その、なにもされなかったか?」

「へ?なんのコトです?」

「だから・・・その、ケンを泊めたんだろ?何もヘンなコト起きなかったか?」

「なんにもないですよ〜、むしろ助かっちゃったくらいで♪」

「・・は?助かった?」

「お父さんもお母さんもすっごく喜んでくれて・・ケンシロウ先生がいてくれて助かっちゃったんですからぁ!」





^^^^^^^^^^^^^祈里ちゃん回想^^^^^^^^^^^^





「北斗!裳腑裳腑拳(ほくと・もふもふけん)!」

説明しよう!北斗裳腑裳腑拳とは!?

羊の着ぐるみを被り、自身をフワフワモコモコの羊ちゃんに変化させることであらゆる生命体を和ませ、心を落ち着かせることのできる奥義である!



「スゴイぞ母さん!普段は不安がって夜鳴きをしてしまう入院ペットたちがっ!」

「ええ、ホント!ケンシロウ先生の周りに寝っ転がって気持ちよさそうにしているわ」






「きゃ〜〜〜っっヤダ!ちょっとまってぇ、ラッキーダメよ!止まってぇ〜っ」

「ワンワン!ヘッヘッヘッ!」


「はぁぁ〜・・・北斗!駄獣従属拳(だじゅうじゅうぞくけん)!あたあっ!」

「ワンワン!くぅ〜ん、くぅ〜ん」

「す・・すごぉ〜い・・ケンシロウ先生!」


説明しよう!北斗駄獣従属拳とは!?

両手の五指、計十指それぞれにワンちゃんのリードを付け、10匹同時に散歩をさせてしまうという正にペットを飼っている飼い主さんには喉から手が出るほど欲しい便利なお役立ち必殺拳である。
犬だけでなく、己の腕力次第で、虎、ライオン、ワニ、像などなどいろんな動物に使えるぞ!

「おおっ!みなさい母さん!大変な朝のお散歩が!」

「スゴイ!たった一人で10匹も散歩させてくれるなんて・・・ウチのお手伝いさんに欲しいくらいねお父さん!」





^^^^^^^^^^^^^^^回想終わり^^^^^^^^^^





「という具合で・・・もうものすごく助かっちゃったんだから!」

「すっごぉ〜い、さすが先生!」

「ワンちゃんの散歩、同人に10匹もなんて・・あ〜あ、あたしも見たかったナリ〜」



スタジオの控え室にてケンシロウ先生が泊まったことによるお役立ち話を祈里から聞かされたプリキュアメンバーのお嬢様たちは口々にケンシロウに賞賛の言葉を送った。
そんなに色々あったのか北斗神拳!とバットやマミヤにしてみればちょっと疑わしいことはあったがそれ以上は面倒臭いので突っ込まないことにした。


「すみませーん、PCA21の皆さん、あと残り10分で本番ですので、メイクの確認とスタンバイおねがいしまーす」

と、スタッフの1人がメンバーを呼びにきたことで、場の空気がぴりっと緊張した。

「わかりました。今すぐ準備します。さあ、みんな!お仕事よ、今日も元気に張り切って、そして失礼のないようにね。レイナ、エスコートはお願いね、私はプロデューサーさんと話してくるから・・」

「ハイ、センパイ。じゃ、ケンシロウもお弁当の仕出しお疲れ様、アナタもゆっくりとお弁当食べて控え室で待っててね、バットくんはこの子たちの警備お願いね」

「リョーカイっス!」

「ああ」


かくしてバラエティーの録りはこうして始まった。
しかし、この収録が1人の少女にとんでもない事件をしでかせさせることなどこの時は誰も予想していなかった。





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「私もほくほく、アナタもほくほく!しゃべりまくってスッキリハッスル!朝までしゃべれ!ホクトーク!!の件!司会はわたくし、マッスル・千葉がお送りいたします!レギュラーメンバー!まずはモデルで俳優の塩沢レイさ〜〜ん!」

「よろしく・・・テメエらのチャンネルは何番だぁーーっ?」

「続いて売れっ子女優の冨永リンちゃ〜〜んっv今日もカワイイねぇ〜v」

「リンでーす、千葉さんのお世辞に今日も調子にノリマクリスティ!がんばりまーす!♪」

「続いてハリウッド出演も果たした超人気アクション俳優、堀龍牙(ほりりゅうが)さーん!」

「御機嫌よう」


「そして、今日もお元気!御年93歳!芸能界一のご意見番!浅谷(あさや)くに子先生で〜す!」

「よろしくざぁます、テレビの前のチェリビーンズたちぃ〜、うひぇひぇっ」


とうとう始まったバラエティー番組の金字塔「朝までしゃべれ!ほく!TALK!の件」司会のマッスル・千葉さんのはつらつとした声がどんどんとレギュラーメンバーを紹介していく、やや幕開けの口上が終わったところでいよいよ今度はプリキュアチームの出番である。
さすがにラブも咲も、みんなが緊張して幕が開くのを待っていた。


「さあ!それでは本日のゲスト!今話題沸騰中の人気アイドルグループ!そうです、この子たちの登場だぁ〜っ!アイドルグループ、PCA21(ピー・シー・エー・トゥエンティーワン)でーす!」

