PRECURRE ALL STAR(プリキュアオールスター) !北斗の拳





199X年。

世界は、核の炎に・・・っ!








包まれませんでしたっ!

地も裂けず、海も枯れてませんっ!

あらゆる生物は元気いっぱいだった。
世は暴力が支配する混沌の時代なんかじゃなく至って普通の法治国家。特に日本などはあくびが出るくらい平和だった。

時代は流れ、世紀末から新世紀へ・・・
時は西暦2015年。そんなゆるーい日本で突如として誕生したゆるーい悪の芽があった。
その名は「ワルサーシヨッカー」世界征服を・・・
出来たら楽しそうだししちゃおっかどーしよっかなー?などと中途半端に考える中途半端な悪の組織だった。
何故か闇の魔法の力を持つ彼らはまずは手始めに日本芸能界を洗脳せんと各メディアに進出を図った。

しかし、平和ボケした日本を救うべく悪の組織の前に立ちはだかった者がいた。その者こそは究極の暗殺拳、北斗神拳を操る世紀末救世主!
・・・ではなく、光の魔力を持つ、美少女戦士たちだった。

この物語は、そんな光の美少女たちと、そんな彼女らを温かく見守る先生たち。そして時代に取り残された世紀末の漢たちが織り成す、汗と涙と笑いと躾を描いた、日々のドラマである。


「ルンルン♪ラーン♪」

「もう、響はしゃぎすぎ。気持ち悪く見えちゃうわよ?」

「いーじゃん奏、だってぇ、もう授業終わりでしょ?でしょ?今からケーキなんだもん♪」

ここは東京・吉祥寺にある私立・愛治学園(あいちがくえん)。
女子中等部の2年F組の教室からそんな女の子たちの声が聞こえた。
終礼が近づいた教室内で、2人の少女がやや呆れ気味と、やや浮かれ気味という違う表情で話していた。

北条響(ほうじょうひびき)と、南野奏(みなみのかなで)私立・愛治学園の中学2年生である。

響は明るい赤茶のロングヘアを、左右で可愛らしく結ったヘアスタイル。
元気はつらつとして、健康的な艶のある肌と薄い薔薇色の頬を持ち、少し猫目なパッチリした目に蒼い瞳が愛らしい、文句無しの美少女だった。
スタイルも良く、中学2年生にしては中々なプロポーションをしている。

奏は淡い栗色のロングヘアを頭頂部でまとめ、降ろしたヘアスタイル。
若干色白な肌とピンクの唇を持ち、柔らかな目元が可愛らしい。
響とはまた違った気品や雰囲気を持ったこちらも美少女だった。

この両者、親同士が昔から仲が良く、家族ぐるみの付き合いだったため、互いに姉妹のような関係で育った幼馴染みである。
響はパパが作曲家兼音楽教師で、ママは世界で活躍するバイオリニストという音楽家の娘。明朗快活でスポーツ万能、数々の部活で助っ人を勝って出ている。勝ち気で負けず嫌いでお転婆。ややイタズラっ娘気質という性格。
勉強ギライで学科の成績は常に学年ワースト10という有り様である。
奏の方は両親がパティシエで地元では有名な洋菓子の娘。両親の影響か、はたまた持って生まれた才能なのか、芸術的感性に秀で、お菓子作りが大得意。また勉強の成績も良く、響とは違いおしとやかなイメージがある。

性格の違いからケンカも多いが、お互いに信頼しあえる親友である。
また、2人とも非常に可愛い容姿のため、男子部からは人気が高い。

「響、ただケーキが食べられるぅー、じゃなくって、今度の調理実習の練習なんだからね!響も作り方覚えるの。浮かれてると危ないのよ?」

「わかってるわよ。心配しないで♪」

心配そうに言う奏に響はピースを作って笑いかけた。そんな時だった。
教室の扉が開けられて、美しい女性が入ってきた。

「ほら、みんな席について。北条さんも南野さんも、ST始めるわよ」

「あっ、マミヤ先生」
「先生が来たってコトは・・・ヤッター!放課後だぁー♪」

歓声を上げる響に苦笑気味の女教師。

藤田麻美耶(ふじたまみや)。
私立・愛治学園に勤める女性教諭である。
茶がかった黒髪のストレートパーマに女優顔負けの美貌を持った教師で、男女問わず生徒の憧れの的である。また、とても優しく、親身になって悩み事を聞いてくれるというところも人気の所以なのだろう。
しかし、彼女は優しいだけではない。いざという時は・・・その事をことを身を持って知っているのはこのクラスでは響と奏だけだった。



