午後の授業中、愛澤悠奈は教室の虚空を見つめてため息をついた。
ごく普通の女子小学生の平和な日常が奪われてから、早いものでもう2週間になる。
思えば、この短期間の間に色々なことがあったものだ。
空想の産物だとばかり思っていた妖精というものが、魔法の異世界から突然目の前に現れ、自分の国を救ってくれなどと半ば強引に頼み込まれ、変ないでたちの少女や奇怪な化け物に襲われ、挙げ句には魔法使いに変身までしてしまったのだ。

何から何まで信じられない出来事。迷惑千万、あり得ない話!
悠奈自身これは何かの夢、幻だと思いたかったが・・・

「ほら、ユウナちゃん。ボーッとしてると先生に叱られちゃうよ?」

~~ッッ」

この羽をはためかせ宙を舞いながら話す小さな女の子、レイアを見る度、その願いは粉々に打ち砕かれるのだった。

「アンタねぇ、授業中に話しかけないでって言ってるでしょおっ!」

「怒んない怒んない♪日向くん見てるよ?」

言われてハッとした表情で目を這わす。
その先には、ニッコリとした笑顔でユウナとレイアを見てるクラスメートの草薙日向の姿があった。
途端に顔を紅らめて俯く悠奈に、レイアは意地っ張りだなぁ、という顔を見せた。

そう、迷惑なことに違いは無いのだが、レイアが現れたことが全てマイナスに働いてしまっているかと聞かれれば、そうでない部分もある。
まず、魔法が自由に使える感覚は実はわりと爽快で、指先に魔力が集中して暖かくなったり、光ったりするのはなかなかに快感だったりする。そして、何よりこの日向との関係である。
ほんの1週間程前、日向も魔法の戦士、セイバーチルドレンとして覚醒。悠奈の仲間となったのだ。
仲間同士になる前からも、つっけんどんで無愛想な自分に、積極的に声をかけてくれた日向だが、最近は特に親密になり、仲良くなれた気がする。
一種、秘密を共有し合う仲だからだろうか?日向はさらにレイアたちが暮らしていた魔法の世界、グローリーグラウンドのことについても積極的で、レイアからみても頼れる初めての仲間だった。

日向に密かに憧れていた悠奈としては、変身能力がついてしまったことはともかく、日向と仲良くなれたのは想定外のラッキーだった。

(ああ、ヒナタくん、激カワvカッコイイ・・もっと仲良くなれたらなぁ・・)


しかし、日向の方を半分夢見心地で見ていた悠奈は、突然身震いして辺りを見回した。

「?どうしたのユウナちゃん」

「い、いや、別に・・・」

何か激しい、怒りを秘めた悪寒を感じたのだ。
しかし、辺りを見回しても、その源が何かはわからなかった。

(何だったんだろ?今の・・)





「ユウナーーーっ!一緒に帰ろーっ!」
「ひっ、ヒナタくん!?」

放課後、帰り支度を始めた悠奈に元気良く駆け寄ってきた日向に悠奈はやや気圧されながら返事を返した。
ニッコニコ、太陽のような笑顔である。

「べ、別に、付いてきたきゃ付いてきてもイイケド・・・」
(キャー!!バカバカッッアタシのトーヘンボク!あまのじゃくっ!せっかくヒナタくんが誘ってくれてんのに何このカワイクナイ態度!)


仏頂面で激しく自己嫌悪する悠奈、それを見透かしたようにレイアが「まーた意地っ張りキャラ♪」と囃(はや)し立てた。

レイアを追いかけ回す悠奈の姿を見て、日向はもう一度笑った。


「なぁ、ユウナ。最近、例のヤツラどうなんだよ?」
「え?例のヤツラ?」

「ほら、アイツらだよ。あの・・レイアの世界から来た・・変な女の子とモンスター」

「ああ。」


悠奈が少し表情を曇らせる。
校庭を並んで歩いている途中、日向が話を始めた。
話の内容が最初はわからなかった。いや、忘れていたが、言われて思い出した。
思い出したくない出来事。

「別に、アレから何もない。て言うか忘れてたし」

「ユウナちゃんったら!もぉ

「そっか。でも用心だけはしとかないとな。こうなったらいつ襲ってくるかわからないし・・しばらく一緒に帰ろう。ユウナもレイアもその方が安全だし!」

決意に満ちた表情で言う日向に、悠奈はまたポワンとなる。

(ヒナタくん・・・ずっと考えててくれたんだ、アタシのことも、レイアのことも。ああ、やっぱりステキv)


1人でいいムードに浸る悠奈、しかし、校門を出た途端、そのムードは一気にぶち壊された。




「ヒナあぁーーーーーッッ!!」
「ぅわあぁーーっ!??」

どーんっ!と校門の影から出てきた何かが、日向に体ごと突進してきたのだ。
倒れ込む日向、唖然とする悠奈、レイア。そして突進してきたそれは日向に顔を埋めていた。
少女だった。
悠奈や日向と同い年くらいの女の子。

ッ!な、ナナミぃ!危ないじゃんかあ!」

青色に白地の模様が入ったカチューシャ、背まで伸びた赤に近い濃茶の美しいロングヘア、色白の肌、文句無しの美少女に日向は辟易した顔で言った。

「うるさいっ!このウワキもの!」

少女は怒りながら反論した。
香坂七海(こうさかななみ)この少女の名だった。
日向の幼馴染みであり、幼いときから家族ぐるみで親交がある。
日向に対して好意を抱いており、常日頃日向の恋人を公言してはばからないコだ。

「はぁあ?う、ウワキぃ?」

「ウチ以外の女子と楽しそうに帰りよってからにぃ、いっつも待っててもヒナ、先に帰っちゃうから何があったんかと思ったら、こんなドロボウネコとイチャイチャイチャイチャ・・・ウチというモンがありながらぁ?っ」

そう一方的にまくし立て、日向の胸を叩く彼女。
悠奈は最初こそ面喰らったが、だんだん腹が立ってきた。思えば随分な言われようである。

別に日向が誰と一緒に帰ろうが自由だろうに、恋人を公言してはいるが、日向自身にその意識があるかどうかはわからないだろうに、なぜそこまで束縛するのか?
それに自分だって一緒に帰っていただけでどうして泥棒猫とまで罵られなければならないのか?

