「今なんて言ったの?」

「だからぁ、アタシの仲間のフェアリーが今日来るんだってば」

「ドコに?」

「ココ」

「ドコから?」

「グローリーグラウンドだよぅ」

押し問答が続いた後の暫しの沈黙。
続いて「えぇーーっ??」と悲鳴に近い声が上がる。直後に桃色の髪の少女は周囲の状況をかんがみて、口元を抑えた。
突如上がった声に、何事かと周りの生徒逹も心配そうに見ている。
少女は真っ赤になって軽く頭を下げ、今度は多少声を抑えて目の前で羽を持ち、宙を舞う小さな女の子に言った。

「く、来るって・・アンタの仲間が!?アンタみたいなフェアリーが!?」

「しかも今日・・いきなりだなぁ」

「って言うか、あんまりビックリしてないウチらってある意味スゴいんちゃう?」

それに呼応するかのように、ライトブラウンの雑髪の少年と、赤のロングヘアーを後ろで結ってカチューシャを身に付けた少女が言葉をきる。

ところは私立・天道学園・初等部屋外カフェテラス。

時刻は正午12時を過ぎたところ。ランチタイム真っ只中である。
学園のカフェテリアが立ち、春、夏には屋外の広島にもテーブルが並ぶこの場は、昼休みには生徒たちの憩いの場となっている。
先程派手な悲鳴を上げたのはこの学園の初等部3年A組の生徒、愛澤悠奈。そして、彼女と一緒なのはクラスメートの草薙日向と香坂七海である。
彼女らと話をしているのは、魔法の異世界グローリーグラウンドから来た妖精、レイアである。何の因果かセイバーチルドレンズなるよく分からない集団の一員に抜擢され、魔法やモンスターなどこれまた理解不能な輩と戦うハメになってしまった哀れな子らである。

いま、彼等は昼休みの時間に、例によってまったく現実離れした会話をしていた。
お弁当を広げながら、その周りを妖精が飛び交う。という、なんともメルヘンチックな図である。
もっとも、レイアの姿は普通の人間には見えないのだが・・

話はこうだ。なんと今日、レイアの故郷、魔法世界グローリーグラウンドから、レイアの友人のフェアリーが数人くるのだという。
ナゼか?どうも悠奈たちセイバーチルドレンズのメンバーを魔法で支援するためにワザワザくるのだそうだ。
話を聞いていくウチに、悠奈はまた面倒ごとが起こるんじゃないか?とゲンナリした表現だったし、反面日向と七海なんかはどこかワクワクした雰囲気だった。
「ねぇ、そのアンタの友達って・・どんなヤツラ?アンタみたいにヘンなの?」

「えぇー?普通だよう、アタシと一緒」

アンタがもうフツーじゃねえから聞いてんだろーが。
というような視線を思い切り送る悠奈だったが、当のレイア自身は全く意に介してない様子で続けた。

「アタシたちフェアリーがユウナちゃんたちをサポートすれば、みんなもっともっと強くなれるよ」

「なぁ、魔法でオレ達をサポートするって、具体的にどうすんの?」
「みんなの魔力を高めるのよ。アタシたちフェアリーには、魔法を使う術士の魔力を高める能力があるの。もちろん得意な属性は特に強力になるわ」

「?ぞ、ゾクセイ?」

タコさんウインナーをかじりながら尋ねる日向に意気揚々と答えるレイア。そのレイアの属性という言葉が気になる。
今度は悠奈の方を見ながらレイアはニヤリと笑った。そのまま宙からテーブルの上に降り立つ。

「魔力には、それぞれ全部で12の属性と呼ばれるものがあるの。火、水、土、風、雷、木、裂、月、星、光、闇、時、そしてそのすべてを司る聖の魔力」

「?ちょっと待てよ、ひとつ、ふたつ・・・・全部で13あるじゃんか」

上がった日向の質問の声、しかしそれにもレイアは自信をもって答えた。

「聖の魔力は特別なの。あらゆる魔力を支配する、魔法女王(ソーサレスクイーン)となるべき者のみが扱える魔力。それが聖の魔力なの」

「ふぅんナルホドせやったんか」

「え!?ナナミ、わかるの今の話」
「いやわかれへん」
「・・・・」

だよねぇという顔をしながら、七海とレイアを見比べる悠奈。
しかし、気になってここでひとつレイアに聞いてみた。

「そのさぁ、魔力とか属性とかってよくわかんないケドさ、肝心のアンタの魔力ってなんなワケ?」

その質問を投げ掛けた途端だった。
レイアが固まったのは。

「・・え、えっと・・それは・・・その・・」

「?どうしたのよ?」

いやにしどろもどろ。目も落ち着かずキョロキョロとしてる。

「オレも聞きたいなソレ」
「うんうん、ウチも!レイアってどんな魔法使えるん?」

日向も七海も興味津々の顔、やがて絞り出すかのようにレイアが言葉を発した。

「・・わかんないの・・」

「は?」

「わかんないの。アタシに、どんな魔力が備わってるのか・・アタシどんな魔法が使えるのか、どんな属性なのか・・今のアタシの魔力って言えばせいぜい自分の存在を魔力のある子に気づかせたり、眠った魔力を引き出したりすることだけ・・」

『ええぇーーーっ???』

余りの返答にまたもや大声を上げて驚く3人、そして怪訝な周りの空気を気にして必死に誤魔化す。
周囲は一体さっきから何なんだ?という雰囲気である。

「何よ!あんだけ魔法がどうとか魔力がどうとか言っときながら結局自分の力わかんないの?」

「ちょっとそれはアカンのちゃう?説得力ないで」

「うぅ〜〜・・だってわかんないんだもん。なんでアタシなんかにイリーナ様がこんな大事なコト頼んだのか・・アタシより魔力のしっかりしたフェアリーなんてたくさんいたのに。アナタにしか出来ないことだから・・なんて言われて・・・」

シュンとなって愚痴をこぼすレイア。ずっと生意気で、どこか先輩風を吹かせたレイアだったが、その姿に悠奈は、はじめて年相応の女の子を感じた。

「ま、とにかくオレ達はオレ達で頑張ろ。オレ達が探す仲間と、レイアの友達が力を会わせれば、レイアの魔力もきっとわかると思うぜ」

明るく元気付けるように、励ます日向。その姿に悠奈はまたポッとなってしまう。

「ヒナタくん///

「ありがとーーっっヒナタくん!アタシも頑張るよ!絶対に自分がココに来た目的見つけるからね」

しかし、悠奈が声をかける前にレイアが小さな体で日向に抱きついたため、空回り。再びイライラが募ったが、横を見れば七海もそんな顔。どうやら彼女もレイアに出鼻を挫かれたようだ。
ややあったが、再び和やかにランチタイムに入れる。そう思い、再び弁当をつつき出した矢先だった。


「草薙日向勝負ーーっ!」

そんな気合いの叫びとともに、悠奈達のもとに駆け込んできたのは1人の少年だった。
日向に似ているが幾分長い濃茶の頭髪。つり目ながらも独特の魅力がある美しい瞳。
容姿だけを見れば文句無しの美少年である。しかし、そのせっかくの綺麗な眼は、今、日向を射るように睨み付けていた。

「え?え!?だ、ダレ?」

悠奈は、あまりの突然の事態にワケがわからず狼狽した。
一体このヒトはダレ?なんでヒナタくんを?
頭に?が沢山浮かんでいる悠奈だが、日向と七海は知っている風で、うんざりした表情で少年を見ていた。

「ゲ。またかよ・・お前なぁヤオラン、いちいち昼休みにまで突っ掛かって来るなよ」

「なっ、なんだその言い草!男と男の勝負だぞ!さぁ来やがれ、今日こそお前の古流式剣術と、俺の截拳道(ジークンドー)どっちが上かはっきりさせてやる!」

そう言うと、日向の意見も聞かずに拳法の構えをとるヤオランと呼ばれた少年。しかし、今度は七海がママ特製のオム焼きそばをパクつきながらしれっと言った。

「ヤオ、やめや」

「なっ・・ナナミは・・・ほっといてくれっ」

今度は顔を赤らめてぎこちなく言い捨てた。色々行動が忙しいヒトだ。と思いつつも、このままだと余計目立ってしまうと思い、いつもの外キャラをつくるとその少年、ヤオランに詰め寄った。

「あのさぁ、ヒナタくんと何があったか知らないけどさ、いきなり大声で喚かないでくれる?ウザいんだけど?」

「アンタ・・・そうか、有名な転校生の愛澤悠奈だな?」

(ゆ、有名って・・どんな?)

「悪いケドアンタには関係ねぇ、引っ込んでてもらおうか?」

悠奈の詰め寄りに一歩も引かず言い返すヤオランに、悠奈は「うっ」と言葉を呑み込んだが、そこをすかさず七海が遮った。

「いい加減にしいやヤオ!みんな迷惑してんのわからんの?ヒナもユウナも、ウチかて迷惑してんねんっ!少しは周りに気い配ったらどや!?」

すると七海の言葉で、ヤオランはたじろいだ。悔しそうに唇を噛んで日向や悠奈を睨む。

「もう、ええわ!ホラ、ユウナもヒナも行こ?別の場所で食べよ?」

言うが早いか、七海は悠奈の手を強引に引っ張ると、「ち、ちょっと、ナナミ!?」という悠奈を無視して日向も連れて向こうへ消えてしまった。
またもややざわつく周囲、ヤオランはその背に苦虫を噛み潰した顔を向けた。


(どうして、いっつもヒナタばっかり・・なんで・・・オレを見てくれねぇんだよ、ナナミ!)



「ねぇ、ナナミ。お昼の・・あの子知ってるの?」

「は?誰?」

「ほら、あの・・ヒナタくんに絡んできた・・」

「・・ああ」

放課後、校庭で日直の日向を待つ間、昼間の顛末を思い出した悠奈は、玄関前で隣の七海に尋ねた。
聞かれて、やや面倒臭そうにため息をつくと、七海は話しはじめた。

「ヤオのことかぁ、うんまぁ、話すとメンドくさいねんケド・・」

聞いて見れば、なんと彼は七海とは幼稚園前からの付き合いの幼馴染みだという、名を煌窈狼(ファン・ヤオラン)と言う。
アメリカ系中国人二世の父と、日本人の母を持つハーフの少年である。
彼の父はアクション映画俳優で、その道では知らぬ者のいないハリウッドの大スター、ジャッキー・ファンである。悠奈でも度々聞いたことのある大俳優なのでコレには少々驚いた。
しかし、さらに母親がなんと女優の観月里佳(かんづきりか)だというのだから今度は大きく驚いた。
テレビでも度々拝見する顔である。

理由を聞くとさらに驚きで、七海の母、雫がまだ実家の西京都・神楽(かぐら)神社でまだ女子高生だったころ、巫女仕事の手伝いをしていた時にまだ10代で同い年の新人駆け出し女優だった里佳が、仕事の悩みを打ち明け、その相談にのり、アドバイスを与え乗り越える助けをしたのだ。
以来、神楽雫つまり香坂雫は観月里佳にとって、無二の親友となったのだ。