「ほら、オーブンは熱くなってるから迂闊に近づかないの!」

「ちょっとお砂糖取ろうとしただけじゃん!そんな言い方ないでしょ!?」

「袖も汚れてる!ちゃんと腕捲りしないと危険なんだからっ!」

「うるさいなぁ!わかってるわよっ」

「わかってないし、出来てないから言ってんでしょっ?」

放課後の家庭科室、中からはケンカにも近いそんなやり取りが聞こえてくる。
奏が響にケーキづくりのコーチをしていたのだ。
だが、元来ずぼらで緻密なことが苦手な響にとって砂糖の分量や小麦粉等を正確に計ることすらも苦痛で、案の定いい加減なやり方に、ケーキにうるさい奏もついつい言い方がきつくなってしまう。
そして、この痴話喧嘩である。

響に奏、双方が互いに我慢の限界を迎えていた。

「大体、響はいっつも適当過ぎなのよ!いつもいっつもガサツでっ」

「そっ、そんなコト・・・」

「教える方の身にもなってよね。全く、そんなだから成績だって悪いし、よく先生にも注意されちゃうのよっ」

「・・・・ッッ!」

「少しは落ち着いて静かに・・・」

「うるさぁーーいっ!!」

奏の言葉を遮って、響が叫んだ。奏もビックリして響を見る。
目元にうっすら涙が浮かんでいた。
(ヤバっ・・・言いすぎたかも・・・)

そう思った奏だったが、言った手前、堅い表情は崩さなかった。

「そんな言い方って無いじゃないっ!文句ばっか言うなら奏が作ってよっ」

「そっ・・それじゃ練習にならないじゃない!私は響のために・・・」

「知らないっ!もうケーキなんか作るのやめる!」

吐き捨ててバンッとエプロンを床に叩きつけ、部屋を出ようとする響。その手を奏がつかまえる。

「待ちなさい響!今投げ出したら、もう出来ないまんまよ?そんなのダメ!」

「っ・・もぉ、ほっといてっっ」

腕を振り払い、響は手近にあったボウルを投げつけた。
すると・・・

ガッシャーーンッッ

と、盛大な音と共に、窓ガラスが砕け散った。

「ちょっと、何!?今の音!」

窓ガラスが割れる音を聞き付けたのか、教室のドアがガラッと開けられた。

「あっ・・・」
「ま・・・マミヤ・・・先生・・・」

「・・・どういうコトなのか説明してくれるかしら?響、奏」

入ってきた担任のマミヤを見て、奏の顔は引きつり、響は半泣きになっていた。

「・・・なるほど、それで響のやり方に奏が怒って、その奏の言い方に頭に来た・・と、そういうコトなのね?」

飛び散ったガラスを片付けながら、シュンとうなだれて椅子に座っている2人に、マミヤは声をかけた。
頷く2人。

「ケンカになった理由はわかりました。でも響、奏は誰のためにケーキづくりを教えてくれていたの?」

「そ・・それは・・・」

自分だ。
それは反論の余地はない。
そもそも、次の調理実習で失敗したくないからと、ケーキの作り方を教えてくれと奏に頼んだのは当の響ではなかったか?

