「ね・・・ねえ、ユウナちゃん。なんか・・・タイヘンなコトになっちゃってない?」

「・・・見ればわかんじゃん。ってかイチイチアタシに聞かないでよ・・・」


愛澤悠奈と、グローリーグラウンドのフェアリー、レイアは目の前の光景を見て、その尋常ならざる雰囲気に思わずそんなやり取りをした。






「え・・えっとぉ・・とりあえず、確認させてくださいね。まず・・イリーナ・・さん?」

「ハイ、イリーナ・グランディスと申します。」

「で、どちらからいらっしゃったって・・・言われましたっけ?」

「ハイ、グローリーグラウンドの王都、レインヴァードから来ました」

「ハイ!ストップ!」

「はい?なんでしょう?」

「・・・その・・・グローリーグラウンドっていうのは・・・もう1度聞きますけど・・・アメリカ?それともイギリス?どちらの国にあるの?街?島?」

「まあ、グローリーグラウンドはグローリーグラウンドですわ」


「あー・・ヴァネッサさん、もうそろそろヤメトケ。多分このねーちゃんマジだわ」

もう何度目かのこの応対を見ていた彼、草薙京は目の前ににこやかに座っているイリーナの顔を見て、混乱の汗ダラダラ状態のヴァネッサに静かに言い放った。


ところは新選グループが経営する高級ホテルの一室。

子ども達の一時行方不明騒動ですっかり祝勝会の酔いが醒めてしまったしまったヴァネッサは、ふと悠奈たちの背後に立っていた若い美女に声をかけられてその存在に気付いた。

どうやら子ども達の知り合いのようだがこの女性、一体何者なのだろうか?とその事を聞き出そうとしたところ。







「はじめまして。グローリーグラウンドの王都、レインヴァードから参りました、イリーナ・グランディスと申します。以後お見知りおきをv」






コレである。

全く持って意味不明。
理解不能。

自分をからかってワザとふざけているようにも見えない様子にヴァネッサはいよいよ頭がこんがらがって脳ミソが溶けださんばかりに悩んでいた。

グローリーグラウンドってナニ!?
ソレってドコのクニ!?
ってかドコのホシ!?

それはヴァネッサの周りの人間も同じだった。
草薙京は突然従妹達とともに光の中から現れたその女性の存在に何とも言えない人外の力や雰囲気を感じていた。
ひょっとして日向達は自分達も知らないうちに厄介な事件に巻き込まれたのではないか?
その場にいた大人達。
ヴァネッサ、東一哉、近藤勇蔵、土方歳武、草薙京はじめとするJTスポーツクラブの面々はこの理解しがたい実情に言葉を詰まらせていた。


と、勇蔵がここで重い沈黙を破って口を開いた。


「・・・・つまり・・・アレだな?イリーナさん・・といったか?」

「ハイ」

「アナタはそのグローリーグラウンドという・・この地球とはまた別の異世界・・・のようなところからやってきた人だということか?」

「ハイ、その通りですわ」

こともなげに平然と言い放つイリーナと名乗るこの女性。
近藤とて頭を悩ませる。
彼とて幕末の動乱を生きたかの壬生狼(みぶろ)と呼ばれた剣豪集団の局長、近藤勇(こんどういさみ)の血を今に至るまでにその武とともに連綿と受け継ぎ、戦士として幾多の修羅場を潜り抜けて来た現代の侍である。
闘気を駆使した戦法も体得しており人智を超えた節理や技術にも造詣が深い。

だが、まるで御伽噺そのままの異世界や魔法の存在を信じれるほどには頭が柔軟ではなかった。


「・・・申し訳ないが、今初めて会った貴女の言う事をおいそれと信用することは難しい」

「まあ、そうなんですの?残念です」

「俺も勇さんと同じ意見だ。一哉さん、アンタらは?」

「ああ・・・俺も・・・ちょっといきなりこんな事言われても・・なあ?」

「へ・・へい・・・ちょっとあんまりにも話が飛び過ぎだなぁー・・と」

「無理・・ねえよなあ」

「ひょっとして・・・オレたちが知らないだけで、実際は身近にこういうハナシがあったりする・・・ってのは考えられないっスか?」

「いや、真吾さん、あり得ないですって」


同じ部屋にいる東一哉も、ラモン、火引弾、矢吹真吾、南陽生も同じ意見だった。

「オ〜レはぁ〜vなぁんにも妖しいなんてぇ〜♪思ってないぜぇ〜vvレィディ、お手をどうぞv安心しな♪オレはキミの味方だからさw」

「まあ!あなた様はわたくしを信じてくれるのですか?嬉しい!わたくしイリーナ・グランディスと申します!貴方様のお名前は?」

「俺は二階堂紅丸。この世の美女すべての味方さvレディ・イリーナv」

ただ1人、女たらしの二階堂紅丸だけはイリーナの話す内容をわかっていないのか?それとも美女のためいつものナンパ癖を発動しているのか全く警戒感を見せずに彼女の手を取り、いつもの甘い言葉で彼女を口説き落さんとしていた。
その様子を見かねた一哉と勇蔵がとうとう事態をまとめるように口を開いた。


「ま、まあ、とにかくアレだ。悠奈ちゃん達が取りあえずウソをついていたんじゃないということはわかったことだし・・・その・・・心配したのはもちろんわかるが・・・ヴァネッサ先生・・・」

「・・・ハイ・・・」

「そのぉ・・・まあ、抜き差しならん事情があって・・・夜遊びではなかったようだし・・・謝っといたほうが・・・」

「は・・はぁ・・・」


と、ヴァネッサは先程まで夜遊びと断じ、一切の言い訳を認めず10発プラスα(アルファ)お尻を叩いてしまった子ども達の方を見た。
皆一様に恨みがましい泣きべそ顔でヴァネッサを睨み付けており、14発叩かれた麗奈などは未だにしゃくり上げて泣いている。
その姿にヴァネッサは非常に気まずい思いを感じながらそれでも意を決して言葉を切った。




「え・・っと、その・・・どうやら・・・先生勘違いしちゃったみたいで・・・事情はよく知らないけど、こちらのイリーナさんってお姉さん助けてたんですってね。ゴメンネ!夜遊びって決めつけてお尻叩いちゃって・・・痛かった?」





「ったりめーだろうが!おっせーんだよバカ!」

「謝るくらいならさいしょっからケツ叩くなアホーっ!」

「ちょっとはヒトの話聞けっての!センセーのクセに!ふざけんな!デブ!」

「いっつもいっつもすぐオシリぶつんだから!暴力ババア!サイッテーーっ!この真っ赤にハレちゃったお尻どうしてくれんのよぉ!?」

「いってーに決まってんじゃん!オトメのカワイイシリをめいっぱい叩きやがって!オニ!アクマ!超絶デビルサタン!」

「うええぇぇ〜〜〜んっっ・・ヴァネッサせんせーキライぃ〜〜っっ」





と、ある程度の覚悟はしていたものの正に怒りにまかせた悪口雑言の限りを浴びせられるヴァネッサ。
しかし、そうは言いつつもお尻を叩かれた子ども達6人、一斉にヴァネッサ先生の胸に飛びつき胸を叩いたりしながらも泣きすがる。
そんな彼らをヴァネッサは1人1人優しく抱きしめると「ゴメンねゴメンね」とお尻や髪をナデナデして必死に宥めすかしていた。
と、そこでやれやれと様子を見守っていた近藤がふと口を開く。





「それで、悠奈ちゃん」

「・・・え!?あ・・アタシ!?」

「うむ、キミたちは一体ドコに行っていたのかね?」


突然そんなコトを聞かれて、悠奈は近藤の方を見てしどろもどろ。
「えっと・・それは・・・あの、その・・・」とブツブツ言いながら辺りをキョロキョロ見回した。



「ど・・どうしよう?ヒナタくん・・・」

「そんなコト言われてもなぁ・・・もう正直に言っちゃう?フェアリーのコトとかも・・・」

「だっ・・・ダメよダメダメ!イリーナさまやグローリーグラウンドのコトはともかく・・・アタシたちフェアリーの存在は秘密にしておかなきゃ・・・」

「え〜?なんでなんソレ?」

「ナナちゃん、ちょっとは考えて・・・いきなり目の前にわたしたちみたいな小さい生き物がゾロゾロ宙に浮いてるの見たら・・・ビックリしちゃうでしょ?」

「・・・・あ、そうか」

「それに、オレ達だけじゃなく、魔法の力のコトも内緒にしておかないと・・・悪いコトに利用されると困るからな」

悠奈はよくわかんないケドそうなのかな・・と思った。

よくよく考えてみれば魔法とは不思議な力だ。
手から火や氷が出たりするし、なんか危ない・・・。
コレを悪用すれば確かに犯罪が起こったりするのかも知れない。

しかしこの辺のコトは自分とて詳しいことまでわかるわけじゃないから極力ノータッチで行こう。
悠奈だけでなく、無言で他の子ども達もそう思った、その矢先であった。




「ユウナちゃんたちはグローリーグラウンド、わたしたちの国へ来られてたんですわ」

「ええ!?ちっ・・ちょっと!」
「イリーナさま!?」

悠奈と日向、イリーナの方を振り向いて驚きの声を上げる。
今イリーナさまからグローリーグラウンドに来られてたとかって言わなかった!?
そう言われた近藤先生、再び米神に手を添えながら再びゆっくりと口を開く。


「さっきから何度も聞いているそのグローリーグラウンドというところだが・・・そこは一体どこなのかね?」

「このライドランドとは違う魔法を主体として動いている世界のコトですわ」

「・・・ライドランド?・・と、いうのは?もしかして・・・」

「はい、アナタ方がいらっしゃるこの世界のコトですわ」

近藤は再び口を噤(つぐ)むと周囲いるヴァネッサや京、一哉や歳武などを見渡した。
いずれも困ったように首を傾げたり横に振ったりしている。

ここまで全くぶれる事無く同じ持論を展開しているのだ。

嘘ではない。

それらは全て本当の事か・・あるいはこの目の前の女性が本当に頭のイカレた馬鹿者であるかのどちらかであろう。
近藤は続ける。

「・・・それを信ずるに足る証拠、それをお見せ頂きたいのだが・・・」

「承知いたしましたわ」

あっけらかんと、至って平然と答え、立ち上がるイリーナ。
悠奈、レイアも日向、イーファもそれぞれイリーナに縋って「ね・・ねえねえ!イリーナさま!一体何する気!?」 「魔法のコトバレちゃうよぉ!」   「ヒミツなんでしょ!?ねえったらぁ!」 「オレ達のこともナイショにしなきゃならないんじゃなかったのかよ!?」と口々に叫ぶ。
その様子に事情を知らない大人達はさらに怪訝な顔になり、事情を知る子ども達は皆一様に目をテンにしてイリーナの姿を追う。

ついに、草薙京が「オイ、ネーチャン、アンタいい加減に・・・」とイリーナの肩に手を伸ばしたその時だった。





「この者たちに、信ずる力を。不可視の物を可視にて信じる心を与えたもう・・・フィーリング・フォース!」




突然、イリーナがそう唱えて胸の前で手を組み、クルリと両腕を開いたまま体を回転させた。
するとその瞬間暖かい光が彼女から走り、一瞬、部屋を照らした。


『!!!!』


その眩い輝きに部屋にいた草薙京やヴァネッサをはじめとする大人達は顔を背けた。
一拍置いて後、ラモンを皮切りに次々に口を開く。



「な・・・なんだったんだ?今の・・・」

「あ・・あのねーちゃんから突然光が・・・確かに走って・・・」

「お・・俺もハッキリ見ました」

「このカンジ・・・気じゃねえ。アテナちゃんやケンスウみてえな超能力でも・・・」

「じゃあ・・一体今のは?」

「何か変化でもあったのか?」

「部屋を見ても特に変化は・・・子ども達のほうも変わりなく・・・・・うん?」



と、近藤が部屋を見渡して、ふと、子ども達がいる方へと視線を向けた時。
一同の視線がソコに注がれた時。


時間が静止した。











「きいぃぃやああぁあぁあぁああーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」



途端に部屋全体に響き渡ったヴァネッサの絶叫。

子ども達が耳を塞いでビクゥッ!と身を縮こまらせる。
みんなヴァネッサ先生のその声にビックリしたのだが、当のヴァネッサは口をパクパクとさせて顔を引きつらせ、恐怖の面持ちで悠奈たちの方を・・・正確には悠奈たちの頭上を指さししていた。
ガタガタと震え、ペタンと床に尻もちをついている。完全に腰が抜けていた。



「っっ・・・っせえな!何なんだよ一体!」

「どないしてんやセンセー。いきなりそない大声だして」



「お・・お・・・お・・・おば・・おばっ・・け・・オバケ・・・オバケぇぇぇえ〜〜〜・・・」

「?・・お・・オバケ?」


いきなり何を言い出すんだこの人は?
そう思いながらも悠奈は辺りをキョロキョロと見渡した。悠奈だけではなく、日向や七海、窈狼など他の子ども達もである。


「幽霊なんてドコにもおれへんやないの先生」

「チッ、ボケがよ。大方酒の飲みすぎで幻覚でも見たんじゃねえのかよ?それともトシか?立ちくらみか?いよいよ来たかジャクネンセーコーネンキショーガイ」

と、七海に続いて放たれた麗の得意の毒舌にもヴァネッサはブンブンと首を振るとそのまま悠奈の傍らを指さして震えて言った。


「ゆっ・・ユウナちゃんのとなり!!ああっっ!!ヒナちゃんの隣にも!!っっ・・ひいいいぃいいーーーーーっっっ・・・みんなの横にいっぱいオバケエえぇぇ〜〜〜っっ」


「アタシたちの横に・・・オバケ??ねえセンセーったら、どーしちゃったのよ、イミわかんないし・・ちゃんと説明して・・・」

「あ・・あのさあ、ユウナ。もしかして・・・センセーの言っとるオバケってさあ・・・」

「は?」

七海がそう言いながら悠奈の肩をトントンと叩き、振り向いた彼女に向かって指で虚空を指し示した。
七海の指のその先には・・・




「?・・?・・え?え?え!?・・レイア!?」

「ほえ?なんかいった?ユウナちゃん?」




「ぎゃああぁあ〜〜〜〜っっしゃべったああぁーーーっっしゃべっとぉあああぁああーーーっっっ!!」

「おっ・・・落ち着け!落ち着けヴァネッサさんよ!・・な、何なんだ!?その・・・さっきから宙に浮いてる・・なんだ?・・・えぇ〜と・・ざしきわらし・・じゃなくて・・・よくわかんねえケドそのちっちぇえヤツラは!?ひょっとしてヒナたちも見えてんのか?」


京の言葉に、声を上げて仰天するのは子ども達の番であった。




『えええぇええーーーーーーっっっ??』



「まっ・・まさか!・・え?ってコトは!?」

「きっ・・京にーちゃんたち!見えるの?レイアたちが!!?」

「コレでお話しやすくなりましたねv」

「ど・・どういうことかね?説明してくれ!!」



お互いにそれぞれ心理の違いはあれど、一同皆騒然、目を見開いて混乱してる中、場違いな能天気声を発するイリーナに、土方歳武がやや慌てて突っ込んだ。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「オイコラリーダーさんよォ。ホントにセイバーチルドレンズのメンバーはココに来るんだろーな?」

グローリーグラウンド王都、レインヴァードの北西に位置する今は誰も住んでいない大きな城の一室。

ダークチルドレンズのメンバーの1人、チアキはさも傲慢に自身のゲーム機をいじりながら古風な装飾が施された大きな広間。
そこの中央の大きなテーブルについて紅茶を啜っていたブラウンブロンドのロングヘアが美しい少女、サキに声をかけた。
その声に周りにいたダークチルドレンズの他の面々も一斉にリーダーの方へ注目する。

沈黙の中、それぞれがそれぞれ、まるでそのコトを発言するのを憚っているような素振りではあったが、口火をチアキが切ったことでその話題にようやく触れることができる。

ジュナとアカネは互いに今学校でも人気があるモンスター育成ゲームで通信遊びをしており、ミリアはマンガ本を手に、ミウはサキと同じくテーブルについて使用人のコズンが淹れた紅茶とケーキをつまんでいる。
ナギサはアミやユアと一緒にカードゲームをしており、新しくメンバー入りを果たしたナオとリコはテレビゲームをだらだらとしており、それをリッキが見ている。


彼らが全員チアキの言葉によってサキに注目しだした。



「何?アンタ、エミリーさまの言葉が信じられないの?」

「ケッ知るか!エミリーがどれほどのモンか知らねえケドな、オレはイマイチ信用できねえんだよ。大体何なんだこのボロッちい建物はよ?辛気臭えったらねえぜ」

毒づくチアキにフンと顔を背けると紅茶を飲み干してサキは立ち上がり、その場にいるメンバー全員をぐるりと睨み付けてから言った。

「アンタたち何?エミリーさまの言葉を疑うつもりなの?どうなの!?」


「べ・・・別に・・・」

「そんなコト・・言ってないケド・・・」

ジュナとナギサが歯切れ悪そうに呟くと追い打ちをかけるかのごとくサキが言葉を続ける。

「エミリーさまを疑うならアタシは止めない、帰りたければ帰ればいい、それぞれの居場所へ。でも、アンタたちに居場所なんてあるの?みんな自分の家や親がガマンならなくって、腐ったアンタたちの世界を変えてやるってエミリーさまのところに来たんじゃないの?それを今さら疑う気?」

サキの言葉にその場にいるダークチルドレンズの子ども達は誰一人として反論できなかった。
依然、射るような眼差しでメンバーを睨み付けるサキ。
場を支配する重い沈黙。しかし、そこで新メンバーの1人、ナオが突然テレビゲームのコントローラーをやや乱暴に放り捨てて立ち上がると、サキの方を見て言った。


「あたしは・・・サキの意見に従う」

「ナオ・・・」

「あたしたちは、エミリーさまにスカウトされた時にみんな誓ったって聞いた。このグローリーグラウンドを制圧して、無限の禁断魔力を手に入れて、あたしたちの腐った世界と大人どもに目にモノ見せてやるって。その目的のためにはどんなことだってするって・・・少なくとも、あたしはそうする!やる気のないヤツはココで消えればいい」

「・・・フン、新入りのクセに中々生意気なコト言ってくれるじゃないの」

それに反応したのは、桃色の髪の少女、ジュナだ。
彼女も持っていたゲーム機の電源を切り、ナオの前にズイと進み出ると声高に宣言した。

「アタシだってもちろんエミリーさまを信じてる、アンタに言われる筋合いなんてないわ。ココにいる全員、都合のイイことばかり押し付ける親にウンザリしてんのよ。だからいつかソイツらを見返してアタシらの力を思い知らせてやるためにココにいる!そうでしょみんな!」

その言葉を聞くと、全員が立ち上がってそれぞれ決意に満ちた表情でうなづいた。
正面きってサキに反論していたチアキですらも、言われてみれば・・・と思ったようで不精不精ではあったが、頷いていた。
その時だった。


 ファーン・・・   ファーン・・・ 


『!!!!』


部屋のそのテーブルの中央に設置してある水晶玉が突然赤紫色に妖しく発光し、独特のサイレン音を鳴り響かせたのだった。
一同の意識が一斉にそちらに注がれる。



「ウィザーズ・コレスポンドが・・!?」

「エミリーさま!」


ジュナとサキがそう叫んだ直後、水晶から光が洩れ、広間の中央にエミリーの姿が映し出された。



「ごきげんよう。わたしの可愛い子ども達」

「エミリーさま!」

映像となったエミリーは微笑みかけながら部屋にいたダークチルドレンズの面々に語り掛ける。
サキは何事か自分自身に言い聞かせるとエミリーに話しかけた。

「エミリーさま!その・・・ココ、グローリーグラウンドにセイバーチルドレンズは・・・やってくるんでしょうか?」

「あら、心配なのね?可哀想に」

「い・・いえ、べつに・・エミリーさまを疑ってるわけじゃなくって・・そのっ・・」

「わかってるわ。いつもゴメンナサイねサキ。アナタにばかり苦労をかけてしまって・・・」

「そ・・そんな!いいんですっアタシは・・べつに・・・」

必死に疑念を抱いていないということを訴えるサキに、エミリーは実態はなかったが、その手で優しく彼女の髪を撫でた。

「大丈夫よ。きっと今にもセイバーチルドレンズの子達はココへ来る。いい?ココがグローリーグラウンドでのあなた達のアジトとなるわ。ライドランドからの物資もこれから次々に運び込まれるし、貴方たちのお世話をしてくれる使用人も用意するわ。ライドランドとグローリーグラウンド。2つの世界を行き来して、任務にあたって頂戴」

エミリーのその言葉に確信を深めたサキは、顔を輝かせると「ハイ!」と元気よく返事をしてあらためて他のメンバーに叱咤激励を飛ばした。
その様子にエミリーは満足げに微笑む。

「ナオ、リコ、リッキ。アナタたちもみんなと力を合わせてしっかりね」

「・・ハイ」
「ウザイんだケドなぁ〜・・・ま、りょーかい」
「ウス」


そう言い残して、エミリーは消えてしまった。
辺りを再び沈黙が包む。

「・・・エミリーさま、ちゃんと来るって言ってたわね」
「アタシたちはそれを信頼するだけよ・・・コズン!」


「ハ。」

「エミリーさまがくれた新しいあのアイテム、用意してちょうだい。これから作戦を立てるわ」

「かしこまりました」

ニヤリと笑ったサキの顔には、新たな決意が満ち溢れていた。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「・・・グローリーグラウンド・・」
「異世界だあ・・??」
「魔法がある世界・・・」
「ゲームやマンガじゃねえんだよ・・な?」
「ゲンジツ・・・なんスか?ホントに?」
「ホントにあるのか?そんな世界が!?」
「とても信じられん」
「えっ・・・と、夢・・・じゃ、ないんですよ・・ね?」
「ああ、極めて信じ難い・・・が」
「・・・その、俺達にも・・・」


「ほよ?」


「・・・・見えてるから・・・な」




所変わって東一哉と麗、光が宿泊予定のホテルスイートルーム。
広々とした豪奢な客室内のダイニングで、セイバーチルドレンズとイリーナ、フェアリーたち、そしてJTスポーツクラブの面々をはじめとする保護者の大人連中が神妙な面持ちで話をしていた。


あの騒動の後、オバケオバケとぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるヴァネッサを何とか落ち着かせ、イリーナが彼らに事情を約30分程かけて説明。

グローリーグラウンドの存在。
王都レインヴァードの存在。
どのとうな世界、国家であるのか?こちらの世界と如何にして行き来しているのか?
メイガス・エミリーがグローリーグラウンドで何をしたのか?その結果何が起こったのか?
セイバーチルドレンズとは何なのか?ダークチルドレンズとは一体?

普段、悠奈も少々慣れてきた少々ホワホワして天然っぽいな、と思わせるような素振りは微塵もなく、流石若くとも一国の女王様だと納得できるような実に解りやすい理路整然とした説明だった。
今一つ自分たちの立場や目的があいまいなメンバーもいたようで、その子たちにも目的を再確認させるいい機会となった。

そして、一通りの説明が終わって、今に至る。
保護者の大人達は皆一様に狐につままれた表情をしていた。
それはそうだろう。こんな如何にもファンタジー要素沢山の非現実的な話を受け入れろという方が土台無理な話である。
いかにイリーナの説明が筋の通った明快なものであったとは言え、それですんなり信じることなどとてもできなかっただろう。



目の前でフワフワと浮遊しているこの小さな小人たちさえ見えなければ・・・




ヴァネッサ、一哉、勇蔵、歳武といった年長者グループがそれぞれ必死で頭の中を整理する。
そして、しばらく考え込んでから一番の知恵者であり年長である近藤勇蔵が話を切り出した。



「つまりその・・・イリーナさん、貴女が生まれ育ったそのグローリーグラウンドという魔法を主体にしたこの地球とは別の世界。そこは今、エミリーという私利私欲に目が眩んだ悪い魔女によって王位簒奪の危機に直面しており、そのエミリーの攻撃から国を守るために先代の女王、貴女のお母様が眠りについてしまった・・と」

「ハイ、その通りです」

「そのエミリーは、グローリーグラウンドは勿論の事、この我々が生きる世界・・・そちらの呼称でライドランド・・だったか?それをも無限の禁断魔力、王家の封印呪文を手に入れることによってこちら側も支配しようと企んでいる・・と?」

「ええ、その通りですわ!」

「フムフム・・・1度は体に一生消えない呪印を刻みつつもその圧倒的な魔力を手に入れ、王位簒奪に成功しかけた。正し、貴女のお母上が激闘の末、その魔力の源を12個のエートピース・・・だったか?というコアに封じ込め、この世界に散りばめた。復活するにはそのエートピースすべてを手に入れる必要がある」

「ハイ!ハイ!そうです!」

「しかして、その役割を担っておるのが、エミリーによって選ばれた10人を超える魔法を扱うことのできる子ども達、ダークチルドレンズ。その中にはこちら側の世界の子ども達も入っておる、と。彼らの目的はこちらの世界にて召喚させたジュエルモンスターと呼ばれる怪獣のようなものを暴れさせ、人々からその禁断魔力の元となるマイナスエネルギーという一種の精神心情のようなモノを抜き取り、エミリーの封印されている魔力を開放するための道しるべや動力原になっている・・と」

「そうです!そうなのです!」

「そればかりか、先日そのダークチルドレンズはグローリーグラウンドの魔力を枯渇させてしまう恐れのあるフォースクリスタル・・・でよかったな?トシ?」

「ああ、俺もそう聞いた。間違いはない」

「そうか。そのフォースクリスタルをグローリーグラウンドのある6カ所にばら撒いてしまった。それを開放するためにもフォースクリスタル・デュエルという闘いにも勝たなくてはならん」

「ハイ、間違いございません!」

「そして、それが出来て、エミリーの野望を打ち砕けるのは、古くから伝説にあるセイバーチルドレンズだけで、そのメンバーが、フェアリー、妖精くんたちによって選ばれた・・・悠奈ちゃんたちだ・・と。大体こんな感じの話でよいかな?」

「素晴らしいですわ!もうそこまで理解していただけるなんて!なんて賢いお方なんでしょう!近藤様!そこまでお分かり頂いてありがとうございます!」




「オイ、陽生・・・オレ、何の話かホンット―にさっぱりチンプンカンプンだったってえのによ・・・近藤先生・・・スゲーぞオイ・・・」

「え・・ええ。見事に話、要点ついちゃってますね・・・」

「ただの剣道オヤジじゃなかったのか。オレもそんなに細かい事までわかんなかったぜ」

「そういや、聞くところによるとあの人、試衛内の大学教授の免許ももってるって話だぜ。あんな厳つい顔してよオ・・・人は見かけによらねえモンだな」

「ええ、そう言えば草薙さんに聞いた話だと、相当頭もイイらしいっスよ」


たった今聞いたばかりの、しかもかなり非現実的でぶっ飛び内容のワケわからん話を、ここまで要約した近藤勇蔵という男の理解力に、京、陽生、ラモン、ダンそして真吾は舌を巻いていた。
現実味の無い何とも納得しがたい事実。フェアリーを実際に見ても納得できない部分がある。
普通の人間ならそれが正常な反応だろう。しかし、ヴァネッサにしてみればそれよりももっと承服しかねる事実があった。





「ですから、彼等、セイバーチルドレンズのみなさんにはなんとしてもエミリーの野望を打ち砕いて、グローリーグラウンドを取り戻して欲しく・・そのために・・・」




「どうして、この子たちなんですか?」

ヴァネッサがふと呟いた。
ヴァネッサの言葉にみんなが振り返る。
ヴァネッサの表情が今までにないくらい暗くなっていたことにいち早く気づいたのは、意外というべきか?それとも当然というべきなのか?

