「へぇ〜・・そんなに大変なんだぁ〜、そのグローリーグラウンドってところ」

「そうなのナミちゃん!今メイガス・エミリーの魔の手からグローリーグラウンドを救うためには正義の魔法戦士、セイバーチルドレンズが絶対必要なのよ!」

聖星町、東区の高級住宅街に建つ高層マンションの一室、久遠光の部屋で、グローリーグラウンドのフェアリーリフィネが、新しくメンバーに加わったオレンジ色のショートヘアの少女、葉山那深の目の前で、自分の国の惨状の様子を力強く語っていた。
レイアは新しく加わった新戦力の那深に事態の深刻さとセイバーチルドレンズの使命の大切さを伝えようと一生懸命だった。

「つまり・・そう!エミリー率いるダークチルドレンズ、彼らの妨害はこの世界でも起きている。一刻も早く彼らの野望を打ち砕いて・・・」

「ねえ、ナナミ〜、ドーナツとって〜」
「も〜、自分でとりやユウナ〜、あ、でもウチもドーナツもらお〜っとw♪、やっぱナチュラルファッションかな♪」

「グローリーグラウンドを元通りにすることが大切で・・・」

「ホラ、ヤオランこっちのポテチおいしーよ。ハイ、ヒカルちゃんジュースとって」

「さんきゅー♪お!これオレの大好きなカレーバーベキュー味!ヒカルくんちってお菓子なんでもあるなぁ〜vあ、ヒカルくんオレにもジュース!」

「ハイハイハイ。ったく、なんでオレがお前らの給仕みたいなコトせなアカンねん・・・」

「ってかお前が文句言いつつもやるからだろうが・・あ、ついでにオレにも飲み物な。あ、やだよオレンジソーダは。グレープのファンターンにしてくれって」

「そうすれば、やがて女王、ソフィア様も復活なさって、平和が訪れるハズで・・・」

「ね〜ヒカルちゃん、ヴァネッサ先生のケーキ食べていい?」

「あーナナ!今切ったるからお前は刃物持つな!前に間違えて指切ったことあるやろお前っ」

「なぁにぃ?ナナミってばそんなドジっ娘ちゃんだったのぉ?アハハっv」

「ひっどぉ〜いっヒカルちゃん!ユウナの前で言うことあらへんのにぃ!」



「ってちょっと静かにしてよ!一体何してんのユウナちゃんたちぃ!?」

「ナニ・・・って・・」
「おやつタイム・・・やんなあ?」

気付いてみればユウナ達だけでなく、レイアやイーファ、ルーナやヴォルツなど他のリフィネの仲間のフェアリー達もご相伴にあずかっている。その光景を見てリフィネは思わずガクっと空中でズッコケ、光のベッドの上へとぽんっと横たわった。

「ううぅ・・・せっかくナミちゃんにセイバーチルドレンズとしての心構えを話そうと思ったのに・・・レイア!アナタ達までなによ!?マジメにやってよ!」

「だって・・・ねえイーファ」
「おう!ハラがへってはなんとやらだぜ?」
「そないピリピリせんでもえーやんかリフィネ。メンバー集めは順調なんやし、あ、あんさんもオヤツ食べるか?」
「今さらドタバタして急いで説明したってそこのガキがわかるかどうか怪しいもんだろうが?落ちつけってんだよダセエな」
「ルーナ、むずかしいおはなしキライでしゅう〜」
「そーだそーだー!出たとこ勝負!男ならそれでこそ自分の価値が定まるってもんだぜぇ〜!うおおぉーっボンバー!」

一体全体コイツらどっちの味方なんだ?
真剣にリフィネが落ち込みそうになった時、当の那深がリフィネをつまみ上げて、自分の手の平に乗せた。

「そんな、落ち込むことないって。取り敢えず最初は信じられなかったけど、もうヘンシンもしちゃったしね〜・・今はアンタの言うこと間違いだなんて思ってないよリフィネ。確かにまだ全部わかったわけじゃないけど、アタシにできることだったら精一杯頑張るからさ」

「ナミちゃん・・・」

ニコっと笑う那深の顔をみて、リフィネも顔を綻ばせる。その様子を見て、悠奈がパン!と手を叩いてからその場のメンバーに言った。

「レイア、メンバー集めのことなんだけど・・・あとどれくらい集めればいいの?」

「え?う〜ん・・・そうだなぁ〜、あと5人・・ってコトになってるんだけど・・実はね・・・」

レイアが悠奈の質問に歯切れ悪く答えた。いつものあっけらかんとしたノリが無い。

「?どうかしたの?」

「なんだよレイア。なんか様子おかしいぜ。オレ達でよかったら話してみろよ」

窈狼もレイアの変化を感じとったのか聞き返して来た。するとレイアは頷いて話し始めた。

「実は、イリーナ様に1度帰国するって約束した期日が迫ってるの・・・どの道その時がきたらメンバーが全部集まってなくても1度レインヴァードに帰らなきゃいけないの。黙っててゴメンネ。中々言い出すタイミングがなくって・・・」

「え〜〜?ナニよソレぇ?それじゃ時間ないじゃないのよおっ」

「まあまあ、ユウナ、レイアだっていろんなことがあっていっぱいいっぱいだったんだろ?そんなに責めたら可哀想だよ」

悠奈に非難の声を上げられてシュン、となったレイアに日向が優しく声を掛けながら近づいた。

「だったらだったで仕方ないって、残りの期間で出来るだけやろう。それでいいだろ?レイア」

「ヒナタくん・・・ありがとう!」

日向の優しい言葉に、ぱあっと笑顔になってその胸に飛びつくレイア。悠奈も日向にそう言われては、しょうがないな。と引き下がるしかなかった。それより今はいつまでレイアが日向にひっついているかの方が気になっている。

「で、具体的にどれくらい時間残ってんねん」

「えっとぉ〜・・うぅ〜ん、コッチの時間であと2週間くらいかな?」

「2週間!?それってもしかしてヤバイんちゃう〜?ヒカルちゃん誰か心当たりない?」

七海が自室に日向達が食い散らかしたお菓子のゴミを片付けていた光に思いついたように声をかけた。光は「ん?ああ・・・」と呟きながらレイア達の前に移動してくる。

「ん〜・・言われればまあ、何人かは出てくるねんけど・・・アイツは今色んなコトで気分悪いしなぁ〜・・」

「レイか?」

「ああ、アイツは今アカン・・・ファンやったロックバンドがスキャンダルで解散寸前でピリピリピリピリしとるからなぁ・・アキラとのバンド練習最近休んどるのもソレが原因やからな」

「・・・こんなファンタジーな話できる状態じゃあないってか?」

「まあ、せやな」

2人が溜息混じりに話すのに便乗して日向や七海たちも声を漏らした。

「・・・オレ・・別にレイちゃんじゃなくってもいい・・・」

「ウチも・・・」

と、めずらしく嫌そうに顔をしかめて言う日向と七海を見て、悠奈は不思議に思って聞いてみた。

「レイ?・・・あ、ヒカルくんが一緒に住んでるってあの?」

「ああ、せや。ヒナ達も昔からの付き合いやんなぁ?」

「う・・・ん。そうなんだけど・・・」

「?何かイヤなの?」

光、晃、那深とここまで仲間になった人物には大喜びで迎えていた日向や七海の顔が曇っている。疑問符いっぱいに問いかけてくる悠奈に、バツが悪そうに日向と七海は打ち明けはじめた。

「・・・だって・・なあ・・レイちゃんって・・・コワイよな・・」

「うん・・・ヒカルちゃんやアキちゃんと違ってちょっとしたことですぐに怒るし・・ぶつし・・」

「カッコイイんだけどさ・・あのカオでキレられるのがまたコワイよなぁ・・・」

(そ・・そんなヒトなんだ・・・)

ちょっと怖気を震いながら話すレイという人の性格に、なんだかスゴク危なそうな人物に聞こえて、悠奈も何とも言えず寒い気配を感じた。
と、とつぜん晃が立ち上がって手を叩きながらこう言った。

「まあ、どっちにしたってよ、ここでこのまんまオレ達であーだこーだ言ってたってしょーがねえだろ?バンたちが感じれるその魔力ってヤツをたどりゃ案外簡単に見つかるかもしれねえぜ?とにかく次にまたそのダークチルドレンズが悪さしたときのために準備だけしとこうぜ」

晃のその言葉にその場にいた全員が頷いた。
と、その時だった。



「うっきゃああぁぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!」



『・・・・・・・・・』

一同の間に奇妙な静寂が広がる。その場にいた人間、妖精全てに聞こえた悲鳴とも奇声ともとれる声。

「・・・ねえ・・・今の・・聞こえた?」

ユウナの質問にゆっくりと頷くみんな。

冷や汗まじりの悠奈にレイアが「外から聞こえたよ」と報告する。
一体なんの声だったのか?
しかし、なんとなく人間の声ではない気がした。それにここは考えてみれば地上15階の高層マンションである。人の声であるワケが無い。
だとすれば・・・
意を決して悠奈が外に面しているベランダの窓をガラリと開けて見た。そして・・・

「いやあぁぁぁ〜〜〜っっっ」

「えええぇええぇーーーーーーっっっ???」

「とめてやめてたすけてどいてまもってちかよらないでぇ〜〜っっ」

「え?え?え?えぇえー!?」

「うけとめてはなれてすくってさわらないでぇぇ〜〜〜〜っっ」

「どぉ〜〜〜しろってのよぉお〜〜〜っっ!!??」

「ふきゃあぁんっっ」
「ひぎゃっっ!」

疾風怒濤の謎のやり取りがあった後、窓の外から光の部屋に突っ込んで来た何かと悠奈は正面から衝突。フラフラとよろめきながら倒れ込んだ悠奈を日向がしっかりキャッチした。