ジャジャジャジャとBGMが鳴り響き、プリキュアメンバーの女の子たちの幕が上がる。スタジオから沸き起こる拍手。
彼女たちはせ〜の、で拍子をとって、自己紹介をはじめた。

「ハーイ、カワイイお嬢ちゃんたち、今日は出演ありがとう!1人ずつ自己紹介してもらおうかなぁ〜?」

マッスル・千葉の言葉に「せ〜の、」で拍子をとった彼女達は元気よく答えた。



『こんにちはぁ〜〜vv♪!せ〜の、わたしたち、魔法と元気で世界中を笑顔にする会いに行けるアイドル!PCA21!プリキュアオールスターズで〜す!』


「輝く金の花!キュアブルームこと、ソフトボールとパンが大好き!見た目はタヌキ?違うよタヌタヌだよ!チーム・スプラッシュスター日向咲で〜す♪」

「煌めく銀の翼!キュアイーグレットこと、絵を描くのが大好き!自称ピカソガールのチーム・スプラッシュスター美翔舞でーす!」



「ピンクのハートは愛あるしるし!もぎたてフレッシュ!キュアピーチこと、ドーナツとダンスが大好きなチーム・フレッシュ、桃園ラブです!」

「ブルーのハートは希望のしるし!摘みたてフレッシュ!キュアベリーこと、歌って踊れるカリスマモデルめざしてます!チーム・フレッシュ、蒼野美希で〜す♪ヨロシクね!」

「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ、キュアパインこと、夢は誰にでも優しいアイドル獣医さん!チーム・フレッシュ、山吹祈里です。よろしくおねがいします」

「真っ赤なハートは幸せのあかし!熟れたてフレッシュ、キュアパッションこと、どんなことにも精一杯がんばります!チャレンジガールのチーム・フレッシュ、東せつなで〜す♪」



と、自己紹介が終わった途端に巻き起こる拍手とところどころ入り混じるコアなファンのお兄様方の一種気持ち悪い歓声。
掴みは初めてのバラエティーにしては上々である。


「よしよし、いい感じじゃないっスか、ねえレイナさん」

「ええ、このまま何事もなく上手くいくといいわね」


と、舞台袖でバットとレイナがそんな会話をしていた。
事実番組はいろいろな企画が順調すぎるほど上手く進行していった。

プリキュア向けのサプライズなプライベートクイズにも彼女たちは臆することなく応対し、ラブなどはちょっとしたボケを入れては周囲を笑いに誘い、美希は得意のモデルポーズを披露しては観客を興奮させた。

咲のソフトボールチャレンジゲーム、舞のイラスト早描き対決、せつなのできるかな?ノンレシピでコロッケづくりチャレンジ!とどんどん企画は消化していき、ラストはしっかりものの祈里だけ。
バットもレイナもこのまま何事もなく終わると信じて疑わず、ホクホク顔だった。

しかし、誰も予想だにしなかった事件がココで起こった。

順番がいよいよ祈里の順番になり、彼女の特技アピールのコーナーが来た時である。



「それでは!ラスト、祈里ちゃんにはこちらの企画でしめていただきましょう!」

マッスル・千葉がそう言った直後、祈里の目の前に種類の違う子犬が3匹、台の上に並んで連れてこられた。
みんなキラキラに輝く黒い眼で祈里を見つめてはクゥンクゥンと甘えたような鳴き声を発している。

「あ!v可愛い〜〜v」

「聞くところによると祈里ちゃんはお父さんみたいな獣医さんを目指しているそうですね?」

「あ・・・ハイ、そうなんです。小さいころから動物が大好きで・・・この子たちカワイイ〜♪」

「そうでしょうそうでしょう?こちらのワンちゃんたち、右から順にシーザーちゃん、エミールちゃん、マーガレットちゃんと言います」

「そうなんだぁ〜、よろしくね?マーガレットちゃん!シーザーちゃん!エミールちゃん!」

「祈里ちゃんはなんでもワンちゃんの鳴き声を聞くだけでどの子が泣いてるのかわかってしまうとか?」

「ええ、ウチのお父さんもそうですけど・・・ワンちゃんにも人間のようにその子独特の声があるんです。お父さんのお手伝いしてるうちにいつの間にはわたしにもわかるようになって・・少しなんですけどね」

祈里がペロッと舌を出して照れながら言うと、それをウンウンと聞いていたマッスル・千葉さん、突然こんなことを言い出した。

「そうですか、ではそんな祈里ちゃんにはこちらの企画!浅谷先生、お願いします!」

「ひょっほっほ!よろしいざぁます、ではでは参りましょうざます」

と言うとレギュラー席に座っていた浅谷先生、いきなり立ち上がると大きなボックスを取り出して、おもむろに台の上に乗っている子犬たちに被せたのである。


「!・・ちっ・・ちょっと、なんですかコレ!?」

「こちらのボックスを被せた状態で中から聞こえる鳴き声がどのワンちゃんのもかを当てていただきましょう!題して!鳴いてるのはだ〜れ?自分の耳にかけろ!ワンちゃん鳴き声クイズ〜〜〜っ」