東麗だった。


「・・・ヴァネッサ・・センセー・・」


沈痛そうな面持ちで唇を噛んでいる。
こんな辛そうな顔は、ヴァネッサと付き合って丸1年半たとうかという麗も、光も、見たことがなかった。先生でもこんな顔をするのか?
自分達を叱るために厳しい怒った顔を見せるコトは何度もあったが、それでも麗も光も、辛そうに顔をしかめている弱弱しい表情など初めて見たのだ。
そのヴァネッサがさらに続ける。

「アナタの仰ることはわかりました。そのコトが嘘でないこともわかります。国家を乗っ取られる危機、心中察するに余りあります。でも、そのセイバーチルドレンズとかいう役割がこの子達である理由がわかりません。なにもこの子達じゃなくてもいいはずです」

「ヴァネッサ先生・・・」

「それは・・・でも、ユウナちゃんやレイくんたちが、セイバーチルドレンズとして相応しい高い魔力を持っていたから・・・これは彼らにしかできない立派な使命なのです」

「使命?使命ってなんですか?彼らは子どもですよ!?一方的に使命なんて押し付けないでください!そんな危険なこと・・・ケガをしたり・・命の保証だってわからないでしょう!?」

悠奈は突然のヴァネッサの厳しい声にビックリした。
麗や光たちを叱った時の声とは全く質の違う、緊迫感に満ちた荒々しい声。
驚いたのは悠奈だけではない。
日向も、七海も、窈狼も、晃、咲良、麗、光、那深、麗奈。
子ども達みんながヴァネッサ先生の様子に言葉を失った。
かつてここまで自分達の前で声を荒げることなどなかった。こんな先生は初めて見る。

ヴァネッサの気持ちを察したのであろうか?イリーナが言葉に詰まり、困ったような表情を見せた。そんな状況に、悠奈は少し考え込んでから、意を決したように軽く頷いた。
まるで何かを自分に言い聞かせるように。
悠奈を見てとったレイアが、怪訝そうに「ユウナちゃん?」と声をかけようとした時、すでに悠奈は言葉を発していた。




「ヴァネッサ先生・・・」

「?ユウナ・・ちゃん?」

「先生の気持ちさ・・嬉しいんだケド・・・アタシ、もう決めたんだ」

「・・え?」

「イリーナさまと・・・レイアを助けるって」

悠奈の意外な言葉に場の大人達だけでなく、他のセイバーチルドレンズのメンバーも、目を見開いて悠奈を注視した。
さらに悠奈は短く息をつくと続けた。


「アタシね。最初はレイアにいきなりセイバーチルドレンになってグローリーグラウンドのために戦ってくれって言われた時さ・・・正直何が何だかわからなかったの。あり得ないと思った。だってそうでしょ?ある日突然へんな妖精が見えるようになって、魔法が使えるようになっちゃって・・・いきなりコワイモンスターと戦えなんて言われて・・・自分にとって全然得なコトなんか何もないのに、挙句アタシだけじゃなくってヒナタくんとかレイまで巻き込んでさ・・・。なんてメイワクなんだろうって思った」

「・・・・」

「でもね。わかっちゃったの。わかりたくもなかったケドさ、思っちゃったんだ。自分が同じ立場だったらどうしてただろうって・・・パパやママや大切な人たちがたくさんいる自分たちの世界がさ、ある日突然悪い奴に奪われてみんなが苦しめられちゃったら・・・どうしたんだろう?自分もレイアたちみたいに誰かに助けてって言ったかもしれない・・・その時、自分はカンケー無いからイヤだって言われたら・・・どんなに悲しいだろう・・って・・・」

「ユウナ・・ちゃん」

「うちのママさ。言ってたんだ。もし困ってる人がいたら、助けてあげなさいって・・・そうしたら、自分も嬉しいよ・・って。イリーナさまもさ、自分のお母さんがエミリーってヤツのせいで病気にかかってツライんだ。レイアやイーファたちだって・・ただ自分たちの国を、大切な人たちを守りたいって・・・ソレって、普通のコトじゃん。先生だって、アタシとか、レイとかが困ってたら助けてくれるでしょ?」

「そ・・・それは・・・だって、わたしはアナタたちの保護者としての責任が・・っ」

「おんなじだよ?誰かを助けたいって気持ちは、ホゴシャとかそんなのカンケーなく同じ。アタシ決めたの。そりゃ確かにコワイけど、アタシの力で少しでも誰かが幸せになれるなら・・・やってみてもいいかな?って・・・」



「ユウナちゃぁ〜〜〜〜んっっっ」

「わっ・・なっ・・なによ!レイア!ちょっとっ・・顔に引っ付かないでよっっ」

「ありがとう!知らなかった!ユウナちゃんがそんな風に思ってくれてたなんて・・・レイアたちのコト、そこまで考えてくれてたなんてっっ」

「ちょっ・・べつに考えてたワケじゃ・・・ただ・・仕方なく・・・」

「えらいぞ!ユウナ!よく言った!」

「ひっ・・・ヒナタくん!?」

「オレのおとーさんもお前のママと同じことオレに言ってた!そうだよ!困ってる人がいたら助けてあげなきゃ!だって・・・レイアもイーファも!ウェンディもユエもヴォルツもバンもリフィネもクレアもルーナもケンも!みんなオレ達の仲間なんだから!なあみんな!」

悠奈の言葉に嬉々として彼女の元に駆け寄った日向。
その彼の力強い言葉に、周りの子ども達もそうだそうだ!と同調する。
途端にフェアリーと子ども達が互い互いに抱き合い、キャーキャーと手と手を取り合ってはしゃいだ。
その姿に呆然とするヴァネッサ。
そんな彼女に麗と光が言った。


「・・・だとよ先生。ま、メンドクセーのは事実なんだけどよ」

「おう!成り行きっちゅうか・・・オレらももう腹ぁ決めてんねん!せやからセンセーには悪いけど、カンニンなv」

「レイちゃん・・・ヒカルちゃん・・・」




「ヴァネッサ先生、どうやらお前さんの負けのようだな」

「残念ながら・・・な」

「こっ・・近藤先生!?一哉さん!?」

ヴァネッサはそんな後ろからの声に思わず振り返る。すると苦笑しながら勇蔵と一哉、陽生、そして京が自分の方に近づいてきた。

「先生が子ども達の身を一番に案じてくれていること・・・麗の父親としても嬉しい限りです。ありがとうございます。でも、コイツぁムリや」

「え?」

「ヒナのヤツぁああ見えて中々にガンコでな。1度決めちまったらテコでも動かねえぜ。俺も腹ぁ括ったよ」

「ですね。アキラとサラのヤツもなんかやる気みたいだし・・・オレも気合入れねえとならねえかな?」

「うむ。どうやら・・・子どもの成長というのは大人が考えている以上に早いようだ。あれほど決意に満ちた目をまだ年端もいかぬあんな子ども達がしおるとは・・・どうかな?ココは、アンタも覚悟を決めたらどうかね?我々もこの事実を知った以上は、出来る範囲で最大限にサポートすると約束しよう。どうかね?子ども達の好きにさせてやっては?」

そう口々に言われてヴァネッサは子ども達を見つめた。
確かに、いい顔をしている。
自分でやりたいこと、目的を見つけた子ども特有の生き生きとした表情だ。

この子達は自分たちで、人のために何かをしようと本気で思っている。いや、願っている。
確かに心配事は尽きない。
でも、彼らが精一杯自分たちで考え、決意したことならば、一教育者としてどうするのが最善か?
ヴァネッサは一拍考えて、そして、イリーナの方に向き直るとこう言った。




「イリーナさん。グローリーグラウンドやその魔法の力のコト・・・・もっと詳しく教えてください」

「え?」

「アナタがわたしを見て決めた。とおっしゃったその事、お受け致します。セイバーチルドレンズの・・保護者として、わたしも責任を持って協力します」

「!!・・・ヴァネッサ様!」

「ただし条件があります!これから先、このコ達がどんな任務につくのか?それを詳細に知らせてください。そして、わたしが彼らに荷が重いと判断すれば・・・その時は保護者として彼らの任務を辞退させていただきます。それでもよろしいですか?」

「・・・わかりました。ユウナちゃんたちのコトは我らレインヴァードの国家を上げて全力でサポートさせていただきます!」

「・・・このコトは、悠奈ちゃんたちのご両親には黙っておきますね。この場に居合わせた者たちの秘密と言う事で」

「ハイ。もちろんです」

「聞いたか?京くん、一哉くん、トシ。このコトは一般の人間には他言無用だ」

「おう」

「はい」

「承知した」


「イリーナさん!オレらも知ったからには協力させてもらうぜ!」
「ああ!サイキョー流の力が必要な時は遠慮なく言いな!」


ラモンやダンも力強くそう言って笑いかける。
ヴァネッサはイリーナの手を握ると笑顔で

「じゃあ、契約成立!これからヨロシクお願いしますねv」

と言った。
うなづくイリーナの瞳は、微かに濡れていた。


「うぅ〜〜んvvオレも協力しちゃうぜぇ〜ベイベェ〜wイ・リー・ナ・ちゃあぁ〜〜んv」

「まあ!嬉しい!紅丸さま。紅丸さまもグローリーグラウンドを救うために力を貸してくださるのですねv」

「俺は、この世のすべての美しい女性のためのナイトさ!キミがお望みならなんだってやるぜぇ〜ハニー!・・・で、ぐろーりー・・なんとかって・・ナニ?vv」


「・・・アレには期待するな陽生」
「そう、今の紅丸さんアテにしようなんてそんな無謀なコトねえぞ」
「え、ええ、わかってます・・・さっきからイリーナさんだけに夢中で話ロクすっぽ聞いてねえっスからね」


と、そんなイリーナ自身にメロメロでただ1人話を聞いていない二階堂紅丸を見て、京と真吾、陽生がそんなコトを言っていた。





「今日はもう遅い。キミたちのお宅には私から連絡しておくから、今日はこのホテルに泊まりなさい。今日のところは解散にして、また明日もう少し話を聞くことにしよう」

「えぇ〜〜なんでぇ〜こんどーせんせえぇ〜、明日ガッコー休みだしいーじゃんvなーレナ!」
「うん!レナまだ全然眠くなぁ〜い。まだ10時半だよぉ」

「もう10時半だ。子どもはもう寝る時間!大きな使命を負っているのだろう?健康に支障が出てはそれも果たせんぞ?睡眠こそは健康な体の秘訣だ。さあ、もう寝なさい」


近藤の言葉にレナやサラをはじめとするメンバー達はブーブー文句を言っていたが、やはり今日グローリーグラウンドに行ってきた疲れも出ており、さらに半分誤解ではあったが、ヴァネッサ先生にお尻を叩かれて号泣したことの泣き疲れも手伝って、それぞれ用意された部屋で横になると、すぐに寝息を立ててしまった。




その夜、日向と窈狼も同室で同じホテルに泊まった。
悠奈も、七海と一緒の部屋で休むことに。

「なあ、ユウナ起きとる?」
「・・・うん」

「なんか、京にーちゃんまで巻き込んでエライことになってもうたな」
「そうだね・・なんか信じらんない・・・時々思うよ。コレ、全部夢なんじゃないかって」

「・・・せやな。でも、ウチらのママには内緒やさかい。やっぱりコレって現実なんよなぁ・・・クスっ」
「?ちょっとナニ笑ってんの?」

「アホ、アンタのせいやんか。困ってる人を助けたい・・なんて、アンタそんなキャラちゃうかってやろ?いつからそんなんなってん?似合わんわぁ〜クール&スパイシーなユウナちゃんが」
「・・・うるさいなぁ、自分でもわかんないわよ」

「・・・明日から・・・どないなんねやろな?」
「・・・わかんないって」

「ダイジョーブだよ!ユウナちゃん!」
「そうそう、ナナちゃんとユウナちゃんは、わたしたちフェアリーがしっかり支えるからね」

「レイア・・・」
「ウェンディ・・」

2人の頭の上に、レイアとウェンディが飛んできてそんなコトを言う。
小さな2人に支えると言われたのがなんとも可笑しくて思わず笑ってしまった。

「あ!でも!ドサクサにまぎれてヒナと馴れ馴れしくすんのはナシやからな!聞いとんのか!?」
「・・・オヤスミ」



そう言って絡んでくる七海に一言告げると、悠奈も目を閉じた。

彼女も疲れていたのか、眠りに落ちるのに、さほど時間はかからなかった。





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「それでは、早速グローリーグラウンドへと向かってもらおうと思います」

「・・・・ほぉ・・・・・・・・ってイキナリだなオイ!」

ホテルのレストランでの朝食の席、イリーナの発言に草薙京が声を上げた。
悠奈やイリーナ達がついているテーブルは一般客用とは隔絶されたスペースにあるVIP専用の来賓席で、通常のテーブルの4倍ほどの広さがある。
大きなテーブルの上には様々なパンやスクランブルエッグ、ベーコン、サラダにフルーツの盛り合わせ、新鮮なミルク、オレンジジュース、ヨーグルトなどの定番をはじめとして豪華なメニューがズラリと並んでいる。
おいしい朝ごはんに舌鼓をうっていた子ども達も、イリーナの言葉を聞いて京と同じように驚いた様子でイリーナの方を凝視した。当然大人連中も一緒である。

フェアリーたちまでもが「またいきなり何を言い出すんだこの人は?と言ったような顔つきである」

「これはまた随分と急な話だな。ちゃんと訳を聞かせて頂いてもよいかな?」

落ち着き払った様子で手にしていた椀をテーブルに置いて問いかけた勇蔵。
彼はパンではなく白粥と梅干、沢庵といった質素な食事である。
湯呑みで茶を啜る勇蔵にイリーナはコクリと頷いて言った。


「悠奈ちゃんたちセイバーチルドレンズのメンバーには、アドベンチャラーギルドに登録してもらい、ジョブを決めてもらいます」

「あどべんちゃ・・・じょぶ?・・な・・ナニソレ?」

「簡単に言えば、みんなの特技に合ったジョブ、つまりは職業、役割を決めてもらうのよ」

「職業・・役割・・・?・・・ウチら子どもやのに仕事せなアカンの?」

「そうじゃないのよナナミちゃん。これまで何度かジュエルモンスターや召喚モンスターと戦ってきたと思うけど、みんなそれぞれ得意な魔法や戦い方が違ったでしょ?」

「確かに・・・言われてみれば・・・」

悠奈はイリーナにそう言われてこれまでの戦いを振り返ってみた。
確かに皆それぞれ個人個人で使える魔法や得意とする戦闘スタイルが違っている。
自分や、那深は離れた所から飛び道具や攻撃魔法で味方を助けている気がするし、かたや日向、窈狼、麗、光、晃などは前線で近接攻撃を用いて正面から魔物と闘っていた。
七海や沙良、麗奈などは独特の治癒や身体能力向上、能力変化など魔法を用いて味方を支援している。

それは他のメンバーも思ったみたいで、皆食事の手を止めてそれぞれお互いの顔を見ている。それを見てイリーナはさらに続けた。

「アドベンチャラーギルドは冒険者支援施設。グローリーグラウンドで様々な冒険をしている冒険者たちをサポートしている施設です。昨夜わたしも申した通り、ユウナちゃんたちを全力でサポートするためにはまずアナタ達にグローリーグラウンドで公認されている冒険者として登録していただく事が第一ではないかと考えました」

「ち、ちょっと待ってください。その・・・冒険者・・ですか?それとして登録すると、なんでサポートすることになるんですか?」

「登録して、自分のジョブがハッキリすれば、多くのスキルを身につけるコトができます。そうすれば、ダークチルドレンズとの戦いにおいても必ず役に立つはずです。ダークチルドレンズの子ども達は、すでに自分のジョブを把握しているとの報告も受けていますので」

「・・・よくわからねえケド、つまりは自分の戦闘スタイルを理解してより応用力を高めて発展させて実力を向上させる・・そう言うコトか?」

「なるほどな!空手やってるなら空手家としての鍛錬を、ボクサーならボクシングの練習して実力を底上げすることと同じか!」

「ええ、そのようなものです」


なんとなくイリーナの言わんとしているコトがわかった陽生とダンにイリーナ自身も肯定的な返事を述べる。すると今度は勇蔵からイリーナにその冒険者支援施設というモノに対して質問が来た。

「その、冒険者支援施設・・とはどんな物なんだ?そもそも冒険者という輩自体が漠然としていてイマイチ理解できかねるのだが・・・遺跡や古代建造物等を探検する者たちか?」

「ハイ、グローリーグラウンドには多くの冒険者、アドベンチャラーたちがいます。グローリーグラウンド内には未だ発見されていない未知の遺跡や文明が数多く点在してます。文化発展のためにも、我がレインヴァードでもそのような古代文明を次々解明したいのですが、そのような遺跡には多くの場合、危険なトラップや人を襲う凶暴なモンスターが生息していることが少なくありません。そこで我がグランディス王家の2代目当主、ユウイチ・グランディスは冒険者支援施設、アドベンチャラーギルドを設立し、探検家のエキスパートを育成しそのような危険な遺跡の探検や調査を自由に行ってもらえるようにし、もし歴史的発見があればそれを報告してもらい、そして代わりに報酬を支払うというシステムを作り出したのです。ちょうど私のひいひいお爺さまになりますわ」

「ほォ・・そうなのか。割と統制機構とれてんだな」

「うむ。少し興味がわいてきたな、その国に」

「そんなコトはどうでもいいんです!」

イリーナの話に幾分感心したように呟いた一哉と土方歳武にヴァネッサは腹立たしそうに机をバン!と叩いて立ち上がった。
その様子に子ども達もビックリする。なんか昨日からヴァネッサ先生がコワイ・・・
悠奈や日向、七海や窈狼など、割かしまだヴァネッサ先生と付き合いの薄い子ども達はことさらそう思った。しかしそんな子ども達の気持ちなど察することもなく、ヴァネッサはイラついたように一哉と歳武に言葉を吐きながら再度イリーナに問い尋ねた。


「一哉さんも!土方社長も!もうちょっと緊張感持って下さい!子ども達のコトを離してるんですよ?イリーナさん。その・・えっと、アドベン・・えーと・・」

「アドベンチャラーギルドです」

「そうそれ!その施設の治安はどうなんですか?ガラの悪い連中は?子ども達に悪影響はないの?そのギルドに登録すればキケンは少なくなるんですか?保険は?ケガしたときとかの保証は?」

早口でまくし立てるヴァネッサ、それを見てイリーナはクスリと思わず笑った。

「なっ・・なにかおかしいこと言ってます!?わたし!?」

「いいえ、ゴメンなさい。ヴァネッサ先生、本当に悠奈ちゃん達のコトよく考えてらっしゃるんですね」

「そ・・それは・・当たり前でしょう?この子達の親御さんからわたしは責任を持ってお預かりしてるんですから!」

何を当たり前のことを・・と口では言いつつも、ヴァネッサも正面向かってそう言われると照れ臭かったらしく、顔を赤らめてコーヒーを啜った。
イリーナは短く深呼吸すると、意を決したようにヴァネッサ達に言った。



「わかりました。是非、ヴァネッサ先生達もいらしてください。グローリーグラウンドに。あなた方にも是非見ていただきたく思います。グローリーグラウンドという世界がどのようなところかを」

「へ!?・・い・・イヤ、別に行きたいとかそう言うコトじゃなくって・・・ただキケンはどうなのか、保証はどうなのか?・・とかを聞きたいだけで・・・」

「いーじゃねーか、ヴァネッサさんよ。よく言うじゃねえかよ百聞は一見にしかずってよ。見て見りゃどんなものかわかるさ。てなワケで俺も行くぜ」

「え?京にーちゃんも?」

「おう!京にーちゃんだってヒナの保護者だからな」


「そうだな。ここまでかかわった以上、中途半端なコトは出来んだろう」

「ええ、俺達もその世界がどんなものなのか把握しておく必要がありますからね」

「うむ、会社の方へは連絡しておかなければならんな。急な用事が入った・・・と」

「ロードワークがあったんだが・・・ま、サイアクそのグローリーグラウンドってトコでできたらするか」

「オレも今日は何も予定無いしな、まあ付き合ってみるか」

「ヴァネッサ姐さんが行くなら俺も行くかなぁ?面白そうだしよ」

「異世界かぁ・・・サイキョー流の支部なんてつくったら流行るかなぁ?」

「イリーナちゃん行くのぉ!?イエイ!もちろん俺様も行くぜえw」



と、なんと京の言葉に反応してその場にいた大人連中が全員グローリーグラウンドに行くと言い出した。
これには悠奈たちもビックリだ。
本来グローリーグラウンドのコトは内密にしなければならなかったのではないか?


「ちっ・・ちょっとレイア!いいのコレって?京さんたちみんなついてきちゃうみたいよ?」

「えぇ〜!?・・あ・・あたしにもよくわかんないケド・・でも、イリーナさまが言うなら・・ねえ・・」

「大丈夫なのかなぁ?イーファ、どうなの?」

「イリーナさまが決めたんだったらオレ達は何も言うつもりはねえよ。なにか考えがあるんだろう」



「如何です?ヴァネッサ先生、先生も是非いらしていただけませんか?グローリーグラウンドに。わたしたちのためではなく、子ども達のために・・・」


そんなイリーナの言葉と、ヴァネッサを見つめる悠奈や京を含む多くの視線にヴァネッサはついに「ハア・・・」とタメ息をつくと、子ども達の方を一瞥してからイリーナに向き直った。

「わかりました。このコ達がどうしてもやると積極的になってるのでしたら、その気持ちを応援してあげるのがわたしの務めですから・・・一哉さん、悠奈ちゃんやヒナちゃん。それとナナちゃんとヤオくんの親御さんたちには・・・」

「それは俺にまかせろ。どうやらこのコトは我々以外には他言無用のようだからな。彼らのご両親にはこちらから適当な理由をつけて不審に思われないよう働きかけておくさ」

「・・・こちらの時間で今日の夕方の5時!それ以上は認められませんけどよろしいですか?」

「ええ、十分ですわ。それでは・・・」



イリーナはそう言うと、レイアに渡したこちらの世界とグローリーグラウンドを繋ぐゲートキーパータクトによく似た道具を取り出し、呪文を唱え始めた。


「我が魔力の命に従い、光の道よ、虹の架け橋よ。我とこの者たちを彼の地へいざなえ・・・!」



「うおっ!?」
「なっ・・なんだ!?」
「まぶしっ・・光!?」
「何の!?・・一体・・?・・っておお!?」
「なっ・・なんか出て来た!?草薙さん!なんか出てきましたよ虹色の・・なんか!」
「コレは・・・?トンネル?」
「虹色に光ってますよ・・・なんだコレ?」
「ひょっとして・・・」


「・・・コレ・・が?」

「そうです。コレがウィザーズ・ゲート。このライドランドとグローリーグラウンドを結ぶ道なのです。さあ・・・」

「いや・・・さあって言われても・・ねえ・・京くん」
「あ・・ああ、いきなり入れって・・・ダイジョブなのかコレ?」


「あ、京にーちゃんコワイんだ?」
「なっ?・・ヒナ、イヤ、コワイとかそんなんじゃなくて・・なあ・・」
「じゃあ、オレたち先に行くよ?ユウナ、いこっ!」
「えっ?あ、ああ、うん」
「え!?いこっ!・・ってヒナ!オイ!ちょっと待て!まちなさっ・・・あ・・・」

と、京とヴァネッサを尻目に日向はイリーナの開けた虹の扉にユウナを連れてさっさと飛び込んでしまった。
呆然とそれを見送る、ヴァネッサ、京。そして残りの大人達。


「・・・行・・・っちまった・・・どうする?」
「どうするって・・・そりゃあ・・・」


「ちょっとぉ!ビビッてんやったらウチら先に行くで京にーちゃん!」
「あっ!まてよナナミ!」

「ったく、情けねえツラしてんじゃねーよセンセー、コワイんならとっとと帰れよウッゼーな」
「オレら先行って待っとるで。心の準備できてからでえーから来ぃーやー」

「ちょっとォ!レイちゃんもヒカルちゃんもおいてかないでよぉ、ホラ!レナ行くよ」
「ハイハイハーイ!レイちゃんまぁってぇ〜v」

「アニキも来るなら来いよ。じゃな!」
「なぁにビビってんだよアニキってば!カッコ悪ぅ〜wおっさきぃー♪」

「おっ・・オイアキラ!サラぁーっ!」



あれよあれよという間に子ども達が次から次へと現れた虹色のゲートに次々と飛び込んでは消えて行った。
後に残された大人達、無言でそのゲートを見つめている。

『・・・・・・』

「どうしました?みなさん。大丈夫ですよ。このゲートは至って安全ですから」

「う・・う〜ん・・」
「まあ、子ども達が飛び込んでいったから大丈夫は大丈夫なんでしょうケド・・・」

どうも躊躇が見られる大人連中だったが、ココで南陽生が意志を固めたように前に進み出た。

「よォし!オレから行きます!」

「陽生?」
「陽くん!?」

「大丈夫っスよ。アイツらだって飛び込んだんだからココでビビったらアニキのメンツ立ちませんからね。よっし、じゃあ・・いち、にぃの・・さん!」

そう気合を入れて自分に声がけしながら、陽生もそのゲートに飛び込んだ。
それに呼応するように他の大人達も続いた。

「よぉっしゃ!次は俺が行くか!ビバ・メヒコっとぉ!」
「最強・爆走!うぅ〜楽勝ォ!」
「ちっ・・ちょっと待ってくださいってラモンさん!ダンさんもぉ〜っ!」

「そのまま・・入ればいいんですかね?じゃあ・・近藤先生、お先に・・よっと」
「う〜む・・まあ、何かあればどうにかしてみるか」
「・・・今日は午後の会議にも出られんな」

「オっレはイリーナちゃんの言葉ならぜぇ〜んぶ信じちゃうぜぇ〜♪とぉーう!」



そうそれぞれ思い思いの言葉を口にしながら子ども達と同じようにゲートの中に飛び込み、そして消えて行った。

後に残されたのは京とヴァネッサのみ。



「どうやら・・行くしかねえみてえだな?なあ先生よ」
「そうね。じゃ、行きましょうか」

「大丈夫だよ」

「「?」」

そう言ってヴァネッサと京の方に近づいてきたのはレイアをはじめとするフェアリーたちだった。

「最初は誰だって不安になるのは無理もないし、ヴァネッサ先生たちが怖くならないようにあたしたちがしっかりついていてあげるからね」

「ヒナタのにーちゃんなんだってな。よろしくな!大丈夫、この中ちょっとまぶしいくらいだからよ。オレたちについてきな!なあみんな」

残りのフェアリーたちもそんなイーファの言葉に元気よくうなづく。

「・・・こいつぁ、可愛いガイドさんがついたもんだな」
「ええ。よろしくね・・・レイアちゃんv」
「?アレ?ヴァネッサさんオバケキライなんじゃなかったっけ?」
「このコ達オバケじゃないからね。さっきはビックリしたけどもう大丈夫よ。イリーナさん。お待たせしました」
「ハイ♪」


そう言って残ったヴァネッサ達も、フェアリーたちと一緒にゲートの中へと消えた。






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「・・・・ま、マジか?コレ?」

「ココが?・・異世界?」

「ホントに?ホントのホントの異世界か?」

「まるで地球じゃないか」

「ああ・・・空気中の酸素、太陽、適度な湿度・・・まさに地球の環境そのものだ。」

「ココが本当に異世界なのだとしたら、大した発見だぞ」

「はあ・・たまげたな。想像以上だ全く・・・」

「・・・ここが魔法の別世界・・・」

「グローリー・・・グラウンド・・・」



目の前に広がる景色に、南陽生、ラモン、火引弾、東一哉、近藤勇蔵、土方歳武、二階堂紅丸。そして草薙京とヴァネッサは思わず唖然として呟かざるを得なかった。


ワープで通ってきた光のトンネル。
あまりもの想像を超えるファンタジックなトンネルにも驚いたが、この景色はそんな驚きをも打ち消すほどに彼らに衝撃を与えていた。

空気、温度、湿度、風、太陽の光。
そのどれもが自分たちが住んでいる地球のそれとまるで変化がなかったのだ。
こんなことがあり得るのか?

子ども達はなんの疑問もなく、自分たちがここにたどり着いた時には『ついたついたぁー♪』と低学年組を筆頭にすでにその辺の野原を走り回って遊んでいた。
ボーッ・・とまるで阿呆のように呆けている大人達にイリーナが一言。

「ようこそ!グローリーグラウンドへ!いかがです?」

「あ・・ああ・・い・・いかがって言われても・・」
「ね・・ねえ。でも・・・似てるわねぇ・・」

「そうでしょう?ライドランドによく似ていませんか?きっとすぐに慣れていただけるはずです」

ニコニコと屈託なく笑うイリーナ。
しかし近藤はまだ疑念が消えなかった。

「イリーナさん。ここは本当にアンタの言う地球・・・いや、ライドランド・・だったか?そことは別の世界なのか?」

「ハイ。その通りです。」

「俺にはどうも信じられん。ここが同じ地球ではないとなぜ言いきれる?こんな環境が瓜二つの都合の良い異世界があるのか?」

イリーナは少し困惑したような表情を見せた。
勇蔵は幾分気が咎めたが、言わなければならないことは言っておく必要がある。子ども達を連れてきている以上彼等には責任があるのだから。
このイリーナという少女が自分たちを担ごうとしている恐れが無いわけではない。
しかし、そんな問いに答えたのは、イリーナではなく土方歳武だった。


「・・・・勇さん。どうやら、その人の言っていることは真実のようだ」

「トシ?」

土方はゆっくりと立ち上がると、手に何やら花を摘んで勇蔵の方へと持ってきた。


「・・・コレは・・タンポポ・・か?」
「いや、似ているが違う。色も、形も微妙に・・・こんな植物は地球上には存在せん」
「・・・確かか?」
「薬学と生物学の博士号を俺が持っていることはアンタもよく知ってるだろう」


歳武の言葉に勇蔵は納得するしかなかった。
実際歳武は薬学と生物学の博士号を大学の在学時に取得しているが、ただの博士号ではない。
それは世界に名だたるアメリカのハーボード大学が主催する特別な試験だった。
つまり、歳武の薬学。生物学の知識は、一流学者並ということになる。
その歳武が地球上に存在しないと称しているのだからそうなのであろう。
勇蔵は短く首を振るとイリーナに「すまなかった」と短く言った。



「オーイ、先生たちー、いかねえのかぁ〜?先に街行ってるぞぉ〜」


そうこうしているうちにアキラの声が響いた。
丘の上に立って保護者の集団に手を振っており、他の子ども達もその周囲に集まっている。


「丘の向こうに見える街が、王都レインヴァードです。ご案内しますわ」

そう言われてヴァネッサ達も子ども達が手を振っているその先の街、レインヴァードの方へと足を運びだした。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「ここが、そのアドベンチャラーギルド?」

「思ってたよりおっきぃ〜・・・」


目の前の建物を見て、悠奈と七海がそう漏らした。
大きさはいつも七海がスケートを習いに通い、悠奈も何度も訪れたJTスポーツクラブを少し小さくしたくらいの門構えだろうか?
ともかく2人の予想よりも大きな造りだった。
入り口を見れば、重厚そうな鎧を身に纏った戦士や、ローブを纏った魔法使いらしき人、ライトアーマーを身に着けた身軽そうな剣士などイリーナの言うような冒険者たちが大勢出入りしていた。


「ふわぁ〜・・見て見てナミちゃん!サラちゃん!あの人たち!スゴイスゴイスゴぉ〜イ♪」

「うわぁ・・マジに映画とかで見たことある鎧だぁ・・ムードたっぷりってカンジするなあっ!」

「アレって魔法使いの人かなあ?でもホウキで空飛んでる人はいないんだ。その辺はちょっとイメージと違っちゃったな」

「いかにも冒険者ってカンジの人がたくさんいる・・・ねえ、ヒカルくん、オレたちもこの中に入るのかな?」

「そうなんちゃうか?ちょっとコワイんか?ヤオ」

「安心しろって、オレ達がついてるからよ」

「ビクついてんじゃねえよ。入りたくなきゃオメーだけ外で待ってろタコ」

「れ・・レイちゃん・・・そんな言い方したら可哀想だよ」

目の前に広がった建物を前に、それぞれ思い思いのことを口に出していた。
興味、興奮、不安、期待。
様々な感情がセイバーチルドレンズのメンバー達の心を満たしている。
イリーナの話にあったアドベンチャラーギルド、その佇まいは子ども達の心に正に十人十色の心情を引き出していた。

それとは対照的に・・・



「オイオイオイ・・・ジョーダンじゃねえぜ。いつの時代のドコの国だココは?」

「少なくとも日本じゃねえこたぁ確かだよな。なんとなく建物とかも洋風だし・・・ケド・・今の時代じゃねえよな・・・」

「ああ、まるで・・・おとぎ話とかゲームの中に出てきそうな・・・」

「俺はそれより・・・さっきからチラホラ見るあのトカゲか恐竜みたいなあの生き物が気になるっス・・・アレってどう見ても・・・」

「・・・一哉くん、これは・・・夢じゃないんだな・・?」

「え・・ええ、恐らく・・・ここが王都レインヴァードですか・・・」

「街並みは中世・・・いや、少し近世よりかもしれんな。ヨーロッパの風貌とアメリカの一部地域の風貌を合わせ持ったような独特の雰囲気だな。しかし・・・本当にこんな世界があるとは・・・」



「オイ、ヴァネッサ先生よぉ・・こいつぁ・・」
「言わないで京くん!今・・・この私の目の前で起こってるこの状況、必死に整理してるとこだから・・・」




大人達はアドベンチャラーギルドの建物云々ではなく、このレインヴァードの国の街並み、それ自体に圧倒されて言葉も思うように出なかった。
正にロールプレイングゲームや童話に出て来る中世〜近世のヨーロッパの街並みそのもの。
所々にやや近代的な造りの建物は散見されるものの、その雰囲気や、街を横断する恐竜のような生き物。待ちゆく人々の容姿、街の喧騒。
一目でココは現世に存在する世界では無い事が見て取れた。