以来、雫と里佳は結婚してからも家族ぐるみの付き合い。
その繋がりで、七海も窈狼とは昔からの付き合いだというワケだ。

「へぇー・・なんかスゴイね、有名人の家族と友達だなんて」

「そぉー?まぁ友達っつっても、ウチやなくてママやさかいなぁ・・それになんや知らんケド、ヤオって昔っからヒナにエライ突っ掛かるんよ、やれ勝負だ!とか競争だ!とかさ、ま、小1の頃に竹刀持ったヒナにケンカ売って逆に敗けたん今でも気にしてるんやろな」

「ふぅん、ヒナタくんをライバル視してるワケかぁ、あ!ウワサをすればホラ、ヒナタくん来たよ」

レイアが指差すと、手を振って走ってくる日向の姿。そのまま真っ直ぐ駆け寄って来る。

「お待たせ、待ったか?」

「ううん、平気!」

「日直お疲れー!ヒナ」

「おう!あ、そうだレイア、お前の友達、まだ来ないのか?」

「そうなの、ドコで何してんのか・・道に迷っちゃったのかなぁ」


「ずいぶんな言い草じゃねーかレイア!しばらくぶりだってのによ!」

日向たちとレイアがちょうど帰り道を歩きながらそんな話をしていた時だった。
突然空から威勢のいい声がかかったのは。

「!?」

「あ、あれ!」

「あーっ!イーファ!」

レイアが指差す方向、空中に目をやると、そこにはレイアにそっくりな・・・
いや、似てはいるけど姿形は全く別のフェアリーが飛んでいた。
全部で1、2、3・・・
なんと8人(匹?)の妖精達が、それぞれ笑顔で悠奈たちを見ていた。
呆気にとられる3人に、正面の赤い髪のフェアリーが言った。

「おっす!」と。

 

 

 

 

 

悠奈達の暮らす聖星町。
その北区に位置する住宅街に佇む大きな洋館。
かつてその建物はこの地域の有力者であった富豪の老夫婦の持ち物だった。

だが、老夫婦が亡くなるとどこにも引き取り手がなく、十数年、その洋館は忘れ去られた廃墟と化していた。
しかし、近年、その洋館に所有者が現れた。何者かがこの広大な敷地を有する洋館を大枚をはたいて丸ごと買い取ったのだ。
近隣の住民は亡くなった老夫婦の身内のものではないか?と噂した。事実年若い子どもの姿が時折見受けられるからだ。しかし、事実は・・・


「クッソーっ!」

カンッ!と鋭い音が洋館内部の広いリビングに響く。ブロンドの髪を一纏めにした少女が、壁に掛けてある的目掛けてダーツを放ったのだ。ダーツは真ん中の100点の的を僅かにそれて突き刺さっていた。

「愛澤悠奈・・・次こそ・・次こそこのオレが叩きのめしてやるっ」

何もない空間に、彼女はそう毒づいた。

彼女の名はアカネ。悠奈達、セイバーチルドレンズと敵対する組織、ダークチルドレンズのメンバーだ。

そう、ここはダークチルドレンズのアジト。彼女達の主、グローリーグラウンドの魔法使い、メイガス・エミリーが、こちらの世界に部下達を滞在させるためにこの館を買い取ったのだ。エミリーは悠奈達普通の人間が生活する世界も支配しようと企み、闇の魔法力を与えて組織した部下、ダークチルドレンズを結成。そのアジトをこちらの世界にも用意したのだ。

この今ダーツを片手に荒れているアカネもメンバーの1人である。
数日前、自らが産み出したジュエル・モンスター、マッド・ピジョンを引き連れ襲い掛かったにも関わらず、返り討ちに会ってせっかくのジュエル・モンスターも倒されてしまい、やむ無く逃げ帰ってきたのだ。
それでこの通りすこぶる不機嫌だったというワケだ。

「やられたのはアンタがドジだからでしょ?」
「おーほっほっほ、あんなに自信満々に出ていったのにイイザマですわね!」

そんな不機嫌な彼女に背後から声がかかった。
見るとストレートの茶髪にパンク系のシャツ、デニムの短パンを身に付けた少女と、もう1人白のドレスを着た青髪の少女が薄い笑みを浮かべて佇んでいた。

「・・サキ、ミウ」

苦虫を噛み潰したような顔で彼女らを見るアカネ、焦りを隠すように言い放つ。

「チッ、油断したんだよ。次こそは・・必ず仕留めてやる!」

「フフッ、だといいケド」
「!」

今度は別の声が彼女にかかり、3人が声の方を一斉に振り向いた。
スリットの入った紺のミニスカート、ピンクのタンクトップに白の薄手のセーターを纏った桃色のセミロングヘアの少女がいた。

「ジュナ・・」

「もう、アンタの後始末させられるのゴメンだから」

ジュナと呼ばれた少女は、的に突き刺さっていたダーツを抜いて、指で遊ばせながらアカネの方に歩み寄って来た。

「後始末ってなんのコトだよ!」

「妹だからって理由でアンタの不始末片付けさせられるの、もうウンザリなの」

「た、頼んでねえだろ!」
「うっさいわねぇ、アンタが頼んでなくてもコッチは今までやらされて来たの!少しはお姉ちゃんの身にもなってよね」
「双子なんだから姉と妹とかカンケーねえだろっ」

痴話喧嘩。
傍らで聞いているカレンとサキは少々呆れ気味である。
どうやらこの2人は姉妹らしい。このジュナという少女が姉で、アカネが妹なのだろう。
姉妹のやり取りがまだ続くかと思った時、ジュナがサキに問いかけた。

「ねぇサキ。次はアタシにやらせてくれない?」

「え?」

突然の申し出に、やや唖然となるサキ。ジュナはさらに続けた。

「あなたもアカネも会って来たんでしょ?その愛澤悠奈ってコに、アタシも会ってみたいのよ。大丈夫、ちゃんとレイアってフェアリーは連れて来るからさ」

「ち、ちょっと待てよっ!勝手に決めんなっ」
「そうですわよ!ズルイですわっ」
「アンタ達は黙っててっ!ねぇ、いいでしょ?リーダーさん」

サキは考えた。
今のこのダークチルドレンズのリーダーは自分。強権を発動しようと思えば不可能ではない。しかし、自分はリーダーであるにも関わらず既に2度しくじっている。もし今度しくじればメンバー内での立場も危うくなるかも知れないし、何よりエミリーを失望させてしまうのは怖かった。
次の一手の為に、駒をぶつけてみるのは良いかも知れない。
何、もしジュナに負けてしまうようなら所詮その程度の相手だったというだけの話だ。

「いいわ。アナタにまかせる」

「なっ!?ジュナ!」
「ナニソレ!?ヒドイっ横暴ですわっ」

アカネ、カレンの非難の声が上がるなか、ジュナは「さんきゅ♪」と言うと広間を出ていった。

自室で軽く身支度を整えると、鏡に向かって呟いた。

「見せてアゲル。本物の魔法戦を!」



「オレがイーファ、オレの魔力属性はメラメラ炎の火、一緒に頑張ってエミリーの野望を阻止するぞ!ヨロシクな!」

「はじめまして!私ウェンディ。水の魔力属性を持つフェアリーよ、コッチの世界のコトよくわからないから色々教えてね」

「オレぁケン、疾風のケン。属性は風だ、覚えとけ」

「リフィネよ。私は木属性の魔力が得意なの。みんな仲良くしてね」

「どーもーワイがヴォルツでっすー。楽しいことオモロイこと大好きなヴォルツでっすー。ワイの魔力はピカピカゴロゴロビリビリの雷属性でっせー、よろしゅおま!」

「おっしゃあーっ!オレがバンさまだー!悪のエミリーをぶっ倒すために頑張ろうぜ!オレの属性はドッカン熱い裂属性だぜぇっ!うおぉーボンバぁー!」

「うーんとぉ、ルーナでしゅう、ルーナはぁ、カワイイのでしゅう。お星さまの魔力なのでしゅ、仲良くしてね♪」

「オイラ、ユエ!みんなよろしくね。オイラの属性魔力は月、頑張ろうね!」


「あ、ハイ、ども・・ってちがぁーう!」
「コレが・・レイアの友達?」
「・・・ってか、多くない?」

一通りの自己紹介。
言われたところでイマイチ状況が飲み込めない悠奈達は素直に心の声を吐露した。
全部で8匹・・いや、8人?のレイアによく似た妖精たちが、草薙宅の日向の部屋、彼のベッドに並んでいたのだ。
レイア1人でさえ、生活が少しずつ狂って来ているのに、こんなのが8人もいたらどうなっちゃうの?と、悠奈は気が気ではなかった。七海もいつものあっけらかんとした性格はナリを潜め、この状況に緊張していた。
レイアもやはりいきなりはマズかったか?と心配したが、緊張をほぐしたのは、やはり天然純粋、天真爛漫の彼であった。

「ねぇねぇ、キミ火のフェアリーなの?カッコいい!はじめまして、オレ草薙日向!」

「おおっ!お前わかるのか!?そっか、お前も火の魔力持ってるんだな?だからわかるんだ、オレはイーファ!ヨロシクなヒナタ!」

そう言ってあっという間に仲良くなった日向とイーファ。
それがきっかけになった。


「あらぁ、アナタには水の魔力を感じるわ。ナナミちゃんだったっけ?こんにちは、アナタ可愛いから私のパートナーになってくれない?」

「えー///なんやわかってるやないかぁ!どーしよかなぁ?///

「あんさんがユウナちゃんやな?レイアからテレパシーで聞いてるでー、エライ可愛らしいコやって。」

「ルーナでしゅう、楽しいコトいっぱいするでしゅう♪」

「オレ達もついてるし、どんとまかせときな!ドカーンッ!と解決だぜ!」

「がんばりましょうね。ユウナちゃん!」

「気合い入れて・・まぁ精々ガンバレや」

最初は戸惑っていた悠奈だったが、フェアリー達に話しかけられてこちらも段々と状況を受け止められるようになってきた。
得意のスパイシートークも炸裂させてきたのである。

彼らも確かに、羽根を持ち、宙を浮遊しているところはレイアにそっくりだが、当然の如く容姿や身につけている物、ファッションは別物だった。
炎のような逆立った赤い髪、白の上着に黒の袴という侍の道着のような服を着たスタイルがイーファ。

白いドレスに、淡いブルーのウェーブがかった髪を揺らし、サファイア色のイヤリングに胸に青いペンダントを付けたウェンディ。

紫のロングヘアに、黒のタンクトップ、白のロングパンツに赤の腰巻を付け、青いリストバンドをしたヴォルツ。

オレンジのやや逆立った雑髪に、青のTシャツと、黒のショートズボンを履き、黄色のスカーフを付けたケン。

ライトグリーンのロングヘアに、黄色いワンピース。緑の帽子をかぶったのがリフィネ。

真っ白のネグリジェのような服に肩まで垂らしたブロンドの髪、ピンクと水色の星の髪飾りを付けたのがルーナ。

ハリネズミのような茶色のツンツン頭に赤の鉢巻き、上半身裸で黒ジャケットだけ羽織り、青のズボンを身に付けたバン。

青のタンクトップに、緑のカンフーパンツ、後ろに流した長めの髪に月のペンダントを付けたユエ。

実に個性的な出で立ちである。
そんなフェアリー達に、悠奈たちは気を許しつつあった。

「どお?ユウナちゃん、何か感じる?」
「え?」

ふと、レイアが突然悠奈に問い尋ねてきた。何のことかわからずに思わず聞き返す。

「感じるって・・ナニ?」

「ここにいるフェアリーを見て体の中が熱くなったり、胸がじんわり温かくなったりしない?」
「?・・別にないけど」

「・・そう」

何かがっかりしたようなレイア。一体何の話なんだろう?と怪訝に思ったところで、日向が声を上げた。

「あっ、オレ、それ感じた!体がなんか熱くなって・・なんか体の中を温かい空気が巡ってるみたいな」
「えっ!?ヒナもなん?ウチもウチも!体になんか流れてるみたいなん感じるわ」

「おおっ!やっぱりか!」
「スゴイ!ナナミちゃんっ!やっぱりアナタは私のパートナーになるためのコだったのね」

日向と七海がそう言った途端、そばにいたイーファとウェンディが喜び勇んで叫んだ。

「スゴイスゴイ!ヒナタくんとナナミちゃんはもうパートナーを見つけたのね」

「・・・ゴメン、話が全っ然わかんないんだけど・・」

レイアまでもが日向と七海に歓声を上げるので、何か置いて行かれた気がした悠奈はたまらずにレイアに尋ねた。
一体何のことなのか?

