「おおっとぉ!入ったぁっ!二階堂紅丸の必殺・居合蹴(いあいげ)りぃーーっ!ポイズンたたらを踏んで後退っ!」

突如としてフェンスで囲まれたショッピングモール駐車場の一区画が歓声に包まれる。興奮を誘う実況の声が飛び交い、盛り上がる観客の視線の先には金髪に時代遅れなボディコン風のパンクファッションを身に纏った美女と、こちらも金髪で長い長髪を天へ逆立てた特徴的な装いの青年が対峙していた。
唸りを上げて襲い掛かったSM嬢が操るような鞭を皮一枚で躱し、青年が美女に必殺のキックをお見舞いしたところだった。
そのまま体勢が崩れたのを見計らって青年が一気に飛び掛かった。

「紅ちゃんやったれえーーっ!」
「いっけぇ〜ベニぃーーっ♪」

客席からそんな子どもらしき声援が聞こえる。続いて勢いを増す実況。
金髪の戦士、二階堂紅丸がそのまま飛び込みざまに体を捻って繰り出したバックナックルを見舞い、そこから連続攻撃を叩き込む。


「さあ二階堂一気呵成!当たった裏拳、クリーンヒットぉ!そこから畳みかける。膝からミドルキック!エルボー、ジャブ、ジャブジャブジャブ!ラッシュラッシュラッシュぅーっ!」

「雷靱・・っ」

と、紅丸が必殺技を叩き込もうとした正にその瞬間、彼はせっかくの止めの好機だというのに自ら身を引いて拳を納めた。と、同時に場外から「そこまでっ!」の声がかかった。
それに続いて「一本!勝負あり!」の声と同時にKOを宣言するゴングの音が鳴り響く、沸き起こる歓声。


「すっげぇーっ!紅丸さん強っ!」

「あったりまえだろうヤオラン!ベニーは京にーちゃんのライバルだぜ?これくらいどってことないさ!」


そんな興奮した子どもたちの声も聞かれたが、当の紅丸は勝利の悦びに浸るでもなく、物悲しいという顔で面白くなさそうにステージを退場していった。

「スゴイねユウナちゃん、日向くんのお兄さんのお友達ってこんな強い人たちだったんだ」

「う・・うん、アタシも・・初めて見た・・生で・・」

「みんな一流のグラップラーなんだな!」

「そうだぜイーファ!なんたってKOFに出てた人たちなんだからさ!世界一の格闘技トーナメントだってお父さんが言ってたもん」


嬉しそうにイーファに語る日向の傍らで、愛澤悠奈はレイアとともに多少目の前の闘いの光景に気圧されながらも「ふーん・・・」と感心して見せた。

今日は日向や七海、晃たちが練習生として所属するJTスポーツクラブ主催の異種格闘技トーナメント、「THE・KING・OF・FIGHTERS NEW HISTORIA JAPAN」の開催日。
本家本元のKOFとは規模の大きさこそ違うものの、賞金1億5千万争奪戦マッチと銘打たれたこのトーナメントは、それぞれが4人チームを編成し、その中で戦うメンバーを1人決定して選出させるという全く新しい形の大会方式をとっていた。

これが功を奏し、なんと総参加チーム24チーム。総勢参加者56名という巨大格闘技大会となったのだ。
ルールも本家のKOFに乗っ取り、ほとんどがルール無用、武器の使用すら場合によっては認められる街頭ケンカルール。
今回は聖星町がその舞台となり、選手たちは町中に散らばり、対戦相手と遭遇すればすぐにその場がリングとなり中継が始まるというものだ。

スポンサーには東グループを始めとして久遠コンピュータ、神楽財閥、ガルシア財団、そして新選グループに近年大企業へと成長をとげたウィザーディア社も加わっていた。
とうぜん、JTスポーツクラブの面々も大会にエントリーしており、二階堂紅丸、火引弾、ラモン、そして草薙京が4人チームとなってエントリーしていた。
今はその準決勝なのだ。対するはアメリカ、メトロポリスからエントリーしたマッドギアR。
十数年前に市長マイク・ハガーとコーディ―、ガイという男たちによって壊滅させられた一大犯罪組織、マッドギアの残党が徒党を組み、再結成されたチーム。

こんな危険極まりないアウトローチームが参加できるのもこのKOFの1つの魅力と言えよう。



「どおぅりゃあっ!」

「うげえっっ」


次鋒戦。
ダンの相手はエディ・Eという巨漢だった。
このエディ・E、元はメトロシティの警察官だったのだが、酷い悪徳警官でゆすり、恐喝、犯罪の黙認、データの改ざん、犯罪のでっち上げ、犯罪の自作自演などなど数多くの汚職に手を染め、マッドギアの面々と結託して私腹を肥やしていた。
マッドギアが壊滅してからは職も金もすべて失って自棄になっていたが、今回の大会の優勝賞金でもう一度一花咲かせようとかつての同僚、アビゲイル、ダムド、ポイズンとチームを組んで参加したのだ。

相手は桃色の胴着に身を包んだ空手家風の男だったが、ついている。
今自分が首を締め上げて仕込んでいた警棒で滅多打ちにしているこの男は先程ポイズンを一蹴したあの二階堂という男に比べればその実力が明らかに格下である。
久々に思う存分に暴力に酔える。しかもその結果殺してしまったとしてもこれはKOF。
自分は罪に問われることはない。事故でカタが付く。

かつてのスラムでの喧嘩よりも心が躍っているのをエディ・Eは実感していた。



「ぐへへへへへっ!このまま嬲り殺しにしてやるぜカラテマン!」

「うげっうごっ・・おげっ」


「ああっ!ダン!何してんだよっ」

「ダンさんしっかりーっ!やられちゃうよぉ〜」

「ったく情けねえなあ!弱えんだよテメエはあ!もう負けろ!いっそのことボコボコにされて負けちまえっ!」

と、晃、那深、麗のそんな三者三様の声が今まさに警棒の連打を喰らっているダンの耳にも届いた。


(さ・・最後のはレイか?ちっくしょ!流石はジョーの甥っ子だぜ、憎たらしいセリフ吐きやがる・・・ま、ヤベエのは事実だが・・しかし!先日の陽生も今の紅丸も勝ってるのに俺だけ負けるワケにはいかねえっ・・・ここは・・・ド根性見せるぜっ!)


「っっ・・チョーシに乗ってんじゃねえぞ!この・・ブタヤローがっ!」

「ぶげえっっ!?」

と、襟首を掴まれ、吊り上げられた状態で警棒の連続打を喰らっていたダンだったが、隙を付いて逆にエディ・Eの腕を両手で掴んで引き寄せると、その状態から両足で首根っこに組み付いて頸動脈に手刀を思い切り叩き込んだ。
予想外の急所への攻撃に息がつまり、くかかっ・・と息を詰まらせて首を抑えてダンを開放する。そのままヨロヨロと後ずさるエディ・E。
そのチャンスにダンは一足飛びで迫ると必殺の三段蹴りを浴びせかけた。

「ダン!ダン!セイヤアっ!断空脚!」

膝から繋いで右左の連蹴りが鳩尾から顎に叩き込まれ「ふぐぅっっ・・」とくぐもった悲鳴とともに鼻血を吹いて膝をつく。

「こっ・・このクソがぁっ!もう大会なんか関係ねえ!ブッ殺してやるっ!」

そう言うとエディ・Eは突然ポケットから拳銃を取り出してダンに突き付け発砲した!

ドンッ!という音が響き渡るとともに周囲から悲鳴が聞こえる。

「だあぁっっ!?・・っあっ・・あぶねえぇ〜〜・・・・ったく!何てことしやがるコノヤロウ!」

しかし、エディの撃った弾丸はたまたまだったのか?ダンが追撃で繰り出していた前蹴りで手元が上方に蹴り上げられておりそのまま天井に放たれた。
反則負け覚悟で繰り出した奥の手までもが失敗に終わりみるみるうちに巨漢の顔が歪む。そのエディ・Eにダンが止めの必殺技を打ち込む。

「当たったらイテエだろうがっサイキョー流奥義!・・・チェストオウっ!」

ダンは眼も見張るようなスピードで駆け込むと突進ざまにエディ・Eの顔面に正拳を叩き込む。そこからアッパーブロー、膝蹴り、肘鉄落とし、中段突き、回し蹴り、そして最後に鳩尾に晃龍拳(こうりゅうけん)というアッパーブローを打ち込んだ。

「疾走ぅ無頼拳(しっそうぶらいけん)!ヒャッホォーウっ!」

「おっっげえぇああぁぁーーーっっ!!」


カエルの潰れるような声を上げて宙へと打ち上げられたエディ・Eはそのまま錐揉みして吹き飛び、アスファルトへと派手に叩きつけられ、白目を剥いてビクビクっと痙攣した。
ダン・ヒビキの逆転勝利である。


「うぅ〜〜〜・・楽勝ぅーーっ♪俺の時代だぁ!」

ダンの勝利の雄叫びが木霊する。
ボコボコの面を見るにとても楽勝とは言いがたいがその光景にギャラリーが沸く。
これでJTスポーツクラブの2連勝である。




「ぅんどりゃあぁーーっっ!」

裂孔の気合とともに打ち出されたオーバーハンドブローをたっぷりと余裕をもって躱すラモン。

彼の相手はダムドという金髪レゲエのサングラスをかけた巨漢だった。
170cmと格闘家としては小柄なラモンのおおよそ2倍近く大きい体格を誇るパワーが売りのブルファイターだった。
しかし、高い機動力のアクロバティックレスリングが身上であるルチャドーラーのラモンにしてみればただ大きいだけのダムドの攻撃は拳突きにしろ蹴りにしろ欠伸が出るほどのろまなものに映った。