本当に異世界があった。



「・・・イリーナさん。どうやら、貴女の仰っていたことは正しかったようだ。疑ってしまったこと、この通り、すまなかった。許してくれ」

「そんな、近藤様、いいんですよ。信じられないのも無理はありませんもの・・・そんなことより、早く子ども達と一緒にギルドの中に入りましょう」

そう言って頭を下げる勇蔵に、イリーナは気にしていないということをアピールするかのように首を振って微笑んだ。その表情に、勇蔵は苦笑する。
今まで自分が悩んでいたその問題はどうやらイリーナにとっては「そんなこと」だったようだ。



イリーナに連れられてギルドの中に入った悠奈たちセイバーチルドレンズとフェアリー、それにヴァネッサ達大人集団は、アドベンチャラーギルドと呼ばれた入口ロビーで思わず目を見張った。

ある程度予想はしていたが、表を遥かに上回る数の冒険者と思わしき人間たちでそこは溢れていた。
そこかしこで剣を手入れする戦士や雑談するローブを身に纏い、独特のアクセサリをつけた術師らしき者、軽装のライトアーマーに短剣や弓を装備した身軽そうな戦士たちも見られる。


「スッゴ・・・ってかちょっとコワ・・・ねえ、レイア。ココって大丈夫なの?」

「うぅ〜ん・・イリーナさまがいるから多分大丈夫だと思うけど・・・」

「でもさあ・・イーファ・・」

「どうした?ヒナタ?」

「オレたちさあ・・・さっきから、見られてない?」


と、日向がぎこちなく漏らした。
中の光景に興奮してキョロキョロと辺りを興味津々に見回していた悠奈たちであったが、次第と逆に自分たちが注目されていることに気が付いた。
興味ありげに不思議そうな眼を向けている奴もいれば、妖しい人物を牽制するように不審気に見つめている輩もいる。
慣れ親しんだギルド内に、突然自分たちとは大きく出で立ちの異なる一集団が現れたのである。
しかも中の10人ほどはまだ年幼い子どもである。一体この大人の冒険者たちが集うギルドに何用でやってきたのか?
そんな疑問の目を受けている彼等に、受付の奥にいた老年の男性が笑顔で手を振りながら声をかけて来た。



「これはこれは、イリーナ姫様。あ、いやいや、今は女王陛下でしたな。お待ちしておりました」

「ベイル会長。お久しぶりです」

長い白髪を後ろに流し、眼鏡をかけた柔和な顔。
紫色に所々金の刺繍があしらわれた魔法術師が着るようなローブを纏っている。彼もまたそうなのだろう。


「ようこそ、我がアドベンチャラーギルド・レインヴァード本部へおいで下さいました。あなた方を心より歓迎いたしますよ。セイバーチルドレンズの皆さん、そしてその保護者の方たち」


「え?アタシたちのコト知ってるの?」

「もちろん。既にイリーナ女王陛下よりお話は伺っております。レイア、それにイーファ、ウェンディ、ユエ、ヴォルツ、バン、リフィネ、クレア、ルーナ、ケン。あなた達もお疲れ様でしたね、よくぞ彼らを見つけてくれました」



「うん!ベイル先生!レイアたち頑張ったんだよ♪」

「ま!レイアだけなら心配だったけどオレ達がついてたからな」

「みんなで力を合わせた結果です」

「せやな〜、ワイかて一時はホンマに集まるもんか思ってたケド・・・なんとかなるもんやな!」

「燃える心があればどんなツライことだって乗り越えられるってもモンよ!うぅ〜〜っボンバあぁー!」

「ベイルさまもお元気そうで何よりです」

「まあ、メンバーを連れて帰った瞬間、嬉しくて心臓発作!・・てのも面白かったかもしれないけどねv」

「べいるのおじーちゃん、ルーナつかれたでしゅぅ〜、はやくフェアリープリンをたべておひるねしたいでしゅ」

「ルーナの言う通りだな。オイ、ジジー。オレはポーションサイダーだ、ノド渇いてんだよとっとと出しな」



「って、アンタたちもこの人と知り合い!?」

「もっちろん!だって、このベイル先生があたしたちフェアリーの魔法の先生なんだよ」

「へぇ〜・・・このおじーちゃんが・・・」


悠奈は目の前で優しそうにほほ笑む老人を見て、この人がレイアたちの先生?
小さくないんだ。

と、少々不謹慎なコトを考えていた。
そんな悠奈の思考を遮るように今度はヴァネッサがベイルとイリーナに質問する。



「あ、あの・・・スミマセン。わたし、ヴァネッサと言います・・・先程、わたし達のお話を聞いていた・・とおっしゃってましたが・・その・・いつ?」

「それは、俺も気になっていた。イリーナさんとは先程お会いしたばかりだ。そしてあのゲートとやらを通ってココに一緒に来た。一体いつの段階で俺達の事を聞いたんですか?」

「イリーナさまより、フォースにてお聞きいたしました」

『・・?フォース?』

「魔力を用いたテレパシーのようなモノですよ。修練を積むコトによっていかなる場所においても通信することができるのです。あなた方の事もお聞きしております。ヴァネッサさま、東一哉さま、草薙京さま、近藤勇蔵さま、土方歳武さま、二階堂紅丸さま、ラモンさま、火引弾さま」




『・・・・・』




寝耳に水とはこのコトである。
魔法とはかくも便利なものなのか?
予想を遥かに超える世界観に、魔法の利便性を思い知らされ、さらには予期していなかったところから自分の名前まで知られていることに、大人連中、皆全員一致にて目をテンにして驚き戸惑っていた。



「・・・スゲーな魔法って・・・そんなコトまでできんのか?」

「便利なモンだ。サイキョー流に欲しいくらいだな・・・俺も魔法習ってみるか?それでそれをサイキョー流魔法格闘技に昇華させていずれは道場を・・・」

「そんなコトができるなら・・・魔法でカワイコちゃん達のスリーサイズを・・・vv」

「アンタたちバカなこと言ってないの!・・あの・・それで・・そのぉ・・ベイルさん・・でしたっけ?」

「ハイ、左様でございます」

「わたし達は何をすれば?」

魔法の力を見て、くだらない妄想をする紅丸たちを軽く叱りつけて未だ少々不審そうな眼をしながら尋ねて来るヴァネッサにベイルと呼ばれた老人は柔和な笑顔を崩さぬままに、優しい口調で言った。


「セイバーチルドレンズの皆様には、こちらのギルドにて適正テストを受けていただき、冒険者として登録させていただきます」

「?・・適正テスト?・・登録?」

「ハイ、左様にございます。そうすることによって晴れてお子さん達はグローリーグラウンド内にて様々な援助を受けることが出来る正規の冒険者となるのです」

「そうすれば、ユウナちゃんたちをわたし達も全力でサポートすることができますわ」


「え?え?・・ナニ?ぼうけんしゃ・・・って・・登録?テスト?アタシらなんかしなきゃイケナイの?」

「ウチそんなん全然聞いてへん」

「大丈夫ですよ。ちょっとした検査があるだけだから。何も心配しなくていいわ」


またしてもよくわからない単語が出てきて、悠奈やヴァネッサ達が怪訝な顔になる。
一体どういうことなのか?
登録?適性テスト?簡単な検査?
彼らは他にどんなことをしなければならないのか?
ヴァネッサがさらに尋ねようとした時、「なんだとォ?どういうことだ!?」と周りからそんな野太い声が聞かれた。

声のした方を見ると、ブレストアーマーに高密度の筋肉を搭載した大柄な体格の戦士が、ドスドスと近寄ってきて悠奈たちをギロリと睨み付けた。
眼を鋭く吊り上げており、顎に生やした不精髭がより一層男の凄味を増していた。
体格もデカい。恐らく190センチ近くはあるであろう身長、体重も90キロはあるであろう。
その威圧感に、悠奈は思わず傍にいた七海と抱き合って「ひいっ」と身を強張らせた。
男が悠奈たちを見ながら野太い声で言った。


「イリーナ姫さんよ。俺ぁ別に王家のアンタに楯突こうってワケじゃあねえぜ。しかしなあ、こんなチビっ子たちが冒険者に登録しようってなら話は別だぜ?俺らはこのグローリーグラウンドで誇りをもってアドベンチャラーをやってんだ。適性テストの他に筆記試験、ジョブごとの技能検定や戦闘試験なんかもしっかりパスして、日々自分の鍛錬に多くの時間を費やしてる。人を襲う危険なモンスターを退治したり、まだ見つかってねえ未知の遺跡を探検して考古学の発見に貢献したり・・・常に死ととなり合わせの危険な職業なんだ。そんなガキどもに一体ぇ何ができる!?俺も正登録の冒険者として断じてそんなヤツラの登録を認めるわけにはいかねえぞ」

大男の言葉に周りにいた他の冒険者も

「そうだそうだ、そんなヤツラに冒険者登録をさせるなんてギルドの神経疑うぜ」 「大体オレ達は冒険者になるためにそれなりに苦労してなったんだ!」 「適性試験だけなんてズルイじゃねえか!どう言うコトだベイル会長さんよ!」 「そんなヤツラに冒険者になられてみろ。冒険者なんてのは子どもでも務まるいい加減な稼業だとバカにされるのがオチだぜ!」

と、それがキッカケになったかのように口々に不満を言い始めた。
突然の展開に悠奈は不安そうな面持ちで周りをキョロキョロと見回した。

コワイ・・・。

言葉には出さなかったが、今までパパやママの友達にはこんなに荒っぽい人達はいなかった。
悠奈が今まで目にしてきたのは、パパの仕事の関係者や、ママの雑誌のライターさん。
柔らかで温和な人たちが多かったし、今の時代、学校の先生でも基本的には穏やかな人が多い傾向にある。

まるで今まで戦ったモンスター達をそのまま人間にしたかのような威圧感を感じる人達を前に悠奈はどこかに隠れてしまいたい衝動に駆られた。


「ちっ・・・コイツら・・・」
「好き勝手なコトほざきやがって・・・」
「ウチのジムの子らに上等コキやがるとは・・許さねえ」
「おうよ!この場で一丁暴れるか?」

と、ブーイングをかますギルド内の人間たちに京、紅丸、ラモン、ダンという格闘家チームが臨戦態勢をとろうとした時・・・



「やめなさいアンタたち!」



ヴァネッサの一喝が飛んだ。
あまりの唐突な叫び声に騒がしくなっていたギルド内がシ〜ン・・と静まり返る。
そのままヴァネッサは自らを落ち着かせるように小さく息を吐くと、大男をはじめとするギルドの人間たちに言った。

「みなさんのお気持ちはわかります。苦労なさって冒険者になられたんですよね?ご気分を害してしまって申し訳ありません。ですが実は、わたし達も、そしてここにいるこの子たちも、一体どういう事なのかよくわかっていないんです。こちらのイリーナさんに連れられてココに来ただけなんです。ですから・・まず説明してもらえませんか?冒険者の事や、登録の事や、試験のコト・・・」

「な・・・なんだと!?・・ってコトは・・ココがどんなトコなのか本当に知らないで来たってことか?」

「皆様、申し訳ございません。説明が遅れてしまいました。この子達を冒険者として急遽登録しようとわたしとベイル会長が申し合わせましたのは理由があるのです」

「理由?・・それったぁ一体?」

「・・・彼らこそ、今エミリーに蝕まれつつあるこのグローリーグラウンドを救ってくれる伝説の子ども達、セイバーチルドレンなのです!」



イリーナがはっきりとした口調でそう答えると、途端にピタリと文句の声が止んだ。
しばらくの沈黙、そして数秒後には『えええぇええーーーーーーっっっ??』という盛大な驚愕の声が響き渡った。





ギルドの中にいた冒険者の中からリーダー格の者数名程、彼らとベイル会長、そしてセイバーチルドレンズとヴァネッサ達大人連中を伴って、ギルド内の会長室に入った。

そこでイリーナはこれまでの事を話した。
レイアをはじめとするフェアリーたちによって、ライドランドに住む悠奈たちセイバーチルドレンズを見つけ出したこと。
すでにメイガス・エミリーの手先、ダークチルドレンズとの闘いが始まっていること。
ダークチルドレンズの子ども達は日を追うごとに強くなっており、グローリーグラウンドの平和を守るためにはもはや猶予が無い事。
ジュエルモンスターを召喚して、一般人からマイナスエネルギーを吸い取り、それによってエミリーの封印されているエミリーの魔力を取り戻そうとしている敵方の企みや、フォースクリスタル・デュエルによってグローリーグラウンドの魔力が枯渇するかもしれないという危機。


全てを話し終えた時、場に参加していた冒険者ギルドのリーダー格の登録者たちはう〜む、と唸って難しい表情のまま言葉を紡いだ。


「なるほど・・・そう言うコトだったのか・・・」

「しかしな。事態がそこまで切迫していようとは・・・」

「それに、この子たちが本当にあの伝説のセイバーチルドレンだなんて・・・なんか信じられないわね。ま、つい昨日王宮を襲撃したっていうダークチルドレンと名乗るヤツラも似たような年頃の子ども達だったって言うじゃない。つり合いは取れてるって言えばとれてるケド・・・」


中の1人の女性が悠奈たちをまじまじと見つめた。
イリーナの話を聞いても、本当にこんな子ども達が自分たちの世界の救世主となる存在なのか?彼等歴戦の冒険者たちには甚だ疑問であった。
その視線にさっきからイラついていた東麗が、「テメエら・・・なんか文句あ・・」

・・んのかコラァ!とキレて叫びそうになった時だった。


「よし!わかった!」


そんな声が発せられた。
と、見れば声の主は最初に悠奈たちに因縁をつけて来たあの厳つい大男だった。
彼はニカっと歯を見せて満面の笑顔をつくると、立ち上がって悠奈たちに言った。


「さっきは悪かったな。あんなコト言っちまって、お前さんらがそこまでの覚悟でここに来たとは知らなかったもんでよ。俺達の国を助けてくれようってんだろ?だったら俺も喜んで協力するのがスジってモンだ」

「なあみんな!」と男が同意を求めると、周囲の冒険者たちもヤレヤレといったように苦笑すると、大きく頷いた。

「ぶっちゃけた話言うとよ、情けねえがこのグローリーグラウンドの問題は俺達じゃどうしようもなかったところなんだ。ダークチルドレンズもエミリーのヤツも一向に見つけられなかったし、特殊な魔力を持つヤツラは俺らじゃ調査のしようもねえ・・・どうしたもんかと途方に暮れてたのが正直な話だ」

「キミたちが本当に我々の国のために戦ってくれるのなら、これほどありがたい話はないものね。こちらこそ喜んで協力するわ」

「まあ・・なんといってよいか・・・わかって下さって嬉しいですわ」


イリーナがホッとした笑顔で、答える。
ベイルやフェアリーたちも一安心と言った顔だ。

文句を言うつもりで口を開いた麗は戦士の意外な言葉に毒気を抜かれ、「あ・・・ぐ・・」と言葉にならない声を発して、仏頂面でソファに座り込んでしまった。
ヴァネッサはそんな麗を見て、「レイちゃん、いつも言ってるでしょ?すぐにカッとならないの」と苦笑して窘めたが、後ろにいた京や紅丸たちも臨戦態勢をとっていたことに気づいて「ハア・・・」とあきれ混じりのタメ息をつく。
一哉や歳武も「ホ・・」と胸を撫で下ろすと顔を見合わせてニコリとした。

「すまんな。私もまだ今一つ状況をよく飲みこめてないのだが・・・ご理解のほど、感謝する」

「へへっ・・なあに・・・おっと、自己紹介が遅れちまったな」


と、近藤勇蔵の言葉に大柄の戦士は少し姿勢を正すと、ハッキリとした口調で言った。



「俺はこのアドベンチャラーギルド・登録冒険者第一号、一応みんなの総リーダーを務めさせてもらってる、ゼル・シルヴァードってもんだ。ジョブクラスはダイナスト、よろしくな!」

「ルーンメイデンのルシアさ。ルシア・マンシーニ、このギルドのサブリーダーを務めてる。ゼルとは子どもの頃からの付き合いよ。彼、乱暴そうに見えるけどこう見えて凄く優しいヤツだから、みんな頼りにしてくれて大丈夫よ。わからないことがあったら、何でもお聞き」

「俺はアルフレッド・ヴァレンタイン。気軽にアルって呼んでくんな。嬉しいぜぇ、カワイコちゃんたちもたくさんいるじゃねーか。今度デートしてくれよな♪おっと、そんなカオすんなって、軽いジョークじゃねえかハッハッハ!俺のジョブクラスはローグ。一応レンジャーやシーフの連中の隊長やってる。あ、因みにゼルはファイター、ルシアはフェンサーのクラスをそれぞれ取り仕切ってるぜ。みんなのリーダーでもあるんだけどな」

「・・・・・・シェリル」

「ああ、ゴメンね。この娘無愛想ってか人見知りでね。わたしから紹介するよ。この娘はシェリル・リーア・ジェルミ。メイジやマジシャンのリーダーさ、わたし達の中では一番若いんだけどね。この娘は代々魔術師の家系でね、攻撃魔法に関しては一流だよ。そうそう、それから今やかましくしゃべってたアルフレッド、アルも代々冒険者でシーフの家系なのよ、ま、シーフっても人から物を強奪するような盗賊じゃなく、あくまで遺跡なんかのダンジョンを手に入れるトレジャーハンターだけど」

「次はわたしの番ね、どぉ〜もぉ〜、MJ(エムジェイ)です。フルネームはメリー・ジェーン・フォスター。ヒーラーやクレリックのリーダーをやってまぁ〜す。ジョブクラスはビショップ、回復魔法ならお姉さんにおまかせよぉ〜v」

「俺はディーン、ディーン・ハラダ、格闘家だ。ジョブクラスはブレイブフィスト。モンクやグラップラーを統括してる。俺のポリシーは正義と強さをどこまでも求めるコト!キミたちも正義のために闘ってもらいたい!ともに頑張ろう、よろしくな」

「はじめまして、わたしはジェラード、ジェラード・R・ヤマナミといいます。イリーナ姫さまのお申し付けとあらば、騎士として従うのは当然の務め、よろこんで協力致します。ジョブクラスはパラディン、ナイトのチームを総括しています。それと同じく、王宮の騎士団長として警護にもあたっています。どうぞよろしく」


「ユウナちゃん、それにみんな。彼らこそが、我がレインヴァードが、いいえ、グローリーグラウンドが誇る歴戦の冒険者で、セブンス・ヒーローズと呼ばれている人たちです」

と、悠奈たちの見ている前で、合計7名の部屋内にいた冒険者たちが次々と自己紹介を行った。
流れるようなその名乗りに言葉もなく唖然としている悠奈たちセイバーチルドレンズの面々。ポカンとしているのはなにも子ども達だけではなく、大人達もそうである。

「ユウナちゃん?どしたの?」

「え?あっ・・べ、べつに・・ちょっと、イキナリだったから驚いちゃっただけ・・・」

「んん?なんだなんだ!今のでビックリしちまったか?ガッハッハッハ!そいつぁ悪かった!イヤ、すまねえ。しかしユウナ・・とかいったか?おもしれえ嬢ちゃんだな!」

大男、ゼルがそう豪快に笑いながら悠奈の神をクシャクシャと撫でる。


ゼルは長身に筋骨隆々とした体格、茶がかった短髪の黒髪が所々跳ねていて、顎にある髭が勇ましい男だった。
ブレストアーマーにタンクトップとジーンズという軽装だが、それを通しても筋肉の盛り上がりがわかった。
背には大きな大剣を背負っている。

ルシアは金髪碧眼の美しい女性だが、表情は凛々しく口調からもやや男勝りな感じが漂っている。しかし厳しい中にも温かい雰囲気が常に感じられるとても魅力的な女性だ。
彼女もどちらか言えば軽装で、普通のカジュアルなトレーナーとタイトなミニスカートにライトアーマーを装備してるだけである。
彼女の武器は細身のサーベルだ。

アルフレッドは橙系のブラウンの長髪を後ろで纏めたヘアスタイルで、赤系の色眼鏡をかけている。全体的に細身だが筋肉が締っているのが見てわかり実に身軽そうだ。彼は冗談交じりで軽口を叩きながら所々でカラカラと笑い飛ばすそんな、悠奈たちの世界で言えばチャラ男という表現がしっくりくるような男だ。
緑のジャケットに黒のシャツ、膝下が隠れるくらいの白いハーフパンツを身に着けていた。
腰の後ろに差しているのはダガーと呼ばれる短剣だ。

無口な女性、シェリルはまだ少女、といっても良い年齢だった。勿論悠奈たちから見れば遥かに年上だが、ゼルやルシアなどと比べるとやや若い。
ブルーのショートヘアに金のカチューシャのような髪飾りを付けており、青の生地に所々パープルピンクの模様があしらわれたローブを身に纏い、ミニスカートをはいていた。
手にはステッキのような武器を持っていた。

MJと呼ばれるメリー・ジェーンはおっとりとした美しいお姉さんという印象が妥当な女性だった。
若草色のロングヘアで所々がカールしている。
ルシアともシェリルとも違うどことなくボケボケとした感じの癒し系。
上下白のロングスカートを含むローブに緑の刺繍や飾り、黒のボタンが各所についている。胸の部分のピンクのリボンは少々派手だった。
彼女の武器も手に持った杖なのだろう。

ディーンは蒼のストレートな短髪で、前頭部の部分だけが特徴的に跳ねている。
黒のTシャツに青のカーゴパンツというラフなスタイル。手にはグローブをはめており、特に武器は見当たらない。
だが、ゼルと同じくその服を通しても分かる逞しい肉体は彼の武器が己の五体であるという何よりの証拠だった。
凛々しく、というよりどちらかと言えば強面の男だったが、悠奈たちに向けたその笑顔は優しさに満ちていた。

最後のジェラード。
銀の甲冑にもにた鎧に身を包んだ男は、金髪のロングヘアで顔だけ見ると女性にも間違われそうな美男子だったが、腰に差したロングソードと、無駄のない立ち姿は彼が決して優男ではなく、歴戦の騎士であることをものがたっていた。



「せっかくだからユウナちゃんたちも、それにヴァネッサ先生たちも自己紹介してくださいな」

「え?ええ!?そんな・・・急に言われたって・・・」

「なに言ってんのよユウナちゃん!みんなちゃんと自己紹介したんだから、ユウナちゃんたちだってしないと」

「なんだぁ?恥ずかしいのか?ガッハッハッハ、そんなところも可愛いなぁ!ま、子どもだしな、仕方ねえっていや仕方ねえか」
「ちょいとゼル、そんなコト言うもんじゃないよ。ゴメンねユウナちゃん、イヤならムリしなくてもいいんだよ?」


ルシアにそう言われて困ったように日向を見る悠奈。彼もどうしたらよいかわからずに首を振った。



「・・・オイ、ヴァネッサさんに近藤先生よ。なんだかオレらまで巻き込まれてんぞ」

「そ・・・そうねえ、いつの間にか・・・どうしましょ?」

「しかし、まず自分たちから名乗るという礼はつくしているわけだからなぁ・・・やらんというのも、義に反するというか・・・」

「・・・いや、やった方がいいでしょう」


と、巻き込まれる形でこちらもどうしようかと相談していた京とヴァネッサ、勇蔵の会話に一哉が割り込んで言った。
「一哉さん?どうして?」と問うヴァネッサに、彼は指を差しながら「だって、ホラ。アレ・・・」と呟いた。
その方向には・・・




「ハァ〜イv美しいお嬢さん方!ナイス・トォウ・ミィ〜チュユゥ〜w今日はなんて素晴らしい日なんだ!こんなにも大勢の美女に出会えるなんて!」

「わっ・・・と、え・・と、ダレ?」
「・・・・軽そう、アルよりも・・・」
「まぁ〜、美しいなんてぇv嬉しいわぁ〜。アナタお名前はぁ〜?」

「おぉっとお!突然声をかけてすまない。キミたちの宝石よりも眩く輝く瞳に心を奪われ、思わず声をかけてしまった・・・俺は二階堂紅丸ってモンさ。ベニーって呼んでおくれハニーv」



出会ったばかりのルシアたちに早速果敢に図々しくナンパを仕掛けている紅丸の姿がそこにあった。



『・・・・・・・』


「・・・アイツの適応力って・・・スゲエのな」

「いやいや、ありゃオンナにだけっスよ。しかし紅丸・・・異世界にまで来てナンパに走るとは・・・」


弾とラモンが半ば感心するように呟く声を追うようにヴァネッサがハア・・・と深いタメ息をつき、続いて悠奈たちを見る。


「その・・・あんなのに先越されたまんま、流石にマズイでしょ。ユウナちゃん、それにみんなも・・取りあえず簡単に挨拶だけしときましょうか?」


そのヴァネッサ先生の言葉に反対する者は皆無だった。








「それでは、これより適正テストをはじめます」

「・・・・あ・・あのぉ・・・今度はなんなんですか?」

「ご心配なく。このフォーススキャナーに入ってもらうだけですよ」

「ふぉ・・ふぉーす・?・スキャ・・・ねえレイアぁ、アタシ今度はなにされんのよぉ?」

「うぅ〜ん、レイアもよくわかんないよ」

「ハアぁ!?アンタどこまで無責任なのよ!」

「そ・・そんなこといわれても・・・」

「ハハハ、大丈夫。何もイタイことはないですよ。すぐに終わります。順番に、どうぞ中へ・・・」


と、係員のギルド職員から言われて、悠奈は目の前にある、何やら丸い外の見えない電話ボックスのような機器を見つめた。

悠奈たちもヴァネッサ達もそれぞれに自己紹介を済ませると、イリーナは「さあ、それじゃあ今度はユウナちゃんやヒナタくんたちのアドベンチャラーカードをつくりましょう!ベイル会長、フォーススキャナーの準備を」とベイルをはじめギルドの職員に指示を出した。
一体今度は何なのか?と質問するヒマも無く、悠奈たちはその機器がある部屋へと連れていかれ、有無を言わさず現在の状況に置かれているワケである。

イタイことはないですよ。と、係員は笑いながら素っ気なく言うが、当の悠奈たちにしてみれば心配にならないハズがない。
得体の知れない奇妙な電子音がピキュン、ピキュンと鳴り、所々の部品が点滅しているまるで特撮番組か何かと見間違う謎の装置、それの中に入れと言う。

危険があるない以前に気味が悪い。

悠奈が尻込みしていると、後ろから「・・・よし!」という声が聞こえた。
振り返る。


「・・ヒナタくん」

「ヒナ!?」

「ユウナ、心配しないで。まずオレが入ってみるよ。それでもし大丈夫だったらユウナやみんなも入ればいいじゃん」

「で・・・でもっ」
「アブナイことホントあれへんの?ウチ、やっぱりちょっと心配・・・」

「多分大丈夫だって。この人達ウソは言ってないと思う・・・じゃ、行くよ」

悠奈と七海にそう告げると、日向は装置の前へと立った。
光も晃も「おい、ヒナ!」「ムチャしよんなっ!」と軽く諌めたし、あの肝の座った京でさえ可愛い身内が得体の知れない装置に入ると決意したのを冷やせ混じりに心配そうな面持ちで眺めていた。
みんなの不安が一瞬日向を躊躇させたが、日向は大丈夫。と自分自身に言い聞かせるように大きく息を吸い込むと装置の中へと入った。

「はい、それでは楽にして、目を閉じてくださーい」

と、係員がそう言うので日向はその通りにした。
その瞬間、キュイィーーー・・ン・・・という独特の機械音が鳴り響き、装置の各所のライトが点滅し出した。
緑色のレーザー光線のような光が頭のてっぺんから足の先まで日向を通り抜ける。
周囲のメンバーや保護者の大人達の顔色に緊張が走る。
ほんの30秒ほどだったのだろうが、心配していた彼らにはそれの時間が倍にも3倍にも感じられた。
ピィーーー・・・という音が鳴り、係員が「ハイ、結構ですよ。お疲れ様でした」と声をかけると、日向が目を開けて装置から降りて来た。
悠奈や七海、京が駆け寄る。


「ヒナタくん!大丈夫?」

「・・・うん」

「ホンマ!?どこもイタイとこない?」
「なんか・・・こう・・気分が悪いとか・・頭がクラクラするとか・・そういうこたぁねえか?」

「うん、平気だよ。すぐ終わっちゃった・・今のが・・適正テスト?なのかな?」

「ハイ、その通りですよ。おめでとうヒナタくん。キミのジョブが決まりました」

と、先ほどまで何やら装置の近くでコンピューターのようなものを操作していた係員が笑顔で近寄ってきて、ヒナタにカードを差し出した。

「これが、キミのアドベンチャラーカードです。キミのジョブクラスは『ファイター』、戦士ですね。このカードは大切にしてくださいね」

そう言って渡された、母が使っているようなクレジットカードやポイントカードによく似た電子カードを日向は受け取った。


「どうやら・・・今ので終わりのようだな。よかったなヴァネッサ先生、とりあえずは安全は保障されてるようだ」

「え・・ええ、そうですね。とりあえずよかったぁ・・・ホッとした」

「子ども達の安全が第一だからな。ヒナタくんに何もなくて本当に何よりだ」

と、勇蔵、ヴァネッサ、一哉も元気そうな日向を見てようやく胸を撫で下ろした。
あんな得体の知れない装置に自分から進んで入るなんて・・・
勇気があるのか命知らずなのかわからない。意外と大胆な日向くんの姿にすっかり面喰ってしまった。

しかし、そんな大人たちの心配など知る由もなく、日向は渡されたカードをマジマジと見つめていた
見ると、カードには


ヒナタ・クサナギ 8 歳

セイバーチルドレン ブレイブファイター
ジョブクラス ファイター

LV(レベル)6  経験値395 次のLV440
力30 体力18 防御16 敏捷17 

魔力15 精神17 フォース30

アトリビューション 火


という文字が項目に分かれて書かれていた。



「・・・コレ・・って・・?」

「今やった検査でキミのアビリティ・・つまり技能を調べさせてもらったんだよ。そこに書いてあるのは魔力を含めたキミの身体データを数値化したもの。つまり今のキミの冒険者としての戦闘力さ。そのデータから一番適正なジョブを割り出しました。それと・・キミはパートナー妖精を見つけてますね。火の属性を持つイーファ。ですからキミのアトリビューションも火ですよ」

「?・・・あ・・とりびゅー・・?」

「キミの属性の事です。キミは火の魔力が強いということ、これから闘いに際した時も、炎の魔法や攻撃が強くなったり、逆に相手の火属性の攻撃ダメージには耐性がつくということです。がんばってくださいね」


