「う〜ん・・・わっかんねえ・・」

「?なにが?アキちゃん」

「いや、その・・グローリーグラウンドってセカイのことと、それからエミリーって敵の大ボスにダークチルドレンズってヤツらがいるのは分かったし、大体オレたちがそいつらからグローリーグラウンドを守るために戦わなきゃいけないってのも・・まあメンド臭いけどわかったよ・・」

「うんうん、そうそう!アキラくん飲み込み早い!」

隣で弁当を食べながら日向とレイアが笑顔でウンウンと頷きながら話していることに多少気まずさを覚えつつ、晃は正直に打ち明けた。

「でも・・・正直な話・・頭じゃわかってるけど、まだ信じらんねえ、ましてや魔法ってのがどんなもので、どーしてそんなものが自分の手から出たりすんのが・・一体全体どんな原理でそうなるのかホントにわかんねえんだよなぁ・・・」

「魔法ってコレやろ?コレ、ウチかて簡単に出せるで」

正面にちょうど座っている七海が指先から青白い光とともに水滴を発し、足下の草を濡らす。
その様子に「ナナちゃん!こんなとこで魔法使っちゃダメよ!」と慌てて注意する傍にいたウェンディ。さらにはそんな七海を見ながら、「いや、だからその魔法ってのがなんでいきなり出せるようになってるか知りたいんだって・・・」と誰かオレの苦悩をわかってくれとばかりに頭を抱える晃。その光景を見ながら、悠奈はパックジュースをチューと吸いつつ晃を見つめた。

私立天道学園カフェテリア、時刻は只今昼休み。
愛澤悠奈をはじめとするセイバーチルドレンズの面々は、一同に会してランチタイムの最中だった。
学校でも遠慮なく話しかけてくるレイア達、彼女達の姿は魔力を引き出されていない一般の生徒や大人達の目には映らないため、まともに反応するとまるで一人芝居をしているかのように奇異に映ってしまう。
それをなるべく避けて日々意思の疎通を図ろうという久遠光の提案だ。つい先日セイバーチルドレンズになったばかりの新メンバー、南晃もその場にいる。
その彼が頭を今悩ませているのは、彼らが目覚めてしまった不思議な特殊能力。魔法のコトについてであった。
晃が操る超能力、サイコパワーや光や日向などが用いる闘気という能力は実際に使用者も存在しており、その内何人かは晃もよく知っている人物であるため、納得はいく。
だがしかし、最近授かったこの魔法というものは少なくとも晃は他に使用する人を見たこともなければ聞いたこともない。完全に未知の力であるのだから、使えるようになってしまったことを気にするなという方が無理である。
なぜ、悠奈や日向達がこれほど落ち着いていられるのか晃には甚だ理解不能だった。
落ち着きすぎだろ!納得しすぎだろ!

「なあ、ユウナちゃんよお。お前さんも魔法使えるってジョーキョー、自分で理解できてんのか?」

「え?」

「納得できてんのかってコトだよ。いきなりこんなモンが使えるようになっちまってよぉ、気味悪くねえのか?


いきなり晃が自分に話を振って来たので、当の悠奈も返事に困った。そのまましばらく考える。
確かに晃の言う通りなのだ。
現実で考えたら、魔法の国があって、魔法の妖精が跋扈していて、魔法が使えるようになりましたなど到底あり得ない話であり、こんなゲームのようなファンタジー話など信じろという方がおかしい。しかしそのおかしなコトが現実に起こっているのを散々目の当たりにし、妖精がいる環境に慣れてしまっている自分がいることに時々気付く。
晃の気持ちもよくわかるが、もはやどうしようもない。
悠奈は息を軽く吐いてから晃に言った。

「たしかに・・いきなりこんな魔法が使えるようになりました。・・・なんて言われたってハッキリ言って困っちゃうよね。アキラくんの気持ち、アタシスッゴイよくわかる。でもさ・・その、事実使えちゃってるワケで・・・ホラ、このコ達だって見えちゃってるワケで・・・」

悠奈はレイア達をチラチラ見ながら、晃にゆっくりと言い聞かせるように言った。晃はというと隣にいる妖精、バンを見ながらまたまた溜息をついて、諦めたように言葉を発した。

「わあった、わかったよ。とにかく現実に目の前で起こってること疑ってもしょうがねえし、わかんねえモンの原理をアレコレ考えたってムダだよな」

「そうそう!さすがだぜアキラー!さすがオレ様のパートナー!ものわかりがいいぜーオラオラー!」

バンのそんな言葉に苦笑する晃、レイアやイーファ達もそんな2人の様子にケラケラ笑った。場を締めるように光が立ちあがりながら

「さて、そんなら次のメンバー集めにも移らんとな。まあこれまで偶然にもウチらの周りでメンバー集めすんでるワケやねんけども、ひょっとして案外近くにいたりしたりして・・・」

「な〜に話してんの?ヒカルちゃん!」

『わあああぁぁーーーーーーーっっ!!??』

光の背後から突然かけられた声に、光だけでなくその場にいた悠奈たち全員が派手に驚いた。いや、彼らだけではない。
話しかけた当の本人もいきなりの絶叫にびっくりして目を白黒させていた。

「ちっ・・ちょっと何よいきなり大声だしたりして・・ビックリするじゃない、何が起こったのよ?」

「って・・は?・・あ!ナミ!」

「ナミちゃんっ!」

光の背後に立っていたオレンジがかった明るいライトブラウンのショートヘアの少女を見て、光と日向が声を上げる。

葉山那深(はやまなみ)。
この学園の初等部では割と有名な少女で、今人気の少女向けファッション雑誌のティーンズ読者モデルである。
小学生ながら抜群のプロポーションを持ち、背は同年代の女子とくらべてさほど高い訳ではないが愛らしい顔の正しくモデル向きの女の子であった。
加えて、彼女は多くの学園の女子の憧れの的である久遠光のガールフレンドとしての羨望の立場を公に認識されてもいた。そう、光の彼女である。

「な・・ナミ、なんやねん。おどかすなや突然に・・・」

「驚いたのはコッチよ。いきなり大声出しちゃってさ・・アタシ、そんなに大きな声だしてないわよ?」

「せ、せやったな。スマン。ほんで、なんぞ用かい?」

「用・・・って言うかさあ・・・ヒカルちゃん、最近全然アタシのこと見てないし、デートだってしてくれないし、今日は一緒に帰ろう!・・って思ってもいつの間にかいないし・・・もうアタシのコトなんて忘れちゃったの?アタシ・・ヒカルちゃんにキラわれるようなコトした覚えないんだけどな・・・


「え!?・・あ・・あっ・・イヤ・・それは・・そのなぁ、あの・・なんってーか・・」

赤面しそうなラブモード全開のセリフを言われ、言葉に困ってしどろもどろになる光。傍で聞いていた悠奈たちが思わず顔を紅くして俯いてしまうほどの歯が浮くセリフだった。
間髪入れずにお弁当を片手に那深は光の隣に座り込み、ピッタリと寄り添う。

「ねぇ〜、ヒカルちゃぁ〜んv最近ナミ退屈しちゃってるのにさぁ〜、どーしてくれんのぉ〜?」

猫撫で声で甘える那深の処遇に困りながらも光はどう言い繕おうかと必死に考えていた。
那深のことをつい忘れていたことは確かに認めるが、決してわざとではない。実に光はセイバーチルドレンズとして覚醒してからなにしろ非現実的な出来事に翻弄されて忙しすぎて那深のことまで頭が回らなかっただけなのだ。
しかし、彼女にそのことをストレートに伝えたところでまず信じてもらえないだろうし、なにより大切な那深を危険なコトに巻き込んでしまうかもしれない。光としてはその事態だけはなんとしても避けたかった。

「う・・あぁ〜・・あ!せやせや!ホラ、ヒナ達の新しい友達のコトでオレも色々忙しかってん!ホラ、ナミも知ってるやろ?愛澤悠奈って転校生


「え?ああ、知ってる知ってる!ウワサのクールで辛口カッコイイスーパー女子小学生ユウナちゃんでしょ?その子がどうしたの?


やっぱりそんなウワサかよ!といい加減萎えてしまいそうなキャッチコピーにガックリと肩を落としていた悠奈を光が強引にひっぱり那深の前に立たせる。

「このコやこのコ!噂の悠奈、ヒナとナナとももう仲ええねんで」

「え?・・あ、ホントだ。そう言えばこのコだよ」

「え・・あ・・愛澤・・です。ハジメマシテ・・・」

どことなくぎこちない挨拶をする悠奈を見て、那深はクスリと笑った。

「へ〜、アナタが悠奈ちゃん?はじめまして!5年生の葉山那美っていいます。ヒカルちゃんのガールフレンドでえ、ついでにドクモもやってたりします!」

「は!?え?・・ど・・ドクグモ・・?