そう思うと、いつもの調子で悠奈もキツイ口火を切った。

「ねぇちょっと香坂さん?いい加減にしなよヒナタくん迷惑してるじゃん」

その言葉にピクッと反応した七海だが、背を向けたまま答える。

「迷惑?何が?」
「バカじゃん?カオ見ればワカルじゃん。ヒナタくん可哀想だよ。そんなこともわかんないなんて、ちょっと空気読めなすぎ・・」

そこまで言った時、七海が凄い顔で悠奈を睨み付けた。
何かを感じて一瞬たじろぐ悠奈だが、負けじと視線を合わせる。

「バカやとぉ・・あんなぁええか!ウチはアホ言われんのは慣れとるケド、バカ言われんのはムッチャ腹立つねん!」

ビシッと悠奈に指を突きつけて言う。そのプレッシャー、一体何だ?

「だからってヒナタくんの気持ち無視していいわけないでしょ!?」
「甘いなぁ、ウチとヒナはぁ、ちっちゃい頃からラブラブのベストカップルやねんで!両想いに決まってんやろが!なのに・・こんなに可愛い愛しのナナちゃんを差し置いてこんなオンナと授業中も2人でイチャイチャとぉ・・・ヒナに手ぇ出したら絶対、ぜったい、ずぇったいに許さへんからな!」

「・・・ナナミ、とりあえず上から降りてくれ」

七海の下敷きだった日向はようやくそれだけ絞り出した。

悠奈はまくし立てる七海を見て、先程なぜたじろいだのかわかった。
授業中、悠奈が感じた悪寒、それと同じものを七海の視線に感じたのだ。

(あの時・・香坂さん見てたんだ・・)

「ユウナちゃん、ちょっとユウナちゃん!」
「え?」

不意にレイアに呼ばれ振り返る。するとレイアは悠奈にそっと耳打ちした。

「・・・このコから・・強い魔力を感じるの」
「え?・・それって・・どういう・・・」


「ねぇん、ヒナぁvそんな女ほっといてこれからナナミのおうち行こぉ・・楽しいことしてア・ゲ・ル・か・ら♪」

「えぇ・・でもなぁ、今日はユウナと予定があったのに・・」
「もう!このコのことはええの!ヒナの浮気者!ナナちゃんの前でナナちゃんのこと以外の会話禁止!」

日向の胸をつんつんとつついたりしながら、会話を続ける2人を見ながら、レイアは密かに悠奈に重要なことを告げた。


「どういうコト?香坂さんから魔力を感じるって・・」

「うーん、つまりぃ、この娘も仲間かも知れないってコト」
「う、うっそぉ!?まさか・・」

悠奈は驚きの声を上げる。日向に続いて、こんなに近くに仲間がいたのか?
疑問を抱きつつ目の前にいる少女に目をやる。

「ヒナタくんみたいにまだ表面化してる訳じゃないから、ちょっと細工しなきゃなんないし、もしかしたら違うかも知れないケド、モノは試し。ちょっと待ってね。魔力を引き出してみるから・・・」

そう言うと、レイアは七海に向かって手を翳(かざ)し、何やら呪文を唱えた。

「ティンクル・ティンクル・マジックパワー・ウェイク・アップ!スタンド・アップ!」
「はっ」と光弾を七海の頭に飛ばした。

「!・・ん?」
「?どした?」
「いや、なんか・・ピリッてしたような・・」

突然頭に何か静電気のような衝撃を受けた七海は、自分の後頭部を擦りながら怪訝な顔をした。
その七海の姿に日向も声をかけるが・・・

「あ・・・」

レイアが、七海の方に飛んできたのを見て黙った。

「初めまして!七海ちゃん。アタシの声、聞こえる?」

「へ?な、何?今の声・・・だ、誰?」

「コッチよコッチv

「コッチ・・って・・・」

視界に捉えたのは、羽をはためかせ、宙を舞う、正に妖精の姿だった。


「・・・・・・」

「え、えと・・・ヨロシクね♪」


直後、ぎゃあっ、という絶叫が響き渡った。



悠奈達が住む街、東京のニュータウン・聖星町(せいじょうちょう)
その街外れに位置するとある大きな洋館。
そこに彼女はいた。

ライトブラウンのロングヘアを靡かせ、デニムのジャケットに短パンという軽装。
ダークチルドレンズ。
悠奈達、セイバーチルドレンズと対立する、魔女、メイガス・エミリーの配下にある子ども達。
そのメンバーの1人で、悠奈とレイアを二度に渡って襲撃した少女である。

「お帰りなさいませ、サキ様。少々ご機嫌が悪いようですので、レモングラスのソーダをお持ちしました。」
「うるさいわよコズン。余計なお世話よ」

広い、正に大広間という空間の部屋に入ってきた彼女は、世話役らしき執事から、冷たい飲み物を受け取ると、そのまま不機嫌に巨大なテーブルにつきながら不機嫌に答える。
コズン、と呼ばれた執事。よく見れば人間ではない。背格好は人間だが、頭部に見える角や黄色い眼は、鬼のようだった。

「フフ、なぁにサキったら、自分の失敗なのにコズンに八つ当たり?」
「キャハハ、ホントのコト言っちゃ可哀想だろジュナ」
「オーホホホ!仕方ありませんわ!サキさんじゃ役不足だったって、コトじゃございませんコト?」
「ケッ、情けねぇ。それでも俺らのメンバーかよ?」
不意に広間に4人の少年少女が顔を見せた。
口元に不適な笑みが浮かんでいるのを見て、サキは黙り込んだ。