「どしたいグラサンのダンナ?それで全力か?パンチ1発すら当たってねえじゃねえか。期待外れもいいところだねえ木偶の坊さんよ。体がデカくても当たらなきゃ意味ねえよ」

「んっ・・だとぉ!?調子こいてんじゃねえぞこのクソガキがあっ!おぉら!喰らええぇぇいぃっっ!!」

ラモンの安い挑発に完璧にキレたダムドは額に漫画のように血管を浮き上がらせ、バックステップをすると体を少し沈み込ませ、そのまま勢いをつけて猛突進。その勢いのままラモンに向かって彼を粉砕せんばかりのラリアットを放ってきた。
当たれば鉄柱すらヘシ折るであろう筋肉の塊の剛腕。しかしラモンはそのダムドの腕を一瞬で絡めとるとまるで獲物を捕食するアナコンダのようにダムドの首筋に自分の腕を巻き付けあっという間に脇下に締め上げる。
頸椎と気道が圧迫され「ぐっ・・ぐっがが・・」と苦悶の声を上げるダムド。
そのダムドをラモンは背を反らせて弧を描きながら一気に投げ飛ばす。


「タイガーネックチャンスリー!」


130kgはあろうかというダムドの巨体がグンッと持ち上がりそのままハイスピードで背後のアスファルトに叩きつけられる。ドガン!という轟音とともに叩きつけられた部分がベッコリと圧力でへこんだように破壊される。

「がはあっっ」

喉の奥から涎を飛散させて苦悶に呻くダムド、そこをすかさずラモンが追加のボディブレスを見舞う。
ラモンの80Kgの体が文字通り弾丸となってダムドの胴体を射抜く、堪らず回避しようと地面を這って逃げにうってでようとするダムドをラモンは
「起きろコラァっ!」
と力づくで引き起こす。

もはや戦意を失いかけたダムドの鳩尾に追い打ちとばかりにエルボーを叩き込むラモン。

膝をついて崩れ落ちるダムドを今度は再び力を込めて抱え込むと今度はとどめの必殺技を放つ。

「受けてみやがれ、虎の力を!タイガァースピィィンナアァー!!」

かつてプロレスリングの興行で飛び入りで巨漢レスラーをまとめて6人投げ倒したと言われるラモンの必殺奥義。
ダムドは二転、三転と地面をまるでダンプカーに跳ね飛ばされたかのように勢いよく転がると、そのまま倒れて動かなくなった。


「そこまで!一本!勝負あり!」

「ビバ・メヒコぉ!♪」


高らかにラモンの勝利コールがされる。
ラモンも詰めかけた格闘技・・否、喧嘩好きの大観衆に大手を振って応える。ここまでJTスポーツクラブの3連勝。実況も熱が入る。


「さあ!ついに大将戦です!このままJTスポーツクラブが押し切るか?はたまたマッドギアRが大逆転するか?勝負の行方は大将戦!マッドギアRは大将、組織ナンバーワンだったという怪力の持ち主、アビゲイル!」

白の体操選手のような装いに、顔にペイントを施した筋骨隆々としたいかにもなパワーファイターが決闘場へと進みでる。仲間達を一蹴してきたJスポメンバーへの怒りか?「ぐおおぉぉーーーー!!」と吼え声を上げてアスファルトに拳を叩きつけるアビゲイル。
するとまるでアスファルトがカステラかはたまたゼリーのように簡単に抉りとられ、一抱えもあるような巨大なアスファルトの塊を空高く放り投げるとそのまま落ちてきたソレをヘッドバットで粉々に粉砕した。
そのパフォーマンスに周囲から悲鳴が上がる。


「ちょっ・・ちょっと!ね・・ねえユウナちゃん!ナニあのヒト!?か・・怪獣?」

「し・・知らないって・・・ねえ、ヒナタくん?大丈夫かな?あんなお化けみたいなヤツ・・・」

「大丈夫だって!なんたって最後は・・・」


「さあ!では参りましょう!対するJTスポーツクラブ!大将はこの男だぁ!」


コールがなされると同時に興奮に沸く人混みを掻き分けて何者かが勢いよく金網を駆け上がり、試合場へと降り立った。
降り立った人物にギャラリーが一斉に歓声を上げる。


「キョーウ!」 「キョーウ!」 「キョーウ!」

「キョー様ぁー♪!」 「ステキぃ〜〜w」 「京くんコッチ向いてえぇーーっ!vv」

「クッサナギ!クッサナギ!」 「クッサナギ!クッサナギ!」



「ミスターKOF!日本が生んだ天才格闘家!草薙京の入場だあぁーーーっ!」



「いっけえぇーー、京にいちゃんっ!」 「京にいちゃんガンバぁーーv」


割れんばかりの大歓声に、実況と日向、七海の声が合わさる。
その声援を一身に受ける舞台上の青年、草薙京は慣れた感じで軽くギャラリーに手を振る。そして目の前の鼻息荒い巨体の男を見据えた。


「・・・どうやら紅丸が一番ハズレ引いちまったみてえだな。ま、オレもコイツが当たりなのかって聞かれりゃ答えに困るが・・」

「グッフッフ!小僧、調子に乗るのもここまでだ。俺様のパワーで今すぐ捻り潰してやるぜ!」

「・・・なんかしゃべってやがんな。でも、紅丸とかジョーさんと違ってオレぁ英語ほとんどわかんねえんだよ・・・が、ともかく舐めたセリフほざいてやがんのはわかったぜ」

そんな2人のやり取りがなされている間に試合開始の合図が入る。大将戦開始である。



「Ohooッッ!KILL! YOUーーーッッ!!」


アビゲイルが野太く吼えて京に襲い掛かる。ゴリラよりも一回り大きいかと思われる筋肉の鎧を搭載した腕を振り上げながら突進してパンチを放ってきた。
眼を逸らしていたいた京、完璧に不意を突かれて対処もできぬままに顔面に直撃を受け、そのまま勢いよく吹き飛ばされる。


「きゃあぁっっ?」

「きっ・・京にいちゃん!?」

「あーんもう!何やってんねんな!」




「ボケー!なんでそんなテレフォンパンチもらってんだーっ!」

「油断しすぎなんだよこの馬鹿野郎が!テメーはダンさんか!?」

「・・・紅丸・・・それってヒドくねえか?」


油断からの予想外の攻撃をモロに喰らってしまった京に、悠奈と日向はビックリし、七海やラモン、紅丸からは野次が飛ぶ。
派手にコンクリに叩きつけられた京だが、体を転げて体制を一瞬で立て直すと地面に唾をペッと吐き捨てる。

「っ・・てえなオイ!バカだ俺、確かに油断しちまってたな・・・だが、せっかくの舞台で恥かかされたばっかじゃちとおさまりつかねえやなぁ・・」

「うぅおおぉぉおーーーーっっ!」

立て続けに吼え声を上げて襲い掛かるアビゲイル、強いだけではなく十分にスピードの乗った拳の乱打。追い打ちには十分すぎるほどの申し分ないほどの攻撃だった。
しかし、京はその全てを紙一重のところで全て見事に躱す。
そしてアビゲイルが焦れてパンチの振りが雑になった正に一瞬だった。
京がその腕を片手で掴み上げたのだ。


「うおっ・・おっ!?」

「貰ったあっ!」

無防備となった右側のリバーに京が力を込めたブローを抉り込む。
ゴキゴキッ!と明らかに骨が砕ける音とともにあぶく混じりの涎を垂れ流してアビゲイルが上体をくの字に折り曲げる。
続いて左側の胃に炎をまとった必殺、百拾四式・荒咬(あらが)みを叩き込み次いで九傷(このきず)、八錆(やのさび)まで繋げる。

「ホラよ!まだボディが、甘い!お留守だぜ!」

左の胃に京の炎を纏ったフック、続いて浮いたジョーにアッパーが突き刺さり、打ち下ろしの肘鉄で地面に突き落とされる。

「うげっっえぇっ・・・がっっはあっあっ!?」

鼻骨と前歯の何本かが軒並みオシャカにされて衝撃にくぐもった声を上げるアビゲイル。
突然の痛烈な反撃にダメージで揺れる脳を頭を揺さぶって必死に堪えると、笑っている膝を気力で奮い立たせて立ち上がり、目の前の京を凄まじい形相で睨みつける。

「オラ、どうしたよデカブツ?もう終わりか?」

「こぉの・・・クソガキャぁぁ・・・ナメたマネをっっ・・ひっ・・・ヒネリ潰してやるうぅぅーーーーっっ!がああぁぁぁっっ!」

と、怒りでそう吼えたアビゲイルは突然京に突進するとその太い腕で彼の喉元を締め上げ、宙へと吊り上げた。

「きゃあっ!?ちっ・・ちょっとヤバイって!」

「京にーちゃんあぶないっ!」

観客席の悠奈や日向からも悲鳴が聞かれる、が、京は「シュッ」と息を吐くと空中でその腕を取り、支柱にして勢いをつけると肘鉄と膝でアビゲイルの手首をまるで猛獣が獲物に噛み付くかのように挟み込んだ。
「ぐうっ」と呻いてアビゲイルが溜まらず京を落とす。ソコをすかさず京は足払いをかけ、体勢が崩れたところを七拾五式・改(ななじゅうごしき・かい)という二連蹴りで体ごと宙へ打ち上げる。
そして落ちてきたアビゲイルを・・・



「おおうりゃあ!」



「でたぁーーっ!京にーちゃんの鬼焼きだぁーっ!」
「ええっ!?あ・・アレって鬼焼きなのか!?スッゲエ!ヒナタのと全然迫力が違うじゃん!」
「そらぁ、京にーちゃんのはホンモノの鬼焼きやさかいな。ウチもちずるねーちゃんに聞いたコトあるけど・・やっぱ本家本元ってスゴイねんなあ」



得意の百式・鬼焼き(ひゃくしき・おにやき)で追撃したのだった。
客席の日向や窈狼、七海からも歓声が上がる。
この一撃が文字通りの決定打となり、ボロ雑巾のようになったアビゲイルが地面に激突してダウンした瞬間に、JTスポーツクラブの勝ちが宣言された。