「ああ、ゴメンネ、ユウナちゃん。実は、自分の魔力と同調するフェアリーがそばにいると、人間は魔力が高まるのよ。その兆候が、体に魔力を満たして巡っていることになるの。ヒナタくんやナナミちゃんが体に温かさを感じたのはそれが理由。だから、ユウナちゃんも何か感じないかと思ったんだけど・・・」

なるほど、と悠奈は思った。先ほどのレイアの少々がっかりした表情はソレだ。
言われてみるとなにか悠奈も悔しい気がしてきた。
日向も七海も魔力を感じて自分のパートナーを見つけ出したのに、自分だけが何か置いて行かれたような気がしたのだ。

「だ、だいじょーぶだよ!ヘンな気分にさせてゴメンねユウナちゃん、ユウナちゃんが悪いわけじゃないの。たまたまユウナちゃんの魔力に合ったフェアリーがいなかっただけだから・・」
「そうだぜ?そんなに気にする事じゃないさ!オレもみんなも、早く残りの仲間やレイアの友達を見つけられるようにガンバるからさ!な?イーファ!」

「おうっ!そうさ、みんなで頑張ればきっとできるぜ!ユウナもレイアも、ちゃんと自分のパートナーや魔力をみつけられるざ」

「ヒナタくん・・///うん!///
「イーファ・・ヒナタくん、ありがとう!アタシもユウナちゃんもガンバるからね!」

その一言で元気が出る。悠奈は顔を赤らめながらそう思った。
幾分和やかなムードが流れていた、その時だった。


「ヒナぁ〜、お友達よ〜」

『わああぁぁーーーっっっ!!!』

「!・・ど、どうしたの?」

突然日向の部屋のドアが開けられ、母親のつぐみが入ってきたのだ。
咄嗟に妖精たちを体で隠そうと身を張ったので、体制がありもしないおかしな体制になってしまっていた。もちろん怪訝な顔のヒナタママ。

「べっ・・別に・・・」
「なんでもあらへん・・よ?」
「おっ・・おかーさん・・ノックくらいしてよ」

「何がノックですか。呼んでも返事しないからじゃない。何してるのよ?器械体操?」

ベッドを覗き込んでも何も反応のないつぐみを見て、3人は理解した。そう言えば普通の人間にはレイアたちの姿は見えないのだと。
途端に一同ホッと一息。

「で?だれ?友達って」

「ヤオくんよ。一緒にあそびなさい。今お茶入れるから」

その言葉に、日向と七海は「ゲェ〜・・」という表情を見せた。
(ヤオって・・あぁ、昼間の・・)
悠奈もそこで思い出した。昼間に日向に絡んできたあの少年だ。煌窈狼(ファン・ヤオラン)。
日向と七海の幼馴染の少年で、ハリウッドスターの息子だ。何の用だろうと考える。もしかしたら、また日向に向かって勝負だーっ言うのかなぁ?と何気なく思った。


「ヒナタ!オレと勝負だ!」

(・・・やっぱり)

予感的中である。

日向と七海は実にもーウンザリ。といった表情である。

「ヤオラン、お前いい加減にしろよ。なんでオレがお前とそんなに決闘しなきゃなんないんだよ?」

「きまってんだろ!男の、誇りのためだ!」

えぇ〜〜・・なんかムズカシイ言葉出てきたぁ・・と悠奈はつぐみに入れてもらった紅茶を飲みながら冷や汗混じりで聞いていた。しかし、そのムズカシイ言葉を一刀両断したものがいた。

「ホコリってナニ?なんやそれ?ゴミ?意味わからんねんけど、アンタ頭ダイジョーブ?」

さもありなん。
なんとも傲岸にしてキツイものの言い方である。七海の言葉が関西弁だからだろうか?余計に厳しく聞こえてしまう。言われて先ほどまであんなに強気だった窈狼が
「な・・ナナミは・・・ほっといてくれ!」
と紅くなって黙り込んでしまった。
しかし、昼間から見ているが、この窈狼、なぜか七海にたしなめられたときだけ、文句も言わず閉口してしまう。まるで、七海には逆らわないように意識しているかのように

(もしかして・・このヒト・・)

「ったく、しゃーねぇなぁ!」

悠奈がそこまで考えた時、日向が立ち上がって机に立てかけてあった竹刀を手に取った。そして窈狼の目の前にビッと突きつけると、言い放ったのだ。

「そうまで言うんなら相手してやるぜヤオラン!外に出な」

「ちょっ・・ちょっとヒナタくん!?」
「ホンキなんかぁ?ヒナ」

驚き半分呆れ半分の女子の声が上がる中、窈狼の瞳だけが、メラメラと燃え滾っていた。
その時・・
(アレ?)

レイアが気付いた。何かこの窈狼という少年の中に、悠奈と同じ力を感じたのだ。
(ひょっとして・・・この子・・)



悠奈達の家のある住宅街から東に位置する土手沿い。
ここには土手に敷設された「聖星町・河川敷児童公園」(せいじょうちょうかせんじきじどうこうえん)がある。
都心では中々場所もとれないため、サッカーや野球などの大規模な球技遊びはおのずと制限される。
しかし、この河川敷公園は、川に落としてボールなどを紛失する危険を除けば遊び場として最高の環境が整っており、釣り場の穴場でもあるため、休日には家族連れが、そして平日でも多くの子どもで賑わっている。
今日も、この公園には鬼ごっこやキャッチボールをする子どもたちや、それを見守りながら談笑する保護者の姿が所々にあった。

「さぁ〜て、このヘンにしよっかな〜♪?」

そこの土手の上に桃色の髪を掻き上げながら、ダークチルドレンズのジュナが立っていた。辺りを見回し、計画の開始に使えそうな素材を物色する。

「う〜ん・・おっ!アレにしよっと!」

目に留まったのは、公園の水飲み場付近に黄色く咲き乱れるタンポポの群生地、そこに降りて行き、ポケットから宝石をとりだした。アカネの紅い宝石とは違う、緑色の宝石である。

「闇より出でし邪なる石、ダークジュエルよ。我が闇の魔力に答え、その力を目ざめさせよ!」

手を前に翳し、宝石を掲げて呪文を唱える。するとたちまち宝石から黒い妖気が上がり、ひとりでに宙に浮く。
そしてそのまま空中を疾走し、咲いていたタンポポの1つに取り付いた。タンポポが緑色と紫色の光に包まれる。

「さあ、出てらっしゃい!ジュエル・モンスター、ダンデライオンゴブリン!」

そう言うが早いか、あっという間にタンポポは巨大なモンスターとなって姿を現した。
花の中心部に不気味に開いた巨大な口、鋭い牙が並んでおり、食虫植物を連想させる。
可愛らしかった葉っぱは巨大な触手へと姿を変え、ウネウネと気持ち悪くうごめいた。

「ほぎょああぁ〜っ!」

「うわあーーっ!?なっなんだぁ!?」 「バケモンだぁ〜〜っ!」

「キャーッ!助けてーっ!」 「ウエーン、ママぁ〜っ」

突如現れた巨大な怪物に周囲にいた人間は大騒ぎになった。
叫び、悲鳴、怒号、絶叫、泣き声。そこここで上がる正に負のスパイラル。

「アハハハッ!泣いて逃げちゃって最っ高!ダンデライオンゴブリン!もっと暴れて怖がらせてみんなの心に闇の魔力を植え付けちゃってっ」

心底楽しそうに笑うジュナの笑い声と、逃げまどう人々の悲鳴が、昼下がりの空にこだました。



「ルールは簡単、どっちかがギブアップするまで時間無制限、気絶したり泣いちゃったりしてもそれで負けだ。いいな?」

「メンドくさいからさっさとやろうぜ」

日向の家から南東の方角にある土手の陸橋下。日向と窈狼は決闘のために対峙していた。
周囲には見守るギャラリーに悠奈、七海、それから窈狼には見えていないがレイアをはじめとするする8人のフェアリー達。
みな息をのんで事の成り行きを見守っていた。草薙流古武術の剣術を操る日向は独特の刀を正面から斜め上に構えながら斜に体を取る体勢。
一方の窈狼は手を上下に揺らしながらステップを刻む典型的な截拳道(ジークンドー)の構えだ。
両者互いに様子を見ているのか全く動かない。緊迫した空気が流れる。
悠奈はその空気に押され、思わず七海に話しかけた。

「どうしよぉ・・何かスゴイキンチョーした雰囲気じゃない?」
「そう思うならなんか言うたったら?」
「え?・・な、なんかって?」
「もう・・・」

事態の展開に痺れを切らした七海が、ついにきっかけとなる言葉を言った。

「こらぁーっ何やってんヒナぁーっ!ヤオなんかにビビんな!ちゃっちゃとやってもうたれーっ!」

七海の過激なエール。コレ窈狼は、苦虫を噛み潰す思いを味わった。

(まただ・・ナナミ、どうしていつもいつもヒナタばっかり・・・オレは、オレはどーでもいーのかよ!?)

先に仕掛けたのは窈狼だった。

「はあっ!」
「ふんっ!」

突進。突然飛び込み、飛び込みざま日向に右の正拳をはなった。日向はそれを竹刀を横に倒してガツッ!と受け止める。続いても窈狼の攻撃は止まない。
続いて、ジャブ、ジャブ、ミドルキック、ローキック、バックブロー、左ハイキックからの踵落としと次々と息もつかせぬ連続攻撃を見舞うが、日向はその全てに冷静に対応した。そして、最後の踵落とし、ここで

                  ガ ッ !

