今回途中にちょっとした今までにない暴力シーンが登場します。
スパ関連ではありませんが、苦手な方はスルーしていただくようお願いします。








「さぁ〜・・やってきました!夏休み間近!天道学園初等部名物!誰でも歌っちゃえ、カラオケ大会〜〜〜!!司会はわたくし、理事長の永倉真一(ながくらしんいち)が務めさせていただきまーす」

ノリのいい年配の男性の声が天道学園大アリーナにこだまする。と、同時に「っわああぁぁぁーーーーっっ!」「きゃあーーーーーーーっっ!♪」割れんばかりの大歓声。
アリーナ全体が揺れた。

「!!・・・す、スゴイねユウナちゃんこの声・・・」

「耳が割れるかと思った・・・ったく、こんなどこにでもありそーなイベントにこんなに大盛り上がりしちゃってさ、バカじゃん?」

「あぁ〜らぁ〜、ユウナちゃんたらぁ〜vそんなコト言いっこなしよぉ〜、だってぇ、今日はユウカちゃんが出るのよぉ?」

「そうだよユウナちゃ〜ん、ユウカちゃんの晴れ姿だよぉ〜ホラ!見て見て、この日のために・・パパ新しいカメラ買っちゃった!♪」

「きゃぁあ〜〜っさすがパパ!冴えてるぅv」

「でしょでしょママぁ〜〜vさぁ〜、コレでいっぱいユウカちゃんのカワイイ姿撮っちゃうからね〜、あ!そうだ!試しにユウナちゃん!ホラ、コッチ向いてっ!♪パパに可愛いお顔向けて向けてv」

「なぁ〜にやってんだか・・・パパ!恥ずかしいからヤメテよもうっ!」

「出た!ユウナちゃんの意地っ張りキャラ!ホントは嬉しい癖にぃ〜v」




と、アリーナに設けられた広い客席の一角でそんなやり取りがされていた。
今日は夏休み手前に行われる私立天道学園初等部の恒例イベント。
生徒や父兄などを招いて執り行われるカラオケ大会の日だった。

この大会、生徒はみんな自由参加の上に生徒だけでなくなんと保護者やその家族も参加自由という、この学園の理事長が保護者と教師、そして子どもたちをもっと親密に繋げることが出来ればと発案したものだ。

愛澤悠奈はこの日、家族全員でこのイベントに参加していた。愛澤家からは妹の悠華がエントリーしている。
キッズ部門で4番目に出てくる予定だ。親バカの悠奈の両親はもう今か今かとこの日のために新調した最新型のカメラを手に悠華の出番を待っている。

こういったことが元来苦手な悠奈は参加していない。
そもそも彼女はこういったイベントがあまり好きではないのだ。ではなぜ参加しているかというと・・・



「お!?アレ、ユウカちゃんじゃねえか?」

「え?あ、そう。あの前から2番目に座ってる子がそう」

「やっぱりな〜、悠奈にちょっと似てるよな」

「そ・・そう?」

「ああ、カワイイよ!」

そんなコトを言われて途端に真っ赤になる悠奈。そのまましどろもどろになりながらも・・

「////ま、まあ子どもだからぁ・・そういった意味ではカワイイんじゃん?ってか、ユウカとあたし似てるなんて言われたの初めてだし、なんかヒナタくんて珍しいコト言うじゃ〜ん?////」

「え?う〜ん・・・そっかなぁ〜?」


(アタシに似ててカワイイって・・・ヒナタくんが??・・・まっ・・マジですかあぁぁーーーーーーーーvvvv♪♪♪?)


口調とは真逆のコトを考えて喜びに百面相してる悠奈。その彼女にまたしても「やっぱり意地っ張りっ!v」と言っているのはフェアリー、レイアである。

そう、ここには悠奈だけでなく、草薙日向とその家族、香坂七海とその家族。煌窈狼とその母、南晃、咲良とその家族、星原麗奈とその家族、葉山那深とその家族、そして久遠光とヴァネッサ、後は草薙京、二階堂紅丸、ラモン、火引弾などがゲストとして顔を出していたのだった。

実はこの学園の理事長は東グループと関係の深い新撰グループ系列の企業の社長も兼任しているのだ。
ラモンはじめJTスポーツクラブの面々はそのコトで招待されてここに来ている。
今更ながらに、知らないうちに自分は割と有名な人となぜか知り合いになっちゃった・・・と思っていた悠奈であった。


「コラぁユウナ!まぁたヒナとイチャイチャしよってからにっ!ヒナもユウナから離れてやっ」

「なっ・・何よぉっ!別にイチャイチャなんかしてないし、いっつもアンタそれしかセリフないの?バカじゃん?」

「んやとぉっ!?ナナちゃんがイチャついとる言うたらイチャついとるんや!離れろユウナっ!ヒナから離れろっ、3メートル以上離れろっ!」

「ムチャ言うなよナナミぃっ!こんなに狭いなかでぇ・・・」

「ああーーーっまた他の女の子とっ!お兄ちゃんのウワキものぉっ!えいっ!」

「いたっ・・いててててっ!おかーさんっ!ナナミがっ!萌がいじめるぅ〜〜っ」


七海と悠奈の不毛な争いに半ば強制的に巻き込まれた上に、さらにそれに異常反応した萌に暴力を振るわれて踏んだり蹴ったりのヒナちゃん。
萌を「もえっ!ダメでしょ悪いコトしてないのにお兄ちゃん叩いたりしちゃ!」と腕づくで引き離すつぐみママ。
後ろで紅丸が「モテモテじゃねえかヒナタのヤツ・・なあ京」と傍にいた京に話す。

「な、ナナミ。お・・オレの横でよかったら・・その、空いてるよ。座んねえ?」

「んーん、座らん。いらん。別にイイ」

と、自分の誘いを正に一蹴されて、しゅん、と落ち込む窈狼にその隣の里佳ママが「気にしない気にしない」と髪を撫でる。


「きゃあぁ〜〜〜っっ!見て見てぇ〜、出てきたわよ、パパぁ!雫さぁんっ!ユウカちゃんよユウカちゃん!」

「ホンマぁ!?わぁ〜〜っユウカちゃんカワエエやんかぁーっ!ちょっと、ホラ、たっちゃん!カメラ準備してえなカメラ」
「ハイハイ。しぃちゃんは相変わらずだなぁ〜」

ついにステージ上に登場したのは愛澤家の次女、悠華である。
詩織どころか雫まで悠華の登場に興奮し、傍にいた夫、辰樹(たつき)にカメラの準備を要請。悠奈のパパ、俊介など「ゆぅ〜かちゃぁあぁ〜〜〜〜んvvv」と周りの目を憚らずに大絶叫し、カメラフラッシュの連続である。



「ハァ〜イ、お名前、おじちゃんにおしえてくれますか?」

「あいじゃわゆーか!3しゃいでしゅっ!ゆめまサキちゃんのぐろーりーまじっくうたいましゅっ!」


大きな拍手が沸き起こり、カラオケのBGMが館内に流れる。
マイクを通して舌ったらずで音程ハチャメチャの歌が流れる。しかし、悠奈の両親はそんなコトお構いなし。可愛い末娘の晴れ姿をやんややんやとはしゃいで見ている。
そんなパパママの姿に悠奈は顔を赤くして俯いた。

「ユウナ、いいパパたちじゃん」

「えぇ〜〜・・そ〜お?いっつもだよ?ユウカだけじゃなくてアタシの時もそう・・・アタシいっつも恥ずかしいんだから・・・」

「そうかな?オレは優しくてとっても素敵だと思うけどな。ね?おとーさん」

「ああ、そうだな。ヒナタは出なくてよかったのか?」

「あ・・オレ・・あんまり歌とかうまくないし・・」

そういって逆に照れてしまう日向に、彼の父、草薙蒼司(くさなぎそうじ)が優しく彼の頭を撫でた。


「あふ〜れぇ〜りゅ♪ちからぁ〜にう〜んめい〜かんじてぇ〜・・いまこそぉ〜とびたちぃ〜たぁ〜いぃ〜・・♪」


「きゃあぁ〜vきゃぁ〜vユウカちゃぁ〜〜〜ん♪激!カワぁ〜〜〜v」

「流石パパの天使ぃ〜〜〜〜vvGOGO!」


やれやれと恥ずかしい反応にももうすっかり慣れっこ。とでも言うように悠奈は両親を無視して七海がもってきたお菓子を1つ拝借すると袋を開けてつまみ出す。
あっという間にキッズ部門が消化し、そして本命の生徒部門。歌自慢の生徒たちが自慢の歌声を披露するのだ。
悠奈も気づいたことだが、全体的に女子の歌では今人気絶頂のアイドル、夢魔(ゆめま)サキの歌が多かった。
テレビに出ているのを悠奈も何度か見たことがあるのだが、悠奈はつい最近売り出したこの子に妙な既視感を覚えてならなかった。



(夢魔サキ・・・かぁ、気のせいだよね?でも・・どっかで見たことあるような・・・)