「油断しただけよ。次は必ずケリをつける。」
「ケリ・・ねぇ・・」

サキに中の1人の少女が歩み寄った。
長い綺麗なブロンドヘアを後ろで結ったヘアスタイル、黒に星とリスのワンポイントをあしらったジャケットに、柄の入ったトレーナー。
赤のミニスカートにピアスという、パンクファッション。
猫目で生意気な感じが独特だが、とびきり愛らしい華奢な少女である。

「そりゃあフェアじゃねぇよ。何度もチャンスあるワケねーじゃん、それにまた失敗したら、アンタ、エミリーさまにチョー叱られるぜ?」

その言葉に唇を噛むサキ。悔しさが滲む。
そんなサキを尻目に彼女は続けた。

「だからよぉ、今回はオレにまかせなオ・レ・に!」

「アカネ・・・アンタに?」
「久々に体動かしてぇんだよ、安心しな。オメーのカタキはオレがとってやるからよ」

憮然としたサキを気にせず腕をブンブンと振り回して言うアカネ。

「愛澤悠奈、か。面白そうなヤツじゃん!」

 

 

 

「あらぁ、ヒナちゃんいらっしゃい!」

「こんにちは!ナナミママ!」

娘のただいまぁ。という帰宅の声とともに現れた幼馴染みの男の子に、彼女は嬉しそうに声を上げた。

「お・・邪魔します・・・」

「?あら?初めて見るコやなぁ、ナナ、お友達?」
「別に、ただのクラスメート」

娘の仏頂面の返答はやや気にはなったが、彼女は目の前にいる淡い桃色の髪をした少女に満面の笑みを浮かべた。

「はじめましてぇ、家の七海と仲良くしてくれてありがとう。七海の母の雫(しずく)です。お名前、教えてくれるかな?」

「え?・あ、愛澤悠奈・・です」

「ユウナちゃんかぁ、エライ可愛らしいお嬢ちゃんやなぁ、ゆっくりしてってぇなぁ

そう言っていきなりハグしてくるまるで欧米人顔負けのフレンドリーな歓待ぶりに、悠奈はやや戸惑った。
この女性こそ、七海の母、香坂雫(こうさかしずく)である。
悠奈は七海の母であるこの女性を見て、ほぉ、とため息をついた。
自分のママは割りとキレイだと思うし、日向のママも道徳の野性味はあったが、文句無く美人だった。
しかし、この七海のママは他とは隔絶された美しさだった。なんと言うか、他には無い清楚さとでも言うのだろうか?豊かな黒髪に白い肌、そして豊満で無駄の無い肢体。
美人というより、美女なのだ。とても一児の母には見えない。知らないうちに悠奈は紅くなっていた。

「感激やわぁ、ナナにまたこんな可愛いお友達が増えるなんて!」

「だから、別に友達ちゃうて!どーでもええねんけどママぁ、ウチらお腹減ってんねん。オヤツちょーだい」

「オヤツかぁ・・あ、せや!この前ちずるちゃんからもろた莓大福!アレなんかどう?」
「ああもう、なんでもエエから。ウチの部屋の入り口に置いといて。ウチラちょっと宿題するから入らんといてな?」

「んふ♪ナマ言うて、ハイハイ。わかりましたよ、ほな、ヒナちゃんも、ユウナちゃんも、おばちゃんオヤツすぐ準備して持ってったるさかい、ちょっと待っててーな」

ややあって母娘の一連のやり取りがあった後、悠奈と日向は七海の部屋へと導かれた。

ベッド、机、テレビにCDプレイヤーと一通り揃い、少々散らかった部屋。
中央の絨毯にあるテーブルに陣取り、クッションを抱えて七海は口火をきった。
「・・で?なんなんさっきの変な虫みたいなアレ」

「虫だなんて失礼しちゃうなぁっ」

「うわあっ!おるしっ!」

突然目の前に現れたレイアにびっくりして飛び退く七海、つい笑いそうになるのを堪える悠奈。
自分の反応とまるで同じだ。

「ビックリさせちゃってゴメンねナナミちゃん、初めまして、あたしレイアです」
「ああ、コチラこそ初めまして・・ってちゃうわ!」
恐る恐るレイアの姿を覗き込む七海。

「・・・ホンマの、ホンマに・・・ホンモノ?」
「だから言ってるじゃん」

七海は悠奈や日向の顔を見比べながら、一つ一つ言葉を切った。

「あ、アンタ・・何モンや?」

「うん・・ちょっと話せば長くなるんだけどねぇ・・」

レイアは事情を悠奈や日向の時のようにかいつまんで話した。
途中何度も大声を上げそうになる彼女を日向も悠奈も何度も宥(なだ)めながらなんとか話し終えた時、七海はゆっくり言った。

「グローリーグラウンドかぁ・・そんなんがあったなんて知らんかったなぁ・・」

「そうなの、七海ちゃんにも魔力があるはずなの!だからヒナタくんやユウナちゃんのように変身出来るハズ!・・ねぇ、ユウナちゃんみたいに携帯電話持ってる?」

「ケータイ?あたりまえやんか、今の子どもには必需品やで?」

「よぉし、ちょっとかして?」

「?何すんの?」

怪訝な表情のまま、自身のプリクラやシールがたくさん貼られたケータイをわたした七海。
すると、手渡した瞬間、レイアが呪文を唱える。すると携帯電話が光り輝き、青いラメがデザインに追加されたものに変わった。

「きゃあっ!?何コレぇっ!スゴイ!」

「それでもしもの時は、ナナミちゃんも変身できるんだよ!」

「う・・・ウチがぁ?マンガみたいに?」

「うんっ!」

「・・・なんや信じられへんなぁ」
「オレもユウナもビックリしたんだけどさ、現にここにレイアがいて、それに・・・オレたちもそのダークなんたらとか言う奴らに襲われたし・・・」
「アタシも今でも信じらんないケド、ヒナタくんが言う通り・・レイアの姿、他の人が見えないのに見えてるワケでさ、香坂さんも・・」

「ストップ!」

ユウナが話し出したその時、七海はいきなり強い口調で遮った。
そのまま手のひらを悠奈に向けて歩み寄ってくる。
「な、何?」とたじろぐユウナに、容赦無く言い放った。


「アンタ、ヒナの何なん?」

「は、はい?」

いきなり何のコト?