そう言った瞬間まき起こる拍手、しかし、直後に祈里が悲痛な声を上げて叫んだ。



「やめてくださいっ!こんなコト・・・ワンちゃんたちが可哀想です!」

「あ〜ら大丈夫ですことよ?このワンちゃんたちには訓練を施してあるざます。ほ〜ら、こうしても全然へいきv」

そう言うと浅谷先生、ユラユラとボックスを揺らし始めた。すると中から「キャンキャン」と弱弱しい犬の鳴き声。それを聞いた瞬間、祈里が突如として予想だにしない行動を起こした。



「!!・・・ひ、ひどいっ!なんてことするんですか!?やめてぇーっその子たちをはなしてえぇーーーっっ」



そう叫んだ瞬間だった。


ドーンッという音とともに「あれえぇぇ〜〜〜〜〜っっ?」というババアの悲鳴。

途端にスタジオ全体が騒然とした。
なんと祈里があろうことか目の前にいた浅谷先生を突き飛ばして転ばせ、彼女の手から子犬が入ったボックスを奪還していたのだ。
コロコロと床を転がる90のババア。その光景にその場が一気に凍り付いた。しかし祈里はそんなコト気に留めるでもなく大急ぎでボックスの蓋をあけ、中の子犬たちを確認すると3匹ともギュッと抱きしめた。
犬たちが祈里の顔をぺろぺろとなめる。

「よかった・・・みんな無事ね」

「よぉくないざますぅーーっっ!」


キンキンとした金切り声がスタジオに木霊する。
出演者はおろか、客席まで水を打ったように静まり返っている。目の前で怒りに燃える大御所芸能人を見てようやく祈里は己がしでかしたことの大きさに気づいた。
ラブや咲たちもヤバイ・・・という顔で場を見守っている。

大慌てで袖からレイナが出てきた。そのレイナに触発されるように「カットカットカ〜〜〜ット!」とディレクターが叫びながら飛び出してきた。



「祈里!なんてことしたの!?」

「だ・・だって、このおばあちゃんがワンちゃんたちを・・・」

「だっ・・だいじょうぶですか先生!浅谷先生!ちょっとちょっと、どういうことですか松風さん!なんなんだいアンタんトコのコ!まさか浅谷先生にこんな事するなんてっ!先生〜すみません、お怪我はありませんか?」

「まぁったく!なんてコざましょ!?信じられないざます!よくもワタクシに向かってこぉんな狼藉をはたらいて・・・どういうコですのっ!?っつぼっっ・・フガフガっ・・いれふぁばぁ(入れ歯が・・)」

「先生!」
「せんせぇ〜〜っ」



レイナが祈里を制止しながら窘める。
その間も周りのスタッフは浅谷女史の介抱におおわらわだ。急いで彼女専用のゆったりとした豪奢な椅子が用意され、入れ歯をなんとかはめてもらった浅谷先生、どっかりとソコに腰をおろし、目の前で祈里を叱るレイナの方を見つめる。
しかし老女はその声にも反応せずにどんどんと怒りをエスカレートさせていった。そんな彼女に祈里が反論する。

「だって・・・ワンちゃんたちをあんな酷い目にあわせるなんて・・・飼い主さんが知ったら悲しむとおもったんだものっ!」

「なぁにを言ってるざます!あのコたちはワタクシの犬ざます!」

「・・・・え?」

「この話を頂いた時からアナタが動物のことに詳しいと聞いてこの子たちに専属のトレーナーをつけて準備させてんざますのよ?今ではあんな箱のなか慣れっこざます!」

「そ・・・そんな・・・じゃ、じゃあ・・・?」

「せっかく新人のためにこのワタクシが一肌脱いで差し上げようと思ったのに・・・千葉さん!不愉快ですっワタクシひっじょぉ〜〜に不愉快ですわっ!」

老婆がプリプリと怒りながら今度は司会者に文句を言う。

「は・・はあっ・・大変申し訳ございません先生、なにぶん・・・その、まだ日の浅いアイドルがやったことですから・・・ここはひとつ穏便に・・」


と、熟年の司会者、マッスル・千葉がひたすら恐縮して言う。

実はこの浅谷くに子という老女、大正時代、実に齢2歳の頃より父から演技を仕込まれ、実に昭和から平成をかけて日本の何本もの映画や舞台に出演してきた芸能界きっての大御所女優なのである。
当然あらゆる業界に太いパイプを持ち、彼女独自の演技団体や芸能会社もある。それゆえに彼女を敵に回すことは芸能界を敵に回すと陰で噂されるほどの絶大なる権力の持ち主でまさに生ける伝説となっている。

そんな人に売れかけの新人アイドル、しかもまだ14歳そこらの小娘が暴行とも思える行為を働いたのだ。
これは不祥事以外の何物でもない。



「すみませんっ!ウチの子がとんだご無礼を!どうかお許しくださいっ」

「オレからもお願いしますっ!ホントにすみませんでしたっ!」


祈里は胸がズキンと痛んだ。
自分の早とちりのせいで、とんでもないことになってしまい、しかも今頭を下げているレイナとバットは自分たちのせいでもないのに、自分のためにひたすら謝っている。