「ハイ!ステキな歌声ありがとうございましたぁ〜〜、4年D組、松本ふうかちゃんでした!では!続いてのエントリーは10番!なんと今度は自分でバンド演奏をするといった猛者チルドレンズが現れたぁ〜!なんと3年生と6年生の男の子3人グループ!3年B組煌窈狼くん、6年C組久遠光くん、6年D組南晃くんのパフォーマンスでーす!」


「はあっ!?うっ・・ウソっ!?」

「なんでヒカルちゃんたちがっ!?」

「ああっ!気づいたらヤオがおらへんっ」

「ひっ・・ヒカルちゃんもいない!」

「アキちゃんもいないねぇ〜・・みんなステージ出るんだ?」

「あたいは聞いてねえぞーっ!」


その場にいた悠奈たちが皆一斉に周りを見渡す。いつの間にか窈狼、晃、光の姿が消えている。
それに気づくと同時にステージ上に上がってきた3人に、会場から歓声が沸き上がる。



「きゃあぁ〜〜〜vヤオランくぅ〜んv♪」 「ステキぃ〜、カワイイ〜v」

「アキちゃーーんっ!決まってるぜぇーっ!」 「アキラくんカッコイイーーーっ!」

「きゃぁ〜〜vヒカルさまぁ〜〜v」 「久遠センパイデートしてぇ〜〜v」



まるでアイドルグループさながらの人気に悠奈とレイアはポカンと口を開けていた。

「す・・スゴイ人気だねユウナちゃん」

「ホント・・・今までの子たちと全然違うんですケド・・・」

「ま、3人ともカッコイイし学校で生徒会の役員だし、ヤオランはママとパパが有名人だしね」

「でもなんか・・・ムカつく!ヒカルちゃんはアタシの彼なのに!」

「ホントだぜっ!なにあたいのアキラにきゃーきゃーさわいでやがんだ全員ぶっ飛ばすぞぉ〜っ!」


と、違う意味で盛り上がる悠奈たちの客席、みんな意中の相手があんな場所に立って周りから騒ぎ立てられるのはあまり好きではないようで、口々に文句を言っていた。
平気なのは悠奈と七海だけ・・・と、悠奈が七海の方を向いた瞬間だった。


「?あれ?ナナミ、なんで面白くないカオしてるの?」

「え?・・・あ・・い、いや、別に・・・」

「・・・ひょっとしてヤオランがいないのが気になるとか?」

「////ッッハッ・・ハアァっ!?ちがっ・・そっ・・そんなワケないやろっ!なんでウチがヤオのコトなんかでいちいち・・・////」

「・・・?」


と、予想もしなかった七海の慌てようにちょっとおや?と思った悠奈だったがそれ以上はなにも言わなかった。

晃と光のギターが会場の空気を切り裂き、窈狼の歌声が今日最大のボルテージを引き起こした。


「リカさん!やっぱりヤオちゃん歌もうまいねんなぁ、ホンマに家族みんなタレント一家でヤキモチ焼いてまうわぁ」

「もう、雫さんまで・・やめてくださいよ」


悠奈たちが盛り上がる隣で親同士も楽しそうにおしゃべりを繰り返す。窈狼の母、観月里佳と七海の母、香坂雫もお互いの子どものコトを褒めあいながら和気藹々と過ごしていた。




「いやぁ〜〜・・終わった終わった!」
「あ〜、気持ちよかった!」

「お疲れぇ〜vヒカルちゃんチョーカッコ良かったぁ〜v」

「アキラナイスだったぜ!ってかステージ出るの聞いてなかったぞぉ!サラちゃんに内緒なんてあんまりじゃねえかっ」


「いやいや、せっかくだからみんなびっくりさせようと思ってさ、普通だったらボーカルはレイがやる予定だったんだけど・・・今日はヤオがやってくれたからよ」

「おう、ヤオ!初めてやのになかなかボーカル様んなってたで!お疲れっ!」

「えっ?・・あ・・うん!あ・・・あのさ、ナナミ・・・」

「うん?」

「ど・・・どう・・だったかな?・・オレ・・・その、はじめて歌ってみたんだけど・・・練習あんまりできなかったし・・・緊張しちゃってたし・・・その・・」

赤くなりながら七海をチラチラ見て呟く窈狼。
そんな彼に七海はチロリと横目で一瞥すると幾分つっけんどんながらに答えた。

「ま・・まぁ・・その・・はじめてにしては・・がんばったほうなんちゃう?」

「ほ・・ホントか!?」

「〜〜っああ、もうっ!うるさいなぁ!そんなに心配なら他の人に聞いたらええやろぉっ!」


そんな七海の可愛くない態度を、後ろから大人連中が微笑ましく見ていた。




「さっきのヒカルくんカッコ良かったねぇ〜v」 「アキラくんステキだったぁ〜♪」 「ヤオランくん超カワイイぃ〜v」 「あのコ歌もうまいんだねぇ〜v弟にしたぁ〜い♪」


「へぇ〜、スゴイじゃないヒカルちゃん。さっきのアナタたちのステージでまだ盛り上がってるわよ」

ヒカルたちのステージ後、何曲か曲が終わってもまだ先ほどのステージの興奮で会場がざわついているのに気付いたヴァネッサが光に話しかけると、光は得意げに答えた。

「せやろ?ま、今日はちょっとレイのヤツをギャフンと言わしたらなアカンよってな」

「あら?なぁに?ケンカでもしてるの?」

「違うんだよヴァネッサ先生、レイのヤツ、オレとヒカルが今日のステージ誘ったのに断りやがったんだよ」

「そうなの?レイちゃんどうしちゃったのかしらね」

「なんか今回はオレ1人で学校中のヤツラがオレのコト以外記憶に残らないくらいショッキングなコトをやってやる!って言ってたけどよ・・へっ、上等だぜレイ!やれるモンならやってみやがれっ!このオレたちのパフォーマンスで興奮しきったみんなの記憶を忘れさせられるもんならな」

なにやらやたらと鼻息荒い晃にちょっと苦笑いのヴァネッサ、話を聞いていた悠奈たちもちょっと気にかかった。

レイ、というのはウワサに聞いているヒカルの同居人で晃や日向たちとも幼馴染の東麗という少年のコトだろう。
生徒会の副会長だというが、面と向かってあったコトはまだない。




「さあ〜〜〜、いよいよ今回も次がラストの1曲となりました!エントリーナンバー14!東麗くんです!」


「きゃあぁ〜〜〜vレイちゃぁ〜〜〜んvvw」

麗奈からそんな声が上がると同時に今までにもまして周りから主に女子達の黄色い絶叫が木霊した。


「まってましたぁ〜〜〜v」 「きゃあぁーーっレイさまぁ〜〜v」 「レイせんぱぁ〜〜〜いっっ♪」 「レイくーーーーん!!」


「す・・スゴイ人気・・・」
「耳が痛い・・・っあ!ユウナちゃん!あの人じゃない?」

「え?」


言われて悠奈はステージに目を移す。
すると、ステージ上にはなにやら煌びやかな東洋風のドレスのような服にボンテージパンツを身に着けた女の子の姿が現れた。


「え?」

「あ・・・あれ?」

「だ・・だれ?アレ、ヒナタくん?」

「いや・・オレにもわかんない・・・なあ誰だアレ?ナナミ?」

「ウチかて知らん。でも、キレイな女の子・・・」

「あんなにキレイなコなら絶対記憶に残ってるハズなんだけど・・・いたっけなぁ?あんなコ、サラちゃんわかる?」

「いや・・・アタイもわかんねえ・・誰だアイツ?」


ステージ上に上がった見慣れぬ美少女にホール全体がどよめく、理事長も目をパチパチさせてしきりにプログラムを眺めた。


「あ・・・え・・・東・・くんは・・男・・の子のハズ・・ですが・・えっと・・曲は・・・・ジャンヌ・DARAKUのヴァンパイアドリーム・・」

言うが早いか突然激しいロック調のビートが鳴り響く。スポットライトに照らされた少女が足を刻み、体をゆすってマイクを手にテンポの速いダンスを踊り始める、と・・不意に眺めの前髪で今一つ確認しにくかった彼女の素顔がハッキリと露わになった。