「うわっ!?」
竹刀の柄で窈狼の足を払い、体勢を大きく崩す。

「いただきっ!」

「うわあっ!」

そのまま当て身を見舞いつつ、大振りの横薙ぎで窈狼を吹き飛ばした。
地面に転がる窈狼。しかしなんとか受け身を取り、倒れ込むことだけは避けた。そのまま膝をつく。

「やりぃ〜!ヒナ、ナイスぅ!」
「ヒナタくんスゴイ・・」

「ほえぇ〜・・やっぱヒナタくんって強いんだぁー」
「ふぅ〜ん・・アイツ戦士としても一流だなぁ、アレならファイターにしてもフェンサーにしても高いレベルになるぜ」

日向の技術に悠奈も、七海も、そしてレイアやイーファもしきりに感心した。

「・・ようし、こうなったら・・・」

窈狼は立ち上がり、膝に付いた砂をパンパン、と掃った。そして、再び日向に構えを取る。

「ヒナタ!お前に見せてやるぜ、お前を倒すためにオレがパパの映画を見て編み出した、ワイルドウルフコンビネーションを!」

「は?・・わい・・なに?」

訳がわからん。といった感じの表情の日向。窈狼はというと、体勢を先ほどよりも深く沈みこませ、体のバネに溜めを作っている。
ここは先に動くか?日向がジリッ、と前に出たその時だった。

「ったあぁーーーっ!」

突然、窈狼がもの凄いスピードで日向に向かって駆け込んで来たのだ。不意を突かれたわけではなかった。
ただ、単純に窈狼のスピードが速かったのだ。

(は・・速いっ・・ヤバ・・っ)
「ワイルドウルフコンビネーション!アチョォウッ!」

        バ キ ィ ッ !

という音と共に、飛び込みざま放たれた窈狼の左ハイキックが日向の頬を弾き飛ばした。

「ぃがっ・・!?」

「ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!」

そのまま、崩拳、肘鉄、ローキック、ミドルキック、掌底と次々と流れるような連続攻撃が日向に叩き込まれる。

「あうっ!・・いでっ!?・・うあっ!おうっ!?・・ぐあっ!?」

「はぁいやあーっ!」

「うわあぁ〜っ!?」

最後はたっぷりとウエイトの乗った裏拳がガッッ!という轟音とともに日向を大きく吹き飛ばした。
もんどりうって砂埃を上げて地面に転ぶ日向。ダウンだ。

「きゃあ〜〜っ」
「ヒナぁーーっ」

「どうだ!」

悠奈と七海の悲鳴が響き渡る中、窈狼は威勢よく叫んだ。日向はゆっくり起き上がり、「イッテテテ・・」頬を抑えて呻く、眼の端に涙。

「とどめだ!」

窈狼は勝利を確信して日向に飛び込む。

「っ!・・イッテ―なこのっ!」

日向は突進してくる窈狼に向かって竹刀を振りかぶると、横薙ぎに振り払った。
瞬間、炎が巻き起こり、地面を疾駆して・・
「うっ、うわあぁっ!?」
窈狼の側面から襲いかかった。

そのまま煙を上げて転がる窈狼。

「あ!・・ヤベッ・・」

草薙流・百八式・闇払い。日向はつい本気になって草薙の炎を使ったことを悔いた。すぐさま窈狼のもとに駆け寄り、今の今までケンカしていた相手を「おいっヤオラン!大丈夫か?しっかりっ!」と心配する日向。その様子を見て、悠奈も七海も駆け寄った。

「なんだ!?ヒナタ、今魔法使ったのか?」
「違うの、アレは日向くんが習ってる武術の技なんだって」
「へぇ〜、って事は、闘気(オーラ)の一種か・・スゴイな」

レイアやイーファをはじめとするフェアリー達も、そのもとに向かう。

泥だらけの窈狼。炎に噛まれたが、服の上だったこともあり、洋服は若干焦げてしまったが、火傷は見当たらなかった。
ブスッとした表情で地面を見つめている。

「ちくしょうっ!」


「だ・・大丈夫?ファンくん」
「だからやめとけって言うたのに、自業自得やで」
「ご、ゴメン・・アレ、あんまりにもスゴイ技だったから、つい・・は、反則負けだよな?」

口々に差はあるものの、窈狼を心配する声に、窈狼はふてくされながら答えた。

「いや、オレの負けだ・・ヒナタ!」
「うん?」

「コレで終わりじゃねえからな。次こそ・・オレが勝ってやる」

またか?懲りないなぁ・・と思いつつも、その答えが幾分すっきりと聞こえたので、取り敢えず悠奈達はホッとした。幾分和やかな雰囲気が辺りをつつむ。
そんな時だった。レイアがはっきり気付いた。

(あっ!このカンジ、やっぱりこの子)
「ユウナちゃんっ!見つけたよ!この子よこの子っ」

「は?見つけたって・・・何?どゆこと?」

例によっていきなり叫んだレイアを見て、悠奈はなんだ?いわん様子。しかし・・

「!?・・なっ・なんだっ!?今の声?一体誰の声だ!?」

窈狼がびっくりしたように辺りを見回す。そして同じく、その行動を見た悠奈達も等しくびっくりした。

「え!?」
「・・・やっ・・ヤオラン、お前・・」
「い、今の聞こえたんか?」

「今の?やっぱりっ!ってコトは・・空耳じゃない?」
「空耳なんかじゃないよ〜」
「うわぁっ!?またなんか聞こえた!」
「ちょぉっと待っててね〜・・」

レイアは驚くヤオランの前まで、悠奈の制止も振り払って飛んでいくと、呪文を唱え始めた。

「この子の中に眠っている魔力よ、目を覚ませ!・・えいっ」

翳した手から放たれた淡いピンクの光が、窈狼に向かって吸い込まれていった。見守る悠奈達のまえで、窈狼はたちまち唖然とした表情を見せた。

「はじめまして!ヤオランくん、レイアです!」

瞬間、虚空に少年の絶叫が響き渡った。


「ってなワケで、オレもユウナもナナミも、そのグローリーグラウンドって世界を悪いその・・なんだっけ?」

「ダークチルドレンズとエミリーよ」
「そう!ソレ、それから守るために魔法使いの戦士になっちゃいました・・・っていう・・」

「・・信じろってのかよ?そんなとんでもない話・・」

ようやく冷静さを取り戻した窈狼に、日向とレイアがことの顛末を簡単に説明した。説明されても全く訳がわからないという窈狼を見て、悠奈も、まぁそりゃそうか。と判断した。
確かにレイアが現れてからもう1カ月近くになるというのに自分もまだ半信半疑なところはあるのだから・・。

「でも、レイアたち見えてんやろ?」
「うぅ・・」

七海に言われて、窈狼はレイアを突然掴んだ。「きゃあっ?」というレイアのほっぺを掴んだりひっぱったりする。

「ひへほほっ・・なっ・・なにふんのほ・・」
「ホンモノだ・・ってコトは、今の話、マジでホントなのか?」
「失礼ね!ホントよ、ねぇみんな!」

他のフェアリー達も一同にウン、とうなづく。溜息をついてレイアを解放すると、窈狼は悠奈に言った。

「でさ、愛澤、オレにどうしてほしいの?」

「え?・・えっと、それは・・」
「アタシ達の仲間になって一緒に戦ってほしいの!」

「アンタは黙ってなっ」

代わりに威勢よく答えたレイアを押しとどめる悠奈。そのままハハ、と笑ってごまかす。

「ムリ・・しなくていいよ。アタシも成り行き上仕方なくってやつだからさ・・」
「オレは・・はっきり言って・・」

答えを言おうとした次の瞬間だった。

「!!ユウナちゃん、闇の魔力の気配だ!」
「え?闇の魔力?」

「ホントだ!イヤな気配だぜ!」

「アッチのほうからビンビン感じるわ!」

レイアのほか、イーファとウェンディも声を上げる。途端に日向と七海も険しい顔になった。

「きっとダークチルドレンズが現れたのよ!」

「ルーナもかんじるでしゅう、おっきい悪のけはいでしゅ」

「しかも、これは・・もう1つの邪悪な気?」

「あー、アカンなぁ、こらジュエル・モンスターの気配ちゃうか?」

「そーだぜいっ!この禍々しい魔力は間違いねえっ!うおおぉーーっ許さねえぜーっ!」

ルーナやリフィネ、ヴォルツやバンなども、この魔力を感じ取り、即座にその気配のほうへと向かった。

「ユウナちゃん、行くよ!」
「ち、ちょっとアンタら、待ちなさいよぉ!」

「ヒナタ、ついてこいっ」
「おうっ!りょーかい!」

「ナナミちゃん、急いで」
「なっ!?ちょっと待ってぇなっ」

急き立てられて悠奈達もその後に急いで続く。

「お、おい待てよ・・オレは・・・どーしたらいいんだ?」

後に残された窈狼。かわいそうに完璧に置いてけぼりを喰らってしまった。
呆気にとられてボー然と悠奈達の駆けていく姿をみているだけだったが、

「ケッ勝手にしろ。好き放題言いたいことだけ言いやがって・・大体魔法がどうとか妖精とかまるっきりわかんねえ事だらけだろうが」

そう呟いて不貞腐れる窈狼だったが、ふと、気付くと、

「・・・・・」
「!?・・うわっ・・な、なんだよお前・・まだいたのか?」

自分の傍らに、先ほどまでレイアたちと一緒だったフェアリーの1人が残っていた。マジマジと自分を見つめている。

「・・・なんだよ?オレに何か用か?」

その問いに、目の前のフェアリーはニカっと笑って答えた。

「オイラ、ユエ!」



「な、なんなのこの状況・・」

「・・ヒドイ」

悠奈達が現場に駆けつけた時、辺りは辛そうな表情で目を閉じ、地面に倒れている人々で溢れていた。完全に意識は失っているようだが、その顔に悲しみと苦しみが満ちている。

「コレって・・」
「心に闇を植え付けられたみたいだな、あのジュエル・モンスターがやったに違いないっ!」

呻く日向にイーファが厳しい声で答えた。

正面を見る。
巨大なタンポポのようなお化け植物が、口を開けて周囲の土を掘り返して暴れていた。

「さ〜て、大分闇の魔力が集まってきたかなぁ〜」

それと、傍らにその魔物を使役している桃色の髪の女の子が辺りを見回して満足げに笑っているではないか。さては彼女がダークチルドレンズの1人だなと思った悠奈は開口一閃、叫んだ。

「待ちなさい!」

「ん?」

少女が振り返る、見ると自分より年下であろう女の子が厳しい目で自分を見据えていた。

「何よ?ダレアンタ?」

「あなたダークチルドレンね?今すぐやめなよ、こんなヒドイことするの!」
「そうよっユウナちゃんの言うとおり!」

その言葉に少女、ジュナは反応した。ユウナ?それにアレは・・フェアリー?
そこまで考えてジュナはニヤリとほくそ笑んだ。

なるほど。この娘が、サキやアカネを退けたといわれるあの愛澤優奈。とすればあの隣にいるフェアリーは自分たちが手に入れようと狙っている妖精、レイア・フラウハートではないか?
ついている。まさか自分で探さなくとも標的のほうからのこのこ現れてくれるとは・・・

「なるほど、アナタが愛澤悠奈ちゃんね。結構カワイイ娘じゃない♪はじめまして、アタシがダークチルドレンズのジュ・ナvヨロシクネ♪」

「・・・お願い、みんなを元に戻して」

「イヤよ」

「どーして?どうしてこんなヒドイことするの?みんな・・・」

悠奈は周りで倒れている人を眺めた。
外傷こそないものの、皆目を閉じて、沈痛そうな面持ちを浮かべている。

「みんな苦しそうだし・・悲しそう」

「それは最初だけよ。みんな闇の魔力を受け入れれば、とっても気持ち良くなるわ。闇の魔力を満たしてこの世界もグローリーグラウンドも全て支配するのが、エミリーさまの目的なの」