自分のせいで・・・

老女をみると、椅子に腰かけたまま不機嫌そうな顔で扇子を扇いでいた。







「チャ〜ッチャチャチャチャッ!♪終わった、おわった、お・わ・っ・た・な!プリキュアの嬢ちゃんたちぃ♪」


と、その時客席からノリのいいそんな声が聞こえてきた。

「!?・・誰!?」

ラブがそう言って声の方を振り向く、それに全員がつられるように振り向くと、客席から1人の男性がなんとステージの方へとむかってくる。
赤と黄色のツートーンの逆立ったような派手なヘアスタイルをした男だった。
男はカメラの前に降り立つと、レイナと祈里に向かって指をさしながら言った。


「終わっちまったなぁ〜、プリキュアの嬢ちゃん。この世界で、そのバーサンに手をだしちゃあもう芸能界じゃやっていけねえ、幕引きだ」


「ちょっとお!いきなり出てきてアンタ誰よ!?」

「そうよ、失礼じゃない?」

咲と舞が前に躍り出て言うと、男はこともなげに堂々とこう答えた。



「オレはモエルンバ♪ワルサーシヨッカー、ウザイナー部門の1人さvさって、オレが手を下すまでもなくそこの嬢ちゃんがやらかしてくれちゃったケド!どーせなら徹底的に叩きのめしてやるか?来い!ウザイナー!チャチャァッ♪v」


モエルンバがそう言うと虚空に妖気が固まり、それが音響機材の1つ、アンプに入り込む。

すると見る間にアンプが巨大化し、「ウザイナー」と化け物へと姿を変えた。

「キャー!」 「わわわぁ〜!?」 「なんかの撮影か!?」

「ハイ!またなんか出た!ってかドコでも勝手に出てくんじゃねーってのお前がウザイわ!」

観客は悲鳴を上げたり、何かの撮影なのか?と興奮したりと様々な反応を示し、レギュラーメンバーや浅谷先生も「なんだコイツ?」とよくわからない顔をしていた。
バットはもうすっかりお決まりのパターンに虚しいとはわかりつつも一応突っ込みを入れ、レイナは出演者や観客を「ちょっとキケンですから下がっててくださーい」と慌てさせないように避難させている。

人目がなくなったところでレイナは「それじゃみんな・・・あとは頼むわね」と言うとプリキュア戦士のお嬢様方がコクリと頷く。

「みんな、変身よ!」

『OK!』



「「デュアル・スピリチュアル・パワー!」」


『チェインジ・プリキュア!ビートアップ!』



美翔舞が号令をかけるとそれに周りの少女たちが声を揃えて返事する。

そして変身アイテムを取り出すと体が光に包まれて変身開始。
バットは「はいもう来たヘンシン」とお約束の展開にへっへっへ〜ともうどうでもいいや。と諦めたような笑い声を上げ、もう1人偶然残っていたリンは「みんな変身したあとの衣装カワイイねv」と全くズレたコトを言っていた。


「花ひらけ大地に!」
「はばたけ!空に!」

「輝く金の花、キュアブルーム!」
「煌めく銀の翼、キュアイーグレット!」
「「ふたりはプリキュア!」」

「聖なる泉を汚すものよ!」
「アコギなマネは、おやめなさい!」



「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし、摘みたてフレッシュ!キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ!キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし、熟れたてフレッシュ!キュアパッション!」

『レッツ!プリキュア!』



「はあぁーーっ!」

「やあぁーーーっ!」


「ウザァーイナァーッ!」



怒号を上げて迫るウザイナーに変身した少女たちが一斉に突っ込む。
ブルームがまず正面から光をまとった掌底を打ち込むと、つづいてピーチが横から回し蹴りを見舞う。
それを受けて一瞬ひるんだウザイナーだったが、すぐに体制を立て直すと巨大化した電気コードを振り回して少女たちに襲い掛かった。

バシィっ!といった音とともに「きゃあぁっ!」「きゃっ!?」といった声が響く。ブルームとピーチ、2人が敵の攻撃で吹き飛ばされたのだった。
急いでそれをイーグレットとパッションが支える。
続いてベリーとパインがそれぞれ今度は後ろから足を狙ってタッグ攻撃を加える。

「「ダブルプリキュアキーック!」」

右足の膝あたりにベリーとパインの協力攻撃を喰らった化け物はそのまま体制を崩して床にズズンと倒れ込む。
さらにそこを追い打ちとばかりにイーグレットとパッションが倒れたウザイナーに蹴りを叩き込んだ。