「だ・・・大丈夫かユウナ?」
「い・・・いたい・・」

やや赤くなっているほっぺを押さえながら悠奈が絞り出すようにつぶやく。と、悠奈の服の上に倒れている小さな物体を日向は見つけた。
いや、日向だけでなく、その場にいた全員が皆一様にそれに目を奪われる。
悠奈のお腹の上でちょうど目を回しているのはレイア達と同じような小さな女の子だった。誰?という疑問がその場の子どもたち全員の脳裏によぎった時、レイアやイーファ達、その場のフェアリー達が声を揃えて叫んだ。

『クレアっ!!!???』

その言葉に一瞬とまどい、次いで悠奈がメンバーの中でなんとか一番に反応する。

「・・え・・え・・と?・・・知り合い?アンタ達の・・・?」

「そう!このコ、アタシ達と同じ!グローリーグラウンドのフェアリーフォレスト、妖精の森の仲間だったクレア!大地の妖精クレアよっ!」

そう答えながらレイアが目を回しているクレアと呼ばれたその少女を抱き起こしにかかり、そして尋ねた。

「クレア!起きてクレア、しっかりしてっ、一体なんでキミがこんなトコにいるの?」

「う〜〜〜ん・・・・ハっ!?・・レイア!?なんで?え?ココは!?ドコ?ドコドコドコぉ!?」

意識を取り戻したかと思いきや、クレアと呼ばれたその小さな少女はせわしなく辺りをキョロキョロと見回してはくるくると飛びまわった。

「ここはライドランドよ。エミリーさまのご命令でわたし達フェアリーがセイバーチルドレンズを探しに来ている場所。そう言えばクレアはどうしてここに?」

「ライドランド!?きゃ〜っ!やりぃっ!ホントに着いちゃったんだあっ!しかもしかも!感じたとおりみんな揃ってる!よかったぁ〜、一時はどうなる事かと思っちゃったケドさぁ〜」

クレアは状況を把握すると小躍りしてきゃいきゃいと喜んだ。逆に呆気にとられるは傍で見ている事情が全く呑み込めない悠奈たちである。
コノコダレ?
イッタイコノジョーヨーナニゴト?
そんな考えを思い切り顔一面にかもし出し、レイア達のやり取りを見つめていた。

「あ、ユウナちゃん!それにみんな!紹介するね、このコ、グローリーグラウンドにある妖精達が住む森、フェアリーズフォレストで一緒だったクレア!地の属性を司る妖精なの」

「はじめまして〜、クレアです!よっろしっくね!」

キュン!とポーズをキュートにキメながらあいさつするクレアに一同、はあ・・・と呟きながらペコリと頭を下げた。
なんとなくレイアと同じくテンションの高いコだ。友達にすると疲れそうなコである。と、その異様さを感じ取ってか悠奈がみんなを叱咤するように「・・・って、ちっがぁ〜〜〜うっっ!」と叫んだ。

「なんなのよそのコ!妖精の森ってナニ!?またアンタの仲間?レイア!ちゃんと説明してよ!」

目の前で目まぐるしく展開する事態に悠奈は我慢の限界、レイアに対して口調を荒げて問いかける。他のみんなもそりゃそうだと言わんばかりにレイア達をジト〜、と見つめる。
その様子にレイアは慌てて答える。

「ゴメンゴメン!そうだったよね、あ・・・そだ、ねえクレア、そう言えばどうしてライドランドに来たの?もしかしてグローリーグラウンドで何かあった?」

「ううん、そうじゃないの。あのね、実はアタシもイリーナさまに呼ばれてさ・・・ライドランドにみんなのお手伝いをするようにって言われてきたの」

「なっ・・なんだって!?それホントかよ?」

「うん、ホントだよ!だってアタシわざわざ呼び出されたんだもん」

「・・ちゅうコトは、オレらの新しいコッチの世界での仲間ってコトやなウェンディ」

「そうよそうよ!スゴイ!同じフェアリーの仲間が増えるなんて心強いわ!」

イーファやヴォルツ、ウェンディまで嬉しそうに盛り上がりを見せる、すると日向が落ち着きながら言葉を選んでクレアに尋ねた。

「・・・え・・・と、つまり・・・キミはレイアとかイーファと同じグローリーグラウンドにいたフェアリーで・・・」

「レイアたちとおんなじでオレ達セイバーチルドレンズに力を貸してくれるためにココに来たって・・そーゆーコト?」

「そうなの!よかったぁ〜、ものわかりのイイコがいてくれてv」

コトの飲みこみが早い日向と窈狼の2人にクレアが嬉々とした声を上げる。そしてジロ〜っと悠奈達を見回した。

「この中に・・・まだ誰かパートナーの見つかってないコ、手ぇ〜あ〜げて!♪」

そして軽やかな声でそう言った。途端にシ〜ンとなる室内、しばしの沈黙。その後おずおずとそ〜・・とまるでクレアに気を使うように手を上げるメンバー達。

「はうあっ!?なにソレ?もうみんなパートナー決まっちゃってるの!?うぅ〜〜〜・・・そんなのないよぉ〜〜・・」

ガックリ肩を落として力なくヘナヘナとくずおれるクレア、そんな彼女にルーナやケンが声をかける。

「元気だすでしゅう、くれあ〜」

「おうよ、んなコト言ったらオレとルーナだってまだ見つけてねえぜ。んなに焦らなくっても時期が来たら出会えるもんだろ?気にすんじゃねえよ」

2人のあっけらかんとしつつも優しい言葉に、クレアは「ウン、ありがとう」と笑顔で答えた。

「よっし、んならまずやることは決まったなレイア」

突然光がそう言いだして、レイアも悠奈も「?」な顔で光を見た。

「やるコト・・・って?」

「どうするつもり?ヒカルくん」

「決まっとるやんけ。そのクレアっちゅうコも、ルーナもケンも、まだ自分のパートナー見つけてへんねん。それにユウナもレイアもまだ決まってへんやろ?」

「あ・・・」

「そういえば・・・そうだった・・・」

すっかり忘れていたが悠奈は一番初めに魔力に目覚めてセイバーチルドレンになったのに未だに自分の属性魔力がわからずパートナーが見つかっていない。今回事件を持ち込んで来た張本人のレイアですらもが悠奈と同じ状況なのだ・・・。
これでは他のメンバーに示しがつかないのではないか?根本的な事に気がついて2人はシュンとうなだれた。だがその2人に日向が明るく言う。

「大丈夫だよ!ユウナもレイアも、元気出しな!ゆっくり少しずつでもメンバーも集めて、ダークチルドレンズの企みをやっつけていけば絶対にうまくいくって、だから諦めないでまずオレ達はメンバーを1人でも多く集められるようにがんばろうよ。って言いたかったんでしょ?ヒカルちゃん」

「なんやコイツ、おいしいセリフ1人ジメしよってからに・・・ま、そーゆーこっちゃ!ナミ、お前も1度決めたからには協力してもろで」

「おっけーヒカルちゃん!まかせといて♪」

話がようやく一段落したところで、ヒカルの部屋のドアがコンコンっとノックされた。一同皆ビクっとなりながらも2度目のことなのでそれほど慌てず、落ち着いて対処できた。

「ヒカルちゃ〜ん、ヒナちゃん達いるの〜?」

「ん、なんやセンセーかいな。みんなおるで、なんやねん?」

ヒカルが答えるとドアの向こうから赤髪の美女が姿を現した。

「あらぁ、ユウナちゃんもアキちゃんも、みんなお揃いでvこんにちは」

笑顔で言われて、悠奈も、場にいるみんなも口々にあいさつを交わした。赤髪の女性、ヴァネッサは日向を見つけると言った。

「ヒナちゃん、今日ヒカルちゃんたちと一緒にJスポ行くんでしょ?」

「うん!今日はJスポで柴舟(さいしゅう)のオッチャンに剣術の稽古つけてもらうんだ」

「京くんがお迎えに来たわよ」

「え?京兄ちゃんが?」




ウィザーディア社が管理する、聖星町外れに佇む洋館。
周りに不穏な雰囲気を湛えるこの建物の内部、その広間の大テーブルで、ダークチルドレンズのリーダー、サキはメンバーの1人、ジュナとゲームを片手に話し合っていた。

「結局ユアもしっぱいしちゃったわね〜、サキ?」

「最初からあんなコに期待してないわよ。それよりまずは相手の出方を見ないと・・・失敗したって最終的には倒せばいいんだし・・」

「ふぅん・・・」

「・・・何よ?」

何か含みのある返事に不満げな声を返すサキ。ジュナが笑いながら答える。

「一番焦ってるのはアンタじゃないの?そっけないフリをして実は一番結果を気にしてるように見えるケド?」

「・・何を根拠に?」

「べっつにー、ただの、カ・ンv・・いっただきっとv」

「あっ!」

その時、サキの操る対戦ゲームのウサギのキャラクターが、ジュナの操るネコのキャラクターに魔法の集中砲火を浴び、やられてしまった。
マジック&アニマルという今少女達間で話題の育成バトルゲームである。可愛らしい動物のキャラを育てて魔法を覚えさせ、強くしてアクション形式の試合で対戦させるというシンプルかつ奥深いゲームでサキもジュナもこのゲームがいたくお気に入りだったのだ。

「くぅっ・・・」

「動揺してるんじゃない?動きが途端に鈍くなったわよ〜v」

そう言いながらジュナは紅茶をくいっと飲んで悔しそうな表情のサキに言った。

「・・・・次はアタシが行かせてもらうわ。もう1度・・・今度はアカネと一緒にね」

「アカネと?」

「そうよ、ヤツラどんどん増えていくじゃない。モンスターが居るとはいえ、コッチだって多少人海戦術組まないと・・・ジュエルモンスターが1度に召喚できる限度は2体まで、アタシとアカネがそれぞれ召喚すればちょうどイイわ」

「・・・アカネと・・・うまく組めるの?」

「悲しいかな、あんなヤツでも一応アタシの双子の妹なのよねえ・・血がつながってるからなのかしら?属性は木と炎で全く違うんだけどコンビネーションは一番とりやすいわ。いいわね?」