その後行われた決勝戦、vs平和一家と名乗る無所属チーム。
大阪を根城にする極道一家、平和組とアメリカの麻薬シンジケートが手を組んだチームで一度サエバ・リュウ、と名乗る警官をはじめとして壊滅させられたヤクザどもが再度手を組み結成されたこちらもアウトローチーム。

ヘイケ・ユージロー、ヘイケ・アズサ、ニトウ・リュウジ、キャステローラのチームでこちらも武器や銃までも使用する反則チームだったが、この決勝戦でもJスポチームは本当に、まるで冗談のように大した苦戦もせずに圧倒的内容で4人を瞬く間にそれぞれが倒してのけ、見事優勝を飾ったのだった。



「やりました!JTスポーツクラブジム!この強豪ひしめくザ・キング・オブ・ファイターズ ニューヒストリアジャパン、見事に優勝です!流石は一流の格闘家揃いのJスポ、現在不在のジョー・東選手を欠きながらもソレを補って余りある他選手の活躍で圧倒的内容での優勝です」

実況が高らかに響き渡り、表彰台には紅丸、ダン、ラモン、京の4人がそれぞれ並び、周囲から割れんばかりの大歓声が飛ぶ。
日向や七海はもちろんのこと、悠奈も初めての生で見る格闘技の試合の余韻に浸り興奮を隠しきれない様子だ。

「すごかったねえユウナちゃん!ね?ね?来てみて正解だったでしょ!?」
「なあ?サラちゃんの言った通りだったろぉ?格闘技ってスッゲエ熱くなれんだって!今度アニキのボクシングの試合も見せてやっからよ」

「ま・・・まあねえ〜、フツーよりは面白かったんじゃん?っていうか、こんなのそんなひんぱんに続けてたらその内ケガしちゃうと思うし考えた方がいいんじゃん?」

嬉しそうに悠奈に話しかける麗奈と咲良にそんなつっけんどんな態度をとる悠奈を見て、すぐ前にいた那深も「お!またまた意地っ張りキャラね?」と言うとレイアとともに「「ねーーv」」と笑い合った。


「しっかしアレだな。ホントに強えよウチのジムの選手って・・・アニキって小さいころからあんな人たちに囲まれて揉まれてきたんだもんな。そりゃ強くなるワケだ」

「まあ、陽ちゃんもそうやし、京さんに紅ちゃんなんかは殆ど超人やさかいな・・・・・ってコトはセンセーも超人かいな!?」

「こぉら、女の人に超人とか言わないの。あら?レイちゃん眠そうだけど体調悪い?」

「・・・ホラな。ぜってえウチが勝つと思ったぜ。結果見えてんだよこんな大会。なあセンセ、もう帰っていーだろ?周りの客もウゼーしよ」

と、晃に光、麗もそれぞれ好き勝手なことを言い、とくにあまり機嫌の良さそうではない麗を付き添いのヴァネッサがよしよしと宥めていた。

表彰式は最高潮の盛り上がりを見せ、悠奈や日向達もまさに臨場感溢れる今までになかった体験をした。

こうしてキング・オブ・ファイターズの特別大会は幕を閉じたのだ。


その祝勝会での出来事であった。





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「ねえみんな!一緒にグローリーグラウンドにいこうよ!」


と、いきなり上がったレイアの声に豪華な料理に舌鼓をうっていたその場のチルドレンズ一同と、レイアの仲間の妖精達の目がテンになった。

「は?なにいってんのアンタ?」

「やっぱりか。メンバーももうずいぶん集まったコトだしな。一度イリーナさまに報告する必要だってあるだろ」

「え・・っと、ど・・どーゆーコトなんだ?イーファ、レイア」


グローリーグラウンドに行く。
そのレイアの言葉にうなづきながら同意するイーファに、日向や七海も怪訝な顔。
だが、唐突なその宣言に見ればフェアリーの誰もがウンウンとうなづいている。


「ち・・ちょっと、ウェンディ!どーゆーコトやの?グローリーグラウンドって・・・またこの間みたいにグルグルするトンネルみたいなん潜ってアンタらの国に行くってコト?」

「そうよナナちゃん、わたしたちみんなイリーナさまに言われていたの。仲間がある程度集まったら1度イリーナさまに会いに行くって、今仲間はレイくんを入れて10人、全部そろったワケじゃないけどそろそろイリーナさまに報告しないと」

「おおっしゃ!そうと決まったらハナシは早え!とっととグローリーグラウンドに行くぞオラオラオラぁーーっ!」

「いや、勝手に決めんじゃねえよバン。ちゃんと説明しろって」


簡単な説明をするウェンディに話を勝手に進めようとするバン。七海と晃がジュースを片手に聞き返す。
すると「あ、そうだったね・・」と思い直したようにレイアが頭を掻きながら話し始めた。


「えっとね・・ホラ、この前ユウナちゃんとヒナタくんとぉ、ナナミちゃんとヤオランくんで1度グローリーグラウンドに行ったのって覚えてるかな?」

「え?・・あ・・ああ、そう言えば・・うん」

「うん、行った行った」


「でね、その時、アタシ、イリーナさまに言われてたの。セイバーチルドレンズがある程度覚醒したら、その時もう1度来なさい・・って」

「もう1度?・・ってコトはもう全員そろった言うことやの?」

「ううん、まだ聖の力を持つクイーンとなる子も見つかっていないし・・・アタシの能力もわからないままだし、メンバーもまだ2人ほどそろってないないけど・・」

「じゃあ、ダメなんじゃねえの?オレもヒナタももう心当たりなんてないぜ?」


と、そんなコトを言い合うレイアと1度グローリーグラウンドに行ったことのある悠奈、日向、七海、窈狼。
と、そこで「ち、ちょっと待ってっ」と那深が手を上げて彼らを引き留める。


「あ・・あのさぁ、ハナシの途中で悪いんだケド・・・ヒナちゃんもユウナちゃんもソコに行ったことあんの?」

那深のその当然とも思える疑問に、「うん」とうなづく4人の子どもたち。

「えぇーーーっ!ウッソマジマジぃ〜〜?」

「行ったことあんのかよ!?なあなあ、どんなトコ!?オイ、クレアぁ!どんなトコなのかあたいにも教えろよぉ!」


途端に麗奈と咲良が悠奈たちの方へ詰め寄るような勢いで聞き出した。
「え〜と、たしかぁ・・」と思い出しながら説明しようと落ち着いたような七海と2人の迫力に圧倒されて「え?え?・・・そ・・んな・・急に言われても・・」としどろもどろの悠奈。

「オイオイ、レナぁ、まさかオマエ行くつもりじゃねえだろうなぁ?」

「サラもよく考えろよ?まぁたメンドウなコトに巻き込まれたらどうするよ?」

「えー?だって行ってみたいじゃん!魔法の世界だよ?レナそういうの大好き!」
「あたいもあたいもぉ〜〜♪」

あっけらかんと答える考えなしの2人に麗も晃もやれやれという表情、そんな彼らに苦笑しつつ、光が冷静に切り出した。

「まぁ、ともかく・・・ヴォルツ、オマエもオレらがそのグローリーグラウンドっちゅう所に1度行っといたらええっちゅうねんやな?」

「そや!取りあえずはイリーナさまにあんさんらが覚醒して魔力を身につけたっちゅうことを教えたって、それから次はダークチルドレンズの対策を話合ったりしたいらしいで。なにはともあれまずはグローリーグラウンド、そこの王都レインヴァードに行かなアカンな」

「言うてもなぁ・・・どないする?アキラ」

「ま、乗り掛かった舟だしよ。行かなきゃならねえなら行くけどさレイはどう思う?」

「・・・どー思うって・・・どっちにしたって今スグってワケにはいかねえんじゃねえか?オトナどもだってオレらがコツゼンと消えりゃいくらなんだって気づくだろーしよ」

「いや、レイ。その心配はねえんじゃねえか?」

「あ?」

大人たちの目を気にして決断しかねる年上のお兄ちゃん達チームだったが、麗の言葉に横からケンが割り込む。何事かと振り向いた麗にケンは「ホラよ」と指を指した。




「ホレホレ陽生――っv!飲めや今夜は飲め飲めぇ〜〜いっ!」

「やっ・・ヤメテくださいよ紅丸さん!オレまだ未成年なんですってぇ!」

「バカヤロウが!俺様の酒が飲めねえってか!?よぉし上等だ押さえてろラモン!真吾!」

「よっしゃ!虎だ陽生!虎になるんだあぁーーっ!大虎にw」
「陽生観念しろって!こーゆー時の紅丸さんはコワイぜぇ〜v」

「って、ナニ真吾さんまで酔っぱらってんスか!?ヴァっ・・ヴァネッサ先生たすけてぇ〜〜〜っっ」


「あ!ソレ、フレ〜フレ〜♪腰もフレ〜♪」
「乗ってんなヴァネッサさんよお!よぉし!京ちゃんお得意のギター弾いちゃうぞぉ!♪」
「京もちょっと飲み過ぎよ、ダンさんも止めて」
「いやぁ、今日はもう無礼講だろユキちゃんよぉ!ホレ、先生どんどん飲めや!」


「よぉ〜し!一哉くん!今度は俺が歌おう!」
「よぉ!近藤センセーがいったあっ!あ、飲めや歌えやホ〜レホレ!♪v」



「・・・あ、ホントだ」
「な?行くなら今がチャンスだぜ?」


そんなケンの言葉に麗はふと辺りを見回してみる。
父も先生もこちらの方はまるで見ていない。他のフェアリーたちも決意に満ちた表情をしているし、麗奈や咲良は言うに及ばず、那深や気づいてみれば晃や光まで自分の返事を期待を込めた眼差しで見つめている。
結局行きたいんじゃねーかよコイツラ。と理解すると麗はフウ、と息を吐いてレイアを見据えた。