「奏は誰のために放課後の時間を割いたのかしら?」
響の為だ。
すっかりガラスを片付け、教諭用の椅子に腰かけて威圧的に腕を組むマミヤ。その姿を見ることもできずに、響は俯いて唇を噛んだ。
「・・・アタシ・・」

「なのに、癇癪起こして奏にボウルを投げつけるのはいいこと?」

「・・・ダメ」

「そうよね。わかってるのよね。窓ガラスまで割っちゃって、悪いコのすることよね。響、先生悪い娘はどうするんだったかアナタも奏もよぉーく知ってるわよね、小学生の時から」

「・・ッッ!?」

そう言ったマミヤ先生の顔を見た響は途端に恐怖に顔を歪めて後ずさった。

「せっ・・先生!響もついやっちゃっただけなのっだから・・」

「奏は黙ってなさい。響・・コッチいらっしゃい」

そう言い放つと、マミヤは椅子から降りて床に立て膝をついた。

「や・・ヤダ・・・」

何をされるかわかった響は、もはや泣きそうな顔で、イヤイヤと首を横に振りながらお尻を抑えてさらに後退した。
今更ながらにやってしまったことを深く後悔する。

「ハァ・・悪いことしたって・・・わかってるんでしょ!アナタって娘は!」

マミヤは響のほうにズンズンと歩みより、逃げ出そうとした響をあっという間に捕まえる。そして立て膝をつくと、その上に響を組み伏してしまった。

「やっヤダぁっ!せんせぇーっ!ヤダっヤダっ!ヤダよぉ・・イヤあーっ!」

「嫌じゃないでしょっ!全く、反省しなさいっ!」

「やんっやんっ!ぺんぺんヤダっ!オシリぺんぺんやぁ〜〜っ・・・ふえぇっ」

コレが響と奏が良く知り、あまり生徒に知られていない藤田麻美耶の裏の顔。
小学1年生の頃から、何かとマミヤに面倒を見てもらった響と奏、忙しい両親に変わり、教師と言うよりは殆ど第二の母親という感じで世話になっていた。
響も奏も両親が割と甘甘で、手を上げられたコトはないが、マミヤ先生には悪いコトをするたびにこうして躾けられてきた。
普段はとっても優しいマミヤ先生、だが、悪いコになった時には必殺技の「お尻ぺんぺん」が待っていた。

マミヤは響のスカートを捲り上げると、そのまま連動する動きで響の可愛いピンクのハートがちりばめられたパンツも膝辺りまで降ろし、小振りな白桃のように可愛いお尻を丸出しにしてしまう。
響はお尻が外気に晒されることを感じ取って、さらに肩を縮こまらせた。

「あ〜んっ・・やぁだぁ・・」
「悪い娘は、お仕置きよ!麻美耶聖拳!」


説明しよう!

麻美耶聖拳(まみやせいけん)とは!

私立・愛治学園教諭、藤田麻美耶が悪い子ども達を躾ける為に編み出した必殺の仕置き拳法である。
空手三段、柔道四段、合気道五段、剣道六段、合わせて十八段の段位を持つ女傑でもあるマミヤ、その男勝りな剛力で片手で敵の身体を押さえつけ、もう片方の利き腕で、高速で尻を叩くのである。
これにかかれば、例え超不良少年が相手だろうと尻を真っ赤に腫れ上がらせ、その耐え難い痛みに泣き喚きながら反省してしまうという、恐ろしい拳法なのだ!

パアァーンッッ!

「きゃあぁあぁーんっいっ・・いったあああぁいッッ」

ペチィーーンッッ!

「うわああぁ〜〜んッッ」

ぱんっ! パンッ! ぺんっ! ペンッ! ばしっ! バシッ! べしっ! ばちぃんっ!

「きゃっ!・やあぁっいたぁあっ!いたいぃっ・ぎゃんっ!あうぅっ!ヒィィッ!いやあぁっ!・・せっ、せんせぇっ痛い!いたいよおっ」

「痛いからお仕置きなの!ホラッ暴れないっ!もっと痛くするわよ?」

「そっ・・・そんなのイヤアァ〜〜〜っっ」

ぴしゃんっ! ピシャァンッ! ぴしっ! ぱしっ! ピシィッッ! べちんっ! ぱっしぃーんっ! ビタァンッ! パンッ! ぱんっ! ペーンっ!