「アッハッハッハ!・・ドクモよド・ク・モ!読者モデル!やっばいvこのコチョーカワイイじゃんヒカルちゃん!


「せやろ?まあ、だからヒナとかナナと一緒にそのユウナに色々学校とか街とか案内してたら、たまたまナミのことまで頭回らんようになってただけの話や。カンニンな」

「そっかあ、ああ〜よかった〜、ヒカルちゃんに捨てられたかと思ってちょっと心配だったのよねぇ〜・・」

「なんやソレ?アホか!」

目の前で夫婦漫才のようなやり取りが繰り広げられるのをただ呆然と見つめる悠奈、レイアや妖精たちも周りの子ども達から見ると立ち振る舞いや会話が少々大人びているこの2人の話に呑みこまれそうだった。
さすがに読者モデルとして大人の世界を経験していることの差なのであろうか?そんなことを考えていた悠奈の眼前に那深が迫って口を開いた。

「ねえ、ユウナちゃん。今日、ヒカルちゃんとあたしとちょっと付き合わない?ああ、アキちゃんも一緒に!」

「え?・・ええっ?」

呆気にとられて口をパクパクさせる悠奈に、那深はパチン、とウインクしてみせた。








「ミリア、どういうつもり?しくじったらしいじゃない」

不意に後ろから投げかけられたイヤミな言葉に、緑色のショートヘアの少女は冷たい視線で振りむいた。
見ると左右で結ったライトブラウンのロングヘアを手で遊ばせた少女が、彼女に不適な笑みを浮かべて近寄って来た。
ウィザーディア社の管轄にあるダークチルドレンズアジトの洋館。
リーダーのサキは前回任務失敗を喫したミリアを広間で見咎めて圧力をかけるように話しかけた。

「・・・今日は撮影の仕事ないのね。だったら部屋で休んでたら?」

「自信満々に仕留めるとか言っておきながら結果は失敗?笑い話にもならないわよ」

「そんなコトを言うためにワザワザ近づいて来たの?ヒマなのね」

広間に緊迫した空気が流れる。
サキは燃えるような瞳でミリアを睨みつける。自分を差し置いてエミリーから任務を任された事だけで彼女にしてみれば納得いかない事情であるのにその任務を果たせないまでもかあろうことか自分にこんな生意気な態度をとっている。
よっぽど攻撃魔法の1つでもぶつけてやろうかと思っていたが、ダークチルドレン同士の私闘はエミリーにより禁じられているのでそこはなんとか堪える。

「・・・えらそうなコト言って、アンタは任務に失敗した。要するにエミリーさまのご命令を果たせなかった役立たずってコトなのよ?もっと立場をわきまえたら?」

そこまで言うと、さすがにクールなミリアもうっ、とうめき声を漏らして言葉に詰まった。
悔しいが確かに今のサキの意見は正論だ。自分はエミリーに期待をかけられながらもその期待に答えられなかった。どんなに冷静に振舞ってみてもそこをつかれると返す言葉もないのだ。

「エミリーさまに報告しておいてもいいのよ?」

「好きにしたら?わたしは自分のミスを隠したりしない。そんなことをしたら余計にエミリーさまの信頼を失うだけだから」

そう吐き捨ててサキに背を向けるミリア、そのまま広間に現れた世話役の使用人に着替えの用意を言いつけると階段を上って広間を後にした。
彼女の後ろ姿にフン、と息を吐き捨てるサキ。そこに現れたジュナが声をかけた。

「ミリア、失敗したのね」

「ハナからあんなヤツに期待なんかしてないわよ」

「そう?でもアタシらだって大きなこと言えなくない?アタシらもセイバーチルドレンズにやられてるんだから


「この間だけよ。次こそは・・・」


「ちょぉ〜っと待ったぁ。そこは順番守ってくんなきゃヤダなぁ〜サキちゃんv」


ジュナとサキの背後から聞こえた声、2人が振り返るとそこにはドーナツを片手に口をモグモグさせながら歩いてくる女の子が1人いた。
黄色のフリルが各所にあしらわれたドレスのような洋服を着ており、スカートの丈はちょうど膝少し上ぐらい、頭の左右でお団子結いのような独特のツインテールのヘアスタイルの可愛らしい女の子だった。

「あたしってぇ〜、まだ1度もそのせいばーちるどれんずってコたちと遊んでないんだなぁ〜、ジュナちゃんもサキちゃんもその子たちと遊んでんのにぃ〜、サキちゃんなんか2回も遊んじゃっててさぁ〜、ちょっとヤキモチやいちゃうっ」

「あ、遊んだって・・・あ、アンタねえぇ〜〜っっ!」

突っ掛かりそうになるジュナを右手で制すると、サキは正面からドレスの少女を見据えて言った。

「つまり・・次は自分にやらせろってコト?ユア」

サキの言葉にユアと呼ばれた少女は満面の笑みでコクコクとうなづいた。

「ねえ〜、いいでしょぉ?おねがい!サキちゃん、おみやげ買ってきてあげるからぁ〜♪ウフフ・・」

「そう、じゃ、やってみたら?」
「ちょっ・・ちょっとサキ!?」

「きゃーーっウレシイぃ〜vさんきゅーさんきゅー♪それじゃジュエモン持っていこーっと、コズン〜、貯蔵室空けてぇ〜v」

「かしこまりました」

きゃらきゃらとした笑い声を上げて、走り去っていったそのユアと呼ばれた少女を、ジュナは不満そうに見つめ、そしてサキを振り返った。

「どういうことよ?ココにきてなんでユアなんかにっ!」
「いいじゃない。アタシにはセイバーチルドレンズがユアにやられるとは思えないし・・・もしユアに負けるようなことがあればそれはヤツラの力がそれまでだったって諦めがつくじゃない」

「そ・・・そうかもしれないケド・・・」

「見てあげましょうよ。ユアのお手並みってヤツをさ・・・それよりオナカすいちゃった。コズン、アタシたちもお茶にするからすぐに準備して」

「は、サキ様。かしこまりました」

表向きは誰もいないはずの洋館から、静かな茶器のぶつかり合う音が鳴り響いていたという。








「レイア、ナミが来たら、お前の力で魔力調べてみてんか?」

「え?いいの?」

「ああ、頼む」

放課後、駅前近くにあるショッピングモールの1階のカフェテリア。1度家に戻って私服に着替えてきた悠奈は、レイアを連れて昼休みに那深と待ち合わせをした場所に来ていた。
同じ場には晃と光、そしてバンもいる。その場所で晃はレイアに意外な頼みごとをしていたのだ。

「魔力を調べるって・・・ヒカルくん、あの・・ヒトの?」

「ああせや。ナミにももしかしたらオレらみたいな力ないんかな思ってな、ただのカンやねんケド・・」

「で、でもそんなイキナリ・・・」

「なんや?レイア、お前たちの世界を救うためにはまだ仲間が必要やねんやろ?今んトコやと、ユウナ、ヒナ、ナナ、ヤオ、んでアキラにオレ。6人、あと6人必要なんとちゃうんかい?」

「えっと・・あのぉ・・・それはそーなんだケド、いきなりそんな・・・それにヒカルくんだっていいの?ヒカルくんの好きな子なんでしょ?キケンなことに巻き込んじゃうかも知れないんだよ?もしかしたらあのコみんなより強い魔力を持ってるかもしれないのに・・・」

「ん〜?オイ、レイア。オレは別に強・い・!魔力を持ってるかもやなんてコト一言もも言うてへんで?」

「・・・あっ」

ニマ〜とした顔で聞き返す光に、思わずしまった!という感じのレイア。

「・・そのツラ・・ってこたぁ、ナミにもやっぱり備わってんだろ?オレらみたいな力が、しかもオレらよりも強い魔力ってヤツがさ、やっぱりな〜」

「え?え!?ど、どーゆーコト!?レイア?アキラくんたちも、まさかわかってたの!?」

あまりの急激な状況の進展に悠奈はすっかりついていけず、レイアや光たちの顔を相互に見てあたふたした。

「ん〜、別にわかってたってワケじゃねえんだけどさ。ただなんとなく、オレもこの前その魔力ってヤツに目覚めてからバンと一緒に生活したりするようになってからよ、こうなんとなく魔力ってヤツの・・なんていうかな?流れっていうか・・・こう・・そんなのがわかったりすんだよ」