「・・・ま、明日はガッコー休みだからまだいいけどよ、メンドくせえのはゴメンだからな?レイア」

「わかってる!今日はイリーナさまに会うだけだもん!」

「それじゃ?」

「いっ・・行っちゃうの?」


「うん!グローリーグラウンドにれっつごーv!」

そうするとレイアがウィザーズゲートを開くためのアイテム、ゲートキーパータクトを取り出した。
そしてフェアリーたちがそれぞれ魔力を込める。

「行けぇ〜炎の力よ!」
「お願い水の魔力」
「木の魔力よ、その力を示せ」
「疾風怒濤!風よ貫け!」
「バリバリしびれてやぁ〜、雷さん!」
「オラオラオラーっ!弾けろ爆裂!」
「お星様〜おねがいでしゅぅ〜」
「月よ吼えろ!魔力を放て!」
「大地よ、大いなるその恵みを今ここに!」


するとゲートキーパータクトが光り輝き、淡く七色に輝く光の奔流がチルドレンズ達を飲み込んでいく、それぞれに上がるまさに十人十色の悲鳴。
そのまま、子どもたちは光の中に飲み込まれていった。



「きゃあぁぁ〜〜〜〜っっ」

「うわあぁぁ〜〜〜っっ」

まるで宇宙空間にいるかのような無重力感に襲われたセイバーチルドレンズの面々はその異様な感覚に声を上げた。
既に経験済みであるはずの悠奈や日向たちも少々引きつった顔をしており、初体験の那深や晃などは思わず悲鳴に近い声を上げていた。そんな中・・・



「キャハハハハ!見て見てサラちゃぁん!虹色のトンネルぅーーっすっごぉ〜〜い!」
「マジかよ!?こんなのホントにゲームとかマンガみてえっ!スッゲェーーーっ!」

満面の笑顔でもうこの状況にすぐさま順応している麗奈と咲良を見て、悠奈と七海は「「やっぱりあの2人タダもんじゃ(や)ないね」」と顔を揃えて言った。
そんな2人に光と晃がカラカラと笑いながら「気にすんな」と声をかけた。

「アイツらは根っからのお気楽ムスメどもやからしゃあないねん」

「そうそ、っていうか頭ワリイから難しいコトあんまり考えられねえんだよな」

「そ・・そう・・なんだ」

と答えながらも悠奈は「え?そういう理解でいいの?」とあくまで楽観的な見解を述べる光たちをも心配していた。

「にしても・・・今日の試合さ、おかしかったと思わねえかヒカル?」

「ん?何がや」

「いや・・・紅ちゃんのコトなんだけどさ。なんっていうか・・・いつもの紅ちゃんじゃないっていうか・・いつも試合勝ったら見たか〜ってそれこそジョー兄みたいに浮かれて女の観客にデレデレの顔で手ぇ振ったりして調子ノリノリなのによ・・」

「あ〜・・言われてみれば・・・そうやったなぁ、あん時は全然気づかへんかったけど・・・」

「ああ、アレな」

「アレな・・って、レイ、オマエなんぞ知ってんのか?」

「なんで美人相手に女たらしの紅ちゃんがあそこまでやったかってコトだろ?さっきセンセから聞いた」

「?なんかあってんか?」

「あの相手にな、紅ちゃんちゃっかり試合前にナンパしてたんだと。試合終わったら食事行こうってさ」

「えぇえ!?ウソぉ!?そんなコトしてたのぉ!?」

「ああ、別に珍しくもなんともねえよ、紅ちゃんっていつも大体そーだから・・・でも、頭っから酒ぶっ掛けられて顔面に蹴り入れられて挙句に『失せなボウヤ』って言われたらしいぜ、流石にカチンと来たんだろ?ま、ウサ晴らしってヤツか普段は女相手には滅多に顔狙わねえクセにバンバン攻撃上に当ててったしな」


と、今日の試合についてそんな割とどうでもいいトリビアを麗に語られた光と那深、晃はそれから先何か考え事をしてるかのように終始無言だった。




「ん?アレ?麗?・・近藤先生、そーいえば子どもたち知りませんか?」

「?はてなあ・・・ホテル内を散策でもしとるのかな?」

「子どもたちだけで大丈夫ですかね?」

「んん、まあ、ココは新選グループの系列のホテルだから何かあれば俺の方まで連絡が入る。それにそうそう危険なこともなかろう」

「それもそうっスね♪お、来た来たぁ〜鴨の叩きv合うんだよなぁ〜ワインもポン酒も♪」

と、祝勝会現場の新選グループの系列ホテル、「ホテルRISIN−RYU」の宴会場内に東一哉とオーナー近藤勇三の声が賑やかな喧噪のなかで消えていった。





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「ちっくしょ!レイのヤロォ・・・」

「チアキ様、ご気分が優れないようですな。ハーブティーでもお淹れ致しましょうか?すっきりとしますよ」

「っせえよコズン、黙ってろ」

「クスクス、そりゃあねえ。あんなに自信満々で出て行ったのにやっぱり負けて帰ってきちゃその高ぁ〜いプライドだって傷ついちゃうわよねえ」


聖星町郊外にあるダークチルドレンズのアジトである洋館、広間で不貞腐れた顔をしてダーツの的にナイフを飛ばしていたチアキにジュナがからかうように笑いながらそう言った。

「あ?テメエは2度も出撃してダメだったろうが、エラそうに笑えたタマかよ?」

「アタシには作戦があるの。アンタとは違うわ。次は絶対に仕留めて見せるんだから」

「次だぁ?ヒャハハ!結局認めたってコトだな、テメエが能無しだってコトをよ」

「なっ・・何よ!アンタだってその新しく覚醒したセイバーチルドレンズのレイとかいうヤツにけちょんけちょんにやられて帰ってきたじゃないの!能無しはアンタのほうよあ〜ハズカシイ!」

「・・っんだとォ!?」

「何よやる気!?」
「やんのかコラァ!?」


「やめなさいよ!醜い争いは!」


と、言い争いから正にケンカまで一触即発という状況だったジュナとチアキに階段上から仲裁が入った。

見上げて見ればソコにはリーダーのサキがいた。
いや、サキだけではない。
アカネ、アミ、ミウ、ミリア、ユア、ナギサと今まで悠奈たちと闘ったメンバーたちがズラリと勢ぞろいしていた。


「・・・あ、アンタたち・・・」

「ケッごたいそうにガンクビそろえやがって・・・なんのつもりだテメーら?」

「どんなに吼えたってセイバーチルドレンズ打倒に失敗したのは事実、それは言い逃れできないわ。そうでしょ?チアキ」

「ああ!?テメエも失敗してんだろーが!しかもテメエも2回!それはどーだってんだオオ!?ナメてんじゃねえぞこのガキが!」

「ええそうよ。アタシも言い逃れはできない。もちろんジュナ、アンタも、ここにいるメンバー全員ね」

そう言われて後ろにいたメンバーも皆何か言いたそうだったが、サキの言い分が何分的を射ているため、取りあえずは言葉を飲み込む。
チアキもジュナも不満そうながらも押し黙ったところにサキは水晶玉のようなものを取り出した。

「静まりなさい。イリーナさまからウィザーズ・コレスポンドが入ってる」

その言葉を聞くと、その場にいたダークチルドレンズの面々が途端に緊張し、サキの持っている水晶玉のような通信機を見つめた。




「ア・ルケ・ホーマ・イゾ・ウエ・・・」

広間中央、ダークチルドレンズの子どもたちが並んだその中心にサキが立ち、呪文を唱える。
すると水晶玉が光り輝き、照らし出された光のスクリーンに赤い髪が艶やかな美しい女性の姿が現れた。


「ごきげんよう、わたしの可愛い子どもたち」

「エミリーさま!」

そう答えてサキが真っ先に跪く。それを見た周りの子どもたちも急いで同じような格好をとる。
チアキはどうも不精不精の表情を表していたが、彼も取りあえずは同じように体を低くする。


「元気だったかしら?サキ、それにみんな。しばらく見ないうちにどんどん凛々しくなるわね」

「エミリーさま・・・あの・・」

「なあに?」

にこやかな笑みを浮かべるメイガス・エミリーの顔を見て、サキは背中に冷たい汗を感じながら逡巡したが、やがて彼女を見据えると頭を再度下げて告白した。


「ゴメンナサイ・・エミリーさま。セイバーチルドレンズのコト・・未だに解決できずにいます」

「まあ、そう」

「不甲斐ないあたし達をお許しください!すぐにこの場にいる全員で作戦を練り直して、今度こそヤツラを・・・っ!」

「そんなに気にしなくてもいいのよ、サキ」

「!?・・け、ケドっ・・」

言いかけたサキを柔和な目線で沈黙させるとエミリーは静かにチルドレンズ達に話し始めた。

「子どもたち、いいこと?決して気落ちしてはいけないわ。今まであなたたちが思うようにいかなかったのはグローリーグラウンドのモンスター達や魔法をこの世界に召喚して戦っていたからよ。この世界では魔力が薄いためにジュエルモンスターや魔法そのものの威力も若干低下してしまうのよ」

「なぁんだ!そうだったのかよ!おっかしいと思ったんだよなぁ〜このオレさまがサラなんかにやられるハズねえってのに」

「ヒドイですわエミリーさまったら!そんなコトがわかってらっしゃるならどぉしてもっと早く教えてくださいませんでしたの?」

と、エミリーの告げた事実に不満を漏らすアカネとミウをサキが「うるさい!」と叱りつける。
すぐさまエミリーの方へ向き直って「じゃあ、どうすれば・・・」と尋ねるとエミリーはニコッと微笑んでこう続けた。

「そろそろよ。1度あのフェアリーたちはセイバーチルドレンズの子達をイリーナに会わせるためにグローリーグラウンドに向かうはず、ココで戦って思うようにならないのなら・・・」