「きゃあぁうっ!・いぎゃあぁんッッ・ぴぃぃ!?あぎゃぁっ!やんっ!・やんっ!・・やあぁぁんっ!・・うぅっ、うっうぇっ・・いだぃ、いだぁいよぉ・・うわああぁあぁぁ〜〜んッッ・・ひくっ・・あぁぁぁあ〜〜んっっ」

20回に到達しようかと言うところで響はとうとう声を上げて泣き出した。
白桃のようだったお尻が見るも無惨にマミヤの平手打ちによって赤々と色づき、紅葉のよう掌の痕がくっきり残って腫れている。
一撃一撃がまだまだ未成熟な少女には重く、痛かった。
痛々しい光景と、響の絶叫に、奏も顔を背ける。
彼女もマミヤのお仕置きがどんなに痛いか、辛いか、身をもって知っていたからだ。

「響、泣いてもぺんぺんお終いにならないわよ?ほら、奏に言うことあるでしょ?」

「うぇっく・・ひっく・・ひぃぃん・・ぐすっぐずっ、ぐしゅっうぇぇ・・」

「響」

「らっ・・らってぇ・・・かなっ・・で・・・がっひくっ・・いじわりゅっ・・するか・らっ」

フゥ・・とマミヤはため息をついて、赤く腫れた響のお尻を2、3度撫でる。
スポーツ万能で張りはあるが、筋肉ばった硬さは殆どない小さく柔らかな女の子のお尻、まだまだ発達途中の柔肌を打つのはマミヤとて本意ではない。
なにしろ、響も、そして奏も、本当に幼い頃から面倒を見てきた娘達のようなもの。
その子のお尻を叩き、痛みに泣き叫び、嗚咽を上げる姿はマミヤとて見るのが辛いのだ。
しかし、ここでマミヤは心を鬼にして決心した。

「そう、反省の色無しね響。わかったわ。だったら先生も厳しくキツぅくいくからね」

そう冷たく言い放つとさらに泣き喚く響を無視して、マミヤはハァー・・と息を吸い込み、そして、ハァー・・・ッと今度は手の平にその息を吐きかけた。

「麻美耶聖拳奥義!麻美耶百裂拳(まみやひゃくれつけん)!」

麻美耶百裂拳。
武術の経験から来る筋力運動と腕の回転率を如何なく発揮し、悪い子の尻に無数の平手を高速で浴びせかけるという必殺拳である!
この技を喰らった生徒は、尻が真っ赤っ赤に染まり、そしてまるでキャッチャーミットのように膨らみ腫れ上がってしまい、凄まじい衝撃と、火傷にも似たぴりぴりとした耐え難い苦痛を味わい、4、5日は尻が痛くてまともに椅子にも座れない惨状になるという、凄絶極まりない奥義である。

「悪いコっ!悪い子!悪い娘!わるいこっ!ワルイコっ!めっめっめっめーっ!!!」

スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアアァァァァーーーーーーーンッッッッ!!!

必殺のマミヤの平手打ちが、否、掌撃が、小さく、柔らかで幼さ残る響のお尻を襲った。
実はマミヤが響にこの奥義を使ったのは初めてである。
今まで使用したのは、万引きや恐喝などの特上に悪いことをした生徒達に対してだけだった。
中には喧嘩自慢で幅を利かせる不良少年少女もいたが、皆この奥義を喰らうと、わんわんと泣き叫び、「ごめんなさい」「もうしません」といった謝罪の言葉を連呼し、お仕置きが終わると、お尻を押さえて部屋の中を飛び回ったものだ。
響に使いたくはなかったが、窓ガラスを割ってもなお、反省が見られないのであれば、仕方なかった。

「っっっっ!!!・・・・・あっっきゃあああぁああぁ〜〜〜〜〜〜〜〜んっっっ」

一瞬息が止まり、そして直後、盛大な悲鳴が上がった。

「うわああぁぁ〜〜〜〜〜んっ・・ぎゃぁぁ〜〜〜んっ・・うええぇぇ〜〜〜〜んっ・・びぃええぇぇ〜〜〜〜〜〜んっっ」

絶叫の後に、上がったのはもう恥も外聞もない響の泣き声。
そばで見ていた奏の顔も、あまりの凄まじいマミヤの奥義に顔面が蒼白だった。
マミヤは、真っ赤っかになった響のお尻を優しく撫で、胸に抱っこして優しく語りかけた。