「・・・い・・今のでそんなコトまでわかったのか?」
「一体どういう装置なんだアレは?」
「どうやら・・・まだまだこの世界は俺たちの想像を超えたものがあるらしいな」


その様子を見て、一哉、近藤、土方の3人はその技術力に驚いて唸った。

街並みを見た感じで自分たちの住んでいる世界よりも幾分文明の遅れた国であると単純に思い込んでいたが、この装置や、係員が操作していた、おそらくはこちらの世界のコンピューターのようなシステム。
さらには人の体を検査してそんな内面深くまであっという間に調査してしまう高度な科学力。
ある面に関しては地球上のそれを上回っていることが容易に理解できた。


「さあ、安全なコトはわかりましたね。あなた方もどうぞ」

「ねえねえ!オレたちもその中に入ればヒナタみたいなカードもらえたりするの?レベルとかいろいろ書いてあるソレ!」

「ええ、もちろんですよ」

「スッゴぉ〜イ!ホントにゲームみたぁいvウチも入る入る!」

「あ・・アタシも入ろっかなぁ・・・?」
「おもしれえじゃんか!ワクワクしてきたぁ〜v」
「ハイハイハーイ♪レナも!レナもはいるぅ〜〜っっw」


と、窈狼の言葉から次々とメンバーの子ども達が自分も自分も、と我先に装置に入ろうと近寄ってきた。
安全なコトが日向の勇気ある行動でわかったからか俄然興味が沸いたらしくまるで餌に群がるヒナ鳥のようだ。
もちろん装置には1人しか入ることが出来ないため、ヴァネッサや京が子ども達をなだめつつ、順番に入るよう諭した。

その後は日向のように全員滞りなく適性テストの検査が終わり、日向のようなデータカードが子ども達全員に配られた。





ナナミ・コウサカ 8歳

セイバーチルドレン ケアヒーラー
ジョブクラス ヒーラー

LV(レベル)3  経験値121 次のLV150
力8 体力9 防御7 敏捷12
魔力19 精神20 フォース15

アトリビューション 水



ヤオラン・ファン 8歳

セイバーチルドレン シャインモンク
ジョブクラス モンク

LV(レベル)5 経験値334 次のLV350
力21 体力12 防御13 敏捷29
魔力16 精神19 フォース13

アトリビューション 月



ヒカル・クドウ 12歳

セイバーチルドレン ソウルグラップラー
ジョブクラス グラップラー

LV(レベル)7 経験値568 次のLV620
力30 体力35 防御37 敏捷18
魔力9 精神14 フォース10

アトリビューション 雷



アキラ・ミナミ 11歳

セイバーチルドレン ガッツストライカー
ジョブクラス ストライカー

LV(レベル)6 経験値352 次のLV440
力23 体力22 防御24 敏捷16
魔力18 精神15 フォース20

アトリビューション 爆



ナミ・ハヤマ 10歳

セイバーチルドレン ミスティメイジ
ジョブクラス メイジ

LV(レベル)2 経験値48 次のLV60
力4 体力5 防御4 敏捷10
魔力28 精神18 フォース14

アトリビューション 木



サラ・ミナミ 10歳

セイバーチルドレン グリットギャンブラー
ジョブクラス ギャンブラー

LV(レベル)2 経験値35 次のLV60
力7 体力6 防御6 敏捷15
魔力14 精神14 フォース13

アトリビューション 地



レナ・ホシハラ 10歳

セイバーチルドレン スターディーヴァ
ジョブクラス ディーヴァ

LV(レベル)2 経験値21 次のLV60
力5 体力8 防御5 敏捷18
魔力20 精神15 フォース12

アトリビューション 光



レイ・ヒガシ 11歳

セイバーチルドレン ゲイルシーフ
ジョブクラス シーフ

LV(レベル)5 経験値322 次のLV350
力20 体力17 防御19 敏捷40
魔力16 精神17 フォース15

アトリビューション 風




それぞれがそれぞれ、装置の中に入り、日向と同じような検査を受けカードを受け取ると、きゃいきゃいと大はしゃぎでそれを見せ合ったりしていた。
いつもはクールで子ども達の中でもあまりはしゃがないような麗も流石にこのファンタジー要素あるれるシステムにやや興奮し、ヴァネッサに
「なあセンセー!オレ、シーフだってさ。盗賊だぜ盗賊vオレ、ゲームとかでもイッチバン好きな職業だったりすんだよなぁ・・・サスガオレ様!なあ?」
と目を輝かせて語っていた。


「みなさんのレベルに開きがあるのは、これまでのダークチルドレンズとの戦いにおけるみなさんの戦い方や戦功などから経験値を算出した結果です。それがすべてではありませんし、あくまでもデータ上の数値ですので、参考になさる程度で結構ですよ。さあ、残るはあなたですね」

と、係員が悠奈の方を見て言った。ゴクリと喉を鳴らす悠奈。

「・・・・・」

「・・・ユウナちゃん?・・大丈夫?」

「え・・あ・・いや、べ・・べつに!コワイとか・・そんなんじゃないんだかんね!ただ・・そのぉ・・」

ハッキリしない悠奈の歯切れの悪い態度に七海が「なんやねんユウナ、ひょっとしてコワイんかぁ?いくじなしやなぁ〜v」と笑いながらからかうと「そんなんじゃないって言ってんじゃん!」と顔を真っ赤にして否定する。
七海にからかわれて腹が立ったのは確かだったが、ビビってる。というその事は悔しいながらもズバリ本当で、みんなあんなワケのわかんない装置に入れるなんて意味わかんない。どんな神経してんの?
と内心思っていた。
クール&スパイシーなユウナちゃんで通っている彼女だが、実は内心人一倍怖がりなのだ。

そんな悠奈を元気づけるように日向が言った。

「大丈夫だよユウナ。オレもみんなも大丈夫だったんだからさ。ユウナもダイジョウブ!何かあったらみんなですぐに助けるからさ」

「ヒナタくん・・・」

その言葉で一気に気が楽になった。
悠奈は覚悟を決めると検査の装置を正面から見つめ、短く息を吐いてから中に入った。


「はい、それでは目を閉じて、楽にしてくださいね」

そう言われたとおりにすると、悠奈の体をレーザーが照らしてゆく。キュイィーーー・・ンという音を響かせながらほんの数十秒。
悠奈が今どうなってるんだろう?とそう考えかけた時、「ハイ、終了です。お疲れ様でした」という声がその耳に届いた。


「え?終わっ・・たんです・・か?」

「ええ、そうですよ。ハイ、コレがキミのアドベンチャラーカードです」

そう言って係員の男性は悠奈に日向達がもらったものと同じカードを差し出した。



ユウナ・アイザワ 8歳

セイバーチルドレン マジカルウィッチ
ジョブクラス メイジ

LV(レベル)4 経験値182 次のLV220
力8 体力10 防御8 敏捷13
魔力25 精神25 フォース27

アトリビューション 無



「コレ・・・が?」

「ええそうです。アナタの身体データから割り出した経験値とレベルになります。ジョブクラスはナミさんと同じメイジですね。しかしアトリビューションが無とでていますが・・・他のメンバーのみなさんはみんな何らかの属性があるのに・・・」

「きっとユウナちゃんはまだパートナーとなるフェアリーを見つけてないからじゃないかしら?」

係り員の声にイリーナがそう言った。
突然の一言に悠奈も驚いたようにイリーナの方を振り向く。もっと不可解な顔をしているのは大人たちだった。
「パートナーのフェアリー?なんだそりゃ?」と、思い切り顔に書いてあるような表情でイリーナを見ている。
そんな彼等に笑いかけながらイリーナは続けた。

「イリーナさま?」

「ユウナちゃん。ヒナタくんたちみたいに、自分の中で魔力を引き出してくれるパートナーのフェアリー、まだ見つけてないでしょう?」

「そう・・・言えば・・・」

言われてみればそうだ。
悠奈はここにきてようやくその事実に気が付いた。
日向も七海も窈狼も。
悠奈以外のメンバー達はすべてセイバーチルドレンとして覚醒を遂げた時、同時に自分の得意な魔法特性を持ったフェアリーとパートナーになっている。
自分は一番初めにメンバーになっているにもかかわらずまだパートナーと言える妖精が見つかっていない。レイアは彼女自身もまだ自分の魔力属性がわからないと言っているので違うことは間違いない。
アトリビューションなんてそんなよくわからないもの別になくてもいいと思ったが、他のメンバー全員、しかも自分よりあとからセイバーチルドレンとして覚醒した子達がみんな持っているのに自分だけ持っていないなんて・・・
と、言いようのない疎外感が突然襲ってきて悠奈は意気消沈するかのようにタメ息をつく。それはレイアも同じだったようで普段やかましいくらいに元気な彼女も落ち込んだように項垂れた。
そんな彼女達を見て、イリーナが優しく声をかける。


「ユウナちゃんもレイアも、大丈夫。きっと自分のパートナーや魔力が見つかるわ。だから元気を出して」

「そうだよユウナ。オレたちだっているんだし、ユウナが困った時にはいつだって力になるよ!だから安心して、みんなでユウナのパートナーフェアリーやレイアの魔力を見つければいいじゃんか」

「ヒナタくん・・・」

「ヒナの言うとおりや。オレらみんなもう覚悟キメてんやさかい、できることはなんだって協力するで?だから一緒にがんばろうや」


日向や光がそう元気づけてくれる。その言葉に他のメンバーもウンウンとうなづいている。麗も言葉には出さなかったがしょうがねえな。という表情で頭をボリボリと掻いた。

「みんな・・・」
「ありがとうみんな!アタシ、ぜったい自分の魔力見つけるからね!」


と、悠奈もレイアも笑顔になり、ギルドの冒険者リーダーたちも満足そうにうなづいたところで、草薙京がイリーナに向かって問い尋ねた。


「ところでイリーナさんよォ、俺らは具体的に一体何すりゃいいんだ?何のために俺らまでココについてきたのかがイマイチよくわからねえんだが・・・」

「ハイ、ヴァネッサ先生や京さんには彼等、ユウナちゃんたちのお世話役をして欲しいのです」

「・・・世話役?」

ヴァネッサの疑問にイリーナは笑顔で、しかし至って真面目な雰囲気で話し出した。

「わたし達やギルドの方々も彼等、セイバーチルドレンズを全力で支援いたします。それは先程約束したとおりです。ですが、ご存知のとおり彼らはまだ子どもです。常に大人が見守って上げることが必要でしょう。この使命は、彼らにとって想像以上に困難なものになることでしょう、グローリーグラウンドだけでなく、アナタ方の住む、ライドランドをも救おうというのですから。そんな時に、彼らの事情を詳しく知る、彼らの気持ちを分かってあげられる身近な保護者が限られただけでも存在すれば・・・そう思ってあなた方もこの世界にお呼びしたのです。いきなりこんなコトを話してしまって混乱されるかもしれませんが・・・この世界とあちらの世界、2つの世界を行き来しなければならないユウナちゃんたちを、なんとか支えてあげてくださいませんでしょうか?お願いします」


そう言ってイリーナが深々と頭を下げる。気づいてみれば彼女だけではない。ギルドの会長ベイルも、そして見れば冒険者ギルドのリーダーであるゼルもヴァネッサたちに跪いていた。


そんな彼らに京とヴァネッサはどこか観念したように、諦めたように。
しかし、清々しくこう答えた。



「んなこたぁ言われるまでもねえよ」

「ええ、そうです」

「え?」


「アンタらの世界を救うって聞いた時は何が何だかわからなかったし、話を聞いたら聞いたで心配な思いが湧いたのは事実っちゃあ事実だけどよ・・ケド、こうなっちまった以上は仕方ねえ。結局はヒナたちが決めたコトだしな。だったら俺らは何も言う必要はねえ、その気持ちを尊重して精一杯支えてやるだけだ。困っている人がいたら助けて上げなさい・・ってのはもともと俺と蒼司(そうじ)さんがヒナに教えたコトだしな」

「むしろ、人の役に進んで立ちたいっていうあのコたちの心意気に胸打たれました。私も、京くんと同じです。出来る範囲全力で協力します」


「子どもというのは大人の想像を遥かに上回るスピードで成長するらしいな。なれば保護者として、そんな子ども達の未来を安全に保護することも務めというものだ。なあ、トシ?」

「そうだろうな。イリーナ姫、我々も喜んで力をお貸ししますよ」

「私は麗の父親です。父が子の世話をするのは当たり前でしょう?麗と日頃から家族ぐるみで仲のいい日向くんたちも私の子どものようなものですから、責任を持ってサポートしますよ」

「この世の美女のために!・・・と言いてえところだが、この子達は俺にとっても特別な身内なんでな。この二階堂紅丸さまも一肌脱ごうじゃねえか」

「サイキョー流はな、強さも最強だが仁義と情も最強なんだよ!この火引弾さまがその悪党どもに正義の鉄拳制裁を喰らわせてやるぜぇいっ!」

「子どもをたぶらかすなんてふてえヤツラにはこのラモンさまが正義のルチャリブレでお仕置きしてやらねえとなあ、俺も協力させてもらうぜ!」

「草薙さんの弟分ってコトはオレの弟分も同じですからね!ヒナタやユウナちゃんたちが危ない目に合わないようにオレも力貸すっスよ!」

「もちろんオレもです!アキラやサラのことも気がかりだし・・・できる事はするつもりです!」


京とヴァネッサの声に大人たちすべてがすべからく賛同する。
その言葉を聞くとイリーナは2人の手を取り、ありがとう。ありがとうございます!と繰り返し言った。
その眼には涙が滲んでいた。





「で?具体的にはこれからユウナちゃんやヒナたちは何したらいいんだ?姫さんよ」

「そうですね。ダークチルドレンズはどこで事件を起こすのかわかりません。彼らに対応するためにはこちらもそれなりの対処をしておかないと・・・そこで、コレをご覧ください」

京の問いにイリーナは召使いらしき男に持たせていた大きな紫のダイヤ型の水晶を差し出した。


「・・・コレ・・は?」
「なあに?イリーナさま」

「コレはダークエナジーサーチャーというものです。エミリーの一件が起こって以来我が王宮の魔科学者たちが総力を結集して創り上げた魔力センサーです。このサーチャーはダークエナジー、つまりダークチルドレンズの魔力を感知して彼らがグローリーグラウンド、ライドランド、どこで事件を起こしても即座にその魔力を感じ取り、居場所を突き止めるというものです。コレを頼りにすれば、フォースクリスタル・デュエルやエミリーの魔力を開放しようとする動きを随時察知できます。ですからユウナちゃんたちにはこのサーチャーを頼りに彼らの企みを阻止してほしいのです」

「う・・う〜ん・・よく・・わかんないケド、取りあえずソレが教えてくれる場所に向かえばいいってコト?」

「まあ、そういうことねv」

先程の神妙な面持ちと打って変ったように天然っぷりが戻ったかのようなホワンとした笑顔で返してくるイリーナに悠奈はアハハ〜・・と引きつったような笑いを返した。
このどうにもテキトー感の漂う受け答えはどうにかならないものか?

しかしおぼろげながらもこれからの目的が定まりつつあった時に、突然、一同を緊張させる出来事が起こった。

水晶が突然、キュイン キュインという独特のサイレンを鳴らしながら赤紫色に眩く発光点滅し出し、そして映像を映し出した。


「!・・・サーチャーが!」

「ウワサをすれば・・・ね。ココは・・・街外れのサンミルク・ファーム!」

「イリーナさま・・・ソコに?」

「ええ、間違いありません。みなさん!ダークチルドレンズが現れました!」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「うわあぁーーーっっ」 「きゃあーーーっっ」 「ひえぇえ〜〜〜っっモンスターだぁーーっ!」

「ギャオーーっモォ〜〜っ」 「ヴモ゛モ゛―――っっ」


青空の下、放牧されている牛たちが平和に青草を食み、農夫たちが穏やかに乳を搾り、その光景を訪れた観光客が楽しそうに眺め、出来立てのミルクやチーズなどを嬉しそうに購入する。
乳搾り体験や放牧されている牛の温厚なモンスター、カウカーウと自由に触れ合えるという企画が人気のこの観光農場サンミルク・ファーム。
その平和な日常の1コマを突然惨劇が襲った。

突然、森の茂みの中から凶暴なモンスター達が現れ、牛や観光客に向かって襲い掛かってきたのだ。

小鬼のようなモンスター達が数十匹徒党を成して向かってきており、それらより巨大な鬼に似たモンスターが雄叫びを上げている。

慌てて逃げる観光客や農夫たち。カウカーウも外敵の襲来に驚き、鳴き声を上げながら右往左往している。

そしてそれを楽しそうに笑いながら見ている年端もいかぬ子ども達。
ダークチルドレンズだ。

「キャハハハハ!いっちゃえやっちゃえゴブリンちゃんたち!コレおもしろぉ〜い♪さすがエミリーさまのくれたアイテムだねジュナちゃんv」

「アミ、ふざけないで。それオモチャじゃないんだから・・・」

「ま、いいじゃないのよ。それにしても、スゴイ。サモンボールみたいな召喚アイテムじゃなくて、コッチの世界ではコレが有効なのね〜」

「そう。これならサモンボールも温存できる。ライドランドにモンスターを召喚する必要もなく、グローリーグラウンドではそこに生きる凶暴なモンスター達を意のままに操って、恐怖を高め、ジュエルモンスターで一気にマイナスエネルギーを吸い上げる・・・。エミリーさま、このモンスターパッド、必ずエミリーさまのお役に立てて見せます!行くわよ!アンタたち!」


エミリーからグローリーグラウンド攻略のために授かった新しい魔法道具、特殊な魔法によって既存のモンスター達の脳波を洗脳し、意のままに操ることが出来る「モンスターパッド」その威力にアミ、ジュナ、ナギサの3人が歓声を上げる。他のメンバー達も新しい面白い道具に興奮した顔つきだが、そんなメンバー達をリーダーのサキが締める。
号令によって各自が配置につく、何かと反発するチアキもこの時はすんなり指示に従い、新メンバーのナオ、リコ、リッキの3人もそれぞれ役目に回る。
ゴブリンたちが農場を瞬く間に占領し、逃げ遅れたカウカーウに喰いつこうとした時だった。



「ハイ!そこまで!」

「!・・アイツらっ!・・サキ!」

「現れたわね・・・セイバーチルドレンズ!」


サキが射抜くように睨み付けた先に、事件を察知して駆けつけてきた悠奈たち、セイバーチルドレンズがいた。
いつものメンバーに、それと、もう1人、エミリーにとっての大敵が彼らと一緒に立っていた。


「!?・・アイツ!」
「ああ?ダレだあのオンナ?そういやついこの間も見た記憶があるけど・・オイコラ、サキ、知ってるのか?アイツ」

「アンタホンットにバカ!?アイツこそエミリーさまの最大の敵、レンヴァードの現女王、イリーナじゃないのよ!」

「ほ〜、そっか。アイツがねえ・・」

「!?・・・ったく・・」


小競り合いをしているサキとチアキの様子を伺いながらも、イリーナはメチャクチャに荒らされた観光農場を見回した。
ダークチルドレンズに従うようにして中央に構えている大きなモンスター。恐らくはジュエルモンスターだろう。小さいモンスターの群れはゴブリン。
グローリーグラウンドでは1匹1匹の戦闘力はそれほど驚異的ではないモンスターだが、凶暴で徒党を組み、ある程度知能があるため数が多い場合は始末が悪い。彼等もダークチルドレンズが使役しているモンスターだろう。

周りに苦しそうに倒れているのは恐らくモンスターの恐怖で増幅した心のマイナスエネルギーを吸われた農夫や観光客たち。子どもも散見される。

イリーナは厳しい眼で彼らを見つめるとハッキリした口調で言った。



「アナタたち!どうしていつもいつも関係ない人達を巻き込むの!?自分たちがどれだけ恐ろしいことしているのか・・・わかっているの?」

「うるさい!エミリーさまの敵であるアンタに言うコトなんて何もないわ!さあ、やるわよアンタたち!」

サキがイリーナに辛辣に答えて後ろのメンバー達に号令をかける。
その声に反応した他のメンバー達がそれぞれ武器を構えて戦闘態勢をとる。既に変身しており準備は万端整っているようだ。
その様子に悠奈とレイアはイリーナの前に進み出てサキを正面から見据えた。


「!・・ユウナちゃん、レイア・・」

「現れたわね愛澤悠奈!性懲りもなくあたしたちのジャマをしてっ」

「ジャマってなに!?アンタたちこそ!こんな何も悪いコトしてない人たちにいっつもいっつもメイワクかけてさあ・・・いい加減にしたらどうなの?エミリーエミリーってその人にばっか気ぃつかってさあ、他の人はどうでもいいってコト?バカじゃん!」

「!・・エミリーさまをバカにしたわねぇっゆるさない!」

「コッチのセリフだし!みんな!行くよ!」


その悠奈の声に他のセイバーチルドレンズのメンバー達が『おう!』『うん!』と答えて変身アイテムを取り出した。




『シャイニングスパーク・トランスフォーム!!』




まき起こる光の奔流。
それぞれ色とりどりの光の中からコスチュームに飾られた子ども達が姿を現す。
さながらそれは虹の中から産まれた聖人のようであった。




「輝く一筋の希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」
「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」
「大いなる、青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」
「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」
「拳の闘気は雷神の魂・・セイバーチルドレン・ソウルグラップラー!」
「根性全開、爆裂!男気一直線・・セイバーチルドレン・ガッツストライカー!」
「大地の恵みは緑の息吹き・・セイバーチルドレン・ミスティメイジ!」
「地を行き巡るは勝負の理・・セイバーチルドレン・グリットギャンブラー」
「邪悪な心を打ち消す聖なる唄声・・セイバーチルドレン・スターディーヴァ」
「天を翔る疾風の妙技・・セイバーチルドレン・ゲイルシーフ!」


『聖なる魔力で悪を払う、セイバーチルドレンズ!ただいま参上!』


10人の魔法戦士たちがそう言って凛々しくダークチルドレンズに向かって立ちはだかった。





「・・・・え?・・え??・・・」
「な・・・なん・・だ?・・ありゃあ・・・」


と、呟いた声が2つ。

声の主は草薙京とヴァネッサだった。


初めて来た土地を、子ども達の後を追ってなんとかここまで辿り着いた大人の保護者連中たちは、目の前で起こったあまりの事態に思考を遮断され、みな阿呆の子のようにだらしなく口をあんぐりと開けてその光景を傍観していた。

色とりどりの光に子ども達が突然包まれたかと思うと、その光が彼らの身を覆い、あっという間に何やら見慣れぬ衣装を身に纏った姿で登場したのだ。


アレは、どう見ても・・・・・。




「・・・・ヘンシン・・?」
「・・・しちゃっ・・・た・・・の・・ねぇ〜・・・へぇ〜〜・・ヘンシンとかできるんだ」





『えええぇええーーーーーーっっっ!!!???』





不意に後ろから沸き上がった驚愕の絶叫に悠奈たちは思わず肩を竦め、声のした方を振り返った。

「あ!・・ヴァネッサ先生たち・・」
「あ・・そっかあ、京にーちゃんたちオレたちがヘンシンできるってコト知らないんだ」

「そう言えば言うてへんかったな」
「ヤベ、ビックリさせちゃったかな?」


悠奈、日向、七海、そして窈狼など年下のメンバー達が今追いついてきた保護者連中の存在に気づき、無防備にそんなコトを考えて話し合っている。
そんな緊張感のない彼らに麗の容赦ない檄が突き刺さる。


「ボーっとしてんじゃねえよテメエら!来るぞ!」

「あ!ヤッバイそうだった!イーファ!」
「おう!」

「レイア、みんな・・・行くよ!」

『うん!』
『おう!』

『オッケー!』


「望むところよ。行け!フレッシュゴーレム!ゴブリンたち!アイツらをやっちゃいなっ!」

セイバーチルドレンズの面々が戦闘に突入し散開した瞬間、サキの号令がモンスターの群れを動かす。
ジュエルモンスター、フレッシュゴーレムはもちろんのこと、モンスターパッドによってダークチルドレンズの支配下に置かれているゴブリンたちも「ケケケッ!エモノ!エモノ!」 「ギャッギャッ!ニンゲンノコドモ、ウマソウ!」と片言の言葉を発しながら迎え撃つ陣形をつくる。


「ジャスティスブレード!・・・でやあっ!」

「せぇいっ!」

まずはじめにゴブリンの陣形の中に切り込んだのは日向と窈狼だった。
日向は武器である剣を召喚し、一番正面にいたゴブリンを叩き斬る。窈狼はそのすぐ隣にいた別のゴブリンを日向の先制攻撃で面喰っている間に懐に滑り込み、顎に打ち上げるような正拳をめり込ませて吹き飛ばした。

その攻撃に続けと言わんばかりに今度は悠奈と七海が前へ出る。
少し離れたところから彼女らも日向のようにそれぞれ自身のアクセサリーを手に取り、ハートフルロッドとコルセスカを召喚する。

「ヒナタくんとヤオラン、アタシたちも助けるよナナミ!」

「アンタに言われんでもわかってるわ!」

「ダンシングロッド!」
「アクセルスピン!」

悠奈が回転したハートフルロッドを放つと、それがゴブリンの群れの中で暴れ回り、周囲のゴブリンを蹴散らす。
列が乱れたゴブリンに今度は七海が習っているフィギュアスケート仕込みの回転飛びからコルセスカを振り回し、数匹を薙ぎ払った。

開幕からの先制攻撃にいささか面喰ったゴブリンたちだったがそこは獰猛なモンスター、すぐに攻撃態勢を取り直すとそのまま悠奈と七海に狙いを定めてじりじりと詰め寄る。
しかしそこに今度は那深、咲良、麗奈の攻撃魔法が炸裂し彼らを再び飛び退かせた。


「大いなる恵みの緑を司りし精霊フォレスティアよ、愚かなりし災いの子らへ戒めの刃を与えん・・リーフアロー!」
「大地の精霊ノームよ、邪なるものを汝が清き大地の剣で穿たん・・ダイヤニードル!」
「星の精霊ルナティ、我にその輝ける力を示し、邪悪なる者に流れる星の裁きを下せ・・シューティングスター!」


「ぐびゃびゃっ!」 「クケケケぇ〜〜っっ」


叫び声を上げて逃げ回るゴブリンたち、その周囲に緑の刃とダイヤの剣、星光の弾丸が降り注いだ。


「よっしゃあ!よくやったぜサラたち!龍連牙!」
「オレらも行くで!スラッシュキィック!」
「タイガーキック!」


ゴブリンが四散したところを晃、光、麗がそれぞれに知り合いの格闘家から習い覚えた得意技で突進して蹴散らし、そのまま巨大なジュエルモンスターへと迫った。
3人ともアクセサリーからそれぞれ武器を召喚し、フレッシュゴーレムに打ち込んだ。

「うおらあっ!」
「せいやあっ!」
「せやぁいっ!」


ゴーレムの方はというと、予想以上の速い突進に対応しきれなかったのか、それぞれに渾身の一撃をまともにその身に受け、やや後退したが、見た目通りの耐久力なのかすぐに態勢を立て直すと「グロォイ!」と唸り声を上げて太い腕を振り回して反撃してきた。
今度は予想外だったのは麗たちの方だ。
即座の反撃に回避が間に合わず、丸太のような腕に吹き飛ばされてえ原っぱの地面に叩きつけられる。

「うわあっ!」

「ぐあっ!」

「・・・っぐっ!」

「アキラくん!ヒカルくんっ!レイ!」

「あっ・・アキラぁっ!」
「ヒカルちゃん!大丈夫っ!?」
「きゃあぁ〜〜〜っっレイちゃぁんっ!」


「いっちちちち・・・お〜イテ、ビックリしたぜったく・・」
「心配すんな!大丈夫や大したことあらへん・・・にしても、相手のモンスター確実に強なってきてるな・・・」
「・・・っっノヤロ!このニクダルマがフザケたマネしやがって!ヒキニクにすんぞコルぁっ!」

完全に先手を取ったのはセイバーチルドレンズの面々、だが戦いを重ねていくうちに悠奈たちだけでなく相手モンスターのレベルも確実に上がっている。
ゴブリンたちもダメージを負ってはいるがことのほかしぶとく、陣形を組み直して再度悠奈たちに迫ってきていた。
日向と窈狼が何とか迎撃して倒したのは4体、あとまだ10体以上も残っている。


「へぇ〜・・中々いいの連れてきたじゃない。これならイケるかもしんないじゃんサキ」


メンバーの中でも戦闘力が高いヒカルたち年上の男子チームが思わぬ反撃を受けたことで戦況が有利とみたダークチルドレンズのジュナは、サキの方を振り向いて笑みを浮かべながら言った。
それにサキも満足そうな笑顔で答える。

「当り前でしょ?そう何度も同じ失敗してたまるかっての・・・さあ!モンスターども!そいつらをさっさと叩きのめしちゃいな!」


サキがそう言うとフレッシュゴーレムがまるで承知した!と言わんばかりに両腕を天に突き上げ、「グオォオーーッッ!」と吼える。それに続いてゴブリンたちも『ギャギャギャっーー!』『イジメテヤルーーっ!クッテヤルーーっ!』と雄叫びを上げる。

悠奈たちは苦戦を覚悟し、迫ってくるモンスター達を緊張した面持ちで見つめた。

そしてその様子を彼等以上に緊張して見ている視線が他に・・・




「・・・な・・なんて・・こった・・」

「戦ってる・・・あんな小さいガキどもがあんな凶暴なバケモノと・・・」

「い・・今手からなんか出てたぞ!・・・アレが魔法ってヤツっスかね?・・・ってそんなコトどーだっていいんだよ!ヤバイじゃないっスか!あんなデカイ化け物相手に小さい子ども達だけじゃ・・・オレ達も加勢しましょう草薙さん!ホラ早く!」


ダンとラモン、真吾がそう慌てて叫んだ時、イリーナが「いけません!」と強い口調で答えた。
その言葉に皆イリーナの方を振り返る。


「アナタ方ができるのはあくまでも彼等の生活面でのサポートのみ、ダークチルドレンズとの魔法を駆使した戦いにおいては戦闘には参加できません。これはユウナちゃんやヒナタくんたちにとっての成長となる試練なのです。ダークチルドレンズやモンスター達との戦いを通してユウナちゃんたちはレベルアップしていかなければなりません。でなければ彼らがグローリーグラウンドを救うことはできないのです!ですからどうか・・・わかって下さいっ!」


「ええ!?そ・・・そんな!?」
「オイ!ジョーダン言ってんじゃねーぞイリーナさんよ!あの子たちはまだガキだぞ!?」
「そーだぜ!もし予想だにしないキケンが降りかかってきたらどーすんだよ!?それでも見てろってのか?オレぁできねえぞ!そんな子どもを危険にさらす行為なんざっ!」