「なんで?なんだなのよ!?そんな勝手なことしていいわけないじゃんっ!あなた達だってコッチの世界の人間でしょなんでしょ?」

「いーじゃない。そーなったらウザいガッコウも無くなるだろうしさ」

「いいわけあるかあっ!」

ジュナの言葉に横から突然割り込んで来た悠奈以外の声。

「!ナナミ・・」

「ハァ、ハァ、ったく、ユウナ。アンタ1人で勝手に先行き過ぎ。息切れしたやんか」

そう言ってそばにウェンディを引き連れた七海が仁王立ちでジュナに言い放った。

「確かに・・ウチかてべんきょーキライやし、宿題サボったり、テストなまけたりしてママにメチャクチャ怒られたこともある。でもな、それだけとちゃうねんガッコーって、修学旅行も学習発表会もあるし、休み時間にガールズトークしたり、食堂で早食い競争したり、友達と放課後遊びに行ったりとか・・そんな楽しいこともテンコモリにあんねん!」

それは学校とカンケーあるか?なセリフも混じっていたが、悠奈は黙って七海の言を聞いていた。

「それに、運動会に球技大会も忘れちゃイケナイ。夏にはプールだってあるしな」

「ヒナタくんっ」

もう1つ聞こえてきた違う声、悠奈が顔を向けると、そこにはイーファと一緒の日向の姿があった。その後ろに他のフェアリー達、誰か足りない気もするが・・・

「フン、キレイごと並べちゃってまあ、でもちょうど良かった。ねぇ、ユウナちゃんだっけ?ここにいる人たち解放してあげてもいいわよ?ただし・・」

そう言ってレイアを指さすジュナ。

「そこにいるレイアっていうフェアリーをコッチに渡してくれたらね」

「え?」

ふと、レイアの方を見る。
悲しそうな、怖そうな、そんな顔をしているレイア。そのレイアを元気づけるように、悠奈は大丈夫だよ。というような笑顔を向けた。

「・・・あんた達には、レイアは渡さない!みんなも、助けて見せる!」

「ユウナちゃん・・!」

「よっしゃっ!よく言うたユウナ!」

「交渉ケツメツ・・ってヤツだな。・・あれ?ケツメツだったっけ?メツケツ?レツケツ?」

レイア、七海に日向も答える。そんな悠奈達を見て、ジュナの表情がガラリと変わった。

「・・チッ!下手に出てりゃチョーシに乗っちゃって、ったく、痛い目にあわなきゃわかんないようね!」

途端に乱暴な口調になると、手を真上に翳して叫んだ。

「ダークスパーク・トランスフォーム!」

ジュナの体が緑の光と、青紫の光に包みこまれる。二色の光のシルエットが徐々にバトルスーツを形作った。
光から解放されたジュナ。その姿は、緑色のスリットの入ったミニスカートのワンピース姿。胸のあたりに軽そうなブレストーマーを装着し、胸の中央にサキやアカネの時と同様、今度は緑の宝石をあしらったリボンを付けている。
腕には肘まである小手に額に金のティアラとグリーンのイヤリングを付けていた。
そして、アレが彼女の武器なのだろう。湾曲した銀の弓を持っていた。腰に背負っているのは矢筒であろう。

「フフッ、聞き分けのないアンタ達が悪いんだからね?さあっ!やっちゃいなダンデライオンゴブリン!」

ジュナが号令をかけると、「ほぎょああぁーーっ!」とモンスターが吠えて襲いかかってきた。

「・・みんな、準備はいい?いくよ・・」
「なっ・・なんだありゃあーーーっ!!?」

変身用のケータイを構え、悠奈が日向と七海に声をかけたちょうどその時だった。

「なっ・・なんなんだよあの怪物!それに・・あいつ、誰だ?愛澤!ナナミ、ヒナタ!どーゆーコトなんだよ!?」

悠奈がその声に振り返ってみる。すると、なんと窈狼が自分たちの後ろでモンスターを見て固まっていたのだ。

「ふ、ファンくん!?

「ったく、メンドくさいトコに・・」

「かまってるヒマないぞ、来るぞ!変身だ!」

日向のその一言に、再度変身アイテムを構えた。

「ヒナタ!オレも力を貸すぜ!」
「ナナミちゃん、私の魔力をあげる!」

イーファとウェンディもそれぞれパートナーに手を翳す。

『シャイニングスパーク・トランスフォーム!』

「わっ!?・・なっ・・なんだ?ま、眩しい・・」

窈狼の目が、3人のクラスメートが放った光によって眩む。桃色の光、真っ赤な光、青い光、それぞれがそれぞれの色の光を身に纏い、みるみる着ていた服の形態が変わった。
次に光の中から現れた3人の姿に、窈狼は言葉を失った。

「輝くひとすじの希望の光、セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」

「情熱迸る勇気の炎・・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」

「大いなる青き海の力!セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」

「・・・う・・そ。マジで変身しちゃったよ・・・これが、セイバーチルドレンズ?」

「す、スゴイ・・」
「あの時と全然違う・・体中に魔法が巡ってるみたい・・これが?」

「そう!」
「私たちが力をアップさせたからよ!」

日向と七海が自分の体に巡っている魔力を感じ取った。確かにパワーアップしているみたいだ。

「よしっ!」
「イケルで!ユウナっ」

「OK!みんな行くよっ!」

それぞれ、モンスターに向かっていく。

「ヤオッ!アンタはアブナイから隠れときっ」

咄嗟に自分を心配する声に窈狼は気付いた。
(ナナミが・・オレを気遣って?・・心配してくれてるのか?)
嬉しかった。が、少々彼の中では複雑だった・・・

「ウザいってんのよ!ダンデライオン!叩きのめしてやりなっ」

「ぎょっああぁぁっっ」


「ジャスティスブレード!」

日向が叫ぶと、ケータイにかけてあったあったストラップが光り輝き、あっという間に剣を生成した。

「はあぁっ!」

モンスターが伸ばしてきた触手、まずは日向がそれを剣で切り裂く。

「ぎょぉおぉおっっ」

天に向かって胸の悪くなるような鳴き声を上げるモンスター。その頭頂部から、今度はフワフワの綿をつけた、人の顔ほどのサイズの種を降らせてきた。

「?なんやコレ?こんなんが攻撃?」

フワフワと迫力なく落下してくる種を見ながら、七海が近づく。そのまま手を伸ばした。

「ばっバカ!ナナミっうかつに近寄るなっ」

日向がそう警告した直後だった。その種の中央部に突然大きな口が裂け、小さくギザギザの歯を剥き出しに襲いかかってきたのは。

「っっきゃあぁぁぁ〜〜〜っっ」

轟く七海の絶叫。正に油断大敵。その生まれた種モンスターにかぷっ、とお尻を噛まれてしまった。

「きゃあっ、いやっ!痛いっいたいいたいいたいいたいぃっ・・え〜ん、ヒナぁ〜、助けてぇ・・」

「ったく、なにやってんだよ!だから注意しろって言ったんだっ」

「だ、だってぇ〜・・」

呆れて言いながらも、日向は七海のお尻に噛り付いているいるその種モンスターを脳天から切り裂いた。キィー・・と断末魔を上げてそのまま消えてしまう。

「ったぁ〜・・いたたたた・・もおっ!よくもナナちゃんのウラワカキ乙女のヒップちゃんを噛みよったな!こないだママに叩かれたのがまだ痛かったのにっ」

「なんだよ?まだ痛いのか?」
「なんやのっ人ごとや思て、4日間はオシリ痛くて座れへんねんからなっ!」

毒づきながらも七海はストラップに手を掛けると、日向のように「おいでぇ、コルセスカーっ!」と叫び、手の中に七海も長刀のような武器を出す。
「ハートフルロッド!」

悠奈もストラップから同じように武器を取りだす。

「ダンシング・ロッド!」
「スピンアタック!」

戦闘準備の整った悠奈と七海は迫りくる種モンスターをロッドを投げつけ、長刀を体ごと回転させてそれぞれ振り払った。徐々に種モンスターの数が減っていき、

「でやあぁっ!」

最後の1体を日向が斬り捨てたところで雑魚モンスターはいなくなり、残るは巨大な花お化け、ダンデライオンゴブリンだけとなった。

「ふんっ!なかなかやるじゃない、でもどこまで持つかな?ダンデライオン!」

ジュナの号令で、ダンデライオンが口元を膨らませた。

「シードバルカン発射!」

突如、ダンデライオンが細かな種を乱射してきたのだ。細かな種が雨あられの如く、悠奈達に降りそそぐ。

「あいたたたたっ!なっ・・なによコレぇっ」
「クッソ!これじゃ攻撃できないっイテテっ」


「す・・スゴイ・・」

離れたところで、窈狼はこの光景を見ているしかなかった。日向だけならまだだしも、七海や転校生の愛澤悠奈まで、こんな異次元の化け物と退くことなく闘っている。
なのに自分はどうだ?日向にあれほど偉そうに勝負勝負と言っておいて、結局あの化け物を前にして足が竦み、一歩も動けないではないか?今、みんなが・・・七海が危ないというのに!
悔しくて拳を握る。そんな彼に、近づく者がいた。

「?・・な、なんだよお前」

それはフェアリーの1人、月の魔力を持つユエだった。

「ねぇ、キミ。お願いだよ!みんなを助けるのに力を貸しておくれよ!」


「がんばってユウナちゃんっ」
「ヒナタ!負けるな!」
「ナナミちゃんもしっかりっ!」

ややピンチの悠奈たちにレイアとイーファ、ウェンディが励ましの言葉を送る。その言葉を聞いて、彼女が奮起した。

「あたっ・・アイタタタっ・・もぉうっ!よっし、見とれよぉ・・・」

種の雨を回避すると、七海は呪文を唱え始めた。

「全地を行き渡る水の精、ウンディーネよ・・今こそ汝の力を貸し、目の前の悪を遮る盾を与えたまえ・・・アクアリフレクター!」

七海の長刀から、水の幕が出現し、悠奈達を覆った。種のマシンガンも効力を失い、七海のバリアに弾かれた。

「スッゲェ・・」
「ありがとっナナミ!」

「えへへvナナちゃんエライやろ?褒めて褒めて、でもこの間よりずっと大きいバリア・・これもウェンディの力のおかげなんかな?」

「力・・フェアリーの力・・か。よぉし・・」

日向もそう意気込んでバリアから離れると、掌を化け物に向けて呪文を唱えだした。

「炎神イフリートーよ、我が声に耳を傾け、その大いなる力を我が前に示せ!・・ファイアボール!」

日向の掌から複数の火球が生まれ、それが空を疾駆してダンデライオンの頭部に命中する。
「ほぎょああぁぁっっ」という叫びを上げて暴れるモンスター。頭部からは煙がシュウシュウと上がっていた。