「!!えぇ!!?」

「あっ・・アレ!!」

「げえっ!」

「うそぉっ!?」

「マジかっ!?」

「・・・・はぁ〜〜?」

「アイツ・・・」

「きゃあぁーーーーーvv」


その場にいた悠奈を除く全員、大人連中までもがあんぐり口を開けて驚いた。
ヴァネッサだけは驚きと同時にちょっと項垂れて米神に手を当てつつぼそりと呟いた。






「・・・レイちゃん・・・・」



「あーーーっと!これは!!ひっ・・東くんです!なんと謎の美少女の正体は東麗くんです!東くん、ぬわんと最後の最後、大トリに女装で登場したあぁーーーーっっ!」




「目覚めるは♪闇の中、DEEPなキスで引き戻される♪どんなに暗いMID NIGHTでもオマエの血と愛が俺を強い魔物に変えてゆく!♪」




謎の少女が麗の変装だとわかった瞬間、会場からは凄まじい歓声。誰もが予想しなかったトリのパフォーマンスに今日一番の興奮が注がれた。


「きゃぁーーーーレイせんぱぁ〜〜〜いっっw」 「ステキすぎぃぃ〜〜〜っっ!!」 「フツーの女子より全然キレイーーーっ!」  「こっちむいてぇえーーーv」



「何やらかすつもりなんか思うたら・・・こんなコト考えとったんか?」

「やられた・・・・もう、オレたちのステージを覚えてるヤツラはいねえ・・・」


「はぁ〜・・ったく、あのコってば、やることがいちいち・・・」

「こういう派手なコトが好きなのは、ジョーさんの血だろうな。ま、毛色は違うが・・・」


光と晃、それにヴァネッサと京の会話を聞いて悠奈は東麗という少年がとりあえずは派手好きな人だというのがわかった。





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「どうするのよサキ」

「なんの話?」

「とぼけないでよっ!」

そっけない返事に桜色の髪をした少女、ジュナが目の前でしれっとした顔で新発売の漫画を読んでいるサキに怒鳴り散らした。

聖星町郊外にあるダークチルドレンズアジトの洋館。そのメインダイニング。
明らかにイラついている理由はもうサキにもわかっていた。

「どうするのよセイバーチルドレンズのコト!エミリーさまだっていつまでもガマンしてくれるわけないし、ウチのメンバーは失敗ばかりだしそろそろ何とかしないといい加減ヤバイわよアタシ達の立場!」

「それに、アンタは2度もしくじってるしねえ・・」

そんな言葉を返されて「・・あ、アンタだって・・・っ」と言い返そうとしたジュナの出鼻をくじくようにサキが続ける。

「わかってるわよそんなことアタシだって・・でも、だからこそ慎重に手段を選ばなきゃ・・・ヘタに数だけ出撃してサモンボールやジュエルモンスターを浪費しちゃうだけじゃそれこそエミリーさまの信用を失っちゃうわ」

漫画をソファに投げ捨てる。
その投げ捨てた漫画を使用人で世話役のコズンという大柄な男が拾い上げる。
足繁く自分の後始末をしているコズンを気に留めることもなく、サキはポケットからすっかり彼女達の生活の一部となったサモンボールを取り出した。

「それって・・・」

「今度こそアタシが行ってしとめる!セイバーチルドレンズを倒してエミリーさまの理想郷を創り上げるのはそれからよっ!」




「オイオイ、そりゃあ順番が違げぇんじゃねえか?」

「?ダレ?・・きゃっ!」

と、不意にダイニングに入ってきた影が目もくらむようなスピードでサキに迫るとその持っていたサモンボールを奪い取った。




「次はオレの番だろ」

「っ・・・あ・・アンタっ!」

「ち・・チアキ!」


目の前に現れたのは不敵な笑みを浮かべるライトブラウンの逆立った長めの雑髪をした少年だった。
額には紫のバンド。両の耳にはピアス。左頬には何の酔狂かタトゥーまで施してある。そして首元には何やら大ぶりのナイフ、ダガーのような首飾りまで付けていた。
典型的な不良少年のいでたちだが、彼の顔は何から何までアイドルかと見まごうほどに美しい顔立ちだった。


「アンタ・・今まで無関心だったくせに今さらになってどーゆーつもりよっ!?」

「ああ?んだよそのセリフ。別にイイだろ?今になってキョーミわいたんだよ、文句あっか?」

「あるに決まってんでしょ!?大体アンタってばエミリーさまの招集の時にも顔だしたり出さなかったりだしそれに・・・」

「ったく、ッゼェなテメエは。引っ込んでなジュナ、おうサキ。そのユウナとかいうガキ、オレにとらせろ」

「・・・・できるの?アンタに?」

「へっ・・ナメてんじゃねえよ。今までのザコどもとオレを一緒にしてくれるなよ?そのセイバーチルドレンズってヤツラを叩きのめしてついでにレイアってフェアリーをかっさらってくりゃそれで終えだろうが、ラクショーじゃねえか」



しばらくサキは考え込んでいたが、もう1度ジロリと目の前のチアキと呼ばれた少年を睨み付ける。その眼を正面からチアキはニヒルな笑みで見返した。



「コズン!チアキのダークジュエル用意して」

「ハ、畏まりました」

「ちっ・・ちょっとサキ!」

「いいわ・・・アンタに任せる。仕留めて見せて」

「へっ・・・イエッサー、リーダー様v」


そう言うと、チアキはまるで体重が無いかのように軽やかに跳躍して、屋敷の階段をアクロバティックに上って行ってしまいあっという間にいなくなってしまった。


「どういうことよ!?なんでよりによってアイツなんかにっ・・」

「エミリーさまの目的が果たせるならもう手段は選ばない。どんなヤツでもいいわ・・・それに・・・」

「?・・なによ?」

「・・・別に。それに、チアキがセイバーチルドレンズを倒せるなんて保証はどこにもないわ」

サキがそう濁しながら自分の部屋に向かうと、今だ納得できないジュナが後から文句を言いながらも追いすがった。







「ユイトーユイトー、まーたアイツら性懲りもなくセイバーチルドレンズのところに向かおうとしてんぜ?懲りないなーキシシ♪」

「ああ・・そうだな」


イタズラっ子な笑みを浮かべながらレムが館の屋根の上からその様子を見る。
今日も彼とユイトは屋根の上で日向ぼっこを楽しんでいた。

「なーユイトー、今日ガッコー行かなくてよかったのか?このまんまじゃホシューになっちまうぜ?」

「・・・たりぃ・・・」

「ここでこーしててもつまんねーよーっ!なーっ!ガッコーいかねーなら遊びにいこーぜ、なーなーなーなー!」

そんな声を無視してユイトは館から出てきたチアキと呼ばれた少年に眼を向けた。



(・・・・今日はあのチアキってガキか・・・んー・・ちと手強えぞこりゃ、今までの相手みたいにナメてかかるなよ?ユウナ)





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「東センパイゆーしょーオメデトーございまーす!」

「レイセンパイチョーカッコよかったーっ!v」


天道学園初等部カラオケ大会は無事幕を閉じた。
このカラオケ大会、小学生の行事ながら、電子モニターによって生徒自身の投票が可能であり、A、B、C、Dクラスごとに1年から6年生まで採点が出来るようになっている。

愛澤悠奈の妹、悠華はなんとキッズ部門で見事第2位という好成績を残し、賞状とユウカちゃんの大好きなSNKチョコスナックも入ったお菓子詰め合わせを貰ってパパママも大喜びではしゃいでいた。

しかし、そんな彼女たちを残して今、悠奈とそしてセイバーチルドレンズの面々、フェアリーたちは別の控え室に向かっていた。
今日は視聴覚室がカラオケ大会に参加する生徒の控室として開放されているが、その奥の一室。普段は先生たちしか立ち入れない事務室に生徒たちが女子を中心に長蛇の列を作っていた。




生徒部門の結果は圧倒的なものだった。
3位にランクした2年生のイイジマ・カヨちゃんという女の子に大差をつけて2位にランクしたのは煌窈狼、南晃、久遠光のセッションバンド。
全員イケメンで学園でも有名とあって彼らの人気は揺るぎないものだった。しかし、今回はその2位にすら100ポイント近い大差をつけて堂々の1位に躍り出た猛者がいたのだ。

それが、学園でもその容貌と家柄から1年生のころから「天道学園の王子」と呼ばれ続け、生徒会の副会長にも就任している東麗だった。

父は大企業東グループの社長である東一哉、祖父は会長であり、東グループの総オーナーである東猛(たけし)そして曽祖父が今現在御年83にして現役バリバリの名格闘技トレーナー、東丈の専属トレーナーでもある東一家の大黒柱。JTスポーツクラブの会長でもある東丈太郎(じょうたろう)であった。

アイドル顔負けのルックスにお金持ち、さらには学校のリーダー的存在とおよそ人を引き付ける要素をすべて兼ね備えている彼はすっかり学校中の女子の憧れの的であった。



「ハーイ!スクープ部の校内放送でーす!今日はあたし、4年B組の宮川ありさがカラオケ大会優勝の東麗先輩を直撃したいとおもいまーすv今日はよろしくお願いしまーすv」

「・・・なんだテメエ?」

「あ・・え・・とぉ・・す・・スクープ部でーす♪校内テレビで放送したいんで・・その、インタビューいいですか?」

「チッ・・メンドくせえからとっとと終わらせろよ?」

「あ・・ハイ!あのぉ〜あの衣装は・・・・」





「やっぱえっらい混みようやなぁ〜レイんトコは」

「しゃあねえだろ。ただでさえ学園のアイドル様だってのに今日のあのパフォーマンスじゃな・・あーあ、正直今日はレイもオレたちの歌で食うつもりだったのに、悪かったなヤオ」

「そっ・・そんな!アキラくんたちのせいじゃないよ・・歌ったのオレだし・・・」


光たちの控室にも彼らと写真を撮りたいという生徒が来ていたがそれでも麗のほうの勢いに比べれば随分とマシな方で、悠奈たちはこの部屋で一緒に集まっていた。
何でも光と晃、そして日向が重要な話があるとのことだった。