「とおっ!」
「えぇいっ!」

「ウザァイナァーーっ!」

すると流石に頭に来たのか?ウザイナーが大きな腕をブンブンと振り回して少女たちを起死回生とばかりに薙ぎ払った。

「うあぁっ!?」

「きゃあぁっ!?」

「あうっ!」

「きゃっ!」

「やあっ!」

「きゃあっ!」


突然の反撃に全員吹き飛ばされ、客席へと突っ込む。

「いたたたた・・・」

「もぉ〜っ何なのよアイツぅ〜っ」


「ハッハッハッハ!どうだぁいプリキュアの嬢ちゃんたちぃ?そろそろ降参した方がいいんじゃねえか?チャチャ!」


モエルンバがそんな調子づいたセリフを吐いた時、スタジオに1人立ち入った影があった。


「お?誰だありゃ?こんなところに紛れ込んじまうとは不運なヤツだなぁ、チャチャ!ついでにアイツも始末しちまえ、ウザイナー!」

「ウザァイナぁーーっ」


「む?なんだ?キサマら何者だ?」


「あっ!ケンシロウ先生!」
「あぶないっ!先生!」

見ればそれはケンシロウだった、少女たちが倒れたまま悲痛に叫ぶ、しかし当のケンシロウは全く動じた様子も見せずにウザイナーの正面に立った。


「オレたちゃワルサーシヨッカーの刺客さ。さあて、どうやらお前もプリキュアの仲間らしいなぁ?一緒に片づけてやるぜチャッチャ♪」

「ウザァイナァーーッ!」


ウザイナーが諸手を振り上げてケンシロウに襲い掛かる。しかしケンシロウ先生、その手をなんと片手一本で止めた。

「なっ・・なにぃ!?」
「ウザイナ!?」

「そんなスローな攻撃ではオレは倒せん。北斗千手壊拳(ほくとせんしゅかいけん)!アタタタタタタタタタタっ!」


今度はケンシロウ先生の反撃。
拳がウザイナーに雨霰のように叩き込まれ、ウザイナーは錐揉み大回転して宙へと吹き飛ばされ、そのまま床に沈み込んだ。

「ウッソーン!なんでこんなに強いんだコイツ!?変身もしてねえってのに」

「今よみんな!」

『うん!』


今が好機とみたプリキュア戦士のお嬢様方、それぞれ必殺魔法を放つべく構えをとる。

「大地の精霊よ・・」
「大空の精霊よ・・」

「今!プリキュアとともにっ」
「奇跡の力を解き放てっ!」



「とどけ、愛のメロディー、キュアスティック・ピーチロッド!」
「響け、希望のリズム、キュアスティック・ベリーソード!」
「癒せ、祈りのハーモニー、キュアスティック・パインフルート!」
「歌え、幸せのラプソディー、キュアスティック・パッションハープ!」

『悪いの悪いのとんでいけ!』

「プリキュア・ラブサンシャイン・・」
「プリキュア・エスポワールシャワー・・」
「プリキュア・ヒーリングフレアー・・」

『フレーッシュ!!!』

「プリキュア・ハピネスハリケーン!」

「「プリキュア・ツインストリーム・スプラーッシュ!!」」



それぞれウザイナーにプリキュア戦士の浄化魔法が決まり、「ウザぁイナぁー・・・」と声を上げて化け物は消滅してしまった。


「オイオイ、ジョーダンじゃねえぜ、チャチャぁ!♪まさかあの兄ちゃんがあんなにとんでもなく強えなんて聞いてねえっての!あ〜あ、コレで罰ゲーム決定だぜ、モ・エ・ルンバ!♪」


と、モエルンバはそう言い残すとスタコラさっさと帰ってしまった。


『やったあぁーーーっ!♪』

あとから響き渡ったのは、プリキュアガールズの喜びの歓声。バットもひとまずよかったとやれやれと息をつき、ケンシロウは「悪党に今日を生きる資格はない」と何やら少し物騒なことをのたまっていた。





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「本当に申し訳ございませんでした!」


「いやいや、思わずやっちゃったコトだし・・・ね?先生、もういいですよね?」

「ふぅ〜、仕方ないザマス。今回だけあなた方に免じて許してさしあげるザマス」


不死テレビ談話室。
連絡を受けたマミヤも慌てて駆け付け、レイナと2人でひたすら謝った結果、なんとか許してもらえる結果となった。
祈里と言えば先ほどの戦闘から一変、勝利の喜びに浸る暇もなく、ショボ〜ンと元気なく落ち込んでいた。

そんな彼女に浅谷先生。
笑いながら声をかける。

「お嬢ちゃん、アァタが動物が大好きなのはワタクシもよくわかったザマス。でもテレビのお仕事にはいろいろあるザマスよ?テレビ局の人だってキチンと調査してから企画をつくっているんザマスから、そんなにはやとちりしないように」

「ハイ・・ゴメンナサイ・・・」

「では、これにて今日のことはひとまず落着。千葉ちゃん、うまく編集してちょうだいね?」

「ハイ先生!それはもちろん・・」

「いえまだです!」


と、そこでレイナが厳しい声を上げた。
眼光が鋭く光っている。


「あら?何ザマスの?まだ何かあるのかしら?」

「ええ、浅谷先生が許して下さって本当によかったです。感謝しています。でも、まだ私たちは終わりじゃありませんから」

レイナはキッと祈里を鋭い眼で睨みつける。それにビクっとなる祈里。
これは・・・
ヤバイ感じがする、と祈里はひしひしとレイナの不穏な雰囲気を感じ取った。

そして・・・



「祈里、今日はとっても悪い子だったわね。悪い子はどうなるんだったかしら?」

「え?・・でも、先生許してくれたから・・その・・あの・・」

「他所のスタジオではお行儀よくする!迷惑をかけない!そう言ったのに・・・浅谷先生が許して下さっても、先生たちはまだ許せません。祈里、ほら、ココに来なさい」

そう言ってレイナはソファに座ると自らの膝をポンポンと叩いて祈里に声をかける。
その仕草を見て、祈里はみるみるうちに顔を歪ませ、涙目になってふるふると首を横に振った。