あまりの唐突さに、悠奈はリアクションをとるのも忘れ、ただただ無表情だった。

「だぁかぁらぁ、ヒナとどんなカンケーなんかって聞いてんねんな!」

次第にカァーっと顔が紅潮する悠奈、血が顔に集約する。

「なっ・なななっ、何言って・・っ!!カンケーって・・・そんな・・・っ!」

「とっ、友達だよ!ってか、仲間だ。そう仲間!」

「あーっ!友達って言うた!女と男のトモダチは恋人の一歩やのにっ、ウチというもんがありながらぁ

顔を真っ赤に染めて反論する悠奈。それに日向も加勢する形だが、七海も負けじと日向にまた喰ってかかった。
それからは不毛な言い争い。やれ勘違いだの浮気だの誤解だの。およそ小学生の男女の会話とは考えられない内容の話が飛び交った。ややあって、言い合いに疲れた頃、部屋の外から

「ナナぁ、オヤツここにおいとくからぁ、みんなで食べなさい」

という、母の声がかかってようやく終息した。


「・・・それで、ウチに何してほしいん?」

母の用意してくれたホットオレンジジュースをすすりながら、聞いた。
するとレイアは待ってましたとばかりに嬉々として返す。

「ん?何って?」
「トボけんのもエエ加減にし、なんかナナちゃんにお願いがあるからみんなしてウチんトコ来てんねやろ?」

「さすがナナミちゃん、お願い!ユウナちゃんやヒナタくんと一緒に私達の国を助けて、選ばれた・・・セイバーチルドレンとして」
「うん、ええよ」

間髪入れず放たれたその答えに、レイアも悠奈も、そして日向も、派手にズッコケた。実にあっけらかんとした返事。

「?なんやリアクション悪いなぁ、大阪やったら今ので笑いとれんでえ」

「い、いや・・あんまりにも、簡単に答えてくれたもんで・・・」

「えへvだってぇヒナもメンバーに入ってねやろ?せやったらぁ、やっぱ愛しのフィアンセとしてはぁ、当然手助け!みたいなぁ?魔法使えるようになんのも結構オモロそうやし、何より未来の夫婦としてはぁ・・」

「勝手にフィアンセとか夫婦にすんなぁっ!」

自分勝手にしゃべり続ける七海に、非難の声を上げる日向。悠奈は(なんて軽い理由)と思いながらも、少し七海が羨ましかった。

この娘は本当に日向が好きなんだ。
もし、自分に七海の半分も積極性があったら・・・
クールでカッコイイとは言われるが、ホントは意気地無しなだけの自分に嫌気がさす。

「よかったねぇユウナちゃん!3人目の仲間が見つかって!」

「え!?・・・う、うん・・・」

「コラ!そこぉっ勘違いしたらアカンで!」

1人はしゃぐレイアと傍らで戸惑う悠奈に、七海は指を突き付けて言った。

「ウチはヒナのために協力する言うてんねん、愛澤悠奈!アンタのためとちゃうからなっ」

「えっ、えぇ・・」
(ちょっとぉ、何でアタシにこんな攻撃的なのよぉ)



悠奈たちの学校から程近い商店街、駅が近く、都心にも交通の便がいいこの地区は、ショッピングセンターなどが凌ぎを削り合う厳しい昨今においても連日安定した賑わいを見せている。

「よっ!中田のじっちゃん!今日はブリのいいのが入ってるよ!富山の氷見から直送だ!」
「来るとおもってたよ、前田のお母さん!朝採れのトマトはどうだい?」

「ケッ真面目に働いちまってまぁ・・あんな汗臭く働いて楽しいのかよ?」

活気の良い魚屋や、八百屋の店主の声が響き渡る大通り、その姿に毒づきながら、彼女はソコを歩いていた。
黒のジャケットに薄いトレーナー、デニムの短パンにサングラスという出で立ち。
ダークチルドレンズの1人で、アカネという少女だ。アイスを舐めながら、辺りを見回す。ちょうどいい場所はないか?

「お♪」

彼女は商店街の中央に位置する噴水広場に目を止めた。
沢山の人が、思い思いに休憩している。
暴れるには、ちょうどいい面白い場所だ。

「みぃーっけ♪」

ニヤっと笑ってアカネが広場に近づく。ポケットから1つの宝石を取り出した。オレンジ色に輝く宝石、それを手の中に包み込んだ。そして両手を前方に翳し、静かに呪文を唱え始めた。
「闇より出でし邪なる石、ダークジュエルよ。我が闇の魔力に答え、その力を目覚めさせよ!」

すると、彼女の掌からドス黒い紫のような煙が上がり、宝石を包んだ。そしてそのまま広場で平和そうに子どもがくれたパンくずをつついていたハトに一直線に衝突した。

「くっ、クルッポーっ」

「さぁ、出てきな!ジュエル・モンスター、マッドピジョンっ!」

その叫び声とともに、胸元に宝石を付けられ、紫の霧に包まれた鳩が発光し、巨大化して広場に降り立った。
残忍獰猛な眼に毒々しい赤の鬣(たてがみ)、紫の鶏冠(とさか)緑のコブを持った鳩のモンスターだった。