「すっ・・スゴイ!アキラくん!もう魔力の波長がわかるの?」

「ハチョウ?・・ああ、あのカンジって波長っていうのか!な〜るほど、そっかそっか!ま、サイコパワーによく似てる面もあるからかな?」

カラカラ笑いながら答える晃、その様子を見て、やはりレイアはあらためてメンバーの中でもこの晃はただものじゃないのでは?という思いを強くした。


「ってなワケだからよ、バン、よんであんだろ?」

「おう!もうすぐ来るころだぜ・・・っと来た来た!」

晃とバンがそんな会話を楽しんでいると、「お〜い、みんな呼んできたでぇ〜」と光のパートナー妖精ヴォルツが他のフェアリー、リフィネ、ケン、ルーナを連れてきた。

「あー、みんなどうして?」

「ヒカルくんが呼んでくれたのよ、もしかしたらこの中にパートナーが見つかるフェアリーがいるかもしれないって、だから」

リフィネが光をチラリと見ながらレイアに事の次第を話した。当の光はニッシッシッシと嬉しそうに笑っている。

「そっか〜、ヒカルくんってそこまで考えててくれたの?」

「ま、オレもアキラにそのコト聞いたからやけどな。もしかしたらコイツらの中の誰かが、那深のパートナーになるかも知れんやんか」

光と晃、セイバーチルドレンズになったばかりの2人がここまで他人の世界のことを親身になって考えてくれている。
そのことを考えると、レイアはひたすらありがたい気持ちになったが、1つ気にかかるコトがあった。

「で・・でさ、やっぱりアキラくんも感じたの?その・・・彼女の中に眠ってる力」

「ああ、まぁよくわかんねえけど、普通の力じゃねえなってのはわかったよ。でだ、そのことをちょっとヒカルにも伝えておいたんだ」

「もしこれでナミまで仲間になってくれたらメンバー集めにまた一歩前進やがな!」

「で、でもいいの?さっきレイアも言ってたけどさ・・・ヒカルくんの、カノジョなんでしょ?アタシだってレイアに会ってこんな魔法使えるようになっちゃってからさ、ぶっちゃけたハナシ、アブナイこととかも多いし・・・大事な人なんだったらなおさら」

心配したように呟く悠奈に、光は「だからや」と明るく笑いながら言った。

「だからこそや、どの道そんな魔力もってんやったらこの先エミリーに狙われたりして危ないかもしれんのやろ?それやったら近場におって、いつでもオレが守ってやれるようにしたらええだけのハナシやないか。オレもそっちの方が安心できるし、ま、といっても、この話を聞いてナミがOKしてくれたらの話やけどな」

爽やかにそう答える光の笑顔が、悠奈にはとても眩しく見えた。
カッコイイ。ああ、自分がもし日向くんにこんなセリフを言ってもらえたら・・・と不埒な妄想に入りかけたところに、その人物はやってきた。

「お!ウワサをすれば・・・やな」


「ヒカルちゃぁ〜〜んっ!♪」

オレンジがかった茶髪のショートヘア、ヒカルに少し似た少々褐色の肌をしたスタイル抜群のドクモ美少女が、ハンドバッグ片手に手を振りながらこちらに駆けてきた。

「ゴメン!待った?」

「気にせんでええで、アキラもユウナもそんなに待ってへんわ」

汗の滲む額を手で軽く拭いつつ、那深はニッコリほほ笑みながら「よかったぁ」と言った。

「またせてゴメンネ、ユウナちゃん。ヒカルちゃんやヒナちゃんから話は聞いてたんだけど、中々会う機会なくってさ、このショッピングモールはじめて?」

「え?・・あ、何回かウチのママと服買いに来たことはあるけど・・・」

「そう、7階のアクセサリーショップは?」

「い・・・いったことないです・・・」

「じゃあ決まり!ヒカルちゃん、アキちゃん!取り敢えずそこ行こう!」

「あいよ」

「りょーかい!」

かくして、悠奈は光、晃、そして那深と一緒にこの駅前ショッピングモールのアクセサリーショップへ案内してもらうこととなった。
レイア、ヴォルツ、バン、それにリフィネやケン、ルーナも悠奈たちに続いて店の中へと入っていく。

聖星町・駅前から大通りを3つ挟んだ聖星西区商店街(せいじょうにしくしょうてんがい)。その真ん中をつっきるようにして佇むのが、つい3年ほど前にできたマンモスショッピングモール、「セイントスター・マーケット」である。
中には大手のスーパーが陣取り、東京、大阪、名古屋、京都の有名老舗料亭の味が家庭で楽しめる食品売り場をB1に有し、1階は総合インフォメーションから観光客向けのお土産売り場、2〜4階はキッズ用品店からゲーム売り場、おもちゃ屋などのエンターテイメントフロアに有名店が軒を連ねる目玉のフードコート、5〜7階は若者向け、中高年向け様々な分野を扱った大型のファッションモールにアクセサリーショップ。
そして8階には展望レストランもある街の新たな超目玉スポットなのだ。
そして那深が悠奈に案内しようとしているアクセサリーショップ「KING OF JEWELRY」(キングオブジュエリー)は今聖星町の若い女子の間で人気爆発中の店で、那深がモデルをしている雑誌でも何度か取り上げたことのある有名な店だった。
今日も平日だというのに、店の周りは学校帰りの女子中高生によって大賑わい。さながらアクセサリーという名の餌に群がる蟻のようだった。

その女子達の中に、まだ幼いであろう少女が1人・・・。

「きゃーーvvかわいいぃ〜〜♪このアクセ、チョーオシャレ!欲しいなぁv買っちゃおうかなぁ〜?」

黄色のフリルが可愛らしいドレスを着たまだあどけない少女は店の商品を手にとってはあれでもないこれでもないと目移りさせていた。

「ん〜〜・・でもどうせならお金払わずにここにあるアクセぜ〜〜んぶ欲しいなぁ〜vそしたらチョーラッキーだよねぇ〜〜・・・よぉ〜しぃ・・・」

ドレスの少女、ユアは手を合わせると呪文を唱え、手の中から店の商品とは違う、禍々しい輝きを放つ宝石を産み出した。

「闇より出でし邪なる石、ダークジュエルよ、我が闇の魔力に応え、その力を示せ・・・!」

石が宙に浮き上がり、そのまま空中を駆け抜ける、そして店の中にあった看板代わりの大きな水晶玉に取り付いた。
瞬く間に大勢の女の子達が見る中、水晶玉が黒々とした煙に包まれ、そこから紫色の不気味な発光する妖気に包まれる。
すると光の中からあっという間に宝石と水晶を模した大きなモンスターが姿を現したのだ。

「ジュッエエェーーーーールッ!!」

「きゃあぁーーーっっ!!」 「いやぁあぁ〜〜〜っっなに!?ナニぃ〜〜っっ!!?」 「ばっ・・バケモノおぉ〜〜〜っっ!」 「ひいぃーーーーっったすけてぇえーーーっっ」 「うっ・・ウチの商品があぁーーーーっっ??」

瞬く間に騒然となる現場。

「キャハハハハッッ!気持ちいぃ〜〜いっ!さあ!早く来て来てセイバーチルドレンズのみんなぁ〜v早っくこっないと、もっともぉ〜っと暴れてこのお店メッチャクチャにしちゃうもんねぇ〜〜v」








「!ナミ!」

「あ、なによぉ。ママなにしてんのこんなトコで」

悠奈を7階にあるアクセサリーショップまで連れて行こうとしたところに、那深はバッタリ、偶然買い物途中だった母の葉山麻奈深(まなみ)と出会った。さらには・・・

「あら、ナミちゃん、ヒカルちゃんにアキちゃんも?あらぁユウナちゃんまで!どうしたの?」

「は?なんでセンセーまでおんねん?」

「買いものよ、ショッピング!今日ロブスターが大量入荷って鮮魚コーナーのチラシに乗っててねぇ〜〜、安かったから買っちゃったvシャンパンと合うわよぉ〜」

なぜか知らないが傍らにはヴァネッサまでいた。
多少面白くない顔の那深、そんな那深に麻奈深は諭すように静かに言った。

「ナミ、何買いに来たの?」

「アクセ」

「つい先週ママ買ってあげたばかりでしょう?そんなに無駄遣いしちゃダメよ」

「女の子は、常に身につける物を変えなきゃ男の子に嫌われちゃうの!それにアタシがモデルやってんの忘れたの?」

「それとこれとは別でしょ?あんまりそんな物にお金ばっかりつかってちゃいけないわよ」

「るっさいなぁ・・・」

段々と荒くなる言葉遣い、不貞腐れた顔から徐々に怒り顔になり、那深はジロリと母を睨みつけた。

「もう、ママはいちいちうるさいのよ!アタシが何買おうがそんなのアタシの自由じゃん!」

「そんな言い方ないでしょ?ママはただアナタにもっと物を管理できるようになってほしいから・・・」

「ウザイって言ってんのよこのクソババアっ!」

「コラあぁあぁーーーっっ!!」

母と娘のやり取りの中に上がった突然の怒号、思わずその場にいた全員が耳を塞ぎ、周囲の人達も一行の方を向いてなんだなんだという感じだ。
怒号の主は麻奈深ではなかった。女性としては185センチという図抜けた長身のヴァネッサが、まだ140センチそこそこの那深を仁王のような怖い目で見下ろしていた。