「く・・・草薙さん!ヒナタにもしものことがあったらどうするんですか!?草薙さんてばぁ!」



「黙ってろ真吾。うるせえんだよ」



と、ぶっきらぼうに投げかけられた意外な一言に真吾たちが凍り付く。
黙っていろだと?今の真吾の発言に何か1つでも間違った内容があっただろうか?
今は日向のピンチなのだぞ?いつものテキトーめんどくさがりの性格だからという話では説明がつくまい。

「あ・・・アンタねえっ・・・!」


さすがに真吾も語調を荒げて反論しようとした時、京がイリーナに歩み寄り事もなげに言った。


「オレらはこの戦い、見守っていりゃいいんだな?イリーナさん」

「・・・ええ、お願いします」

「ならハナシは早え、どの道オレぁはじめからそのつもりよ」

「ええ!?」
「京ォ!おっ・・・お前っ!?」
「んなにバカ言ってやがんだ!お前ヒナタたちが心配じゃねえのか!?」

そんな京の答えにラモンやダンまでもが鬼気迫る表情で詰め寄ったが、当の京は平気な顔をして腕を組み、日向達を眺めてこう答えた。

「オメーらの気持ちはありがてえがコイツぁヒナたちの喧嘩だ。子どもの喧嘩に大人がしゃしゃり出るもんじゃねえ、ここで見届けろ」

「なにワケわかんねえコト言ってんだ京ォ!ヒナタたちは格闘技の試合してんじゃねえんだぞ!?見てみろあの化け物ども!あんな凶悪なツラしたヤツラ相手に無事ですむと本気で考えてんのか!?ヴァネッサ姐さんも!陽生も何とか言えって!」

子どもが大好きなラモンのこと、悠奈や日向らの身を案じて思わず声を荒げる。その矛先は陽生や憧れであるヴァネッサの方にまで飛んだ。
だが、彼等も京のように黙り込んで、じっと悠奈たちの方を眺めている。動こうという気配すらない。
ラモンの不満は頂点に達した。


「陽生・・・ヴァネッサ姐さん・・・・お・・お前ら・・・お前ら何考えてんだぁ!?冗談にしたって笑えねえぞ!?なあ、オイ陽生!おめえアキラやサラちゃんが心配じゃねえのか!?ヴァネッサ姐さん!あんた麗たちの家庭教師じゃなかったのかよ?教え子のピンチだってのに黙って見てるってのかぁ?ええ!?」

「ラモンさん・・・」
「ラモンくん・・・」

陽生とヴァネッサがラモンの方を見ると、彼の顔は滅多に見せない焦りと苛立ち、怒りに満ちた表情をしていた。
彼は本当に子どもが好きなのだ。だからこそ放って置けない。
彼の優しさからくる当然の非難、しかし・・・


「っ・・・もういいわかった・・・テメエらが動かねえってなら俺が・・・・」
「よさねえか」

と、たった1人で子ども達の加勢に向かおうとしたラモンを遮ったのは、今度は二階堂紅丸だった。
彼は胸ポケットから煙草を取り出すと、指先を弾いて電撃を引き起こし、生じた熱で火をつけるとゆっくりと吸って煙を吐いた。

「・・・ラモン、今は珍しく俺も京の意見に賛成だ」

「なっ!?・・べっ・・紅丸・・・お前までっ・・・どういう神経して・・・っ」
「フツーの神経だいたってな。お前の気持ちもわかる。だが、京の言うとおりこれはヒナタやユウナちゃんたちの戦いだ。俺達が手を出すべきじゃねえ」
「なにバカ言ってんだ!あんな子ども達にそんな危険なマネをさせてもし何かあったら・・・っっ」

「ラモン・・・お前ならどうする?」

そこで再び草薙京が口を開いたことでラモンは言いかけた言葉を飲み込み、彼の方を見た。
京はラモンに近づくと、その胸に拳をトン。と置いてゆっくりと語り掛けた。


「例えばだ。お前がKOFや任務なんかで自分の前にとんでもなくデカくて強そうな男が立ちはだかったとする。危険そうな目付きをした奴だ。お前はそんな時どうする?そんなヤツとは闘えないと尻尾を巻いて逃げるか?」

「そ・・・そりゃあ・・・んなこたぁ・・」

「そうだろうが。アイツらにしたって同じだ。ユウナちゃんもヒナも、みんな自分で決意して覚悟をキメてあの戦いに身を投じたんだ。だったらその意気を組んでアイツらを見守ってやるのがオレらのしてやれる最善のことじゃねえか」

「・・・・」

「ラモンくん、ありがとうね。いつもレイちゃんたちのこと気にかけてくれて・・・でも、わたしも京くんと同じ気持ちよ。あのコ達が心配じゃないわけないわ。でも、自分たちで決めたことなら出来るだけ自分たちで乗り越えて欲しいの。イリーナさんの魔法の力とかはわからないケド、それが成長に繋がるというのはわたしにもわかるわ、はじめから大人の手を全部借りちゃソコに成長なんてないと思う・・・」

「何も一切の手出しをせんと宣言したわけじゃない。勿論彼らがピンチに陥れば俺は誰が何と言おうとあの子達を助ける!あの子達の生命の安全に関わることには遠慮なく手出しをする!・・・それでよいのだろうな?イリーナさん」

「・・・ハイ。お願いします」

ヴァネッサや近藤勇蔵の言い分にラモンもようやく納得したように頷く。その様子に東一哉も土方歳武もゆっくりと首を縦に動かした。

「見ろ。お前が思っているより子どもの成長というモノは案外早いのかも知れんぞ」

「え?」

土方歳武に言われてラモンは悠奈たちの方に視線を移した。
すると自分たちが言い争っているうちにセイバーチルドレンズは再び態勢を整え直し、その凶暴そうなモンスター達と五分以上の戦いを繰り広げていたのだ。

日向と窈狼の活躍によって半数以上のゴブリンが倒され、すでに彼らはジュエルモンスター、フレッシュゴーレムに攻撃の標的を移している。
残ったゴブリン達は那深と咲良が魔法攻撃で応戦しており、麗奈、七海が後方から支援。
晃、光、麗はフレッシュゴーレムを相手にしていたが、形勢が不利に傾いてきたと見て直接加勢に来たダークチルドレンズのジュナ、アカネ、そしてチアキとも応戦している。


「・・・ヒナぁ!負けるんじゃねえぞ!」
「レイちゃん!ヒカルちゃん!みんなしっかりぃ!」

いつの間にか大人達はセイバーチルドレンズの面々を応援していた。

そして、悠奈は1人、正面からリーダーのサキと対峙していた。


「チっ・・ウッザイヤツラ。だからオトナってキライなのよ」

サキは舌打ちをして応援の声を上げている京たちに軽く毒づくと正面に立っている悠奈に向かって吐き捨てた。

「エミリーさまのジャマばかりして!アイザワ・ユウナ!今日こそ決着つけてやるわ!」

「なにソレ!?意味わかんないし!何も悪い事してない人たちを苦しませてるのはアンタらじゃん!いい加減にしてよね!」

「くぅっ・・相変わらずナマイキなヤツ・・・これでも喰らっちゃいな!・・・ファイアボール!」

「ユウナちゃん!」
「コッチだって・・・ファイアボール!」


と、サキが手から放った燃える弾丸。それを悠奈も同じように火球を召喚すると正面から迎え撃った。
両者の中央で火球が唸りを上げてお互いを喰い合い、弾けて四散した。
予想外の展開にサキが声を上げる。


「そっ・・・そんな!?いつの間に!?詠唱せずに撃てるようになったの!?」

「な・・なんか咄嗟にできちゃった・・・」
「スゴイよユウナちゃん!スペルの詠唱せずに攻撃魔法が使えるなんて!魔力が上がった証拠だね!」
「そ・・・そうなのかな?」

「調子にのるんじゃないわよ!そう何度もマグレが続くとおもわないことね!エリザベート・チェンジ・ザ・ブルーム!」

と、サキが剣をかたどったような首飾りを外すと、それを構えてそう叫ぶ。するとなんと光を放って、それがレイピアのような剣へと姿を変え、その剣の持ち手の部分にさらに真っ赤な蝙蝠のような翼を生やしたステッキ状の武器へと変化した。
そしてそのままそれに飛び乗ると、なんとサキはそのまま空中を自在に飛び回り始めたではないか。

「なっ・・・なによアレ!?」
「フライスペル!武器やアイテムに飛行能力をつける魔法だよ!」

「アハハハハハ!どう?驚いた?でも今さら後悔したって遅いわよ!空中からファイアボールの乱れ撃ちをご馳走してあげる!」

と、空中を旋回しながらサキは悠奈の方を狙って手を翳し、魔法力を集中しはじめる。サキの掌が光を灯した。
その様子を見て大慌ての悠奈。

「ちっ・・ちょっと来るわよレイア!どーすんのよ!?」

「おちついてユウナちゃん!コッチも空飛んじゃおう!」

「はあ!?バカじゃんアンタ!?そんな魔法使えるわけないじゃん!」

「大丈夫、今のユウナちゃんのレベルならきっと使えるハズよ。自分を信じて!」

とレイアにしては珍しく彼女は毅然とした表情で悠奈に言い放った。
悠奈は疑いの眼差しでレイアを見つめていたが、今はそんなコトに気をもんでいる状況ではない。既に今にもサキの手によって火の玉の雨が降って来そうな勢いなのだ。

「わ・・・わかったわよ!で、どうすればいいのよ?」

「そのまま叫んで!ハートフルロッド・チェンジ・ザ・ブルーム!って」

「え?いきなり?」

「いいからぁ!いそいでユウナちゃん!」


「目にモノ見せてやるわ!喰らえファイアボール!」

「ああもうっ!知らないかんね!ハートフルロッド・チェンジ・ザ・ブルーム!」


と、悠奈が叫ぶと、同時にカウンターでサキが魔法を放った。



ハズだった。



「きゃあぁあぁ〜〜〜〜〜っっっ!!」



突如として上がった悠奈の絶叫。
その声に何事が起ったのかとセイバーチルドレンズ、ダークチルドレンズ、双方のメンバー全員の眼が一斉に声の方へと注がれた。

「ユっ・・ユウナ!」

「なっ・・・なにしてんのユウナのヤツ!」

「すっげえ・・・アレ・・さぁ・・ユウナも・・・」



『空飛んでる・・・』



と、日向、七海、窈狼の声の続いてメンバー全員がそう漏らした。

レイアに言われ半ばやけっぱちで呪文を唱えた瞬間、悠奈のハートフルロッドにもサキと同様に翼が現れたのだ。

真っ赤な蝙蝠のような翼ではなく、白く輝く鳥のような翼。
それが生えた途端、悠奈の体が大地から跳ね、大空へと舞い上がった。
悠奈はサキと同様、いや、飛行アイテムの上に二の足でしっかりと立ち、空中を自由自在に駆け巡っている彼女に比べると、体ごとロッドに跨り、フラフラとかなり危なっかしい姿ではあるが、確かに空を飛んでいた。


「きゃあぁあぁ〜〜〜〜〜っっおっ・・落ちるぅぅう〜〜〜っっ!」
「ヤッタネユウナちゃん!♪思ったとおりユウナちゃんもフライスペルが使えた!ユウナちゃんならできるってアタシ信じてた!ネvアタシの言ったとおりでしょ?」

「ネv・・じゃないわよ!どーすんのよ!?このジョーキョー!こんな高さから落ちたらケガじゃすまないジャン!たっ・・たすけてえぇ〜〜〜っっ」



「キャアアァーーーーっっ!!ユウナちゃーーーーんっっ・・・アブッ・・アブっ・・アブナイっっ!!キャーキャーキャー!!!ちょっと京く〜〜〜んっっ」

「なんっでもアリか!?この世界は!?オオオオ・・オイ真吾!紅丸ぅ!陽生!ユウナちゃんがいつ落ちてきてもキャッチできるように準備しとけっ!」

「ええぇえ〜〜〜っっでっででで・でも・・・っ!」
「草薙さぁ〜んっ・・お・・オレこーゆーの自信ねえっスぅ〜〜っっ」
「バーカ。お前らがミスってもダイジョウブvこの俺様がしっかりとキャッチしてやるさ。未来の美女をこんなトコロでむざむざ失うわけにゃあいかねえからな。ユウナちゃんならあと10・・いや、7、8年もすりゃあとびっきりの上玉になると俺の見立てには出てるからな」



と、この状況に悠奈だけでなく、大人達も血相変えて右往左往。
ヴァネッサなどはもはや顔を真っ青にして半分ベソをかいている。
陽生、真吾、紅丸も思い思いに悠奈が落ちて来た時の事を考えて受け止められるようそれぞれ準備をしていた。

そんな緊張感漂う危機的状況において、レイアは極めて冷静にお気楽に悠奈にこう言い放った。

「ダイジョーブ!ユウナちゃん、自分の魔法力を信じて!ユウナちゃんがハートフルロッドを信じれば、ロッドも必ずユウナちゃんを助けてくれるハズ!ユウナちゃんの思った通りにきっとロッドも動いてくれるよ!忘れないで、魔力の源は信じる心だよv」

「れ・・レイア・・・」

言われて悠奈は自分がフラフラと跨っているロッドを見つめた。
見つめても危なっかしい頼りない動きは変わらない。
何を信じれば良いというのだ?と考える。

(・・・自分を・・・信じる・・・)

と、悠奈がそう思った時、体の奥底からまた何やら暖かい力が流れて来る気がした。
目を閉じて意識を集中してみる。


(自分を・・・)

「ちいっ!・・マグレで浮き上がれたぐらいなんだって言うのよ!そのままアタシの魔法の的にしてあげる!喰らえ、ファイアボール!」

と、精神統一を図って隙まみれの悠奈。
コレをチャンスとみたサキがここぞとばかりに魔法を放った。サキの掌から放たれた火球が空気を焼き焦がしながら悠奈に向かって襲い掛かる。


「危ない!ユウナっ!」

日向の声に味方の悲鳴がいくつか重なった。
悠奈の体が炎に包まれたのだ。空中で燃え盛るサキの魔法。

「よっし!直撃!」

コレで火傷を負って落下は間違いないとサキはほくそ笑んだ。

「!」

しかし、その笑みは一瞬で消え去り、代わりに驚きの表情へととって変わる。
悠奈は炎の中から掠り傷1つなく現れ、そして、見れば、自分と同じようにロッドの上に立って気持ちよさそうに空中を飛び回っているではないか。

「やったあっ!ユウナ!」

「飛んでるやんユウナのヤツ!イエイ!」

「無事だったんだ!やったぜーっ!」

悠奈の無事な姿に日向と七海、窈狼が歓声を上げる。それに重なるようにサキの「そんな・・・」という愕然とした声が小さく風に消えた。


「ね?アタシの言ったとおりでしょ?ユウナちゃん!」
「こ・・コレ・・ホントに・・アタシ、飛んでんの?」
「そうだよぉ、ホラ!だって周りを見て!」

レイアに声をかけられて恐る恐る悠奈は周りを眺めた。

まるで絶叫マシンに乗ってるかのごとく流れていく風景、地面は自分の遥か下。
しかし、不思議と恐怖はまるで感じない。むしろ・・・


(コレ・・・・気持ちいい・・・っ!)

今まで感じたことのないえもいわれぬ開放感。

子どもであれば誰でも一度は夢見るであろうその夢。


空を飛ぶ。
今、悠奈ははからずもその願望を思う存分叶えていた。



思わぬうちの悠奈のレベルアップ。
自分でもよくわからないという風の悠奈を見ながらサキは焦りから歯ぎしりしていた。

(ヤバイ・・・コイツら、知らず知らずの内にどんどんレベルアップしていく・・・なんとかしなきゃ・・なんとか・・・)

「サキぃーっ!なにぼおっとしてんのよ!?ヤバイってえ!」

「え?」



「草薙流、百式・鬼焼き・斬!おおぉぅりゃあっ!」



と、一瞬考え事に時間を奪われたサキにジュナの悲鳴にも近い呼びかけが届いた。
慌てて声の方を見る。
見るとジュエルモンスターのフレッシュゴーレムが草薙日向に炎を纏った伸び上るような斬撃で斬り上げられ、たたらを踏んでドオンっ!と倒れ込んでいるではないか。

鈍重なモンスターの隙をついた、草薙日向の正に必殺渾身の一撃だった。


「京ォ!ありゃあっ・・・お前の・・鬼焼き!?」
「ウッソだろォ!?まだ小学生のヒナタが草薙さんの技をぉ!?」

「オヤジのヤツ・・・剣術のマネごと仕込んだなんて言ってたが・・・鬼焼きをあんな風にアレンジしやがったか・・・ヒナのヤツ、生意気にサマんなってるじゃねえか」


草薙京の得意技、鬼焼きを剣術式に改良した日向の百式・鬼焼き・斬(ざん)。
その子どもながら形になっている技と体捌きに紅丸と真吾は驚き、京も日向の才能に軽く唸った。

大人達の感心した声など聞こえていない日向は、そのまま悠奈に向かって叫んだ。

「今だぁーっ!ユウナぁーっ!」

その声を聞くと悠奈は、「うん!」と返事をして正面のサキに背を向けて、日向の方まで飛んでゆくと、そのまま「ハートフルロッド、ロッドに戻って!」と言う。すると持ち主の言った通りにロッドの翼は瞬時に消え、そのまま地面へと悠奈は降り立った。そして日向の方へと走り出す。

「バカね!戦いの最中に相手に背中を見せるなんてっ!エリザベート!」

と、悠奈のその姿を見て、サキが同じように地上へと猛スピードで飛び降りながら、自身の武器へそう命じると、それが今度は飛行アイテムからレイピアのような剣へと姿を変える。
そのまま悠奈に向かって追いすがり攻撃を加えようとした。
しかし、直後、サキの目の前に何者かの影が突然躍り出、突き出した剣の先にガキィ!という金属音。

「!!」

「ユウナんジャマはさせへんで!」

影の正体は香坂七海だった。
七海がサキと悠奈の間に即座に割って入り、コルセスカを手にサキの剣先を弾き返したのだ。

「!・・・ナナミ!」

「っ・・ちょっ・・ジャマよっ!どきなさいって!」
「誰がどくかっちゅうねん!ユウナぁ!このナナちゃんが手ぇ貸したげるから早いとこキメてや!」

「ユウナちゃん!」
「わかった!」

悠奈はそのまま倒れ込んだフレッシュゴーレムの前に回り込むと、ロッドを翳してハートを形作ると、いつもの決め手の浄化魔法を放った。





「悪い心は、聖なる光で飛んでいけ!シャインハート・フラッシュ!」





ハート型のピンクの眩い光がゴーレムを包み込み、ゴーレムの体を浄化してゆく。
「ゴモモモォ〜〜・・」という唸り声を上げながら、巨大なゴーレムは光の中に消え、そしてそれを形成していた宝石も消滅した。



「うおおぉぉっっ!??なっ・・なんだあありゃあっ!?」
「突然ユウナちゃんの手からなんか光が飛び出したぞ!?ありゃ気かなんかか?」
「い・・・いや、それともチガウ・・・アレが魔法ってヤツか・・・ってか他の子もさっきから手からバカスカなんか光っぽい弾丸発射してたな・・・」
「もう・・・声も出ないっスね・・・オレだってまだ火、出せないってのに・・・」

「・・・・アキラとサラが・・・なんか・・・ホントに魔法とか使えるんだな・・・」
「驚きは覚悟の上だったが・・・なあ一哉くん」
「え・・ええ、さすがにここまで現実離れした光景バンバン見せられると、もう笑えて来ちゃいますね・・ハハハ・・・」

「コレが魔法・・・か。どうやら信じざるをえんようだな。ヴァネッサさん、京くん」


「レイちゃんたち・・・それに・・・」

「ユウナちゃん・・・一体何者なんだ?あの力は・・・」


と、離れた所で一連の子ども達の戦いぶりを観戦していた大人連中は、目の前で繰り広げられていたそのあまりにも現実から逸脱したバトルにもはや本日何回目かの唖然呆然を経験していた。
彼らとてKOFなどで闘気を扱って戦う格闘家を何人も見てきたし、京や紅丸、ダンや近藤たちなどは自身も体から闘気を発し、それを熱や電撃を宿した光弾として発射する技も体得している。

しかし、京にしろ勇蔵にしろ、それらは長年の修行や流派に基づく厳しい鍛錬の末にようやく会得してきたものである。しかし目の前の子ども達は大した修行も積んでいないのに自身の体から魔法と名の付く光や衝撃波を当たり前のように発してモンスター達と闘い、そして一丁前に武器を召喚してそれを振るっている。

武術の鍛錬を受けている日向や麗たちではなく、あろうことかあの悠奈という普通の小学生の女の子がその身1つで巨大な鬼のような化け物までも消滅させてしまうとは、武道の世界に長年身を置く彼等としてはにわかには信じられない光景が広がっていたのだ。



コレが魔力。



自分達がまだ知らぬ力。



と、大人達がそんな驚きを感じていることなど知りもしないダークチルドレンズの面々は、形勢が一気に逆転してしまったことに明らかに動揺していた。
真っ先にアカネとジュナの姉妹がサキに対して文句を言う。


「ああっ!?オレらのゴーレムがっ」

「何よ!アンタ大口叩いといて結局とめられてないじゃない!」

「うっ・・うるっさいわね!ジャマが入ったのよ!ああもうムカツク!アンタなんかに・・・アンタなんかにジャマされるなんて・・っっ」

サキが悔しそうに歯ぎしりしながら睨み付ける先にはニシシシ・・とイタズラっぽく笑う七海がいた。
そのもとに、今モンスターを倒したばかりの悠奈が駆け寄る。

「ナナミ!ありがと!サポートしてくれて」
「おう!感謝しいやナナちゃんに!でも、ま、ジュエルモンスターをやっつけれんのはユウナだけやさかいな。とりあえずお疲れ!」

手をパン!とハイタッチして喜ぶ悠奈と七海。
その様子にサキの顔がさらに歪む。
屈辱に顔を歪ませるサキを正面から見据えながら、悠奈は凛とした表情でゆっくりと彼女に語りかけた。


「ねえ、サキ・・・だったよね。もうやめようよ、こんなコト。自分のために誰かを悲しませてもいいってエミリーの考え方、アタシよくわかんないケド絶対間違ってる気がする」

「ふっ・・フザケないで!アンタなんかに・・アンタなんかにエミリーさまの何がわかるってのよ!?ロクに知りもしないクセに・・・」

「わからないよ。わからないケド・・・こんなのゼッタイ間違ってる!」

「うっ・・うるさい!うるさいうるさいっ!アンタなんかぁっ!」


「!・・ユウナ!危ない!」


日向が悠奈に向かって悲痛な叫び声を上げる。
サキが怒号を上げながらレイピアを振りかざして悠奈に飛び掛かった。咄嗟のことに反応が遅れた悠奈。

間に合わない。
サキの剣先が悠奈に向けて振り下ろされる。


「きゃあっ!ユウナ!」
「ユウナちゃん!」



「ユウナぁーーーーっっ!!」



七海とレイアの声に続いた悲痛な日向の叫び声が虚空へと掻き消える。




果たして・・・



悠奈は掠り傷1つ負わなかった。

痛くない。
何が起こった?自分は確かに無防備でサキの攻撃を受けたはず・・・


悠奈が恐る恐る開くと・・・




「あ・・・」

「よお、ユウナ。また会ったな」

「あーーーーっっっ!アンタっ・・あ・・アンタっ!」

「ゆ・・ユイト!?どうしてココに!?」


悠奈をサキの凶刃から救ったのはアジアンブルーがかった黒髪の少年、ユイトだった。
いつものように皮肉っぽい笑みを浮かべて悠奈を見下ろしている。
その腕、片方はサキの剣を持った腕を内側に抑え込んでおり、もう片方は悠奈をガッチリと抱いていた。

「アンタってそっけねえのな。ユイトって呼んでくれよ」

「るっさいっ!ダレが呼ぶか!?・・ってか勝手に寄るな!触るな!ヘンタイ!チカン!」

「あーあ。ヒッデエの、せっかく助けてやったってのに・・・オレが助けてやんなかったらどうなってたか」
「ニッシシシシ・・・きっとサキの剣でケガしてピーピー泣いてたぜ♪」


笑いながらそんなコトを言われて悠奈は顔を真っ赤にしてウ〜〜・・と唸る。
さらに挑発するようにユイトの隣に現れたのは彼のパートナーのレムだ。彼も悠奈をからかうように笑っている。

しかし、ユイトに今度はサキが噛みつかんばかりの勢いで言う。

「どういうつもりよユイト!そんなヤツを助けて・・・エミリーさまの敵を庇う気!?」

「オイオイ、勘違いしてんじゃねえよ。オレはオマエの事も助けてやったんだぜ?もうジュエルモンスターもやられちまったんだろ?このままやってもますます分が悪くなるだけだぜ?ココは、退いておいた方が無難なんじゃねえか?」

言われてサキは戦況を確認した。

もはや気づいてみればジュエルモンスターもいなければゴブリンもいつの間にか全
滅。
自分を含めたダークチルドレンズが総力を結集すれば勝てるかも知れないが、相手の東麗や日向光、南晃などは明らかに戦闘レベルが上。
冷静に考えれば自分たちが痛手を被る危険性もあり得る。

サキは「くぅっ・・」と無念そうに呻く。

(せめてフォースクリスタルバトルなら・・っ!)

「わかったらホラ、帰るぞ。オメエらも!じゃあなユウナ、またなv」


と、またしてもユイトはサキたちを連れて戻ろうと背を向けた。


そんな時だった。

「!・・・あぶねえユイト!」

「!」


ガキイッッ!という激しい金属音が当たりに響いた。
突然のその音とそして広がった光景に周囲のチルドレンズ誰もが息を飲んだ。


「っ・・ぶねえな。不意打ちたぁゴタイソウなマネしてくれんじゃねえか。ええ?ヒナタ」
「ヒナタくん・・・」


なんと草薙日向が燃えるような目でユイトを睨みつけ、そして彼に背後から斬りかかったのだ。
不意打ちにも関わらずユイトは見事な反応で剣を召喚すると日向の斬撃を真っ向から受け止めた。そのユイトの顔を見上げながら日向が答える。

「不意打ちだって?オレの攻撃なんて手に取るようにわかっただろう?」
「へえ・・・なるほど。この前よりはレベルアップしてるってワケか?」

ユイトは剣を横薙ぎに払って日向の剣を払いのけると2つ飛びほどバックステップして間合いを話して言った。

「・・・お前、ちゃんとジョブ習得したみたいだな。なるほど強くなってるワケだ・・じゃ、そろそろちょっとマジメに相手してやっかな?」
「おっ!やるのか!?ユイト!ついにコイツらに見せてやるんだな!?いいぞぉやれやれぇーっ!」

レムがそう言ってはしゃぐ。
一体何が起こるんだ?セイバーチルドレンズ全員が剣を両手を開いて正面に構えたユイトを見て思った、その時だった。



「ダークスパーク・・トランスフォーム・・!」



と、その呪文をユイトが唱えた瞬間、眩い蒼紫色にユイトの体が輝きを放った。
そのまま妖しい光の中でユイトがいつもの黒を基調としたいつもの服装から青黒2色がテラテラと光るライトアーマーに身を包み、ライダースーツのようなパンツと大きな剣を背に背負った日向とはまた異なる出で立ちの戦士へと変貌を遂げた。


「へ・・・ヘンシン?・・アイツ・・も?」



「剣戟の冴えは闇の咆哮・・ダークチルドレン・ヴァイオレンファイター」


「ふぁっ・・ファイター・・・って・・・お、オレと・・同じ?」

「おうよヒナタ、コレでお前と同じだ。いや、ウデはオレの方が上だからちと有利かな?」

「なっなんだと!?」

「信じられねえか?試してみろよ、ヒナタ」

「・・・おもしれえ、やってやるぜっ!」

「ヒナタくん!」

悠奈の叫び声が合図だったとでも言うように日向とユイト、2人の闘いが始まった。

日向の真正面からの唐竹割りを剣を水平に構えていなすユイト。
次いで流れるように体を回転させて日向はそこから胴回しの回転斬りをユイトに打ち込む。しかしこれもユイトはこんどは刃を縦にして受け止める。
さらに止まることなく袈裟斬りから斬り上げの連続攻撃を放つ日向だったが、ユイトはそのことごとくを受け流した。

「っ・・ちいっ」
「どうしたヒナタ?お前の攻撃ってなそんなモンか?だったら今度はコッチから行くぜ・・!」

と、ユイトは動きが止まった日向の懐に一足飛びで踏み込んだ。想像だにしていなかったスピードに日向は面喰う。


(!?・・はっ・・速・・・っ)
「オラアッ!」

「うわっ!?」


飛び込みざまユイトは右袈裟に斬り込み、そしてそこから即座に左袈裟に斬り上げる連続攻撃を放ってきた。
何とか剣で受け止めることは成功したものの、ユイトの剣戟の威力によって大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる日向。

「ヒナタくん!」

「くっ・・・てぇっ・・ちくしょぉ・・っ」

「どうした?ヒナタ、こんなモンじゃねえだろ?」

「ヒナぁ!」
「くそぉ・・アイツ、やっぱり・・・」


地面に倒れ込んだ日向。
ユイトを睨みつけながら何とか立ち上がる。劣勢の日向を見て声を上げる悠奈や七海、窈狼。
その光景は離れた所で京も見ていた。
紅丸が状況を観察しながら京に話しかける。


「オイ、京」
「あん?」

「いきなりどこからともなく現れてユウナちゃんにちょっかい出しやがってたから一体どこのロリコン女ったらしかと思ったんだがな・・・」
「テメーが言うかソレ」

「しかしよお・・・強えぞ。あのガキ・・・何モンだ?」
「・・・さあな」

「ちっ・・ちょっと、京くん!マズイんじゃないの?あのコ!なかなかできるわよ!」

「わかってるって、だがちょっと待ってろ。まだヒナが負けたワケじゃねえ。出ていくのは早すぎる」

そんな口調で紅丸とヴァネッサにに飄々と答えながらも、京もユイトという少年の思いのほかの強さに目の色を変えていた。

そして、彼は、強さの他に何かあのユイトという少年に感じるものがあった。




(・・・あのガキの動き・・・どっかで・・・・)




「・・・ようし・・・なら・・」

日向はユイトを正面に見据えて剣を後方に構えると呼吸を整え始めた。

(・・・!・・コイツは・・)

「コレなら・・どうだ!闇払いっ!」

裂昴の気合いとともに撃ち出された日向の地を疾駆する炎の弾丸。
それが唸りを上げてユイトに襲い掛かり、正面から着弾した。光とともに炎が上がり、次いで爆発音と煙が上がる。


「おおっ!出た!」
「ヒナの必殺技!コレで決まりやあっ!」



「ええ!?アレって・・京くんの技じゃ・・ヒナちゃんも使えるの!?」
「取りあえずヒナタだって草薙の一族だぜ?それなりのモンもってらあな。なあ、京」
「うぅ〜・・オレもまだ炎出せないのに・・・悔しい・・・」

「ああ、そうなんだが・・・」


日向の必殺の一撃に沸き返るチルドレンズと保護者の一味。だが、草薙京は厳しい表情のまま、未だ目を日向とユイトから離さなかった。



『!!!』



煙が晴れた時、場の誰もが驚愕に目を見開いた。

煙の中から現れたのは、何とメラメラと剣の刀身を炎に包んだ、何ら日向の技にダメージを受けた様子の無い無傷のユイトだったからだ。


「そっ・・・そんなバカな!おっ・・オレの闇払いが!柴舟のオッチャンや京にーちゃんに教えてもらった・・・オレの必殺技が・・っ!」

日向は驚いた。
草薙の炎は草薙流独特の闘気を用い、尚且つ草薙の血を引く一族にしか扱えぬ物。
その威力は京に聞くところによると高めれば重火器の威力を遥かに凌ぐものになりうる程のものだという。
日向の技の威力が子どもゆえに拙いという点を差し引いたとしても直撃して無傷などということはあり得ない。今のは十分に気を高めて練り込んだハズ、同じ闘気の技を操る麗や光、晃ならばともかく、普通の人間が、しかも正面から受け止めきるなどあり得ない。

それに・・・
ユイトは何か、弾き返した。受け止めた。という表現よりは、何か炎を手玉に取って剣に優しく絡めとった。

まるで日向の炎を自在に操ったかのような感じがしたのだ。
彼の剣には未だ、日向の放った炎がまるで布きれのようにユラユラと灯っている。

唖然呆然としている日向、その日向の耳にユイトの「クッククク・・・」という笑い声が聞こえた。

寒気?