「響ちゃん、もぉ、ゴメンナサイできるかな?」

「うえぇえぇ・・・ひくっひくっ・・びえぇぇ〜〜〜〜」

しばらく思う存分泣かせてやってから、やがて響が口を開いた。

「ひくっ・・・しぇんしぇっ・・かなでぇ・・ぐすっぐずっ・・ご・・ゴメンナ・・・サイっ・・・ふええぇぇぇ〜〜〜んっ」

「そうね、やっと言えたわね。もう癇癪起さないのよ。ホラ、奏と仲直りして」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、奏を見る。
奏も先程のお仕置きを見て、心配そうに響を見ていた。

「か・・・奏・・ゴメンね・・・アタシ・・アタシ」

「い・・いいの響っ!わ・・私も・・・悪かったから、もっと違う言い方にすれば良かったね。ゴメンね」

「ううん・・アタシが・・ひくっ・・ゴメンね・・ゴメンね」

また泣き出した幼馴染の髪を、奏はゆっくりと撫でた。




「でっ・・・できたあーーっ♪」

「やったじゃない響ぃ!完成よぉ♪」

家庭科室に2人の少女、響と奏の歓声が二重奏となって流れた。
あの後、残っていた生地を足して、見事にキレイなイチゴショートケーキを完成させ、あまりの出来のよさに奏ですらビックリしたのだ。

「響上手じゃないっ」
「ううん、奏が、教えてくれたからだよ」
「ウフフ、よかったわね。二人とも」

「ねえねえマミヤ先生!コレすっごく美味しい!他の人にも食べてもらおうよ!」
「うんうんっ!それイイかも!?」
「そうねぇ、じゃあ職員室でも行きましょうか?」

マミヤの提案で、2人の渾身のケーキは職員室で先生方に食べていただくことになった。


「ほほう、差し入れにケーキですか?藤田先生」
「ええ、どうぞ、米槻教頭先生も召し上がってください。」

初老のひょろ長い男性教諭、教頭・米槻はうんうんとうなづきながらケーキを眺めた。

「へぇ、ケーキかぁ。そりゃあうまそうだ」

「あら、バット、ちょうどよかったあなたも食べる?ケーキ」

マミヤの前に顔を出したのは近くの大学に通う難波伐斗(なんばばっと)だった。もともとこの愛治学園の卒業生で、いずれは教員になるため、教育学部に通っている。
サラサラとした赤髪を前に垂らした、中々の美男子だった。体格もよく、逞しい彼は、日本拳法の有段者であり、多くの大会でタイトルも獲得している。


「あっ・・霞先生!」

「そうだ!ねぇねぇ、ケンシロウ先生も食べてよ!アタシのつくったケーキ」

「む・・?」

奏と響は、パソコンに寡黙に向っている一人の男性を見つけて、声をかけた。

「そうだわ、ねぇケン。この子達のつくったケーキ、食べてくれる?」

「なに!?水と食料を!?」

「・・・・ううん・・あの・・・あたし達がつくったケーキと・・・紅茶だけど・・・」
「そのワケわかんねぇセリフ、いい加減にしろよケン・・・」

バットが突っ込む。

この寡黙な男。

名を霞拳四朗(かすみけんしろう)という。
この学園に三ヶ月前より勤めている新任教師だ。しかし、経歴からどこの大学を出たのか全くわからない上、履歴書には特技と職業の欄に「北斗神拳第六十四代伝承者」(ほくとしんけんだいろくじゅうよんだいでんしょうしゃ)と意味不明の職しかかかれていなかったため、当初、米槻は強く反対したが、寛容なマミヤの紹介のあって、寛容な校長と理事長が半ば強引に決めてしまったのだ。
基本的に真面目で誠実なのだが、今でもたびたび訳のわからない奇行で周囲を驚かせている。

「霞先生!先生はダメですよ。だってまだ野球部の生徒達のデータ集計がおわってないじゃないですか」

「心配はいらん。すぐに終わらせる」

「っ・・・ちょっ・・・ちょっと、先生!やめてくださいよ!まさかまた・・・」

教頭が心配するのを無視して、ケンシロウはなにやら力を込め始める。
その様子を奏と響は興味津々で見ていたが、バットとマミヤはマズイ。という顔だった。

次の瞬間。

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっオワッタァーーーーっ!!」

という怪鳥音を叫び、ケンシロウの指が無数の突きとなってキーボードを連打した。

「北斗百裂拳!」

北斗百裂拳。
全身に七百八つある経絡秘孔・ツボを無数の拳で突き、衝撃と同時に相手の秘孔に闘気を送り込み内部から破壊するという北斗神拳一撃必殺の奥義である!
しかし、今はキーボード相手なのでたいして意味はないのだ!