「ママに対して今の態度はなんなのナミちゃん!謝りなさい!」

厳しい口調で凛とした声で叱りつけるヴァネッサ。
その気迫に、那深はすっかりおびえて、ガタガタと震えが体全体に伝わっていた。
実はヴァネッサは家庭教師として光や光の幼馴染の東麗(ひがしれい)そして様々な仕事上の関係から、この葉山那深と、もう1人、星原麗奈(ほしはられな)という女の子の家庭教師も務めていたのだ。
週2〜3くらいの割合で、勉強を見る、というよりは光や麗と同じく生活状況や躾を管理するという名目だった。あまり子どもを叱ることを慣れていないそれぞれの親の代わりに、悪いことをした時には心を鬼にして厳しい躾を与えてきた。

「せっ・・・センセーにはカンケーないじゃんっ!」

「関係ないコトありません!ママが誰のために言ってくれてることなの?全部ナミちゃんのためなんでしょ?さあ、ちゃんと謝ってお話し聞きなさい」

「イヤ!ヤダ!なによっ!センセーだってママの味方しちゃってさ!ウザいったらないってのっ」

「ナミちゃんっ!」

「もうヤダ!キライっ!バカっ!センセーもママもどっかいっちゃえ!行こう、ユウナちゃんっ!」

「え?あ!?ちっ・・ちょっとおぉおーーーきゃあぁぁーーーーっっ?」

そのまま那深はヴァネッサのことを無視して悠奈の手を掴むと走り出してエスカレーターを7階に向けて駆けあがった。
「あ、オイちょっとナミぃ〜!」 「ドコ行くねんなぁーっ?」と晃と光もつられる形でその場をあとにした。後に残された麻奈深とヴァネッサ。ヴァネッサは「ふう・・」と一息溜息をつくと、落ち込んでうな垂れている麻奈深の背に手を回す。

「最近、モデルの仕事が忙しくて・・・ヒカルちゃんとも中々遊べなかったみたいなんです。それで、ストレス溜まってたのかしらね?もっとあのコの気持ちを理解してあげてれば・・・ダメな母親ですよね」

「そんなコトありませんよ。私もよくしってますもん、ナミちゃんが本当はパパやママが大好きな素直なイイコだって」

「ヴァネッサ先生・・・」

「今日はちょっと虫の居所が悪かったんでしょうね・・・麻奈深さん、今日、ナミちゃん少しお任せいただけますか?」

気落ちする麻奈深に、ヴァネッサが頬笑みながら優しく言った。



「あーもうっ!ムカツクっ!何よ、せっかく気持ちよくショッピングしようと思ってたのに、ゴメンネ、ユウナちゃん」

「え?いや・・・アタシは全然平気だけど、その・・・ナミさんって、ママと・・・」

「いいのよあんなわからずやのママなんって・・・大っキライ!さ!そんなことよりショッピングショッピング!今日はお姉ちゃんとヒカルちゃんの奢りだから好きなもの選びなよ♪」

そう吐き捨てながら那深は悠奈の腕をまた繋ぎなおす。その様子を光だけがちょっと微妙な顔で見つめていた。

「オイ、なんかおかしくねえか?」

最初に事の異常さに気付いたのは晃だった。そしてすぐにそのコトが悠奈たちにもわかった。上の階から悲鳴のようなものが聞こえる。そして、非常階段から、エスカレーターの下りから、様々なところから人々が皆逃げまどってくるのだ。

「ヒカル!えらいこっちゃで、邪悪な魔力をビンビン感じよる」

「ああ、オレも感じたぜアキラ!こいつぁジュエルモンスターが出たなぁーっ!うっしゃあぁっっ燃えてきたぜぇーっ!」

「ホント!ユウナちゃん!」

「マジぃ?・・なんでこんな時に・・・ここじゃ」

悠奈はチラリと那深を見やる。
ここでは変身できない。なにより那深や他の人達の目がある。

「と、とにかく、何とかしてスキを見つけて変身しないと!」

「どうしたのユウナちゃん?誰と話してるの?」

そんな那深の当たり前の疑問がさもうっとおしく聞こえた。



「・・・な・・なに?コレ?」

まさに呆然。
那深は目の前に広がっている光景が全くもって理解できなかった。
目の前にはお気に入りだったアクセサリーショップが無残な姿でボロボロに変わり果てていたし、周りには倒れて苦しそうに眠っている人達。

「ど・・どうなっちゃってるのコレぇ!?」

「ジュエルモンスターがいない・・」
「おそらく今日もダークチルドレンズがどっかから操ってるハズやけどその姿も見えんなぁ・・・」

「おおっ?なんだねキミたちそんなところで!ここには今正体不明の謎の怪物が出現してるんだ!危ないからキミたちみたいな子どもは入っちゃいけないよ!」

悠奈たちの姿を見咎めた警備員が、急いで駆け寄ってくる。

「バケモノ?どこにおるんや?」

「わたしも見たワケじゃないが・・・そういう通報があったもので・・・しかしこの有様は?まるでテロ活動のような・・・」

「アキラ!ヒカル!上だ!屋上の方から邪悪な魔力を感じるぜ!」

「これは間違いないでレイア!」

「うん!ジュエルモンスターだよユウナちゃん!」

「うん!」

「ちょっとみんなっ・・まってよ、一体さっきから誰と話して・・・」

「ナミ!ちょっとここで待っとれ!ユウナ!アキラ!行くで!」

光の号令に、悠奈と晃は「おう」「うん」とそれぞれ答え、そのまま非常階段口を使って屋上へと行ってしまった。

「あっ!コラ!待ちなさいキミたち!キケンだぞぉーっ!戻ってきなさいーーっ!」
「ちょっ・・ちょっとおーーっ!ヒカルちゃん!アキちゃんっ!ドコ行くのよぉっ待ってよぉーーーっ!」

警備員と那深の声が3人の背を追いかける。
一体何が起こっているのか?那深にはまるで理解不能だった。まるで悠奈たちは自分には見えない何かと会話をしているようだったし、屋上にはなにか危険で怖いものが存在しているような口ぶりだった。
なにより、光が自分を置いて行ってしまったことに那深はこの上ない不安を感じていた。どうして?待っててって言われたってわかんないよ。
一体どうしちゃったのヒカルちゃん・・・
そんな思いがぐるぐると那深の頭の中を駆け巡り、先程の母親との言いあいや、ヴァネッサ先生に叱られたことまでがフラッシュバックして耐えきれない。

みんなアタシのことなんてどうでもいいの!?

そんな時だった。

「元気出して」

「え?」

気のせいか?今何か声が聞こえたような気がした。小さな女の子のような声、周囲を見回してみる。見たところそれらしい人物は見当たらない。先程の警備員がなにやらやかましく無線に向かって騒いでいるくらいである。

「?」

「コッチよ」

「!?だっ・・誰!?」

必死になって叫ぶ、誰もいない。いい加減気味が悪くなってきたその時だった。

「ココ」

「え?」

「やっぱりアナタには魔力があったのね、よかった。わたしでも引き出すことができたみたい。はじめまして、ナミちゃん。グローリーグラウンドのフェアリー、リフィネといいます」

一瞬の静寂、那深の目の前には小さな女の子が宙に漂っていた。
続いて「きゃああぁああぁ〜〜〜〜〜〜っっっ!?」という悲鳴。

「どっ・・どうしたのかねキミ!」

「おっ・・おっ・・おじさんっ!!あっ・・あっ・・アレ!!」

「ん?・・アレ・・とは、看板のコトかい?」

「そーじゃなくってあのちっちゃくてフワフワしてるお化けみたいなモンが見えないの!?」

「?・・なにか幻覚が見えるのかな?可哀想に・・・よし!急いで救急隊にも来てもらおうっ!」

そう言うと警備員のオジサンはまた無線に向かってしまった。

「そ・・・そんなバカな・・・」

「ナミちゃん」

「ぎゃああっっ!」

再び話しかけられて頭を抱えて蹲りガタガタと震える那深、その那深にリフィネは静かに話し始めた。

「オイ、リフィネ!ユウナたちが気がかりだ。オレとルーナは先に行ってるぞ」

「リフィネ〜、だいじょぶでしゅか〜?」

「大丈夫よルーナ、心配しないで。ケン、ルーナをお願いね」

そう会話を交わすとケンとルーナは屋上へ飛んで行ってしまった、

「お願い!ナミちゃん、アナタの力を貸して欲しいの」

「なっ・・なによいきなり!そんなコト言われたってわかんないわよぉおっ?ってかアンタ誰?一体何なのお!?」

「わたしはリフィネ。グローリーグラウンドのフェアリー、リフィネ。そして・・・ユウナちゃんやヒカルくん達の友達よ」

「ひ・・ヒカルちゃん・・たちの?」








「キャッハハハハっ!いいぞいいぞぉっ!どんどん暴れちゃえぇっ!」

屋上の遊戯スペース。黄色いドレスの少女、ユアの高笑いの声が響き渡る。
ここにも沢山の子ども達が憩いの場をもとめて母親達と共に来ていたが、今はこの場も突如現れた宝石のモンスターにより、心に闇を植え付けられ、苦しそうな顔のまま眠りこんでいた。
その間に、モンスターは暴れに暴れて遊具や屋台を滅茶苦茶にしている。悠奈達が駆けつけたのはそんな現場だった。