日向は自分をバカにしたような態度のユイトに怒りよりもむしろ悪寒のようなものを感じた。それを振り払うかのように叫ぶ。

「なっ・・何がおかしい!?」

「笑えてくるんだよ。お前が甘すぎてな。ヒナタ・・・お前、なんか勘違いしてねえか?」

「え?」

「このヴァイスブレードを手にしたオレをこの程度の技で倒せると思ったのか?甘いんだよ。それに・・・この技がお前の専売特許だと思ってることも・・・な」

「な・・に・・・?」

「闇払い・・・か。地を疾走(はし)る草薙の炎の基本形か・・・基本形だけあって単純だな。誰にでも思いつきそうなモンだ。だからよ、これくらいなら・・・」

ユイトが炎が揺らめいた剣を内側に構えた。
日向はその姿により一層ハッキリとした寒気を感じた。



「・・・・な・・なにを?」


「あのガキ・・・まさか・・っ!」



遠目で見ていた草薙京もユイトの体捌きが何を意味するのかを悟った。そして思わず呟いた、その時だった・・・。





「オレにもできんだよ。ラッシングファイア!」

「!・・なっっ!?」





ユイトがそう叫んで剣を振ると、日向と同じく紅蓮の炎が剣から放たれ、地面を疾駆してそして驚き身動くことのできなかった日向に正面から喰らいついた。
ドオンっ!という炸裂音とともに日向の体が爆炎に巻き込まれる。



「うわあぁあっっ」


「ヒナタくん!」


「ヒナタ!」
『ヒナァーーっっ!』
「きゃあぁっっ」
「ひっ・・ヒナちゃんっ!!」

悠奈をはじめとするチルドレンズの悲痛な叫び、それに続いて強制的に変身が解けてしまった日向が炎の中からゆっくりと開放され、倒れた。
真っ先に悠奈と七海が日向のもとへと駆け寄る。


「ヒナタくん!大丈夫・・・?」
「ヒナっ!ヒナぁっ!しっかりしてっ!」

「うっ・・うぅっ・・へっ・・平気!大丈夫だよ・・・だけど、今の・・」


「ヒナちゃん!・・京くん!」
「・・・アレも・・・魔法ってヤツの力なのか?・・・イヤ、だがあのガキが今技を放った時の体捌き・・ありゃあ・・・」

その様子を見ていたヴァネッサも、そして他の大人たちも京も、ユイトという少年が放った今の攻撃に息を飲んだ。
日向を襲った地を這う炎の牙。
日向のものとは若干撃ち筋は違うが、そう、それはまるで・・・


「闇・・・払い?」

「ふん!どうだ?オレのラッシングファイアの味は?お前だけが炎の技を使えるワケじゃねえんだよ。オレだってそう。炎の術を使えるのさ。言ったろ?コレぐらい誰にでも思いつくって・・・アテが外れたなぁ」

日向がふら付きながらも辛うじて立ち上がり零した言葉に余裕の笑みを浮かべてそう返すユイト。
光たちの目にも緊張が走る。
もはや疑うべくもない。

このユイトと名乗る少年は強い。
それこそ麗や光、晃をも凌ぐ実力を持っているかも知れない。
それぞれが日向を守ろうと戦闘態勢を再び取ろうと構えたその時、ユイトは無造作に剣をアクセサリーへと戻すと、それを再び首に掛け、そしてサキたちの方へと向き直った。


「コレでわかったろ?お前とオレとじゃ勝負にならねえってコトが。オレと闘いたきゃもっと強くなるこった。じゃねえと、ユウナもオレがいただいちまうぜ?」

「なっ・・なにいっ!?」

「ハハハハ!怒るなっての。ムリすんなって、立ってるのがやっとのクセしてよォ・・・さて、そんじゃ帰んぞサキ、オメーらも」

「ふっ・・フザケルな!待て!」





「いや、終わりだよヒナタくん」

と、再びユイトに剣を向けて立ち上がろうとした日向の前に突然影が舞い降りた。

『!!!』

『!!!!』


「えっ!?」
「なんだ!?アイツ、いつの間に!?」

「京くん!・・あのコ、いきなり・・・」
「オイオイ・・・次から次へと・・・今度は誰だ?」




「・・・アンタ・・・」




悠奈は自分たちとユイトたちの間に突然上空から現れた人物を見て思わず口に出して呟いた。

悠奈たちセイバーチルドレンズ、ダークチルドレンズ、そして保護者の大人達やイリーナの目の前に飛び込んできたのは例の謎の仮面の剣士だった。
傍らにはティトという名であるフェアリーであろう少年もいる。

「今はこれまでだ。ヒナタくん、退くんだ」・

「あ・・アンタ、一体・・・なんだってんだ!?いつもいきなり出てきて勝手なことばかり言ってさあ!カンケーないだろアンタには!どいてくれよっ!」

「どいてどうする気だい?」

「決まってんだろ!ソイツを・・・っ」

「倒せるのかい?今のキミで・・・」

「そ・・・それは・・・」

「無理だね。今の闘いでわかったはずだよ。キミじゃあヤオトメ・ユイトには勝てない実力も経験も・・キミとユイトとじゃあ違いすぎるんだ。これ以上続けても怪我をするだけだよ」

そう言われて日向は悔しそうに唇を噛んだ。
いきなり現れて散々好きなことを言ってくれる。こんなに頭に来ることはない。彼にしては珍しく怒っていた。

しかし、この仮面の剣士の言は正しい。

事実日向は今、ユイトに一撃さえ見舞うことが出来なかった。
逆にたった一発で戦闘不能になるほどのダメージを被ったばかりである。勝敗は火を見るよりも明らかだ。

「でっ・・でもっ!だからって・・・」

「ヤオトメ・ユイト、お前もいいな。この場は退くんだ」

「ああ、わかってるよ」
「ええ〜?なあなあユイト〜ホントにいいのか〜?コイツら今のうちにコテンパンにしちゃったほうが後々ラクだぜきっと!ヘヘヘヘ♪」
「逆におもしれえじゃねえかよレム。次に会うまでにどれくらい強くなってるか・・・」
「離せっ!離してってば!ユイト!まだアタシは負けてないっ・・負けて・・負けてなんかっっ」



ユイトはもう日向を見もしない。
まだ納得しきれてないサキを強引に抱き寄せ、他のメンバーたちにも「オラ、テメーらも帰んぞ」と声をかけていた。
いきなりのコトで事態が飲み込めきれていないのはダークチルドレンズも同じだったが、ジュエルモンスターを浄化されてしまってはこの作戦は失敗したと認めざるを得まい。
しぶしぶながらも引き上げにかかるダークチルドレンズたち、それに同調するかのようにダークチルドレンズのメンバー、ジュナ、アカネ、チアキをそれぞれ実際に1対1で相手にしていた晃、光、麗も彼らに言った。



「ジュナ!もう降参せえ。これ以上やっても意味ないやろ?」
「ヒカルの言うとおりだ!アカネ、お前も姉ちゃんと一緒に来い!こんなバカなこともうやめるんだ!」

「アキラ・・・でも、オレ・・・」
「ナニ耳かそうとしてんのアカネ!アキラくんも、ヒカル先輩も!今日のところは退いといてあげる、でも、あたしたちまだ負けたワケじゃないから!」


「チアキ、オメーもどうすんだ?このままシッポまいてまた逃げ出すか?」

「逃げ出す?そいつぁ違うぜレイ、オレはみ・の・が・し・て・やるんだよ!こんなトコロで簡単にテメーをやっちまったんじゃ拍子抜けだかんな」

「チッ・・このクソガキ、いつからオレにそこまでナマイキなクチ聞けるようになったああ?コラ!?」

「ぅるっせぇーよ!いつまでもアニキヅラしてんなこのボケ!今日のところは引き上げてやるぜ!命びろいしたな。あばよ!」


捨て台詞を残して、ダークチルドレンズの面々がその場からユイトがポケットから取り出したサモンボールから出したゲートの中へと退散してゆく。
するとそれまで気を失っていた人たちが解放され、意識を取り戻し始めた。





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「ありがとう!みんなのおかげでまたグローリーグラウンドは救われました。本当に感謝していますよ♪」

イリーナの言葉に悠奈も日向も照れたように笑った。
ジュエルモンスターの危機が去ったサン・ミルクファーム。
自分達を救ってくれたのが伝説のセイバーチルドレンズであることを知った牧場の主は悠奈たちやイリーナにしきりにお礼を言い、せめてものお礼にと新鮮なミルクや名物の乳製品でささやかな宴を催してくれた。

サン・ミルクファーム名物の搾りたてミルクと濃厚アイスクリームは爽やかな甘さで悠奈たちの世界の乳製品とはまた違う味わいでとてもおいしく、子ども達はみな歓声を上げた。

再び訪れた平安、しかしイリーナは表情を少し厳しくするとさらに付け加えた。

「ですが安心はできません。ダークチルドレンズはさらに力をつけてきています。あのユイトという少年もそう・・・油断はできないわ」

その言葉を聞くと、悠奈たちセイバーチルドレンズの面々も、おいしいミルクやアイスクリームを置いて考え込んだ。

「確かに・・・あのユイトいうヤツの強さはホンモンや」
「ああ、ヒナもそうだが、オレ達でも勝てねえんじゃねえか?」
「ケッ・・・ビビってる場合かよ?やんなきゃやられちまうだろーが。だったらヤラレル前にヤルしかねえだろ」

と、ケンカに自信のある光たちまでもがユイトの強さに舌を巻き、アキラなどは早速隣のテーブルで一緒にミルクやチーズをご馳走になっていた陽生に「アニキ!帰ったらスパーリング付き合って!」と稽古を申し出ていた。

「それに私が知らない者もいました」

「イリーナさま・・・」
「それったぁもしかして?」

「ええ、レイア、イーファ。あの仮面の剣士のコトです」

「ええ!?ウソ!あの人イリーナさまも知らない人だったの!?」

「ええ、彼の存在はつい先程初めて知りました。果たして一体誰なのか?それにあのフェアリーも・・・アナタたちは何か知ってる?」


「さあ、わたしたちもあのレムというフェアリーのコトは・・・」
「フラウハートホロウのフェアリーじゃあないよなあ、オイラも知らない」
「でもフラウハートホロウの他にフェアリーのいるトコロなんぞワイは知らんで」
「そうだそうだぁーっ!オレたちフェアリーの故郷といやあみんな共通のフラウハートホロウと決まってるぜい!」
「わたしたちの知らない新しく生まれた子かしら?」
「え〜・・のワリにはアタシたちと同い年くらいだったわよあのコ」
「ルーナよりおにーさんのよーな気がするでしゅう」
「テメーよりガキなフェアリーがいたらそんなヤツ使えねえだろ」

と、他のフェアリーたちにもイリーナは問い尋ねるが、ウェンディも、ユエも、ヴォルツ、バン、リフィネ、クレア、ルーナ、そしてケン。
彼等もそのレムというフェアリーのコトは知らないらしい。
頭を悩ませるイリーナ。

「・・・どうやら、エミリーの他にわたしも知らない何者かが、この件に関与しているようですね・・・一体誰が?そのコトも調査してみる必要がありますね。ゼルさま」

「・・あ、オレかい姫さま」

「アドベンチャラーギルドの方でも、他にこの件に関わっている者がいるのか調査してくださいませんか?」

「ヘヘっ女王陛下のお言葉とあっちゃあ聞かんワケにもいかんでしょう。わかった。俺達も調べてみますぜ、なあみんな!」

ゼルがテーブルの周りで一緒になって話を聞いていた他のギルドリーダー達にそう言うと、彼等も頼もしい笑顔でうなづいた。


「あの仮面の剣士・・・アイツも、なんかユイトってあのヤロオと知り合いみてえだったな」
「ああ、そんなカンジやったな。考えてみれば初めて会うた時から・・・一体どういうコトやろな」

と、晃と光の会話を聞いて悠奈もユイトについて考え始めた。
一体あのユイトとは何者なのか?
いつも正面切ってサキやダークチルドレンズのように戦いを挑んでくるわけではなく、どこからともなくフラっと現れてそして悠奈たちの間に割り込み、ダークチルドレンズを引上げさせたり、闘いをさりげなく終わらせたりする。


それに・・・

いつもいつも悠奈にちょっかいを出したり、からかっておもしろがったり。
全く持って変人の所業である。




「ユイト・・・アイツ、一体なんなんだろう?いっつもあんなコトばっかり言って・・・それに・・今日はヒナタくんにまでっ!・・ヒナタくん?」
「?ヒナ?どうしてんや?」

と、悠奈と七海が先ほどから黙り込んでずっと何かを考えている日向に声をかけた。
明るく元気な彼にしては珍しいくらいに神妙な面持ちで考え込んでいる。そう言えば先ほど始まった打ち上げでも彼1人は静かだったような気がする。
心配になって彼の体調を問い尋ねようと悠奈が言葉を続けようとしたその時だった。
ガタリ。
と日向がテーブルから突然立ち上がったのだ。


「ヒ、ヒナタくん?」
「ど・・どないしてんヒナ?」
「ハラでも痛いのか?トイレか?」

「も・・・もしかしてこのミルク・・・腐ってたんじゃねえの!?あたいらのダイジョウブか!?」
「ヒナちゃん、アタシお薬持ってきてるよ?飲む?」
「ヒナちゃんどしたのー?レナのヨーグルトドリンク飲む?おいしーよv」


と、人によって多少の意識のズレはあるものの、皆口々に日向を心配する声。
しかし日向はそんな彼らに目もくれず、1人打ち上げ場のソファに横になって寝ている京のもとへと向かうと、彼をまっすぐ見て言った。

「京にーちゃん」

「・・・どうした?」

「オレに・・・稽古つけて!柴舟のオッチャンと別に、京にーちゃんの技を教えて!」

「・・・・・」

「オレ・・・今日、あのユイトってヤツに何も出来なかった・・・アイツやあの仮面の剣士にバカにされたことより・・そう言われても仕方ないくらい弱い自分に腹が立った!これからアイツらと闘っていくために・・ユウナや、みんなを守るために強くなりたい!だから・・・っ」

「言われなくてもオレもそのつもりだった」

「え?」

と、意外な答えが返ってきたことに日向は少し驚いたが、滅多に見せない京の真剣な眼差しにその言葉が嘘ではないとわかった。

「ヒナ・・・オレは剣術は教えねえ。そのかわりオレの技をお前に教える。それをどう生かすかはお前次第だ。それでもいいな?」

「・・・うん!」

「よし、言っとくが萌を教えてる時みたいないつもの優しい京にーちゃんはいないと思え、オレの特訓は甘かぁねえぞ?ハッキリ言ってオヤジの特訓の100倍は厳しい。それでもいいな?」

「うん!よろしくお願いします!」

そんな日向のひたむきすぎる態度に京は満足したようにその髪を撫でた。

「それと・・・な」
「?なあに?」

「あのユイトってガキ・・・」
「どうかした?」

「ひょっとすると・・・・・」
「・・・?」




「・・・・いや、いい。気にすんな。やっぱり気のせいだ」
「・・・・?」


と、何かを言いかけた京だったが、思い直したようにかぶりを振ったのを見て、日向をもそれ以上追及するのはやめた。
と、今度はそこでヴァネッサが言葉を発した。


「でも・・・あのダークチルドレンズという子たちも、まだ年幼い子どもでした。それに・・・私が知ってる子もいました。レイちゃん、あのコ・・・アナタとしばらく闘ってたコ、闇洞(あんどう)さんところのチアキちゃんでしょう?」

「姿が変わってたのにわかったか?さすがだな、そうだよ。アイツも手ぇ貸してる」

「やっぱり・・・先生もあのコのママに最近チアキちゃんがおうちに帰ってないって相談受けてたのよ・・・まさかあんなコトに関わってるなんて・・・」
「何!?あのコやっぱりチアキくんだったのか!?それは・・・また・・・」

一哉も知り合いの子どもと知ってまた沈痛そうな面持ちで考える。
ヴァネッサは何やら自分に言い聞かせるように目を閉じてうなづくと、目を見開いてイリーナを正面から見た。


「イリーナさん、わたしも必要な時はいつでもお声をかけて下さい」

「ヴァネッサ先生?」

「あんな子ども達を利用して自分の欲を遂げようなんて・・・そのエミリーっていう人、同じ女として許せません!この子達を守る他に、あの子達をあんな悪影響のある空間から助け出すためにも、わたしもできる限り協力します!」

「まあ、ヴァネッサ先生!そのお言葉、とても心強いです!」

「と、いうワケで、これから先生が責任を持って、アナタたちのサポートしていきます」

「ホントぉ!?ヤッター!」

「ラッキー!センセーがいてくれたら安心やんなあvセンセー優しいし」

「そうそう!ママみたいにおこりんぼじゃねえしな!」


と、ヴァネッサ先生の言葉にきゃいきゃい騒いでいる日向達を見て年上のメンバー達が冷や汗混じりにコソコソと漏らした。



「オイ、聞いたか?センセーが優しいだとよ。怒らねえだと・・・」
「アホやのぉ〜・・・アイツらまだセンセーに叱られたことないからそないなこと言えんねん」
「1回でもヴァネッサ先生に叱られたことあるヤツならそんなセリフ口が裂けたって言えねえよな・・・」
「あったりまえじゃん・・・ママと違って怒らない?ジョーダンじゃないっつーの、怒ったらママなんかより断然コワイのよ」
「アニキのもイタイけどさ・・・ヴァネッサセンセーのアレ・・・・マっっジで死ぬかと思うくらいイテェもんな」
「ふっ・・ふえっ・・レナ思いだしたくない・・・コワイ・・・コワイぃぃ〜〜・・・」



なんて命知らずなヤツラなんだと思っていたそんな彼らの心を見透かしたかのように、きゃっきゃとはしゃぐ日向、七海、窈狼の3人に、ヴァネッサ先生はしゃがんで目線を合わせると、悠奈も抱き寄せてこうクギを刺した。


「で・も・!これからそのセイバーチルドレンズを続けるなら先生とお約束してほしい事があります。いいわね?」

「お約束?」
「?なんやのソレ?」

思い切り?マークを顔中に浮かべている彼らにヴァネッサは続けて言った。


「1つは危ないこと、自分の身を危険にさらす行為はなるべくしないこと!もしそうなりそうな場合は必ず先生に伝える事。携帯電話でも何でもいいから。そしてもう1つはその魔法の力を使って勝手なことやイタズラをしないこと!火遊びやケンカに使ったりしちゃいけません!それともう1つ、先生の言うコトはちゃんと聞く事。いいわね?」


その先生の言葉に「なんだそんなコトか」と言わんばかりの顔の子ども達はなんの不満もなく悠奈も含めて「はぁい」『はーーい^^♪!』と元気良く答えた。
ヴァネッサはその答えを聞いて「ウン、イイコ」と言うとすかさず麗たちの方へと顔を向け、「アンタたちも分かってるわね?」と言うと先生の性格や怖さを知ってる彼らは最初は返事をしようとしなかった。しかしヴァネッサが

「あら?お返事できないのかな?その場で聞けないならお膝の上でお返事たっぷり聞いてあげるけど?」とある種の凄味のある笑みでそう言うと皆一様にビクっと凍り付き、『・・・・ハイ・・・』と答えた。
それをみて満足したように頷くヴァネッサ。


「京くん、一哉さん、陽生くん、近藤先生、みんなもそれでいいですね?それとこのコトはくれぐれも内密に・・・」

「アンタにだけ責任押し付けるようなマネはしねえさ。オレにも責任がある。ヒナやユウナちゃん、ナナちゃんやヤオランのコトはオレにまかせとけ」

「ああ、かまわないさ。俺もできる限りの事はする。早速予定を調整してみるよ」

「オレは学生だけど、ジムでの練習の時間は出来るだけコイツらのために割くつもりです」

「一度負うと決めた覚悟だ。もちろん協力する。こんな事を知って子ども達だけになんぞ押し付けておけんからな」

京たちの他にその場にいた全員が力強くうなづいた。






外に出てみると、すっかり空は紅く、夕方の風景となっていた。
どうやらこちらの世界も空は青く、夕日は紅いようだ。
草原の遠くに見える見事な夕焼け、悠奈たちは思わずその平和な光景に見入っていた。

「キレイ・・・」
「うん、この世界でも、夕焼けはこんなにキレイなんだ・・・」

悠奈と日向の言葉にニコリと笑ったヴァネッサは、背筋をウ〜ンと伸ばすと、フウと息を吐いてからイリーナの方を振り向いて言った。

「それじゃ、もう今日は帰ってもいいのかしら?イリーナさん」

「ええ、結構ですよ。今日はただユウナちゃんたちにギルドの事を知ってもらって自分たちのジョブを見つけてもらえればと思っていただけですので・・・あ、コチラをお渡ししておきますね」

そうヴァネッサに答えつつ、イリーナは傍らの使用人に指示すると差し出された小箱の中から何やら化粧品のコンパクトのようなものを取り出し、ヴァネッサ、京、陽生、一哉、そして近藤にそれぞれ渡した。

「?なんです?コレ」

「ウィザーズコレスポンドと申しまして・・・この世界で通信手段として使われている機器です」

「うぃざあず・・・これぽし・・は?」

「通信手段・・とは?」

「ハイ、魔力を媒体とした通信機器です。通常は水晶玉のようなモノで呪文を唱えることによってそこからスクリーンと映像を映し出し通信するのですが、コチラは小さい携帯用のものですので、使用時にはこの鏡がスクリーンになり、通信先の人を映し出します。さらにコチラは魔力を持たない普通の人でも定期的に魔力をチャージすることによって使うことが出来るのです。これはライドランドとグローリーグラウンドとの連絡用に皆さんに持っておいて欲しいのです」

「コレに・・・映像が出るってか?どうやって?」

「簡単ですよ。暗証番号を設定して、コチラのナンバーキーで入力するだけです・・・・・試しに京さま。お好きな番号を5ケタ仰ってください」

「はあっ?お・・オレが?」

と、いきなり異世界の未知の通信機器をあてがわれて何が何やらわからずに混乱している京にイリーナが言う。
京だけではない。
ヴァネッサや陽生、勇蔵などもいきなりこんなものを渡されて、一体どういった仕組みなのかとしきりにそのコンパクトを調べていた矢先のことだったからだ。
しかし言われて京はその一見胡散臭そうな機器をどうせ使い方がわからないのならばと言われたとおりにそのキーに書かれている数字を適当に言ってみた。

「・・・じゃあ・・・ご、5・・6・・・1・・4・・8・・」

「5、6、1、4、8・・・と。ハイ、それじゃあその鏡をご覧になってみてください」

言われるままに京は「お・・おう・・・」と呟くとコンパクトの丸い鏡を注視した。
するとイリーナが自分も同じような機器を取り出してナンバーキーに今の暗証番号を打ち込むと京の持っていたコンパクトから  シャラララララン  シャララララン  という独特の音が鳴るとともに今までただの鏡に見えたものが突然スクリーンへと変わり、青く光り輝いた。
驚く一同を意に介することなく、イリーナが「キーの中央にある赤いボタンを押してください」と京に言う。
そしてまたしてもイリーナの言うとおりにそうすると、そのスクリーンにイリーナの顔が映し出された。


「どうですか?聞こえますか?見えますか?私の顔が」

「おおっ!映ったぜ!」
「なぁるほど!こーゆー仕組みなんスね!」
「考えてみりゃ電話と同じ!・・・いや、さしずめこりゃスカイプか」

と、あちら側の世界にもある携帯電話などと大して変わらぬ仕組み、むしろあちらよりも複雑ではないという仕組みを聞いて真吾も紅丸もこれは便利だとばかりに京からそのコンパクト、ウィザーズコレスポンドを取り上げて色々見ている。
他の大人達もすぐに理解できたようで、なるほどこちらの世界にも便利な通信手段があるものだと感心した。

「わたくしの暗証ナンバーもお伝えしますので、連絡用に是非お受取り下さい」

「そういうことなら・・・何かと便利だし・・・」

「ああ、使い方を覚えて、早速活用してみよう」

「うむ。この程度ならすぐに使いこなせそうだしな」


と、連絡手段も確保したし、取りあえずこれで一件落着と思ったヴァネッサは



「よし!じゃあみんな、お家に帰るわよぉ〜!」



と子ども達に呼びかけた。
その呼びかけに京や他の大人達もやれやれ、まずは一段落か・・という安堵の表情。
イリーナによれば帰りもイリーナや、レイアの持っているタクトによってゲートが開けるらしい。このようなシステムを考えるとつくづく魔法とは便利なものである。


「ユウナちゃん、それにみんな。本当にありがとう。アナタ達セイバーチルドレンズのおかげで今日もまた、グローリーグラウンドが、ひいてはライドランドも含めた世界が救われました。これからも、ツライ時もあるかもしれないケド、わたし達も精一杯お手伝いしますから、お願いね」

「ああ、お前たちのサポートなら俺達アドベンチャラーギルドもギルド全体を上げて全力でさせてもらうからな!困ったときは何でも言ってくんな!」

帰途につく悠奈たちにイリーナとゼルがそう声をかける。
その言葉に、悠奈と日向は顔を見合わせてそして笑顔で返した。


「やくそくしちゃったしね、レイアとも、イリーナさまとも・・・セイバーチルドレンズやるって」

「わかってる!もう決めたコトだし、2つの世界のためにもオレ達ガンバルよ!ねえみんな!」


日向の言葉に他のメンバーもしっかりとうなづいた。

レイアの手によってタクトが握られ、フェアリーたちの呪文が唱えられ、そしてゲートが開かれる。
次に会う時までの別れの時、めんどくさいと思っていた悠奈はいつしかこのセイバーチルドレンズに使命というものを知らず知らずの内に感じるようになっていた。
それは


「じゃ、またね!バイバイ、イリーナさま!」


と元気に手を振りながら、保護者の大人達もともにゲートの向こうに消えていった彼女の朗らかな笑顔にあらわれていたのかもしれない。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「かえっ・・・てきた・・・のか?」
「みたい・・・ねえ・・・」


ふと、虹色のゲートから出口へと降り立った京とヴァネッサは、そこが祝勝会を行っていた新選グループ系列のホテルのスイートルームであることを理解した。
時刻は午後の5時ちょうど。
どうやらグローリーグラウンドとこちらの世界は時の流れは同じくらいらしい。


「ホントに行ってきたんだな・・・異世界ってヤツに・・・」

「ええ、しかも・・・・この子たちがその異世界を守るヒーロー?未だに信じられない・・・」

「魔法の入り口で繋がってる異世界と、その世界を魔法の力で守る選ばれた子どもたち・・・今の時代ファンタジー作家もためらうような安易な設定なんですけどね・・・」

「しかし、その・・・まだ悠奈ちゃんたちのそばにレイアちゃんたち妖精さんがくっついてるからもう紛れもない事実なんだろうな・・・」



京とヴァネッサ、陽生に一哉はそう呟いてフェアリーたちとお気楽に談笑している子ども達を眺めてタメ息をついた。
この子達は自分たちがやろうとしているコトの重大さを理解しているのだろうか?
危険さを認識しているのだろうか?
彼らのあの能天気な態度を見ているとほとほと心配になる。



「とにかく!今日はもうみんな帰ってゆっくり休むこと。あんな異世界なんかに行って知らないうちに相当疲れてるハズなんだからね」


「えぇ〜?なんでぇ〜?」

「せっかくのオヤスミだしさぁ〜、どーせならもっと遊びたいなぁ〜」

「あたいもあたいもぉ〜、あ!なーなー、今からあたいん家行ってゲームしよゲーム!♪」


と、そんな先生の忠告を無視して盛り上がる那深、麗奈、沙良の3人であったが、直後に「ダ・メ・です!」というヴァネッサ先生の叱責が飛ぶ。

「今日は早く帰ってゆっくり休むこと!遊びたいならまた明日にしなさい。そのセイバーチルドレンズをやるならなおさら体には気を付けないと」

と言われてぶすーっとしたレナたちであるが、勇蔵や歳武を筆頭に他の保護者たちもヴァネッサの言に賛成したため、しぶしぶではあるが今日はそのまま解散となった。

「それじゃあ責任を持って、先生が今からみんなをオウチまで送りますからね」

これで、ようやく長く、そしてとてつもなく非現実的だった1日が終わる。
ヴァネッサはそう考えた。

これからそのセイバーチルドレンズとかいう仕事を引き受けてしまった以上、何とかして彼等を親御さんたちに秘密を守りつつ安全にお預かりするための作戦を考えなければならないという仕事が彼女にはまだ残っているし、本業であるエージェントとしての仕事の都合も取りあえず考えて折り合いを付けなければならないのだが、取りあえずそれは勇蔵や一哉とも相談しながら明日以降に決めることにしよう。