サキはしばらく考え込んでいたが、やがてフンと生意気に鼻を鳴らすとジュナを見据えてこう言った。

「好きにしたら?それで無理だったらアンタたちが無能だってあらためて確認できるし」

そのもの言いにジュナも言葉を詰まらせてサキを睨みつけたが、こちらも鼻で笑うとサキに背を向けて歩きはじめた。

「じゃあそうさせてもらうわね。アカネー!いるのアカネ〜〜〜っ!」

その声に反応したのか?すぐに広間の方へと金髪のヤンチャな風貌の少女、アカネが広間へと降りてきた。

「うっせえなぁ、なんだよジュナ!今ちょうどオレのガーネットちゃんのレベル上げしてたのによぉ」

「仕事よ仕事。ゲームは後にしなさい。ってかアンタ、リスにガーネットなんて名前つけてんの?センスないわね〜」

「わっ・・悪りぃかよ!?ヒトの勝手だろ!大体テメーはいつもいつもオレの気にいらねえコトばっかり言いやがって・・・」

そんな2人のやり取りを見て、サキは自分の中で成功してほしい気持ちと失敗してほしい気持ちが入り混じっているどっちつかずの感覚が闘っているのを感じていた。



「おーいユイト〜、ま〜たアイツらユウナってガキのところに行くみたいだぜぇ〜」

「・・・だな」

「?いかねえの?」

「・・・だりぃ。今日はいいや」

「えぇ〜〜〜〜っっ行こうぜ行こうぜヒマだってばよヒマヒマぁ〜〜っっ」

「るっせえってのレム。オレ、もう一眠りするわ」

「ガッコー休みだろ今日?どーすんだ?遊びにいかないのか?なあぁなあぁ行こうぜ行こうぜぇ〜〜っ!」

「だりぃって」

「うにゃぁあ〜〜〜も〜〜っユ〜イトぉ〜〜〜っっ!!」

洋館のテラスの屋根の上、そんな所で蒼みがかった黒髪の美少年、ユイトとフェアリーのレムがそんな会話をしていたことは、サキ達の知る所とはならなかった。




「・・でさ、なんで京にいちゃんがお迎えなの?今日土曜日だよ?」

「よぉー、ヒナ。なんだよそのそっけない態度、たまぁににーちゃんのバイクに乗せてやろーと思ったんじゃねえか。お?ユウナちゃんとナナちゃんも、それにヤオランも一緒か。元気そうだな」

「こ、こんにちは」

「よっす!」

「オイっス京にーちゃん元気ぃ?」

ヒカルのマンションから出た駐車場。入口の正面にはサイドカーを携えたバイクに跨った日向の親戚、草薙京の姿があった。悠奈はこの京という人と出会うのは2度目になる。
黒髪が美しい端正で男前な青年である。
七海と窈狼は顔馴染なのだろう、親しみ豊かなあいさつを交わしている。京も2、3度言葉を返しながらまた日向の方へ向き直って言った。

「なあ、ヒナぁ嬉しいだろ?にーちゃんの華麗なるバイクテク、お前に味わわせてやるぜぇ?な?一緒に行こう?」

「んーん、いいよ。オレ、ヒカルちゃんとアキちゃんと一緒に行くからさ」

「そ・・そんなつれないこと言うなよヒナちゃん。お願いだからさぁ・・・」

悠奈は突然京というこのお兄さんが頼りない態度になったことにおや?と思った。さらに日向がそんな悠奈の疑問を見透かすかのように続けた。

「今日って確かユキちゃんとデートでしょ?だから萌だって稽古お休みになったって言ってたし、オレもヒカルちゃんたちと一緒に行くつもりでここに集まってたんだよ?なんでいきなり?デートはどうしたの?」

「そ・・・それは・・・あの〜そのぉ・・・アレだ。なあ?」

「?」

しどろもどろで訳のわからない答えを述べる京、その態度に全員疑問符全開であったが、突然、七海が「あ!わかったあ!」と声を上げた。

「京にーちゃん、やっちゃったんちゃう?ホラ、今日ユキちゃんと一緒にこの前オープンしたばっかりのESAKAプレイモアドームに行ってショッピングと映画に行くって言うてたやんか。もしかしてお金なかってんやろ?」

「うっっっぐっっ・・!!??」

思いっきり「どっきーんっ!」としたようなわかりやすい表情を見て七海は「あ〜あ、やっぱりズボシや」と溜め息をつきながら言った。その言葉に日向は哀れ混じり呆れまじりの顔で京に声をかける。

「京にーちゃん・・・また?この前ウチの庭仕事手伝ってくれたバイト代におかーさんがお金渡してたのに・・・アレも使っちゃったんでしょ?で、ユキちゃんに怒られたんだ」

「はうぅぅぅ〜〜〜〜・・・・・な・・なぜわかる?」

その答えに日向と七海は「はあぁ〜〜・・」と呆れ声。周りのヴァネッサや悠奈を含む子ども達も全員彼に白い目を送っていた。

「なんで使っちゃうんだよぉ〜!?大体何に使ったの?」

「い・・いや・・その・・ソウカイテイオーが最近やたら調子がイイというもんで・・・その、なんとなく賭けてみたくなって・・」

「あ!それって競馬だ!京さん、ママが言ってたよ?賭けごとってあんまりよくないって・・・それに賭けるにしたってちょっとにしとけばよかったじゃん」

「い・・いやねヤオランちゃん、人間の心理ってのは恐ろしいもんでございましてね・・1万負けると2万!2万負けると今度は3万っ!と、ウナギ登りし気にどんどん引っ込みがつかなくなっちゃって・・・えへv」

「・・・ヒナ、ウチ、未来のおヨメさんとして1つ忠告!ヒナには京にいちゃんみたいに強くてカッコ良くなってもらいたいけど・・こーゆー無計画なトコは絶対マネしたらアカンで!イッチバンにジメツするタイプやもん」

まさに針の蓆。
公開処刑。

日向や七海や窈狼、自分より10以上年の低い小学生たち相手に酷い言われようである。しかし悲しいかな、その全てがものの見事に的を得ているため言い返す言葉もない。京は情けなさとやるせなさにガックリとうなだれ、付いて来たヴァネッサも京のあまりの威厳の無さに涙が出そうになった。

「と、とにかくだ・・・ユキが怒っちまったんだよ!激おこプンプン丸なんだよ!デート中止になったの!だからヒマになっちまったんだよ!やることねえんだよ!助けてくれヒナちゃ〜〜〜んっっさみしーよーさみしーよー!」

その場で駄々っ子のように地団太を踏みながら喚く京兄ちゃん。最早アニキとしての尊厳もへったくれもないその行動に日向は「わかった。わかったよ、一緒に行こう、Jスポ。稽古するよ・・」と21歳の大人に気を使うまだ9歳にもなってない男の子。
立場がまるっきり逆である。その様子にヴァネッサは日向が心底哀れで涙が出た。

「みんなも行く?1時間もすれば練習終わるよ?ヒカルちゃんもアキちゃんもそれぐらいでしょ?」

「ああ、どないするユウナ?みんなとどっかで時間潰すか?それとも待ってるか?」

そう光に聞かれて悠奈も考える。

1時間。
短くはないが長くもない。それにレイア達は普通の人達には見えないのだ。今日は土曜日。せっかくお休みの日に日向くんと会えたのにこの時間を無駄にしたくはなかった。ダークチルドレンズだってそんなに頻繁に襲ってはこないだろう。

「うん、アタシも、ヒナタくんたちとそのじぇいすぽってところに行く」

「そっか、なら決まりだな」

「あーーっ!アキちゃんユウナだけズルイ!ウチも!ウチも行く行く!」

「はぁ?ナナ、お前スケートのレッスン今日じゃねえだろ?」

「カンケーあれヘンがな!絶対行く行く!」

「ナナミが行くなら・・・オレも行こうかな?」

「は?ヤオが?なんで?別にヤオいらんで、帰ったらええやん」

七海のその答えに、窈狼はちょっとガクっとする。続けて七海は噛みつくような言い方で悠奈に迫った。

「ヒナと2人っきりにさせてたまるかぁこの女狐!」

「だっ・・だれがキツネよ!キツネならアンタの方じゃないっ!」

「なんやとぉ!?じゃあアンタはタヌキやぁ!?」

「もぉ、2人ともヤメロよぉ〜っ」




「へえぇ〜〜・・」

「おっきいねぇ〜ユウナちゃん」

「この世界には、城じゃないのにこんなにデッケエ建物があんのか?」

「それにこの形・・・まるで大きな大きなタマゴみたい・・・」

「ケっ・・デカけりゃいいってモンじゃねェだろ?気圧されちまってダッセエな」

「いやぁ〜、しかしこりゃちょっとビックリするやろ?なあバン」

「うおおぉお〜〜〜っっ!なんじゃコリャぁ〜〜!?丸くてデッカくってとにかくスぅゲエぞ!」

「ルーナこんなおっきなおうちうまれてはじめてみたでしゅぅ〜」

悠奈とレイアたちフェアリーの面々の目に立つ、いや聳える巨大なドーム状の建物。
スポーツジャーナリストのパパから聞いてはいたが正直、東京ドームなどのスポーツ場と見間違うばかりの立派な建物だ。