「ヒカル!あそこにいるヤツ」

「ああ、そうなんやろなぁ、ユウナ!」

「やめなさいっ!」

「ほえ?」

ユアの視界が捉えたのは、桃色の髪をして自分を真っ直ぐに睨みつけている可愛い顔をした女の子の姿だった。

「あっれぇ〜?ひょっとしてアンタがユウナちゃん?」

「アナタ、ダークチルドレンズね!またこんなヒドイことして・・・ちょっとは人のメイワクってモン考えなさいよね!」

「アハハハっ、おもしろぉ〜い♪ねえねえ、ユウナちゃん!アタシねえユアっての、あそぼあそぼ♪」

あまりの陽気なテンションに思わずガクッとこけそうになる悠奈。

「あ・・・あそぼって・・バカじゃんアンタ!遊ぶワケないでしょおっ!もーアッタマきた!」

「え〜?なんで怒ってんのぉ〜?」

「レイア!ヘンシン!」

「ユ・・ユウナちゃんどうしたの?いつになくヤル気じゃん・・・」

「あーゆー人のコトナメたようなヤツってアタシ大っキライなの!行くよ!」

「う・・うん」

「よっしゃアキラ!オレらも」

「おう!行きますか!」


『シャイニングスパーク・トランスフォーム!』

携帯電話の変身アイテムを振りかざすと、そこからピンク、バイオレット、オレンジのそれぞれの眩い光が発生し、3人の姿を包む。
光が体に纏わりつき、あっという間に体を保護するバトルコスチュームを形成したのだった。

「輝く一筋の希望の光!セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」

「拳の闘気は雷神の魂・・!セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」

「根性全開、爆裂!男気一直線!セイバーチルドレン・ガッツストライカー!」

「きゃ〜!やっぱりセイバーチルドレンズの人達だぁ〜!やったやったぁ〜!よぉ〜し・・そんならコッチだってぇ〜vダークスパーク・トランスフォーム!」

ユアがそう叫ぶと、青紫色の発光する妖気が彼女の体を包み込む、閃光爆発。その中から現れたのは黒を基調にしたゴスロリチックなドレスを身に纏った戦士だった。
バトルコスチュームに身を包んだユアがパラソルのような武器を構えた。

「はっじめましてぇ〜vダークチルドレンズやってるぅ、ユアたんでーっす!よろちくねv」

「すぐにこのヒト達をもとに戻して!なんでこんなコトするのよ?そんなにそのエミリーって人のコト大切なの?」

悠奈が必死の顔で訴えかける。
もう見慣れた光景だが、悪夢にうなされたように苦しんで眠っている人たちを見るのはとても辛い。
うわごとのように「さみしい・・・」「かなしい・・・」と言っている。
そんな悠奈を嘲笑うかのように、ユアはこう続けた。

「えぇ〜・・サキちゃんとかジュナちゃんはどーかしらないケドさぁ〜・・少なくともアタシはエミリーさまなんかどうだっていいんだよ。ただ楽しいからやってるだけ」

「・・・え?」

「なんだと?」

「コイツ・・・今何言うたんや?」

悠奈だけではない、その場にいた晃や光、フェアリー達も彼女の言葉に度肝を抜かれた。

「だぁってぇ、楽しいんだもんvほらほら見て見てvこのコの表情、今にも泣きそうだよ?心に闇を植え付けられてさぁ、どんな悪夢を見てるんだろうねぇ〜そう考えるとおっかしくっておっかしくって・・きゃはははは♪」

そう言ってユアはケラケラと心底楽しそうに笑った。
違う。
この子は今までの子とは違う。と悠奈達は思った。
悠奈達が今まで戦ってきた相手は共通してエミリーのためにという思いがあった。しかしこの少女は違う、この破壊活動の動機にしても純粋に人々を不幸に陥れることを楽しんでいる。

「・・・ゆるせない・・アンタ、サイッテー!」

「せやな、ちぃっと気分悪いわ」

「力づくでも今すぐこんなコトやめさせてやる!」

「ええ〜?いいよーべつにー。やめてあげてもぉ〜、そのかわりぃ〜・・・」

そう言いながらユアがサモンボールを取り出す。

「ユアとぉ〜・・ジュエモンのクリスタライズちゃんとぉ、この子たちと遊んでくれたらね!」

そう言ってサモンボールを空に投げると、ゲートが開きそこからモンスターが召喚される。この前の蝙蝠とスライム、それからゴブリンである。

「ユウナ!離れてあのデカブツの様子うかがって、スキが出来たらあの・・なんや、ハートのバビューンっ、ってヤツかましたり!」

「シャインハートフラッシュね、りょーかい!」

「アキラ!ユウナの援護頼むわ!しっかり守ったりぃ!ほな行こかヴォルツぅ?」

「がってんやあ!」

「よっしゃぁ!力貸してくれよバン!」

「おっしゃオラオラぁ!行くぜぇ〜!」

三者三様にしてモンスター達に向かっていく、光がそれぞれの能力値に見合った適切な指示を伝える。

「ぴぎぃーーーっっ」

「ギャギャギャギャッッ!」

「オラオラオラぁーっ!ユウナちゃんには指一本触れさせねえぜぇ!来やがれこんにゃろぉうっ!」

わらわらと襲いかかってくるモンスターを晃が悠奈をかばいながらほぼ1人で倒してゆく、悠奈は悠奈で晃から離れないようくっつき、ハートフルロッドを召喚、少し離れた敵をダンシングロッドで薙ぎ倒した。

「龍連牙(りゅうれんが)!ヨッ!ハッ!ウリャアッ!」

正面にいた大柄なゴブリンに晃がコンボを叩き込んで吹き飛ばし、さらに空中から迫って来た相手には悠奈が「炎神イフリートーよ、我が声に耳を傾け、その大いなる力を我が前に示せ・・ファイアボール!」悠奈が連係プレイでロッドから火球を放ったりして撃退していく。
一方光はというと、纏わりつくモンスターを殴り倒し、蹴り飛ばしながらジュエルモンスターに突進していったそして・・

「どおぉりゃああぁーーーーっっ!」

気合い一閃。
渾身の一撃をモンスターの胴体に叩き込んだ。

「ジュエジュエーーーール!」

と叫びながらモンスターはよろよろと後退してズズン!と倒れ込んだ。

「っかぁ〜〜・・なんってカタイねんコイツ。手ぇがしびれよるわ、アキラぁ!ちょっと手え貸してんかあ?」

「うっしゃ!今行くっ・・・あ、チッ!ヒカルぅーっ!ムリだ!一旦コッチに退け!」

「ああ?何言うてんねん?お前ならそんなモンスターの群れ大したこと・・・・!そうか、そうやった!」

何かに気付いた光、急いで晃と悠奈のもとに帰ってくる。

うかつだった。
晃が光のもとに走れば、モンスター達は純粋な戦闘力の低い悠奈に攻撃を集中するだろう。
ジュエルモンスターを浄化することのできるシャインハートフラッシュが使えるのは悠奈ただ1人。倒れている人達を解放するには悠奈の力が必要不可欠なのだ。

「スゴぉ~い!強い強い!でも、ザンネンだなぁ〜、そのユウナちゃんを守ってるからお兄ちゃん達2人、本気で戦えないんでしょ?マイナスだよそれって」

「ひ・・ヒカルくん!?アキラくん!?いいよ、そんな!アタシ1人でだいじょぶだから!」

「いらん心配すんなや!」

「そうそう、ヒナがいない時ぐらい、オレ達でユウナちゃん守らねえとな」

悠奈はそう明るく返してくる晃と光を見て、逆に申し訳ない気持ちになってしまった。自分のせいで、光も晃も十分に力が発揮できない。
自分がもっと強かったら・・・

「それだけの人数じゃもうどうしようもないね〜」


「そう、じゃあ増えたらどうなるのかな?」

「!」

『!!!』

ユアに向けて投げかけられた言葉、その声は屋上に出る為のゲートから聞こえてきた。
全員が見やるそこには・・・

「なっ・・ナミぃ!?」

光が素っ頓狂な声を上げる。
そこには片手を腰に当てて、眼光鋭くユアを見つめる葉山那深の姿があった。

「なっ・・ナミ!お前っ・・」

「どうしてココに!?」

慌ててひどく狼狽する光と晃に那深はさも当然と言いたげに告げた。

「助けに来たに決まってんじゃん!もお!ヒカルちゃんもアキちゃんも水くさいぞぉ、事情があるなら言ってくれればいいのに」

そう言って、那深は自分の携帯電話を取り出した。
那深のも光たちと似たようなスマートフォンだが、似ている点はそこだけでなく、そのデザインが悠奈や光たちのもっているものと酷似したデザインで・・・