「キメ顔すんな!ああっ!画面にヘンな文字がっ!」

パソコンの画面には「あべし」という文字が表示され、そして次の瞬間粉々に爆発した。

「ああああ〜〜〜〜っまたパソコンが一台・・・いい加減にしてくださいっ!霞先生!これで4台めですよ!」

「むぅ・・・」

「ま・・まぁ、いいじゃんっ!仕事終わったんでしょ?ねぇケンシロウ先生!このケーキ食べて・・・あれ?」

響が皿を見たときには、もはやケンシロウのためにとっておいたケーキは空になっていた。

「ありがとう。生き返ったよ。豊な村に住んでいるのだな」

(いっ・・・いつの間に食べたの??・・ってか村って・・・ナニ??)

「さて、折角ですから私達も頂きましょうか?バットくん」
「そ・・そうっスね。じゃあ頂き・・・ん?イチゴはどこ行った?」

見てみると、教頭とバットのケーキだけイチゴがそっくり無くなっているのである。

「あれぇ?」
「響、ちゃんとイチゴ乗っけたわよね」
「うん、たくさん乗っけた。」

「・・・・おい、ケンお前の皿にだけ、どうしてイチゴがそんなにたくさんあるんだ?」

響、奏が首をかしげる中、バットがケンシロウの皿を指さして言った。
たくさんのイチゴがかじりかけで散乱している。

「・・・まさか・・・お前・・・」

「苺はもう、死んでいる」

「お前が食ったんだろうがーーーーーっっ!!!」
「霞先生・・・なんて下品な・・・」

「怒るなバット・・・そんなに怒らずとも・・」

コト、とかじり掛けのイチゴをバットの目の前に置くケンシロウ。

「これはお前の分だ」

「怒(ピキッ)!」

「僅かな食料が人の心をすさませ、汚れ無き思いが踏みにじられてしまう・・・・なんて時代だ」

「いらんわーーーーーっっっ!!!」

バットの怒声が職員室に響き渡った。




「ねぇ、先生」

「なぁに?」

「私達おでん屋さんってはじめてなんだけど・・・」

「そうね、あなた達が来るのはちょっと早いかしらね」


夕方。時刻は午後6時を過ぎた頃。
マミヤ、響、奏はおでん屋台にいた。
昼間のケーキのお礼にと、ケンシロウが食事に誘ってくれたのだ。屋台には「おでん・北斗之軒(ほくとのけん)」と書かれていた。


「おじゃましまーす」

響が入っていくと。そこにはおいしそうに煮えたおでんと、カウンターに座るケンシロウとその隣に白髪の温厚そうな男性。そしておでんの向かいに老人が見えた。

「よく来たな。歓迎しよう」

「あ、ハイ、どうも・・・でさぁ・・先生、その人・・・ダレですか?」

響の後について入ってきた奏がケンシロウの隣の男性を見て尋ねた。

「彼の名はトキ。俺の兄だ」
「ケンシロウが世話になっている」

白髪の男性は頭を下げる。

「あら、トキさん、元気そうですね。」
「マミヤか。いつもケンシロウが世話になっている」

「あっ・・アタシたまご欲しい」
「私は・・・さつまあげもらおっかな?」

「親父、この子達に、さつまあげと、たまごだ。あと、酒」

「はいよ」

正面の老人は鍋の中からおいしそうなたまごとさつま揚げをとりだした。

「おいしーーーっ♪」
「しあわせーーー♪」

2人の歓声にケンシロウもトキも笑みがこぼれた。

「時にケンシロウ。仕事はどうだ?」

「ああ、順調だ!」

「ふっ・・・何よりだ」
(順調・・・・なのかな?)