とにかく、今日は帰って、そして1杯やってゆっくり寝よう。

そう思っていた。




しかし、麗や光の家庭教師として東家に雇われて以来、彼女のその切なる願いは、1度として無事に叶えられたことはない。

ある意味で彼女は呪われているのかもしれない。







「あ!」

「ん?どないしてんユウナ」

「ナナミ!あ・・・アソコ!」

と、帰り道、悠奈が上空を指さして突然叫び出した。
何事かとみんながその指さす方向を見て見ると、なんということだろう。小さな子猫が解体工事中のビルの一角に突き出た鉄柱から降りられなくなっていたのだ。
地上からはおよそ40メートルくらいあるだろうか?中々な高さである。

「にー・・にー・・・」

「あーーっネコちゃんだぁ〜、降りられないのかなぁ?可哀想・・・」
「どうしよう・・なあアニキー、助けてやれねーの?」

「うぅ〜ん・・・」

陽生も考える。
もう工事関係者はいなさそうだし、それに高さも相当だ。素人が救出するには危ない。
警察に届け出ようか?そう考えた時・・・


「ま、しょうがねえなあ、オレが助けてやるか」


そう言ったのは京だった。

「京くん・・・お願いしていいの?」
「おう、メンドくせえが放って置くワケにもいかねえだろ。ちょっくら上ってみらあな。ヒナ、お前たちはくんじゃねえぞ?あぶねえからな」
「うん、わかった」

と日向がそう答えると、京は上着を脱いで崩れかかってるような瓦礫を起用に足場にしてその廃ビルを登り始めた。
皆、京の運動能力と体の頑強さであれば最悪落ちたとしても平気だろうという考えがあったからこそ、彼にまかせたのだった。

しかし、悠奈はその時、京よりももっぱら子猫が心配でならなかった。



(・・・あのコ・・・もし京さんが行く間に落っこちちゃったらどうしよう?もし・・・間に合わなかったら・・・)



「・・・ハートフルロッド・チェンジ・ザ・ブルーム!」

「!ユウナ!?」
「ち、ちょっとアンタ!何してんの!?」

突然変身アイテムになっているケータイについているアクセサリー、ハートフルロッドになるアクセサリーを握ったかと思うと呪文を唱えて変身してもいないのに武器を召喚した悠奈を見て、日向も七海も驚きの声を上げた。
他のメンバーもいきなりどうしたんだ?という表情である。


「アタシがこのまま飛んで行って助ける。そのほうがきっと京さんより早いから」

「ちっ・・ちょっとまってユウナちゃん!ホントは普通の人たちにはグローリーグラウンドのコトや魔法のコトは秘密なんだよ?こんなトコロで使っちゃったら誰かに見られちゃうかも・・・」

「それに・・・ユウナさっき初めて飛んだばっかりだろ?あ・・あぶないって!」

「ダイジョウブ!あのコ助けてすぐに戻ってくるから、だから・・・」


「いけません!」


と、レイアと日向の言葉にも耳を貸そうとせずに飛び立とうとした悠奈を、厳しく一喝する一声があった。
その声に悠奈の動作はビクっと止まり、他のメンバー全員もその凛としつつまた厳しい声に身を竦めた。


「・・・せ、センセー・・」


麗が呟く。
声の主はヴァネッサだった。いつもの優しい笑顔ではなく、毅然とした。そう、まるで自分たちを窘める時のような独特の表情をしている。
悠奈も最初はその顔を見ておっかなびっくりといった感じで心に躊躇(ためら)いが生じたが、すぐにその考えを振り捨てると正面からヴァネッサに向かって反論した。


「な・・・なによ?ヴァネッサ先生」

「そんな危険なコトはさせられません。言ったでしょ?約束だって、先生の言うコトは聞く、危ない事はしない。今、京くんがあのネコちゃんを助けに行ってるところだから。彼にまかせておけば大丈夫、だから、ユウナちゃんはみんなと一緒にここでまってなさい」

と、そう言われてしまった悠奈。
口を綴んで悔しそうに俯いて地面を睨み付ける。
確かにヴァネッサ先生の言うコトは正しいのかもしれない。最初のあの危なっかしい今にも落っこちそうな飛び方を見れば一目瞭然。
だが、それは最初の話であって、途中からは何の問題もなく自分はロッドを自由自在に乗りこなし空を飛べていたのだ。
今だってきっとできる。レイアだって言っていた、自分の力を信じろと、今は一刻も早くあの可哀想なネコちゃんを助けて上げないと・・・
そう思った悠奈、ヴァネッサ先生の忠告を無視して飛び立つことに決めた。


「・・・行くよレイア!」
「ええ!?で・・でもユウナちゃんっ」

「まっ・・待ちなさい!ダメよユウナちゃん!言うこと聞きなさい!危ないから・・・っ!」

と、ヴァネッサが言い終わるより早く、フォンッ!と風切り音を立てて悠奈がロッドに乗って飛び立った。
あっという間に上っている途中の京を追い越し、子猫のもとへと向かう。


「おわっ!?・・な・・なんだあっ!?」

突然懸命に廃ビルをよじ登ってはからずも子猫の救助活動をしている真っ最中の自分を高速で横切った影に、京も驚いて声を上げる。
そしてそれが悠奈だったコトに気づいて彼はますます驚いた。

「!?・・ありゃあ・・・ユウナちゃん?オイオイ・・・やっぱり飛んでたのはオレの気のせいじゃなかったのか・・・」


「子ネコちゃん!ホラ、おいで!つかまってっ!」
「にー・・にー・・」

悠奈はまだ慣れないながらロッドの上で懸命にバランスを保つと、そこから身を乗り出して子猫に手を差し伸べた。子猫は差し出された悠奈の手の方に一瞬視線を移したが、また怯えた様子で鉄柱にしがみつくとまた怯えたように鳴き出した。

「にー・・にー・・・」

「怖くないから・・ホラ!おいで!」

「にー・・・」

怯えて思うように動けない子猫にそれでも悠奈は懸命に呼びかけ、手を差し出す。ますます危ないバランス。
その様子に下で待つメンバー達も息を飲む。

「ゆ・・ユウナ・・・」

「大丈夫なんアレ?・・ちょっとヤバくない?」

「あー・・・ヘタすりゃ落ちるんじゃね?」

「レイちゃん!滅多なコト言わないでっ!ね・・ねえ近藤先生!何とかできないんですかあ〜?あ・・あのままじゃ・・ひいっ・・あぶっ・・あぶなっ・・そっそんなに体乗り出さないでえーーっっ」

「む・・う・・・しかしこの高さでは・・ヘタに手出しすると逆に危機に陥りかねん・・京が頼みの綱だな・・」

「オイコラ京ォー!テメエ、ネコはともかく未来の美女をムザムザ死なせたら紅丸様必殺の雷光拳プラスアルファ紅影ハリケーンで地獄巡らすぞコラア!」


「チッ!あのヤロオ・・・人の気も知らねえで好き勝手なコトばかりほざいてんじゃねえぞクソッ!大体なんだってオレがこんなこと・・・」


と、下で子ども達や大人連中とのそんなやり取りが続けられている。
最後の紅丸の自己中心的な怒号ももちろん耳に入っている京は、軽い恨み言を吐きつつもそれでも超人的なスピードで揺れる危険な足場を登り継ぎ、着々と悠奈と猫のもとへと向かった。
一方、今だ怯えるネコを救おうと不安定な体勢で手を伸ばし続ける悠奈。


「ネコちゃん!ホラ、助けに来たから・・・勇気出して」

「にー?」

「おいで!ホラ!」


悠奈はもはやコワイとかそんな思いなど吹き飛んでいた。
ただ、こんな場所にポツンと取り残されてしまった子猫があまりに可愛そうで、何が何でもこの子を助けて上げたい!
そんな思いでいくらか盲目になっていた。

ついに、子猫が悠奈の声に反応した。
小さな前足をそろそろー・・と2、3度前へと出したり引いたりしながら様子を伺い、悠奈の顔を正面から見据えると、ついにその場から動きだしたのだ。
悠奈の顔に笑顔が浮かぶ。



「・・・に・・に?・・にゃんっ!」

「キャッチ!」



まさにジャストタイミング。
飛び降りた猫を悠奈は空中でセービング。
思わず彼女も空中からビルのその鉄柱の上へと乗り移り、ギリギリのトコロで子猫を救出したのだ。


「やったあぁーっ!」
「よっしゃユウナー!」
「よくやったぁーっやったぜーっ!」

「なんとかなったなぁ」
「たいしたもんだぜ実際」

「やったやった!ユウナちゃんスゴイ!」
「さっすがのあたいもヒヤヒヤしちゃった・・よかったなあ、ネコちゃん」
「ユウナちゃんえらいっ!」

「ケっ、大げさだっつーの」


メンバー達もそれぞれ思い思いの言葉を並べつつ、悠奈の事を称賛した。


「なー、なーっ♪」

「フフ・・よかった」

「ゆ・・ユウナちゃん、もう助けたんだし、はやく戻ろう」

「え?なによレイア、そんな震えた声だしちゃって・・・」

「だ・・だって・・ねえ、アタシは飛べるからイイけど・・・」

救出した子猫に思わず笑みを浮かべた悠奈だったが、レイアが冷や汗混じりに声をかけて来る。
一瞬何でなのか理解できかねたが、そこで、気が付いてしまった。




ココが地上数十メートルという高所であったことを・・・
今さらながらに自分の立っている位置がシャレにならない高さであることに、遅れて半端ない恐怖が襲ってきた。

「そ・・・そう言えば・・・」

(や・・ヤバイ・・よね・・えっと・・)

眼下に広がる、小さくなった地面や建物、車やそして日向達。
よせばいいのに今になって悠奈は下を見てしまったのだ。



そして、悠奈は思ってしまったのだ。




(こ・・・こ・・・コワっっ・・・うっ・・)




「ああダメ!ユウナちゃん!そこで弱気になっちゃっ!最後まで自分を信じないと・・じゃないと・・・」

その瞬間。
レイアが叫んだ時にはもう遅かった。

先程まで悠奈の周りをパタパタと飛んでいたロッドが、悠奈が弱気になったことで急に魔力を失い、そして元のアクセサリーに戻ってヒュ〜〜〜・・・と落ちていってしまったのだ。



「・・・・・・」

「ああんもうっ・・・だからぁ・・言ったのにぃ・・・」






「キャアアァア〜〜〜〜〜〜〜っっっだれかああぁ〜〜〜っったぁすけてぇえ〜〜〜〜っっっ」






辺りを切り裂く悠奈の絶叫。


「ああっ!ゆっ・・ユウナっ!」
「ウッソぉ・・ひょっとして降りられなくなったんちゃう?」


「いやあぁあ〜〜〜〜っっだから言ったのにいぃ〜〜〜っっ」

その現状を把握して、日向や七海もヤバイなと思って呟き、ヴァネッサに至っては頭を抱えて悲鳴を上げる。
他のメンバーや大人連中も「あっちゃあ・・・」と言った顔。

「ユウナちゃん!・・お、おちついてっ!もう1度魔力を高めて、ロッドをこの位置まで呼び寄せて・・・」
「ムリぃ〜〜っっムリムリムリムリずぅえぇぇったいムリぃ〜〜〜っっ・・こ・・コワイよおぉ〜〜〜っっ」

とレイアが励ますが恐怖のあまり耳を貸せない悠奈。
どうしたものかと悩んでいた時、レイアの後ろから


「オイオイ、だから言わんこっちゃねえ・・・ムチャするからだぜ?」


そんな声が聞こえた。
振り返る。


「き・・京さん?」

なんと悠奈に向かって京がゆっくりと歩み寄ってくる。
そう、今しがた彼もビルの頂上まで上ってきたのだ。
悠奈の顔に安堵が浮かぶ。

「ふえっ・・京さぁん・・・た・・たすけて・・・」
「わかった!大丈夫だ心配すんな!今助ける。だから、頼むからじっとしてろ」

そう笑顔でいう京に悠奈はコクンとうなづいた。
ゆっくりと着実に悠奈に近づく京。



「き・・京にーちゃん」

「ああ、せやった、忘れてた・・・そや、もともと京にーちゃん上っててんや」

「じゃ、もう大丈夫か・・・」

と、まるでヒーローの登場のように安心する日向と七海、窈狼。
彼にまかせておけば取りあえず心配ないだろう。


「ちっ・・癪だが今回は京に活躍を譲ってやるか」

「まあそう言うなって紅丸、子どもが助かったんだ、いいじゃねえかよ。あーよかった。コレで取りあえずはだい・・・」


と、紅丸とラモンがそう言って胸を撫で下ろした時だった。


「!・・なおぅっ・・」
「あっ・・ダメだよネコちゃんっ!危ないってばっ!・・ちょっとっ!」
「ばっ・・バカユウナちゃん!動くなっ・・」

子猫が京の突然の接近に驚いて悠奈の腕の中でもがいたその時、反射的に足場の上でたたらを踏んでしまった悠奈。
その結果・・・





                    ズゴ  ッッ  !





イヤな音がして、あろうことか悠奈の足場の鉄柱が根元から建物のコンクリートごと崩れ、そのままガラガラと音を立てて下に向かって落下してしまったのだ。









「・・じょうぶじゃねええぇーーーーっっっ!!」

『わあああぁーーーーーーっっっ!ユウナあぁあーーーーっっ』

『ええええぇーーーーっっっ!!??おちたああぁあーーーーーっっっ!!』

「ぎゃあああぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」

「テメエえぇーーーっ京ォ!このバッカヤロウーーーーっっ!!」




「キャアアアァーーーーーーーーっっっ!!」
「ユウナちゃ〜〜〜〜んっっ」


途端に響き渡った悲鳴の大合唱。
大きなコンクリート片とともに悠奈がネコを抱えて落ちて来る。
大慌てでどうしようどうしようと右往左往する一同を東一哉、土方歳武、そして近藤勇蔵の3名が叱りつけ、正気を取り戻させた。


「何やっとんや己ら!騒いどる場合とちゃうやろ!?気ぃしっかりたもたんかい!」

「一哉くんの言うとおりだ!まずは京くん!悠奈ちゃんを頼む!しっかり抱えてくれっ!」

「私達は落ちて来た瓦礫の処理だ!紅丸!弾!真吾くん!ラモン!子ども達をしっかり守れっ!」


その一言で我に返った大人連中、まずは「よし!まかせろっ!」と言って京が廃ビルの壁を穴が空かんばかりに蹴り付けて空中を疾走すると、そのまま悠奈に向かって迫る。

「朧・・車(おぼろぐるま)っ!」

空中で身を捻って凄まじい回転力と加速を右足に乗せて鉄柱と瓦礫に回し蹴りを叩き込む。
ズガン!という轟音とともに鉄柱もろとも瓦礫が分断され、悠奈をしっかり抱え込む。

「きっ・・京さん!」
「よし!無事だな!紅丸ぅ!」

「言われるまでもねえ!コッチはまかせろっ!フンッ!」
「晃龍拳!」
「真吾キック!」
「おらあぁっ!」

「せいやあっ!」

「無呼吸・連斬・無手式(むこきゅう・れんざん・むてしき)!」

「気組み撃ちィ!」


と、落ちれば落下した時に大きな事故になり得るであろう残りのコンクリート瓦礫をそれぞれ、紅丸が居合蹴り、ダンが晃龍拳、真吾が飛び蹴り、陽生がジョー直伝の左ストレート、一哉が飛び回し蹴り、歳武が手刀の連打、勇蔵が右掌から闘気の光弾を放って次々と粉砕する。
そして日向と七海の方へと落ちて来た瓦礫も・・


「ヘリオン!」

ヴァネッサが放った必殺の十字アッパーによって粉々にされた。

大人達の人外の活躍で被害は最小限に食い止められ、そして、悠奈も・・・




「きゃっ!」
「っとおっ・・ヘヘっ・・大丈夫かい?ユウナちゃん」

「ユウナちゃんっ!大丈夫?」

「・・・・レ・・レイア・・・うん、京・・さん・・あ、ありがと・・・」


しっかりと京が抱えて着地し、傷1つ負うことなく子猫も無事に救出された。


「ユウナ!無事!?大丈夫?ケガしてない?」
「あんまり心配かけんなや!アホ!」
「ホントだぜっ!心配したんだからな」

「ヒナタくん、ナナミ・・ヤオラン・・・心配かけてゴメン、も・・大丈夫」


「一時はどうなることかとおもったケド・・・」

「ええ・・・なんとかなりましたね・・・ハア、よかった・・・」


日向、七海、窈狼がすぐさま悠奈に駆け寄り、安否を確認する。
それに何事もなかったかのように元気に答える悠奈を見て真吾と陽生が胸を撫で下ろしながらそう溢す。
他の保護者たちも実に安心したような顔だ。


「もぉ〜うっ!ユウナちゃん!だからムチャはやめてって言ったのにぃ〜」
「そうだぜぇ!何かあったらどうすんだよ?」
「アナタはセイバーチルドレンズなのよ?もっと体を大切にしないと・・・」

「だ・・大丈夫だって、レイアたちもぉ、取りあえずこのコも助けられたしよかったじゃ・・・」




「よくありませんっっ!!」




と、心配するフェアリーたちにも笑顔で大丈夫だと言った悠奈だったが、そんな彼女の耳に今まで聞いたことのないような一喝が響いた。
思わず「ひぃっ」と体を竦める。


ゆっくりと悠奈が振り返ったその先には・・・


「え?ヴァネッサ・・先生?」


今まで悠奈が見たこともないような燃える視線で悠奈を厳しく睨み付けているヴァネッサ先生の姿だった。
麗たちにはすぐにわかった。



コレはヤバイときのヴァネッサセンセーだと。





「な・・・なにさ・・?」

「なにさじゃありません。ユウナちゃん・・・先生言ったわよね?危ないからやめなさい・・・って」

「・・・だ・・・だから?」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「ヴァネッサ先生!ウチのコたち一晩ありがとうございましたぁ!」
「ナナぁ〜、楽しかった?よかったなぁvセンセーホンマさんきゅやでぇ」



試衛市を出て聖星町にある東邸、東京別宅、つまりは一哉の家族が住む屋敷についたのはそれから30分ほど後であった。
東邸の広々とした豪奢な客室には悠奈や日向たちの母親たち、愛澤詩織、草薙鶫、香坂雫、観月里佳の姿もあった。
あの後、一哉とヴァネッサがそれぞれ分担して子ども達の保護者に連絡をとり、聖星町にある東邸に迎えに来てくれるようにと伝えたのだ。
そして、近藤勇蔵の社員が車で迎えに到着し、そして東邸へと向かっているということだ。

余談だがあの助けた猫はよくよく見ると廃屋の入り口付近に段ボールがあり、その中に簡素な布団がしかれていた。
それがその子猫のものであることは容易に想像できた。
まだ生まれたばかりのこの子は何らかの事情か?はたまた飼い主の無責任さゆえか?捨てられてしまったのだろう。
どうすることもできないので、ひとまずは連れて帰ることとなった。

そして東邸の広間での話に戻るワケだが、皆それぞれ自分の子どもの顔を見るなり、走りよって髪を撫でたり話を聞いてあげたりしている。
晃と咲良は陽生がそのまま連れて帰るし、光はどうせこのまま麗や一哉と一緒に帰る。那深や麗奈の母親もすぐに迎えに来るだろう。


「ヴァネッサ先生、先生が先程電話で教えて下さった特別学習ゼミのその『セイバーチルドレンズ』ってこういうこともなさるんですね」

「ええ、その通りです」

と、詩織のそんな問いに自信をもってそう答えるヴァネッサにそのセイバーチルドレンズのメンバーである子ども達全員が『え?』という顔で先生の方を凝視した。

「セイバーチルドレンズでは、求めがあればもちろんお勉強もお教えしますが、主に学校以外での私生活の躾け、生活態度の管理、情緒安定のための情操教育や道徳的価値観などなど、まだ小学生の頃にしっかりと身に着けるべき習慣を植え込むのが目的です。放課後のお時間などをいくらか頂ければ、東さんのトコロの麗くんや日向さんの光くんたちと一緒にのびのびと楽しくお子様たちに学んでいただけます。勿論、ご都合の良し悪しは相談にいくらでも応じますし、そもそもその事を親御さんたちにご了承いただければですけど・・・」

「何言うてんねん!本来そういう学童保育とか入れよおもたらえらい高い保育料払わなアカンのにタダやろおっ!?もう是非是非コッチからお願いするわあっ!ナナのヤツわがまましよったら遠慮なくひっぱたいてくれてかめへんさかい♪」

「ウチもパパも私も共働きだし、ユウカちゃんを迎えに行くまでのお時間だけでもお願いできれば助かりますぅ〜v」

「わたしも最近映画の出演が急に決まって・・・どうやら長丁場の撮影になるらしくて、だからヤオのことお任せできると、ホントに助かります。お願いできますか?」
「あ!里佳ちゃん聞いたでぇ〜、今度夫婦で共演やねんやろぉ?ジャッキーさんと!主演とヒロイン役で!」
「え・・ええ、アメコミが元のアクションムービーですけど・・・」
「いいなぁ〜スクリーンの中でもラブラブなんてぇ〜」



と、そんなママ友たちの世間話などもう悠奈、日向、七海、そして窈狼の耳には入っていなかった。

学習塾のセイバーチルドレンズ?なに?どういう事?


「ひ・・・ヒカルちゃん・・・あのさあ・・今の話って・・・まさか・・」

「・・・そーゆー設定にしたっちゅーコトやろ?ま、セイバーチルドレンって名前が出てきたところでその名前使ってたらバレへんし・・・先生がそう考えてお前らの親に報告入れたってトコやろ」

「そういうどーでもいいトコだけはいっつも手回し早えんだよな。カンジンなコトはモーロクババアかと思うほど物忘れ激しいくせして・・・」


日向の問いにそう言って光と麗が答える。
晃も頷いているところを見ると、どうやらヴァネッサや一哉がここまでくる間に示し合わせてそういう学習塾という存在にカムフラージュしてママ達に報告をしたらしい。
確かにそういう事なら不意にセイバーチルドレンという単語が出たとしてもなるほど、ごまかしがきく。


(なぁんだ。結局魔法のコトはママたちに内緒かぁ・・・)


と、何気にちょっと残念がった悠奈だったが、その直後、彼女にそれどころではない、最悪の情報が聞こえて来た。




「でも、早速1つやらなきゃならない仕事が1つできちゃいました」

「?なんです?先生」

「私の仕事は子ども達の教育・・・それには躾け、時には叱ることも含まれています。あのお渡しした契約書にあったことです。皆さまご確認いただけましたか?」

「ああ、アレな。もう大丈夫ですって!もうナナが言うコト聞けへんかったらもう遠慮なくやったってくださいよ。昔からウチもやってきたからそう簡単に壊れへんからナナのシリ」

「ええ、ウチも同じです。ヤオが悪いコになったときはホント!容赦しないでください!」

「ヒナもときどき強情で悪いコになることがあるから、そんな時は遠慮なく叱ってやってください先生」

と、雫や、里佳、鶫の意見に詩織もうなづく。
この事を聞いて気が気ではないのは子ども達だった。

「おっ・・・おかーさん!?」

「なっ・・ナニ言うてんのママぁっ!?」

「やっ・・ヤダよそんなっ・・なんで勝手にそんなコト言っちゃうんだよっ!?」

「そ・・・ソレってヴァネッサ先生があたしたちのオシリたたくってコトでしょ!?ジョーダンじゃないしっ!ちょっとママ!なにうなづいてんのよ聞いてんの!?」

と、必死に抗議をする悠奈たち年下メンバー4人だが、ママたちはまるで聞く耳を貸そうとせず返事もない。
そんな彼女たちにヴァネッサはさらに続けた。


「ご了承下さりありがとうございます。それで、さっそく今日なんですが・・・実は先程、お子さんの1人が私の言いつけを守らず勝手な行動をとられてしまい、危うく命の危険になるところでした。このようなコトもう2度と繰り返して欲しくありません」

「ええ!?さっそく!?」

「だぁれや?そんなアカン子は?ナナぁ、アンタとちゃうやろなぁ?」

「ええっ!?イヤイヤちょっ・・ちがっ・・ウチやあれへんって・・」

「いいえ、ナナちゃんじゃなくて、ユウナちゃんです」

「え!?ウチのユウナちゃんが?」

と、驚いた様子の詩織ママが悠奈を見つめる。
ビックリして思わず息を飲んで血の気が引いている悠奈を今度はヴァネッサがゆっくりと振り返り、「ハイ」と答えた。



悠奈は理解した。

さっき、大喝されたあのコトだ。
ヴァネッサ先生はさっき、子猫を助ける為に魔法を使って、その結果あんな瓦礫の山が降ってくるような事態に陥ったことを言っているに違いない。
悠奈は未だ抱いている子猫を見つめてそう思った。


え?


ってコトは?


つまり・・・・




悠奈の顔からますます血の気が失せ、そして真っ青になった。

まさか・・・・



「詩織さん。今後のコトを知ってもらうためにも、今日、この場で私がユウナちゃんを叱らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。ユウナちゃん、ママが知らないトコロでそんな危ないコトしたなんて・・・悪いコだったのね!今日はママの代わりにヴァネッサ先生にうんと叱っていただきなさい!」

「なっ・・ナニソレ?ねえママ?ホンキなの?ま・・ママったらあっ!」

娘の必死の呼びかけにも詩織ママは「知りません」と一蹴。

悠奈はママのコトを本気で鬼だと思った。
そんな愕然としている悠奈にヴァネッサが迫る。

「ユウナちゃん」

「ひっ・・・ちょっ・・やっ・・ヤメテよっ!だ・・だってアレは、このコを助けるためだったんじゃん!」

「その子はちゃんと京くんが助けに行ってたでしょう?子どもが助けに行くより大人が助けたほうが確実なんです。その子助けようとしてユウナちゃんに何かあったらどうするの?」

「何にもなかったんだからいいじゃん!」

「よくありません!何かあってからじゃ遅いのよ?」

「何ソレ?意味わかんないし!ただのオトナのオーボーってヤツじゃん!京さんだってもしかしたらノロノロしてて間に合わなかったかもしれないのにさぁ!このコ見殺しにしろっての?センセーってただのレーケツニンゲンじゃん!何がセンセーよふざけないでよっバカじゃん?あたしそんな教師ゼッタイに認めないしっ!」




「・・・・・」




と、ソコで時間が静止した。
悠奈の暴言を聞いた詩織ママがすかさず「コラ!ユウナっ!なんてことを・・・」と咎めたが、そこでヴァネッサが醸し出している独特の雰囲気を感じ取って言葉を飲み込んでしまった。

鶫ママも、雫ママも、里佳ママも。
勇蔵や一哉、京などの大人連中も、そして・・・

セイバーチルドレンズの面々も・・・



みな悠奈がヴァネッサ先生に対して言い放ったその言葉に呆気にとられた。

そして一拍置いて後、光、晃、咲良、那深、そして麗奈などから拍手が巻き起こった。

                     パチパチパチパチ・・・・




「え?・・な・・何よぉ?」


「ユウナ・・・オマエ・・スゴイんやな・・」
「初めて見たぜ・・・怒った状態のヴァネッサ先生にあんなコト言えるヤツ・・・レイでも言わねえのに・・・」

「アタシ・・ユウナちゃんのコト、ソンケーしちゃう・・・」
「あたいなんか普段口悪いケド、あのモードのヴァネッサセンセーにあんなこと怖くてぜっっってー言えねえ・・」
「ほえ〜〜・・・ユウナちゃんスゴ〜イ・・・」


「え?・・え?・・・え?・・あ・・ナニ?・・あ・・たし・・そんな・・ヤバイコト・・言った?」


「ま、勇気は認めてやるよ。オレもまさかお怒りモードのセンセーにあんだけジョートーかませるヤツに初めて会ったわ。やっぱおもしれえなユウナ、オマエって」


「え?な・・・ナニ?どーゆーコト?レイ」


「ま・・・だけどよ。今ので、死んだわ。オマエ」



「ユウナちゃんっ!!」


麗たちの反応に何が何だかわからず戸惑っていた悠奈をまたしてもヴァネッサの大喝が射すくめる。
ビクッとして引きつった顔の悠奈にヴァネッサはズンズンと大股で近づくと、その両肩をガシっと掴んだ。

「なっ・・何すんのよ?ちょっ・・イタっ・・はっ・・はなしてったらっ・・キャっ!?」

そして、なおも反論しようとする悠奈の言うコトに全く耳を貸さずに彼女を抱き上げると、そのまま横抱きに抱え込み、広間のソファの方へと向かった。

「ちょっ・・ちょっとはなしってよぉっ!なんなの!?ヤメテったらあっ!」

「あれだけみんなに心配かけておいて、そんなコト言うなんて、どうやら今のユウナちゃんはとっても悪いコみたいね。先生悪いコには容赦しません!アナタのママからも許可もらってることだし、先生がいつものイイコのユウナちゃんに戻してあげますからね。先生の言うコト聞かないで悪い事した子がどうなるか・・・たっぷり教えてあげますっ!」

「い・・・イヤあぁぁーーーっっ!はなしてぇ〜〜〜っっ」

ここまで来たら悠奈も何をされるのかわかった。
膝の上に組み伏せられているこの体勢から想像できるコトは1つ。
ママに怒られるとき、悠奈も何度も経験がある。でもまさかこんなトコロでママ以外の人に?
そう思った悠奈は恥ずかしさから必死に足をバタつかせて抵抗を試みた。

でもでも、なんて怪力なんだろうヴァネッサ先生。
まるで万力に掴まれているかのような感覚で悠奈がどんなに暴れようともビクともしない。

そうこうしている内に悠奈のゴスパンクな黒のスカートが捲り上げられ、小さなお尻を覆っている白い薄布が下ろされるのがわかった。
日向も窈狼も思わず目を背ける。

(/////やっ・・やあっ・・・お・・オシリ・・見られた・・・ひ・・ヒナタくんに・・・やだぁぁ〜/////)

もう悠奈は恥ずかしさに顔が真っ赤になった。
憧れのヒナタくんにこともあろうに丸出しのお尻を見られるなんて・・・
しかし、そんな乙女の恥ずかしいという気持ちを、まさにヴァネッサの初弾は吹き飛ばしたのだ。









パッアアァーーーーンッッ!