「な・・・ナミ?」

「お前っ・・まさか!?」

「なっ・・ナミさん!?」

「レイアー、ヴォルツ、バンーっ、助けに来たわよぉー!」

「りっ・・リフィネーっ!」

那深の背後から現れたのはリフィネだった。そして・・・

「みんな無事かー!」

「オイラ達もいるぞーっ!」

「レイアー!バンー!ヴォルツ―!みんな大丈夫―!?」

「ユウナー!」

「助けに来たぞぉーっ!」

「アキちゃーん!ヒカルちゃーんっ!ナナちゃん参上!今助けたるからなーっ」

なんと駆けつけたのはリフィネだけではなく、イーファにユエ、ウェンディ、そして日向に窈狼、七海など他のセイバーチルドレンズのメンバーが苦戦を強いられていた悠奈達のもとに駆けつけて来たのだ。

「ヒナタくん!みんなぁーっ」

「イーファとウェンディたちが邪悪な魔力を感じとってさ、ここまで案内してくれたんだ・・・そしたらちょうどナミちゃんと会ってさ」

日向の言葉に那深はパチリとウインクした。

「ナミ・・っちゅうことは、やっぱりお前・・・」

「最初は信じられなかったけどさ・・・でもリフィネが全部教えてくれた!リフィネ、アタシに力貸してくれる?」

「もちろん!」

「よーっし!オレ達も行くぜーっ!ナナミ!ヤオラン!」

「オッケぇ―ヒナぁーっ!」

「行ったろうじゃんかぁ!」

『シャイニングスパーク・トランスフォーム!』

赤い光、青い光、黄色い光、それぞれの眩い輝きが日向たちの体にバトルコスチュームを形成していき、変身した3人が姿を現した。

「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」

「大いなる青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」

「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」

日向、七海、窈狼がそれぞれブレイブファイター、ケアヒーラー、シャインモンクに変身を遂げる。
そして・・・

「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」

那深がそう叫ぶと変身アイテムのスマホからグリーンの光が巻き起こる、緑色の輝きが那深の体を包み込み、悠奈たちと同じようなバトルコスチュームを形成してゆく、光の爆発が起こると、その中から変身した那深が姿を現した。
頭部には大きめのリボンがついたようなブラウンの髪飾り、両手首には大きめのリスト、緑を基調としたローブのような上着は腰元で大きく4つに分かれており、白のミニスカート、そしてアンダーには白の半袖ブラウスにダイヤのピアス白のブーツを装着した姿だった。

「大地の恵みは緑の息吹・・セイバーチルドレン・ミスティメイジ!」

「やったぁーーっナミちゃんが変身できたぁーっ!」

「ミスティメイジやて!ナミちゃんカッコイイ〜〜♪」

「また新しい仲間の誕生だぁーっ!」

「ユウナちゃん!」

「スゴイ・・ナミさんが、本当にアタシたちの仲間だったんだ」

那深の変身に歓声を上げる日向、七海、窈狼、そして悠奈はまたしても増えた新しいメンバーに少々言葉を失っていた。

「ナミ・・・ホンマに?」

「もう、まさかホントにこんなコトになるなんて、ヒカルちゃん、ホントは言いだせなかったんでしょ?」

「・・・いや・・そのぉ・・」

「どう?似合う?・・・自分でもちょっとビミョーなんだけどね・・デザイン的にはさ」

「・・・・ナミ」

「なに?」

「・・・この前オレが買うたった服の方が似合うんとちゃうか?」

「アハハ、やっぱりぃ〜」

ケラケラと笑って那深はそのまま正面のユアとモンスター達を見据えた。

「取り敢えず・・まだ全然わかんないから、指示だしてよねヒカルちゃん!早くこの人達もとにもどさなきゃ!」

「・・・ああ!」

「行くぞみんなぁーっ!」

揃ったメンバーに日向が掛け声をかける。
その瞬間、徒党を組んだモンスターの軍団が悠奈たちに襲いかかって来た。日向や七海は既に武器を召喚している。

最初に日向と窈狼が飛び込んだ。

「でえいっ!」

「はいやあっ!」

ズバッ! ガッ! という鈍い音、日向の必殺の剣撃と窈狼の必倒の回し蹴りがそれぞれゴブリンとジャイアントバットにクリーンヒットし、モンスター達が倒れる。

「大いなる水の精霊ウンディーネよ、凍結の力をもってして目の前の邪なる物を射抜け!アイススパイク!」
「雷の精霊ディーン、悪しき者どもに天の裁きを下さん・・サンダーボルト!」

宙に舞い上がった蝙蝠のモンスターは七海と光が魔法で叩き落とす。しかるのち、突然復活したセイバーチルドレンの攻勢に右往左往していたスライムやゴブリンは拳にグラブを装着した晃があっという間にたたんで行った。
ここにきていままでちゃらけていたユアにも、今や全くそんな余裕は無くなっていた。明らかに劣勢に追い込まれている自分とモンスター軍団を見比べて下唇を噛み、武器と思われるパラソルをジュエルモンスター、クリスタライズに真正面から立ち向かっている光に向けて掲げる。

「調子に乗ってんじゃないってのっ・・雷の精霊ディーン、悪しき者どもに天の裁きをっ!サンダーボルトぉっ!」

ユアの手から雷の矢が高速で放たれる、その先には光がいた。しかし、その雷の矢に横から何かが喰らいつき、白い煙を上げて相殺した。

「ちょっ・・ちょっと何!?」

慌てて辺りを見回すユア、見ると悠奈がロッドを構えて立っているのが見えた、彼女がファイアボールでユアの放った雷を相殺したのだった。この事実にユアは屈辱感と怒りで口元を激しく歪ませる。そして光を相手にしていたジュエルモンスター、クリスタライズに大声で檄を飛ばした。

「クリスタライズーっっ!んなにやってんのよいつまでも!こんなヤツラさっさとやっつけちゃってよぉ!」

「ジュッエエェーーーール!」

応えたのかどうなのか?モンスターはそんな声を上げると光から少し距離を空け、激しく自らの体を回転させだした。
するとその体の周りを黄色の光が覆っていく、光は本能でその姿になにか悪い予感を感じた。

「コイツ・・・なにしてんねん?・・・ってちょぉ待てや、アカン!みんな!コイツから離れて伏せろおぉーーーっっ」

「いっけぇー!ダイヤスピア!」

ユアがそう叫ぶとモンスターからダイヤモンドの一斉射撃が始まった。

「うわあぁぁーーーーっっ」

「わああぁあっっ」

「きゃあぁあぁーーーーっっ」

「やあぁあーーーーっっ!」

悠奈や日向達を槍のようなダイヤモンドが襲う。命中率が高くなかったのが不幸中の幸いではあったが、それでも悠奈たちの幼い体にダメージを刻むには十分だった。

「うっ・・・ててっ・・あんのヤロっ・・なんて魔法だよっ!」

「いっ・・ててて・・ムチャクチャだなぁ・・」

「うっ・・ううっ・・」

「ユウナっ!?どしたん?ケガ?」

「だ・・大丈夫・・」

「大丈夫ちゃうがなっ!擦りむいてるやん!お肌は女の子にとってムッチャ大事やねんで、ホラ、腕だして・・ヒールかけたるから・・・」

晃と光はタイミング良く身を捻って魔法を交わしたが、悠奈、日向、窈狼、七海は直撃こそ免れたものの派手に転んだり吹き飛ばされたりしてダメージを受けていた。悠奈の擦り傷を七海が丁寧に魔法で治す。
1人離れた所に立っていた那深はことの戦況を見守りながら、もどかしい気持ちに駆られていた。

{お願い那深ちゃん!わたしたちグローリーグラウンドに住む人達に力をかして、あなたたち、夢見る子どもたちの力が必要なの!}

リフィネが自分に必死に語った魔法の世界。そして光たちの決意。
那深にも夢がある。世界一のトップモデルになって、愛しのヒカルちゃんとゴールインして幸せな家庭を築くコト。ありきたりと言えばありきたりだが、それが今那深にとって一番大切な夢なのだ。
そしてリフィネたちにとっては自分たちの世界に平和を取り戻すことこそが夢。
これが運命の巡りあわせならばと自分も決意を固めた。しかしどうだ?今自分は怯えて光たちのピンチに何も出来ていない。
自分より年下の悠奈や日向たちが一生懸命頑張っているのに・・・

「やっぱり・・・アタシ・・・」

「ダメよナミちゃん!勇気をだして!」

「で・・・でも・・・」

「信じて、魔力はみんなの夢見る力!自分を信じて夢を信じれば・・・きっと体の奥から力が沸いてくるわ、弱気にならないで!」

リフィネの言葉に、那深は怖い気持ちを押し殺し、キッと目の前で暴れる化け物を見据えた。するとどうだろう?何やら体の奥が熱くなってメキメキと力が沸いてくるではないか、そして頭の中に・・否、自分の心に直接鮮明な何かが浮かび上がってくる、これは一体・・・?