「そ・・んな・・・イヤ・・イヤよ・・イヤですぅ〜〜ぅっっ」


と、往生際悪くドアに向かって走り出した祈里。
そんな彼女をマミヤは即座にガシっと捕まえて引き戻す。

「あぁぁ〜〜〜んっっヤダ!ヤダヤダヤダぁぁ〜〜〜っっ・・・えぇ〜〜んっ」
「ヤダじゃありません!お行儀よくするって言ってたのに・・・よりにもよってあんなコトするなんて!ホラ、お尻だしなさいっ!」
「イヤあぁーーーーっっ」

マミヤに抱えられてレイナのところまで連れてこられる祈里、その祈里を今度はレイナが捕まえると祈里を膝の上に引き倒し、身に着けていた可愛いブルーのスカートを捲りあげて、クマのプリントが可愛らしいパンティも膝あたりまで引き下ろしてしまう。

祈里の真っ白で柔らかい可愛いお尻がさらけ出された。
レイナが手に「ハァ〜〜・・・」と息を吐きかける。その仕草を感じ取ったのか?祈里はビクっと体を硬直させてからブルブルガタガタと震え出した。


「悪いコ!」

ヒュンっ!

ぱしぃぃーーーーんっ!


「っっ!!?・・・っっあっ・・あひっっ・・・」

ビュンっ!

ぺっしぃーーーーんっ!

「ひいっっ・・いっ・・・・・いぃいいぃぃ〜〜〜・・・っったあぁぁ〜〜〜・・・」

久しぶりのお尻ぺんぺん。
祈里は基本イイコで滅多にお仕置きを貰うことなどないのだが、それでもこれまでに1度2度経験がある。
あの時と変わらず、いやそれ以上とも思えるレイナ先生の必殺の平手打ち。それがお尻の柔肌に炸裂した瞬間、祈里の息は止まり、ついで脳髄まで響く激痛に身は悶え、ツ〜〜〜ンとした衝撃が涙腺を決壊させ、たった2発でボロボロと涙をとめどなく流させた。


ぺちんっ! ぱちんっ! ぴしゃっぴしゃっ! ピシャンっ! ぺんっ! ペンっ! ぱんっ! パンっ! ぱぁんっ! パアンっ! ぴしぃぃっ! ぱしぃぃっ!

「いっっ!いいいぃっっ・・・あっっ・・ああっっ・・きゃっっきゃあっっ・・いやあっっ・・きゃあぁあんっ・・いたっ・・ったいっ!・・イタイっいたぁいっいたぁ〜いっ・・いたいぃぃ・・・よぉぉ〜・・うっうぅぅ〜・・」

そこから先はレイナ得意の連打。
緩急、強弱をつけながら様々な角度から祈里のお尻を折檻する。祈里はお尻を振って必死に抵抗をするが動いた先から一番盛り上がっている部分を叩かれる。
祈里がそこはヤメテ!ソコはぶたないでっ!と願う個所をまるで超能力でも持っているかのように察知して戒めるのだ。
当の祈里はたまったものではない。
最初から連続でお尻を襲う灼熱の激痛に身を捩り、涙を飛び散らせてイタイ、イタイと泣いた。


「痛くて当然です!いつも先生言ってるでしょ?勝手な行動しちゃいけないって、どうして守れなかったの?」

「ひくっ・・だっ・・だって・・・ワンちゃんたちが・・・可哀想・・だったんだもの・・あ・・あんな暗い箱の中に閉じ込められて・・・」

「ちゃんと番組のスタッフだって考えてやってるの。何のために大勢の人がいると思ってるの?それなのによく確認もしないで・・・しかも見境なく、浅谷先生にまであんなコトして!先生が大ケガでもしたらアナタ責任とれるの?ホラ!もっとオシリ!」

「いやっ・・いやあぁ〜〜〜〜んっっ」

ぱしぃ〜んっ! ピシャーーンっ! ぱーんっ! ぺーんっ! びしっ! ばしっ! ビシッ! バシッ! ぺっちいぃ〜〜んっ!

「ぅやあぁ〜〜んっっ・・あぁあぁ〜〜〜んっっ・・いうぅっ・・ひっひっひいいいぃーーっっ!いたっ・・いっったあぁぁいっ・・・いだあぁっ・・きゃあぁぁんっ・・きゃうっきゃうっ・・きゃううぅ〜〜っ・・きゃあぁああんっっ」

ぱっしぃんっ! ぺっしんっ! ペッシィーーンっ! ぺんっぺんっ! ペンッペンッ! ぱんっ! パンッパンッパンッ! パーーンっ! パアンッ!パアンッ! べちぃんっ!

「あっきゃああぁっっ・・いっきゃあぁぁっっ・・わあぁぁ〜〜〜んっっ・・うえっ・・ふえぇっふえっふえっ・・・ふえええぇぇ〜〜・・・・やぁらぁぁ〜〜・・せんせぇ〜〜・・も・・ダメ・・やぁんっ・・いやぁ〜・・も・・ぶたないでぇ・・おしりが・・・オシリがぁぁ〜・・・」

「まだまだ!先生許しませんよ!あんなコトしたら警察に通報されても文句言えないのよ?アナタは頼りになるって先生思ってたのに今日はガッカリしました!2度とこんな事しないようにまだこのイケナイお尻、たっぷりぺんぺんしてあげますっ!」

ぱちぃーーんっ! ぺちぃーーんっ! ぱぁ〜んっ! パァ〜ンっ! ぺ〜んっ! ぺぇ〜んっ! ぴしゃんっ!