「重要な話ってなんだろね?ユウナちゃん」

「アタシに聞かないでよ。アンタの方が詳しいんじゃない?」

「ううん、アタシ何も聞いてないよ?」


と、そんなやり取りをしていると、不意に悠奈たちの部屋のドアからキャーキャーと喚く騒がしい声が聞こえた。



「センパーイっ」

「東センパイもういっちゃうんですかぁ〜?写真撮ってくださいよ写真〜〜っ」


「るっせえ。また今度時間ある時に撮ってやるから今日のところはホレ、帰った帰った」


「いやぁ〜ん・・センパぁ〜〜イ・・・・」というファンや後輩達の声を無視して少々強引にドアを閉めると長めの髪を撫でながら金髪の美少年が部屋にいた光と晃の方へと向き直って話しはじめた。


「よお、2位のセンパイたち。優勝のオレ様に一体なんの用なんだよ?」

「くっわぁ〜〜・・いっつもオマエはそんなイヤミの1つも言わんと話できんのか?レイ」

ケッケッケ、とイタズラっぽく笑いながらレイと呼ばれた男の子は光の向かいにある椅子にどっかりと腰かけた。

「それにしても女装やなんてあんなもんどこで思いついたんや?反則もええとこやろ?」

「言ったろうがよ?みんなが度胆抜くようなことやってやるってな・・・ま、アレぐれえ派手ならイヤでも記憶に残んだろ?」


「きゃあぁーーーーーvv!!レーーーーイちゃぁ〜〜〜んvv!!」

「どわぁーっっ!?」

可愛げなく皮肉たっぷりに光に返す麗、そんな彼の首元めがけて1人の少女がドーンっと突進して抱き着いた。
そのままがっしゃんと椅子ごと倒れる麗に、周りの悠奈や窈狼がビックリしてその光景に圧倒される。



「っっ・・・てぇ〜〜・・テんメエ!レナ!いきなりなにしやがる!?あぶねえじゃねえかっ!?」

「レイちゃんチョーカッコよかったぁ〜〜っvあのコスどこで買ったのぉ!?ねえねえレナにもっかい見せて!ねえねえ見せて見せてぇ〜〜っ」

怒る麗をまるで相手にしていないかのように星原麗奈が彼の首根っこをつかんでブンブンと揺らす。ガックンガックンと首を上下に揺らされて麗が絞り出すような声を上げる。


「ばっ・・バ・・カ・・レナっ!・・ゆらすんじゃっ・・ねっ・・・ってコラアっ!いい加減にそのアホノリやめろや、張っ倒すぞテメエっ!」

「ひっ・・ひえぇ〜〜んっ・・レイちゃんがおこったぁ〜〜・・・ぴぃぃ〜〜〜・・」

「アンタが悪いでしょレナ!あんなことされたら誰だって怒るわよ?」

「そうそう、しかも相手はレイだしよぉ〜、普通の4割増しでキレんぜ?」

「おうテメエも好き勝手言ってんなサラよぉ・・・ま、いいや。でよ・・・ヒカルにアキラ」

ややあって、そんなコントのようなやり取りをした後に麗は日向を見据えて静かに言葉をついた。

「なんなんだよ、オレに話って・・・昨日メールで言ってたけどよ。なんか大事なハナシがあんだろ?」

「あ・・ああ、せやな・・・んと・・・ユウナ」

「え!?アタシ!?」

麗に不意にそう核心をつかれ、歯切れ悪そうに言葉に詰まる光。と、悠奈を突然見やると強引に彼女を引き寄せる。あっけにとられた悠奈はされるがままに光によって初対面ともいえる麗の前に引き出される。

「あん?んだそのガキ?下級生か?」

「がっ・・ガキ!?・・ちょっ・・ちょっとそんな言い方って・・」
「この子が!ホラ!ヒナとナナの新しい転校生クラスメートの、有名なあいざ・・・」




「レ〜〜〜イ〜〜〜〜ちゃあぁーーーーんっっ♪♪ねーねーvレナと一緒にセイバーチルドレンやろ?ねーねーねーv」

『!!!!』

ようやく、ゆっくりとコトの目的を話そうとしていた時に、このおちゃらけ少女が場の空気を一瞬にして凍り付かせた。





「あ?・・・セイバー・・・なんだ?」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「あ!」

「ん?どーしたのコトノ?なんかみつけた?」

「今の・・・チアキくんじゃなかった?」

「え?」


下校途中、天道学園初等部の女子2人がふと、自分たちを横切った影を見つけてその後ろ姿を追った。
隣にいた仲のいい幼馴染に言われて少女がその方を振り返る。

「・・・ホントだ!」

「どうしたんだろ?なんか雰囲気変わった?」

「最近学校にも来たり来なかったりだもんねあの人・・・何してるのかな?」

「気になるよねー・・・でもさあ・・」

「うん、相変わらず・・・・」


「「カッコイイぃぃ〜〜〜〜〜vvv」」


2人してその少年に胸をときめかせ憧れの声を上げる。そんな少女たちの言葉を耳が拾って影の正体、チアキは地面に唾を吐いて独り毒づいた。


「相変わらずくっだらねえ連中しかいねえのかこのガッコーは?どいつもコイツも・・くたばれってんだタコが」

と、その眼に不意に看板が入った。
「天道学園・みんなで盛り上がろう!初等部名物・カラオケ大会!」とデカデカとした文字で書いてあったのだ。

「へえ・・そうかいそうかい。そういや今年もやってたんだったなこの大会。ちょうどいいや、このクソくだらねえイベント・・・せいぜい利用させてもらうとすっか」

不敵な笑みを浮かべながら、チアキは学校の中へと入って行った。





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「ふ〜ん・・・そっか、オメエがあのウワサの転校生、愛澤悠奈か・・」

「う・・・ウワサって・・どんなウワサかよくわかんないんですケド・・・」

所は天道学園視聴覚室。

愛澤悠奈は日向や光にすすめられるがまま、半ば強制的に麗の前に連れてこられ、初対面の年上男子と正面きって話し合う形へと追い込まれてしまった。うっかり口を滑らせてレイをポカンとさせた犯人の麗奈は那深と咲良の2人によって既に部屋の隅に強制連行されていた。

すっかり着替えた麗は黒にレッドの十字架とドクロがポイントのTシャツとジーンズというラフなスタイルになっていた。
着替えてあらためて見るとまた再認識させられるのだがこの麗という少年、素晴らしい美男である。

光や晃、窈狼や悠奈の憧れの日向くんもイケメンと言えばイケメンなのだろうがこの麗という少年はカッコイイというよりも美しいといった表現が当てはまる。彼に声をかけられただけで面食いの女の子などは即座にノックアウトされてしまうだろう。

しかし、悠奈はこの麗という少年を前にして思ったように言葉が出せないでいた。
それは彼の持つ独特の近づきがたい雰囲気がそうさせたのかもしれない。


「おう、ヒカル。なんなんだコイツをオレの目の前に持ってきて?・・・なんか話があんならオマエが言えばいいじゃねえか」

「そう言わんと。多分オレが言うよりハナシ早い思うで?話したってえな。・・・つかお前さっきから眼つきがコワイねん眼つきが!ユウナはお前に会うんはじめてなんやさかいもうちょっと優しい顔つくったらんかい」

「オレはオメエほどガキの世話好きじゃねえんだよ。あ、ひょっとしてアレか?さっきなんかレナが言いかけたあのセイ・・どーだかとカンケーあんのか?」

「あ・・えっと・・その・・そのことなんだけどっ」

「あぁん?んっだよ、さっきからハナシ1つすんのにどれだけ待たせんだよ?いい加減にしろや?おお?とっとと言いてえコトがあるんだったら言えばいいだろうがイラつかせんじゃねえよバカが!」



わかった。
悠奈は心の中で密かに理解した。

なぜあんなに人懐っこい日向や素直な窈狼。あっけらかんとしていて多少のズレは気にしない七海がこのレイという少年の話になると若干顔を強張らせて「コワイ・・」と言ったのか。

このレイという少年。

光や晃よりもかなり自己中心的だ。おまけに王様気質でプライドが高く、悠奈を明らかに見下している。
年上でも光や晃のように悠奈たちの目線に立って見てくれるというコトがない。
おまけにガラも咲良より遥かに悪く、口調の乱暴さも天下一品である。



(ひえぇぇ・・・な、なんでこんなコワイ人が学園の王子様とか呼ばれてるわけぇ〜〜〜?)