「なるほど・・・そっか」

「グローリーグラウンドでケリをつければイイってコトね!」

「っしゃあ!それっきゃねえぜ!」

理解を得て、ミリア、ジュナ、チアキがそれぞれ声を上げる。
サキは後ろに並んだメンバーを見回してから先ほどとは打って変わって自信に満ちた目でエミリーを見据えた。


「・・・今度は、アイツらに目にものをみせてやります!」

「期待してるわ。それと・・・アナタたちに少しプレゼントがあるの」

『?』






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「ついたあぁーーーっ!!」

「・・・って・・ちょっ!あっあっ!ああぁ〜〜〜〜っ!!?」

「きゃあぁぁ〜〜〜っっま、またあぁーーーっ!??」



『っっっ!?・・・うわあぁぁぁあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ』



ドッシーーンッという轟音。

草むらの上に突如として空中から小学生の子ども達総勢10名が無造作に投げ出され、受け身もとれぬまま地面に転がり落ちた。



「っっいってぇぇ〜〜〜〜・・・」

「・・・っっ・・っもおぉ〜〜〜〜っっレイアぁぁーーーっっ!!」


「あ・・アハハハハ!ゴメンゴメン、そう言えばみんな飛べないんだっけ?」

「ヒナタ!大丈夫か?男だろ?その程度でへこたれんじゃねえしっかりしろ!」

「レイ、今のでギブか?案外オメエも脆えもんだな・・」

「・・・ブッ殺すぞテメエ」


レイア、イーファ、ケンがそれぞれ元気に声をかけ、麗だけはケンの憎まれ口に毒舌で返す。

悠奈は服をパンパンと払うと、辺りを見回す。
自分の知っている同じような空、同じような草、同じような風。
しかし、肌が感じる空気でわかる。同じようであって同じではない。
ココは自分たちが住んでいた世界とは全く別の世界、グローリーグラウンドなのだ。

聖星町の中にはどこにだってない、豊かで景色の美しい大草原が子どもたちの目の前に広がっていた。


「ココが・・・グローリーグラウンド?」
「せやでヒカル!ココがワイらの生まれた世界や」

「なんか目で見ても信じられねえぜ、なあバン。ホントにココが異世界だってのか?」
「疑ってるのか〜?だぁが!そんな気持ちもレインヴァードに行けば消えちまうぜオラオラオラぁっボンバーーっ!」


と、光と晃が自分のフェアリーとそんな会話をしていた時だった。辺りをキョロキョロと興味津々に見渡していた麗奈が突然声を上げた。

「あ!見て見てナミちゃん!あそこにお城が見えるよっ!」

「ホントだ!それに街も・・・」

「レナたん、あそこがぐろーりーぐらうんどでいちば〜んおーきいまちのレインヴァードでしゅう」

「そうよ、あそこにこのグローリーグラウンド全体のまとめ役ともいえるレインヴァードの王女様、イリーナさまがいらっしゃるの」

「うっわスッゲぇ〜vムードたっぷりじゃ〜ん♪よっし!すぐ行こう!なあクレア!」

「サラちゃん待って!みんなと一緒にいかないと、迷子になっちゃうわよ」



それぞれがそれぞれに思い思いのコトを言いながらまず、グローリーグラウンド初体験の女子チームがはやる気持ちを抑えきれずに正面、少し遠いところに見える街に向かって駆け出した。

「ああ!ちょっとみんなっ!」

「も〜う、レナちゃんもサラちゃんもみんなコドモなんやから・・・うっしゃ!ウェンディ!ウチらもいこいこ!♪」
「ナナちゃん・・・アナタも2回目なのにえらくウキウキしてるわね・・」

那深、麗奈、咲良に続いて七海や悠奈も駆け出す。
それに続いて日向や窈狼、すでに2人のフェアリー、イーファとユエは彼らの先を飛んでいる。
後に残ったのはやはり年上の男子チームであった。


「・・・どうすんだ?」

「いかなアカンやろ実際、アイツら野放しにもでけへんしな」

「ったく、メンドくせえヤツラだな、オイ」





「うわぁぁ〜・・・ホントに・・なんっていうか、その・・」

「RPGゲームの世界ってカンジじゃね?まさにさ・・・」

「うん・・建物とかも・・なんかビルじゃないしさ、ヨーロッパとか・・そこら辺の昔のお家みたい・・」

街に入るなり、那深と咲良、麗奈の3人はレインヴァードの雰囲気に圧倒された。
確かに賑やかな喧騒があり、活気にあふれた街である。相当に大きい街であるコトはわかる。

しかし、その光景はまるで中世のヨーロッパを見ているような一種独特の雰囲気だった。
巨大なビルや自動車のようなものは見当たらない。
家は煉瓦や木のような温かみのある材質で作られており、特に日本という建物に割合無機質味を感じられる国から来た彼女らにはそれだけでも相当な衝撃だった。
そしてさらに・・

「グギャギャ!」
「ギィーッス!」



「・・・なあヒナタ、アレって何に見える?」

「・・・うぅ〜ん・・・あのカッコってさあ・・見るからに・・でもなぁ・・そんな都合いいことあるかな?」

「なあ?ユエ、アレってなんなんだ?」

「?ああ、アレのこと?見ればわかるだろ、ドラゴンだよ」
「そうそう!アレはグローリーグラウンドに住むグロアス人に手懐けられて人を乗せて走るライディングドラゴン、速いんだぜ」

「・・・・へえ〜・・やっぱり・・・」
「この前来た時は見なかったからもしかしたらって思ったけど・・・いるんだあ、ドラゴン・・・」


『カッコイイぃーーーーっっ♪♪w!』

イーファとユエの説明に興奮して大はしゃぎの日向と窈狼、「ねえねえユウナ〜!ドラゴンだってドラゴン!」と悠奈まで呼び、流石にドラゴンと聞いて悠奈も気が惹かれたのか?七海と一緒にドラゴンを見つめては「ホンモノ?」「うわぁ〜、マジなんコレ!?ホンマにドラゴン!?」と気づけばメンバーの大半がその空想上に出てくるモンスターに興味津々であった。

「チッ、妖精に魔法があるくらいだからなぁ、ドラゴンが出てきてたっておかしくねえだろ。そんなもんでイチイチ驚いてんじゃねえよガキどもが。レベルが低いっての、なあ?ヒカル、アキラ・・・アレ?」

そう平静を装って悠奈達を見下すように発言した麗は隣にいる幼馴染たちに同意を求めようと振り向いたが、そこに彼らの姿がない。
どこに行ったのかと見回して、そして愕然とした。



「うおーーーっっ!!ホンマや!ホンマにドラゴンやあぁーーっ!」
「マジでドラゴンなのか!?スッゲエェ!恐竜とかに似てるって言われてたけどその通り結構似てんなぁー!おーい、レイ!ドラゴンだぜドラゴン!写真とろーぜ写真!」

「ってテメエらも同じレベルかよ!?」

と、そんなコントが繰り広げられているところに、付近のパン屋のオヤジから声がかかった。


「お嬢ちゃんたち珍しいカッコしてるねえ、どっから来なすった?」

「ハイハイハーイ!聖星町から来ました〜♪」

「セイジョウ・・チョウ?はて?聞いたコトねえなあ・・・ワンダーキングダムとかアッチの方か?」

「え?ワンダー・・ナニ?レナ知らない」

「・・・あ、あのさあレイア」

「何?ユウナちゃん」

「今気づいたんだけどさ・・・この前と一緒でさ、アタシら・・なんかヘンに注目されてない?」

パン屋のオヤジが首を傾げて怪訝な顔をしているのを見て、悠奈はあることに気づきレイアに声をかけた。
よくよく見れば付近にいる人たちはみんな自分達を見て訝しげな表情を見せたり、中にはあからさまに指をつきつけてクスクス笑う子どもの姿も見える。

声をかけられたレイアは最初何のこと?というような顔を見せたが、周りの状況を見回すと

「あ!ヤッバ〜イ!すっかり忘れてた!こーしちゃいられないんだった、はやくイリーナさまに会わなきゃ!」

と、慌てて叫んだのだった。





「姫様ぁっ!ひ〜め〜さぁ〜まぁ〜〜っ!」


レインヴァード王城、女王の執務室へと続く大廊下にそんな老人のけたたましい声が響き渡った。

「何事です?ディクソン殿、騒々しいですよ。それにイリーナ様はもはや姫ではなく女王陛下だと何度申し上げたら・・・」

「おお!アンドレイか!?姫様は!?姫様はいずこであるか!?」

ディクソンと呼ばれた白髪でカールした音楽家のような出で立ちの老人が眼鏡をかけた黒髪に切れ長の目をした端正な顔立ちの若者にロクに話も聞かずにまくし立てる。
アンドレイと呼ばれたその男性がやれやれといった感じで「イリーナ様は今現在執務中でこれから会議に・・」と言いかけたところだった。


「あら、じいや。どうしたのです?」

執務室からちょうどレインヴァード国の女王、ソフィア・グランディスの後を継いだ新女王、イリーナが出てきた。
何やら大慌ての幼い頃からの子守役を目にし、イリーナ自身も目を丸くしている。その彼女に白髪の老人、ディクソンは息せき切って言った。

「レイアが、フェアリーのレイアめが帰って参りましたぞ!今度はなんと10人もの人間を連れて!」

その言葉を聞くと、アンドレイも表情が変わった。イリーナはすぐさまアンドレイに対して広間を開ける手配を指示した。

(レイア・・・ありがとう)





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「いつまで待たせやがんだクソが。こちとら客じゃねえのか?」

「れ、レイちゃん、そんなに怒らないでよ」

「まー、レイの気持ちもわかるわ。しばらくお待ちくださいってこの部屋に通されてから結構たっとるからな。なあ、レイア、そのイリーナって人いつんなったらくんねんな?」

「さ・・さあ、あたしにも・・・人を待たせるような人じゃないんだけど・・・」


レインヴァード城、客間。
王城の門のところにやってきた悠奈たちを見咎め、即座に防衛の姿勢をとった警護の兵士たちだったが、すぐにフェアリーたちの存在に気づき、悠奈たちがセイバーチルドレンズであることを知ると態度を一変。
たちどころに平伏し、彼女たちを城内部のVIP客しか入ることのできない豪奢な部屋へと通された。
世話のメイドたちが甲斐甲斐しく紅茶や菓子などを並べ、しばらく待つようにと言われてからもうかれこれ1時間近くにはなるだろうか?
最初はお菓子や果物に歓声を上げてパクついていた麗奈や七海も次第に退屈し、ウェンディやルーナとしりとりなどをして遊んでいるし、咲良や那深はすっかり目的を忘れて学校のことや最近のテレビ番組の話などでガールズトークに花が咲いている。