JTスポーツクラブ。日本指折りの複合企業、東グループが経営する日本最大級の総合スポーツジム。
有名アスリートを多数輩出しているこのクラブはその知名度で全国に知られるジムである。目玉はなんといっても格闘技の有名選手が所属していることだろう。
大衆的に有名なのは嵐を呼ぶムエタイチャンプとしてTHE・KING・OF・FIGHTERS出場、優勝チームとしての実績も誇るジョー東、東丈(ひがしじょう)と、同じくシューティング(修斗)でKOF優勝経験のある二階堂紅丸(にかいどうべにまる)だろう。
近年はこの所属に草薙京やルチャリブレのラモン。サイキョー流格闘術の師範、火引弾(ひびきだん)も加え、格闘家の中では知らない者のいない超有名格闘ジムとして名高い。
だが、それだけではなく、サッカー、フットサル、バスケット、水泳、フィギュアスケート、フェンシングなどなどオリンピック競技にもそれぞれ一流のコーチが所属しており、毎年多数の門下練習生が後を絶たず入会してくる。
日向はその中でも異端で今だ門下生が2人しかいない草薙流古武術を、そして七海はフィギュアスケートのレッスンを受けている。
ちなみに久遠光は修斗を、南晃はボクシングをそれぞれ紅丸と陽生から教わっているのだ。

そのジムは悠奈を遥か上空から見下ろしていて、その迫力にレイアとともにゴクリと唾を飲み込んだ。

「そないキンチョーせんでもええがな、中はただのスポーツジムやで」

「そうそう、ユウナも気軽に見学してればいいさ」

光と晃にそう言われて、悠奈とそして窈狼、那深はお客さんとしてジムの中に案内された。



「おーー、ヒナタにナナミちゃん!それにヒカルにアキラも!今日は練習かい?」

「精が出るなぁ、どうだい、サイキョー流やってみねえか?」

「あ!ホア、それにダン!」

「よ!ホアさんにダン、元気?」

格闘技教室の入り口ロビー、最初に悠奈達を迎えたのは総合マネージャーのホア・ジャイとサイキョー流格闘術師範の火引弾だった。
ホアはスキンヘッドにタイでモンコンと呼ばれるムエタイ特有のアクセサリーを身に付けた男性で、ダンは長めの髪を後ろで縛ったがっしりした体格の男性だった。

「オレ達今日練習やから、紅ちゃんと陽ちゃんおる?」

「ああ、陽生なら今ロードワーク出てったぜ、試合が近いからな・・紅丸はさっきから女子教室でレッスンしてるぜ、、もうそろそろ出てくるころだと・・・」

「どーっせ、アイツのことだ。いつも通りセクハラまがいの変態授業だろ?あーあ、レッスンの女の子たちが可哀想に・・・」

ホアと京がそんな会話をしていると悠奈たちの後ろから「誰がヘンタイだこのヤロウ!」という声が聞こえてきた。

「この俺様に向かってそういう上等な口叩いてやがんのは誰かと思やあ、やっぱりテメエか京、やれやれ品性のねえ男は・・これだからヤだねぇ〜」

現れたのは目も覚めるような、絶世の美男だった。
悠奈は思わず息をのむ。日向くんも京というお兄さんも確かに文句のつけようのないイケメンなのだが彼はイケメンという言葉すらぬるいような、そんな本当にモデルや俳優でさえ真っ青な、そう、美というものがこの世に存在するのは彼のためではなかろうか?と思わせるぐらいの美形だった。

「ん?おやおや、ナナちゃんだけじゃなくて・・ヒナタぁ、ここに可愛らしいレイディーがいるじゃないか。お前の友達か?」

「あ、うん!ユウナっていうんだ、新学期に転校してきたんだ、オレ達の友達!」

日向の言葉に「そーかそーか」と言いながら笑顔で紅丸は悠奈の手をとった。そして・・・

「ようこそ。素敵な出会いに感謝を、俺は二階堂紅丸ってんだ、よろしくな、カワイコちゃんv」

「は・・ハイ・・って、えっ?え!?ええぇぇ〜〜〜〜〜っっ!?きゃああぁあーーーーーっっ??」

瞬間、真っ赤になって悠奈は絶叫した。
紅丸が悠奈の手をとってその甲に優しく口づけしたからだ。思わずフェアリー達からは「おぉぉーーーっ!!?」というざわめきが上がる。

「ちょっ・・なっ・・なに!?なにするんですかあぁーーっっ!?」

顔をタコのように染めてアワアワになる悠奈に紅丸は腹を抱えて笑いだした。

「はっはははっ!ヒナタぁ〜、超おもしれえじゃんこのコ!可愛いなぁキミ、久々にそんなノリのイイリアクション見たよ。どうやら驚かせちゃったみたいだな。あんまり免疫なかったか。ゴメンネ」

「オイオイ紅丸、相手はまだ子どもだぜ?お前の歓迎の仕方に慣れてなくても仕方ないだろうよ」

そう言いながらまた別の人がロビーに入ってくる。
背はそれほど高くは無いが、極限まで鍛え上げられた鋼のような筋肉に、なにより酔狂にも見える眼帯のファッションが気になった。
その男は悠奈の近くまで来ると紅丸とは一転、悠奈の髪をくしゃくしゃと柔らかく撫で、豪放に笑いながら言った。

「なぁるほど、こりゃ確かに愛らしい子だ!紅丸がツバつけたがるのもわかる気がするなぁ!」

この男の名はラモン、メキシコ生まれの派手なレスリング、ルチャリブレを使いこなすルチャドーラーだった。
元は彼もヴァネッサと同じエージェントなのだが、今はエージェントの仕事の傍らサブビジネスとしてJTスポーツクラブ所属のレスラー兼子どもたち相手の「楽しく学ぼう!子どものためのフィットネスレスリング!」と題するレスリング教室の講師として働いている。

いきなりの手荒すぎる歓迎。何もかもが初めての悠奈はもうワケもわからず小さくなるしかなかった。そんな悠奈に日向が話しかける。

「大丈夫だってばユウナ!みんなオレやヒカルちゃんたちの知り合いだよ。みんなとっても優しいんだ、ユウナもすぐに慣れるって!」

「う・・・うん・・」

笑いかける日向に取り敢えずはそう言い繕う悠奈だったが、正直日向の知り合いに圧倒されっぱなしなのは否めなかった。

「京、お前の従兄弟もスミにおけねえな。もうこの年で2人も女はべらせてやがるとはよ・・・そろそろヒナタにもこの紅丸様の奥義を授けて天下無双のプレイボーイにしてやろうかな?」

「ジョーダン言ってんじゃねえよ紅丸。んなコトがバレたら俺がつぐみさんに殺されちまうよ」

和気藹藹(わきあいあい)とそんな会話をとめどなく続ける京たちを日向が「ねえ、京兄ちゃん稽古つけるなら早くしてよ〜」とせかした。

「じゃ、ユウナ、オレとヒカルちゃんたちちょっと武術の特訓に行ってくるから、その間この中ナナミに色々案内してもらいなよ。いいだろナナミ?」

「しゃあないな、まあヒナの頼みやさかいこのナナちゃんがJスポのおもろいところ案内したるわ」

その返事を受けて日向と光、晃が京や後にする。
そして七海が「さぁ〜て、じゃあ水着でもレンタルしてプールにでも行ってみようか?」と悠奈達に言った直後だった。



「ああぁ〜〜〜きぃ〜〜〜らあぁ〜〜〜〜〜っっっ!!」



そんな怒号に近い叫び声とともにロビーに突進して来た人影が1人いた。
金に近い茶髪のショートヘア、明るい橙に近いブラウンの瞳が特徴的なボーイッシュながら見た目はとっても可愛らしい女の子、悠奈達と同じ天道学園小等部の制服を身につけてロビーを見回した。

「どこだコラーーーっっ!?」

いきなり大声で女の子らしからぬ乱暴なセリフを吐く彼女、一体誰なんだこのコは?悠奈とレイアが多少ビクつきながらもその子のことを見ていると、横から声が上がった。

「なんだ?サラちゃんじゃない。どしたのサラちゃん?急に、アキちゃんがどうかした?」

「よお、咲良ちゃん、相変わらず元気そうだな。アキラに用事かい?」

「おお、ナミにホアっち、よっす!ああ!そだそだ!アキラ!アキラ知らねえ?アキラ!」

「アキちゃんなら陽ちゃんと一緒にボクシングの練習してるよ。なにかあったの?」

「ボクシングの練習だあ〜?あんにゃろう、イイ度胸じゃねえか、
このあたいとの約束カンッペキ無視しやがって・・・ん?」

と、そこで咲良と呼ばれた少女が悠奈に気付いた。
そのままツカツカと悠奈の所に歩み寄ってくる。

(え?え!?・・な・・なになに?)

眼前に歩み寄られてジロリとコワイ眼で睨みつけられて、悠奈は内心ビビリながらも、怯まずに少女の目を正面から見据え返した。

「な・・・なによ?」

「なによ?じゃねえんだよ、おお?コラ、テメエさっきからナニあたいのコトジロジロ見てやがんだよ?ケンカ売ってんのか?なぁオイ」

「は・・はあっ!?いきなり何言ってんのバカじゃん!?ソッチこそよく考えてからしゃべってよね!ダッさいしゃべり方しちゃってさあ」

「なんだとテメエ!月までぶっ飛ばしてやろうかあっ!?」

そう少女が吠えた時、那深と七海が割って入った。

「ちょっとヤメテよサラちゃん!このコそんなコじゃないったら!」

「このコがユウナなんやって、ホラ、この前サラちゃんにもウチ電話で説明したやんか!アレアレ!」

「アレ?」



「あっはっはっは!アンタがあのウワサのクール&スタイリッシュなスーパー転校生、愛澤悠奈ちゃんだったってか?いやーゴメンゴメン、勘違いしちゃったぜ」

ホアから差し入れてもらったお茶を飲みながらロビーで事情を聞いた咲良と呼ばれた少女は、自身の勘違いに気づいて恥ずかしそうに、しかし高らかに爆笑した。
悠奈はもちろんのこと、初めて彼女を見たレイアや七海の傍らのウェンディ、ケンやルーナ、ユエやリフィネなどもこのコ一体何者!?といった感じで彼女に警戒警報を鳴らしている。

「いやぁ〜、そのファッションさぁ、何っていうか気合い入ってるように見えちゃってさあ、おまけにウチのガッコの制服だし、下級生だし・・こりゃビシッと立場ってモンをわからせてやらなきゃなんねーかなぁ〜?なんて勝手に思っちゃってさ、へへっ悪かったな」