内心かなりビクつきながらも、腹に力を溜めて悠奈は話し出した。


「・・・ナニ?さっきから聞いてたらその言い方、意味わかんないんだけど」

「ア?」

と、悠奈の口から飛び出した全く予想していなかったセリフにその場にいた全員がギョッとして悠奈を見た。

「自分だけが偉いとでも思ってんの?それとも自分はカッコイイから何しても許されるとか勘違いしてない?ハッキリ言って・・・アタシ、アナタみたいな人ゼンッゼンタイプでもないしウザイだけなんだけど、バカじゃん?」

「・・・だとテメエ?」

レイの瞳が暗い光を帯びる。
周りのメンバーたち、普段なら「さっすがユウナ!クールなピリピリコメント!」と湧くくらいのハズなのだろうが、この時ばかりは日向も七海も、全員が悠奈の方を振り向いて息を呑み顔を引きつらせた。

「悪いけど・・・あたしはバカみたいにアンタにキャーキャー騒いでた女子とは違うから、勘違いしてチョーシん乗んないでよね」

「・・・・・」

悠奈のその言葉に麗は答えなかった。
かわりに静かな表情で冷たい眼で悠奈を睨みつけながら小さく舌打ちした。




「・・・・」

(や・・・や・・・や・・・)




(やっちゃったからあぁぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ)

そんな悲痛な叫びを心の中だけで上げ、悠奈はひたすら冷や汗をダラダラ掻きながら後悔していた。

(あたしのバカバカ!挑発上等命知らず!こんなコワそうなヒトになんっってコト・・・しかも初対面なのにぃぃーーーーっっ)



「ゆっ・・ユウナ!」
「このドアホっ!!」

咄嗟に日向と七海が悠奈の前を遮り、彼女を麗から隠す。
見れば彼らだけではなく、窈狼や咲良、那深や咲良までヤバイ・・・というような表情をして悠奈を見ている。



「あ・・・あのさ!レイちゃんちがうんだよっゆ・・ユウナはそのぉ・・なんて言うか悪気があって言ったわけじゃ・・・」

「せっ・・せ・・せやねんっ!このコなりの・・なんちゅうか・・そおっ!ユウナなりのアイサツやねんてアイサツ!」



「・・・おう、ヒカル。オレに聞かせてえハナシってなもしかしてこのガキから聞けってコトか?」

「・・・ああ、せや」

「だったら、聞くこたぁ何もねえな。気分悪りいぜ。帰る」

「あっ!ち、ちょっとまってよレイちゃぁ〜ん、レナもいっしょに行くぅ〜」

「るっせえっ!ついてくんじゃねえっ!」

「ふみゃあぁ〜・・・・」


麗奈にまで当り散らしながら麗は乱暴にドアを閉めて視聴覚室を出て行ってしまった。
後に残されたセイバーチルドレンズの面々とフェアリーたち。



「・・・・ユウナ」

「ご・・ゴメン、ヒナタくん・・あたし、自分でも何が何だか・・・」

「アホぉ!アンタ殺されてても文句言えへんねんでっ?レイちゃんに向かってあんなコト言うやなんて・・コワイもん知らずもええ加減にしいや!」

「そ・・そんなに・・・ヤバイコト言っちゃった?」


「アイツは特別なんだよ」


日向と七海にキツク窘められている悠奈に、晃が静かに話しかけた。


「・・・レイのヤツは良くも悪くも男女の差別がねえ。自分が気に入らねえと見れば例え女相手でも容赦しねえヤツだ」

「う・・・ウソ?ひょっ・・として・・あたし、ひっぱたかれてたりしてた?」

「・・・ちょうど今から半年以上前、ユウナがまだ転校してくる前だけどな。オレたちより1学年下で灰谷エリカってヤツがいた。テコンドー習ってるコトをイイことに同じテコンドーをやってる女子あと2人連れて男子イジメしてたヤツなんだ」

「そういえばそうだったねエリカちゃん。マユカとミレイちゃんも一緒にやっててさ」

那深が話に割って入ってきたのを気に留めるコトもなく晃はさらに続ける。

「そいつ等ケンカもメチャメチャ強くてな。格闘技やってるからか付近で女子にイヤなコトしてたガキ大将クラスを軒並み叩きのめしてケガさせててよ。クラスじゃすっかり女王様気取り。気に入らない男子はテコンドーでシメて自分の奴隷状態にしてたらしいぜ。女の子をナメるなって言ってな・・・」

「そ・・・それで?どうなったの?・・その人・・」

「流石に先生達も見てられなくって学校相談しててよ。それでまずは、ってんで生徒会で解決できねえかって会長に依頼が来てよ。で、生徒会の人間が説得に言ったわけだ」

「・・・そうな・・んだ。で、レイって・・さっきの人が行ったの?」

「いいや・・それが・・・」

「行ったんはイマイ・ノボルってヤツやった。普段はおとなしいアニメオタクやけど優しくて真面目で素直で頭もよくてな。レイも気に入っててんや。ところが・・・灰谷(はいたに)のヤツ、ノボルにまで暴行加えてケガさせた上に、服を剥ぎ取って晒しもんにして散々に泣かせたみたいや。結果は生徒会の惨敗で完全に灰谷の勝ちやった」

「ヒ・・・ヒドイ!」

「なによそれっ!ゆるせないよねユウナちゃん!ダークチルドレンズよりヒドイじゃん!」

「このライドランドには恐ろしい女がいるもんだな・・・」


あまりのその灰谷という女子の傍若無人ぶりにレイアとイーファも眉を潜めた。
悠奈もその話にヘドが出そうだったが、1つ疑問があった。


「で・・でも、その話とさっきのレイって人が・・・何かカンケーあるの?」


悠奈の問いに光が顔を歪める。その顔を見て、咲良が「な・・なあ、ヒカル。そのあとのコトは・・もういいじゃねえか」と言ったが、光は晃に目くばせし、彼がうなづいたのを確認するとゆっくりと続きを話した。

「そいつ等・・・それでレイにも襲い掛かったんや」

「ええっ!?」


「レイも生徒会の副会長やさかいな。ノボルの話を聞いて今度は自分が話をつけに行ったんや。案の定、灰谷たちは3人でレイを屋上まで連れて行ってボコボコにしようとしよった」

なんて女の子だ。と、悠奈は自分の想像を超える話にゴクリと唾を呑みこんだ。
もしかしたらレイという先ほどの少年もそこで暴力を振るわれ、それで女子に対してあんなに冷たい態度をとっているのかもしれない。
トラウマ。という言葉をママから聞いたことがある。怖い経験や痛い経験が自分の中に恐怖の記憶として残り、それに関係あるものを目の前から遠ざけようとする働きだ。
もしさっきのレイにそんな経験があったとしたら・・・





「・・・・灰谷たちにとって不運やったんは・・・レイとノボルが仲良しやったっちゅう話やな」





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以下、回想


「ふふん、アタシたちに逆らおうなんて、バカな男ね。ちょっとくらい顔がいいからってチョーシに乗ってんじゃないわよ!その顔、今から涙でグショグショにしてやるからっ!」

「キャハハハ!やっちゃおーよエリカ!今までの男子たちみたいにさ!」

「ムカつくジャン!金持ちの上に顔がいいなんてさ!ボコボコにしちゃって2度と女の子に逆らおうなんて気がおきないようにしちゃおう!」


屋上に連れてこられたレイは目の前でそんな好きなセリフを吐く3人の少女を暗い表情で見つめていた。 
ふと、周りに目を配る。先客が何人かいた。
皆男子、鼻や口から血をふいて地べたに転がりひいひいと泣きながら悶えていた。


「ううぅ・・・いてぇ・・」  「いてえよぉ・・おかー・・さん・・」


「・・・あそこに転がってるヤツラはどうした?」

「聞いてどうする気?今さら後悔した?キャハハv・・アイツらは昨日放課後の掃除当番をクラスの女子に押し付けて遊んでたヤツラよ。ヒキョーなコトしたからアタシたちがオシオキしてあげたワケvクソ男子のクセにさ!女の子をナメるんじゃないってーの!」

そう言って倒れている男子たちのところに駆け寄り、顔や腹を笑いながら追い打ちをかけるかのごとく蹴りつける。
「もうヤメテ・・・」 「助けて!許してっ!」 「ゴメンナサイっ」 「二度と逆らいませんっ」
そんな男子達の悲痛な叫びが木霊する。全員が全員、レイも知っている学校でもちょっと知れたイジメっ子たちだった。

その光景をレイは特に気にするでもなく「ふん・・」と声を漏らすと再び男の子達に暴行を加えている女子達を見つめた。

正面のエリカはブラウンのロングヘアをポニーテールにした勝気な感じの少女、右にいる渡辺(わたなべ)マユカはショートカットの黒髪が可愛らしい、左にいる黒瀬(くろせ)ミレイは左右にはねた濃い目のブラウンショートヘアの少女だった。
生意気そうな表情だが、全員中々な美少女である。
だが、今のレイにはそんなコトはどうでもよかった。レイがゆっくりと口を開いて少女たちに問い尋ねた。


「おう。1つ聞くぜ。んな連中はどーでもいーケドよ。今居ノボルをやったなあテメエらか?」

「ハア?イマイ?ダレよソレ?」

「あ、ホラ!エリカ!アイツだよアイツ!この前イジメてやった生徒会の!」

「あー!あー!♪んふふっ、ナニ?アンタあのキュウリ野郎の知り合いだったの?なぁんだそっかぁ〜v」


「・・・答えろ。やったのか?」

人を茶化すようにキャハハハと笑うエリカたちにもう1度静かに問いかける。すると思い切り人をナメた憎らしい笑顔でエリカは嫌味たっぷりに言い放った。


「だったら何?それがどーしたっての?そーよ悪い?生意気にアタシらのやってるコトが犯罪もいいとこだなんて偉そうに言うもんだからさ、頭きてちょっとイジメてやったの!でも全然弱かったわよ!アタシら相手になんもできないの!」