「クルッポー!ポッポーッッ」

鳩がいななくと、周りに黒い霧のゲートが現れ、中からそのモンスターより二回り小さい同じモンスターが何体も出現した。

「うわあぁーーっな、なんだぁ?」
「ばっ、化け物!?」
「た、助けてくれぇっ」
「うわん、ママぁ

突然の魔法モンスターの登場に広場はパニックに陥った。その様に、アカネはただただ笑いが止まらなかった。

「アハハハっ!いいザマだぜぇー、さあ、マッドピジョンたち、せいぜい暴れてみんなの心に闇を植え付けてやりな!」



「はっ!これは・・・・ジュエル・モンスターの気配!ユウナちゃん、ユウナちゃん!大変だよユウナちゃん!」

「はぁ?今度はナニ?」

七海の部屋、相も変わらず繰り広げられる日向と七海の夫婦漫才に、度々とばっちりを受けていたため、悠奈はイラついた表情で、レイアに振り返った。
だが、その顔が真剣そのものだったので、思わず言葉を飲む。

「どうしたの?」

「ジュエル・モンスターの気配がするの!」
「は?じゅえる・・モンスター??」
「ああっ、もう!敵よ、テキ!きっとダークチルドレンズが現れたんだよ」
「えーっまたぁ・・」

悠奈はガックリと頭を垂れた。
せっかく平和な数日間だったのに、といった表情である。

「ほら、ションボリした顔しないの、いくよユウナちゃん!コッチの方角だよ。ヒナタくん、セイバーチルドレンズ出撃よ!」

「おっ!何だ事件?」

「ち、ちょっといきなりどないしてん?ひ、ヒナぁ~~っっ」

突然部屋を飛び出した悠奈と、日向。その後を七海もまた、追いかけた。



「・・・な、何なん・・コレ・・・」

七海は立ち尽くしていた。
母と昔から毎週買い物にきた商店街。
見知った店、慣れ親しんだ人で活気に溢れた商店街。羽陽町(うようちょう)商店街、今ではフェザーサンタウンと呼ばれる憩いの場が、無惨に荒らされていたのだ。
あちこちに飛び散った果物の欠片、パンの切れ端、駄菓子の粉、袋。
そして・・・
目を閉じて眠ったまま動かない人達。
日向も、悠奈も茫然とその光景を見ていた。


「ヒドイ・・・」
「一体・・・誰がこんなこと・・」

「松田のおっちゃん!おっちゃん!しっかりしてぇなっ」

小さい頃から母が贔屓にしているパン屋、「ベーカリーマツダ」の店主を七海が必死に起こす。
しかし、当人は「うぅ、」と低く唸るだけで眼を覚まさない。

「そ、そんな・・・」

「キャーッハハハ♪!ナンだよそのバカみてぇなツラ!マジウケんだけど!」

「誰だ!」

突然辺りを切り裂いた甲高い笑い声。声の主に日向が問いかける。
すると、アイスクリームショップの屋根の上から、ややつり目の金髪少女と、彼女に従えられた巨大な鳥のモンスターが姿を現した。

「やっぱり!ジュエル・モンスター!」

「な、何ソレ?」

「グローリーグラウンドに生息する普通のモンスターじゃなくて、エミリーが闇の魔力を用いて作り出した魔物なの、その魔力は人々の心に闇の力を目覚めさせ、やる気がなくなったり、悲しみでいっぱいになったり、とてもツラい心になっちゃうの!」

「じゃあ、やっぱりアナタが!」

「ああ、そうさ!オレがダークチルドレンズの1人、身を焦がす紅き炎のアカネ!」

「あ、アンタが、みんなをこんなひどい目に!」

「は?誰オマエ?」

「うっ・・ウチは・・」
「下がってろナナミっ!オイ、お前の狙いはユウナやオレだろ?だったら関係ない人を巻き込むな!」

日向が七海を背後に庇いながら問う、その言葉を嘲笑うようにアカネは言った。

「カンケーなくねぇんだよ。コッチの世界も闇の魔力で支配するってのがエミリーさまの目的だからなあ、さあっ!やっちまいなマッドピジョンたち!」

彼女が号令をかけると、背後に控えていた鳩の化け物が一斉に襲い掛かって・・・は来なかった。

「?何してんだよ!?」

背後を振り向いたアカネは滑りそうになった。
モンスターたちはいまだ荒らした広場で、落ちているパンのくずやお菓子のくずをついばんでいたからだ。その姿にさらにイライラがつのる。

「んなにしてんだよ!早く行けってばぁ!」

「ユウナちゃん、ヒナタくん!今のうちに変身よ!」
「OK!」
「らじゃっ♪」

レイアの一言に、悠奈と日向は大きくうなづき、ケータイ型のアイテムを取り出した。

「「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」」

「きゃっ」

七海の眼の前で、突如、2人の体が激しい光に包まれた。眩い桃色の光と、輝く炎。
そして、中からバトルコスチュームに身を包んだ2人の姿が露わになった。
白とピンクを基調にしたダンスコスチュームのような格好の悠奈。赤とオレンジを基調にした着物のような戦闘服を纏った日向。七海は眼を見開いた。

「輝くひとすじの希望の光、セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」

「情熱迸る勇気の炎・・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」

「これが・・セイバーチルドレン?」

「あーっっ、テメエらっ!人が忙しい時に勝手に変身しやがってっ!もうこうなったら、オレだって・・ダークスパーク!トランスフォームっ!」

しかし、一方でモンスターの統制に四苦八苦していたアカネがようやく気付き、無視されたと思ったのか、怒って似たような呪文を叫んだ。
みるまに、少女の体が光に包まれ、体を悠奈たちのような衣服が纏っていく。

金髪は変わらないが前髪が濃いピンクに染まり、赤の半ジャケットにブルーのタンクトップ。赤のミニスカートに濃茶のブーツを履いたアドベンチャースタイルの、ガールスカウトのような衣装だ。