ニッコリと人懐っこく笑う姿に、悠奈も多少ぎこちなくだったが先程までの警戒を解き、どうやら悪い人じゃなさそう。と安心していた。

「え・・・と?」

「ああ、ウチから紹介するわ。このコ、南咲良(みなみさら)ちゃん、ナミちゃん達と同じでウチの学園の初等部5年生。で、アキちゃんの1コ年下の妹!」

「ちょっと気合い入ってて男の子みたいな言葉使いするけど、明るくて面白いオレ達のアネキ分だぜ」

窈狼の説明に(ちょっとかぁ?)と疑問に思わなくもなかった悠奈だが、ココは「そ・・そう・・」とあえて突っ込むのをやめた。
七海や窈狼が言うからにはきっと根はイイ人なのだろう。

「ところでサラちゃんアキちゃんがどうかしたの?なんかスゴク機嫌悪そうだけど・・」

「そうそう、アキラくんなら陽生くんと一緒にボクシングの練習してるケド・・・」

那深と窈狼の問いに咲良はそうだったと思い出したように怒り出した。

「そうなんだよ!アキラ〜・・あのヤロー、今日は1日あたいとデートで映画見るって約束だったのにさあ・・・すっかり忘れてやがって!あたいが起きたらもういねえじゃねえか!ったく意味わかんねえっ、それでいてボクシングの練習だなんて・・・ゆるさねえ。練習なんざ知るか!」

そう言ってすくっと立ち上がると決意に満ちた表情でズカズカとジムの練習室の方へと歩き出した。

「ちょっとちょっと、サラちゃんええの?練習ジャマしちゃって・・陽ちゃん怒らへん?」

「べっ・・別に・・・アニキなんて・・コワく・・ないモン・・」

その咲良の様子が先程までの強気な姿勢と打って変ってなにかに怯えているような態度に見えたのは多分間違いではなかったのだろうと、悠奈は後になって確信した。

「サラちゃんよしなさいよぉ、また陽ちゃんに怒られちゃうよ?・・・あ!そうだ、イイコト思いついた!ひょっとして・・・」

「?なんだよナミ、急に声あげたりなんかしてさ」

咲良が那深に問いかけると同じくらいのタイミングで、那深は悠奈と七海、窈狼、それにフェアリー達を呼び寄せてヒソヒソと相談した。

「ねえねえレイアちゃん、リフィネ。新しいメンバーさぁ・・サラちゃんじゃダメ?」

「ええっ?」

「ちょっ・・マジで?ナミちゃん・・」

那深の提案に悠奈はもちろん、あの神経の太い七海も流石に尻込みしている。そんな悠奈たちに那美はニマニマした顔で続けた。

「だってぇ、アキちゃんがメンバーに入ってるのよ?サラちゃんはアキちゃんの妹なんだから、出来ないかな?セイバーチルドレンズ?」

「いや・・でもさあ、あんまりにも急じゃね?」

「そうよナミちゃん、もしビックリさせちゃってセイバーチルドレンズのコトが普通の人達にバレちゃったらどうするの?」

窈狼もリフィネも注意を促す、他のフェアリー達もウンウンと同意。しかしそんな中・・・

「・・・アタシ、お願いしてみる!」

「!・・レイア!?」

「そうだね、やってみる価値はあるんじゃないかしら?」

レイアとクレアだけは那深の意見に賛同し、咲良にグローリーグラウンドのことを説明しようと決めた。

「ちょ、ちょっとレイア、クレアも・・そんなイキナリ・・大丈夫なの?」

「気づいたことがあるの。彼女の中にも悠奈ちゃんたちと同じかすかな魔力を感じる。もしかしたら、セイバーチルドレンズになる資格を持ってるかもしれないもの」

「そ・・そうなの?」

悠奈は言われてあの口調のやんちゃな例の女の子を見つめた。

「なんだよ・・・さっきからあたいだけ仲間ハズレにして何話してやがんだ?アヤシイじゃねえかよ」

腕組みをしてそんなことを言う咲良に悠奈は「もう少し人選べないのかな?」と心の中で言った。
レイアは悠奈がそんなことを考えているうちに咲良の目の前まで飛んでいき、そして手を咲良の眼前に翳して呪文を唱える。

「この子の中に眠る魔力よ・・・お願い、わたしの声に耳を貸して、今こそ・・目覚めて!」

「あのさあ、咲良ちゃんさあ・・・これから起こるコト、驚いちゃうと思うけど、落ち着いてアタシ達の話聞いてね?」

「は?なんだよソレ?一体何が起こるってんだよ?」

那深にそう答えた瞬間、咲良の目の前に突然。
そう、まさに突然である。レイアとクレア、小さな小人が宙に浮いて自分を見据えている姿が見えた。

「・・・・え?」

「はじめまして!サラちゃん!」
「グローリーグラウンドから来たフェアリーのレイアとクレアです」

一瞬の沈黙。
続いて起こったのはもう当然の反応と言えるだろうが「ぎゃああぁぁ〜〜〜〜〜〜っっ?」という空気を切り裂く絶叫だった。ヘタリ込み、尻もちをつきながら後ずさる。
その様子に那深だけは腹を抱えて爆笑している。そんな那美を見て悠奈たちは思った。

ナミちゃんて意外とコワイ・・。

「なっ・・なっ・・なんなんだよ!?なんなんだよコイツら!?おっ・・お化けえぇ〜〜〜っっ??」

「やあねえ失礼な!お化けじゃないわよ」

「フェアリー、妖精よ、よ・う・せ・い!」

「よっ・・・妖精だあぁ?ジョーダンじゃねえよ!そんなハナシ信じられるか!?」

「まあまあ、アタシ達から説明するから。サラちゃん、よく聞いてね」

那深の言葉に、もう何が何だかわからない咲良はあいまいに頷くしか出来なかった。




JTスポーツクラブ内部にある体育館アリーナ。
巨大な面積を持つこの施設はバスケット、バトミントン、バレーボールなど複数の競技の練習が一度にできるほどの広さを誇り、このクラブの自慢の1つでもある。
今日もスポーツクラブの少年少女達が自分たちの腕を磨くべく、練習に励んでいる。
その一角に、一見見学者のような風体を装っている2人の少女がいた。

「ったく、まさか今日お前と組まなきゃなんねえとはな・・・ジュナ、テメエ足ひっぱんなよな?」

「それはコッチのセリフよ!もうアンタの尻拭いなんてアタシ、ゴメンだから」

「んだとぉ!?」

ダークチルドレンズの2人の姉妹が息の合った姉妹喧嘩を繰り広げる。やや言い争いあった後、ジュナは懐から緑色の宝石を取り出した。

「今回は失敗は許されたないからね・・・アンタも準備はイイ?」

「誰にいってんだ?いつでもいいぜ」

「「闇より出でし邪なる石、ダークジュエルよ、我が闇の魔力に答えその力を示せ・・!」」

緑色と赤色、それぞれの石がまるで意思を持ったかのように空中を疾駆し、それぞれ通気口と館内の照明器具に突きささる。
みるまにドス黒い妖気が上がり、その中から雲のようなモンスターと、電撃の蛇のようなモンスターが姿を現した。

「うっわあぁあぁ〜〜〜〜っっ?」 「なんだ一体!?」 「バケモノだあぁ〜〜〜っっ」 「きゃあぁあ〜〜〜っっ」

沸き上がる悲鳴、泣き声、逃げまどう人々を見ながらジュナとアカネは楽しそうに高笑いを上げた。

「アッハハハ、イイ気味!この瞬間がチョー楽しいのよねぇーっvさあ、やっちゃいなさいエビルガスト!」

「よぉ〜し、やっちまえスパークスネーク!」

「む゛もぉおぉ〜〜〜っっ」

「シャッシャッシャーーーーッッ!」




「・・・ふぅ〜ん・・グローリーグラウンドかぁ・・ホンっトにそんなトコがあったなんてな・・」

「そうなのよ!アタシたちはそのメイガス・エミリーの野望を打ち砕くためにこの世界まで来たの」

「で、そのエミリーとかなんとかの、悪い企みをやめさせることが出来るのが・・?そのセイバー・・チルドレンってヤツらで、あたいにその1人になれってか?」

「そうなの!お願いサラちゃん!」

「ね?ね?面白そうでしょ?一緒にやらないサラちゃん?」

あれからコトの次第を順を追って説明したレイアとクレアとそして那深と悠奈。
フェアリー達が本物であること、ここではない魔法の王国があるコト、そしてエミリーとその野望、ダークチルドレンズにセイバーチルドレンズ。
咲良も思ったよりは気が座っていたようで、最初こそ驚きはしたが、今はロビーのソファで真剣に悠奈達の話を聞いていた。幸いなことにその時ロビーには人気は無かった。
説明を聞いて咲良はしばらく考え込み、そしてレイア達の方を向いてこう言った。