「そうそう!最後はズボンも脱がしてやったら泣いちゃってねぇ〜」 「もぉチョー面白かったぁ!」



心底楽しそうに笑う3人、レイは答えずただただ自分の足元を見つめていた。しかし、そのウチにゆっくりと口を開く。


「・・・そうかい。ノボルにあんなケガさせたのもみんなテメエらってワケか・・」

「ごちゃごちゃうるさいわね!アンタも今すぐ同じ目に合わせてやるわよ!大体1年先輩だからって態度デカイのよ!」

「やっちゃえエリカ!」そんな言葉がマユカとミレイから上がった途端、エリカの必殺の回し蹴りがレイの右顔に叩き込まれた。
スパァン!と鋭い音がしてレイが地面に倒れる ― 。



ハズだった。




「・・・・え?・・な・・んで?」

エリカの顔は引きつった驚愕に満ちていた。
自分の必殺のキックを、今まで何人もの腕っ節の強そうな男子を叩きのめしてきたテコンドー仕込みの回し蹴りを、この東レイという6年生は顔にまともに受けたはずなのに、顔色1つ変えずに相変わらずの冷たい眼で何事もなかったかのようにエリカを見つめていた。


効いていない。


今まで叩きのめした男子の中には6年生はもちろん、中学生の男子だって自分たちにはかなわなかった。
男なんて自分の蹴りにかかればみんな鼻血を吹いて泣いてのたうち回るのに・・・



「おう、コレ、オメエらにやんよ」

そう言って首をコキコキっと回しながらレイはポケットから何やらお守りのようなものを取り出した。それを地面に投げ捨てる。

「え?・・何?・・なんなのよ?」

「そいつぁな。オレのダチのレナってヤツが知り合いの寺に行ったとき貰ってきたもんなんだと。オレにくれたんだが必要ねえしオメエらにやらあな」

「な・・・何言ってんのよアンタ!一体どういうつも・・・」


イヤな予感を払拭しようと強気に出たエリカたちにレイは「せめてもの情けだってんだ・・」とボソリと呟いた。


「ネンブツでも唱えろや。せめて・・・成仏させてくださいってな・・・!」





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「オレらがレイの行動に気づくのが遅れたのも悪かった・・・」

「ああ、ああなるって予想できんワケやなかったんにな」

「ど・・・どういう・・コトなの?」

「鈍いなぁユウナ、レイはアキラやヒカルなんかと幼馴染なんだぜ?レイだけケンカが弱えとでも思ったのか?」


と、咲良にそう言われて悠奈は背筋に悪寒が走るのをはっきりと感じ取った。光の方をもう1度見やる。

「ま・・・まさか?」





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「レイ!どこや!?・・はやま・・ん・・・な・・・っちゃあぁ〜・・・アカン」

「落ち着け!手ぇ出したらっ・・・あぁ・・・うわっ・・」



「・・よォ、遅かったじゃねえか」



ニヤリと笑いながら話しかけるレイを引きつった顔で見つめる光と晃。一緒に付いてきたまだ新任の若い女性教師が「きゃあぁぁっっ」と悲痛な悲鳴を上げる。


レイの足元に転がるマユカとミレイ。
マユカの方は陥没しているように見える鼻から大量の血を吹き出し、前歯が軒並み叩き折られていてアンアン金切り声を上げて泣き喚いている。
ミレイは「ヒュー、ヒュー」と掠れたような呼吸を繰り返し断続的に苦しそうな咳をケホッケホッとしながら血とあぶく混じりの涎と涙をダラダラと垂らしていた。

そして、今まさに髪の毛を掴まれてレイに拘束されているエリカ。

既に手足は何か所も青アザに見舞われている。
そこそこな美少女だった可愛い顔は最早ズタズタ。殴られた跡が真っ赤に腫れて痛々しい、鼻も明らかに鼻骨を圧し折られて歪んで鼻血が溢れている。
「うあ・・・あ・・・ああ・・・」とか細い声で恐怖の涙をとめどなく流しながら髪を掴んでいるレイの手に縋り付く。


「レイ・・・お前・・・」

「素直にワビぃ入れりゃあ、まあ半殺しで許してやってもよかったんだがなぁ・・・へへっ、もうおさまりつかねえよヒカル。なぁ・・・」

縋り付いてきた手を肘鉄と膝蹴りで叩き折らんばかりに挟み込む。再び襲い掛かった激痛に絶叫を上げ、挟まれた右腕を抱えて再びゴロゴロと地面を転がってもがくエリカ。
しかる後、泣き喚くエリカの肋骨をレイは爪先で万遍なく蹴り飛ばしていく。

「せ・・せんっ・・せぇ・・・た・・たしゅけ・・・てぇ・・・」
「やっ・・やめっ・・ヤメなさいっ!東くん!ヤメテっ!」

左手を伸ばして自身に助けを求める哀れなエリカの姿に付いてきた女性教諭がレイを止めようとほとんど悲鳴に近い声を上げる。しかし直後、その伸ばした手の甲をレイが踵で思い切り踏み付ける。明らかに指が2〜3本はへし折られ、歪んでいるその手。
再び空気を切り裂く絶叫。その様子を見て先生が卒倒しかけ、慌てて晃が体を支える。


先ほどまでいいようにこの女子達に暴力を振るわれ散々情けない思いをして泣かされてケガを負った男子生徒たち、普通なら調子に乗ったこの女どもが痛めつけられて痛快のハズであろうが、それでもレイのこの猟奇的な凶行を見て笑っていられるほどの精神は持ち合わせていなかった。
顔面は蒼白、そのレイのまるで虫けらを踏みにじるが如くに何の感情も見せず女の子を暴力の海に沈めていく姿に震え、動くことすらできなかった。



まずはじめに、麗は正面にいたエリカの顔面に正拳で突きを叩き込んだ。
アニキと慕う叔父に教わった空手のパワーとボクシングのスピードが合わさった必殺のパンチ。
エリカの顔面、鼻と上前歯の辺りにめり込む。頭蓋が歪み、脳が揺れて顔がひしゃげる。水気を含んだイヤな打撃音が破裂し少女の華奢な体躯がまるで人身事故のように派手に吹き飛ぶ。
次にあまりの唐突な一撃に完全に思考と動きが停止していたマユカの髪の毛を掴み、そのまま鼻っ面に頭突きを見舞う、「あぐうっ」と呻いて崩れ落ちにかかる彼女の鳩尾に体を沈めてから打ち上げるようなエルボーを打ち込み、くの字に折れた所、顔面に狙いを澄まして首相撲からの膝蹴りを叩き込んだ。
その様子を見て脳が逃走を命じたのであろう。ミレイの方はもはや戦意を喪失し、その場から逃げようと背を向けた。
しかし逃げるミレイの足元を狙って麗は今度はスライディングのような足払いをかける。
勢い余って転ぶミレイ、その体をがっちりと捕まえると麗はミレイを正面に向かせ、首を拘束。そのままムエタイのチャランボーから内臓を狙って膝蹴りを連発で叩き込む。
叔父から習い覚えた「膝地獄」と名の付く必殺技だった。凶器と化した膝が何発もミレイの腹部にめり込み、あぶく混じりの吐しゃ物を吐きながらミレイが倒れ込む。

「あ・・・あ・・・あぁぁ・・あぁ・・」

ダメージと恐怖でもう息も絶え絶えなエリカはその場から何とか逃げようとするが足がおぼつかない。
そんな彼女になんとも残酷な笑みを浮かべて麗がすぐ目の前まで迫っていた。




「ひっ・・ひっ・・・ひぃっ・・・た・・スケ・・てェ・・・だ・・れか・・・」

「おいっ!よせっ!レイ!!」


ついに光がここでレイを後ろから羽交い絞めのような形でレイ、東麗を取り押さえた。


「正気に戻れや!それ以上やったら・・・マジに死んでまうぞ!?」

「死ぬだあ?おーケッコウじゃねーか。あーそーだよその気マンマンよブッ殺してやんよ、死ねコラ!死ね!死ね死ね死ね死ねっ!調子くれてノボルにまで手ぇ上げやがって1回死んで生まれ変われやっ!」


光に押さえつけられながらもさらにエリカの顔面にトドメと言わんばかりにヘッドバットを叩き込む麗。もう抵抗する力などなく、麗に痛めつけられるがままのエリカは完全に意識を失っていた。それを見て晃も体を張って止めに入る。

「やめろよレイ!死ぬぞ!?それ以上やったらホントに死ぬぞ!」

「るせえっ!どけよアキラ!それがコイツらがこれまでやってきたことだろうが!だからオレが同じ目に合わせてやってんだよっ!何が悪いってんだ!?」

「わかってる・・だけど・・・」
「見てみい!周りを・・・・ここにおるヤツラの顔をっ」

そう光に言われてようやっと周りに眼を配ってみる麗、そこには自分をまるで鬼か悪魔を見るような恐怖の眼差しで見つめる目があった。
気を何とか保ち、涙目で見つめる新任教師の目もある。