「っっっっ・・・っ!!!??・・っぁっ」

広間に響き渡った破裂音。
悠奈の小さなお尻を貫いたヴァネッサの掌撃の衝撃。
思わず息を飲む。

体を突き抜けるショック。

あまりの強烈な打撃に悠奈はお尻にまるで落雷を受けたかのような感覚を受けた。
一瞬おいてワッと広がる灼熱の激痛。
その全てが体から脳髄へと通り抜け、悠奈の涙腺と声帯を刺激し、悠奈に大量の涙を迸らせ、喉の奥からバンシーのような悲鳴を叫ばせた。



「っ・・ぁっ・・あっ・・キャアアァアァ〜〜〜〜〜〜っっっ!」



聞いたこともない悠奈の絶叫。
その様子に見ていた子ども達は耳を塞ぎ、周りの大人達さへも「え!?」という顔をする。
普段は優しくて娘を溺愛している詩織ママなどは思わず小さく悲鳴を漏らした。


「いぃぃ〜〜・・・ったぁぁあ〜〜いぃ〜〜・・うえぇっ・・いたぁいぃよぉ〜・・・えっく・・」


たった1発でボロボロと大粒の涙を流し、しゃくり上げながら泣く悠奈。
お尻にはじんわり浮かんだヴァネッサの大きな、真っ赤な紅葉。
しかしその様子にヴァネッサ先生、内心(しまった!)と思った。



(っ・・ちゃ〜・・・失敗・・・ちょっと力入れすぎちゃったかな?)



今悠奈のお尻を打ってみてわかった。
やはり麗たちと同じように打ってはいけない。

Sクラスのエージェントであり、キングオブファイターズにも参加経験のある腕利き格闘家でもあるヴァネッサにしてみれば、麗や光、那深や麗奈のお尻も、か弱くて柔らかく、お仕置きするにしてもかなりの用心をもって手加減しなければならない対象である。手加減しつつも彼らにしっかりとした痛みを与え、かつ理想的にお尻を赤く腫れ上がらせ、お仕置き後もしばらくはそのヒリヒリとした鈍痛によって反省を促すコトが出来る程度のギリギリの範囲。
お仕置き1つするのにでもヴァネッサは常に普通以上の神経を使っているのだ。

が、今お仕置きしている悠奈。
女の子であるということと、それとやはり小学校5、6年生と3年生の年齢差からくる子どもの成長の度合いにもよるのだろう。
個人差はもちろんあるだろうが、悠奈のお尻は同じ女の子の那深や麗奈などに比べてもさらに弱い肌をしている。
お尻の大きさも一回りは小さい。その彼女の可愛くて小さなお尻をあろうことかヴァネッサは今、麗や光などを叱る時と大体同じくらいの力加減で叩いてしまった。
悠奈の生意気な暴言に多少イラついてしまったのだろうか?大人気無い事をしてしまった。
感情にまかせて子どもを叩けばそれは躾けではなく暴力になってしまう。

心の中でそんな反省をしつつ、ヴァネッサは今度はさらに力を弱めて悠奈のお尻に第2撃目を打ち付けた。



ぱしんっ!

「やあぁぁうぅっ!・・・ったぁいぃ・・っっ」

(これぐらい・・・かしらね?イケナイイケナイ。わたしったら・・)

悠奈の反応を見て、自問自答して力加減を調整しながら、ヴァネッサはそこから連続的に悠奈のお尻に折檻を加えていく。
大分威力は弱まっているハズだが、叩かれている当の悠奈本人はそんなコト全く気付いておらず、ママ以外の人からもらう初めてのお尻ぺんぺんのショックに半狂乱になって暴れた。


ぱんっ! パンッ! ぺんっ! ペンッ! ぴしっ! ぴしぃっ! ぱしいっ! ぱちん! ペチンッ!

「きゃっ・・あっ・・ああっっ・・きゃうっっ・・いっ・・いたっ・・イタイっ!いたいぃぃっっ・・やあぁっ・・せんせえぇっ・・ヴァネッサせんせーったらあっ!いたいっ!・・痛いよ・・いたいよぉおっっ・・ヤメテよおっ」

「やめません!ユウナちゃんが悪いコだったから先生こうやってお仕置きしてるんでしょう?ホラ、自分が何が悪かったのか考えてごらんなさい。それがわかるまで、先生ぺんぺんおしまいにしませんからね」

「そっ・・そんなっ・・何ソレ意味わかんないんだケド!あたしなんにも悪いコトしてないし!」

パチィンっ! ぺちーんっ! ぱんっ! ぱあんっ! パァンっ! ぺぇんっ! ぴしゃっ! ピシャンッ! ばしっ! ビシッ!

「キャアアァアっっ!・・いっきゃあぁーっ!ああぁ〜〜〜んっっ・・・いたいっ!いたぁぁいっ・・いうぅぅっっ・・・わあぁ〜〜んっっ・・いっ・・たいじゃんかぁ〜っっ」

「みんなにあんなに心配かけたでしょ!万一のコトがあるかもしれないのよ!?先生が危ないからダメって言っても言うコト聞かないで、だからあんな大事件になったんでしょ!?それなのにそんなコト言って・・・反省しなさいっ!」

「うえっ・・・ぐすっ・・くすんっぐしゅっ・・・バカぁぁ・・・キライぃ〜・・・はんせっ・・なんか・・しなぁ・・もぉ〜・・・ひくっひくっ・・」

ヴァネッサは内心悠奈の言葉に舌を巻いていた。

やれやれ、どうしたものかとヴァネッサは頭を悩ませる。
お尻はもう十分赤く腫れてしまっている。子どもの、しかも女の子の肌だ。間違っても痣が残るようなことがあってはならない。
しかし、ここまで強情な子だったとは、見た目の愛らしさとは裏腹に女の子というものは本当にわからない。

悠奈の相変わらずの生意気な態度を見ていてある意味感心させられたのは麗や光も同じであった。


「・・・オマエと同レベルか・・・もしかしたらそれ以上やな、ユウナの強情さ加減って・・・スゴイでアイツ、まさかヴァネッサ先生のケツしばき喰らってもアソコまで逆らえるなんて・・・」
「もしかしたらオレ以上かもな・・・でもかえーそーに・・・あんなコト言ったんじゃセンセーだってまだまだ許してやるワケにもいかねえじゃんな」


パチンッ!

「っっ!?・・・やっ・・ああぁぁ〜〜〜うぅ〜〜〜・・・うえっ・・ふぇっえぇぇ〜〜〜ん・・いだぁ〜ぃぃ・・・」

まさにその通りだった。
ヴァネッサは可哀想という思いを首を振って掻き消す。
このまま手を緩めて中途半端なまま許してしまったらそれこそ悠奈自身を悪い意味でつけ上がらせ、悪いコト、危険なコトをしたり、約束を破ったりしてもヴァネッサ先生相手ならあまり叱られない。などと余計な意識を植え付けてしまうことにもなりかねない。
今回はヘタをすれば死に直結したほどの危険行為なのだ。ちょっとした軽はずみでこれからもこんなコトをしでかされては子ども達の安全はもちろんのことハッキリ言って保護者である自分たちの寿命も縮む。
そうさせないためにも、はじめてにしては可哀想か?という情を振り捨てて、ヴァネッサはまだもうちょっと悠奈を泣かせるコトに決めた。

「まだそんなお口がきけるのね?よ〜くわかりました。ユウナちゃんが反省してないコトが。じゃあ、先生もまだまだおしまいにしません!覚悟なさいっ!」

ぱんっ! ぱあんっ! ぺんっ! ぺーんっ! パァンっ! ぴしっ! ぴしいぃっ! ビシッ! バシッ! ピシィーッ!

「きゃあぁぁんっ!ぎゃあぁぁんっっ!・・・やっ・・やあぁぁんっ・・きゃんっきゃんっ!きゃううぅ〜〜っっ・・あっああぁぁ〜〜んっっ・・うええぇ〜〜〜っっ・・いだぁぁ・・いだいぃっ!いだいよおっ!いっ・・だぁいってばぁ〜〜・・バカぁ〜・・・ふぇぇぇ〜〜ん・・・」

ぱしんっ! ペシンっ! ぴしんっ! パチィンっ! ペチィンっ!

「悪いコ!悪いコっ!めっ!めっ!・・めっ!です!」

「ひいぃいっ・・ぐぅっ・・きゃひっっ!!・・いやっいやあぁぁ〜〜・・う・・うえっ・・うえぇぇ・・」


悠奈は絶対に泣くもんかと思った。
ママと同等か、あるいはそれ以上とも思えるほどに痛いヴァネッサ先生の平手打ち。
悠奈の小さなお尻はもうとっくに限界を過ぎていたが、それでも悠奈は意地でそう思っていた。

ママに叱られている時は相手がママだから、という諦めに近いものが悠奈の中にはある。
結局いつもママが正しかったということの場合が今まで愛澤家の人間として生きてきておのずから認めているところがあるから、ある意味で素直になれるのだ。
だが、ママ以外の人に、しかもつい最近知り合ったばかりの人こんな恥ずかしい恰好で叱られて、納得がいかなかった。

悠奈は思っていた。
なんで自分はこんなに痛い思いをして叱られているのだろう?
叱られることなんて何もしてないはずなのに、悪いのはあんなところに子猫を置いていった無責任な飼い主ではないか。自分はそれを助けようとしただけなのに・・・
それに、ママはどうしてこのデッカイ女の先生に自分を叱らせているのか?なんでそんなコトを許しているのか?

ママは平気なの?あたしのことカワイクないの?
イタイのに・・・
助けて欲しいのに?

どうして、なにも言ってくれないの?
色々な考えが次々と彼女の中で生まれ、その全てに、悔しさが滲み出ていた。

ただ、悔しかった。
泣いて降参などしたくなかった。



「イイコに・・なあれ!」

パァ ーー ン っ !

と一際強い一撃。
悠奈の体がエビぞりに仰け反る。


どうして?ヴァネッサ先生はあたしのお尻こんなに叩くんだろう?
どうしてこんなにイタイことをするんだろう?




ああ、そうか。
みんなに心配かけたから?


あんなに高いトコロに上って、危ないコトをしたから?


アレが悪いコトだったのかな?
イイコになれって?


ユウナハ、ワルイコ?






「うっ・・うっ・・ぅわあぁぁ〜〜〜んっっ・・ああぁぁ〜〜〜〜んっっ・・ひっ・・ぴぃっ・・びえぇぇえぇ〜〜〜・・・うえぇぇ〜〜〜んっっ」




ゼッタイに泣かないっ!
泣いてたまるか!

そんな悠奈の意地は、ついにヴァネッサの都合39発目の平手打ちによって崩れ去った。
大粒の涙を目からポロポロと溢し、ソファの上へと滴り落ち、布地を濡らす。
幾重にも紅葉が張り巡らされ、痛々しく膨れてさえ見えるほど腫れ上がったカワイイ幼尻は体とともに小刻みに震え、少女にとってヴァネッサの折檻がどれほどの恐怖であるかを否が応でもわからせる。
もう恥も外聞もなく、ヴァネッサの膝の上でアンアンと泣き叫ぶ悠奈の姿にたまりかねて、ついに詩織が悠奈のもとへと走り寄った。

「・・・ユウナ!」
「し・・詩織さん!」

隣にいた雫が、まだお仕置き中のため止めようとしたが、そんな彼女をまた傍にいた里佳が制止した。
詩織はヴァネッサの膝の上で泣きじゃくる悠奈に近づくと、しゃがみこんで目線を合わせて、優しく語りかけた。


「ユウナ・・ユウナちゃん。ゴメンナサイしなさい」

「ふえっ・・えっく・・・ま・・ママ?・・えぐっ・・ぐしゅっ・・」

「わかってるわよ、ユウナちゃんの気持ち、ママにはよくわかってる。このコでしょ?」

詩織ママはそう言って悠奈の足元で彼女を心配そうに見つめていた子猫を拾い上げた。
子猫は詩織ママに抱かれて気持ちよさそうに「にゃお」と声を上げる。

「このコを助けようとしたんでしょ?ユウナちゃん昔からネコちゃんが好きだったからママにはわかっちゃったわ。でもね、いくら助けるためでも、そのためにユウナちゃんが危ない目にあったりしたらみんなが悲しむわ。ママもそう、パパだってユウカちゃんだって、もちろんヴァネッサ先生だってそうなのよ?ユウナちゃんも、みんなを悲しませたりするのはイヤでしょう?」

と、そのママの呼びかけに悠奈はひくひくとしゃくり上げながらコクコクとうなづく。

「・・・ゴメンナサイ、できるよね?ユウナちゃんはとってもイイコなんだから。ね?イイコになろう?」

「うっ・・・うっ・・ふっ・・ゴメッ・・ゴメナっ・・ひくっひっく・・あぁあぁ〜〜〜んっっ・・ゴメンなしゃいぃ・・ゴメンナサイ・・・ごめんなさぁぁ〜〜〜いっっ・・うわあぁぁ〜〜〜んっっ・・・」

と、悠奈は先程まで意地を張っていたのをまるで忘れたかのように、ゴメンナサイを連呼し、ワンワンと泣き叫んだ。
ヴァネッサはそんな悠奈の手形がたくさん張り付いてまるでお猿のように真っ赤になって一回りほど大きくなってしまった痛々しいお尻を、優しく2、3回撫でさすってあげると、お尻に擦れないようにゆっくりとパンティを履かせて上げて、そして胸の辺りに抱っこすると、そのまま詩織に預けた。
そんな悠奈を詩織はしっかりと抱きしめ、彼女の髪を愛おしそうに撫でる。

「よしよし、痛かったよね?よくがんばったね。イイコ、イイコ。ユウナちゃんはイイコよね?」

「うえぇ〜〜んっ・・びえぇぇ〜・・ママぁぁ〜〜・・ゴメンなさっ・・ごめんなさぁぁ〜〜いぃ・・ママぁ〜」

痛くてツライお仕置きが終わったコトに気が付いた悠奈はママの胸にしがみついてエンエンと泣いた。
そんな悠奈を先程までお仕置きしていたヴァネッサも優しそうに髪を撫でて慰める。

「ユウナちゃん、ママよりも、ヴァネッサ先生にちゃんと謝りなさい。先生だってユウナちゃんのコト、とっても心配したんだからね?」

「ふぇっ・・?・・せんっ・・せ?・・ひくっ」

ふと見ると、さっきまでコワかったヴァネッサ先生はどこにもいない。
いつも通りあの優しくて温かい笑顔を向けてくれるヴァネッサ先生だった。
見て、悠奈は思った。
ああ、ホントに先生は自分のコトを心配してくれたんだ。じゃなきゃこんなに優しい笑顔を出来るハズがない、と。

「ぐすっ・・クスンっ・・ヴァネッサ・・せん・・せ・・ゴメン・・ナサイ・・」

「いいのよ。無事でよかったわ・・ゴメンね、いっぱい叩いて、でもホントにもうあんな事ユウナちゃんにしてほしくなかったから・・・お尻、痛かった?」

「・・・ウン、スッゴク痛い・・・ママのより痛かったかも・・・ううぅっ・・あ・・歩けない・・」

「え!?ほ・・ホント?ご・・ゴメン!やりすぎちゃった?ちょ・・ちょっとお尻見せて・・・」

「ってのはジョーダン。んなワケないじゃん、本気にしすぎ、バカじゃん?」

と、そんなクール&スタイリッシュでナマイキなユウナちゃんに戻ったのを見て、ヴァネッサと詩織は顔を見合わせて苦笑いした。


「先生、ウチの子、ホントにタイヘンでしょうけど・・・どうかヨロシクお願いします」
「ハイ、こちらこそ。責任もってお預かりします」



「・・・ヴァネッサさんもホント大変だな・・・色んな面でガキのお守りしなきゃならねえとは・・・」
「子どもにしてみたらアレ、イタイんでしょうね?ユウナちゃんよく無事だったなぁ〜・・・」
「まあ、KOFで男相手にも拳一本で渡り合ったような人だからな姐さんは・・・」
「ちゃんと手加減してますから大丈夫ですよ。ホラ、アレ」

と、お仕置きの一部始終を見て口々に感想を述べていたダン、真吾、ラモンだが、悠奈の身を心なしか案じていたラモンに、陽生が心配無い事を述べてその証拠とばかりに子ども達の方を指さした。

そこには、お仕置きの終わった悠奈に日向や七海たちが駆け寄ってきて、気遣ったり、からかったり、それに悠奈も反論したりして相変わらず仲良くやっていた。影響は無いように思える。流石はヴァネッサである。
そんな様子を見て、今度は京と紅丸がヴァネッサに声をかけた。


「お疲れだったな、ヴァネッサさんよ」

「京くん、紅丸くん」

「ま、アンタのかわりとまではいかねえがよ。乗り掛かった舟だ。俺らもできる範囲で協力するからよ」

「オイオイ、水臭いな。俺達を忘れるなって」

「ああ、ここまで深くかかわった以上、我々にも責任があるしな」

「教育者に身を置く者として、彼等を正しい道に安全に導く事こそが、我々の仕事だからな」


と、彼らに加わって一哉や歳武、勇蔵もそう言うのを聞いて、ヴァネッサは「・・・よろしくお願いします」と頭を下げた。


「アタシのほうもよろしくね!ヴァネッサせんせー!グローリーグラウンドの事ならなんでも聞いてねv」
「ありがとうレイアちゃん・・・よろしくね・・それと・・え〜と・・」



「イーファだぜ!ヴァネッサ先生!ヨロシクな!」
「ウェンディです。よろしくお願いします」
「オイラ、ユエ!なかよくしてね」
「ワイはヴォルツやでぇ〜、ほなこれからあんじょうたのんまっさぁ〜♪」
「オラオラぁーっ!バンさまだぁ!気合入れて行こうじゃねえか、うぅ〜・・ボンバぁーっ!」
「リフィネです。これからよろしくねヴァネッサ先生、あと、オジサンたち!」
「クレアです〜。みんなのコト、あたしたちといっしょに守ってあげてね」
「ルーナでしゅぅ〜、みんな、ルーナのことよろしくかわいがってでしゅぅ〜」
「・・・ケンだ。言っとくが足手まといにだけはなんじゃねーぞ?いーな?」


と、それぞれフェアリーたちも口々に挨拶を済ませる。

選ばれた子ども達と、人にあらざる妖精たち。

はてさてこれからどうなることなのか?不安もさることながら、全くわからなかった。




「ウ〜っス、カズっちゃん、来たぞ。レナちゃんとナミちゃんは?」

「ああ、ホアさんお疲れ様です。スイマセン呼び出したりして。レナちゃん、ナミちゃん、お迎えだぞ」


「ハーイ、あ!ホアのオジサンだぁv」
「ヤッホーおじさまぁ〜、元気だったぁ?」

「ああ。元気だよ。2人とも元気そうだなよしよし、何より何より」


と、麗奈と那深の迎えに浅黒い肌をしたスキンヘッドの男性が現れた。
麗奈と那深、その男性のもとに嬉しそうに駆け寄り、一哉やヴァネッサも笑顔で話しかけている。

彼こそJTスポーツクラブの総合マネージャーであり、元ムエタイの15度防衛世界チャンピオンにして今はあのジョー・東、東丈のセコンドも務めるホア・ジャイである。
彼が麗奈と那深の迎えとして、車を駆って東邸に駆け付けたのだ。

色々あった今日1日もついにお開きである。

しかし、悠奈たちとさよならをして那深と麗奈が車に乗り込んだそのタイミングで、東麗がホアに1つの質問を投げかけた。




「なあ、ホア。そう言やぁよお、ジョー兄ってドコ行ったんだ?」

「あ、せや。最近見ぃひんよな?」

「うんうん、ドコに行ったんだろ?」

「ん?ああ、ジョーかい」


と、悠奈の耳にもふと聞こえて来たそんな名前。
ママに抱っこされてやや落ち着いたのか?麗、光、晃の3人がホアと話しているその名前の人物のコトが多少気になった。


「?・・ジョー?」

「あ、そっか。ユウナまだ会ったコトないんだっけ?」

「えっとな。レイちゃんの従兄の人やねん。ムエタイって格闘技の世界チャンピオンで、ジョー・東っていう人」

「・・・あ、なんか聞いたことある。パパの雑誌に何回か乗ってたような・・・」

「おう、スッゲー有名人だからな。オレのママも何回かアクション映画の撮影の時に格闘技の稽古つけてもらったんだって!」

と、日向や七海、窈狼などがジョーと言うその人の事を説明してくれた。
なるほど麗の従兄だというが、京や紅丸のような格闘家らしい。
果たしてどのような人物なのか人柄も気になるところだったが、今度はそんな悠奈の心を読んだかのように那深や麗奈、沙良などの年上のお姉ちゃんメンバー達が悠奈が聞くより早くそのコトを教えてくれた。

「ジョー兄ってねぇ〜とってもおもしろいんだよぉっ!それに優しくってぇ、レナたちにもなんっでも買ってくれたりして、レナジョー兄のコトだぁ〜いすきぃ〜v」

「そうそう!それにカッコイイし!まあ、レイちゃんとはちょっと違うケド・・・何よりヴァネッサ先生みたいに怒んないしなぁ〜♪」

(・・・そーなんだ・・レイのおにーさん・・ってコトは、ちょっとコワイのかと思っちゃった・・・)

「そう言えば最近いねえよな。アニキ迎えに行った時もいないし・・・ドコにいんの?ねえ教えてよホア〜」

「わかったわかった。ジョーのヤツはな。今オーストラリアにいる」

と、沙良のせっつくような問いに苦笑まじりにホアはそう答えた。
その答えに子ども達や、そして京やヴァネッサ、Jスポの面々、近藤たちまでもが『オーストラリア!?』と声を上げて驚いた。

「んなトコロにいんのかジョーさんは!?」

「アイツ・・何してんだ、はるばるオーストラリアまで行って・・・」

「全くだ・・あの馬鹿者一体何を・・・」

と、口々にそう言う紅丸、陽生、勇蔵にホアは1枚の紙切れを差し出しながら言った。

「ジョーのヤツからの伝言だ」







手紙の内容 〜〜



愛しいレイちゃんヒカルちゃんアキちゃん。そして妹分たちとすべてのオレ様の下僕どもに告ぐ!

オレ様はワニを探す旅に出る!

ヴァネッサさんがレイとヒカルの家庭教師として赴任してからかれこれ1年と少し。

愛しい弟たちのためとはいえ、オレ様はこの1年近く一口もワニを口にしていねえ。オレ様にとっちゃ奇跡だ!!

ワニが喰いたい。ワニが恋しい。

というワケでワニが人を襲う被害が1年に数回あると聞くオレ様にとっての新境地、オーストラリアへとオレ様は旅立つことにする!

オレ様のことは心配せずにおとなしく待っていたまえ!

BY 世界最強のムエタイチャンピオン・全人類の憧れの的・ジョー・東より






「・・・と、いうワケでよ・・・」


「何が全人類の憧れの的だよ・・・」

「オマエみたいな理不尽大王に憧れる人間なんていたら見て見たいくらいだぜっ!」


と、その手紙にジョーのオレ様気質があますことなく、汚い文字で書かれていた。


メンバーの子ども達はその手紙を読んで、ジョー兄らしいや、ときゃらきゃら笑っていたが、ジョーの気質を知らない悠奈は「ワニを喰う」というそのフレーズに何やら異様な感じしか抱けなかった。




(その・・・ジョーにい・・って・・・どんなヒトなの!?)





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IN オーストラリア


「ダディ〜・・ヘルプミィ〜〜!」


「エイミィーーっっ!ワッツ ザ ヘル!!」


所はオーストラリア、グレートバリアリーフ海水浴場沖。


平和な珊瑚溢れる平和な海。
休暇中の家族にまさかの悲劇が襲った。


「ダディ〜・・・ヘーーールプ!」


「キャアァァーーーーっっ!エイミィーー!マイッガッ!・・プリィーズっ!サムワン ヘルプ マイ ダーリンっ!」

「ジーザス!!サムバディ ヘルプ!カマーンっ!」


宙に木霊する幼い少女と父、母の悲鳴。
付近にはダイビングを楽しんでいた客が数人いたが、彼等もどうすることもできず、事の次第をただ呆然と眺めているしかない。

なんと浮き輪で浮かんでいる少女の周りをゆっくりと旋回している大きな三角のヒレ。それに伴って見え隠れする巨大な魚影。

まだ小学生ぐらいの地元の少女が今、正に巨大なグレートホワイトシャーク、ホホジロザメに襲われんとしていたのだ。
ここオーストラリアは世界でも有数の美しい海の観光地ではあるが、同時にサメの密集地域でもある。
とは言え、こんな開けた海水浴場にサメがやってくるなどごく珍しいコトではある。バカンスに訪れた家族は突然の不幸にただただ神に助けを求めた。

ついに、サメが獰猛な牙を剥いて、浮き輪の少女に襲い掛かった。


「アアァアァーーーーーっっ!!」

『ノオォォーーーーーーーーっっ!!』


と、そんな時だった。


「ワッツ ザッツ!?」

「あ・・アイ ドンノウ リアル・・・」

「ヒィズ・・・スーパーマン!?」





「どおぉぉうりゃあぁーーーーーーっっっ!」


タッチのタイミングでサメの正面からまるで少女を守護するかのように現れた1つの影。
その何者かは裂昴の気合を吐きながら牙を剥いて襲い掛かってくる巨大なサメの鼻先を、正面から殴りつけた。
まさかの攻撃にサメは面喰らい、グラグラとダメージによろけたが、標的をその攻撃を放った影の主に切り替えるとさらにその顎を大きく開けて水中から喰らいつきにかかった。

すると突然現れたその影の主は、水中で体勢を整えるとそのサメをあろうことか真っ向から迎え撃った。


「爆裂拳(ばくれつけん)っ!!」


そう放たれた拳の弾幕。
水の抵抗などないかのような凄まじい乱打、さながらガトリングガンのそれのようにサメの全身をあますことなく打ち砕く。
次の瞬間「オッシャーっ!」と水中から上がったのは、サメの顎をアッパーで撃ち上げている、頭に日の丸に嵐と書かれたハチマキをつけたパンツ一丁の男だった。









「マミィ、ダディーーっ!」

「エイミィーッ!」
「エイミー!アーユー オーライ?アア!グッド!イッツ ア ワンダホー!」


と、エイミーと呼ばれた少女と両親は抱き合って無事を喜び合った。
彼女を襲った9〜10メートルはあろうかという巨大なホホジロザメ。
それは牙を軒並み破砕され、口から血を吐いて絶命していた。水中で、しかも武器を持たない素手の男が獰猛な人喰い鮫をあろうことか撲殺したのだ。
正に人外の所業。周りにいた観光客はしきりにカメラを焚きながら「スーパーマンだ!」「X−MENだ!」と騒いだ。
その彼はと言うとなんと今しがた仕留めたサメを今度は人力で海中から引き揚げ、なんと浜辺に既に渡っていた。

信じられない怪力である。

サメを引き摺りながら歩いているその彼に、先程助けられた少女が駆け寄って言った。


「ウェーイっ!」

「あん?」

「センキュー!アー ユー ア スーパーマン?」

「・・・イッツ オッケー ヤングレイディ バット アイム ノット ア スーパーマン」

「ソゥ・・・フー アー ユー?」

「ウェル・・・アイム ム ア・・・・チャンピオン! ハブ ア ナイス デイ! ソー ロング!」

と、そう返して去ってゆく背中に、少女は
「センキュー!グッバァーイ!チャンピオン!」
と親しげに手を振った。





「オレーのパンチはハァリケェン〜♪ ブンブンブーン! どんなヤツでもぶっ飛ばすぅ〜っ!♪」


と、先程の男、巨大な鮫を引き摺りながら海水浴場近くのマングローブ林に構えたテントへとたどり着いた。

「っとお!大漁大漁!・・・と言いてえところだが・・・また今日のメシもワニにはありつけなかったか・・・オーストラリアに来てもう2日。初日はアナコンダ!今日はホホジロザメ。明日こそは名物のイリエワニちゃんにお目にかかりてえもんだ、海と川の境目のこのマングローブにいりゃあ簡単に手に入ると思ってたが、中々難しいもんだな・・・まあいいや、さって!コイツは焼き魚とフライで喰うか♪」

と言って大きな包丁を取り出して調理にかかる彼。
サメの身を切り取りながら

「早いとこワニをたらふく喰って・・・レイたちの元気な顔拝みたいもんだぜ」

と呟いた。


JTスポーツクラブ所属

逆立った髪に日の丸鉢巻が特徴の筋骨隆々としたこの男。
嵐を呼ぶムエタイチャンプ、ジョー・東こと東丈(ひがしじょう)は、遠いオーストラリアの地で、ワニを求めて狩猟の生活を送っていた。





                     つ づ く




キャラクター誕生秘話

愛澤悠奈(あいざわゆうな)

実は時雨の小説の中で女の子が主人公なのはこの作品が初めてでした。
このメディスパの投稿掲示板にお世話になり始めたのはちょうど時雨が語学留学をしていた2004年の秋頃。
イギリスはロンドンのインターネットカフェでのことでした。
その頃はキーとして女の子よりもむしろ男の子が主流の時期で、時雨もそれに乗っかるべく「家庭教師ヴァネッサ」シリーズを投稿させていただいたワケですが・・・

当初の主人公はジョーの歳の離れた妹として・・・「東優奈」(ひがしゆうな)という金髪の不良少女のお話にしようと思ってましたが、先にも述べたとおり、当時のキーは男の子が主流だったため、突然その子のイメージとデザインを男の子へと変更。

コレが当初の麗の金髪のロンゲ少年へと変わった訳です。

つまり・・・・もともと麗ちゃんは悠奈のボツキャラという奇跡から生まれました。

で、そんなこんなで10年の歳月が流れましたが、ここ3、4年くらい前から女の子キーがこの掲示板でも増えて来たので、じゃあ当初のキャラを題材に新しい作品をつくりたい!

と、そんでできたのがグローリーグラウンドとP・C・Aという新しい二次創作ものというワケです。

つまり、ユウナちゃんはボツキャラの復活・・・みたいなカンジなんですハイ。
主人公なのに作者のせいでいい加減なキャラに。

で、さらにいい加減なのが皆様もお気づきだと思います。

そう、キャラデザ!

パッと頭に浮かんだままテキトーにデザインしてイラスト描いたらなんとも地味な女の子・・・お・・オリジナリティが出ねえ!!
困ってたんで、おっし!じゃあ大好きなプリキュアシリーズから誰かをくっつけちまえ!
と思ってプリキュア5の望ちゃんのピンクヘアをプラスvんでもってちょっとハートマークの髪飾りを添えたら、お!中々可愛いコができた!よっし!じゃあいっそのことしゅごキャラ!のあむちゃんもまぜたれーーっ!

と、よせばいいのに調子に乗って大自爆。

見事に二流あむちゃんの出来上がり・・・・
コイツぁマズイ!せめて変身した姿だけでもオリジナリティを!・・・と思ってやってみたらのぞみちゃんとフレッシュのラブちゃんの半端合わせ・・・

まあいっか!二次創作だし!金目的じゃねえし!と諦めて終了。

バカです・・・アホです・・・

でもこれからもユウナは主人公ですので、なるたけ頑張ってなんとか時雨の色を表現できていったら・・・と思います。
できるかできないかはわかんないですけどね(笑)


これからも、こんなバカな時雨をユウナちゃんともどもにヨロシクお願いいたします・・・v