「やりっ!」

「きゃあ!やったあっ」
「ヒナすごいっ!」

「ちぃぃっ・・悪あがきをっ!これでもくらえっ」

手放しで喜び、すっかり隙丸出しの3人の死角から、ジュナは呪文を唱えた。

「大いなる恵みの緑を司りし精霊フォレスティアよ、愚かなりし災いの子らへ戒めの刃を与えん・・・いけっ!リーフアロー!」

緑の葉のような閃光が突如、無警戒だった3人の真横から襲いかかった。

「きゃあぁっ?」
「うわっ!?」
「いったぁぁっ?」

予想だにしなかった魔法攻撃に完璧に虚をつかれ、無様に転がる3人。

「アッハハハハハ!おバカさんねぇ、敵はダンデライオンゴブリンだけじゃないのよ?アタシもいるってコトわすれないでよね?」

「ううぅ・・」

「いったたた・・・」

「くっそぉ、いきなり卑怯なヤツ!でも、この前のヤツよりできるぞ!」

「あったりまえよ!アタシはアカネとは違う。デキの悪い妹と一緒にしないでっ!」

「なっ、なんだって?」
「じゃ、じゃあ、あのこの前襲ってきたアカネって・・」

「そうよ。あのコはアタシの双子の妹。ま、妹ってもそんなに仲良くないし、むしろいつも迷惑かけてくれるからウザいんだけどね」

衝撃の告白。とすれば姉妹でこのエミリーという魔女に唆されたのか?悠奈たちは反応に困った。

「まぁ、そんなコトどうでもいいのよ。それよりどうする?素直にそのレイアって子を渡す?そうすればもうこれ以上痛い思いはさせないわ。さあどうするの?」

ただただ、両陣営の間に緊張の空気が張り詰めた。


「オイ、助けるってどういうことだよ?」
「変身するんだよ!皆みたいにっ!キミにもできるはずだよ」

戦いから少し離れた場所で、フェアリーの1人、ユエと窈狼が、話をしていた。いや、ユエが窈狼に頼みごとをしていたのだ。
変身して、悠奈達を助けてほしい、一緒に戦ってほしい、と。

「・・ムリだよ。オレにはできねえ。」
「どうしてっ!だってさっきはあんなに勝負勝負って・・」
「人間相手だろうがっ!今の相手はだれだ?ああ?あんなバケモンにオレの拳法が通じるかよ!?無理な相談だぜ。それに・・・」

窈狼は言葉に詰まった。
もし、仮に変身できたとして、自分に日向以上の働きができるだろうか?もし、そこでも日向に負けたら・・・

(ナナミは・・・オレを・・・)
「きゃああぁーーーっっ」
「!」

その時、耳を切り裂く絶叫が響いた。
顔を向ける。

「!!・・ナナミぃっ!」

なんと七海があの花のモンスターに持ち上げられ、ジタバタもがいていたのだ。

「そのフェアリー渡してくれないかなぁ?さもないと・・この子がどうなっても知らないわよ?」
「ナナミっ!」
「お前っ!卑怯だぞっ!正々堂々勝負しろ!」

「きゃははははっセイセイドウドウ?何ソレ?ふざけてんの?マジ受けるんだけど?アタシ一応この世界を支配しようとたくらんでる悪者の一味なんですけど?正々堂々なんてやるわけないでしょ?」

「くぅっ!」

悔しそうに唇を噛む日向。
悠奈も完全に捕まっている七海を前に、なすすべがなかった。

「このダンデライオンゴブリンはね・・人間の心を食べちゃうことのできるモンスターなの。わかる?アナタの何かが、誰かを好きって気持ちも全部食べられて何も感じなくなっちゃうのよ?」

その言葉が合図かのように、七海の方へモンスターがあぐっと口を開けて迫る。

「そ、そんなのヤダァぁ・・ふえっ・・ヒナぁ、ユウナぁ〜・・たすけて・・」

「ナナミぃ!」

「やめてっ!やめろって言ってんでしょ!」

「だったら早くそのフェアリー渡しなさいよっ!」


「ナナミ!」

今まさに襲われそうになっているナナミ。そんな彼女を見て、ついに窈狼はいてもたってもいられなくなった。そばにいたユエに必死に問いかける。

「おいっ!オレにさっき、力を貸せとかなんとか言ってたよな?どうすればいいのか言ってみろ?」

ユエはキョトンとした顔を向けたが即座に窈狼に「いいのかい?ホントに力を貸してくれるの?」と聞き返した。窈狼は答えるのも面倒くさそうに荒く吐き捨てる。

「ナナミが危ないんだよ!見りゃわかるだろ!?早くしろよ!」
「魔法戦士に変身することは、キケンなこともあるよ?今のあのナナミの立場にもしかしたらキミがなるかもしれない。それでも?」
「いいっつってんだろっ!ナナミにもしもの事があったら・・・オレの大切な子にもしものことがあったら困るんだよ!」

思わず言い放った心の叫び。


「・・・おおっ?言っちゃっ・・た」
「やっぱり・・ファンくんってナナミのこと好きだったんだ・・・」

しっかり日向や悠奈にも聞こえており、2人とも紅い顔で窈狼を見ている。それよりもさらに真っ赤になって顔を伏せる窈狼。(///恥ずかしい〜〜〜っっっ///)という空気が背中からありありと滲み出ていた。
唯一の救い、怪我の功名は、七海が気を失っていて今の言葉が軒並み聞こえなかったことだろうか?

「ヤオラン〜〜、ナナミって性格悪いし、ワガママだし、勉強だってオレやお前よりバカだぞ?」
///わっ・・悪いかよ!?どんなにワガママだって、オレにとっちゃカワイイ女の子なんだよ!///

(そっか、だからあの子ヒナタくんにあんなにライバル心燃やしてたんだ・・。)

ワケを知って悠奈は結構カワイイかもvと思った。そしてユエはにんまり笑って窈狼を見据えた。

「わかった。いいかい?ヤオラン、心を落ち着かせて、考えるんだ。魔法の力は心の力。心で一体何のために変身したいのか?何のために力を使いたいのか考えるんだ。そして、心から願う、そして信じるんだ。変身したいと。変身できると・・」

「!?うわっな、なんだ?」

直後、窈狼のポケットが光輝いていた。中身を取り出す。

「あっ!オレが進級祝いにママに買ってもらったケータイ・・」

光っていたかと思うと、その携帯電話が変化し、模様もストラップも何やら違うものになった。

「な、なんなんだよコレ?」
「さあ、目を閉じて・・・」

ユエにそう言われて、窈狼は納得できないながらも目を閉じて心を落ち着かせた。
何のために?そんなの決まってる。

自分にできる事をするんだ。みんなを助けたい・・・

みんなを・・・ヒナタを、愛澤悠奈を・・ナナミを、ナナミを助けたい・・っ!

ド ク ン

窈狼の中で、何かが脈打った。
その一瞬後、強烈な光が生じた。窈狼の姿が眩い黄金の光に包まれる。

「!なっ・・ナニ!?この光っ!?」


「や、ヤオランっ!?」
「ファンくん!」

「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」

窈狼の姿が光の中で変化する。服はグリーンの袖なし上着にショルダーパッドを付け、オレンジのカンフーパンツに赤の帯といった拳法着。
腕にはリストバンドというバトルコスチュームを纏っていた。

「闇夜を照らす輝きの月、セイバーチルドレン・シャインモンク!」

「う、ウソォ・・」
「やっぱり、ヤオランが?4人目の仲間?」
「スゴイスゴイ!やっぱりヤオランくんがそうだったんだ!」

「しかも、ユエともうパートナーになってるっぽいぞ?」
「あのコは月の属性魔力を秘めていたのね」

悠奈と日向、レイアが驚きに声を上げる中、イーファとウェンディも窈狼を期待の目で見ていた。窈狼はキッとモンスターを睨みつけると、パートナーとなった彼に目配せした。

「いくぜっ!ユエ!」
「うんっ!よろしくね、ヤオランっ!」

そのまま駆け出し、モンスターの眼前に飛び上がった。

「はぁいやあぁっっ!」

そのまま空中で回転し、その回転力を乗せた勢いたっぷりの蹴りを、七海を掴んでいる触手に向けて放った。

「ぎょあっ!?」

バシイッ!という音とともに触手が弾き飛ばされ、七海が解放される。地面に叩きつけられそうになった七海を窈狼はしっかりと抱きとめた。

「ナナミ、ナナミ!しっかりしろっ」

「・・・!・っう?・・・や、ヤ・・オ?・・」
「よかった。気がついて・・」
「ウチ・・あの花のモンスターの捕まって・・って、どないしたんアンタ!?そのカッコウ!」

意識を取り戻した七海が、変身した窈狼を見て、声を上げた。それに、「ちょ・・ちょっとな・・」と言葉を濁す窈狼。
そんな2人に日向が言った。

「おいっ!イチャイチャするのは後だ!このモンスター倒さないとっ」

///だっ・・だぁれがイチャイチャやぁーっ!///
///おっ、オレ達そんなことしてねえよっ!///

喚きながら戦列に加わる七海と窈狼。

「よくもさっきはやってくれたなぁ、お返しやっ!アイススパイク!」

七海の掌から氷の刃が乱れ飛ぶ。モンスターは叫び声を上げて後退する。

「なっ、生意気なぁ、リーフアロ・・」
「させるかぁっ!闇払い!」

魔法を撃とうとしたジュナの足元に日向の必殺の炎が炸裂した。

「きゃああっっ!?」

「月を司る、精霊獣フェンリールよ・・・その偉大なる月の魔力を我に貸し与え、悪しきものを撃ち抜け!ムーンレーザー!」

窈狼の放った光のビームがダンデライオンゴブリンをさらに穿つ。怒って触手を振り乱して襲いかかってきたモンスター。そのモンスターに窈狼はさらに踏み込んだ。

「ウルフクローフィスト(狼爪手甲)!」

窈狼はストラップを片手に叫ぶと、瞬時に右手に爪と合わさった手甲系の武器が装着される。

「はあぁっ!」

気合い一閃、窈狼はモンスターの触手を武器で斬り裂いた。モンスターが大きく体勢を崩したその時、
「今よ!ユウナちゃんっ!」
レイアが叫んだ。うなづく悠奈。ロッドを掲げる。


「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャイン・ハートフラッシュ!」

優しいピンクの光がモンスターを包み込む。モンスターは光の中に掻き消え、媒体になった宝石も消滅した。後には元あった可愛らしいタンポポが姿を現した。

「くうぅっ・・何よぉ!ムカつく!こうなったらもうフェアリーなんてどうでもいいっ!アタシが消してあげるわ!」

そう言うと、ジュナの手先に先ほどの魔法が浮かび上がり、悠奈達に向けて放たれた。

「きゃあっ!」
「ユウナちゃんっ!」

「しまった!ユウナ!」

周囲の仲間が反応できぬまま、まともにジュナの魔法を喰らった・・・と誰もが思った。しかし、

「・・・!」
「な・・何?」

突然目の前が暗くなったかと思うと、悠奈の目の前に突如として何者かが割り込んで来た。そしてその誰かは目の前になにやら蒼紫の光で壁をつくると、そのジュナの魔法を全て受け流した。
その場にいた全員が息をのんでその光景を見守った。一番ビックリしたのは悠奈だろう。

「アッブねぇマネしてんな、ワガママ姉妹の姉の方。もう勝負はついてんだろ?今日はテメエの負けだ」

「ヤオトメ・ユイト!?なんでアンタが?どきなさいよ!なんでアタシの邪魔するのよ?エミリーさまを裏切る気?」
「イヤだね。エミリーとかカンケーねえし。悪いけどオレ、引き際悪い奴ってスッゲーキライなの」

ユイトと呼ばれた少年は不遜にこう言い返した。
蒼みがかった黒髪をストレートにおろし、やや左右が跳ねた短髪。猫目に形の良い花や唇は独特の雰囲気を持つ、文句なしの美男子だった。服は上下黒のなにやら制服っぽい服装だった。