「ソレって・・・アキラもやってんのか?」

「うん!そうだよ!アキラくんもアタシ達の仲間の1人!」

「よし、那深!交渉成立ってヤツだな。このサラちゃんも力かしてやるぜっ!」

「ホントぉ!?きゃーっやったぁ〜!ホラホラ、アタシの言った通りじゃん♪サラちゃんならそう言ってくれると思ってたもんv」

「よろしくな!ナナ、ヤオ!それに・・・ユウナ!」

「あ・・えっ・・ハイ。よ、よろしくサラ・・さん」

「なんだよその呼び方・・・可愛くねえなあ。さんづけはやめてくれよな」

ニッコリ笑ってまるで昔からの友達のような人懐っこい接し方、最初の印象とは大分違う、明るくて可愛らしい女の子だと悠奈は思った。

「・・・うん、ヨロシクね・・」

若干呑まれつつも笑顔で場が和んだ、そんな時だった。

「?なんや?ヤケに騒がしいな・・・」

「ホントだ。体育館の方から聞こえる・・・悲鳴?かな・・どうしたんだろう?」

七海と窈狼がふと聞こえた悲鳴のような声に気をとられた、その時だった。クレアの顔が急に引き締まり、辺りをキョロキョロと見渡したのだった。

「これは・・・レイア!」

「うん!わかってる、ユウナちゃん!ジュエルモンスターの気配よ、この近くにいる!」

「ええぇぇ〜?ちょっとまたぁ?」

「ってコトは・・ダークチルドレンズ!?」

「そうなんやろな。ったく、うっとうしいでぇ、ウェンディ!」

「オッケー!行くわよナナちゃん!」

いきなりいろめき起つ悠奈達に、咲良は困惑しながら那美に尋ねた。

「?な・・なんだ?何があったんだ?」

「早速出番よサラちゃん!そのダークチルドレンズが現れたみたい」

「え?え!?ええぇぇえぇ〜〜〜〜〜っっ??」




「ああ!」

「またや・・・今度はアリーナで練習しとったスポーツキッズクラブの子達まで・・・」

悠奈達の目の前に広がっていた光景。
アリーナの床に苦しそうな、悲しそうな表情で眠らされ倒れ込んでいるスポーツクラブの少年少女達に指導員の大人。
そしてその中央で唸り声を上げる2体のモンスター。

「オイオイ!なっ・・なんなんだよこの状況・・それに・・なんなんだよあのデッカイバケモノっっ」

「アレよサラちゃん、さっき話したジュエルモンスターってのは、人間の心にイヤなものを生みつけて苦しませるの」

「ま・・マジだったのかよあのハナシ!?・・ホントにホントだったのかよぉ?」

「ウソ言ってどうすんのよ?」

突然広がった本当にゲームや漫画の世界観に、流石の咲良も度肝を抜かれ、その場に呆然と立ち尽くしていた。そんな咲良を尻目に悠奈は辺りに目を走らせる。

「また・・ダークチルドレンズ!」

「あっははははっ!」
「きゃはははははっ♪」

そんな高慢な笑い声とともに、アリーナの2階席に2人、悠奈も七海も見覚えのある少女達。

「あっ・・アンタたちっ!」

「お久しぶりねえ、ユウナちゃん!元気そうでなによりよ」

「お前まだオレたちに逆らって無駄な抵抗してるみてえじゃねえか、さっさとあきらめろよなったくw」

「確か・・・前に1度アタシ達を襲ってきた・・・」

「覚えててくれたんだ、ジュナよ」

「アカネだぜ、この前はよくもやってくれたなぁ・・倍にして返してやらあっ」

名前までは覚えていないが、以前悠奈たちの前にジュエルモンスターと一緒に現れたダークチルドレンズのメンバーだった。

「アンタら・・性懲りもなくまたこんなヒドイこと、許さへんからな!」

「へっ、上等!リターンマッチと行こうじゃねえか」

アカネがそう悠奈に向かって凄んだ時、「ああぁーーーーっっ!?」という絶叫が館内に響き渡った。

「なっ・・なによ!ちょっとおっ!」

「今せっかくオレがカッコよくキメたところなのにジャマすんなって・・・」

「アカネぇ〜〜っっ!?それにジュナぁーーっ!!」

「え?」と一同全員声の方を振り返る。
見ると咲良がジュナとアカネに指を突きつけていた。一瞬時間がとまり、刹那。アカネとジュナからも「ええーーーーっっ!!??」という絶叫が上がる。

「さっ・・さっ・・サラぁ!?」

「テメエなんでこんなトコに!?あ!よく見りゃナミまでいる!なんでぇ?」

「そりゃコッチのセリフだ!なにしてんだおめえらっこんなことしてっ!」

「ホントよ!今アタシも気づいた!ジュナちゃんにアカネちゃん、どうして?なにしてんのそんなトコで!?」

「・・ってコトは・・え?え?ここって・・・Jスポ?アタシたちが襲ったスポーツジムってJスポだったんじゃないの!?」

「って今さらかよ!?」

動揺するジュナにアカネが素早く突っ込む。

「ん?・・なあオイ、ジュナ・・じゃあさあ、ひょっとしたらオレたちが知らない間にさ・・もしかして・・アイツも?」

「え?・・まさか流石にそれはな・・・」


「オーーイ!ユウナーーーっ!みんなぁーーーっ!」

と、姉妹2人が内輪で話をしている間にアリーナに響いた声、悠奈たちが振り返ると、日向、光、晃の3人が館内に駆け込んできていた。

「ヒナタくん!みんなも!」

「いやぁ〜、まいったで。イーファやバンのヤツが闇の魔力を感じる〜とかなんとかいうてやな。練習抜けて急いで駆けつけたんや、どうやら間にあったみたいやな」

「ああ、ってオイオイ!今日はでっかいモンスターが2匹もかよぉ〜?メンドくせえなぁ・・一体どんなヤツが操って・・・」

晃がそう言いながら後方の少女達を見つけた時、同時に「ああぁあぁぁぁーーーーーーっっっ!!」とまた絶叫が上がった。

「あっ・・あっ・・アキちゃんっ!!」
「ウッソだろ!マジかよなんでアッキーまでぇ〜〜〜っっ!?」

「ん?アレ?お前ら・・・アカネとジュナ!なんでお前らこんなトコにいるんだ?」

「・・・理由なんて1つとちゃうか?アカネ、ジュナ。お前らもミウと同じで、なんや知らんうちに敵さんの口車にのったかなんかでこういうことに力貸してんねやろ?」

光が厳しい口調で咎めるようにアカネたちに話す。当のアカネとジュナは知り合いとのあまりに唐突な邂逅に戸惑いを隠せず、ひどく狼狽していた。

「ひ・・ヒカル先輩まで・・・どーゆーコト?」

「うっ・・うっせーな!ヒカルにはカンケーねえだろ!ほっといてくれよもう!大体・・・なんでヒカルやナミまでセイバーチルドレンズなんかやってんだよ!?オレらの仲間に入ればいいじゃねえか!」

「・・・アキラ、どうやらアイツらもダークチルドレンズの1人やと認めんとイカンらしいな」

「ったく、やれやれだぜまったく・・・ってかお前らこんな悪いコトして大丈夫なのかよ!?かーちゃんにバレたらメッチャクチャ怒られるんじゃねえか?」

「しっ・・知らないわよそんなコト!あ・・アタシたち家出しちゃったんだから!」

「そーだよ!もうあんな怒りんぼでわからずやなママなんか大っキライなんだからよオレたちはよぉ!もうメンドくせえや!アッキーとサラもまとめてやっちまえスパークスネーク!エビルガスト!」

アカネが号令を出すと、それまで動かなかったモンスター達が吠え声を上げて悠奈たちに迫った。

「アキラ!なんかよくわかんねえケド、アイツらとめねえと・・とくにアカネのバカは何するかわかんねえぞ!」

「ん?・・・ってかオイ!サラ!!なっなんでお前までこんなトコに!?ってか・・え!?え!?なんでバンたちのこと見えてんだよ!?」

「説明はアトだろ」

「後って・・お前・・・ワケわかんねえだろうが!」
「うっせーな!あたいだってワケわかんねーんだよ!!」

「みんな・・・来るよ!ヘンシンして!ほらユウナちゃん!」

「ああもう!うるさいわね!みんな混乱しすぎよ!」



『シャイニングスパーク・トランスフォーム!』

咲良の目の前で、悠奈たちの姿が突如、眩い閃光に包まれた。咄嗟に顔を覆った咲良だったが、それも一瞬のコトで、再度眼を向けると目の前で見る見るうちに悠奈達が光の中で見たこともない衣を纏って衣服や頭髪までが変化してゆくのを目の当たりにした。
あっという間に輝きの中から変身したみんなが現れたのだった。

「へ・・ヘンシンしやがった・・・マジで・・・こ・・コレが?」


「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「大いなる青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」
「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「拳の闘気は雷神の魂・・セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」
「根性全開、爆裂!男気一直線!セイバ−チルドレン・ガッツストライカー!」
「大地の恵みは緑の息吹・・セイバーチルドレン・ミスティメイジ!」


「セイバー・・チルドレン・・・?」

自分の目の前で変身した友達を見た時、咲良は何か晃や那深たちが、すごく遠い世界の人物になってしまったように思えてしまった。

「こっちだっていくわよ、アカネ!」

「命令すんなっつーの!わかってらあっ」

「「ダークスパーク!トランスフォーム!」」

と、今度は紫色に妖しく発光する光にジュナとアカネが包まれる。不気味な閃光の中、悠奈たちと同じように変身した。
ジュナはグリーンのスリットが入ったミニスカートのワンピースにブレストアーマーを付け、ピアスとティアラ、胸にエメラルドグリーンの宝石をあしらったリボンをしたコスチューム。
アカネは頭髪の前髪のブロンドが鮮やかなピンクに染まり、ピンクのリボンの様な髪留めには真紅のトパーズのような宝石。赤のジャケットにミニスカート、青のタンクトップといったガールスカウトのようなコスチュームだ。

「これでコッチも条件は同じよねぇ」
「さあて、楽しもうじゃねえかよ」

アカネがポケットからサモンボールという黒い球を取り出すと、宙に投げる。そこからジュエルモンスターに加えて、グローリーグラウンドのモンスター達が召喚されるのだ。
今回中から現れたのは真黒い大きな烏(からす)のような鳥のモンスターと、巨大な芋虫のようなモンスター、さらには赤色のスライムだった。