「いくらなんでもやりすぎや!誰もここまで望んでへんっ!もう終わりや!」

「そうだ!ヤメロ麗!」

「・・・・・・ケッ、わぁったよ。ふぬけやがって・・バカヤローどもが、そんなんだから女子なんかにナメられんだろーが。ま、白けちまったし、もういいや」

そう言いながらエリカを離した麗、すぐさま教師がエリカの名前を叫んでいた。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

以上、回想終わり。





「・・・・・そ・・そんな・・そんなコトが?」

「あん時は大変やったで、すぐに一哉のオッチャンも呼び出されてな」

「そーそー、たまたまヴァネッサ先生も仕事でアメリカに渡っててレイの暴走止めれる人もいなくってな・・・保健室じゃ間に合わなくって救急車は呼ばなきゃならないわ両方の親はみんな呼び出しでどうたらこうたらでな・・・」

「そ・・その人たち・・・ど・・どうなっちゃったの?」

「あ?・・ああ、灰谷達か。どうって?生きてるよ当然だろ、いくらなんでも死にゃーしねえって・・」

「そーじゃなくって!ケガしたんでしょ!?ケガっ!!」

「ああ・・・悪りぃ悪りぃ、そうだよな・・・・いや、オレそこまでは・・・」

「オレは一哉のオッチャンと一緒に病院いったさかいにちょっとは覚えとるで。いや、まあヒドイもんやった。ケガの程度はな・・・渡辺マユカは鼻骨骨折と顔面打撲と前歯が軒並みオシャカ。黒瀬ミレイはアバラが2、3本イってもうてたらしい・・・そんで灰谷のほうは・・・・・・」

「ひ・・ヒカルちゃん?」

「・・・スマン。ちょっと忘れてるトコロがチラチラあってな・・・何せそらぁヒドイありさまやったから・・え〜と、たしか顔面骨折、鼻骨骨折・・右腕も折れてたかな?あとはもう片方の手の指が4本複雑骨折、であとは・・全身打撲に、ああ裂傷ってヤツも・・・」

「もっ・・もういい!ヤメテぇーーっっ」


あまりに聞くに堪えない内容に悠奈は耳を塞いでその場に蹲った。

「ああ、悪い・・・ま、とにかく、キレたらそれくらいのコトやってまうヤツっちゅうこっちゃ・・」

悠奈は話を聞いて今さらながらに自分がいかにヤバイ人と会話していたのか、なぜ日向や普段あっけらかんとしている七海までもがあんなに血相を変えて自分を叱りつけたのかようやくわかった。
今までの人とはあまりにも違う人。キレたとはいえ女の子相手にそこまで容赦なく暴行を加えられるような人間相手に自分が今しがたあんな生意気な口を聞いてしまったなんて、考えれば考えるほど恐ろしくなってきた。

「あ・・あの・・アタシ・・」

「心配せんでもええユウナ。レイかてそないいっつもいっつも不機嫌なワケちゃうわ。お前のコトは別に怒ったりしてへんから、今言うた話もあくまでよっぽどの時の話や、せやから怒らせんようにちょっと気ぃつけえっちゅう話・・・」

「そ・・そう・・なん・・だ・・」

でもさっき怒ってたじゃん!
よっぽどの時って言ったってそんな時があるといきなり話されただけで怖いよ、と悠奈はニシシと笑うヒカルを横目で見ながらそう思った。

「ま、今はダメでもそのうち落ち着いて話せるようになるやろ?取りあえずウチに一回行こか?」

「あ・・あのさぁヒカルちゃん・・・もしかして・・さっきレナちゃんが言ってたコト・・アレってさあ・・ひょっとしてやっぱりヒカルちゃんも?」


「ああ、残りのメンバー・・オレはやっぱり、レイがイチバンやないかって思う」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「う・・ぐあぁ・・・」

「ごほっ・・げほっ・・ぐはっ・・」

「い・・いでぇぇ・・・うっくっ・・つ・・つえぇぇ・・・・」


「ったくよぉ、ケンカ売ってくんなぁいいがもう少しマシな実力のヤツぁいねえのか?テメエら高校生だろ?」


目の前で無様に路地裏に転がる年上の不良少年達に、東麗は金髪の髪を掻き揚げながら言って、唾を吐き捨てた。

あの愛澤悠奈とかいう転校生に生意気にもあんな意見をされ、ちょっとばかしイラついて帰路についていたところに売られた喧嘩。
相手は全員が恐らくは高校生の不良学生達。どこからか自分の噂でも聞きつけたのだろうか?
「東麗ってのはお前か?」 「最近目立ってるショーガクセーってのはテメーだな?」 といかにもなヤンキー台詞で連れ込まれた商店街近くの裏道。

ストレスを発散するにはもってこいの相手だと嬉々として喧嘩を買った結果が今の惨状であった。殴りかかってきた2人をカウンターのエルボーと膝蹴りで迎撃し、背後のヤツには振り返りざまのストレートナックルで吹き飛ばす。


「ひっ・・なっ・・ん・・ちょっとまってく・・・」
「タイガーキィックっ!」

「おぐうぅっっ!?」

予想外の反撃にあっけにとられた正面のヤツにはたっぷりとウエイトとスピードを乗せたコレも叔父直伝の必殺飛び膝蹴りを叩き込んだ。
もんどりうって転がり鼻を潰して白目を剥く男。

その間25秒。

小学生の少年が明らかに体格で勝る高校生のしかも喧嘩に覚えのあるハズの不良学生達をものの30秒足らずで沈めたのだ。
彼らが弱いのではない。この東麗という少年がとんでもなく強すぎるのだ。

気を失ってないものはこの年下の少年にすっかり肝を潰し、悲鳴を上げてその場から逃げだした。その様子を見て退屈そうにフン、と鼻を鳴らすと、カバンを拾って家へと歩き出す。


退屈だ。

ここのところ面白いことなど1つもない。
贔屓にしていたロックバンドは不慮の不祥事によってその後の進退が危ぶまれている状態。学校の勉強は全く面白くなく授業中はひたすらスマホでゲームをして時間つぶし。これもまた退屈。
たまに今のように喧嘩を吹っ掛けられても自分を満足させるほどの実力のヤツなどなかなか出会えなかったし、光や晃といった幼馴染が唯一彼と互角の実力を持つがそもそも彼らとはそこまでの喧嘩にはそうそうなるものではない。


退屈の連鎖。


そんな時分に降って沸いた今日のステージの話、そして光から聞かされたウワサの転校生のコト。
ステージのパフォーマンスは確かに彼の退屈を少し埋めてくれた。しかし期待していた転校生は・・・


「・・・・ただのどこにでもいるちょっと生意気なメスガキにしか見えなかったが・・ヒカルがあんなに嬉しそうにあのオンナのハナシをしてやがったのは・・・何かあるのか?」


自宅マンションの暗証番号を入力して、エレベーターに乗る。
その中でふと、あの生意気な転校生のコトを麗は不思議と考え続けていた。


「・・・アイザワユウナ・・・か」






「レイちゃんレイちゃんレイちゃんレイちゃあぁーーーーーんっ♪♪ねえねえレナたちといっしょにセイバーチルドレンズやろおぉーーーっvv」

「〜〜〜・・っっ!!」


自宅玄関に入った途端に抱き付いて耳元で大音量でそんな意味不明のコトを叫ぶ1コ年下のガールフレンド。見事に不意を突かれた彼は眼をシロクロさせて耳を押さえた。


「・・・レナ・・テメエ〜・・」

「えへへ〜v」

「おーうレイ!遅かったやないか何しててん?先に帰ってたで!今からみんな取るところやどや?お前も」

「なあなあレイどのケーキ食う?帰りにヒカルがみんなの分買ってくれたんだよ。まだ残ってるぜ、レイどれにする?あ!ちなみにオレ、フルーツタルト!」

「あたいイチゴムース〜v」
「あたしはぁ、ミルクレープvちなみにレナはショコラケーキねv」
「ハイハイハ〜イ♪ウチなぁ、イチゴショート!ぜったいイチゴショート!ヒナはぁ?」
「えっと・・・オレもショートケーキ」
「じゃあ・・・オレ、ベイクドチーズケーキ!」


「・・おい、待てテメーら。一体何してんだ?」

「何って・・・オヤツタイムやんか」

「そーそー、あ、茶ぁ入れねえとな茶。え〜と・・ヒカル飲み物は?」

「ああ、オレ、コーヒーでええわ。ホラ、ソコに沸かしてあるやろ?砂糖ナシのミルク多めでな」

「うっわぁ〜ヒカルちゃんオットナぁーvカッコイイー♪んじゃ・・あたしミルクティーにしてみよっかな?あ、アキちゃんあたしはお砂糖たっぷりいれてねv」

「じゃあ、あたいはジュースでいいや」

「んっとねぇ〜、レナねえレナねえ・・・ココア!あまぁ〜いココア!お砂糖とクリームたっぷり入れるのぉっ!」

「あ!オレもココア!」
「ウチもぉ〜〜っウチもお砂糖たっぷりぃ!」
「オレもココアにしようっと!ユウナも同じでいい?」
「え?あ・・うん」

「いやいやいや!待て待て待てテメエらっ!」

「なんやねんレイ、まだ文句あんのんかいな?」

「あるに決まってんだろっ、ってか人の話聞けよっ!」

自分の質問を適当にはぐらかされた麗は苛立つ気持ちをなんとか押さえつつも強い口調で言った。
帰ってきてみていきなり遭遇したこの意味不明の状況はどうしたことだ?
光は同居人であるからいたところでなんの疑問もない。晃も、まあココの辺りは兄弟のように育った幼馴染だからなんとなく理解はできる。
だがしかし那深や麗奈、咲良まで呼んだ覚えはない。そして日向や七海、窈狼。なぜコイツらまでもがさも当たり前のように自分の家にいる?
しかも、1人混じっている見慣れない少女は先ほど自分に対して横柄な物言いをしたあのユウナという転校生ではなかったか?
そして自分を差し置いてなぜリビングで勝手にティータイムをシャレ込んでいる?なぜ当然の如く我が家のブランド物の食器を使って飲み食いしているのだ?