「り・・リフィネ・・」

「それよナミちゃん!さあ、心にある言葉を・・アナタの魔法でみんなを助けて!」

リフィネのその言葉を受けて、那深はいつの間にか肩耳のピアスを取ると、それを手に握り、正面のバケモノに向けて拳を翳していた。

「召喚!・・シードスタッフ!」

那深の手の中に先程のピアスが光に包まれ、あっという間に杖へと姿を変えた。そして杖を振り翳すと続けざまに呪文を唱える。

「大いなる恵みの緑を司りし精霊フォレスティアよ、愚かなりし災いの子らへ戒めの刃を与えん・・リーフアロー!」

木の葉のような緑色の閃光が風をまいて化け物に乱れ飛ぶ、那深の放った魔法は全弾、クリスタライズに命中した。

「ジュッジュッ・・ジュエエェ〜〜〜〜・・・」

「きゃあぁ〜〜〜っっくっ・・クリスタライズぅ〜!?」

ユアが大きく体勢を崩してヨロめくモンスターを見て悲鳴を上げる。

「みんな!今のうちにっ」

「ナミ・・・でかしたで!うっしゃあ覚悟しいやバケモン!雷靭拳!」

「サイコボール!」

「百八式・闇払い!」

「ワイルドウルフコンビネーション!」

隙ができたモンスターにここぞとばかりに前衛のメンバー達が得意技を叩き込む、総攻撃に大ダメージを喰らったモンスターはとうとうズズン!と倒れ込んだ。

「今よユウナちゃん!」

「うん!」

すばやくロッドを構え、悠奈はとどめの浄化魔法を繰り出した。

「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャインハートフラーッシュ!」

ピンク色の光に包まれたモンスター、そのまま断末魔を上げて消滅し、あとにはあのジュエリーショップの看板水晶が残されていた。

「きぃ〜〜〜っっなによもーーうっ!負けちゃったじゃなぁ〜〜いっ、ヤダヤダこんなのぜんっぜん楽しくないっ!おもしろくな〜〜いっ!」

「それならどうする?もう1回、今度はモンスターなしで1対1で勝負してみるか?」

日向にそう凄まれ、ユアは思い切りふくれっ面をした。そして、

「フンだ!今日のところはコレぐらいでカンベンしてあげるもんね!でも次はぜぇ〜〜ったい負けないんだかんねぇ!」

小悪党が吐くお決まりのセリフみたいなものを残して、その場からユアはダッシュで逃げだした。
モンスターが消滅した光が、壊れた個所をまるで魔法のように修復していき、倒れた人々もすぐに気がついた。








「ただいまぁあ〜〜〜っ!ママぁ〜!オナカすいたぁ〜v」

「あら、ナミ、遅かったじゃない」

「えへへ、ゴメンネv」

「?なんか機嫌よさそうだけど何かあったの?」

「エヘヘ、ちょっとね、あ、みんなぁ〜上がって上がってぇ〜、ママお客さん連れてきたからオヤツお願いね」

「あらぁ、ヒカルちゃんに草薙さんとこのヒナタちゃん!それにナナちゃんやヤオランちゃんまで・・ウフフ、お友達と会えたからご機嫌なのね?」

アレからもう一度メンバーから詳しい事情を聞いた那深は、あらためてセイバーチルドレンズメンバー入りを決意、晴れて7人目の仲間となったのだった。アクセサリーショップでちゃっかり買い物を終えて、ナミちゃんメンバー入りおめでとう会をささやかながら那深の家で開こうということになり、彼女の自宅までやって来たのだ。
時刻はもう悠奈たちも帰る時間なのだが、すでにケータイにて事情を説明してあるため今日は少し遅れても大丈夫だ。

「ナミちゃんママ久しぶり!」

「ヒナちゃんも、ヤオランちゃんもちょっと見ない内にみんな背が伸びたわねぇ〜、よし、おいしいオヤツ用意してあげるからみんな待っててねv」

麻奈深ママの言葉に子ども達が大きく歓声と上げる。しかし、そこへもう1人の来訪者があった。

ピンポーンというチャイムの音に「ハーイ」と麻奈深が返事をする。ちょっとした応対があった後、リビングへ入って来た人物を見て一同は意外さに声を上げた。

「アレ?センセー」

「あーホントだ!ヴァネッサせんせーだ」

「こんばんは」

やってきたのはヴァネッサだった。両手にたくさんお菓子や子どもたちの好きな食べ物をぶら下げている。

「なんやぁ〜vセンセー差し入れ持ってきてくれたんかいな!」

「気ぃきくじゃねえか!よっし早速打ち上げといこうぜ!」

「そうね、先生もそうしてくれると嬉しいわ。でも、その前に・・・」

盛り上がる光や晃を軽く制して、ヴァネッサは那深の前にしゃがみ込んだ。

「ナミちゃん、ちょっと先生とお話ししよっか?」

「へ?ハナシ?・・・なんの?」

訳がわからないという感じの那深をつれて、ヴァネッサは那深の部屋へ移動した。場に残った子ども達もさっぱりと言った感じだったが、光だけは「もしかして・・・いや、でもナミ今日別に悪いコトしてへんよなぁ・・」と小さく呟いて微妙に心配な顔をしていた。



「ナミちゃん、最近ストレスたまることとか、モデルのお仕事で疲れることとかあった?」

「え?なんでセンセーがそんなコト聞くの?ん〜?ま、そりゃあ、この前まで春のカジュアルデート特集とかやってたからちょっと忙しかったケド・・・」

「イライラすることとかあった?」

「ん〜・・・・とくには・・」

年頃の女の子らしい那深の部屋、ヴァネッサはベッドに腰掛けた那深に同じ位置くらいにしゃがみながら優しく聞き出していた。最初はあっけらかんと答えていた那深だったが、不意に「あ、そーいえば・・・」と呟いて話しだした。

「なんか、ヒカルちゃんさぁ・・・最近遊んでくれなくって・・まぁイライラしたって言えばしたけど・・でも今日久々にデート出来たからもういいの!ユウナちゃんともおともだちになれたし!」

そう言ってニコニコ笑う那深にちょっとホッとしたヴァネッサ、どうやらただの癇癪のようなものだったらしい、しかしだからこそここでしっかり教えておかなければと思った。

「いろいろあったのね。でも、今日ママにしたことや言ったこと・・それっていいコトだった?」

そこまで言うと那深の体がビクッと反応した。
とたんに不満に満ちた目でヴァネッサを睨みつける那深。そんな彼女の隣に座って努めてゆっくり話しかけるヴァネッサ。

「今日たくさんママに言っちゃいけないコト言ってたでしょ?アレはいけないわよね。ちゃんとママに謝ろう?」

「・・・突然そんなこと聞いて来たから何かと思えば・・ナニ?ママに頼まれたの?」

「そうじゃないわ。先生がそうおもったからこうして・・・」

「ナニソレ!?意味わかんない!どーせアタシの態度が生意気だとか言いたいんでしょ!?」

「誰もそんなコト言ってないでしょう?先生はただ・・・」

「センセーだってどーせアタシが気にいらないから無理やりにでも頭下げさせようとしてるんでしょ?」

「・・・ナミちゃん、ちゃんと話聞きなさい」

「サイっアク!オトナってどーしてこうなの!?いっつも自分の言うコトばっかり・・・」

「先生の話を・・・」

「もーいーでてって!超ムカつくのよあのババア!ママもセンセーも・・みんな消えちゃえばいいのに!」

一方的に捲し立ててヴァネッサに反論の機会を与えない那深、しかし、その腕がヴァネッサによって掴まれた。必死に開放を試みるも万力に締め付けられたかのように動かない。

「・・ちっ・・ちょっと何よ・・痛いっ・・はなして・・」
「今何て言ったのおぉっ!!」

突然の怒声。
久しぶりにマジで怒ったヴァネッサ先生を見て、那深は心臓が縮み上がっていた。
そのままヴァネッサは彼女のベッドに腰掛けて膝の上に彼女を組み伏せる。那深自身なんども経験したこの体勢。意味を悟ると態度一変、泣き叫んでなんとか逃れようとした。

「ちょっ・・ちょっと、センセー!やっ・・やだっ!ヤダぁ!いやいやっ」

「いつもアンタのことを真剣に考えてくれてる麻奈深さんに向かってよくも・・・・アンタってコはぁあぁ〜〜〜・・・」

「ヤダ!ヤダ!イヤああぁぁ〜〜〜〜〜〜っっ」

暴れる那深の腰をぐっと抑えつけて無理やり固定して、そのままお気に入りのホワイトのミニスカートを捲くりあげ、可愛いハートプリントのパンツもするりと脱がしてしまう。
やや褐色の可愛らしい那深ちゃんのオシリが怒れるヴァネッサ先生の眼前に曝け出された。
はあぁ〜・・と手に息を吐きかける。その気配とお尻に冷気を感じとってガクガクと震えがとまらなかった。
今まで那深ちゃんもヴァネッサ先生からオシリぺんぺんを何度ももらって来たのだ。その痛みを忘れる訳がない・・・

ぱっっしいぃぃ〜〜〜んっっ!