晃や光は窈狼と格闘技の組手のようなものをしているし、麗は先程からずっとイライラして日向をおっかなびっくりさせていた。

悠奈はと言えばどこに加わるでもなく、メイドの1人が淹れてくれたいい香りのする紅茶を啜って人心地つく。

砂糖?のようなものがふんだんに入れられており、隠れ甘党の悠奈としては嬉しい甘い甘い味。
ホッと一息つく悠奈のとなりに日向が腰かけた。


「ユウナ、退屈?」
「え!?・・う・・ううん、別に・・・」
「そっか・・・なあイーファ、イリーナさまってもしかしていそがしい?」
「そりゃあな、ソフィア様が倒れてからいきなり女王様になったんだもんよ、慣れないってのに色々毎日大変だと思うぜ?それに今は何よりエミリーやダークチルドレンズのコトがあるもんな」
「そっか・・・じゃあ、気長に待ってようよ、な?ユウナ。あ、そこのクッキー・・なのかな?コレ、とろうか?」

そんなさりげない気遣いに悠奈は胸があったかくなった。
日向の魅力はなんといってもこの色んな場面で見せるさりげない気遣いや優しさだ。

「ありがと、ヒナタくん。あ、それよりさ、アタシ気になることがあるんだケド・・」

「ん?何?」

「うん・・・ねえ、レイー」

「あん?」

と、ヒマを持て余して態度デカくソファに寝っ転がっていた麗に、悠奈がトコトコと近づいて行って話しかけた。

「なんだ?何か用か?」

年上である先輩、しかもあの気難しい麗をいきなり知り合って間もないのにもう呼び捨てで呼んでいる悠奈の気概にも驚いたが、その悠奈を別に気にするでもなく普通通りに接している麗の態度には、麗をよく知る日向たちは度胆を抜かれた。

「ちっ・・ちょっとヒナ!ユウナのヤツいつの間にレイちゃんにあんなクチ聞けるようになってん!?」
「さ・・さあ・・・オレもビックリ・・・」
「ユウナって・・スゲエな・・・」


「あたしちょっと思ったんだけどさぁ・・ココの人達って別の世界の人達だよね?」

「じゃねえのか?異世界とか言ってんだから・・・オレもよくわかんねえケド」

「だよね?なのに何でみんな言葉が通じるの?しかも日本語」

「・・・ああ、ま、確かに考えてみりゃあそいつぁヘンだよな」

「うん、なんでなんだろう?ってずっと思っててさ・・・」




「それは、ニホン語がこのグローリーグラウンドの世界共通言語だからですよ」

と、その疑問について相談していた悠奈と麗に突然入口からそう言葉が投げ掛けられた。

一同が声のした方に一斉に振り返る。と、応接室の扉がギイ、と開けられ、その向こうにはブロンドの髪が美しいイリーナ・グランディスが佇んでいた。
傍にはアンドレイとディクソンの姿もある。

「イリーナ様!」

「レイア!無事だったのね」

イリーナの姿を見つけるなり、レイアはイリーナに飛びつき、イリーナもそのレイアの小さい体をギュっと抱き留めた。
すぐさま他のフェアリーたちも周りに集まる。
イーファも、ウェンディも、ユエも、ヴォルツも、リフィネもクレアもバンもルーナも、あの無愛想でひねくれ屋のケンまでもが笑顔でイリーナに群がっている。

「レイア、それにみんなも・・・ありがとう。戻ってきてくれたのね」

「へへっ!イリーナさまのお願いだもんな!このイーファ!何が何でもやり抜くつもりでいたぜ、見てくれイリーナさま!オレたちが出会った仲間達だ!」

イーファが指すそこには、悠奈をはじめとするセイバーチルドレンズの面々が並んでいた。
知った顔は悠奈と、日向、それに七海と窈狼。あとは新しい仲間なのだろう。自分を見て多少呆気にとられた顔をしている。
その彼らにイリーナはお辞儀をして話し出した。

「ようこそ、ユウナちゃんにヒナタくん、ナナミちゃんにヤオランくん」

「お、すっげ、1回会っただけなのにもう名前覚えてんだ」

「当然よヤオランくん、私たちの救い主になるセイバーチルドレンズになってくれた子のことですもの。忘れるわけがないわ。ユウナちゃん、ありがとう。レイアと一緒にこんなにたくさんの仲間をあつめてくれて・・・」

「えっと・・そんな、あたしは・・・別に・・大したことなかったし・・」

「でた!ユウナちゃんの意地っ張りキャラ!」

「はじめましてセイバーチルドレンズの皆さん、グローリーグラウンドへようこそ、わたくしは王都レインヴァードの女王、イリーナ・グランディスと申します」

そう言いながら頭を下げたイリーナに、光や那深も思わずつられて頭を下げる。

「あっ・・えっと、こ、コチラコソ、ハジメマシテ・・あ、オレ、久遠光いうねん、コッチが友達のナミでコッチがアキ・・」

「ええ、わかっています。レイアからちゃんと聞いてるわ。ヒカルくんにナミちゃん、それにアキラくんにサラちゃんにレナちゃん、そしてそっちの彼がレイくんね?」

「なんだ、聞いてたのかよオレらの名前」

「ちょうどよかったじゃねえか、あたいじこしょーかいとかかたっくるしーのニガテだし」

「え〜〜、レナ自分でお名前言いたかったなぁ〜・・でも女王様キレーーvv」

思ったよりも人当たり良さそうな女王様。レイアの言った通りだと、光たちもイリーナの周りに集まる。それぞれのフェアリーたちも自分のパートナーのコトを彼女に嬉しそうに話していた。
しかしただ1人、東麗だけは少し離れた所からイリーナを睨み付けるように様子を伺っていた。

「どないしてんやレイ?オマエもせっかくやねんからアイサツぐらいしとけや」
「生憎とオレぁテメーらみてえにお気楽お人よしじゃねえんでな・・・」
「おっ・・オイ!レイ!わ、ワリぃな女王様よ、コイツ・・・ちょっとムズかしいヤツでよ・・・」

晃が懸命にフォローするのをまるで気に掛けるでもなく、麗はイリーナの方へとツカツカと歩み寄ると厳しい口調でこう言った。


「仲良しこよしでグチャグチャおしゃべりするために呼んだんじゃあねんだろうが?オレだってまだこの世界のこととかセイバーチルドレンズのこととかよくわかってねえんだ。まずはアンタの方からそのコト、もう1回キッチリ説明するのがスジってもんじゃねーのか?」

そのとても王族を相手にしているとは思えない傲岸不遜な物言いに傍らで付き添っていたディクソンなどは「なっ・・なんと!姫様に向かってそのような暴言をっっ!」と顔を真っ赤にし、悠奈たちも息を飲んだ。

「ちっ・・ちょっとレイ!いくらなんでもそんな言い方って・・」
「いいのよ、ユウナちゃん。その通りでしたね、ゴメンナサイ。では、この場にいる皆さんにも、もう1度説明いたしましょう。グローリーグラウンドの事、そしてセイバーチルドレンズとダークチルドレンズのコトを・・・」

そう言うとイリーナはアンドレイから何やら青い水晶玉のようなものを受け取ると、それを応接室の机に設置、続けてイリーナがメイドたちに指示し、彼女達が部屋中のカーテンを閉める。
イリーナが何やら呪文を唱えるとその声に反応して天井が開き、そして巨大なスクリーンが下りてきた。


「きゃぁ〜〜vスゴイスゴイスッゴォ〜〜イ!なになになにぃー?映画館みたぁーい♪」

「ウィザーズ・ビジョンといいます。私が特定の呪文を唱えることによって発動し、そちらの水晶、マジックスフィアから映像が映し出されます」

「へ〜・・ってこたぁプレイヤーみてえなモンか?なあバン」

「おうそうだ!アキラ、お前に教えてもらったブルーレイってヤツのプレイヤーと似たようなモンだぜ」


麗奈や晃が興奮してその機器を見つめる。悠奈もこちらの世界にも映写機のような機械があるのかと興味津々である。
イリーナが「ア・ルケ」と短く唱えるとマジックスフィアと言われた水晶が眩く光り輝き、目の前のスクリーンに映像を映し出した。そこには、美しい緑の大地と美しい真っ青な空、透き通った水を湛えた湖などの豊かな自然が広がっていた。

「うわぁぁ・・・」

「これがグローリーグラウンドなんか?・・・キレイなトコやなあ・・・」

「この地、グローリーグラウンド、魔力に恵まれし唯一無二の世界。この地にとこしえの平和あらんことを・・・しかし闇に魅入られし邪なる子によってこの地、脅威に苛まれ民苦しまん時、民を統べし者、光に愛されし子を召喚せし。さすればこの地、脅威より解き放たれん・・・」

「え?イリーナさま?」

突然、難しそうな言葉を発したイリーナを悠奈は眼を丸くして見つめた。その悠奈の視線に気づき、イリーナは子ども達全員を見回して力強く語った。


「グローリーグラウンドに古くから伝わる伝説です。光の子、セイバーチルドレン伝説といいます」

「で・・伝説ぅ〜?」

「その伝説に出てくるってのが・・・オレらだっての?」 

「そうです。エミリーが集めている魔力を身に着けた子ども達、それはこの伝説に出てくる〈闇に魅入られし邪なる子〉に違いありません。私たちはその子ども達のことを闇の子ども、ダークチルドレンと呼んでいます。自らの力だけでグローリーグラウンドの制圧に失敗したエミリーは、今まさにこの伝説にあるダークチルドレンという子ども達を探し出して操り、この世界を我が物にしようとしているのです」