「う、ウソォっ?コッチも変身してもうたっ!」

「さあ、今度こそやっちまいなっ!マッドピジョン!」
「香坂さん!下がってて」
「アブナイから向こう行ってろナナミっ!」

日向と悠奈がそう言うが早いか、モンスターが飛びかかってきた。

「だあぁりゃあっ!」

日向の剣術が炸裂!まずは一番に飛びかかってきた小型の魔物を切りつけた。ピギョーーっ!という声をあげて苦しむ魔物。
二の太刀、三の太刀。次々と日向は剣を振って目覚ましい活躍を見せた。
そして、悠奈も。

「ダンシング・ロッド!」

小振りのステッキが悠奈の手から放たれると、それがまるで舞っているように回転し、ハトのモンスターを薙倒した。

「スゴイスゴイ!ヒナも愛澤悠奈もやるやないかっ!」

七海はモンスターの迫力も忘れて、手を叩いて喜んだ。驚いたのは敵だ。
悠奈と日向の予想以上の実力に、アカネはすっかり慌てていた。

「なんだよ・・・コイツら強えぇじゃんっ!ちっくしょおぉ・・・よぉし・・」

少女の顔に不敵な笑みが浮かんだ。

「よっしゃぁっ!コレで最後ぉっ!」

裂昂の気合とともに、最後のザコモンスターをヒナタが切り捨てた。「ピギャアァッ」という断末の叫びとともに消えてしまうモンスター。
後に残ったのはボスのマッドピジョンだけだった。

「よし!ユウナ、決めてやれ」
「うん。」

ロッドを構えて呪文を悠奈が唱えようとしたときだった。

「待ちな!」

突然背後から上がった声に振り返る。

「なっ・・ナナミぃっ!」

見ると七海がアカネに後ろから歯がい締めにされ、ナイフを突き付けられていたのだ。

「あっはははっ敵はそいつらだけじゃねえんだよバーカ、まんまと引っ掛かりやがって!」
「ひ・・・ヒナぁ・・」

「香坂さんっ!」
「バカッだから下がってろって言ったのに・・・」
「だっ・・だってぇぇ・・」

「オラオラ、この子のキレイな顔が傷ついてもいいのかよぉ?イヤさっさとその妖精をわたしなっ!」

「キタねぇぞお前っ正々堂々勝負しろ!」
「うるせえな勝負なんてどんな手使ったって勝ったやつの勝ちなんだよバッカじゃねえの!」

「レイアっ!なんとかできないの?」

悠奈の問いにレイアは考え、叫んだ。

「ナナミちゃん!信じて、変身するのよ!」

「え?」
七海は意味がわからず絶句する。

「変身て・・ウチが?」

「そうっ!ナナミちゃんにはアタシが見える!魔力がある!魔力の源は夢見る心、アタシのこと信じてくれたでしょ?ナナミちゃんには魔力がある!勇気を出して・・・変身よ!セイバーチルドレンに!」

「・・・勇気、夢」
「何ワケわかんねえこと言ってんだよ!?オラッ!」

アカネがより一層力を込め、ナイフを頬につきつけようとした・・その時だった。

七海の持っていた携帯電話が光輝いた。

ドクン・・・。

「な・・・何コレ??・・体から・・力が溢れてくる!?」

「なっ・・・なんだコレぇ!」

アカネも、突然の光に眼がくらみ、反射的に身がすくむ。

「今よ!」


「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」

七海の体が光に包まれた。同時にどこからか水蒸気が集まり、水を作ってあっという間に七海を包みこんだ。

赤の髪はそのままだが、変身前よりずっと長い。
白を基調にした日向のような着物のバトルコスチューム、しかしそれは着物というより巫女服のようだった。
青の宝玉をあしらったピアス。ピンクの腰帯、日本の舞子が履くような高下駄を履き、カチューシャには大きな桜の花飾りがついていた。
そして薙刀のような武器。

水の中から現れた七海は、凛とした表情で言った。

「大いなる青き海の力!セイバーチルドレン・ケアヒーラー」

 

 

「セイバーチルドレンズ・・まさか、そんなっ!コイツがっ」

「スゴいっ!スゴいスゴい!ナナミちゃん、やったね♪」

「ウチが・・・ホンマに?」

「ケア、ヒーラー・・」
「・・・香坂さん」

突然、光と水の中から現れた新しい戦士に、その場にいた一同、言葉を失っていた。
レイアの言う通り、七海が3人目の仲間だったのだ。

「・・・おぃっす!ヒナ!」

「スッゲェじゃんかナナミ!やったな」
「えへへー♪どや?スゴいやろ!?ちゃんと変身できたで!ヒナみたいに変身できたで!」
「うん!スゴいスゴい!ナナミエライエライ!」
「キャー♪もっと誉めてもっと!」