「悪いコ!悪いコっ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコっ!」

「いっぎゃあぁ〜〜っ・・きゃあぁ〜〜んっ・・ぴっぴいぃぃっ・・ぴええぇぇ〜〜っっっ・・・ああぁぁ〜〜〜〜んっっ」


ペシィーンっ! ピシィーーンッ! ぴしゃっぴしゃっぴしゃんっ! ピッシャンっ! ピシャアァ〜〜ンっ!

「ほら!祈里ちゃんの悪ぅ〜いオシリはコレ?それともコレかしら?」

「やっ・・やっ・・やあぁあ〜〜〜〜んっ・・ああっっ・・ああぁぁ〜〜んっっ・・もっ・・もぉっ・・ラメえぇぇ〜〜っ・・いたっ・・いっだあぁぁ〜〜いだぁぁいぃ・・・いらぁぁ〜〜・・きゃあぁぁ〜〜んっっ」

「あんなおばあちゃまを若いアナタの力で思い切り押すだなんて・・・先生恥ずかしいわっ!」

ぱっしぃ〜〜んっ! ペッシィーーンっ! ビタァンッ! パンッ!パンッ!パンッ! ペンッペンッペンッ! ぱちぃんっ! ペチィンっ! ペッチィーーーンっ!

「イヤアァァーーーーッッ!!もっ・・ぐしゅっ・・むっ・・りィィ・・・オシリぃっ・・あっきゃあぁぁ〜〜〜んっっ・・おじりぃ〜〜っっ・・・うええぇぇ〜〜〜んっっ・・」



「祈里・・何かいうコトがあるでしょ?」

レイナは祈里のお仕置きを一時中断して、祈里のお尻に手を置き、優しくナデナデしながら問いかけた。
祈里はぐしゅぐしゅと鼻をすすり、涙を洪水のように流して泣きじゃくっていた。

可愛かったお尻はもう真っ赤に腫れて一回り強ほど大きく膨らんでいる。
さながら絶えず焚火でお尻を焼き焦がされているかのようなじんじんヒリヒリとした痛みが彼女を苛んでいる。
そんな痛みを感じながらも祈里は必死に涙で声を詰まらせながらもポツリポツリと話始めた。

「ごっ・・・ごめなっ・・ひくっ・・ひぐっ・・くすんっぐしゅんっ・・えっぐ・・ひぃぃ・・ごめなしゃ・・・っ・・ゴメンッナサイぃ・・ぐしゅっ・・えっくえぐえぐっ・・」

「そうね。よく言えました。じゃあ、最後。よ〜〜く反省できるように・・・飛び切りイタイの3回だけガマンなさい」

「ひぃぃ〜〜〜んっ・・ひっくっえっく・・ひぃぃ〜〜〜ん・・やぁだぁぁ〜〜・・・もっ・・オシリぃ・・たたいちゃ・・やぁぁ・・」




「嵩山・疾風鞭(すうざん・しっぷうべん)っ!」

説明しよう!
嵩山疾風鞭とは!?

松風レイナがPCAの子どもたちを躾けるために編み出した必殺お仕置き拳法である。

鞭打の技法で手首を素早く空中で疾走させ、目にも止まらぬ素早さで悪いコのお尻めがけて叩きつける。
お尻のダメージたるやマミヤ聖拳ほどではないが、その痛みは正に凄まじく、コレを1回喰らうと声が枯れ、2回喰らうと涙が枯れ、3回目以降はヘタをするとお漏らしをしてしまうという噂も聞かれるほどの残忍にして恐ろしい必殺拳である。


ぴっしゃんっ! ピシャアァ〜〜〜ンッ!  ぴっっしゃあぁぁ〜〜〜〜んっっ!!


「キャピイイィィ〜〜〜っっっ・・・ぴぎゃあぁ〜〜〜〜っっ・・・びぃぃええぇぇ〜〜〜〜〜んっっっ」





「祈里、さあ、ホラ。浅谷先生に謝って」

「ひぐっ・・えっくえっく・・えほっ・・あっ・・しゃや・・しぇっ・・んしぇえぇぇ・・・お・・おしっ・・おしたりっ・ひぐっ・・してぇ・・ぐしゅっ・・ゴメナっ・・サイィっ・・・えっくっえっく・・」

「まあまあ、子どもを叱れない今の情けない親たちに見せてやりたいザァマスわぁ・・こんなにちゃんとした躾をアァタ方がなさってるなんて・・・いいでしょう。祈里ちゃん、もう先生たちを怒らせちゃダメザマスよ?いいですわね?」

「は・・いっ・・ゴメっ・・なしゃっ・・」


まるで大正、昭和を思わせるようなとても厳しい折檻を目の当たりにした浅谷先生は、満足したらしく、上機嫌でその場から帰っていった。
あとに残されたのはマミヤ、レイナとそしてお尻を真っ赤っかに腫れ上がらせた可哀想な祈里ちゃん。