「なんか信じらんないハナシ・・・ねえ、コッチの世界にもさ・・なんて言うか・・ケーサツ・・とかいないの?ホラ、そういう悪い人たち取り締まるお仕事してる人とか」

那深の言葉にイリーナは沈痛そうな面持ちで首を振った。

「我が国にも、もちろん衛士というものが存在しています。しかし、我々だけでは彼らの強大な魔力には対抗できないのです、彼らとエミリーの野望を打ち砕けるのは、アナタたちセイバーチルドレンズだけなんです」

と、イリーナはまたそこで深々と頭を下げた。

「お願いします。どうかこの世界を・・グローリーグラウンドをエミリーたちの魔の手からお救い下さい。私たちにはもはや、伝説の戦士、セイバーチルドレンに頼るしかないんです」


場に訪れた沈黙。
自分達より年上で、お姉さんでよっぽど頼りになりそうなイリーナがここまでひたすら自分たちの力にすがっている。
そんなに自分たちの力は凄いのだろうか?と悠奈も、いや、その場にいた子どもたちが須らくそう思ったのだろう。自分たちの手をしげしげと見つめて時には顔を見合わせて困ったような表情を見せていた。
自分たちが生活していた世界とはあまりにもかけ離れたファンタジックな世界。その世界の問題の中心を自分たちが半ば強引に背負わされている。
想像を超えるプレッシャーがどんどんと増していく中、ここで彼が口を開いた。



「そうだね・・・やろう!」

「!・・ヒナタくん」

悠奈の目の前には決意に満ちた表情でみんなを見つめる草薙日向の姿があった。

「みんな、レイアたちと約束したじゃんか、オレ達がレイアたちを助けてあげるって、エミリーやダークチルドレンズからこの世界を守り抜いてあげるって」

日向はイーファを両手で包み込むと、彼を見つめながらさらに続けた。

「オレ、おとーさんにも、おかーさんにも、あおいねーちゃんにも、京にーちゃんにも・・・みんなから共通して教わったことがたった1つだけあるんだ。〈困ってる人がいたら、助けてあげなさい〉って。イリーナさまも、イーファたちもオレ達を頼りにしてる。コレを断ったら・・・男じゃないような気がするんだ」

「・・・・ヒナタくん」

「・・・あ!えとっ・・ゴメン・・ユウナとかナナミとかナミちゃんたちとか・・オトコじゃないのに・・・ヘンだよね。あの、その・・・なんていうか・・オレの言いたいことっていうのは・・・」

「・・ううん、大丈夫、あたしヒナタくんの言ったこと・・・ちゃんとわかったよ!」

「ユウナ・・・」

「やったろーじゃん!そのエミリーって人、あたしたちの街にまで迷惑かけてんだから、ここらでビシッとやっつけちゃわないと、後々メーワクだしさ。あたしもガンバってレイアやヒナタくん助ける!」

「ユウナちゃん・・・」


と、話が盛り上がりかけたそこで光と晃が「ぷーっ」と吹き出した。

「はははっヒナ、オマエってホンットにお人よしすぎるくれえお人よしなのな」

「今の時代なかなかおらんでぇ?そんないかにもな正義のヒーロー文句堂々といえるヤツ・・ま、そこがヒナらしいけどな!ユウナもユウナやで、なんだかんだ言うてケッコー乗り気やねんな」

笑う2人にいつの間にか周りもつられてその場に笑いの渦が起こり和やかなムードになる。
そんなに笑わなくても、と膨れた日向を励ますかのように、今度は光が「うっし!」と声を上げた。

「っちゅうワケやそうや!どや?リーダー2人がやる気マンマンみたいやで?ここはオレらも一丁気合い入れて一緒にガンバってみよか?」

「さんせー!さっすがヒカルちゃん!アタシもやっちゃうもんね!」

「ハイハーイ!♪レナもレナもぉー!たくさんがんばっちゃうぞぉ〜〜っ!」

「ヒナたちだけにおいしいとこ持ってかれんのはシャクだかんな。乗ったぜそのハナシ!」

「アキラがやるってならあたいももちろんやるぜ!結構面白そうじゃねーか!くぅ〜・・ワクワクしてきた!」

「ユウナの言うとーりにするんはちょぉ〜っと納得いけへんけど・・・ヒナがやるんやったらもちろんウチもやったんで!このナナちゃんにまかしとき!」

「ナナミがやるならオレも!オレがナナミを守ってやる!」


それぞれがみんな声を上げ、悠奈と日向の言葉に賛成の意見を上げる、そんな中、東麗だけはいまだ仏頂面で黙り込んでいた。


「なんやねんレイ、オマエはやる気ないんか?何が気に入らんねん?」

「ダレもやる気ねえなんて言ってねーだろ。それよりまだ聞いてねえことがあんだろうが」

麗はそう言うとイリーナの方へと再び近づき、頭をガシガシと掻きながら問い尋ねた。

「イリーナ・・さんだっけ?さっきの話の続きなんだけどよ・・」

「ハイ、何かあったかしら?」

「ホラ、その・・・この世界の言葉だよ言葉。確か、日本語が共通語だとか言ってなかったか?」

「ああ、その事ですか。ええ、そうですよ。そう言えば貴方たちもニホン語を話されるんですね」

「いやいやいや、オレらは日本人だからよ。そりゃ当然だろうが・・・何で異世界の人間であるアンタらがオレらの言葉しゃべってんだよ?そっちの方がフシギだぜ?オマケに言葉は日本語なのに地名とか名前とかはなんとなく外国っぽいしよ・・・ワケわかんねえだろ実際」

「まあ、そうなんですか?この言葉はグローリーグラウンドの国々を造った初代レインヴァードの王、トシユキ王の頃から話されている言葉らしく・・・いつの間にか公用語として定着したものだと聞いていますが・・・」

「・・・・なんで日本の言葉がそんな昔からこの世界の言葉になってんだ?異世界だからなんでもありか?それとも・・・・っだぁ〜〜っもう!ワケわかんねえ!ヤメだ!考えんのヤメ!」

頭をクシャクシャと掻きむしる麗を見て晃が笑いながら声をかける

「ガラにもねえことするからだよ。で?どーなんだよレイ、オメエやんのか?」

「ここでオレだけやらねえとか言ったらスゲエヒンシュク買うだろうが、やるよ。やる。やりゃあいいんだろ?」


と、口ではそう憎まれ口を叩きながらも、麗も表情はどことなく楽し気だった。
悠奈はそれを見て、イリーナの方をもう1度見据えて、力強い口調で答えた。


「まだよくわかんないけど・・・取りあえず、みんなセイバーチルドレンやるみたい、イリーナさま、よろしくね」

「ユウナちゃん・・・みんな・・・ありがとう、本当にありがとうございます!」

悠奈の手をとってひたすらそう感謝するイリーナに、悠奈や日向は顔を赤くして照れ笑いした。

「ただ、アナタたちがセイバーチルドレンを引き受けてくれたことによって、あともう1人探さなければならない人ができてしまいました」

「え?あたしたちの他に誰かまだ必要なの?聞いてないよイリーナさま、ねえそれってダレ?」

「それは・・・」

そうイリーナが言いかけた瞬間、廊下の向こうから「女王さまぁ〜〜っ!一大事ですぅ〜〜っっ」という慌てふためく声が聞こえてきた。
見ると王宮の兵隊さんらしき出で立ちの人が血相を変えて飛んでくるではないか。

「何事じゃ騒がしい!姫様・・女王陛下は来客中であられるぞ!」

「も・・申し訳ありません!で、ですが・・ですが王宮にっ!中庭に敵襲が!あれは・・・ダークチルドレンズかと思われます!」

「なんですって!?」

「中庭だと?馬鹿な!今まで気づかなかったのか?警備は何をしていた!?」

「申し訳ありません、奴らイーグリッドに乗っておりまして・・・空からの敵襲だった故発見が遅れてしまったかと・・・」

「・・・陛下、如何いたします?」

「困ったわね・・よりによってゾルター将軍が外出している時に・・・」

アンドレイに判断を求められイリーナは口元に指を当てて困ったように考え込んだ。
ちょうど戦闘軍団長である戦士、将軍ゾルターが隣国へ軍事会談のために出払っている最中であったのだ、彼がいなければ衛士たちの動きも統制がとれず心許ない。とは言え、自分は戦闘指揮などしたことがなく経験不足は明白。
子守役のディクソンなどは戦術にはとんと疎いし、となればまだアンドレイに指揮を任せて迎え撃つのが吉か?
頭の中でいろいろ考えていると、そんなイリーナに横から声がかかった。

「イリーナさま・・・あたしたちにまかせて!」

「え?」

「!ゆっ・・ユウナちゃん!?」

突然前に進み出て決意を口にする悠奈の行動に、いつもは割と行き当たりばったりなレイアまでもが声を上げた。当然周りの子どもたちやフェアリーもいきなり何を言い出すんだと言わんばかりの顔をしている。

「ゴメンねレイア、こんなこといきなり言いだして・・・自分でもどうしてかよくわからないんだけどさ・・なんか・・・アイツらとはあたしたちが戦わなきゃいけない気がするの。だって、アイツらあたし達を狙ってココに攻めてきたんでしょ?なら・・・」
「そうだな、ユウナの言う通りだ」