「ぎゃぁ〜〜っっ!あんなキショク悪いんカンベンやぁ〜っっ」

「ホントぉ・・うえぇ〜ヤダぁ〜・・」

気持ちの悪いモンスター、特に芋虫とスライムに七海や那深の女の子陣は嫌悪感を露わにする。言葉には出さなかったが悠奈もあからさまに気味の悪い顔を浮かべた。

「うっふふふvバッドクロウに、ワーム、それにレッドスライム・・さあ、エビルガストとスパークスネークもいてこれだけのモンスターを相手にできるかしら?」

ジュナが意地悪く笑うと、咲良が驚き戸惑って思わず傍にいたクレアに叫ぶように問い尋ねる。

「なっ・・なんだってんだ!?オイ!なんだよアレ!なんかあのボールみたいなモンから穴が出てきてそっからまたバケモノが飛び出て来たぞっ」

「あれは、サモンボールっていって、グローリーグラウンドのモンスター達を召喚できるのよ。サラちゃん、後で教えてあげるから、大人しくしててね!」

混乱する咲良をクレアがかいつまんだ説明で落ち着かせる。その間に闘いが始まった。

無意識の内にヒカルとアキラが2体の大きいジュエルモンスターに挑みかかる。

「どりゃあぁっ!」
「おらあっ!」

まずは突進からの渾身の一撃。
それぞれ雲のモンスターと電気の蛇のようなモンスターの体に攻撃が喰い込んだ。だが・・・

「どっ・・おお!?わ!」
「うぐわっっちっ・・」

光はそのまま体勢を崩して床に倒れ込み、晃は体に何か電撃のようなショックを感じて倒れた。

「なっ・・なんや?攻撃が・・・」
「効かねえ・・それに、コイツ体が電気で出来てんのか?ビリっときやがった・・ヘタすりゃコッチが痺れちまう・・」

「この前のモンスターとは一味違うのよ。ヒカルくんもアキちゃんも注意しないと大ケガするわよ!そ・れ・に!」

「今回はオレ達だって戦ってるんだってコト・・忘れてんじゃねえよ!」

ジュナとアカネがそれぞれ弓を放ち、ナイフで斬りかかって来るのを光と晃はどうにか躱す。

「あっぶねえなオイ!」
「そんなんで刺されたらイタイやろうが!コイツぅ!」

「ヒカル!アキラぁ!」

訪れた晃と光のピンチに、咲良は悲鳴を上げる。
訳もわからず右往左往することすらできない彼女の横で、さらに別の闘いも繰り広げられる。

「やあっ!であっ!」

「ハイっ!ハイッ!はいやぁっ!」

空中から襲い来るカラスのモンスター、バッドクロウを日向が召喚した剣で、窈狼が手甲と拳撃で応戦する。素早い鳥にはじめは苦労したが、段々と慣れて来た時、それぞれがカウンターで一体ずつ屠り去った。
しかし喜んでばかりもいられない。依然としてカラスのモンスターはまだ残りがいるし、何より悠奈たちの手助けもしなければならない。
日向と窈狼に光と晃の支援にまで回る余裕は無かった。
一方の悠奈、七海、那深の女の子達も、それぞれハートフルロッドとコルセスカ、シードスタッフの武器をそれぞれ召喚しているがこちらはこちらで激しい戦いを繰り広げていた。

「きゃぁ〜〜〜っちょっとヤダ、もぉ〜キモイ〜〜っっ!」

「ウチこ〜ゆ〜モンスターいっちばんキライーーっっ」

それぞれロッドと長刀をブンブン振りまわしてわらわらと迫りくるスライムと芋虫をバコバコ叩いていく。戦闘力云々以前にこの魔物達の存在が生理的に受け付けない2人はまるで戦いになっていなかった。
しかし、その2人をメンバーになったばかりの那深が救う。

ゴオッ!と空中を焦がす空気と音がしたかと思うと、芋虫とスライムが炎の球に吹き飛ばされていた。悠奈と七海が目を向けた方向には突き出した掌から煙を上げている那深の姿だった。

「な・・ナミちゃん?」
「それって・・・ヒナの・・」

「ファイアボール。リフィネに教えてもらってね、ちょっと練習してみたの。どうやらアタシ、自分の属性にない魔法でも使えるみたい」

「すっ・・スゴイ・・魔法練習したんだ!」
「キャー!しかも色んな魔法使えるやなんていいなあ、ねえねえ!他にも見せて見せて!」

そんな戦いの場には似つかわしくない場違いな声がきゃいきゃいと上がる。

(す・・スゲエ、アキラやヒカルはともかく・・あのユウナってコやナナまで、こんなバケモノ達と堂々と戦ってる・・オレも・・オレも何かしないと・・でも・・)

咲良は悠奈たちの戦いを見て一種の焦燥に駆られていた。
年下の日向や七海たち、カワイイ幼馴染が頑張っているのに自分はただただ見ていているだけ。一体どうすれば?
何かしなければいけないとは思っていても、どうすればいいのかまったくわからなかった。

一方、敵方であるジュナとアカネも徐々に焦りだしていた。
自分達が召喚したモンスターは最初こそ優勢だったが確実に日向と窈狼に対応され、数がどんどん減っている。
また、ワームとレッドスライムもそうだ。あの那深の放った魔法で先程までにモンスターの気持ち悪さに押され気味だった悠奈と七海も那深が放った一発の魔法で起死回生。
自信を取り戻し恐怖を取り去ると、連係プレイで確実にモンスターの数を減らしている。さらには今自分達が相手にしている光と晃だ。
ジュエルモンスターの攻撃を受け付けない体にはじめは苦戦し、自分達との連携攻撃でしばし追い詰めたコトもあったが、戦っている内に光と晃がそれぞれモンスターの弱点が眼と、額の宝石部分と理解すると光も晃も打って変って別人のように動きが滑らかかつ躍動的になり、ジュエルモンスターに確実に攻撃によるダメージを与え、かつ自分たちも同時に相手にしているのだ。

強い。
このままではまた失敗になるやもしれない。そんな考えが浮かびあがった時、アカネはふと、離れたところで1人怯えるように立ち尽くしている咲良に眼をやった。

(!・・そうだ!)

突然走り出したアカネ、しかしその方向には光や晃はいない。意外とも思える行動に晃も光も反応が遅れたのだ。アカネの目的に気づいた時には・・

「よお!サラ、こんなトコで1人で何してんだよ?」

「なっ・・なにって・・あたいにだって何かできるコトないかと思って・・だから・・」

「ハっ!変身もできねえクセに生意気言ってんじゃねえよ!悔しかったらヘンシンくらいしてみろバーカ♪」

「っ・・だとテメエっ!」

小馬鹿にされた事についカッと来て咲良は思わず殴りかかってしまった。しかしそれを身を捻って躱すアカネ。するとそのまま突き出されていた咲良の拳を掴んで羽交い絞めにし、自分の短剣を咲良の頬辺りに突きつけた。

「へっ!バーカ。変身も出来てないオメエがオレに勝てると思ったのかよ?いつものケンカたあ違うぜ」

「くっ・・あ・・アカネ、テメエっ!」

「サラ!」

「しもた!アイツ・・サラを狙っとったんか!?」

完全に不意をつかれた晃と光。悠奈たちもその様子を見て動きが止まる。形勢が逆転したのを見てジュナは「なぁんだ。アカネのヤツ、結構ヤルじゃん」とほくそ笑んだ。

「ひっ・・卑怯!その子を放して!」

「バーカ、簡単に放すかよ。放して欲しけりゃホラ、そこのレイアってフェアリー渡しな!」

「っ・・どうすれば・・」

那深と悠奈が剣を突きつけられた咲良の姿に歯ぎしりする。咲良としても悔しさで腸が焼ける思いだった。
自分が今、取引の材料にされている。自分が弱いせいで、こんな屈辱的なコトは無い。
しかも自分に今剣を向けている相手は昔からなにかと張り合ってきたライバルだ。それなのに・・・

「クソ!・・アカネ!テメエ、こんなコトして、後でぶっ飛ばしてやるからなっ」

「言ってろよバーカ。何にもできねえクセによ。ジュナー、いつものヤツ行くぜ!」

「オッケーv」

2人して合図を取り合うと、アカネは腰のバッグからロープのような物を取り出し、ジュナは弓を何やら虚空へと構えた。

「言い忘れてたけどなあ・・・お前たちセイバーチルドレンズにもそれぞれ得意技能を生かしたジョブってのがあるだろ?オレ達にもあるんだよ。オレは曲芸師・タンブラー、ジュナは弓使い・アーチャー!」

そう言うとアカネはロープを上空へと放るとまるでロープが生き物のように輪を描いて空中で静止する。そしてアカネがパチンと指を鳴らすとそれにあっという間に炎がともった。その火の輪目掛けてジュナが矢を放つ、すると輪を矢が通り抜けた瞬間、火の輪から小さい火の球が雨霰のように悠奈達へと降り注いだのだ。

「っきゃあぁぁっっ」
「あちっあちあちちちっっ・・・なんやねんもぉおっっ!」
「あっつぅ〜〜いっっ」

アリーナの床が煙を上げている。ダメージ自体は大したことないのだろうが、まだ子どもの悠奈達は突然自分たちに放たれた怖くてぶっそうな攻撃にもはや涙目である。

「なっ・・なにすんのよぉっ!?」

「思い知ったか!?さあ、もうイタイ思いしたくないならさっさとレイアってフェアリーよこせよ!」

「その方がかしこいわよユウナちゃんw」

すっかり得意気になって笑うアカネとジュナ。そんな2人を見て、クレアは思い切ったように咲良の方へ飛んで行った。

「クレア!アブナイ!ドコ行くのっ?」

「オイ!そっちはテキがいやがんだぞ?戻って来いっ!」

ユエとケンが必死に叫ぶも、まるで聞こえていないと言わんばかりにクレアは一直線に咲良の方へと向かう。

「!なっ・・なんだオマエ?」
「クレア!?」

「サラちゃん!お願い!アタシたちに力を貸して!変身して!」

「あ・・あたいが?」

「サラちゃんはアタシ達を信じてくれたよね?魔力は信じる心、夢見る力なの!サラちゃんがアタシ達を・・自分の中の可能性を信じる心があるならきっと魔力は答えてくれる!信じてサラちゃん、自分の可能性、信じる力をっ!」