パンツを穿くのも忘れているのか?それとも叩かれたお尻が痛くて穿けないのか?その場でヒイヒイと泣きながら立ち尽くしている。その祈里にレイナは「祈里」と声をかけて両手を広げた。


「よくゴメンナサイ言えたわね。えらかったわよ、おいで」

その声を聴くと、祈里は眼から今までより大量の涙を溢れさせ、レイナの胸に飛び込んだ。



「あぁぁ〜〜〜んっ・・レイナせんせーーーっっ」

「よしよし、痛かったわねぇ〜・・お尻、よくガマンしたわね」

「ひくっ・・いたかっ・・いたかったぁ・・いたいよぉ・・まだ・・まだイタイよぉぉ〜〜〜っっ」

「よしよし、あとでお薬ぬって冷やしてあげるからねぇ〜、ほ〜ら、イタイのイタイの飛んでいけ〜♪」


普段のしっかり者の祈里ちゃんの姿などどこにもなく、ただただ、お仕置きが終わった安心感と、そしてまだお尻を苛むピリピリとした鈍痛に、レイナにお尻を優しく撫でられながらも泣いた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜数日後〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「ハイ!では、今鳴いた子犬ちゃんはどの子でしょう〜?」

「マーガレットちゃんです!」

「お見事〜〜っ!素晴らしいっ!さすが獣医さんのタマゴですねぇ〜〜v」


きのうのひと騒動で急遽撮影が次の日に持ち越しになったプリキュアちゃんたち。
しかし、浅谷先生の怒りも解け、マッスル・千葉さんも応援してくれたおかげで他の出演者さんたちに若干迷惑をかけたものの何とか無事に撮り終わることが出来た。
とくに祈里のコーナーでは拍手喝采。
アイドルと獣医さんの移植の組み合わせが思いのほか視聴者の心をつかんだのか?なんと視聴率は12%以上を叩き出した。
初めてのバラエティーにしては上出来である。


「やったねブッキー!おめでとーっ!♪」

「ブッキーなら出来るって思ってたわ!ブッキー完璧!」

「精一杯頑張った成果よね♪」

「祈里さん、とってもよかったわよ」


「ラブちゃんも、ミキちゃんも、せつなちゃんも・・・ほのかさんまで・・・そんな、わたし、まだまだです・・」



お尻を叩かれて散々にイタイ思いをした祈里ちゃんであったが、この放送があってから、プリキュアメンバーの子たちには感謝感謝の声を浴び、ちょっと困るほどだった。



「祈里ちゃん、嬉しそうですね」

「そうね。あのコはもともとしっかり者のイイコだから、やってくれるって思ってたわよ」

「そのしっかり者の子まで時には叱んなきゃいけないなんて・・・レイナさんもマミヤさんも、ホント偉いと思いますよ」

「ありがとう、バットくんにそう言ってもらえると私も嬉しいわ、お世辞でもね」

スタジオPCAみんなが集まっている談話室、少し離れたところにいたバットとマミヤはそんなコトを話していた。
感心するバットにレイナとマミヤは少し照れながら謙遜したが、バットはしみじみと続けた。


「いやいや、実際大したもんですよ・・・アイツらに比べれば・・・」





「ケンシロウ!うぬの捨描拳がなにほどのものだ!施しを受けるはこのラオウをおいて他にはおらぬ!」

「ふっ・・ラオウ兄さん、それは私の奥義を見てからにしてもらおうか?」

「兄たちと言えども容赦はせん!いくぞ・・・・・」



『北斗神拳奥義!』



「北斗捨描拳!」

「北斗捨犬拳(ほくとしゃけんけん)!」

「北斗捨兎拳(ほくとしゃとけん)!」



談話室の脇にいた北斗三兄弟。


誰が一番可愛く動物に化けてお恵みを貰うかを競っていた。

ケンシロウが猫。ラオウは犬、そしてトキは兎であった。


なんともバカバカしい争いだが、この状況で祈里が割って入ってこう言った。



「ケンカしないでケンシロウ先生達、それぞれが、それぞれで一番よ」

「なに!?」

「本当か!?」

「それでは序列は存在せんのか!?」


「ええ!ネコちゃんにはネコちゃんの、ワンちゃんにはワンちゃんの、それにウサちゃんにはウサちゃんのいいところがあるんですもの。みんなとっても可愛いですよ」


「なんと・・・こんな決着があろうとは・・・」

「これこそ、世紀末にはない新世紀の考え方なのだな!」

「この拳王にもまだ涙が残っておったわぁ〜〜〜」


「だから、ケンカしないで兄弟仲良くしてくださいねv」


「兄さんたち・・・」
「「おとうとよっ!!」」


そんな平和主義な解決方法でなんと場を収めた山吹祈里。

しかし、バットはトラブルを事前にとめてくれた祈里に感謝しつつも、「いや、祈里ちゃん・・・やっぱちょっと感性ズレてるぞ・・・」と思わざるをえなかった。


「兄弟仲良しならうまくいくって・・・わたし信じてるv」








   新世紀

            KYペットに

                 恵み有り





                 つ づ く