「て、テメーら!いい加減にしろよ!さっきからオレだけ無視して勝手に盛り上がりやがって!」

場違いにはしゃぐ七海と日向の声に、イライラMAXの非難声を上げるアカネ。
見ると顔がピクついていた。

「あー、アンタまだおったんか?何か用?もう用終わったんやったら帰ったらエエんと違う?」

七海のその言葉がよほど頭に来たのだろう顔を真っ赤にして怒り、腰から細身のショートソードを抜くと、ビッと突き付けて言った。

「調子に乗りやがってもう許さねえっ!炎神イフリートーよ、我が声に耳を傾け、その大いなる力を我が前に示せ・・っ!ファイアボール!」

瞬間、迸る火球が空気を焦がしながら2つ3つと七海に迫った。

「香坂さんっアブナイ!」

悠奈が叫ぶ、しかし、それより前に、七海も呪文を唱えていた。
知っていた訳ではない、自然と頭に流れてくるのだ。コレも魔法の力なのか?
七海は薙刀を前に構え叫んだ。

「全地を行き渡る水の精、ウンディーネよ・・今こそ汝の力を貸し、目の前の悪を遮る盾を与えたまえ・・アクアリフレクター!」

七海の前に突如として、水の鏡が現れた。その鏡に火の玉がぶつかった瞬間、パァンッという音と共に火球が跳ね返った。

「っ!きゃあっ!?」

アカネが反射した火球をすんでで避ける。宙へと舞い上がったそれは、青空に吸い込まれるように消えていった。

「そ、そんなっ、変身したばかりでもう魔法がっ!?」

「香坂さん・・スゴい・・・」

七海の流れるような呪文と魔法の威力に絶句するアカネ。悠奈も七海の魔法に驚いた。
あの飲み込みの早さと開き直りは真似できない。

しかし、まだ勝負はついていない。

「ま、マッドピジョン!何してんだよ早くアイツらやっちまえよ!」

そう叫んでモンスターの影に隠れるアカネ。最初の頃の威勢は最早無い。
どうやら見た目に反してあまり実戦慣れはしていない様子。
頼られたマッドピジョンはやはり、鳩のモンスターだけあってトリ頭なのか、アカネと悠奈達が小競り合いをしている最中、また広場に散らばったパンくずや野菜の欠片をついばんでいた。

「何やってんだよバカ!さっさとやっちまえよ!」

「クルポ?ポギャアーッ!」

アカネに言われて再び悠奈達に向き直り、突進を始めた魔物。
しかし、それを日向は見越していた。

「させるかよっ!喰らえぇっ!」

剣を横薙ぎに振り払う、ソコから炎が地面を疾駆し、モンスターから正面に喰らい付いた。
草薙流・百八式・闇払いである。

「ピギョアぁーっ」

「今だ!ユウナあっ」

日向の掛け声に頷くと、悠奈はロッドを前に翳した。

「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャインハートフラッシュ!」

桃色に輝くハート型の光が魔物を包み込む、魔物は優しい光に消され、後には元の媒体となった、ハトが残り、平和そうに飛んで行った。

「な・・なんなんだよぉっもおっ、お・・オレ帰るっ!」

悔しさに半泣きになりながら、金髪の少女は広場から走り去って行った。



「おっちゃん、おっちゃん!」

「・・う、うん?」

パン屋の店主。知った声に目を開ける。
見ると、小さい頃からの常連の少女が、心配そうな顔で自分を見ていた。

「七海・・ちゃん?おお、しばらくだな。あ、アレ?そう言えばあの化け物鳥は?」

店主が辺りを見回す。

「もう、しっかりしてよ。そんなんいてへんて、夢でも見たんちゃう?」

「ヘンだな・・俺は確かに・・イヤ、そう・・かな。そうだな!アッハハハ!」
周りを見ても至るところにゴミが散らかってはいたが、別段変わりはない。商店街の人々も、自分と同じように眠った人はいたようだが、今は皆元気で仕事に戻っているのを見て、悪い夢かと思って納得した。
商店街には再びいつもの平和が戻ったのだ。



「ホントに!?七海ちゃん!仲間になってくれるの?」

いつも通りになった噴水広場。レイアは七海の答えに歓声を上げていた。

「ホンマや言うてるやん!ヒナもおることやし、何か魔法使えるのもオモロそうやし!付き合うたるわ」

「キャー♪アリガトー!」

「ったく、調子イイ奴」

「あ、ありがとう、香坂さん」

「勘違いすんなや!」

しかし、再び悠奈に指を突き付けて言い放つ。

「ウチはヒナのために協力するんや!アンタのためちゃうで」

「あ・・うん」

ションボリ答える悠奈。しかし、そんな彼女に七海は満面の笑みで言った。

「それから・・・呼び方、ナナミでええからな」

「え?」

「ウチも・・アンタのこと名前で呼びたいからさ。さっきは・・助けてくれてありがと。よろしくな、ユウナ♪」

そんな彼女に、悠奈は心からの笑顔で返した。

「こちらこそ・・・ナナミ!」

「よぉーっし!じゃあ今からお好み焼きでパーッと打ち上げやらへん?」

「あ、ワリ今日小遣い持ってない」
「アタシも」
「大丈夫大丈夫vほら♪」

消極的な2人に七海は自分の財布を見せる。中には札がぎっしりつまっていた。

「うわっ!どうしたんだよコレ!」
「へっへ♪ママのサイフからクスネてきた」
「ゲッ!ウソぉ?だってお前バレたら・・」
「そうだよ、絶対ヤバいよ、怒られないの?」
「バレへんかったらええねん!ふっふっふ♪2人とも、今日はナナちゃんが奢ったるさかい好きなモン頼み!」