ややもすると混乱して気が滅入りそうな状況下であったが、眉間を押さえてソファに腰かけた麗に光が笑いながらあっけらかんと説明した。

「あのままみんな家かえろ思ってんけどな、いつも一哉のオッチャンが贔屓にしとるケーキ屋の『ア・モーレ』あるやんか!な?見たらケーキ全品今日は3割引きやってん!せっかくやからみんな呼んでお茶でもしたらどないかな〜なんて思て連れてきてもうた!な、ええやろ?」

兄弟分の屈託のない笑顔。
昔からそうだが、この笑顔を見せられると自分の中に燻っている毒気がもう完全に取り去られてしまうような気になる。
クスッと短く吹きだすと、麗はフゥ、と天井を見上げて息をつくと「もういいよ」と短く言葉を切った。そして光をもう1度見つめる。


「もうメンドくせえ探り合いは抜きにしようや。で?ヒカル、オレになにしてほしいんだ?」

「なんやいきなり笑ろた思たら・・別に、ただみんなで一緒におやつ食べよと思ただけやんか」

「ボケてんじゃねえよ。オレやアキラ達と違ってオメエそんなにケーキ好きじゃねえだろ?自分で買ってくんならタコ焼きかお好み焼きチョイスしてるハズだぜ?それにヒナと・・ソコのガキ」

言われて悠奈はビクッと体を震わせてそそそ・・と七海の後ろに隠れた。
なぜか自分を怖がっている様子を見たが、別に気に留める風でもなく麗は光に続ける。

「何かオレに頼み事があるからわざわざこんな大勢で押しかけてきてんだろ?なんだよソレ、言ってみろ」

「ハハ・・やっぱりバレてもうてたか」

「ったりめえだ。一体オメエと何年一緒にいると思ってんだよ」

互いにへへへっと笑い合って、光は「ユウナ、レイア、たのむで!」と振り返りながら言った。悠奈は突然光に呼ばれてビクッと体を強張らせたが、レイアと目を合わせると息を飲んで麗の目の前までおずおずと進み出た。

「ああ?んだこのガキ、まだなんか文句あんのか?」

(うぅぅ・・・こ・・こわっっ!なんでこの人こんなに目つき悪いのぉ?)

悠奈はやっぱり怖い・・という思いを必死にこらえると傍らのレイアと目を合わせてコクリと頷いて麗をキリっと見つめ返した。その様子にますます怪訝な顔になる麗。

「?なんだってんだ?ハッキリわかんねえヤツだな。ひょっとしてアレか?オレ様を好きになっちゃいましたとかか?悪りぃがオレはオマエみてえなガキにゃとんとキョーミねえぞ」


「この子の中に眠っている魔力よ、お願い目覚めて!ティンクルティンクル・マジックパワー・ウェイク・アップ!スタンド・アップ!」


と、レイアの麗に向かって翳した手から放たれた光の玉が麗の頭の中に吸い込まれて消えた。
その瞬間、麗が「うっ?」と小さな声を漏らして目頭に手を当てるとそのままかぶりを振る。

「!・・・な、何が起きたんだ?突然頭の中にい・・・」

「はじめましてレイくん。アタシが見える?」

「あぁん?誰だ?どこからしゃべっ・・・て・・?」

「こんにちは!レイくん!グローリーグラウンドからやってきたフェアリーのレイアです♪」


麗の視線が空中で停止し、目の前でフワフワと漂う小さな妖精を凝視した。
しばらく一言も発さず、ただ目を丸くしてレイアを見つめていたが、やがて悠奈たちも一様に見守る中スっ、と立ち上がると何やらキッチンの方へと向かい、そのままスプレーらしきものを持ってきたかと思うとそのままレイアに向かってシューーッと噴射した。


「うっ・・!?きゃっ・・けっほっケホッケホッっ!ち、ちょっと何すんのさぁーーっ!?」

「死なねえな・・・ってこたぁ虫じゃあねえってコトか」

「あっ・・あったりまえでしょっ!?もう失礼しちゃうなあぁ〜、信じらんないっ!」

「そりゃコッチのセリフだ。おいヒカル、ひょっとしてコレか?オレにしたかった話ってのは?」

「あ・・ああ、せやけど・・・レイ・・オマエ、なんや思ったより驚かへんなぁ・・・流石に腰抜かす思てんケド・・」

「あ、ああ・・案外冷静だよな・・常識じゃ考えられないことだってのに・・・」


そんな麗の予想外の反応にちょっと意外だな、という表情の周囲を見て、麗はまたなんだよ?というような不機嫌そうな顔をした。





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「ヒュウっ、こりゃまた今年はいつもより派手にやったじゃねえか」

カラオケ大会が終わってまだ片付けが残っているホールに降り立ち、チアキは口笛を鳴らして周囲を見渡した。
まだ多数残っているパイプ椅子、搬入のために置かれていた鉄のケース、音響機材、そしてステージにある大道具その他。
これだけ残っていれば十分だろう。

「このホールも久しぶりだな・・・ったく、無駄に金かけてんだよなこのガッコーはよ、だが、せっかくだから利用させてもらうぜ・・・」



「さ〜て、そろそろ片付け片付けと、作業員さんに連絡しなきゃ・・・ん?アレ?あんなトコに誰だ?生徒か?おーいキミ〜」

「どうしたんです?田村先生・・・あら?あの子・・・」

と、チアキが1人でちょっとした感慨にふけっていた時、アリーナの扉が開いて、2人の教師が入ってきた、ステージ近くにいたチアキの姿がすぐに目に止まる。
そのまま彼の方に近づいてきた。

「・・チッ、邪魔が入ったか・・・」

「何してるんだい?こんなとこで。もうイベントは終わったよ。生徒はとっくに帰る時間だ。親御さんが心配するから早く帰りなさい・・・ってアレ?キミ・・確か5年生の・・・」

「あ?オレが誰だろーとカンケーねーだろ。ほっとけよ」

「チアキくんっ!やっぱりっ!」

話しかけてきた教師に軽く悪態をついたとこで、もう1人の若い女性教諭が駆け寄ってくる。
知った顔だ。ついこの間まで毎日学校で顔を合わせていた担任の教師、人当たりが良い以外は取り立てて才のないごく普通の新任教師だ。
その女性教諭の反応に先ほど声をかけた教師も続く。

「チアキ・・・やっぱり!5年E組の闇洞千晶(あんどうちあき)くん!浜宮(はまみや)先生、彼は確かここ1か月ほど学校に来なくなってた・・・」

「千晶くん、来てくれたのね?よかった、先生心配してたのよ?学校来なくなったの・・なにか理由があるんでしょ?先生なにか悪いコトしたかな?教えてくれない?ねえ」

「・・・っぜえんだよクソ教師どもが!」

寄り添う浜宮と呼ばれた教師を払いのけるチアキ、その拍子に浜宮が「きゃあっ」と声を上げて尻餅をつく。
慌てて傍で見ていた田村と呼ばれた男性教諭が「浜宮先生!」と助け起こす。その光景を鼻で笑うように見つめるチアキ。

「千晶くん・・・」

「キミ!先生に向かってなんてコトを・・・お父さんやお母さんがこんなこと知ったらなんて言われるか・・・」

「おおしてみろや連絡でもなんでもあのクソ親どもになっ!どーせ気にもかけねえよクソったれ!ちょうどいいや、セイバーチルドレンズのついでにテメーらも始末してやるっ!」

そう毒づくとチアキは手を前に組んで青紫色の宝石を構えると呪文を唱えだした。

「闇より出し邪なる石ダークジュエル・・・我が魔力に応えその力を示せ・・っ!」

そう呪文を唱えると宝石が意志を持ったように手の中から飛び立ち、ステージ脇にあった音響器具にとりついた。
するととたんに蒼紫の発光とともに周囲のパイプ椅子やケースまでもが次々とまるで磁力のように吸い寄せられ、あっという間に大きな鉄の兵士を生み出した。


「きゃあああぁーーーっっ!?」
「わあぁあーーーっっ!?なっなんだアレはあぁっ!??」