「そうだぜー?ユイトはスッキリした勝負が好みだからな。オメーのやり方キライなんだよ」

そう言って今度はその少年の隣に小さな男の子が姿を現した。
少年に良く似た蒼い髪に黒いマントと白のブラウスを着た男の子。しかし羽根を持つ姿といい、空中に浮遊している姿といい、それはまるで・・・

「ね、ねえっ!レイアっアレって・・・」
「・・・・フェアリー・・ってウッソーーっ!あ、アタシあの子知らないよ!」

「なんだよ騒がしい奴だなぁ、今日はユイトもオレも別に用があって来てんだよ!な?ユイト!」

そう言ってユイトはレイアを見下ろした。そのまま近づく。

「お前か?ユウナっての」

顔を近づけられる。中々息が詰まる状況である。

「へぇ、割とカワイイじゃんか。会えて嬉しいぜ」

と、次の瞬間、悠奈は人生でもおそらくベスト5には確実に入るであろう衝撃の行動を受けたのだった。

「!!!〜〜〜〜っ○×△@:*っっ」

突如上がった声にならない絶叫。ユイトと呼ばれた少年が、おもむろにユウナの頬にキスしたのだった。

「なっなっなっ・・・なにすんのよぉおーーーっっ!イヤああぁーーーーっ!!スケベっ!ヘンタイっ!チカンっ!ヘンシツシャーーっ!!」

声を限りに叫ぶ悠奈をユイトは軽くあしらう。

「おっお前!ユウナにいきなりなんてコトすんだ!?」

と竹刀を振りかざして来た日向をもそのステップで難なく躱すユイト。

「アッハハ、おっもしれえなお前、気に入ったぜ。そっちのお前も熱いな。嫌いじゃないぜそういうの。また会おうぜ!」

そのまま、軽やかな足取りで、どこへともなく消え去ってしまった。

「クゥッ・・まさかあんな邪魔が入るなんてっ・・アンタたち!今日のところはこれくらいにしてあげるけど・・覚えておきなさい!」

捨て台詞を残すと、ジュナもその場から立ち去ってしまった。



「ウッソーー!ってことはホンマにヤオが4人目の仲間なん?」

「あ、ああ。そーみたいだぜ・・」

あの後、すべてが元通りになった公園では子どもたちの笑い声がまた高らかに響いている。先ほどの戦いの爪跡などみじんもない。そんな公園のベンチで、悠奈たちは窈狼の変身経緯を気絶していた七海に教えてあげていた。
最初は驚いていた七海だが、自分を助けてくれたのが窈狼だということ、その後もモンスターを倒す時に著しい活躍をしたことなども思い出し、照れくさそうに言った。

「あ、ありがとぉ・・ヤオ。なんか迷惑かけたみたいやな・・ゴメンネ///
「べっ・・べべべっ・・別に・・そんな、礼言われるほどのことじゃないし///
「そうそう!なんたってヤオランはナナミのことが・・・」
「わああぁーーーっっなっ、なんでもないっ!ナナミっなんでもないからなっ」

小競り合いを続ける3人。しかし、そんな空気の中で、ただ1人、悠奈だけが考え込んでいた。
恐らくは先ほど突然現れた少年、ユイトのことを考えていたのだろう。確かに結果は悠奈とレイアを助けてくれた。しかしジュナの反応を見る限り、あのユイトという少年もダークチルドレンズの1人なのではないか?だとしたら自分を助けてくれた意図はどこにあるのか?それがわからなかった。
そんな悠奈を見て、日向が声をかけた。

「どうした?ユウナ」
「え?う、ううん別に・・・」

気取られないよう必死に笑顔を作ってごまかす悠奈、しかしそんな彼女の心を見透かしてか?日向は自信たっぷりにこう言った。

「心配すんな!お前は・・どんなコトがあってもオレが守る!そう決めたんだ」

「・・・ヒナタくん///

顔を紅くして照れる悠奈、当然の如くもう抗議が来た。

「ああぁーーっっヒナ!それってユウナがウチより大事ってコトか!?」

「えっ!?・・ば、バカっ違うよ!あくまで仲間として・・」

「い〜や、ウソやだまされへんで!ウチというもんがありながらぁ〜・・この浮気ものぉ〜!」
「なっ・・ナナミ!オレは、お前の方が・・・///

そんな和気あいあいとした雰囲気に悠奈も微笑んでいた。そんな時だった。


「ヤオーーっ!」

「?・・あっ!ママっ」

窈狼が振り返ってそう叫んだのは豊かな茶色いロングヘアを持つ、細身でスレンダーなスタイル抜群の美女だった。

「どこに行ったのかと思ったら・・なんにも言わないで遊びに行ったら心配するでしょ?ちゃんとママにケータイで連絡してちょうだい」

止めてあった車から降り、運転手に白いガウンを預けて土手を下りてきた。青いチャイナドレスが実にセクシーである。
この美女こそ、ハリウッドスター、ジャッキー・ファンの愛妻にして、窈狼の母親。全世界的に有名なセクシーアクトレス、日本が誇る美のカリスマ女優の観月里佳(かんづきりか)であった。
周りは騒然となった。いきなり目の前にテレビや映画の中で大人気の女優が降り立ってきたのである。
悠奈としてもびっくりだった。悠奈もこの人はテレビで何度も見たことのある人だからだ。それが今、目の前にいる。

「こんにちは!ヤオランママ!」

「ねえねえ、ヤオママ、ウチらお腹すいちゃった!オヤツ食べたいなぁ〜♪」

「あらぁ〜vヒナちゃんにナナちゃん!元気ぃ〜、おばさんもうお仕事終りだからちょうどよかったわ!そちらのお嬢ちゃんは?新しいお友達?」

「え?あ、ああ。転校生の、愛澤悠奈・・オレのクラスメートなんだ」

悠奈はあわててお辞儀した。珍しく緊張している。やはり芸能人というのは纏っているオーラがこうも違うものか?

「まあまあ、ヤオのクラスメート?なぁんてカワイイのぉ?そうだ♪今からみんなでウチでお茶にしましょうか?そうだわそれがいい!そうと決まったら樽川さんに言っとかないと・・・」

ズケズケと1人で決めてしまい、悠奈の返事も待たずに運転手の方へ走っていく里佳ママに「ったく、愛澤の意見も聞けっての・・」と窈狼は文句をもらした。そして悠奈の方を向く。

「ってなワケで、ヨロシクな。愛澤!」
「う、うん。ファンくん」

「あ、それから、呼び方。ヤオランでいいからな」
「・・うんっ!ヤオラン!」

「ったく、なんだよ自分はアイザワ、とか呼んでるくせに・・」

そんな文句をたれながら近づいてきた日向に、窈狼はニヤッと笑うと、いきなりポケットからネズミ花火を取り出して、それを日向に投げつけた。

パパパパパパパパパパンッッッッ!!!

と、一斉に火花が飛び散る。「うわああぁぁっっアチチチチチっ!??」

「へんっ、バーッカ!引っかかりやがって」

「なっ・・何すんだよアブないだろ!?」

「うるせえっ!さっきの仕返しだっ!」

あっかんベーをしながら日向に言い返す窈狼、仕返し。とはさっきの決闘の時、日向が思わず闇払いを使ったことにたいしてなのだろう。まだ根に持ってたのか?と思うとムカムカして、日向も、そばで見ていた七海も文句を言おうと口を開けかけた時だった。

「こらぁっ!ヤオ!!」

それより先に、窈狼の蛮行を母の里佳が大喝した。

「ゲッ!・・ママ・・」
「お友達に花火向けるなんて・・・なに考えてるのアンタってコは!」

仁王立ちで窈狼を背後から見下ろす里佳の顔は、女優ではなく、しっかりとした母親のそれだった。


「あいててててっ・・イテーって!はっ・・はなせよぉ〜〜っっ」

「何が離せですかこっちいらっしゃいっ!」

煌窈狼の自宅。
1階のリビングルームに、母、里佳が息子の耳をひっぱって入ってきた。その後から、ぞろぞろと悠奈達が入ってくる。里佳の目には見えていないが、フェアリーのレイア達も一緒である。
あの後、有無を言わさず、窈狼をリムジンに連れ込んだ里佳だが、なぜか悠奈達も強く招待されてしまったのだ。土手からそう遠くない高級住宅街にある窈狼の家、さすがに有名女優とハリウッドスターの夫婦が暮らす屋敷である。日向と七海はなんどか来ているのだろうが、その豪邸に悠奈は目を見張った。
完全オート式の大きな門。所々に設置された監視カメラ。広大な庭には熟練の庭師さん。メイドも何人か見かけた。
テニスコートやプールまで付いている何処からどう見てもお金持ちの御屋敷だったのだ。
しかし、リビングに通された悠奈達がまずそこで目撃したのは窈狼と里佳ママの、親子のやり取りだった。

「いってーな!なんだよっ!」
「なんだよじゃないでしょ!?人に花火向けて・・・ヤケドでもしたらどうするの?」

「だって、それは・・・ヒナタが先に・・」

「ヒナちゃん?花火もってないでしょ?」
「も・・持ってないけど・・・アイツが先に・・ほらっ!アイツ武術やってるじゃんっ!だからさぁ、その・・バッ!ボッ!・・ボワーって・・」
「何わけわからないこと言ってるの!言いわけばっかりして・・大丈夫だった?ヒナちゃん」

「え?うん・・まぁなんともないから!」

「よかったあぁ〜、安心したわ」

豪奢なソファに腰掛けた日向が元気そうに答える姿を見て、取り敢えず安心した。」

「あったりまえじゃん!!ワザと外したんだからよ。そんなの心配すること・・・」
「ヤオぉ!!」

再びの大喝、思わず悠奈達までビクッと縮こまった。だが、明らかに先ほどまで強気だった窈狼の顔が、幾分恐怖に歪んでいた。
自分たちの良く知っている顔。そう、3人ともママに怒られた時によく浮かべてしまう表情だ。

「そういう問題じゃないでしょ!何かあったら取り返しつかないの!」
「だ・・・だから、ハナビじゃんかぁ・・・花火投げたくらいで、そんなに怒ること・・」
「何バカなこと言ってるの!ホラ。ヒナちゃんにちゃんと謝りなさい!」
「や・・ヤダよっ!たかがそんなことでこんなヤツに謝るの・・・」

             ぷっちんっ

その時、リズミカルな音を立てて何かがキレた音がした。
目を見張る悠奈達、里佳の体から、何か黒い・・そう、あのジュエルモンスターが放つ魔力のような、いや、それより恐ろしい何か。
そう、妖気のようなものを感じた。
窈狼も流石に自分の失言に気づいたか?「ヤッベ〜・・」という顔で目をそらしていた。

「たかが?こんなヤツですって?お友達にあんなコトしておいて悪びれもせずにアンタって子はぁ〜〜・・っっっ」

「えっ!?・・ちがっ、その・・ま、ママ?」

「ヒナちゃん達、せっかく遊びに来てくれたのにゴメンナサイね、おばさん悪いコにちょぉ〜っといけないことができちゃったから待っててくれる?スグ終わらせるからvv」

その迫力に悠奈も日向も七海も。関係ないハズのフェアリーたちまで青い顔でうなづいた。

「早く終わらせる?しなきゃいけない・・コト?・・ねぇ、それって・・それってナニ?」
「さぁ〜てヤオランちゃん、今日は悪い子になっちゃったヤオちゃんを久々にママのお膝の上でたぁ〜っぷりイイ子にしてあげるからね♪」