「信じる・・力?」

「ウゼエってんだよっ!」

「あうっ!」

その時、咲良の目の前にいたクレアをアカネがはたき落した。地面に転がるクレア。

「クレア!・・ちっくしょおっ!」
「きゃっ・・あ!?」

しかし、瞬間、腕が緩んだ隙を見逃さず、咲良は思い切りアカネを突き飛ばした。尻もちをつくアカネ。そしてクレアに近寄って抱き起こす。

「クレア・・・」

「・・大丈夫よ、ね?できるよサラちゃんなら。だから、お願い・・」

その時、咲良の胸ポケットから眩い光が上がった。何かと思って取り出してみる。するとどうだろう?咲良の携帯電話が真っ白な光に包まれて、見たこともない装飾が施されていた。

「こ・・コレって・・・」

「サラちゃん、イケるよ!」

刹那。ドクン、と咲良の中で何か大きなものが激しく脈打った。


「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」

咲良が大きく叫ぶと、その体が突然眩いばかりの閃光に包まれた。瞬間、咲良の体を悠奈達のような光の帯が包みこみ、バトルコスチュームを形成する。
光の爆発の中から現れた咲良は赤紫のビキニブラのようなキャミソールとキュロットスカート、青色の腰帯をして肩には薄手のバイオレットショール、手には大きめのリストチェーンをしている。頭髪がやや跳ね気味逆毛チックのパンクスタイルになり、後ろでレッドの髪留めでまとめているスタイルだった。下にはヒールサンダル、そして腰には何かアイテムが入っていそうなポシェットを身に着けていた。

「地を行き巡るは勝負の理(ことわり)・・セイバーチルドレン・グリットギャンブラー!」

「サラちゃんっ!」

「な・・なんだって・・?そんなバカな!?まさか、サラまでセイバーチルドレンズなんてっ!」

「ウ・・ソ?・・・あたいが?ヘンシン・・しちゃった・・」

自分の姿を見て驚き戸惑う咲良に、クレアが「やったねサラちゃん!」と抱きついた。

「アタシ、信じてた!サラちゃんが絶対にセイバーチルドレンズに・・アタシたちの仲間になってくれるって!」

「クレア・・ホントに・・あたい・・」


「マジか・・?サラが?」

「オイオイ!やったやないかアキラ!お前ら兄妹(キョーダイ)そろってヘンシンチームや!」

「サラちゃんが、新しい仲間だったなんて・・すっげえっ!」

「あの変身、なんかカッコイイじゃん!」

「グリットギャンブラー・・・ウンウン、なんかカッコ良くってサラちゃんっぽくてメッチャ好きやウチ!」

「やっぱりねえ〜、ホラ!ナミちゃんの予感的中でしょおv?サラちゃんなら絶対に仲間になってくれるって思ってたもん」

他のメンバー達も変身した咲良の姿を見て口々にそう言う。悠奈とレイアは咲良に近づいて、ニッコリと笑いながら言った。

「まあ、なんていうかさ。メンドウ事に巻き込まれちゃったってカンジだよね?でもこれから一緒にガンバって乗り切ろう!ね?」

「よろしくねーvサラちゃん!」

悠奈とレイアの笑顔を見て、咲良もようやく笑うと「なんかよくわかんねえケド・・・おう!よろしくな!」と元気に返した。

「さぁ〜て、アカネぇ〜・・さっきまではよくも好き勝手やってくれやがったな、倍にして返すぜ!」

「うっ・・うるっせえっ!返り打ちにしてやんぜ!炎神イフリートよ、我が声に耳を傾けその大いなる力を我が前に示せ・・ファイアボール!」

アカネが呪文を唱えて咲良に向けて魔法を放ってくる。しかし咲良も負けじと同じタイミングで呪文を唱えると、その魔法を正面から迎え撃った。

「大地に眠りし精霊ノームよ、我が声によって目覚め大地の牙をもって悪しき者を打ち砕け・・ダイヤファング!」

咲良の掌の中に生み出された鉱石の刃がアカネのファイアボールと正面から喰い合い、そして四散した。

「えっ・・えぇーーっ!?そんな・・オレの魔法が・・・」

「センティピードストリングス!」

咲良は流れるような動きで両腕の手飾りをチェーンのような武器に変えると、それを振りかざしてアカネに襲いかかった。
ガキィンっ!と鋭い音、間一髪。アカネは自らの短剣でそのチェーンを防いだ。
両者競り合いの攻防。

「くうぅっ・・っ」

「コレが魔力ってヤツか?・・へへっ、スッゲエなアカネ。泣き虫ちゃんのお前がヤケに強気だったのもナットクだぜ、どんどんどんどん、頭の中に呪文みたいなもんが流れてきやがるのさ」

「ちょっ・・ちょうしにのんなよっ!ジュエルモンスターがまだ残ってるんだ!アイツら2体が本気で襲ってきたらお前らなんか・・・」

「じゃあソイツも止めてやる!」

咲良は言うとアカネから離れてポシェットから何やらサイコロのような物を取り出し、空中へ投げた。

「ダイスルーレット!」

投げたダイスがそのまま宙に制止し、次いで宙でクルクルと激しく旋回する。そして2と2の目をたたき出した。

「フォーダイス、ブレインショック!」

咲良が叫ぶと光と晃が相手にしていた2体のモンスター達が突然痺れたように体を硬直させ、脳震盪でも起こしたようにフラフラと揺れ始めた。」

「!?・・何だ?何が起こったんだ?」

「サラのヤツが何か言うた瞬間、コイツら、まるでピヨったみたいに・・・」

「今だぁーっ!アキラ!ヒカルぅ!ぶっ飛ばしちまえぇーっ!」

サラが自分たちに向かって笑顔で叫んでいるのがわかったので、取り敢えずチャンスと見た晃と光はそれぞれ右ストレートと飛び回し蹴りでモンスターを派手に倒れ込ませた。

「きゃああっ!?ちょっ・・ちょっとなんでコッチに蹴るのよアキちゃん!センパイ!アブナイじゃないっ!」

危うくモンスターの下敷きにされそうになったジュナの非難を無視し、「今や!ユウナ!」と光が悠奈にGOサインを出す。
悠奈はOKとうなづいてモンスター達の正面に走り込み、ロッドを構えてキメ技を放った。


「悪い心は聖なる光で飛んでいけ!シャインハートフラーッシュ!」


ピンク色のハートの魔法光が2体のモンスターを包み込み、その姿を消し去った。

「やったぜユウナ!」

「やったぁ〜っかったかったぁ!」

召喚されたモンスターもいつの間にか日向や窈狼、那深の活躍で全滅しており、直後、モンスターが壊した個所やジュエルモンスターの媒体となっていたカラスや通気口も元に戻っていた。
周りの人間が意識を取り戻し始めたため、即座に変身を解いて元の姿に戻る悠奈やジュナたち。


「どうして・・こんなこと?」

「ハン!うるっせえな、おもしろそうだったからだよ!文句あるか!?」

「あるに決まってんだろこのバカネ!みんなにヒドイことしやがって今すぐやめろ!」

「テメっ!バカネっつったな!このぉ!」

JTスポーツクラブのアリーナ脇にある休憩所、そこで再び変身を解いたアカネと咲良が喧嘩になりそうになっていた。正に一足触発。
さらなる衝突が起こりそうになった時、周りよりも先にふと、上から咲良とアカネの間に割って入る影があった。


「ハイ、ストップ。そこまでにしとけよ我がまま姉妹たち」

現れたのはアジアンブラックの蒼みがかったサラサラのストレートヘアを揺らして、人を喰ったような表情が特徴の美少年だった。

「ゆっ・・ユイト!!?」

「ユイト!どうしてアンタがココに!?またジャマしに来たの!?」

「んっだよズイブンな言い方じゃねえ?せっかくお迎えに来てやったってのにサv」

「しっしっし!そうそう!今日も無様に負けてたなぁ〜vおっかしかったぜーキャハハハハv」

傍にはレムというフェアリーの姿もある。ユイトと呼ばれた少年によく似た黒髪を揺らして可愛らしく笑っていた。

突然目の前に現れた男、咲良はその少年に少々困惑していたが、周りを見ると他のメンバーは明らかに警戒して臨戦態勢をとっている。
ユイトはそのままセイバーチルドレンズに眼をやるとニイと笑って悠奈に声をかけた。
悠奈は一瞬イヤな予感を肌で感じたが、ここで退いたらまたこの男にナメられてことさらからかわれることがわかっていたので、ビクつきながらも正面から彼を睨みつけて小さく呟いた。

「な・・なによ?」

「よ、ユウナ。元気か?」

「あ・・アンタにカンケーないでしょ?ほっといてよ・・・」

「あーあ、冷たいのな・・」

悠奈の返事に少々がっかりした声色で答えた、と思ったら瞬間、ユイトの姿が霞んで消えた。

「え!?」

「なっ!?」

日向と光が眼を見張る。すると・・・


「・・・オレは、最近ずぅ〜とオマエのコト考えてるってのによ・・・」

「ひっ!・・きゃああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ」

突如上がった悠奈の空気を切り裂く悲鳴。
気づいた時にはユイトは悠奈の後ろに回り込み、彼女を後ろからギュッと抱きしめていた。

「ゆっ・・ユウナぁ!」

(い・・いつそっちへ回ったんや?・・み・・見えへんかった。コイツの動きが・・)
(全然捉えられなかった・・今・・・コイツ!)

光と晃が戦慄した表情で息をのむ。
陽生や東麗の父である一哉。紅丸、ジョー東などにも相当手加減をしてもらっているとはいえスパーリングなどの格闘技の稽古をつけてもらってきた彼等のこと、それらの超人的な体術スピードに曲がりなりにも慣れているつもりでいたのに、このユイトという少年の動きに今、光と晃は完全に虚を突かれていた。
緊張した空気が張り詰める。ただし、それ以上は悠奈自身がその空気を一変させた。