それに日向も呼応して答えた。

「オレ達を狙ってココに来たのなら誘いに乗ってやろうよ。だって、オレ達のせいで関係ない人達がもしケガでもしちゃったらイヤじゃないか」

そう言って日向が他のメンバーを見回すと、暫くして全員が笑顔でうなづいた。

「ヒナタくん・・・」

「ったく・・国宝級のお人よしだなテメエは・・いや、テメエらか?」

「まあ、そう言うんじゃねえよレイ。よし、わかった!イリーナさん、ココはオレらにまかせてくれよ。バン!行くぜ!」
「おっしゃあっ!」

「ウチもやったんでぇ!」

「よし!オレだって」

「みんなでがんばろぉ〜〜♪」

そう口々に言って戦いの場へ赴こうとする子ども達、その姿を見てイリーナは感極まっていた

「・・・みんな・・・助けてくれるんですか?」

「安心して、イリーナさま。このお城、あたしたちが絶対に守って見せる!」





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「・・・オイ!サキぃ、ホントに来るんだろうなぁ?セイバーチルドレンのヤツラはよぉ」

「黙ってなさい。必ず現れるから」

「ズイブンと自信がありそうねえ、空回りに終わらなきゃいいケド・・・」

「そうねえ〜、コレで目的のユウナちゃんたちが現れなかったら・・・カンペキに無駄骨だもんね」

レインヴァード城中庭、巨大な鷲のような鳥モンスター、イーグリッドを数匹従えたダークチルドレンズが遠巻きに牽制するレインヴァードの護衛衛士を見下ろしていた。
まるで自分たちの存在を気に留めていないかのように話すサキ、アカネ、ジュナ、ナギサの姿を見て、数人の兵士たちが目の前にいる少女たちに言った。

「キ、キミたち!さてはダークチルドレンズだな!?ここをどこだと心得てるんだ!?」

「畏れ多くも、このレインヴァードを統治し、ひいてはグローリーグラウンド全体の国々をまとめている王城レインヴァードの中庭だぞ?すぐに立ち去りなさい!」


「ああん?ケッ、ぅるっせえよ!んなこたぁ知ったコトか」

「そうそう、アミたちぃ〜エミリーさまに言われてココに来ただけだもぉ〜ん♪ねーユアちゃんv」

「そうそう、文句ならユアたちじゃなくってエミリーさまに言ってよってカンジ・・・」

「おーっほっほっほっほ!アナタ方似合いましてよ、無様に下々から叫ぶそのサマが!さあ、アタクシに跪きなさい」

「誰もアナタに跪くつもりはないと思う・・・」

「ちょっとミリアさん!?アナタアタクシにケンカ売ってらっしゃるのかしら?」

「別に・・・」


場もわきまえずに好きなことをしゃべる無礼な後方のメンバー、チアキ、アミ、ユア、ミウ、ミリアの許しがたい態度に、ついに大人の兵士たちも我慢ならなかった。
呼子が「ピィーー!」と鳴り響き、王宮の中から、外から中庭へと兵が集まってくる。


「お・・・おのれ、子どもと言えど神聖な王宮内にモンスターで乗り込んだ挙句その暴言の数々・・・もはや許さん!」

「捕えろ!」

自分たちの意見に全く耳を貸そうとせずに口々に好きなことをしゃべる無礼な子ども達、その姿についに王宮の衛士たちが槍や警杖を手に一斉に迫りだした。

「・・・メンドウなのが出てきちゃった。ジュナ、アイツらなんとかして」
「いや、人にモノ頼むなら日頃からの態度ってモンがあんでしょうに!アンタ一応年下でしょう、ったく!」

そうムスっとして答えながらもジュナは自分の武器の弓矢を取り出すとワラワラと走り寄ってくる衛士たち目がけて次々と矢を放った。

「うわっわわわっ!」  「あわわわわっっ・・おおっ!?」  「ひええぇぇーーっっ」

「えい!えいえいえ〜い♪キャハハハハv」

突然の矢の攻撃に右往左往している衛士たちに向けて、追い打ちとばかりに今度はアミがショック弾を自身の銃に込めて攻撃する。
さらに混乱を深める衛士たちにチアキやユアは腹を抱えて大笑いした。

「くそ!なんてコトを・・っ」
「とても子どものやるコトじゃない!キミたちは自分たちが何をしてるかわかってるのか!?」

「うるさい!お前たちは全員エミリーさまの敵だ!ならばエミリーさまに代わってアタシ達ダークチルドレンズが始末してやる!くらいなっ」

サキが止めの魔法を打ち込もうと魔法を手に集中させた時だった。


「やめなさい!」

その声が誰なのかサキにはすぐにわかった。
すぐさまその姿を中庭のテラスに見咎めると燃えるような瞳で声の主を見つめ、言った。


「来たわね愛澤悠奈!セイバーチルドレンズ!」

見ればそこには既に変身を終えた悠奈たちセイバーチルドレンズの面々が並んで自分たちを見上げていた。


「いつもいつも、こんな自分勝手なことして・・・もういい加減にしてよ!」

「うるさい!それはコッチのセリフよ!いつもいつもジャマばかりして・・・今日こそ決着を・・っ」

「サキ!違うでしょ?今日はエミリーさまからの伝言を伝えに来ただけじゃない・・・」

「うっ・・・」

と、いつものように激昂してそのまま戦闘態勢に移ろうとしたサキを隣にいたナギサがとどめる。サキは口惜しそうに唇を噛みつつも、首を振ってダメダメと自分に言い聞かせると悠奈たちに再び言い放った。

「今日はアンタたちと争いに来たんじゃない!エミリーさまからの伝言を伝えに来たわ」

「ああん?争う気がねえだぁ?ざけんじゃねえぞコラア!散々これだけのことかましといて今さら戦いませんたぁどーゆー了見だ!?」

麗が火花を散らす勢いでサキに毒づく。しかしサキは麗の迫力に怯むでもなく顔色を変えずに悠奈たちに宣言した。

「セイバーチルドレンズ、今からわたし達は進行の拠点をライドランドだけでなくこのグローリーグラウンドにも定める。直接このグローリーグラウンドの人間からもマイナスエネルギーを吸い取ってやるわ。それを阻止したければ、このグローリーグラウンドでもわたし達を撃退してみなさい!アナタ達に、フォースクリスタル・デュエルを申し込む!」

そう言っておもむろにポケットからサキが取り出したのは青白く光るダイヤモンドのような宝石だった。
宝石は全部で6つ。
とくに攻撃してくる様子もなくそれを高々と掲げて悠奈たちに見せびらかす、それだけである。しかし、そこでイリーナの顔色が驚愕に一変した。

「フォースクリスタルですって!?そんな・・・っ」

「?どうしたのイリーナさま?」
「あのクリスタルがどうかしたんですか?」

何故にイリーナの表情が恐怖に歪んでいるのか?悠奈ばかりではなくレイアもわからないようで2人して問い尋ねた。
見れば周りのアンドレイやディクソンの顔も冷水を被ったかのように青ざめていた。

「ま・・・まさかそんなっバカなっ・・・フォースクリスタルじゃと?」

「エミリーのヤツめ!そんなものまで用意していたのか!?だとすると・・・マズイっ!女王様!」

みんななんでこんなに焦ってるの?
アイツらが取り出したあの石が一体なんだっていうの?

悠奈や他のメンバーたちには皆目見当がつかなかったが、その表情から察するに相当にヤバイ代物であることは間違いない。
アレはなんなのか?そしてダークチルドレンズはあの宝石で何をしようとしているのか?考えを色々巡らせている内にサキは宝石を天に掲げて詠唱を始めた。


「大精霊ゼアスがもたらせし神秘の力を秘めた魔石、フォースクリスタル!我が願い、ゴッドヘキサグラムの名において聞き入れ、大いなる膂力(りょりょく)をもってこの地に覇を唱えたまえ・・・」

「やめなさい!今すぐその石を捨てて!あなたは・・・自分が一体何をしようとしているのかわかっているの!?」

今までとはまるで人が変わったように半ば取り乱し、サキに向かって叫ぶイリーナ、その彼女をサキは嘲笑うかのような微笑を浮かべて見下ろすと、「ゲット・オフ!」と叫んだ。
すると突然宝石が禍々しいまでに青色に光り輝き、それぞれ6つがバラバラの方向へと猛スピードで飛び去ってしまったではないか。
訳も分からずセイバーチルドレンズの子どもたちはダークチルドレンズを眺め、今ヤツラは何をしたのか?あの飛び去った石はなんだったのか?と顔中に疑問符を浮かべていたが、ふと目を配った先にあるディクソンやアンドレイ、イリーナ達の顔がすっかり青くなり、ワナワナと震えているのを確認すると、これはただ事ではないと危機感を募らせた。
フン、と嫌味たっぷりにせせら笑うサキにイリーナがようやく途切れ途切れに言葉を発する。


「・・・なん・・てことを・・・なんてコトをしたの!!?どういうことになるかわかっているの!?」

「わかってるわよ。エミリーさまに聞いたわ。今のフォースクリスタルがアタシたちの力になるって」

「お・・おのれエミリーめ!!」
「年端もいかぬ子どもに・・・こっ・・こんなコトまでさせおるのか!?なんと恐ろしい・・・」


「アイザワユウナ!今アタシが放ったフォースクリスタルはこのグローリーグラウンドを破滅させる力を持つ石よ!食い止めたければこのアタシ達とフォースクリスタル・デュエルをしなさい」

「いっ・・いきなり何よ?それにハメツとか・・ふぉーすくりすたるなんとか・・って・・もうワケわかんない!」

あまりの突然の挑戦状に半ば混乱した様に叫ぶ悠奈に、サキは冷ややかに告げた。

「あのクリスタルはそれぞれこのレインヴァード王国から6つの異なる場所に位置する神殿に向かったわ。今から数えて2カ月後、それまでにアタシたちすべてとその神殿において戦って勝てなければ、このグローリーグラウンドに大きな災いが降りかかるわ。何が起こるかはそこのイリーナにでも聞いてみるコトね」

「まっ・・待て!いきなりそんなこと言われて信じられるか!」
「そうだ!大体お前らは敵じゃないか!オレ達をダマそうとしてるんじゃしたってそうはいかねえぞ!」

「信じる信じないはアンタ達の勝手よ。ま、ウソと決めつけて後で後悔しないことね。あ、そうそう、もう1つ重大なコトがあるんだった。ホラ、出てらっしゃい」