「やっ・・・あっっ・・あぁっ・・あああぁぁぁ〜〜〜〜んっっ」

ぱちぃいぃ〜〜〜〜んっっ!

「きゃああぁぁ〜〜〜っっ・・いっ・・いたぁいぃぃ〜〜〜っっ」

びゅんっ!という風切り音とともに大きなヴァネッサの手の平が小さな那深のお尻を歪ませ焼き焦がす。
さながらプリンのように大きく震え、可愛いお尻に大きな紅葉のような真っ赤な手形が刻印される。体全体を突き抜ける灼熱の衝撃。
たった2発で那深は声を限りに叫び、足をバタバタとふり乱し、涙をとめどなく撒き散らして泣き喚いた。

ぱしんっ! ぺしんっ! ぴしゃっ! ぺんっ! ペンっ! ぱんっ! パンっ! ばちんっ! べちんっ!

「いたああぁいっ!・・ひいぃっ・・ひぃっ・・いたいぃぃっっ!ヤダ!ああぁっっあああぁんっっ・・きゃああぁっ・・きゃううぅぅっっ・・センセえぇ〜〜っ・・痛いぃぃ・・痛いよぉぉ・・やあぁぁっ・・」

「いやじゃありません!ママに向かってあんなひどいコト言うなんて、どれだけナミちゃんがどれだけ悪いコだったかしっかり反省できるまで先生ゆるしませんよ!」

ぱちぃんっ! ぺちぃんっ! ぱぁんっぱぁんっ! ぺんっ! ペンッペンッペンッ!! ぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃあぁんっっ! ばちぃ〜〜んっっ!

「きゃうっきゃうっっ・・いやあっっあっああぁぁんっっ・・・きゃんきゃんきゃああぁぁ〜〜〜んっ・・いたあぁぁいっ・・痛い痛いっ!いたいいたいいたいいたいいぃぃっっっ・・いっだあぁあぁ〜〜〜いぃっっ」

「もともとムダづかいしてたのはナミちゃんでしょう?ママからちゃんと買ってもらってたりもしたのに・・ママはいっつもナミちゃんのコト考えて言ってくれてるのよ?どおしてそれがわからないの!?」

「ひいいいぃ〜〜〜〜ん・・・だっ・・だってえぇぇ〜〜・・・」

「だってじゃありません!」

パッッシイィーーーーンっっ!

「ぎゃああぁぁっっ・・いぃぃだあぁぁ〜〜〜っっ・・いだぁぁいぃ・・いだいぃ・・痛いってばあぁぁ・・うっ・・ぐしゅっ・・ひっく・・うえぇぇっ・・」

「今日はママになんて言ったの?ババアに、ウザい・・挙句に消えちゃえですって?どのお口でそんなコトいうの!?」

ばしんっ! ばしんっ! べしんっ! びしーっ! ばしっばしっ! びしっびしっ! ビシィッ! ぴしぃーーっ! ぴしぃぃんっっ!

「きゃああぁぁあんっっ・・いやあぁぁんっっ・・いだっ・・いちゃぁいぃ・・いたぁいのぉ・・いたいのおぉっっ・・せっ・・しぇんしぇえぇ〜〜・・いたいのぉぉ〜〜・・ナミの・・オシリぃ・・ひぎいぃぃっっ・・おちりいたあぁぁ〜〜〜いぃぃっ・・」

「ほーら、ナミちゃんにそんなコト言わせたわるぅ〜いオシリちゃんはコッチかしら?それともこっち?」

ぱしぃーーんっ! パチィンッ! ペチィンッ! べちぃっ! ばちぃ〜んっ! ぱぁんっ! パアンっ! ぱーーんっ!

「ぎゃあぁあぁんっっ・・いぎゃあぁぁ〜〜んっっ・・も・・ムリぃぃ〜〜・・びええぇっっ・・いらぁあぃいぃっ・・いだぁいよおぉ・・・まっ・・ママあぁぁ〜〜〜っっ・・うええぇぇ〜〜〜〜んっっ・・ままあぁぁ〜〜〜〜っっ」

「ほぉら、ナミちゃん!オシリ逃げないの!」

べしぃ〜〜んっ! ばしぃ〜〜んっ! ぺんっ! ぺんっ! ぺーーーんっ!

「ああぁあうぅぅっっ・・やっやあぁぁ〜〜んっ・・ぎゃああぁ〜〜んっ・・ひぎゃあ〜〜〜んっっ」

もう那深はオシリが絶対に焼けただれてると思った。
先生の手が当たる度にお尻に熱い熱い、痛い痛い電撃のような衝撃が走る。お尻はずぅ〜〜っとひりひりじんじんして焼けちゃうくらいでマヒしそうなのにその衝撃だけはハッキリ伝わるのだ。
ヴァネッサのほうもそろそろ限界かな?と思っていた。
もう那深はベッドのシーツがたっぷり涙で水気を含むくらいに泣いているし、お尻も余すところなく真っ赤っかに腫れ上がっていてぷっくり膨らんでいる。
自分の手形でまだまだ未成熟なお尻をこれ以上染めるのは気が退けた。

「ナミちゃん、ごめんなさいできるかしら?」

「ひくっ・・ひくっ・・・ぐずっ・・ぐすっ・・すんっすんっ・・ってぇ・・ママ・・がぁぁ・・」

「ハイ、反省なーし」

ぱーーんっ!

「ぴぎゃああぁぁ〜〜〜〜んっっ・・・うえっうえっ・・うえぇぇぇ・・・びえぇ〜〜んっ・・らってぇ・・らってぇえ・・・」

「ゴメンなさい聞こえないなぁ〜」

ぺーーーーんっっ!

「ぎゃぴぃぃ〜〜〜〜っっ・・・ぅわあぁぁ〜〜〜んっっ・・いっ・・ぃらあぁぁ〜〜いぃぃ・・」

「ナーミちゃん?」

「ごっ・・ごめん・・なさっ・・ぃ・・ごめあしゃっ・・ごめぇぁあしゃぁ〜〜いっ・・」

ぴしゃっ! ぴしゃっ! ぴっしゃあぁ〜〜〜〜んっっ!

「ぴええぇぇ〜〜〜〜んっっ・・ああぁぁあぁ〜〜〜んっっああぁぁ〜〜〜んっっ」




「・・・ナミちゃん、よくゴメンなさいできました。もうイイコになれたもんねぇ〜、もうぺんぺん終りよ。よしよし、いたかったねぇ〜、イイコイイコv」

お尻叩きの終わった直後。
ヴァネッサは那深を膝の上に座らせて、胸に抱っこし、髪とたっぷり叩いてハレさせたお尻を優しくナデナデしてあやしていた。
お尻はもうスモモをさらに熟れさせたくらいに真っ赤。湯気が上がってきそうなほど熱くもなっており、那深ちゃんはその今だ襲う耐えがたい痛みにひゃっくひゃっく、えっぐえっぐと声を上げて咽び泣いていた。

「ナミちゃん、ナミちゃんはホントにママがいなくなっちゃってもイイの?」

那深はフルフルとヴァネッサの胸の中で必死に首を振る。

「じゃあ消えちゃえ、なんて嘘なんだよね?」

今度はコクンとうなづく那深。それを見るとヴァネッサは笑顔になって優しくおでこにキスしながら言った。

「じゃあ、ママにキチンとゴメンなさいできるわね?」

那深はそれにもうなづく、するとヴァネッサは那深の頭をもう一度なでて「よし!イイコ!」と抱っこしてリビングまで連れて行った。


せっかく那深ちゃんの歓迎会をしようと集まったメンバーたちだったが、那深がとつぜん、真っ赤な顔と目として泣きながらヴァネッサ先生に抱っこされてきた姿を見て驚いた。
そして、那深が麻奈深に向かって、しゃくりあげながら「ママ・・・きょう・・わがままいって・・ごめんなちゃい・・」と言うと、何があったのか?何されたのかもうわかった。

その後は何事もなかったかのようにみんなで楽しく遊んでとてもいい日だったが、悠奈の目にはとてもお姉さんに見えた那深が、終始ずっとママやヴァネッサ先生に甘えているのを感じていた。
7人目の仲間は、ちょっと大人びたみんなのお姉ちゃん。
でも、時々悪い子になって叱られると、とっても甘えっ娘になっちゃう可愛い女の子でした。

みんな、ナミちゃんをよろしくねv




                      つ づ く