ニコニコの笑顔で言うが早いか。窈狼は物凄いスピードでドアまで走るとその場から逃げようとした。しかし、

「逃がすかあっ!」

一足飛びでこちらも驚愕のスピードで追いすがると、その襟首をしっかりと掴んだ。顔面蒼白で暴れる窈狼。
強気だった彼がもう半泣き状態になっていた。

「ぎゃあーーっ!やっ・・やだっ!ヤダヤダヤダヤダ、やだったらヤダあぁーーっ!」
「往生際が悪い!コッチにいらっしゃいっ!」

もがく息子を抱き上げて、そのまま絨毯の上に正座すると、膝の上に設置してしまった。
悠奈はもう何がおこなわれるかわかってしまった。ママが子どもをこの体勢に持っていく時は大体において目的はひとつしかない。
日向と七海も、冷や汗混じりでその光景を眺めていた。七海にいたっては無意識の反射なのか?お尻を両手で擦っていた。窈狼の家でもそうなのか。悪いことをすれば・・・

「やめろっ!離せよおっ!ねぇお願いだからっっ、みんな見てるのにぃ〜〜っっ」

膝の上にうつ伏せにされた窈狼のズボンを下着ごと一気に下ろす里佳ママ。引き締まりながらも、子どもっぽくまだやわらかそうなお尻が姿を見せた。普通なら同年代の子のお尻丸出しなどという現場、小学生の児童なら爆笑ものだろうが、こと、自分自身も苦い経験のあるこの3人に、そんな余裕はなく、ただただ目の前の状況を恐怖の面持ちで見つめていた。

「悪いことした子はたっぷりお尻ぺんぺんなんだからねっ!」

厳しい叱責とともに、最初の一撃が小ぶりな少年のお尻を襲った。

パシィーーーンッッ!

「いってえぇぇえぇーーーっっ」

ぺしぃ〜〜んっっ!

「うわぁぁ〜んっ!いてぇっ!マジでいってえぇよおぉっ!」

悠奈達も思わず縮みあがるほどの破裂音と窈狼の絶叫が響いた。女優とは思えない力。たった2発で哀れ、窈狼の幼いお尻の左右の双丘には真っ赤な紅葉が張り付いていた。
もともとアクション女優としても名高い観月里佳。夫であるジャッキーから付き合っている頃から、演技のため、護身のため功夫をはじめ空手、柔道、合気道、サンボ、骨法、ボクシング、剣道などなど一通りの武芸は習っているのだ。まだ子どもの窈狼がどれだけジタバタ暴れようががっちりと掴んで離さないことなど造作もなかった。
ジタバタ暴れる窈狼の紅く色づいたお尻に、次々と厳しい里佳ママの平手打ちが降りそそがれた。ひきつる体。上がる悲鳴。
それらは全て恐怖と苦痛の記憶とともに、悠奈達の体にも刻まれていた。

ぱしんっ! パシィンッ! ぺしんっ! ペシィンッ! ぱんっ!パンッ!ぺんっ!ペンッ! ぱちぃんっ! ぺちぃんっ! ぱっちぃ〜んっ!

「いだっ!痛いっ!いたぁあっ!いっでぇえっ!・・まっ・・ママぁっ!イテえ!超イテエよぉ〜っ」

「当たり前です!お友達に花火ぶつけて謝りもしない悪い子のお尻はたっぷり痛くなるのっ!ほら、自分が何したのかよぉ〜く考えなさいっ!」

「だ・・だって、それはヒナタが先にぃ〜・・」
「ヒナちゃんは花火もなにも持ってないでしょっ!?どぉして素直に謝れないのアンタってコは!?」
「ちっ、ちがうもんっ!だってヒナタが先に炎使ってきたんだぜっ!その・・剣からボオッ!って・・」
「それはヒナちゃんが習ってる武術の話でしょ!?ママ、草薙さんとも中いいから知ってるのよ?アンタは火薬使ってたでしょ!」
「そっ・・そんなのズルイぃ〜〜〜っっ」

考えてみれば随分な話かもしれない。
日向の炎は武術で習い覚えたものだから正当で、窈狼は火薬を使ったから用は卑怯だとでもいうのだろうか?自分だって熱い思いをしたのに・・・母としてあんまりではなかろうか?言いたいことは山ほどあったが、ともあれ今の窈狼はこの先ほどの炎よりももっともっと熱くて痛い折檻から逃れたくて必死にもがいた。

パチーンッ! ペチーンッ! ばしっばしっ! びしっ!ビシィッ! ばちぃ〜んっ! べちぃ〜んっ!

「ぎゃあっ!・・ひいぃぃっ!?・・あうっあうぅっ!・・やっ・・やあっ!?・・ひぎゃっ!?ぎゃひっ!?」

ぱちんっ!ぱちんっ! ペチンッ!ペチンッ! ビチィンッ! ベチィンッ! バシィーッ! ビシィーッ! ベシィーッ! ビタァンッ!

「ぎゃあぁあっ!?・・いぃっ!?・・あぐぅっ!・・ぎゃんっ!うわあぁっ・・いだっ!いだああぁっ!・・うぎゃっ!?・・うぅっ・・痛い・・いたいぃ・・いだい・・」

ぴしゃっ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャァンッ! びたぁ〜んっ! ピシィィーーッ!!

「うわぁんっ!・・うっ・ひぐっ・・いだいぃ、いだいよぉ・・うっ・・うっうわあぁぁあぁ〜〜〜んっっ」

とうとう30回を超えた辺りから、窈狼は痛みに耐えかね、日向や、悠奈、そして七海がいるにも関わらず恥も外聞もなく泣きだした。
お尻が痛い!電流が走るような衝撃と灼熱の激痛、それが過ぎるとジリジリと絶えずお尻を焦がされているかのような灼熱の痛みに変わる。
味わっている間にまた一撃。もう一撃とママの必殺の平手打ちが叩き込まれるのだから堪ったものではない。
足をバタバタさせ、お尻を振りながら抵抗を続ける。その小さななお尻は哀れにも真っ赤な紅葉が幾重にも咲き乱れ、赤々と鮮やかに、そして痛々しく腫れ上がっていた。

「ヤオ、ちゃんとヒナちゃんに謝れるの?ちゃんとゴメンナサイできる?」

痛々しいお尻を撫でながら優しく愛息子に問いかける里佳。だが、ふるふるとまだイヤイヤとメッセージを首で伝える窈狼に、フウ、と溜息をつく。

「そう、まだお仕置きがたりないんだ。反省してないのね」

もう一度手を高々と振り上げる。そして、ひっくひっく泣いて痙攣している体の鮮やかな赤めがけて厳しく振り下ろした。

バチィ〜ンッ! べちぃ〜んっ! ビタァ〜ンッ! バシッバシッ! ばしぃんっ!びしぃんっ!びっしーんっ!

「やああぁぁっっ!・・うぎゃあぁんっぎゃぴぃ〜〜っ・・いっだあっああぁ〜〜っ・・ふえっふえっえっえぇぇ〜〜・・あぎゃあぁんっ!・・も・・ヤメっ・・びえぇえぇっっ」

ぴしゃっぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃんっ! ぴっしゃんっ!

「ぎゃああぁんっ!・・うええぇぇ〜〜んっ・・あっあっああぁぁ〜〜んっ!」

ぴしゃんっ!  ぴしゃんっ! ぴしゃんっ! ぴしゃーんっ! ぴしゃ〜んっ! ぴしゃあぁ〜〜〜んっっ!!

「ぴぎゃあぁ〜〜〜〜っっ・・うわあぁああぁぁあ〜〜〜〜〜んっっ・・」

・・・・・・・

「ご・・めんっ・・なっ・・さい・・うぐっ・・ぐすっ・・ひゃくっひゃくっ・・えっぐ・・」

「ママにじゃないでしょ?ヒナちゃんにでしょ?」

「ヒ・・ナタ・・・ごめっ・・ぐっ・・うえぇぇっ・・ゴメン・・」

「え?・・う、ウン・・こっちこそ・・なんか、その、ゴメン・・・」

しゃくりあげて泣きじゃくりながら謝る窈狼に、さも申し訳なさそうにしどろもどろで謝る日向。悠奈や七海の顔も引きつっていた。

やっと終了した里佳ママの厳し〜いお尻ぺんぺん。
ようやく許してもらえたママに、膝の上で優しくナデナデされているその痛めつけられていた患部は・・
秋よろしく紅葉の咲き乱れの如く真っ赤っかな手形が幾つも咲いて、それはそれは痛そうに腫れ上がっていた。
あの日向の放った闇払いにも、命中が若干それたとはいえ大してダメージを受けなかった窈狼が、今は里佳ママのお尻ペンペンによって、お尻を襲う耐えがたい鈍痛によってヒクヒクと声を上げて泣いているのだ。

「ヤオ、ヤーオ。お尻痛かったでしょ?ね?悪い子になるとこんなに痛い思いするのよ?花火投げつけられたヒナちゃんはおんなじくらい痛かったのよ?もうしないってママとお約束できる?」

抱っこしなおして、頭とお尻を優しくなでながら優しくかけられた言葉に、窈狼は泣きながらコックリとうなづいた。

「イイコね。わかってくれてママ嬉しいわよvほら、もう泣かないの。お尻ぺんぺんもう終わったからね〜、いつまでも泣いてると赤ちゃんみたいだぞ?」

そう言って息子のおでこにチュッとキスした里佳。泣き腫らした目で、窈狼はぷうっと膨れると、フンッとそっぽを向いた。


「ま、3日くらいは歩くのもしんどいんちゃう?なぁヤオちゃん♪」

「うぅ〜〜・・・うるさい・・」

ようやく泣きやんだ窈狼。ティータイムでママがケーキを切ってくれてる間に、悠奈達とフェアリー達は会話していた。

「まあ、よかったじゃんか!花火は人にぶつけちゃダメってやっぱり常識だし・・」
「うるせえっ!剣から火ぃ飛ばして相手やっつけるお前が言うな!ズルイよ・・・ママのバカ・っいってぇぇ・・いてててて、うう〜・・座るといてぇよぉ・・」

「大丈夫?ヤオラン」
「・・・大丈夫じゃない・・ケド、わかんねえだろ?お尻ぺんぺんされたことないだろ?大したことないように見えてチョーー痛いんだぜ。マジで次ぎの日とかイス座れなくなるし・・」

「わかるよ。だってアタシもママに時々叩かれるもん、オシリ・・」
「へええぇー、なんか意外!ユウナもそうなんだ!オレとヒナタとナナミぐらいかと思ってた」

悠奈の告白に何処となく嬉しそうな窈狼。複雑な悠奈だったが、なんとかコレでちょっと仲良くなれたかな?とにかく、色々大変だったが、取り敢えず仲間集めは順調なのかも知れない・・・

「ねえねえ、それよりさぁ・・このチーム、新しいチーム名考えたんだけど・・・どう?」

突然のレイアの言葉に全員がキョトンとした。

「・・・お尻・マッカッカーズ」


直後にレイアが全員から追いかけまわされ、事態の進展に、フェアリーが見えない里佳ママが苦悩したのは、言うまでもない。


                   つ づ く