話を聞きながら奏は昼の顛末を思い出して考えた。とその時だった。
奏は不意に隣の席に座ってきた男性をみて「ひいっ」と声を上げた。

「ひっ・・・響・・・」
「?なによ奏、なんかあって・・・きゃあっ!」

響が驚きの声を上げた先には、2メートルを優に超える長身に、まるで鬼のような筋肉の塊りを搭載した大柄な金髪男性が座っていた。

「親父、俺にも酒だ」
「はいよ」

「ラオウ」
「ラオウ、帰ってきたか」
「あら、ラオウ。お久しぶり」

「むっ、うぬはマミヤ、なぜ?」
「ケンに誘われたの。あ、リュウケン先生。私にもお酒お願いしますわ」

「はいはいよ」

(な・・・なんか・・・マミヤ先生の知り合いって・・・すごい・・)

響はおでんをパクつきながら、大人たちのやり取りを見て思った。

「ラオウ、今日はどこの現場だった?」
「いつもどおり、環八の工事だ。親父、がんもを一つ」

「はいよ。ホレ」

ラオウの所にガンモが流れてきた時だった。

「あっ・・アタシがんも欲しい!」
「あっずるぅーい響、私にも半分ちょうだい」
「じゃあ、ハンブンこね♪」

「なに!?」

ラオウの手をすり抜け、すばやく響がもらってしまったのだ。

「・・・・・・」
「今のがラスワンじゃ」
「がんもはもう・・・・終わっている」

「己えっ!小娘の分際でぇ!この拳王に楯突くというかあ!?」
「きゃあぁあぁ〜〜〜〜っっ!」

ラオウが突然怒声を上げ、響の首根っこを引っつかんで吊り上げた。

「ひっ・・・響〜〜!先生響がっ!」
「せんせぇ〜〜〜きゃあっ!やだっ!助けてっこわいよぉっ」

「我がおでん覇道を阻むものは誰であろうと容赦せんっ!さあ、がんもを出せ。出すのだ。ええいっ出さぬか!」

「ふえぇぇ〜〜〜だってぇ・・食べちゃったもん・・・先生ぇ〜〜」

助けをマミヤに求める響マミヤは酒を置いてラオウに言った。

「ラオウ、落ち着いてください。子どものしたことです。人を許す度量の深さも、拳王様には必要ではないですか?」

そう言われてしばし考え、ラオウは響をはなして再び席についた。

「響、大丈夫?」
「う・・・うん・・・きゃっ!なに?」

安心したのもつかの間、今度は巨大な・・・

「きゃあぁっ!先生ハチッ!ハチよぉ!」

奏が悲鳴を上げた。巨大なスズメバチが屋台に侵入してきたのだ。刺されればとっても危険なハチ。
だが、そこでケンシロウの眼が輝いた。

「ほあっちゃあっ!」

素手でハチを横の壁まで叩き落としたのだ。

「ケンシロウ先生スゴイ!」

「ふっ・・腕を上げたな。ケンシロウ」
「まだまだ甘いわ」

トキもラオウも満足げに笑っていた。もはや響たちとは別次元の世界だった。

しかし、カベに叩きつけられたハチに異変。

「・・・・・ひ・・ひひ・・・ひでぶっ!」

           パ ン ッ ! 

と音がして、ハチは破裂し、そのまま・・

ポチャン

「あ・・・・」

「あ・・・」

「「「・・・・・ぬあっ」」」

おでんの中に残骸が落ちていった。



「・・・・・・先生、アタシもうおでんいい」
「私も・・・帰りましょ」
「・・・そう?じゃあそうしましょうか?送っていくわよ。リュウケン先生、ケン、ご馳走様」

そのままマミヤと奏、響は屋台をあとにした。

「まったねえーーーケンシロウ先生!」


「「「・・・・・・・」」」

あとに残った北斗三兄弟。
ただただ無言だった。





  平 成 に

      北 斗 神 拳 

        も て あ ま し



世の中は平和だった。


              つ づ く