七海の気前のいい申し出。しかし、それに反応したのは悠奈達ではなかった。


「なぁんの話してんのかなぁ?」

「へ?」

今の声。イヤな予感がした。
ふと気が付くと、目の前の悠奈と日向の顔が、青ざめていた。

恐る恐る振り返る。そしてヘタッと崩れ落ちた。
そして、ガタガタ震えながら、噛み合わない口でようやく紡ぎ出した言葉。

「ま・・・ママ・・・ど、どーして・・?」

「アンタらが部屋で宿題する言うてたから今度はたこ焼きでも差し入れたろ思たら、偶然商店街に見慣れたコがいるやないのぉ、まさかとは思うたケド、なぁ」

「あ、あ・・・あのぉ・・」

「今の話・・・もっかいよ~~く聞かせてくれるかなぁ?ナナちゃん♪」

七海の背後で仁王立ちしていた母、雫は凄みのある笑顔で、娘に詰め寄った。



「イーヤーやぁ~~っっ」

香坂家、リビング。
泣き叫ぶ娘の耳を引っ張りながら連れ込んだ雫。
鬼の形相だった。
後には悠奈と日向が付いてきている。

「ナナあっ!アンタ、今日自分がやったコトわかってんの!?」

「ふっ、ふえぇ・・ハイぃ・・」

「じゃあ、たぁっぷり叱られる覚悟はできてんやなぁ?」

「あぁん、イヤあぁふえっヒナ、~助けてぇ

「ひ、ヒナタくん、ナナミどうなるの?どうなっちゃうのおっ!?」

もうすでに泣いている七海の姿を見て、悠奈は心配になって日向に問い掛けた。すると、日向が青い顔で答える。

「決まってンだろ?お仕置きだよ・・」
「お仕置き・・・」

「ナナ、ママの方来なさい」

ソファーに座った雫、七海を自分のところに呼ぶ。しかし、七海は強く拒んだ。まるで行ったが最後殺されるかのように。

「エエ加減にしいっ!」

「いや、きゃあっ!」

最後は七海を自分で捕まえ、素早く膝に引き倒した。
「イヤぁ、イヤやあっ!ママ、お願い!ヤメテぇっヒナやユウナもいるのにぃッッ」

「ね、ねえ日向くん・・コレって・・・コレってさあっ!」
「うん、ナナミママもそう。昔から・・お仕置きはお尻ぺんぺん」

青い顔をして答える日向の前で、見る間に七海のミニスカートが捲られ、パンティが下ろされる。
露になったのは小ぶりで可愛い、雪のように白いお尻だった。
最初の必殺の一撃は、一拍置いてやって来た。

「歯ぁ食い縛りっ!」

パッシィ~~ンっ!

渇いた音が響き渡り、直後上がった絶叫。悠奈も日向も思わず目を閉じ耳をふさいだ。

「きゃああぁッッイタあぁ~~っっ」

ぺっしぃ~~んッ!

「あぁーーーんっっい、痛い!いたぁいよおぉ・・・ひぃ・・」

パンっ! ぱんっ! ペンっ! ぺんっ! パシンッ! ぱしんっ! ペシンッ! ぺしぃーんっ!

「あぎぃっ!?きゃんっいたぁっ!?痛ぃっ!きゃうっ!やんっやんっ!やぁんっ!」

「ママの財布からお金抜くやなんて・・ドロボウさんとおんなじやねんぞ!?このアホ娘!わかっとんのか?」

「ふっ、ふぇぇん・・だってえ・・・」

「言い訳無用や!こんな悪いコトして・・このお尻が悪いんやな!それともこっちのお尻か?」

バシッ! ばしっ! べしっ!ベシィッ!ぴしゃっ!
ピシャッ!ぱちんっ!パチンっ!ぺちんっ!ペチンっ

「うっきゃぁーーいだぁい!痛い、いだい、いだぁい・・・いだいよぉ・・ひくっ、ママ、ママ、ママぁ・・オシリ、痛いのぉ・・も、許ちてぇ・・」

烈火の如く怒る雫ママ。
そしてママに泣きながら必死に許しを請う七海。
涙が滝のように溢れ、顔はびしょびしょのぐしゃぐしゃ。
白い白桃の様だったお尻は、ママの手形が破裂音と共に幾重にも張り付けられ、熟れすぎた桃のようになっていた。

悠奈は身震いした。

自分もママにちょくちょくされるからこのお仕置きがどんなに痛くて辛いかは知ってる。この間は日向も叩かれていた。
だが、果たしてこの七海ほど凄まじかったかどうか?もしかしたら、普段超美人で優しいこの七海のママは怒ったら一番怖いかも知れない。
と、ぎゃんぎゃん泣きわめく七海と今だ厳しく裸のお尻に平手を打ち据える雫を見て、悠奈は思った。

「ナナミママ、相変わらずキッツイなぁ~・・

日向もタジタジの迫力である。
七海はもう、ママの恐怖とお尻の激痛で大泣きだ。

ぱんっ! パンっ! ぱぁんっ! パァンっ! ばしぃっ! バシィンッ! びしっ! ビシィッ! ばちぃんっ! バチーンッ! ぴしゃっ! ピシャッ! ピシャンっ!ぴしゃーんっ! ぴっっしゃあ~~んっっ! 

「ぴぎゃあぁ~~んっ・・ギャピィ~~っ・・うわあぁんっうえぇ~~んっ・・ああぁぁ~~~んっっ」

・・・・・。



「ひくっひぐっ・・ぐずっ、ぐすっ、ぐしゅっ、うえっえっえぇん・・」

「反省したかなぁ?ナぁナちゃん?」

すべてが終わった時、七海は放心状態で泣きじゃくり、ママの胸に抱っこされて、髪と、髪と同じくらい見事に真っ赤っかに腫れ上がったお尻をナデナデしてもらいながら、たっぷり甘えていた。

「いだいよぉ、痛いぃ・・ママぁ、お尻、痛いのお・・」

「お尻痛かったね、よく頑張りました。イイコイイコ。ナナちゃんイイコやもんなぁ、もう、悪いコになったらアカンよ?」

ママの胸に顔を埋めて何度もコクコクと頷いた。





「ナナミ、大丈夫?」

「大丈夫ちゃうわっ!・・ひくっ、ぐしゅっ、イタタタタ・・お尻、痛すぎ・・・ヒリヒリするぅ・・」

お仕置き後、ようやく泣き止んだ七海。
部屋に戻ると、ベッドにうつ伏せに寝てお尻を擦りながらぐずった。

「大丈夫?ナナミ」

「うぅぅ~~・・ハズカシイ・・///アンタにだけは見られたくなかったのに、ママのアホ」

「あ、あのさぁ、そんなに気にしないでよ!」

不貞腐れる七海を元気付けるように悠奈も告白した。

「アタシも・・時々、ママにお尻叩かれるから・・」

「えっ!?ウソ、ホンマ!?」

「ウン!痛いよね・・・アレ」

2人は顔を見合わせて笑った。
悠奈にまた、気心の知れる友達ができた。


つ づ く